薬局の管理栄養士活用とビジネス展開②
管理栄養士の専門性を、どう事業に変えるか?
――健康増進支援薬局・海外モデル・地域連携から考える新しい収益構造

はじめに|「役に立つ」と「事業になる」の間にある壁
前回は、薬局の管理栄養士が専門性を十分に発揮できない背景を考えました。
管理栄養士を採用しても、専門業務の時間が確保されていなければ、栄養相談は増えません。
また、患者への価値があっても、その成果が記録されていなければ、経営者は継続的な投資を判断しにくくなります。
では、管理栄養士の専門性を持続可能な事業に変えるには、どうすればよいのでしょうか。
「栄養相談を有料にすればよい」という考え方もあるでしょう。
しかし、仮に30分3,000円の相談を月20件実施しても、売上は6万円です。
ここから人件費、準備時間、予約管理、記録、施設費などを差し引けば、必ずしも利益が残るとは限りません。
反対に、患者から直接料金を受け取らなくても、企業や保険者などから事業を受託する方法が考えられます。
重要なのは、最初に料金を決めることではありません。
誰の、どのような健康課題を解決し、その価値を誰が支えるのか。
この問いから事業を設計することです。
今回は、健康増進支援薬局の新しい認定制度、在宅栄養支援、海外事例、企業・保険者との連携を手がかりに、中小薬局が検討できる事業モデルを考えます。
第1章|2027年、健康増進支援薬局は何を変えるのか
2025年の薬機法改正を受け、健康増進支援薬局の認定制度が2027年5月20日から施行される予定です。
従来の健康サポート薬局の仕組みから、都道府県知事による認定制度へと移行します。
2026年6月30日には、健康増進支援薬局の認定基準などを定める厚生労働省令に関する通知が発出されました。
認定基準には、利用者が座って相談できる設備やプライバシーへの配慮、高齢者や障害者が利用しやすい構造などが含まれています。
また、医療機関、市町村保健センター、地域包括支援センター、介護サービス事業者などとの連携体制も重視されています。
さらに、薬剤師による必要に応じた受診勧奨や関係機関への紹介、その後の情報提供と記録、地域の関係機関と連携した健康増進支援活動の実績などが求められます。
ここで注意したいのは、制度の中心にあるのが薬局の体制と薬剤師の役割だということです。
管理栄養士を配置すれば認定を取得できる制度ではありません。
また、管理栄養士の配置が、認定に伴う新たな報酬を保証するものでもありません。
では、管理栄養士の活用と無関係なのでしょうか。
そうではありません。
薬局で住民の健康相談を受けた際、食事や栄養に関する課題が見つかることがあります。
その場合、管理栄養士が専門的な助言を行い、必要に応じて薬剤師や医療機関と連携する仕組みが考えられます。
ただし、法令で薬剤師に求められている薬学的判断や受診勧奨などを、管理栄養士が代替できるわけではありません。
認定取得そのものを目的とするのではなく、地域住民への健康支援を充実させるために、どのような専門職の協働が必要かを考えることが重要です。
第2章|在宅栄養支援は有望か。それとも採算が難しいのか
在宅医療では、薬の管理と食生活の問題が重なることがあります。
例えば、薬剤師が訪問した際、患者の食事量が以前より減っていることに気づいたとします。
本人は「年齢のせいだから」と考えているかもしれません。
しかし、体重減少、咀嚼・嚥下の問題、疾患、薬剤の影響、買い物や調理の困難さなど、さまざまな要因が考えられます。
このような場面で、薬剤師と管理栄養士が協働する意義はあります。
ただし、在宅栄養支援には、制度と事業の両面で課題があります。
介護保険の居宅療養管理指導には、管理栄養士による支援の仕組みがありますが、算定できる事業所、医師の指示、外部連携などの条件が定められています。
薬局に管理栄養士が勤務しているという理由だけで、その薬局が管理栄養士の居宅療養管理指導を直接算定できるわけではありません。
具体的な実施方法を検討する際には、どの事業所が算定主体になるのか、どのような契約・指示・記録が必要なのかを、現行の法令・通知で確認する必要があります。
また、今後の介護報酬改定に向けて検討されている事項を、既に認められた算定方法として扱うことはできません。
では、薬局の管理栄養士には役割がないのでしょうか。
むしろ、薬局が患者の生活上の問題に気づき、必要な支援へつなぐことには意味があります。
例えば、薬剤師が食事量の変化を把握し、管理栄養士が栄養面の課題を整理する。
必要に応じて主治医、訪問看護師、ケアマネジャー、栄養ケア・ステーションなどと連携する。
このような仕組みです。
ただし、連携したこと自体が薬局の売上になるわけではありません。
在宅栄養支援を事業化するには、訪問時間、移動費、記録、関係機関との調整、報酬や契約の仕組みを含めて検討する必要があります。

