10/31/2026

薬局の管理栄養士活用とビジネス展開① 「管理栄養士は利益を生まない」は本当か?――専門性が埋もれる薬局の構造と、活躍のシナリオ

 薬局の管理栄養士活用とビジネス展開①

「管理栄養士は利益を生まない」は本当か?

――専門性が埋もれる薬局の構造と、活躍のシナリオ

はじめに|管理栄養士を採用した。その先は?

「管理栄養士を採用したけれど、栄養相談が増えない」

「専門性を活かしてほしいのに、調剤事務の仕事が中心になっている」

「健康イベントは開催しているが、経営的な成果が見えない」

薬局で管理栄養士を活用しようとすると、こうした課題に直面することがあります。

一方、管理栄養士自身にも、「栄養相談に時間を使えない」「自分に何を期待されているのか分からない」という悩みがあるでしょう。

では、管理栄養士は薬局で利益を生み出せないのでしょうか。

この問いには、二つの問題が混在しています。

一つは、管理栄養士が患者や地域にどのような価値を提供できるのか。

もう一つは、その価値を持続可能な活動や事業にできるのか、という問題です。

患者の健康に役立つ活動でも、実施するための人件費や時間が必要です。逆に、直接の売上が小さくても、地域住民の健康支援や医療機関との連携に意義がある活動もあります。

専門性があることと、その専門性を活かす仕組みがあることは違います。

今回は、国内の研究と公的統計を手がかりに、薬局の管理栄養士が抱える課題を整理し、経営者・管理者・管理栄養士それぞれに必要な役割を考えます。

第1章|「管理栄養士がいる」と「活躍している」は違う

薬局やドラッグストアで、管理栄養士を採用・配置する取り組みは以前から行われています。

しかし、管理栄養士が在籍していることだけで、専門性が十分に活用されているとは言えません。

堀由美子らが2021年に発表した研究「保険薬局・ドラッグストアに勤務する管理栄養士・栄養士の配置状況と就業の実態」は、この問題を考えるうえで参考になります。

研究では、2019年11月に開催された薬局管理栄養士研究会の参加者153人、67企業を対象に質問紙調査を実施しました。有効回答率は96.1%でした。

回答者の多くは若年層で、薬局事務を担いながら栄養相談やセミナー・イベントなどを行っていました。

自由記述の分析からは、専門業務に専念する時間、地域社会や患者との関係、知識・経験、他職種との連携などが課題として抽出されています。

研究では、業務バランス、専門性と職務内容、業務生産性、他職種との関係、地域社会との関係という視点から課題が整理されています。

この結果から読み取れるのは、管理栄養士の活躍を妨げる要因が、本人の知識や意欲だけでは説明できないということです。

例えば、午前中は調剤事務、午後も受付対応や会計を担当している場合、栄養相談を実施したくても時間を確保できないかもしれません。

また、薬剤師が栄養相談を必要とする患者に気づいても、管理栄養士へ紹介する仕組みがなければ、相談にはつながりません。

ただし、この研究は研究会参加者を対象とした調査です。全国の薬局に勤務する管理栄養士全体を代表するものではありません。

それでも、薬局が管理栄養士を活用する際に検討すべき組織的な課題を示しています。

管理栄養士の配置人数を議論する前に、専門業務を実施できる時間と役割があるかを確認する必要があります。

第2章|栄養相談が増えないのは、需要がないからか

管理栄養士を配置しても相談件数が増えない場合、経営者は「需要がないのではないか」と考えるかもしれません。

しかし、相談件数が少ないことと、相談ニーズが存在しないことは同じではありません。

患者が薬局に管理栄養士がいることを知らない場合もあります。

また、「栄養相談」という言葉だけでは、何を相談してよいか分からない可能性があります。

例えば、糖尿病の患者にとっての困りごとは、栄養素の知識不足だけとは限りません。

「仕事が不規則で、決まった時間に食事を取れない」

「家族と同じ食事をしたいが、どこまで気をつければよいか分からない」

「外食が多く、具体的に何を選べばよいか困っている」

このような生活上の問題かもしれません。

高齢者では、食欲低下、買い物の負担、調理の困難さ、独居など、別の課題があるでしょう。

こうした問題に対して、薬局が単に「栄養相談を受け付けています」と掲示するだけでは、十分な相談につながらない可能性があります。

必要なのは、患者が自分の問題として理解できる具体的な問いかけです。

「最近、体重が減っていませんか?」

「食事の準備で困っていることはありませんか?」

「薬を飲む時間と食事の時間が合わず、困っていませんか?」

もちろん、すべての患者に栄養相談を勧める必要はありません。

本人の希望を確認し、医学的な評価が必要な場合は医師につなぐことが前提です。

ここで経営者が考えるべきことは、相談メニューを増やすことではなく、どの患者の、どのような問題を解決するサービスなのかを明確にすることです。

第3章|日本の栄養課題は「食べ過ぎ」だけではない

薬局の健康支援というと、肥満や生活習慣病への対応を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし、日本には低栄養や「やせ」という課題もあります。

