10/13/2026

世界の薬局規制はどう変わっているのか?

 

世界の薬局規制はどう変わっているのか?

―薬機法改正から考える、日本の薬局経営の未来―


はじめに|薬機法は薬局を縛る法律なのか?

薬局経営者や薬剤師にとって、法律は身近でありながら、意外に理解しにくいものです。

「薬剤師でなければできない」「薬局の許可が必要」「法律で決まっているから変更できない」

こうした言葉を日常的に耳にします。

しかし、私は以前から一つの疑問を持っています。

薬機法は、本当に薬局を制限するだけの法律なのでしょうか。

薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」です。

簡単にいえば、医薬品の品質・効果・安全性を確保し、国民の健康を守るための法律です。

そして、薬局の開設には許可が必要であり、調剤は原則として薬剤師に認められた業務です。なお、薬剤師による調剤の原則は主に薬剤師法に定められています。

つまり、薬局や薬剤師は、法律によって一定の専門的な事業領域を認められているのです。

私は、ここに今後の薬局経営を考える重要なヒントがあると思います。

法律は制約であると同時に、薬局が競争優位を築くための経営資産にもなる。

世界の薬局規制を比較しながら、この考え方を検証してみたいと思います。

 

1.世界の薬局規制はどう違うのか

世界の薬局規制は、国によって異なります。

しかし、どの国も医薬品の安全性を確保し、患者に適切な医薬品を届けることを基本的な目的としています。

違いがあるのは、その目的を実現する方法です。

国・地域

主な特徴

日本への示唆

日本

薬局許可、薬剤師による調剤管理

専門性と業務効率化の両立

米国

州ごとに薬剤師の業務範囲が異なる

薬剤師の臨床業務の拡大

英国

調剤工程の集約、薬剤師の処方権限

対物業務と対人業務の分担

EU

加盟国ごとの規制と共通ルール

安全管理と制度の共通化

中国

医薬品流通管理とデジタル化

供給体制の効率化

インド

ジェネリック供給と品質管理

安定供給と品質保証

韓国

医薬品流通管理とデジタル化

医薬品情報の活用

※米国は州ごと、EUは加盟国ごとに制度が異なります。表は各国の制度的特徴を簡略化したものです。

注目したいのは、薬剤師の仕事を増やすだけでなく、薬剤師が専門性を発揮するために、従来の業務の仕組みを見直す動きです。

 

2.英国では調剤作業を集約し、薬剤師を患者対応へ

英国では「Hub and Spoke(ハブ・アンド・スポーク)」という調剤方式が導入されています。

難しい言葉ですが、仕組みは簡単です。

例えば、地域に5店舗の薬局があるとします。

従来は、それぞれの薬局で薬を取りそろえ、包装し、患者に渡す準備をしていました。

Hub and Spokeでは、一定の調剤作業を設備の整った拠点にまとめ、地域薬局は患者対応に重点を置きます。

英国では2025年10月から、異なる法人の薬局間でも一定の条件のもとで利用できるようになりました。

もちろん、薬剤師の確認や品質管理が不要になるわけではありません。

重要なのは、薬剤師の専門的な責任を維持しながら、作業の場所や分担方法を変えることです。

これは中小薬局にとっても参考になります。

調剤設備への投資を共同化し、薬剤師が患者の服薬状況の確認や薬物療法の評価に時間を使えるようになれば、経営のあり方も変わる可能性があります。

ただし、共同化には委託費、配送費、品質管理などの負担も生じます。必ずしもすべての薬局に有利とは限りません。

 

3.日本でも調剤業務の一部外部委託が始まる

日本でも、薬局の業務分担に関する制度改革が進んでいます。

2025年の薬機法改正により、一定の条件のもとで調剤業務の一部を他の薬局に委託する制度が設けられました。

2026年10月時点では、2027年5月20日の施行が予定されています。

当面は一包化業務が対象となり、委託先は同一都道府県内の薬局に限定される仕組みです。

例えば、一包化設備を持つ薬局が、近隣の複数薬局から一定の業務を受託することが考えられます。

これにより、設備投資の重複を減らし、薬剤師が患者対応に使える時間を増やせる可能性があります。

ただし、自由に調剤を外部委託できるわけではありません。許可や安全管理、患者への説明・同意などの要件を満たす必要があります。

私は、この改正を単なる業務効率化ではなく、薬局経営の新しい選択肢として捉えています。

これまでの薬局は、個々の店舗で設備や人員を確保することが基本でした。

しかし、今後は地域の薬局が一部の業務を共同化することで、小規模薬局でも専門的な患者対応に集中できる可能性があります。

 

4.英国では薬剤師が処方する制度もある

英国には「Independent Prescribing(独立処方)」という制度があります。

所定の教育と資格要件を満たした薬剤師が、自らの専門的な判断と責任で医薬品を処方できる仕組みです。

ただし、すべての薬剤師が無条件にあらゆる医薬品を処方できるという意味ではありません。

適切な教育、臨床能力、責任体制が前提です。

一方、日本の薬剤師は、医師の処方箋に基づく調剤、疑義照会、処方提案などを行いますが、一般的な医療用医薬品の処方箋を独立して発行する権限はありません。

私は、将来的には、安定した慢性疾患患者の継続的な薬物療法などについて、医師との連携を前提に、薬剤師の関与をさらに広げる可能性を検討してもよいのではないかと考えています。

もちろん、現行法で認められていない行為を独自に実施することはできません。

対象患者、教育、医師との情報共有、緊急時の対応、責任の所在などを明確にした制度設計が必要です。

重要なのは薬剤師の権限拡大そのものではありません。

患者が安全に治療を続けられる仕組みをつくることです。

 

5.私見|薬機法は薬局の競争優位を生む経営資産である

私は、薬局経営者や薬剤師が薬機法を「自分たちの業務を制限する法律」としてだけ捉えることには疑問を感じています。

なぜなら、薬機法や薬剤師法による規制があるからこそ、薬局や薬剤師には、一般事業者が簡単には参入できない事業領域が存在するからです。

薬局の開設には許可が必要であり、調剤は原則として薬剤師に認められた業務です。

経済学的にいえば、これは「参入障壁」です。

つまり、薬局や薬剤師は法律によって一定の競争上の優位性を持つ立場にあると考えられます。

しかし、ここで満足してはいけません。

薬局の許可や薬剤師資格を持っているだけでは、他の薬局との差別化はできないからです。

私は、薬機法が求める医薬品の品質・有効性・安全性の確保、適正使用、安定供給といった目的を、積極的に事業へ転換することが重要だと考えています。

例えば、薬剤師の専門性を生かした薬物療法の継続管理、在宅医療支援、地域医薬品供給、PHRを活用した健康増進事業などです。

これらを患者との継続的な関係、医療機関との連携、医薬品管理能力と組み合わせることで、一般の健康関連企業には模倣しにくい事業モデルを構築できる可能性があります。

これは法律上の独占ではありません。

しかし、専門資格、医療安全への信頼、地域連携、継続的な患者接点を組み合わせた「競争優位」は形成できると考えます。

薬機法は、守るだけの法律ではなく、その目的を事業として実装することで、薬局の競争力を高めるための経営資産にもなるのです。

 