第3章|米国では、栄養支援に誰がお金を払っているのか
海外の事例から学べることは、栄養相談の料金だけではありません。
重要なのは、専門サービスの支払者がどのように設計されているかです。
米国の公的医療保険Medicareでは、一定の条件を満たす人に対して、医療栄養療法(Medical Nutrition Therapy:MNT)が給付対象となっています。
対象となるのは、糖尿病や腎疾患がある人、過去36か月以内に腎移植を受けた人などで、医師による紹介が必要です。
サービスは登録栄養士など所定の資格要件を満たす専門職が提供します。
原則として、初年度は3時間、その後は暦年ごとに2時間のフォローアップが対象となり、一定の条件では追加時間が認められる場合があります。
給付条件を満たす利用者の自己負担はありません。
この仕組みは、栄養支援の価値を患者本人の自費負担だけに依存させない例として参考になります。
ただし、米国の制度をそのまま日本に導入できるわけではありません。
保険制度、資格制度、医療機関との関係、報酬体系が異なるためです。
米国の食品小売企業Hy-Veeなども、栄養相談を含む健康支援サービスを展開しています。
こうした事例は、日常の買い物や健康相談の接点を栄養支援に結びつける方法を考える材料になります。
一方、サービスが存在することと、その事業が単独で黒字であることは別です。
企業の栄養相談事業について、原価、契約継続率、利益率まで公開されているとは限りません。
したがって、「海外では栄養相談で利益が出ている」と一般化することはできません。
海外から学ぶべきなのは、料金表ではなく、対象者、サービス、支払者、提供体制を組み合わせる事業設計です。
第4章|薬局で検討できる4つの事業モデル
薬局の管理栄養士を活用した事業は、大きく4つの方向から検討できます。
① 店舗型|個別栄養相談を継続支援につなげる
店舗での栄養相談を、単発の助言で終わらせず、初回評価、目標設定、継続支援、再評価へとつなげるモデルです。
例えば、食生活の改善を希望する患者に対して、生活環境を踏まえた支援計画を作成する方法が考えられます。
ただし、保険診療や薬学的管理に含まれる業務との区分を明確にする必要があります。
自費サービスを検討する場合も、料金を設定すれば必ず実施できるわけではありません。
患者誘引に関する規制、費用徴収の妥当性、保険調剤との区分などを確認する必要があります。
② 在宅連携型|低栄養や食生活の問題に対応する
在宅患者の食事量、体重変化、食事環境などの課題を把握し、必要な専門職につなぐモデルです。
薬剤師が訪問時に気づいた問題を、管理栄養士や医療・介護関係者と共有することで、患者の生活に合わせた支援を検討できます。
ただし、訪問栄養指導の算定には制度上の条件があり、薬局独自の判断で報酬を請求できるわけではありません。
また、移動時間や連携業務が増えるため、費用対効果を慎重に評価する必要があります。
③ BtoB型|企業・保険者向け健康支援
企業の健康経営支援や保険者の特定保健指導などを検討するモデルです。
患者本人がその都度料金を支払うのではなく、企業や保険者との契約によってサービスを提供する仕組みが考えられます。
ただし、特定保健指導には実施基準や委託条件があります。
管理栄養士を配置しているだけで受託できるわけではありません。
また、企業向けサービスでは、参加者数だけでなく、契約先が求める成果、個人情報の取扱い、実施体制、費用を明確にする必要があります。
④ 地域連携型|自治体・学校・地域団体と協働する
自治体の健康事業、食育教室、地域の健康イベントなどに参画するモデルです。
薬局の立地や地域との関係を活かせる可能性があります。
しかし、イベントを開催したことだけで事業が成功したとは言えません。
参加者の課題に対応できたか、必要な支援につながったか、継続的な依頼があるか、実施費用をどのように負担するかを確認する必要があります。
また、保険薬局が実施する無料サービスや物品提供については、患者誘引や経済上の利益提供などの規制との関係を検討しなければなりません。
無料だから適法、有料だから適法、という単純な判断はできません。
どのモデルについても、患者への価値、支払者、契約・法令上の条件、採算性をセットで検討することが重要です。
第5章|「30分3,000円」で採算は合うのか
管理栄養士の栄養相談を事業化する場合、料金だけで採算を判断することはできません。
ここでは、あくまで説明用の仮定として試算してみます。
30分3,000円の相談を、月20件実施するとします。
1件当たりの変動費相当を2,200円、月間固定費を20,000円と仮定します。
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項目 |
月間試算 |
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相談件数 |
