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10/31/2026

薬局の新規事業は、小さく試してから決める 失敗を大きくしない事業検証と、継続・改善・撤退を判断するKPIの作り方 薬局ビジネス研究|第5部

 薬局の新規事業は、小さく試してから決める

失敗を大きくしない事業検証と、継続・改善・撤退を判断するKPIの作り方

薬局ビジネス研究|第5部

情報基準日:2026年10月30日

30秒要約

薬局の新規事業は、計画を立てただけでは成功するか分かりません。重要なのは、顧客の課題、支払意思、薬局の提供能力を、本格投資の前に確認することです。最初からサービスを無償提供する必要はありません。顧客調査、価格提示、費用試算から始め、条件が整った場合に限定的な提供へ進みます。本稿では、事業モデルごとの検証方法、KPI、継続・改善・撤退の判断を整理します。


はじめに|「やってみなければ分からない」。でも、いくらまでなら試せる?

「地域の企業に健康支援サービスを提供してみたい」

「薬局の専門性を生かした物販を始めたい」

「在宅医療で培った経験を、新しいサービスにつなげられないだろうか」

薬局の新規事業を考えていると、さまざまな可能性が見えてきます。

前回の第4部では、薬局の強み、地域の需要、収益性、実現可能性をもとに、7つの事業モデルを比較しました。

第4部の7問で「小規模に実証」と判断した候補について、どう試し、試した結果をどう判断するか。それが今回のテーマです。

いきなり設備を購入する。専任者を採用する。商品を大量に仕入れる。

その前に、確かめられることがあります。

顧客は本当に困っているのか。お金を払う人はいるのか。自局は無理なく提供できるのか。

第4部の判断は「試すかどうか」。第5部の判断は「試した結果、続けるかどうか」です。

第1章|「需要がありそう」と「買ってくれる」は違う

新規事業の企画書には、魅力的な言葉が並びます。

「高齢化による健康支援ニーズの増加」

「予防医療への関心の高まり」

「薬剤師の専門性を活用した新たな収益機会」

しかし、市場全体に需要があることと、自局のサービスを顧客が購入することは別問題です。

例えば、近隣に中小企業が多いからといって、企業向け健康支援サービスが売れるとは限りません。

すでに別の専門職や外部事業者に委託しているかもしれません。課題があっても、予算を確保できない可能性もあります。

最初に確認したいのは、次の4点です。

  • 顧客が具体的に困っていること
  • 現在の解決方法と、その不満
  • 新しいサービスへの支払意思
  • 自局が継続して提供できる条件

この4点を、次章では「課題」「支払意思」「提供能力」の3つの仮説に整理します。

第2章|最初に検証する3つの仮説

仮説①:本当に解決したい課題があるか

顧客が「良いサービスですね」と言っても、それだけでは需要が確認できたとはいえません。

企業の担当者には、まず次のように聞いてみます。

「従業員の健康について、何に困っていますか?」

「現在は、どのように対応していますか?」

「今の方法では、何が解決できていませんか?」

サービスを売り込む前に、相手の課題を理解することが目的です。

仮説②:対価を支払う意思があるか

サービスを利用する人と、料金を支払う人は同じとは限りません。

従業員が健康教育を受けても、費用を負担するのは企業かもしれません。

「導入を決めるのは誰ですか?」

「現在、この課題にどの程度の費用をかけていますか?」

「見積書を提出した場合、社内で検討できますか?」

こうした質問で、関心と購買行動を区別します。

「興味がある」は契約ではありません。見積依頼、社内検討、契約という段階を分けて記録します。

仮説③:薬局が継続して提供できるか

契約が取れても、通常の調剤業務に支障が出るようでは続けられません。

例えば、企業向け健康教育について、初回教材準備に3時間、実施に1時間、移動・記録に2時間かかると仮定します。

薬剤師の時間単価を仮に3,200円とすると、初回の労働時間の評価額は次のとおりです。

作業

時間

評価額

初回教材準備

3時間

9,600円

実施・移動・記録

3時間

9,600円

初回合計

6時間

19,200円

同じ教材を再利用できれば、2回目以降の評価額は1回9,600円になります。ただし、企業ごとに教材を作り直す場合は、その準備時間を追加します。

第4部の在宅・介護連携(③-B)の試算では、同じ19,200円を費用として差し引く保守的な計算を示しました。ただし、こちらは施設向けサービスの事例であり、本稿の企業向け健康教育とは異なる事業です。