6.薬機法の目的を事業化する4つのモデル

具体的に、どのような事業が考えられるでしょうか。

事業モデル

薬局の強み

競争優位を高める方法

薬物療法マネジメント

薬剤師の専門性

薬剤レビュー、処方提案、継続フォロー

在宅医療支援

調剤・医薬品管理

医師・訪問看護との連携

地域医薬品供給

薬局許可と医薬品管理能力

共同在庫、災害対応、地域供給網

健康増進・PHR事業

患者接点と薬学的知識

健診情報の活用、受診勧奨、継続支援

これらは、薬局だけに独占が認められる事業ではありません。

しかし、薬局の制度的な強みと、他の事業者にはない専門性を組み合わせることで、独自の競争優位を築く余地があります。

例えば、健康相談だけであれば、一般の健康関連企業でも実施できます。

しかし、薬剤師が服薬情報を確認し、薬物療法上の問題を評価し、必要に応じて医師に情報提供し、その後も継続して患者を支援することには、薬局ならではの強みがあります。

ここに、薬局が単なる処方箋受付業務から発展する可能性があると考えています。

 

7.規制緩和を待つのではなく、規制改革に必要な根拠をつくる

では、薬局や薬剤師は、今後の制度改革に対して何ができるのでしょうか。

私は、法律が変わるのを待つだけでは不十分だと考えています。

重要なのは、現行法の範囲で新しい業務方法やサービスを実装し、その成果を示すことです。

例えば、調剤ロボットを導入した薬局で、調剤作業時間が減少し、調剤過誤が増えず、薬剤師の患者対応時間が増加したとします。

こうした結果を客観的に示せれば、将来の業務分担の見直しを検討する材料になります。

また、薬剤師による継続的な服薬支援によって、重複投薬の解消、副作用の早期発見、服薬継続率の改善などが確認できれば、薬剤師の専門的役割を拡大する議論にも役立つでしょう。

ただし、効果が確認されたからといって、自動的に規制緩和が認められるわけではありません。

患者の安全性、医療職種間の役割分担、法体系との整合性などを踏まえた制度上の検討が必要です。

 

8.薬局が制度改革を後押しする5つの行動

私は、中小薬局でも次の取り組みは始められると考えています。

第一に、業務を分解すること。

調剤、監査、服薬指導、在庫管理、記録作成などの業務を整理し、薬剤師の専門的判断が必要な仕事と、標準化・機械化できる仕事を区別します。

第二に、安全性と経済性を測定すること。

調剤過誤、作業時間、設備費、人件費、患者の待ち時間などを測定します。

第三に、薬剤師の臨床的成果を記録すること。

疑義照会件数だけでなく、処方変更による患者への利益や、継続的な服薬支援の成果を確認します。

第四に、地域単位で連携すること。

薬局、医療機関、医薬品卸、行政などが連携し、医薬品供給や在宅医療の課題を共有します。

第五に、改善提案を行うこと。

薬剤師会、学会、行政などを通じて、現場で得られたデータを制度改革の検討材料として提供します。

 

9.私見|薬局は「規制に守られる存在」から「制度を進化させる存在」へ

私は、今後の薬局経営には3つの段階があると考えています。

第一段階は、法律に基づく薬局許可や薬剤師資格を活用することです。

第二段階は、その専門性を在宅医療、健康支援、医療DX、地域連携などに展開し、他の事業者には模倣しにくい競争優位を築くことです。

そして第三段階は、実際の事業成果を示し、制度改革の議論に貢献することです。

この第三段階まで進むことができれば、薬局は単に規制に対応する事業者ではなく、医療提供体制の改善に関わる存在となります。

ただし、規制改革の目的は特定の薬局に独占的な利益を与えることではありません。

患者の安全性、医薬品へのアクセス、医療の持続可能性を高めることが前提です。

薬局が利益を得ることと、社会に必要な医療機能を提供することを両立させる。

これこそ、薬機法の目的に沿った薬局経営の方向性ではないでしょうか。

 

おわりに|薬機法を経営戦略として考える時代へ

世界の薬局規制を比較すると、医薬品の安全性を確保しながら、薬剤師の専門性や新しい技術を活用する制度改革が進んでいることがわかります。

英国の調剤工程の集約や薬剤師の独立処方制度は、その一例です。

日本でも、調剤業務の一部外部委託など、薬局の運営方法を見直す制度改革が進んでいます。

私は、これからの薬局経営者には、法律を守るだけでなく、その法律が何を実現しようとしているのかを理解し、経営戦略に取り入れる姿勢が必要だと考えています。

薬機法は、薬局を制約する法律であると同時に、薬局の専門性と信頼を支える制度的基盤でもあります。

その目的を具体的な事業として実装し、患者への価値を証明することで、他業種には模倣しにくい競争優位を築くことができます。

さらに、その成果を社会に示すことで、将来の制度改革に貢献できる可能性もあります。

「規制を守る薬局」から、「規制の目的を事業化し、制度の進化に貢献する薬局」へ。

この発想の転換が、人口減少時代における中小薬局の新しい経営戦略になると考えています。

10/12/2026

薬局の管理栄養士は収益を生み出せるか?


―無料栄養相談から脱却する5つのビジネスモデル―

はじめに:管理栄養士は「コスト」なのか「投資」なのか

薬局に管理栄養士を配置する企業が増えています。

栄養相談、健康イベント、食生活改善のアドバイス、健康食品の紹介など、管理栄養士の活躍の場は広がっています。

しかし、薬局経営者に一つ質問があります。

「その管理栄養士は、薬局の収益にどの程度貢献しているでしょうか?」

もちろん、患者サービスの向上や地域貢献は重要です。しかし、専門職を雇用し、人件費を負担する以上、経営的な成果を考えることも必要ではないでしょうか。

私は、これからの薬局経営において、管理栄養士を「無料栄養相談を担当する人材」から「地域の健康課題を解決する事業開発人材」へと位置づけ直すことが重要だと考えています。

今回は、管理栄養士を活用した5つのビジネスモデルと、その収益性について考えてみます。


1.薬局の管理栄養士は何をしているのか?

厚生労働省の健康サポート薬局に関する調査では、薬局に所属する管理栄養士・栄養士の主な業務として、次の結果が報告されています。

主な業務
実施割合
店舗業務
81.4%
栄養相談会
74.5%
薬局単独の栄養指導
55.9%
献立等の成果物提供
47.8%
講師派遣
30.4%
特定保健指導
18.6%

