10/10/2026

2040年に残る薬局は何が違うのか?

 

2040年に残る薬局は何が違うのか?

―ドラッカー流「未来の薬局経営」10原則

「次の改定」を追うだけで、本当に大丈夫でしょうか

薬局経営を取り巻く環境は、大きな転換点にあります。

人口減少、高齢化、薬剤師不足、在宅医療、医療DX、AI、電子処方箋、PHR、地域医療再編――。

薬局経営者にとって気になることを挙げれば、いくらでもあります。

しかし、ここで一度立ち止まって考えたいことがあります。

「次の調剤報酬改定で何点になるのか」を追い続けることが、本当に経営なのでしょうか。

制度改正への対応はもちろん必要です。

しかし、2030年、2035年、2040年と時間軸を伸ばしてみると、もっと根本的な問いが見えてきます。

「そもそも、私たちの薬局は何のために存在するのか?」

私は、これからの薬局経営を考えるうえで、ピーター・ドラッカーの経営思想は非常に相性がよく、むしろ今後のような不確実性の高い時代だからこそ有効な経営方法論ではないかと考えています。

なぜならドラッカーは「未来を当てる方法」を教えているのではないからです。

  • 顧客は誰か。
  • 顧客にとっての価値は何か。
  • われわれの使命は何か。
  • 成果とは何か。
  • そして、何をやめるのか。

環境が変わっても、この問いは変わりません。



なぜ今、薬局経営にドラッカーなのか

2040年に向けて、日本の医療・介護提供体制そのものが再設計されようとしています。

厚生労働省では「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革」が検討され、さらに在宅医療・医療介護連携、地域におけるサービス提供体制など、2040年を明確に意識した政策議論が進んでいます。

薬局についても、2026年の「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」では、調剤業務の一部外部委託や地域医薬品提供体制などが議論されています。

