供給不安の時代に問われる、薬剤師の"本質"
仕入れる相手を選ぶ「目」と、患者接点で判断する「力」
――世界の薬剤師の潮流から、医薬品供給体制というテーマを捉え直す
「また出荷調整の連絡か」。限定出荷や欠品の報せが届くたび、在庫の確認、代替薬の検討、処方元への照会、患者への説明が日常業務に積み重なる。多くの薬局にとって、供給不安はもはや突発事故ではなく、慢性的な業務環境そのものになった。
こうした状況で語られる対策は、どうしても「どのメーカーから、どう仕入れるか」という調達の話に寄りがちだ。仕入れる相手の"供給対応力"を見極める視点は確かに重要で、価格だけで採用を決めない姿勢は正しい。だが、それだけでは対策の半分にすぎない。そもそも医薬品の需要(need)を生んでいるのは処方であり、不足が起きたときに「切り替えるか、粘るか、そもそも本当に要るのか」を最終的に判断するのは、患者の目の前に立つ薬剤師だからである。
国家資格者薬剤師として突き詰めて考えてみてほしい
医薬品の供給体制は、単なる物流や在庫管理の問題ではなく、薬剤師の専門性の"本質"を映すテーマである。 世界の薬剤師の役割・機能に照らせば、同一薬効への切り替えを提案する力、その処方が患者にとって本当に必須かを見極める判断力、入手ルートとの関係性を平時から築いておく力――こうした患者サイドに立った臨床判断こそが、供給不安対応の核心に置かれるべきだと考える。
世界の薬剤師は、すでに「患者接点での判断」に踏み込んでいる
供給不安に対して、諸外国は「薬剤師の判断で、より柔軟に対応させる」方向へ制度を動かしてきた。いくつか具体例を引きたい。
英国 ― 深刻な不足時に薬剤師が代替薬を渡せる「SSP」。 英国では2019年の法改正(Human Medicines (Amendment) Regulations 2019)により、Serious Shortage Protocol(SSP、深刻な供給不足時のプロトコル)が導入された。保健当局が特定医薬品の深刻な不足を認めた際にプロトコルを発出すると、地域薬局の薬剤師は、処方医に問い合わせて処方を書き換えてもらわなくても、別の規格・剤形、後発品、あるいは治療学的な代替薬、または減量した数量を、プロトコルの範囲内で患者に供給できる。しかもそれは機械的な代替ではなく、「その代替が当該患者にとって妥当か」を薬剤師が専門的判断で見極めることが前提とされている。スコットランドは不足医薬品リストに基づく後発品への切替を、ウェールズは薬剤師が処方医に連絡せずに一定の変更を行える独自の切替方針を、それぞれ運用している。英国王立薬剤師会(RPS)は近年、薬剤師がより広く適切な代替薬を供給できるよう制度改正を求め続けており、超党派の議員グループも2025年に「不足は個別の事象から慢性的・構造的な課題へ移行した」と報告している。
米国 ― 「治療学的インターチェンジ」という長年の実務。 米国では、同じ薬効群の中で別の薬に置き換える「治療学的インターチェンジ(therapeutic interchange)」が、病院の薬事委員会(P&T委員会)を通じた実務として長く根づいている。地域薬局でも、薬剤師と処方医が結ぶ共同薬物治療管理契約(Collaborative Practice Agreement:CPA/CDTM)や州のプロトコルのもとで、薬剤師が薬物治療を調整できる。アーカンソー、アイダホ、ケンタッキーなど複数の州は、施設外の薬剤師にも「処方医へ24時間以内に通知する」といった条件付きで、より広い切替権限を与えている。後発品への置換に至っては、原則すべての州で薬剤師の自動的な裁量として認められている。