※該当薬局161件の複数回答。管理栄養士・栄養士を対象とした業務実施状況であり、収益額を示す調査ではありません。

この結果から、管理栄養士が店舗業務や栄養相談に幅広く従事していることが分かります。

一方、講師派遣や特定保健指導など、専門性を外部に提供する活動は相対的に少ない状況です。

もちろん、実施割合が低いことが、そのまま収益化できていないことを意味するわけではありません。

しかし、専門職としての知識や経験を、新しい商品やサービスに変換する余地はあるのではないでしょうか。

私は、薬局に管理栄養士を配置すること自体が差別化になる時代から、その専門性をどのような価値として提供できるかが問われる時代へと移りつつあると考えています。


【図1:管理栄養士の役割転換―無料相談から収益事業へ】


2.管理栄養士を収益化する5つのビジネスモデル

管理栄養士の収益化というと、有料栄養相談を思い浮かべるかもしれません。

しかし、収益化の方法はそれだけではありません。

モデル① 健康食品・栄養補助食品の専門販売

最も導入しやすいのが、管理栄養士による健康食品や栄養補助食品の専門販売です。

例えば、高齢者向けのたんぱく質補給食品、減塩食品、低糖質食品、介護食、栄養補助飲料などが考えられます。

一般のスーパーやドラッグストアとの違いは、管理栄養士が利用者の食生活や栄養状態を確認し、必要な商品を選択することです。

例えば、食事量が減少している高齢者に対して、普段の食事内容を確認し、必要に応じて栄養補助食品を紹介することができます。

重要なのは、商品を売ることではなく、健康課題を解決するための商品を提供することです。

特に、在宅患者や高齢者の利用が多い薬局では、継続購入につながる可能性があります。

ただし、健康食品は医薬品ではありません。疾病の治療効果を保証するような説明は避ける必要があります。

モデル② 健康測定と栄養相談のパッケージ販売

体組成計や血圧計などを活用し、健康状態を可視化するサービスです。

例えば、体組成測定と15分程度の栄養相談を組み合わせた有料サービスが考えられます。

重要なのは、測定結果を説明するだけで終わらせないことです。

「筋肉量を維持するために、これから1か月間、どのような食生活を実践するのか」

具体的な行動目標を設定し、次回の測定で変化を確認します。

これにより、単発の健康イベントを継続的な健康管理サービスへ発展させることができます。

モデル③ 月額制の栄養サポートサービス

私が特に可能性を感じるのが、管理栄養士による継続的な栄養支援です。

例えば、健康診断で生活習慣の改善を勧められた40〜60代の現役世代を対象に、「3か月間の食生活改善サポート」を提供します。

サービス内容は、月1回の体組成測定、LINEによる食事写真の報告、管理栄養士からの定期的なアドバイスなどです。

料金は、仮に月額5,000円とします。

10人の契約者がいれば月額売上は5万円、30人なら15万円となります。

もちろん、これは売上であり、人件費やシステム費用などを差し引いた利益ではありません。

実際に、ウエルシア薬局では有料の栄養サポートサービスが展開されており、公開されたサービスには月額1,100円から3,850円の料金設定があります。

つまり、有料栄養指導はすでに実在する事業モデルです。

ただし、月額5,000円のサービスを成立させるには、相談だけでなく、測定や個別分析、継続的な支援など、価格に見合う価値が必要でしょう。

モデル④ 地元飲食店・食品事業者とのコラボレーション

薬局内にカフェや調理設備を設けるには、初期投資や人員確保が必要です。

そこで考えたいのが、地域の飲食店や食品事業者との連携です。

例えば、地元の弁当店と協力して、管理栄養士監修の減塩弁当や高たんぱく弁当を開発します。

薬局はメニュー監修や栄養情報の提供を担当し、調理・販売は既存の食品事業者が担当します。

薬局側は監修料や、契約に基づく販売ロイヤリティなどを収益源とすることが考えられます。

京都府舞鶴市の「ゆう薬局カフェ」のように、管理栄養士監修の食事や健康相談を組み合わせた地域連携の取り組みもあります。

ただし、こうした事例の存在と、事業としての黒字化は区別して考える必要があります。

私は、薬局が自ら飲食店を経営するよりも、まずは地域の既存事業者と連携する方法が、中小薬局には取り組みやすいと考えています。

モデル⑤ 企業向け健康経営支援サービス

管理栄養士の活躍の場を、薬局の来局者だけに限定する必要はありません。

地域の中小企業に対して、従業員の健康づくりを支援するサービスを提供する方法もあります。

例えば、従業員向け栄養セミナー、健康診断後の食生活改善支援、個別栄養相談、健康イベントの企画・運営などです。

日本調剤などでは、管理栄養士による企業向け健康支援や特定保健指導などの取り組みが行われています。

企業側にとっては、従業員の健康維持や福利厚生の充実につながります。

薬局側は、単発の研修料や年間契約による継続収入を得られる可能性があります。

私は、このB2Bモデルに特に注目しています。

薬局の商圏を「処方箋を持参する患者」から「地域で生活し、働く人々」へと広げることができるからです。


【図2:管理栄養士を活用した5つの収益モデル比較】


3.収益化の鍵は「モノ+測定+伴走」

有料栄養指導を事業として成立させるうえで重要なのは、利用者が価格に見合う価値を実感できることです。

私は、その基本構造を3つに整理できると考えます。

① モノ:具体的な商品や食事

栄養補助食品、健康食品、監修弁当など、利用者が実際に手に取れるものです。

② 測定:変化を可視化する仕組み

体組成や生活習慣の記録などを活用して、取り組みの経過を確認します。

③ 伴走:継続的なコミュニケーション

管理栄養士が利用者の行動を支援し、無理のない改善を続けられるようにします。

例えば、月額5,000円のサービスでも、単に月1回の相談を受けるだけでは価格に納得しにくいかもしれません。

しかし、測定、具体的な食生活改善提案、定期的なフォローが組み合わされば、継続利用する理由が生まれます。

ここで注意したいのは、健康食品を販売するために相談を行うのではないということです。

管理栄養士の専門的判断に基づき、必要なサービスや商品を提案することが、薬局への信頼を守る条件になります。


4.実際にいくら稼げるのか? 収益シミュレーション

ここでは、管理栄養士を配置する薬局が小規模に新規事業を始めた場合を想定してみます。

以下は実績値ではなく、事業性を考えるための仮定です。

収益項目月間売上
健康食品販売:50件×2,000円100,000円
健康測定・相談:20件×1,000円20,000円
栄養サポート:10人×5,000円50,000円
企業向け栄養セミナー:1回30,000円
合計200,000円