時間の評価額と実際の現金支出は、区別する必要があります。

人員の使い方

経営上の確認点

勤務時間内の空き時間を使う

追加支出は小さくても、他の業務を圧迫しないか

時間外労働で対応する

残業代や法定の割増賃金など、実際の追加支出

代替人員を配置する

代替人員の人件費と配置可能性

時間単価3,200円は説明用の仮定値です。自局で試算する場合は、給与や法定福利費等の算入範囲を統一してください。

また、時間の評価額を事業費用に含めた場合、同じ人件費を別の費用項目に重ねて計上しないようにします。

第3章|7つの事業モデルは、検証方法も違う

第4部の7分類について、今回は「最初の検証行動」と「記録する数字」に絞ります。

事業モデル

最初の検証方法

記録する数字

① 健康相談・予防支援

対象者の困りごとと支払者を聞く

有効面談数、見積依頼数

② 専門薬剤師サービス

専門的な支援ニーズと提供条件を調べる

相談先数、必要な専門人材時間

③ 在宅・介護連携支援

連携先の課題と既存業務との区分を確認する

課題確認件数、追加負担時間

④ 企業向け健康支援

企業担当者へのヒアリングと価格提示

有効面談数、見積依頼数、契約数

⑤ 生活支援・地域拠点

地域の利用者・提携候補に課題を聞く

利用希望、提携条件、運営時間

⑥ デジタル継続支援

操作性、必要機能、契約条件を検討する

必要機能数、運用時間、見積額

⑦ 専門性を生かした物販

少量の販売計画と仕入条件を検討する

想定粗利益、最低発注量、在庫負担

この段階では、必ずしも実際のサービス提供まで進む必要はありません。

まず、ヒアリングや見積り、制度確認によって、実施に進む価値があるかを判断します。

高齢者施設等への提供には特に注意する

2026年6月23日の厚生労働省事務連絡では、高齢者施設等への経済上の利益の提供による患者誘引について、具体的な取扱いが明確化されました。

患者紹介の対価であることを否定できない場合の経済上の利益の提供が問題となります。施設に備え付ける配薬カートや調剤棚、施設が使用する配薬支援・見守りシステムなどを薬局の負担で提供する行為について、取扱いが明示されています。

同日時点で既に継続的な費用負担を行っていた行為には、2027年5月31日までの経過措置が示されています。

患者ごとに用意する服薬カレンダーや服薬ボックスは、薬剤師が服薬管理指導業務の一環として必要と判断した場合に限り、薬局の負担で手配しても、この事務連絡でいう経済上の利益の提供には該当しないとされています。

ここでいう高齢者施設等には、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホームなどが含まれます。

ただし、患者紹介の対価となる経済上の利益の提供の禁止は、これらの施設だけに限定されるものではなく、事業者やその従業員との関係にも及びます。

したがって、施設向けのサービスを試す際は、無償か有償かだけでなく、施設との関係、薬局の費用負担、患者紹介との関連、提供物の用途を確認する必要があります。

「少額でも料金を受け取れば問題ない」と考えることはできません。

保険調剤と保険外サービスを混同しない

既存の保険調剤に含まれる業務と、独立した保険外サービスは区別します。

厚生労働省の「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」では、対象となる費用徴収について、内容と料金の掲示、事前の説明、内容と料金を明示した文書への署名による同意確認、区分が分かる領収証などの手続が示されています。