厚生労働省の令和6年国民健康・栄養調査では、20〜30歳代女性のうち、BMI18.5未満の「やせ」に該当する人の割合は16.6%でした。

また、65歳以上でBMI20以下の「低栄養傾向」に該当する人の割合は19.5%でした。

一方、食塩摂取量の平均値は9.6gであり、健康日本21(第三次)の目標値7gを上回っています。

これらの数値は、日本の栄養課題が一つの方向に限られないことを示しています。

ただし、BMIによる「やせ」や「低栄養傾向」は、医学的な低栄養の確定診断ではありません。

また、肥満や過剰摂取の問題と、やせや低栄養の問題が社会全体に併存することを、そのまま個人の「栄養不良の二重負荷」と同一視することも適切ではありません。

重要なのは、対象者によって必要な支援が異なることです。

例えば、若い女性では適正体重や栄養摂取の支援が必要な場合があります。

働き盛りでは、食塩摂取や生活習慣病リスクへの対応が課題になることがあります。

高齢者では、体重減少、食欲低下、咀嚼・嚥下の問題、フレイルなどへの配慮が重要になる場合があります。

さらに、腎疾患、心不全、糖尿病などの患者では、病態や治療方針によって栄養管理の内容が異なります。

同じ「健康のための食事」でも、全員に同じ助言をすればよいわけではありません。

薬局の管理栄養士が担える可能性があるのは、こうした個別の課題を把握し、必要に応じて薬剤師や医療機関と連携しながら、生活に合わせた支援を行うことです。

第4章|薬剤師と管理栄養士が協働すると何が変わるか

薬剤師と管理栄養士の協働には、どの程度の可能性があるのでしょうか。

2022年に公表された国内のパイロット研究では、地域薬局で薬剤師と管理栄養士が協働し、2型糖尿病患者への支援を6か月間実施しました。

研究では9人が参加し、8人が支援期間を完了しました。

その8人について、HbA1cの平均値は開始時7.26%から6か月後6.63%へ低下したと報告されています。

ここで注意が必要です。

この研究は、対照群のない単群前後比較です。

対象者数も8人と少なく、薬物療法の変更や患者本人の行動変容など、他の要因の影響を除外できません。

したがって、この研究だけで「薬局に管理栄養士を配置すると血糖コントロールが改善する」と結論づけることはできません。

それでも、薬剤師と管理栄養士が情報を共有しながら、継続的な患者支援を実施できる可能性を示した点は参考になります。

薬剤師は薬物療法を評価し、管理栄養士は食生活や栄養面から支援する。

その情報を共有することで、患者の生活に合わせた支援を考えやすくなる可能性があります。

ただし、実際に効果があるかを確認するためには、より大規模で適切な比較研究が必要です。

薬局で実践する場合も、相談件数だけでなく、患者の行動変容、支援継続率、医療機関への紹介、必要に応じた臨床指標などを評価することが重要です。

第5章|なぜ専門性が経営成果につながらないのか

管理栄養士が栄養相談や健康イベントを行っても、その成果が経営者に十分伝わらない場合があります。

理由の一つは、活動と成果の関係が整理されていないことです。

例えば、健康イベントを月に1回開催したとします。

参加者が30人いたとしても、その数字だけでは事業の成果を判断できません。

l  参加者はどのような健康課題を抱えていたのでしょうか。

l  相談後に必要な医療や健康支援につながった人はいたのでしょうか。

l  管理栄養士や薬剤師は何時間を使い、費用はいくらかかったのでしょうか。

l  継続することで地域住民や薬局にどのような価値が生まれるのでしょうか。

これらを把握しなければ、活動の意義を説明することも、改善することも難しくなります。

ただし、すべての活動を直接の売上だけで評価するべきではありません。

患者の安全、健康支援、地域との信頼関係など、金銭換算が難しい成果もあります。

一方、社会的に意義がある活動だからといって、費用や人員配置を無視して継続することもできません。

必要なのは、少なくとも次の3つを分けて評価することです。

① 患者・地域への価値

患者の困りごとの解決、適切な医療への紹介、生活改善への支援など。

② 業務上の成果

相談件数、紹介率、継続率、業務時間、他職種との情報共有など。

③ 経営上の成果

売上、費用、契約継続、人的資源の活用、事業の持続可能性など。

この3つを混同すると、管理栄養士の活動を過大評価することも、過小評価することも起こり得ます。

第6章|経営者・管理者・管理栄養士の役割を整理する

管理栄養士の活用を進めるには、専門職本人の努力だけでは不十分です。

経営者には、事業としての目的を明確にする役割があります。

l   地域住民への健康支援を強化したいのか。

l   糖尿病患者の生活支援を充実させたいのか。

l   在宅患者の栄養課題に対応したいのか。

l   企業や保険者との健康支援事業を検討したいのか。

目的によって、必要な体制や投資は異なります。

管理者には、現場で実行できる業務の流れを整える役割があります。

例えば、薬剤師が栄養相談を必要とする患者に気づいた場合、誰に、いつ、どのように紹介するかを決めておくことです。

管理栄養士には、専門知識を患者の生活に合わせた具体的な支援へ変換する役割があります。

また、相談結果を記録し、必要に応じて薬剤師や他職種に伝えることも重要です。

ここで注意したいのは、管理栄養士一人に新規事業の企画、集客、収益管理まで任せてしまうことです。