さらに医療DXでは、全国的な医療情報連携・共有基盤を通じて、質の高い医療サービスを持続的に提供する方向が示されています。

つまり、これまでの、

医療機関→処方箋→薬局→調剤→服薬指導→終了

という一直線のビジネスモデルだけを前提に、2040年の薬局経営を考えることには限界があります。

そこでドラッカーです。



2030年――まず「何をしないか」を決める

薬局経営者は、新しい制度が出るたびに、

  • 「在宅をやろう」
  • 「健康イベントをやろう」
  • 「DXを入れよう」
  • 「AIを使おう」

と仕事を足してしまいがちです。

しかし、人も時間も資金も有限です。

ここには行動経済学でいう現状維持バイアスも働きます。

  • 「昔からやっているから」
  • 「他の薬局もやっているから」
  • 「やめて失敗するのが怖いから」

という理由で、成果を生まなくなった仕事を続けてしまうのです。

ドラッカー流なら逆です。

「今日ゼロから薬局を始めるとして、その仕事を本当に始めますか?」

答えがNOなら、廃止・縮小・自動化・外部化を検討する。

紙業務、二重入力、過剰在庫、意味の薄い会議、薬剤師でなくてもできる単純作業――。

2030年までの最優先テーマは、仕事を増やすことではありません。

薬剤師の時間を取り戻すことです。

【図1:2030年「捨てる勇気が、未来をつくる」】


2030 SELECT : 何をするかより、何をしないかを決める。

処方箋を増やす経営から、

薬剤師の時間を生み出す経営

への転換です。


2035年――「処方箋」ではなく「人」とつながる

次の段階は2035年です。

ここでは「薬局」という店舗を中心に考えることをやめます。

  • 中心に置くのは患者・地域住民です。
  • 例えば、高血圧と糖尿病を持つ75歳の患者。
  • 処方箋を持って来店し、薬を渡して終わる。

これが「点」の関係です。

一方、「健診データ」から「再評価」までつながれば「面」の関係になります。

     【図2:「医療・調剤・ケアをつなぐ薬局の連携サイクル」】

厚労省も在宅医療について、退院支援、日常療養支援、急変時対応、看取りという機能を示し、多職種連携を含めた地域の体制整備を進めています。

だから2035年の薬局経営では、

「処方箋を何枚持っているか」

だけではなく、

「何人の患者と継続的な関係を持っているか」

が重要になることは必定です。

【図3:2035年「処方箋を見る薬局から、患者の人生を見る薬局へ」】


2035 CONNECT : 処方箋ではなく、人とつながる。

ここで薬局経営者に一つ質問してみたいと思います。

「あなたの薬局には、“処方箋がなくても相談したい人”が何人いますか?」

この人数こそ、将来の薬局の本当の顧客基盤を表す一つの指標になるのではないでしょうか。



2040年――「薬局を残す」から「必要な機能を残す」へ

そして2040年。

ここでは、さらに問いを変える必要があります。

「自分の薬局をどう残すか?」ではありません。

  ➡「この地域に、どんな薬局機能を残す必要があるのか?」

です。

例えば、

医薬品供給、在宅医療、専門薬物療法、健康支援、PHR、セルフケア、多職種連携、災害時のBCP。

これらをすべて1店舗で抱える必要はありません。

地域の薬局、病院、診療所、訪問看護、介護施設、行政などが機能分担し、ネットワークとして支える発想です。

薬局の価値は「店舗数」から考えるのではなく、

地域に必要な医薬品供給・薬物療法支援機能

から逆算することが求められています。

【図4:2040年「地域になくてはならない薬局へ」】


2040 ESSENTIAL : 「ある薬局」から「なくてはならない薬局」へ。

経営者にとって最も厳しい問いは、これかもしれません。

「もし明日、あなたの薬局がなくなったら、誰が困りますか?」

「近くで薬をもらえなくなる」だけでしょうか。

それとも、

  • 在宅患者が困る。
  • 医師が困る。
  • 訪問看護師が困る。
  • 介護施設が困る。
  • 地域住民が困る。
  • 災害時の医薬品供給が困る。

と言ってもらえるでしょうか。

後者になれば、その薬局には明確な存在理由があります。



ドラッカー流・薬局経営10原則

ここまでを、経営初心者でも使える10原則に整理してみました。

第1原則 使命を決める:この薬局は何のために存在するのか。

第2原則 顧客を決める:誰に最も価値を提供する薬局なのか。

第3原則 顧客価値から考える:患者は「薬」ではなく、何を求めているのか。

第4原則 成果を定義する:売上ではなく、患者に何が起こったのか。

第5原則 やらないことを決める:今年、何を捨てるのか。

第6原則 強みに集中する:「これなら、あの薬局」と言われるものは何か。

第7原則 薬剤師の時間を再配分する:薬剤師にしかできない仕事に何時間使えているか。

第8原則 変化を機会に変える:制度改正、AI、DX、人口減少からどんな新需要を発見するか。

第9原則 地域との関係を資産にする:地域の医療・介護関係者から相談されているか。

第10原則 利益を使命継続の条件とする:そのサービスを10年間続けられる利益があるか。

大切なのは、10個全部を一度に実行することではありません。



「売上を増やす」より「問いを変える」

経営初心者ほど、「何をすれば売上が上がりますか?」と聞きたくなります。

しかし、ドラッカー流なら、答えを探す前に問いを変えるでしょう。

「どうすれば処方箋が増えるか?」ではなく、

           ➡「誰に価値を提供するのか?」

「どうすれば加算が取れるか?」ではなく、

           ➡「患者にどんな変化を起こすのか?」

「どうすれば薬剤師を増やせるか?」ではなく、

           ➡「薬剤師にしかできない仕事は何か?」

「どうすれば店舗を残せるか?」ではなく、

           ➡「地域に残さなければならない機能は何か?」

問いが変われば、経営判断も変わります。



明日から始める「10分間ドラッカー会議」

難しい経営計画書を作る必要はありません。

まず月に1回、経営者と管理薬剤師で10分だけ、次の5問を話してみてはいかがでしょうか。

①誰のための薬局なのか?

②その人は何に困っているのか?

③当薬局だから提供できる価値は何か?

④その結果、患者に何が起きたのか?

⑤来月、何をやめて何を始めるのか?

ここで行動経済学的に重要なのは、目標を大きくしすぎないことです。

「2030年までに薬局を変革する」

では人は動きません。

  • 「今月、1つだけやめる」
  • 「患者10人に困り事を聞く」
  • 「連携先1施設を訪問する」
  • 「AIで1業務だけ30分短縮する」

まで小さくします。

未来を変えるのは壮大な計画ではなく、小さな行動を継続できる仕組みです。



私見:これからの薬局経営にドラッカーが適している理由

私は、これからの薬局経営環境を考えれば考えるほど、ドラッカーの経営方法論との親和性は高いと考えています。

なぜなら、これからの薬局には「正解」が一つではないからです。

  • 都市部と地方。
  • 門前と面対応。
  • 在宅に強い薬局と専門医療に強い薬局。
  • 健康支援を担う薬局と医薬品供給拠点となる薬局。

地域によって人口も医療資源も患者ニーズも異なります。

だから、

「これからは在宅だ」
「これからはAIだ」
「これからはPHRだ」

という一つの答えに飛びつくこと自体が危険です。

在宅もAIもPHRもDXも「目的」ではありません。すべて、

「われわれの顧客は誰か」
「顧客にどんな価値を提供するのか」

を実現するための手段です。

そして2030年、2035年、2040年を私はこう整理したいと思います。

2030 SELECT : 捨てる。そして、選ぶ。

2035 CONNECT : 処方箋ではなく、人とつながる。

2040 ESSENTIAL : 地域になくてはならない存在になる。



おわりに――薬局を守るのではなく、使命を守る

2040年に何軒の薬局が残るのか。もちろん重要なテーマです。

しかし、経営者一人ひとりにとって、それ以上に重要なのは、

「2040年に、自分たちは何のために存在しているのか?」

ではないでしょうか。

処方箋を待つ薬局から、

患者を支える薬局へ。

そして、

地域医療を支える薬局へ。

最後に、経営者の皆さんに一つだけ問いを残します。

2040年、あなたの薬局が地域からなくなったとき、誰が本気で困るでしょうか。

その答えの中に、これからの薬局経営の戦略があるのではないかと思います。



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