20件 |
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相談単価 |
3,000円 |
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売上 |
60,000円 |
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変動費相当 |
44,000円 |
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固定費 |
20,000円 |
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試算損益 |
▲4,000円 |
※実在する薬局の料金や原価を示したものではありません。変動費相当には相談時間・準備時間に対応する人件費等を含む想定で、固定費には同じ費用を重複計上しません。
この場合、1件当たりの限界利益は800円です。
月間固定費20,000円を回収するには、25件の相談が必要になります。
つまり、この仮定での損益分岐点は月25件です。
ただし、25件の予約が確保できるかは別の問題です。
また、相談件数が増えることで準備時間や管理業務が増えれば、費用構造も変わります。
事業化を考える際には、次の点を確認する必要があります。
- 継続的な相談需要があるか
- 管理栄養士の専門業務時間を確保できるか
- 相談の準備・記録・予約管理を効率化できるか
- 料金や契約条件が法令上適切か
- 患者への価値を説明できるか
相談単価を上げることだけが解決策ではありません。
予約方法や業務の流れを見直すこと、複数店舗で専門職を活用すること、企業や保険者との契約を検討することなども選択肢になります。
ただし、複数店舗での兼務には移動や管理上の負担があり、BtoB契約にも営業・契約管理コストが発生します。
どの方法が有利かは、自薬局の条件によって異なります。

第6章|GLP-1関連薬剤の普及は新しい機会になるのか
近年、糖尿病や肥満症の治療で使用されるGLP-1受容体作動薬などが注目されています。
こうした薬剤を使用する患者では、薬物療法の管理に加え、食生活や栄養状態への配慮が重要になる場合があります。
例えば、食欲や食事量の変化が生じた場合、薬剤師が副作用や服薬状況を確認し、管理栄養士が食生活に関する支援を検討することが考えられます。
ただし、GLP-1関連薬剤には製剤ごとに適応や使用条件の違いがあります。
糖尿病治療薬としての使用と、肥満症治療薬としての使用を混同してはいけません。
また、薬局が独自に肥満症治療プログラムを提供できると考えるべきではありません。
医師による診断と治療方針を前提に、薬剤師が薬学的管理を行い、管理栄養士が必要な栄養支援を担うという役割分担が重要です。
海外では薬物療法と栄養支援を組み合わせる取り組みも見られます。
しかし、それが日本の薬局で採算の合う事業になるかは、現時点で確認できません。
新しい薬剤の登場を、そのまま新しい収益源の確立と結びつけるのではなく、患者に必要な支援と制度上の条件を確認する必要があります。
第7章|中小薬局は大企業を真似する必要があるのか
大手ドラッグストアや調剤チェーンでは、管理栄養士による健康相談やオンライン相談などを展開する例があります。
しかし、中小薬局が同じ規模で事業を行うことは難しい場合があります。
だからといって、中小薬局に可能性がないわけではありません。
例えば、糖尿病患者が多い薬局では、薬剤師と管理栄養士の協働による食生活支援を検討できます。
在宅患者が多い薬局では、食事量の変化や低栄養リスクへの気づきと、地域の専門職への連携が重要になるかもしれません。
小児科に近い薬局では、乳幼児の食生活に関する相談ニーズを調べることができます。
企業が多い地域では、働く世代の健康支援が候補になる可能性があります。
ただし、立地や患者層だけで事業の需要があると決めつけることはできません。
地域に既にあるサービス、患者の希望、連携先の意向、実施費用などを調べる必要があります。
中小薬局が目指すべきなのは、大企業の事業を小さくして模倣することではなく、自薬局の特徴に合わせて事業を設計することではないでしょうか。
第8章|最初の90日で検証したいこと
新しい事業を始める際には、最初から大きな投資をする必要はありません。
まずは90日間を検証期間として、次のように進める方法が考えられます。
最初の30日|地域と患者の課題を調べる
患者構成、相談内容、管理栄養士の業務時間、地域の既存サービスを整理します。
どの健康課題に対応するのかを一つに絞り、事業として取り組む必要性を検討します。
31〜60日|小さく試す
薬剤師から管理栄養士への紹介、相談、記録、必要なフォローアップの流れを試します。