事業設計には、専門知識だけでなく、経営、契約、法令、費用管理などの知識が必要です。

管理栄養士が専門性を発揮できる環境を整えることは、組織の責任でもあります。

第7章|自分の薬局で、今月確認したい5つのこと

管理栄養士を活用した新しい取り組みを始める前に、まず現状を把握してみてください。

1.対象となる患者を明確にする

自薬局で多い栄養課題は何か。慢性疾患、在宅高齢者、子育て世代など、具体的な対象者を整理します。

2.専門業務に使える時間を調べる

管理栄養士が週に何時間、栄養相談や地域連携に使えるのかを確認します。

3.薬剤師からの紹介ルートを決める

どのような場合に栄養相談を提案し、医療機関への紹介を優先するのかを整理します。

4.成果を記録する

相談件数だけでなく、相談内容、継続支援、紹介、業務時間などを記録します。個人情報の管理と本人の同意に配慮します。

5.費用と価値を分けて評価する

直接の収益だけでなく、患者への価値と業務上の成果を確認し、継続する理由を明確にします。

最初から大規模な事業を始める必要はありません。

一つの対象者、一つの健康課題、一つの紹介ルートから始めることが現実的です。

筆者の私見|管理栄養士に足りなかったのは「活躍のシナリオ」ではないか

ここからは、私自身の経験に基づく考察です。

私は以前、ドラッグストアの経営に携わり、その後、医薬品卸で薬局経営支援や地域健康事業に関わってきました。

ドラッグストア時代には、管理栄養士とともに、自治体の栄養相談、巡回健康フェア、骨強度測定会、赤ちゃん相談会、幼稚園での食育教室などに取り組みました。

その後も、市町村単位の健康フェア、薬局向けの健康事業提案、管理栄養士の教育支援などに関わってきました。

こうした経験から感じるのは、管理栄養士に「何か活動してほしい」と求めるだけでは、十分な成果につながりにくいということです。

例えば、赤ちゃん相談会は、子育て世代が抱える不安に応える機会です。

幼稚園での食育教室は、園児や保護者が食生活を考える接点になります。

地域の健康フェアは、普段は薬局に相談しない住民と出会う機会にもなります。

つまり、先に地域の課題や対象者を考え、その解決に管理栄養士の専門性を組み込むという順序でした。

ただし、これらの活動すべてについて、収益性や長期的な健康成果が検証されているわけではありません。

経験として得られた手応えと、客観的に確認された成果は区別する必要があります。

私は、管理栄養士の能力を問題にする前に、薬局側が専門性を活かすシナリオを十分に設計してきたのかを考えるべきだと思っています。

管理栄養士が活躍できないのではなく、活躍できる仕組みが十分に用意されていないのではないか。

この問いを、経営者にも管理者にも、そして管理栄養士自身にも考えていただきたいと思います。

おわりに|次回は「事業として成立させる条件」を考える

管理栄養士の専門性は、患者や地域の健康支援に役立つ可能性があります。

しかし、その可能性が自動的に経営成果へつながるわけではありません。

必要なのは、対象者、業務の流れ、成果の評価、費用負担を含む仕組みです。

次回は、2027年に始まる健康増進支援薬局の認定制度、在宅栄養支援、海外事例、企業・保険者向けサービスを手がかりに、専門性を持続可能な事業に変える条件を考えます。


参考資料

  1. 堀由美子ほか「保険薬局・ドラッグストアに勤務する管理栄養士・栄養士の配置状況と就業の実態」『栄養学雑誌』79巻4号、242–252頁、2021年。
    https://doi.org/10.5264/eiyogakuzashi.79.242
  2. 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査報告」。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r6-houkoku_00001.html
  3. 厚生労働省「令和6年『国民健康・栄養調査』の結果」(2025年12月2日)。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66279.html
  4. 厚生労働省「健康日本21(第三次)推進専門委員会」関連資料。
    https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001707754.pdf
  5. “A pilot study of Pharmacist-Dietician Collaborative support and Advice (PDCA) for patients with type 2 diabetes in community pharmacy: A single-arm, pre-post study.” 2022年。
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9296081/

※研究対象・研究デザインの限界を踏まえて記述しています。筆者の経験は独立した私見として掲載しています。

👉【note版】:薬局の管理栄養士活用とビジネス展開|第1回 「管理栄養士は利益を生まない」は本当か?――薬局で専門性が埋もれる理由


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