月間売上20万円、年間では240万円です。

しかし、売上がそのまま利益になるわけではありません。

商品仕入原価、管理栄養士の人件費、システム費用、広告費などを差し引く必要があります。

例えば、月間売上20万円に対して、商品原価などの変動費が7万円、追加的な固定費が3万円なら、既存人件費の配賦前の貢献利益は10万円です。

管理栄養士を新たに採用する場合には、その人件費も含めて採算を評価しなければなりません。

一方、すでに配置している管理栄養士の稼働余力を活用する場合は、比較的小さな追加投資で事業を開始できる可能性があります。

重要なのは、売上だけでなく、管理栄養士の稼働時間と損益分岐点を管理することです。


【図3:管理栄養士の収益モデル―月間売上20万円の内訳と損益構造】


5.LINEと生成AIで管理栄養士の業務を効率化する

有料栄養指導の大きな課題は、利用者が増えるほど管理栄養士の業務負担が増えることです。

例えば、30人の利用者から毎日食事写真が送られてきた場合、すべてに個別返信していては通常業務に支障が生じかねません。

そこで、LINE公式アカウントなどを活用した業務の標準化が重要になります。

運用のポイントは3つです。

第一に、返信時間と回数を決めること。

24時間対応を約束せず、契約時に返信日や返信頻度を明示します。

第二に、報告方法を簡単にすること。

食事写真と簡単なコメントを基本とし、利用者の負担を減らします。

第三に、アドバイスをテンプレート化すること。

食事内容を褒めるメッセージ、栄養バランスの改善提案、報告が途絶えた場合のフォローなどを標準化します。

生成AIを活用すれば、こうした文章の下書き作成や健康情報コンテンツの制作も効率化できるでしょう。

ただし、個人の健康情報を取り扱う場合は、本人同意、情報管理、利用サービスの安全性を確認する必要があります。

また、AIが作成した栄養指導文をそのまま送信するのではなく、管理栄養士が内容を確認する運用が必要です。

AIに任せるのは文章作成などの定型業務。専門的判断は管理栄養士が担う。

この役割分担が重要だと考えます。


6.経営者が最初に取り組むべき3つの行動

では、実際に何から始めればよいのでしょうか。

私は、次の3つを提案します。

① 管理栄養士の業務を棚卸しする

まず、現在の業務時間を確認します。

栄養相談、事務業務、健康イベント、商品販売などに、それぞれ何時間使っているでしょうか。

管理栄養士の専門性が十分に発揮されていない業務があれば、役割分担を見直す余地があります。

② 一つのターゲットに絞って商品を作る

最初から糖尿病、肥満、フレイル、介護食など、すべてに対応する必要はありません。

例えば、高齢者が多い薬局なら「フレイル予防の栄養サポート」、現役世代が多い薬局なら「健康診断後の食生活改善サポート」など、対象を絞ることが有効です。

そして、まずは5〜10人程度の利用者で試験運用してみます。

③ 売上だけでなく継続率と成果を測定する

事業評価では、売上だけを見てはいけません。

利用者数、有料サービスへの移行率、継続率、管理栄養士の稼働時間、利用者満足度、行動変容などを確認します。

特に重要なのは、「継続して利用したい」と感じてもらえるサービスになっているかという点です。

単なる商品販売では、価格競争に巻き込まれます。

しかし、管理栄養士の専門的な支援が組み合わされば、利用者にとっての価値は変わります。


7.私見:管理栄養士は薬局の新しい事業開発人材になる

これからの薬局は、処方箋を受け付け、薬を交付する機能だけで経営の持続可能性を考えることが難しくなっていくと私は考えています。

薬局には、薬剤師という医薬品の専門家がいます。

そして管理栄養士が加われば、薬物療法と食生活の両面から、地域住民の健康を支えることができます。

しかし、この組み合わせを単なる患者サービスで終わらせてしまうのは、経営的にも地域医療の観点からも、もったいないことではないでしょうか。

薬剤師は薬物療法の適正化を担い、管理栄養士は栄養・食生活の改善を支援する。

さらに、地域の飲食店、企業、行政、医療機関と連携すれば、薬局を起点とした新しい健康支援事業が生まれる可能性があります。

もちろん、管理栄養士の収益化を急ぐあまり、不要な商品販売や過剰なサービス契約を促すことがあってはなりません。

利用者の健康課題を解決した結果として、適正な対価を得る。

この順序を守ることが、専門職を活用した持続可能なビジネスの条件だと考えます。

私は、これからの管理栄養士を、薬局の補助的な専門職ではなく、新たな事業を企画し、地域の健康需要を掘り起こす「事業開発人材」として評価すべきではないかと考えています。


おわりに:無料相談から、価値を生み出すサービスへ

薬局の管理栄養士を収益化するというと、栄養相談を有料にすることだけを想像するかもしれません。

しかし、本質はそこではありません。

管理栄養士の専門知識を、商品、測定、継続支援、地域連携という具体的なサービスに変換することです。

その第一歩は、大きな設備投資でも、新たな人材採用でもありません。

「自局の管理栄養士は、地域の誰の、どのような健康課題を解決できるのか」

この問いを経営者と管理栄養士が一緒に考えることから始まります。

調剤報酬以外の収益を増やすことは、単なる売上拡大策ではありません。

薬局が地域の健康インフラとして生き残るための、新たな経営戦略の一つではないでしょうか。


参考資料

  • 厚生労働省「健康サポート薬局に関する調査結果」(令和6年度予算事業)

  • ウエルシア薬局「栄養コンシェルジュサービス」公開情報(2026年3月)

  • サノ・ファーマシー「栄養相談・食事記録分析サービス」公開情報

  • ゆう薬局カフェ(京都府舞鶴市)の活動紹介

  • 日本調剤の管理栄養士による健康支援事業紹介

  • 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」

  • 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」

※収益シミュレーションは筆者による仮定であり、実際の事業収益を保証するものではありません。制度・法規制については、事業開始時点の最新情報を確認してください。

10/10/2026

2040年に残る薬局は何が違うのか?

 

2040年に残る薬局は何が違うのか?

―ドラッカー流「未来の薬局経営」10原則

「次の改定」を追うだけで、本当に大丈夫でしょうか

薬局経営を取り巻く環境は、大きな転換点にあります。

人口減少、高齢化、薬剤師不足、在宅医療、医療DX、AI、電子処方箋、PHR、地域医療再編――。

薬局経営者にとって気になることを挙げれば、いくらでもあります。

しかし、ここで一度立ち止まって考えたいことがあります。

「次の調剤報酬改定で何点になるのか」を追い続けることが、本当に経営なのでしょうか。

制度改正への対応はもちろん必要です。

しかし、2030年、2035年、2040年と時間軸を伸ばしてみると、もっと根本的な問いが見えてきます。

「そもそも、私たちの薬局は何のために存在するのか?」

私は、これからの薬局経営を考えるうえで、ピーター・ドラッカーの経営思想は非常に相性がよく、むしろ今後のような不確実性の高い時代だからこそ有効な経営方法論ではないかと考えています。

なぜならドラッカーは「未来を当てる方法」を教えているのではないからです。

  • 顧客は誰か。
  • 顧客にとっての価値は何か。
  • われわれの使命は何か。
  • 成果とは何か。
  • そして、何をやめるのか。

環境が変わっても、この問いは変わりません。



なぜ今、薬局経営にドラッカーなのか

2040年に向けて、日本の医療・介護提供体制そのものが再設計されようとしています。

厚生労働省では「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革」が検討され、さらに在宅医療・医療介護連携、地域におけるサービス提供体制など、2040年を明確に意識した政策議論が進んでいます。

薬局についても、2026年の「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」では、調剤業務の一部外部委託や地域医薬品提供体制などが議論されています。