保険給付に含まれるサービスを、別の名称で追加請求することはできません。

企業向け支援・物販でも個別確認が必要

企業向け健康支援では、産業医等の職務との役割分担を確認します。

産業医の選任義務は原則として常時50人以上の労働者を使用する事業場にありますが、50人未満でも健康管理上の課題がなくなるわけではありません。

産業医の職務には健康教育や健康相談が含まれます。また、50人未満の事業場は、地域産業保健センターで健康相談などを無料で受けられる場合があります。

薬局が企業向けサービスを企画する場合、こうした既存の支援を調べ、代替ではなく補完できる役割を検討します。医師による診断等を薬剤師サービスで置き換えることはできません。

物販では、医薬品の販売区分、健康食品等の広告・表示、調剤への不適切な誘引に当たらない販売方法を確認します。

なお、一部負担金に応じたポイント付与など、患者本人に対する経済上の利益の提供については、同じ2026年6月23日付の別の事務連絡で取扱いが示されています。

第4章|KPIは、売上より先に「次の判断」を教えてくれる

新規事業では、売上だけを見ても、続ける価値があるかは分かりません。

試行段階では、まず顧客の課題と支払意思を確かめます。

検証段階

KPI

判断したいこと

課題確認

有効なヒアリング件数

顧客の課題が具体的か

需要検証

課題を確認できた顧客数

提案を進める価値があるか

支払意思

見積依頼数・社内検討件数

購入の検討が始まったか

契約

有償契約数

実際に購入されたか

提供能力

1件当たりの実働時間

通常業務と両立できるか

収益性

1件当たりの採算

提供するほど赤字が増えないか

継続性

2回目の実施依頼

継続利用の可能性があるか

本格展開後

再契約率・損益分岐点

事業として持続できるか

安全・品質

事故・苦情・是正措置

安全に運営できるか

ここでいう「有効なヒアリング」とは、担当者等から具体的な課題と現在の対応方法を聞き取れた面談です。

単に名刺交換をした件数や、「興味があります」という回答数ではありません。

利益の計算は、段階を分ける

会計上の限界利益は、売上から提供件数に応じて増える変動費を差し引いた金額です。

固定費は、提供件数が少なくても発生する費用です。既存の正社員の通常勤務時間内の給与は、一般に固定費として扱います。

新規事業の採算は、次の2つの見方で確認すると分かりやすくなります。

① 会計上の限界利益

売上から、交通費・資料費・提供件数に応じて増える外注費や残業代など、実際に増える変動費を差し引きます。

② 時間評価額を含めた管理上の採算

①から、通常勤務時間内に投入した薬剤師の時間評価額も差し引きます。

例えば、実施・移動・記録の3時間に対して9,600円を評価額として置く場合です。

①がプラスでも②がマイナスなら、追加支出は回収できても、投入した薬剤師の時間に見合う収益を生み出せていない可能性があります。

ただし、②は会計上の限界利益とは別の管理指標です。また、実際に支払った残業代や代替人員の人件費を①で差し引いた場合、②で同じ労働時間を二重計上しないようにします。

例えば、教材開発費を一度だけ負担し、同じ教材を複数回使う場合、初回の開発費は毎回の変動費とは分けて考えます。

損益分岐点を計算する際は、固定費を1件当たりの会計上の限界利益で割り、必要な提供件数を求めます。ただし、限界利益がゼロ以下なら、件数を増やすだけでは固定費を回収できません。