カナダ ― 州によっては「処方の書き換え」まで薬剤師の権限。 カナダのアルバータ州では、すべての薬剤師が処方を「アダプト(適合化)」できる。これには用量・剤形・レジメンの変更に加え、治療学的代替や処方の更新までが含まれ、さらに追加処方権限(APA)を取得した薬剤師は、専門領域内であれば独立して薬物治療を開始できる。ブリティッシュコロンビア州は2009年から、薬剤師が処方医の同意なしに処方をアダプトし同一薬効内で代替できる仕組みを運用してきた。連邦レベルでも、2025年の鎮痛薬などの長期不足を背景に、2026年10月から(州が認める範囲で)薬剤師が向精神薬等を治療学的に代替できるよう規則が改正される。ある論説は、カナダには英国のような「危機対応で薬剤師の裁量を一時的に広げる仕組み」が欠けている、と課題を指摘している――裏を返せば、それが世界の標準的な発想になりつつあるということだ。
これらに共通するのは、供給不安という圧力が、薬剤師を「棚から薬を出す人」から「患者にとって最適な治療の継続を判断する専門職」へと押し出しているという事実であり、必要に迫られた進化ある。
日本も同じ道を歩き始めている
日本の薬剤師は、これらの国々より一歩手前の段階にいる。しかし方向は同じだ。
厚生労働省は2024年3月15日の通知で、供給が逼迫した際の変更調剤について「当面の取扱い」を示した。やむを得ない場合には、薬剤料が高くなる変更や一部のグループ外別剤形への変更を認め、タミフルの脱カプセル調製に院内製剤加算を認めるといった、調剤上の工夫まで踏み込んだ。令和8年度改定では一般名処方がバイオ医薬品にも拡大され、入口の段階で銘柄を縛らない処方が広がりつつある。加えて、重複投薬・相互作用等防止加算に代わって調剤時残薬調整加算・薬学的有害事象等防止加算が新設され、「必要な薬を、必要な分だけ」へと調整する薬学的関与が評価されるようになった。プロトコルに基づく薬物治療管理(PBPM)の広がりも、この流れの一部である。
第一に、同一薬効への切り替えの提案。 日本の変更調剤は、原則として同一成分内(銘柄・規格・類似別剤形)にとどまる。成分そのものが異なる同一薬効の切替は、疑義照会・処方提案を通じた医師との連携が必要になり、難度は上がる。しかしこれこそ、英国のSSPが認める「治療学的代替」、米国の治療学的インターチェンジ、カナダの治療学的代替が担っている領域である。世界の薬剤師が制度的権限として行使している判断を、日本の薬剤師は医師連携を前提とした専門的提案として積み上げていく――ここに専門性の最前線がある。
第二に、その処方が患者に本当に必須かの判断。 需要そのものを問い直す視点は、どんな在庫戦略よりも本質的な供給対策になる。残薬調整・減薬を通じて「need のない薬を出さない」ことは、供給不安の根っこにある「過剰な需要」を現場で細くしていく行為だ。新設された残薬調整加算は、この判断を制度が後押しし始めた証左といえる。
第三に、入手ルートの関係性強化。 卸やメーカー、そして他薬局・医療機関との分譲ネットワークとの関係を平時から築いておくことは、不足時の"逃げ道"を確保することにほかならない。令和8年度改定では、流通改善ガイドラインの遵守(単品単価交渉の原則、頻回配送・急配依頼の抑制、返品の適正化)が施設基準に組み込まれ、取引の関係性そのものが制度要件となった。
第四に、患者サイドに立った判断力。 上記のいずれも、最後は患者への説明と合意形成に帰着する。切替の妥当性を患者の生活・病態から判断し、納得を得る力がなければ、制度上可能な対応も現場では動かない。英国のSSPが「薬剤師の専門的判断で妥当性を見極める」ことを条件に据えているのは、まさにこの一点の重要性を示している。
制度が「上流」と「下流」を同じ土俵に乗せた
見落としてはならないのは、こうした薬剤師の判断が、令和8年度改定によって収益とも直結した点だ。旧・地域支援体制加算と旧・後発医薬品調剤体制加算を統合した地域支援・医薬品供給対応体制加算(加算1〜5、27/59/67/37/59点)は、後発医薬品の使用割合85%以上を基礎に据えつつ、施設基準に「後発医薬品の品質・安定供給情報を収集・評価して採用を決定する体制」を求めた。
つまり「仕入れる相手の供給対応力を見極める」という上流の運営も、「供給不安時の対応や分譲」という下流の運営も、いまや同一の加算体系で評価される。