さらに医療DXでは、全国的な医療情報連携・共有基盤を通じて、質の高い医療サービスを持続的に提供する方向が示されています。

つまり、これまでの、

医療機関→処方箋→薬局→調剤→服薬指導→終了

という一直線のビジネスモデルだけを前提に、2040年の薬局経営を考えることには限界があります。

そこでドラッカーです。



2030年――まず「何をしないか」を決める

薬局経営者は、新しい制度が出るたびに、

  • 「在宅をやろう」
  • 「健康イベントをやろう」
  • 「DXを入れよう」
  • 「AIを使おう」

と仕事を足してしまいがちです。

しかし、人も時間も資金も有限です。

ここには行動経済学でいう現状維持バイアスも働きます。

  • 「昔からやっているから」
  • 「他の薬局もやっているから」
  • 「やめて失敗するのが怖いから」

という理由で、成果を生まなくなった仕事を続けてしまうのです。

ドラッカー流なら逆です。

「今日ゼロから薬局を始めるとして、その仕事を本当に始めますか?」

答えがNOなら、廃止・縮小・自動化・外部化を検討する。

紙業務、二重入力、過剰在庫、意味の薄い会議、薬剤師でなくてもできる単純作業――。

2030年までの最優先テーマは、仕事を増やすことではありません。

薬剤師の時間を取り戻すことです。

【図1:2030年「捨てる勇気が、未来をつくる」】


2030 SELECT : 何をするかより、何をしないかを決める。

処方箋を増やす経営から、

薬剤師の時間を生み出す経営

への転換です。


2035年――「処方箋」ではなく「人」とつながる

次の段階は2035年です。

ここでは「薬局」という店舗を中心に考えることをやめます。

  • 中心に置くのは患者・地域住民です。
  • 例えば、高血圧と糖尿病を持つ75歳の患者。
  • 処方箋を持って来店し、薬を渡して終わる。

これが「点」の関係です。

一方、「健診データ」から「再評価」までつながれば「面」の関係になります。

     【図2:「医療・調剤・ケアをつなぐ薬局の連携サイクル」】

厚労省も在宅医療について、退院支援、日常療養支援、急変時対応、看取りという機能を示し、多職種連携を含めた地域の体制整備を進めています。

だから2035年の薬局経営では、

「処方箋を何枚持っているか」

だけではなく、

「何人の患者と継続的な関係を持っているか」

が重要になることは必定です。

【図3:2035年「処方箋を見る薬局から、患者の人生を見る薬局へ」】


2035 CONNECT : 処方箋ではなく、人とつながる。

ここで薬局経営者に一つ質問してみたいと思います。

「あなたの薬局には、“処方箋がなくても相談したい人”が何人いますか?」

この人数こそ、将来の薬局の本当の顧客基盤を表す一つの指標になるのではないでしょうか。



2040年――「薬局を残す」から「必要な機能を残す」へ

そして2040年。

ここでは、さらに問いを変える必要があります。

「自分の薬局をどう残すか?」ではありません。

  ➡「この地域に、どんな薬局機能を残す必要があるのか?」

です。

例えば、

医薬品供給、在宅医療、専門薬物療法、健康支援、PHR、セルフケア、多職種連携、災害時のBCP。

これらをすべて1店舗で抱える必要はありません。

地域の薬局、病院、診療所、訪問看護、介護施設、行政などが機能分担し、ネットワークとして支える発想です。

薬局の価値は「店舗数」から考えるのではなく、

地域に必要な医薬品供給・薬物療法支援機能

から逆算することが求められています。

【図4:2040年「地域になくてはならない薬局へ」】


2040 ESSENTIAL : 「ある薬局」から「なくてはならない薬局」へ。

経営者にとって最も厳しい問いは、これかもしれません。

「もし明日、あなたの薬局がなくなったら、誰が困りますか?」

「近くで薬をもらえなくなる」だけでしょうか。

それとも、

  • 在宅患者が困る。
  • 医師が困る。
  • 訪問看護師が困る。
  • 介護施設が困る。
  • 地域住民が困る。
  • 災害時の医薬品供給が困る。

と言ってもらえるでしょうか。

後者になれば、その薬局には明確な存在理由があります。



ドラッカー流・薬局経営10原則

ここまでを、経営初心者でも使える10原則に整理してみました。

第1原則 使命を決める:この薬局は何のために存在するのか。

第2原則 顧客を決める:誰に最も価値を提供する薬局なのか。

第3原則 顧客価値から考える:患者は「薬」ではなく、何を求めているのか。

第4原則 成果を定義する:売上ではなく、患者に何が起こったのか。

第5原則 やらないことを決める:今年、何を捨てるのか。

第6原則 強みに集中する:「これなら、あの薬局」と言われるものは何か。

第7原則 薬剤師の時間を再配分する:薬剤師にしかできない仕事に何時間使えているか。

第8原則 変化を機会に変える:制度改正、AI、DX、人口減少からどんな新需要を発見するか。

第9原則 地域との関係を資産にする:地域の医療・介護関係者から相談されているか。

第10原則 利益を使命継続の条件とする:そのサービスを10年間続けられる利益があるか。

大切なのは、10個全部を一度に実行することではありません。



「売上を増やす」より「問いを変える」

経営初心者ほど、「何をすれば売上が上がりますか?」と聞きたくなります。

しかし、ドラッカー流なら、答えを探す前に問いを変えるでしょう。

「どうすれば処方箋が増えるか?」ではなく、

           ➡「誰に価値を提供するのか?」

「どうすれば加算が取れるか?」ではなく、

           ➡「患者にどんな変化を起こすのか?」

「どうすれば薬剤師を増やせるか?」ではなく、

           ➡「薬剤師にしかできない仕事は何か?」

「どうすれば店舗を残せるか?」ではなく、

           ➡「地域に残さなければならない機能は何か?」

問いが変われば、経営判断も変わります。



明日から始める「10分間ドラッカー会議」

難しい経営計画書を作る必要はありません。

まず月に1回、経営者と管理薬剤師で10分だけ、次の5問を話してみてはいかがでしょうか。

①誰のための薬局なのか?

②その人は何に困っているのか?

③当薬局だから提供できる価値は何か?

④その結果、患者に何が起きたのか?

⑤来月、何をやめて何を始めるのか?

ここで行動経済学的に重要なのは、目標を大きくしすぎないことです。

「2030年までに薬局を変革する」

では人は動きません。

  • 「今月、1つだけやめる」
  • 「患者10人に困り事を聞く」
  • 「連携先1施設を訪問する」
  • 「AIで1業務だけ30分短縮する」

まで小さくします。

未来を変えるのは壮大な計画ではなく、小さな行動を継続できる仕組みです。



私見:これからの薬局経営にドラッカーが適している理由

私は、これからの薬局経営環境を考えれば考えるほど、ドラッカーの経営方法論との親和性は高いと考えています。

なぜなら、これからの薬局には「正解」が一つではないからです。

  • 都市部と地方。
  • 門前と面対応。
  • 在宅に強い薬局と専門医療に強い薬局。
  • 健康支援を担う薬局と医薬品供給拠点となる薬局。

地域によって人口も医療資源も患者ニーズも異なります。

だから、

「これからは在宅だ」
「これからはAIだ」
「これからはPHRだ」

という一つの答えに飛びつくこと自体が危険です。

在宅もAIもPHRもDXも「目的」ではありません。すべて、

「われわれの顧客は誰か」
「顧客にどんな価値を提供するのか」

を実現するための手段です。

そして2030年、2035年、2040年を私はこう整理したいと思います。

2030 SELECT : 捨てる。そして、選ぶ。

2035 CONNECT : 処方箋ではなく、人とつながる。

2040 ESSENTIAL : 地域になくてはならない存在になる。



おわりに――薬局を守るのではなく、使命を守る

2040年に何軒の薬局が残るのか。もちろん重要なテーマです。

しかし、経営者一人ひとりにとって、それ以上に重要なのは、

「2040年に、自分たちは何のために存在しているのか?」

ではないでしょうか。

処方箋を待つ薬局から、

患者を支える薬局へ。

そして、

地域医療を支える薬局へ。

最後に、経営者の皆さんに一つだけ問いを残します。

2040年、あなたの薬局が地域からなくなったとき、誰が本気で困るでしょうか。

その答えの中に、これからの薬局経営の戦略があるのではないかと思います。



薬局でのカスハラ「出禁」は適法か?

 



薬局でのカスハラ「出禁」は適法か?

-過剰要求に対する裁判例から学ぶ現場の守り方

2026年10月から企業に対する「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」が義務付けられました。薬局経営においても、患者様からの正当なクレームと、過剰な要求(カスハラ)の線引きは非常に悩ましい課題です。

今回は、調剤薬局で起きたトラブルをめぐり、顧客側が薬局を提訴したものの、薬局側の「出入り禁止(出禁)」措置が適法と認められた重要な裁判例(※日経新聞2026年10月9日報道)を題材に、薬局経営者が知っておくべきカスハラ対策のポイントを解説します。


1. 事件の概要:クーポンの説明要求から「出禁」へ

事件の発端は2023年9月。70代の男性が閉店間際の調剤薬局で、クーポンの説明を「薬剤師」に求めたことでした。

  • 初期対応: 薬剤師は「事務員が対応する」と伝えましたが、男性は薬剤師本人からの説明に固執しました。
  • トラブルの発生: 業務の妨げになると判断した薬剤師が「嫌なら来なくていい」と発言。これに激怒した男性が薬局本部にクレームを入れました。
  • カスハラへの発展: 薬局本部は当初、謝罪文を送付しましたが、男性は納得せず「問題の原因究明と担当者の処分をまとめた顛末書の提出」を執拗に要求しました。
  • 出禁措置: 薬局本部はこれ以上の対応は通常業務の妨害にあたると判断し、男性に「出入り禁止」を通告しました。