事前に、医療機関への紹介基準、個人情報の取扱い、費用徴収の有無、関係する法令を確認します。
制度上の問題が解消されない場合は、事業開始を見送ります。
61〜90日|成果と費用を評価する
相談件数だけでなく、紹介率、継続率、患者の反応、業務時間、費用を確認します。
また、支援を必要とする患者に適切なサービスが届いたかを評価します。
90日で黒字化することが目的ではありません。
継続、改善、中止のいずれを選ぶべきか判断できる情報を集めることが目的です。
筆者の私見|薬局の価値は「個別最適化」にある
ここからは、私自身の考えです。
私は、管理栄養士の専門性を薬局経営に活かすために、必ずしも大規模な新規サービスをつくる必要はないと考えています。
むしろ、薬局がすでに持っている患者との関係、薬剤師の専門性、地域の医療機関との連携、立地などを見直すことが重要ではないでしょうか。
例えば、同じ栄養相談でも、糖尿病患者が多い薬局と、在宅高齢者が多い薬局では、求められる内容が異なります。
一律の栄養相談メニューを全店舗に導入することが、最適な戦略とは限りません。
私は、保険調剤のように共通ルールに従う業務は標準化しながら、患者や地域への価値提供は個別最適化することが、中小薬局の強みになると考えています。
管理栄養士は、その個別最適化を支える重要な専門職の一つになり得ます。
しかし、専門性があることだけでは事業になりません。
患者に必要とされ、地域から信頼され、適切な費用負担の仕組みがあり、継続できること。
この条件がそろって初めて、専門性を持続可能な事業に変えることができます。
管理栄養士を単なる人件費として見るのでも、配置すれば新しい収益が生まれると期待するのでもなく、薬局が地域でどのような価値を生み出すのかという経営戦略の中で、その役割を考えるべきだと思います。
管理栄養士の活用は、人材配置の問題であると同時に、薬局の価値をどう事業化するかという経営戦略の問題でもあるのです。
おわりに|管理栄養士を増やす前に、事業の設計を変える
管理栄養士の専門性は、患者の栄養課題を発見し、生活に合わせた支援を行い、地域の医療・介護・健康支援につなぐために役立つ可能性があります。
しかし、その可能性が自動的に利益になるわけではありません。
これから薬局が考えるべきことは、管理栄養士を何人採用するかだけではなく、どのような健康課題を解決し、誰と協働し、どのように成果を評価し、どう継続させるかです。
経営者には事業を設計する責任があります。
管理者には現場で実行できる仕組みを整える役割があります。
管理栄養士には、専門性を患者の生活に役立つ支援へ変換し、成果を伝える役割があります。
まずは自薬局の患者と地域を見直し、解決したい課題を一つ選ぶことから始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
- 厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令の公布について」(令和8年6月30日)。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00td0356&dataType=1 - 厚生労働省「健康増進支援薬局の認定制度」解説。
https://www.mhlw.go.jp/stf/web_magazine/closeup/62.html - 厚生労働省・社会保障審議会介護給付費分科会「居宅療養管理指導」関連資料。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001760336.pdf - 日本栄養士会「栄養ケア・ステーション」。
https://www.dietitian.or.jp/carestation/ - 米国Medicare「Medical Nutrition Therapy
Services」。
https://www.medicare.gov/coverage/medical-nutrition-therapy-services - Hy-Vee「Dietitian Services」。
https://www.hy-vee.com/health/dietitians - 協会けんぽ兵庫支部「特定保健指導」。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/hyogo/health_guidance/004/index.html
※制度に関する記述は2026年10月31日時点の確認範囲に基づきます。事業実施時には、最新の法令、通知、自治体の運用、契約条件を確認してください。
👉【note版】:薬局の管理栄養士活用とビジネス展開|第2回 「管理栄養士の専門性を、どう事業に変えるか?」――薬局経営で考えたい4つのモデル