供給不安対応の巧拙は、現場負荷にも収益にも、そのまま効く構造になっていることに気付いて欲しい。利益にするために現場思考が変わっているのかが問われているのである。
ただし、薬剤師の判断は「医師の代替」ではない
強調しておきたい。世界のどの制度も、薬剤師の裁量を無条件に広げているわけではない。英国のSSPは保健当局の発出と薬剤師の妥当性判断を条件とし、米国のインターチェンジは薬事委員会や共同契約という枠組みと患者同意・処方医への通知を前提とする。カナダの各州も、患者の同意・記録・モニタリング計画・医師への連絡を求め、向精神薬や治療域の狭い薬などには除外を設けている。処方権を持つ医師が最終権限であることは、いずれの国でも動かない。
日本の変更調剤の柔軟化も、あくまで「やむを得ない場合」の当面措置である。だからこそ、薬剤師に求められるのは"独断で切り替える力"ではなく、医師との連携を前提に、患者にとっての最適解を専門的に判断し、記録と説明で支える力だ。それは対物業務の延長ではなく、対人業務の中核である。
最後に ― 供給不安は、薬剤師が本質へ回帰する試金石
供給の不安定さは、ある意味、小は念のため処方の改善から大は重要供給確保医薬品も含め必要とされる薬物療法の改革でもあり、当面続く前提で考えるほかない。しかし、それを単なる災難として受け身で処理し続けるのか、それとも薬剤師の専門性を発揮する機会として捉え直すのかで、薬局や薬剤師の未来は大きく変わる。
仕入れる相手を見極める・重要供給確保医薬品であるかを見極める「目」と、患者接点で治療の継続を判断する「力」。
この両輪を平時から設計しておくことが、供給不安の時代を生き抜く条件であり、同時に、薬剤師が「対物から対人へ」「need を判断する専門職へ」と進化していくための試金石でもある。
世界の薬剤師はすでにその道を歩いている。日本の薬剤師にとっても、医薬品供給体制というテーマは、専門性の本質を問い直す最良の入口なのだ。
参考資料
- 厚生労働省「医療用医薬品供給状況報告」「安定確保医薬品/供給確保医薬品」、PMDA「GMP適合性調査結果等の公表」ほか(供給状況・品質情報の公的確認先)
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要(調剤)」、保医発0305(令和8年3月5日)=地域支援・医薬品供給対応体制加算の点数・施設基準、流通改善ガイドライン遵守要件
- 厚生労働省 2024年3月15日通知(医薬品供給逼迫時における変更調剤の当面の取扱い)/令和8年度改定における一般名処方の拡大、調剤時残薬調整加算・薬学的有害事象等防止加算の新設
- 英国:Community Pharmacy England / NHS Specialist Pharmacy Service「Serious Shortage Protocols (SSPs)」、Human Medicines (Amendment) Regulations 2019、Royal Pharmaceutical Society「Medicines Shortages」政策文書、英国議会 House of Commons Library / APPG on Pharmacy 医薬品不足報告(2025年)
- 米国:CDC / American Pharmacists Association ほか「Collaborative Practice Agreements」「Therapeutic Interchange」解説、各州の薬剤師業務範囲に関する規定
- カナダ:Alberta College of Pharmacy「Navigating drug shortages」、Canadian Pharmacists Association「向精神薬の治療学的代替に関する連邦規則改正(2026年10月施行)」、BC / Ontario / Quebec 各州の処方アダプト・治療学的代替に関する規定