男性は「出禁により名誉を侵害された」として50万円の損害賠償を求めて提訴しましたが、簡易裁判所、地方裁判所、そして高等裁判所のすべてで原告(男性)の訴えは棄却され、薬局側の勝訴が確定しました。


2. なぜ原告の訴えは棄却されたのか?(裁判所の判断)

裁判所が原告の訴えを退け、薬局側の措置を適法とした理由は、主に以下の点に集約されます。

  • 要求の過剰性(受忍限度を超えているか): 初期の薬剤師の対応(「嫌なら来なくていい」という発言)自体には不適切な面があったとしても、本部が謝罪を行った後も執拗に「原因究明」や「担当者の処分をまとめた顛末書」を要求し続ける行為は、社会通念上、一企業のカスタマーサポートに対して求めるべき正当な範囲を逸脱していると判断されました。
  • 業務妨害の事実: 執拗なクレーム対応に時間を割かれることは、薬局の本来の業務(他の患者への調剤や服薬指導など)を著しく妨害する行為です。
  • 出禁措置の正当性: 企業には、従業員の安全な労働環境を守り、円滑な業務遂行を維持する権利(および義務)があります。過剰な要求を繰り返す顧客に対して取引を拒絶(出禁)することは、自己防衛のための正当な権利行使の範囲内であると認められました。

3. 薬局側が勝訴できた「対応の要因」

この事例から見えてくる、薬局側が法的に守られた(勝訴できた)重要な要因は以下の通りです。

  1. 「謝罪」と「要求の拒絶」を明確に切り分けたこと: 本部は初期段階で謝罪文を出し、自社に非がある部分(接遇面)については誠意を見せました。しかし、その後の「過剰な要求(顛末書の提出など)」に対しては毅然と拒絶しました。「謝ったのだから、相手の言うことをすべて聞かなければならない」という罠に陥らなかったことが最大の勝因です。
  2. 組織としての対応(現場への丸投げ回避): 現場の薬剤師と顧客間のトラブルのまま放置せず、本部(組織)として対応を引き取り、最終的な「出禁通告」も組織の決定として行ったことで、個人の感情的な対立から「企業防衛」のフェーズへと適切に移行できました。

4. 薬局経営者への3つのアドバイス

この判例を踏まえ、これからの薬局経営において従業員を守るために実践すべき3つのアクションをまとめました。

① 「調剤応需義務」の正しい理解と社内共有

薬剤師法には調剤応需義務(正当な理由なく調剤を拒んではならない)がありますが、「カスハラ(著しい業務妨害や不当な要求)」は、調剤を拒否する『正当な理由』に該当し得ます。 「患者様だから何を言われても我慢しなければならない」という誤った認識を改め、現場スタッフに「無理な要求は断ってよい」という心理的安全性を提供してください。

② 対応打ち切りの「エスカレーション基準」の策定

クレーム対応において、現場レベルで対応を打ち切り、本部や責任者へ引き継ぐ明確な基準を設けてください。

  • 土下座や金銭の要求
  • 担当者の処罰や顛末書の強要
  • 不退去(長時間の居座り)
  • 大声や暴言 これらの行為があった場合は、速やかに「カスハラ事案」として組織対応(録音・録画、警察への通報、顧問弁護士への相談など)に切り替えるマニュアルが必要です。

③ 毅然とした対応をとるための組織体制づくり

今回の事例のように、過去の社会的地位などを背景に自己の正当性を主張するケースは珍しくありません。スタッフが相手の感情的なペースに巻き込まれず、「当薬局のルールとしてこれ以上の対応はいたしかねます」と事務的に対応できるよう、平時からのトレーニングと、いざという時に会社が必ずスタッフを守るという明確なメッセージを発信することが重要です。

 

まとめ

2026年10月のカスハラ対策義務化を機に、薬局は「優しいだけの医療機関」から「スタッフを守れる組織」へとアップデートする必要があります。今回の出禁適法判決は、そのための大きな後ろ盾となるでしょう。まずは自局の対応マニュアルの見直しから始めてみてはいかがでしょうか。

10/07/2026

カスハラ対策は「負担」か「チャンス」か?

 


カスハラ対策は「負担」か「チャンス」か?

―2026年10月、薬局経営者が考えるべき本当の意義―

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法に基づくカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策に関する指針が適用され、事業主にはカスハラ対策に係る雇用管理上の措置が求められることになりました。日本薬剤師会も2026年9月に「薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル(暫定版)」を公表しています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

薬局経営者にとって、これは「また新しい義務が増えた」と感じる制度かもしれません。

マニュアルを作る。
相談窓口を設置する。
職員研修を行う。
患者への掲示を行う。
トラブル時の対応フローを決める。

確かに、すべてコストと手間がかかります。

しかし私は、カスハラ対策を単なるコンプライアンス対応として終わらせるのは、非常にもったいないと考えています。

むしろ今回の制度対応は、

「患者に選ばれる薬局」と同時に、「職員にも選ばれる薬局」をつくる機会

として捉えるべきではないでしょうか。



1.なぜ薬局でカスハラが問題になるのか

薬局は、一般の小売店とは少し違います。

患者は「欲しい商品を買いに来る顧客」ではありません。

病気や痛み、不安を抱えている。
長時間病院で待ってきた。
さらに薬局でも待たされる。
薬が不足している。
以前と自己負担額が違う。
希望する薬を出してもらえない。

しかも、疑義照会、監査、服薬指導など薬剤師が安全のために行っている業務の多くは、患者からは見えません。

日本薬剤師会のマニュアルも、医療保険制度や自己負担の複雑さ、医薬品の供給不足、患者から見えにくい薬剤師業務など、薬局だけでは解決困難な事情が苦情や強い要求につながることを指摘しています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

つまり薬局は、

「患者の不満が薬局に集まりやすい構造」

を持っているのです。

実際、日本薬剤師会の調査を引用した資料では、薬局で報告されたカスハラの形態として、大声・暴言・脅迫的言動62.2%、過剰・不当な要求42.0%、不当なクレーム31.6%、長時間拘束27.9%、人格否定・侮辱的言動27.8%などが挙げられています。薬局のカスハラ対策

厚生労働省の調査でも、薬局を含む「医療・福祉」は、過去3年間に顧客等から著しい迷惑行為を受けた経験のある業種の上位に位置しています。薬局カスタマーハラスメントの実態と対応策

カスハラは、決して一部の特殊な患者だけの問題ではありません。



2.ここで経営者が間違えてはいけないこと

今回の制度を受けて、

「患者から文句を言われたらカスハラ」

と考えるのも危険です。

日本薬剤師会のマニュアルでは、カスハラを判断するとき、

①要求内容が正当か
②要求を伝える手段・態様が相当か

を分けて考えることが重要とされています。正当な苦情や相談をカスハラと決めつけず、誠実に対応することが求められています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

ここは薬局経営上、非常に重要です。

例えば、

「待ち時間が長すぎる」

という患者の指摘があったとします。

これはカスハラとは限りません。

実際に業務フローが悪いのかもしれない。人員配置に問題があるのかもしれない。処方箋受付時に「30分程度かかります」と説明していれば防げたトラブルかもしれません。

正当なクレームには、

薬局経営を改善するための情報

が含まれています。

一方、

「今すぐ薬を出せ!」

「お前はバカか!」

「SNSに名前を晒すぞ!」

などの暴言、威圧、脅迫まで従業員に我慢させる必要はありません。

日本薬剤師会のマニュアルでも、暴力、脅迫、人格否定、大声による威圧、執拗な要求、長時間の居座りなどを典型的な例として挙げています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

患者中心とは、患者の要求をすべて受け入れることではありません。

ここを経営者が明確にする必要があります。




3.カスハラ対策を「負担」と考えた薬局

今回の制度を最低限の義務として捉えると、おそらく次のような対応になります。

「とりあえずマニュアルを作る」
「ポスターを貼る」
「相談窓口を決める」
「研修を一回実施する」

これでも形式上の対応は進みます。

しかし、現場で暴言を受けた事務職員が、

「店長に報告していいのだろうか」

と迷っていたらどうでしょう。

薬剤師が、

「患者だから我慢しなければ」

と30分、40分と一人で対応していたらどうでしょう。

あるいは管理薬剤師自身が、

「これくらい接客業なら当たり前だ」

と言ってしまったらどうでしょう。

マニュアルがあっても、組織文化が変わらなければカスハラ対策にはなりません。

だからこそ、日本薬剤師会のマニュアルが示している基本方針には、

「カスハラを従事者個人の問題としない」

「一人で対応を抱え込ませない」

「従事者の人格・尊厳を損なう行為を許容しない」

と明記されています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

ここに今回の制度の本質があります。



4.では、「チャンス」と考えた薬局は何をするのか

私は、今回のカスハラ対策には少なくとも4つの経営上のチャンスがあると考えています。

①「職員を守る会社」であることを明確にできる

薬剤師不足が続く中で、人材採用・定着は中小薬局にとって重大な経営課題です。

給与だけで職場を選ぶ時代ではありません。

「困った患者が来ても会社が守ってくれる」

「一人で対応しなくていい」

「管理者が代わってくれる」

という心理的安全性は、大きな職場価値になります。

カスハラ対策は、

リスク管理策であると同時に、人材戦略でもある

のです。


②医療安全を守ることにつながる

カスハラを受けた直後の薬剤師に、そのまま監査や調剤を続けさせることを考えてみてください。

恐怖、怒り、動揺。

その状態で薬剤名、規格、用量、相互作用を確認する。

これは医療安全上も望ましくありません。

資料でも、カスハラによる心理的動揺が集中力や判断力を低下させ、処方内容の読み違い、監査の見落とし、確認不足などのヒューマンエラーにつながり得ることが指摘されています。薬局のカスハラ対策

したがって、

カスハラ対策=従業員保護

だけではありません。

カスハラ対策=患者安全対策

でもあるのです。


③薬局の業務改善につなげられる

ここが私が最も注目しているポイントです。

カスハラが発生したら、

「困った患者だった」

で終わらせないことです。

発生原因を分析します。

例えば、

待ち時間 → 業務フロー改善

在庫不足 → 在庫管理・説明改善

自己負担への不満 → 制度説明改善

服薬指導への不満 → コミュニケーション改善

電話での長時間拘束 → 対応ルール改善

と変換できます。

つまり、

カスハラ記録を「事故記録」ではなく「経営改善データ」として使う。

これは中小薬局でも十分できます。

毎月、

「どんな苦情があったか」

「どの時間帯だったか」

「何がきっかけだったか」

「どこでカスハラ化したか」

を振り返る。

すると、患者とのトラブルが発生しやすい業務工程が見えてきます。

これはカスハラ対策から始まる薬局版リスクマネジメントです。


④「地域医療インフラとしての薬局」をつくる契機になる

薬局はこれから、在宅、健康支援、PHR、フォローアップ、地域連携など、患者との接点を広げていきます。

接点が増えれば、残念ながらトラブルの接点も増えます。

特に注意すべきなのが在宅です。

今回のマニュアルでは「職場」は薬局店舗だけではなく、業務を行う患者宅も含むと整理されています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

つまり、

「店舗のカスハラ対策」

では足りません。

電話、SNS、在宅訪問、患者家族、介護者、取引先まで視野に入れた組織としての安全管理へ変えていく必要があります。

これは、これから地域医療を担う薬局に必要な経営インフラそのものです。




5.「患者第一」から「患者と職員の双方を守る」へ

薬局業界には長い間、

「患者さんだから仕方がない」

「医療者だから我慢する」

という文化が少なからずあったのではないでしょうか。

しかし、ここは変える必要があります。

もちろん、患者の疾患、認知機能、障害、心身の状態などへの配慮は必要です。

日本薬剤師会のマニュアルも、説明方法を変える、家族に協力を求める、医療機関と連携する、対応者や対応場所を変えるといった方法を示しています。

しかし同時に、

患者側の事情に配慮することと、従事者が暴力・脅迫・著しい威圧を受忍することは別問題

と明確にしています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

私はここに、これからの薬局経営にとって非常に重要なメッセージがあると思います。

患者を大切にすることと、職員を守ることは対立しない。

むしろ職員が安心して働ける薬局だからこそ、患者に対して冷静で質の高い医療を提供できます。



6.経営者が10月から始めるべき「5つの行動」

難しく考える必要はありません。

まず次の5点から始めればよいでしょう。

  1. 経営者自身が「カスハラを職員一人に背負わせない」と宣言する
  2. 正当なクレームとカスハラの判断基準を共有する
  3. 「担当者→管理薬剤師→経営者→警察・弁護士」などエスカレーションルールを決める
  4. 発生事例を記録し、月1回、業務改善の材料として振り返る
  5. 患者にも「職員を守る薬局」であることを掲示・発信する

特に重要なのは1番目です。

カスハラ対策の出発点は、立派なマニュアルではありません。

トップの意思表示です。


7.「守りのカスハラ対策」から「攻めのカスハラ対策」へ

2026年10月1日の制度適用を、

「また薬局経営の負担が増えた」

と考えることもできます。

しかし、少し視点を変えると違って見えてきます。

カスハラ対策をきっかけに、

職員を守る。

離職を防ぐ。

医療安全を高める。

患者対応を標準化する。

苦情から業務改善を行う。

安心して働ける職場を採用力につなげる。

ここまで実行できれば、これは単なる法令対応ではありません。

立派な経営改善策です。

カスハラ対策を「コスト」と見る薬局と、「組織を強くする投資」と見る薬局。

この小さな認識の差が、数年後には人材定着率や患者サービス、医療安全、そして薬局そのものの競争力の差として現れてくるのではないでしょうか。




まとめ

今回のカスハラ対策で最も重要なのは、

「患者から職員を守る」という発想だけではなく、「患者と職員の双方を守る仕組みを経営としてつくる」こと。

ではないでしょうか。

患者の声には真摯に耳を傾ける。

正当な苦情は業務改善につなげる。

しかし、暴言、脅迫、人格否定、暴力には組織として毅然と対応する。

そして職員には、

「あなた一人で対応しなくていい。会社が対応する。」

と言える薬局にする。

私は、これこそが2026年10月から始めるべきカスハラ対策の本当の意義だと考えます。

カスハラ対策は、薬局にとって新たな負担なのか。

それとも、

「患者にも、職員にも選ばれる薬局」へ変わるためのチャンスなのか。

その答えを決めるのは、制度ではなく、経営者の捉え方と行動です。

10/03/2026

2040年の薬局は何軒必要か──「近さ」から「備え」へ

 2040年の薬局は何軒必要か──「近さ」から「備え」へ

「うちの薬局は、10年後も今の形で続けられるだろうか」。そう感じている経営者や管理薬剤師の方は少なくないはずです。

先に結論を言います。処方箋を受けるだけの薬局は、2040年前後には今の半分程度で足りる計算になります。一方で、高額な薬の管理、予防、地域の医薬品供給という新しい需要は確実に増えます。数は減り、機能は増える。これが本稿の結論です。

この記事でわかること

•      処方箋市場が「頭打ち」になった根拠

•      2040年に必要な薬局数の試算

•      生き残る薬局の3つの形

•      「わかっていても動けない」心理と、その乗り越え方


1. 処方箋は「頭打ち」――数字で見る薬局の現在地

全国の薬局は2024年度末で63,203施設。人口約1,960人に1軒の計算で、いまも少しずつ増えています。

一方、処方箋は2025年度に約8億5,730万枚と、前年度から0.8%減って5年ぶりに減少しました。処方箋受取率(医薬分業率)は82.2%で、前年度の82.1%からほぼ横ばいです。医薬分業は約50年かけて、行き着くところまで来たと言えます。減少の主な原因は、外来患者そのものが減っていることです。

図1 処方箋枚数と受取率の推移(日本薬剤師会データより作成)

ここで大事なのは、「量はすぐには減らないが、1枚あたりの価値は下がっていく」という点です。高齢者の数は2040年代前半まで横ばいから微増が続くため、慢性疾患の処方はすぐには減りません。しかし長期処方やリフィル、薬価差益の縮小、2025年の薬機法改正で認められた調剤業務の一部外部委託(一包化)などにより、処方箋1枚が生む利益は細っていきます。

2026年度の調剤報酬改定では、新しく開く門前薬局や医療モール薬局などを対象に「門前薬局等立地依存減算」(調剤基本料から15点減算)が新設されました。国のメッセージははっきりしています。「立地」ではなく「機能」で評価する、ということです。


2. 2040年、薬局は何軒必要か

2つの方法で試算しました(いずれも筆者の試算です)。

•      人口から見る:2040年の人口約1.13億人を、1軒あたり3,000〜5,000人で割ると、約2.3万〜3.8万軒。

•      処方箋の量から見る:年8.0〜8.6億枚を、1軒あたり月2,000〜3,000枚で割ると、約2.2万〜3.6万軒。

どちらで見ても、処方箋を受けるための薬局は現在の半分前後で足ります。さらに、後で触れる配送やロッカーなど「届ける手段」が広がれば、必要数は約2.5万〜3.2万軒に落ち着くと見ています。

図2 2040年前後の必要薬局数の試算(筆者試算)

ただし地域差は大きく、薬局が密集する大都市ほど減り幅が大きくなります。過疎地は減りにくい一方で、薬剤師の確保が課題です。厚生労働省の推計では、2045年に薬剤師が2.4万〜12.6万人余る見通しですが、余るのは主に都市部で、地方は不足しています。「人を減らして乗り切る」発想では、価格競争に巻き込まれるだけです。


3. 生き残る薬局の3つの形

数が減る一方で、求められる役割は3つの形に分かれていきます。

•      ハブ型(全体の約4%):バイオ医薬品や抗がん剤など高額で管理の難しい薬、無菌調製、他の薬局からの一包化の受託、災害時の備蓄。大病院の門前薬局が転換する有力な候補です。

•      地域拠点型(約55%):外来調剤と在宅、予防や健康づくり、自治体・保険者との連携。2025年の改正で生まれた「健康増進支援薬局」の認定は、この役割に重なります。

•      アクセス型(約35%):小型店舗や配送、ロッカー、介護施設内の配置など、住民の手元に薬を届ける窓口です。

図3 薬局の3つの形と構成比(筆者試算)

ポイントは、類型は「建物」ではなく「機能」だということです。中小チェーンであれば、1店舗を拠点に育て、ほかの店舗に役割を分担させるネットワークづくりが現実的です。

現状では、地域連携薬局は4,292軒(2026年8月末)と全体の約7%にとどまり、しかも減少傾向にあります。認定を取ることがゴールではありません。在宅や医療機関との連携の「実績」で収益を上げられる体制を作れるかどうかが分かれ目です。


4. 「近さ」から「備え」へ

これまで薬局の価値は「近くにあること」でした。しかし病院が集約されてきたように、薬局も集約されていきます。病院と違うのは、薬は保存も配送もできるという点です。

2024年の能登半島地震では、全国から4,701名の薬剤師と13台のモバイルファーマシー(移動薬局車)が被災地に派遣されました。それでも専門家は、支援だけで必要な薬が手に入るとは限らず、一人ひとりの備えが欠かせないと指摘しています。

この「防災の発想」を平時に持ち込むと、薬局の新しい役割が見えてきます。

•      自助:患者さんの手持ち薬に「管理された余裕」を持たせ、期限を見ながら入れ替える

•      互助:家族や介護施設、事業所の間で薬を融通できるよう調整する

•      共助(保険):平時の供給・在庫・在宅を担う

•      公助:自治体の備蓄や災害時の供給に協力する

図4 「近さ」から「備え」へ(筆者作成の概念図)

これからの物差しは「この店は近いか」ではありません。「この店は、地域の誰の備えを支えているか」です。


5. 行動経済学で読み解く「わかっていても動けない理由」

頭では理解していても、行動に移すのは難しいものです。人の判断には、決まったクセがあるからです。代表的なものと、その対策を紹介します。

現状維持バイアス:今のままが一番安全に見える

門前の収益が安定していると、変える理由を探さなくなります。対策は、「何もしない」も1つの選択肢として並べることです。「何もしない場合」と「転換する場合」の5年後の収支を同じ表で比べると、現状維持にもリスクがあることが見えてきます。

損失回避:得る喜びより、失う痛みが大きい

人は同じ金額でも、得る喜びより失う痛みを強く感じるとされます。社内やオーナーを説得するときは、新事業で「得るもの」より、何もしないと「失うもの」(減算や処方箋の減少による減収)を数字で示すほうが、合意を得やすくなります。

現在バイアス:「まだ大丈夫」と先送りしてしまう

減算は新規開設だけが対象と聞くと、つい先送りしたくなります。対策は、自分で期限を決めて宣言することです。たとえば「来年度中に1店舗で在宅の件数を月○件にする」と朝礼で共有するだけでも、先送りは起きにくくなります。

サンクコスト:かけたお金がもったいない

立地や設備に投じた費用を惜しんで、転換が遅れることがあります。判断の基準は「過去にいくら使ったか」ではなく、「これから何を生むか」です。

心の会計:お金に「名前」をつける

門前の利益の一部を「転換投資枠」として別に積み立ててみてください。使い道を決めたお金は、ほかに流用されにくくなります。

同じ仕組みは、患者さんの「備え」にも使えます。人は初期設定をなかなか変えません(デフォルト効果)。そこで、慢性疾患の患者さんには「来局時に手持ち薬と期限を確認する」ことを標準の手順にしておけば、備えの習慣が自然に根づきます。


6. 明日から考えたい3つの問い

1.      自社の店舗は、どの形を目指すか 店舗ごとに、ハブ・地域拠点・アクセスのどれを担うかを決める。

2.      門前の収益を、どこへ投資するか 地域拠点への展開か、専門ハブへの転換か。

3.      地域の誰の備えを支えるか 自治体、保険者、そして自分では備えられない住民。


まとめ

処方箋を受けるだけの薬局は、2040年には今の半分あれば足ります。一方で、高額・高度な薬の管理、予防、地域の医薬品供給という需要は確実に増えます。門前の収益は守るべきゴールではなく、転換のための「猶予期間の原資」です。その原資をどこに投じるか。答えを出すのは、早いほど有利です。

※必要薬局数、類型の構成比は筆者の試算であり、確定した将来予測ではありません。

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