最初の数件では、売上予測を精緻に作るより、実際に何時間かかり、どの費用が増えるかを把握する方が有用です。

第5章|撤退条件は、始める前に決めておく

新規事業では、うまくいかなくても「もう少し続ければ成果が出るかもしれない」と考えがちです。

しかし、成果が出ない理由を確認せず、追加投資を続けることにはリスクがあります。

試行前に、次の4点を決めます。

① 費用の上限

追加支出として、いくらまで使えるか。

② 時間の上限

通常業務に支障を出さず、何時間まで投入できるか。

③ 判断期限

いつまでに、何を確認するか。

④ 継続・改善・撤退の基準

どの実績があれば続け、何が不足すれば改善し、どの条件なら中止するか。

無償・有償を決める前に、試行の内容を確認する

「小さく試す」とは、無償でサービスを提供することではありません。

顧客へのヒアリング、価格提示、契約条件の確認、費用試算など、サービス提供前にできる検証があります。

実際に提供する段階では、無償・有償を問わず、法令、保険給付、患者紹介との関係、契約条件を確認します。

特に高齢者施設等への提供は、事前に地方厚生局などの所管窓口へ確認することが重要です。

経営上の撤退条件と、安全上の停止条件は別にする

小規模事業検証では、需要が少ない、利益が出ない、提供時間が想定を超えた、といった経営上の問題を評価します。

一方、重大な医療安全上の問題、個人情報の不適切な取扱い、法令違反の疑いなどが生じた場合は、収益性の評価期間が終わるまで待つべきではありません。

提供を一時停止する必要性を直ちに判断し、利用者の安全確保、必要な連絡・報告、原因調査、是正措置を優先します。

健康情報などの要配慮個人情報を含む個人データの漏えい等(そのおそれを含む)が発生した場合、法令上の報告対象に該当するときは、原則として個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です。件数が少なくても報告対象となり得ます。

ただし、高度な暗号化等の措置が講じられている場合や、委託先が委託元に所定の通知を行った場合など、法令上の例外・特則があります。企業から委託を受けた情報で事故が生じた場合は、委託元への速やかな連絡と、報告主体・本人通知の要否の確認を行います。

安全上の問題は、売上や契約数が好調であっても相殺できません。

第6章|企業向け健康支援を小さく検証する

ここでは、架空の薬局を例に考えます。

薬剤師3人が勤務し、生活習慣病に関する指導経験があります。近隣には従業員50人未満の事業場もありますが、企業向けの有償サービスは未経験です。

最初から月額契約サービスを立ち上げるのではなく、次の順番で確認します。

第1段階:3社に課題を聞く

まず3社を目安に、担当者へ健康課題と現在の対応方法を聞きます。

3社は市場規模を推定するための標本数ではありません。最初の検証を始めるための仮置きです。

少なくとも1社で具体的な未解決課題が見つかれば、その課題について提案の可能性を検討します。

見つからなければ、対象企業や質問内容を見直します。

第2段階:提供内容と価格を示す

課題が見つかった企業に、対象者、提供内容、実施時間、価格、役割分担を整理して提示します。

記録するのは、関心の表明、見積依頼、社内検討、契約の各段階です。

見積依頼があっても、契約数として数えません。

第3段階:提供前に費用と制度を確認する

第2章の仮定では、初回教材準備の時間評価額が9,600円、実施・移動・記録が9,600円でした。

このほかに交通費、資料費、営業費などが必要になる可能性があります。

企業ごとに教材を作り直すなら、その時間も追加します。

実際に提供する前に、産業保健上の役割、契約条件、個人情報の取扱いを確認します。

健康診断の結果や病歴は要配慮個人情報であり、取得には原則として本人の同意が必要です。ただし、法令で認められた例外がある場合は、その要件に従います。

企業から委託を受けて健康情報を扱う場合、薬局は委託された業務の範囲で情報を利用します。従業員の情報を、薬局の調剤や商品の案内に勝手に転用することはできません。

企業へ報告する情報は、個人別の情報が必要なのか、個人を識別できない形の集計で足りるのかを事前に検討します。

第4段階:次に進むか判断する

結果

次の判断

課題が確認でき、見積依頼もある

契約条件と提供能力の確認へ進む

課題はあるが、支払者が見つからない

対象顧客・提供方法を見直す

必要な時間や費用が想定を超える

内容・価格・人員配置を再検討

重大な安全・制度上の問題がある

提供を開始しない、または停止して是正する

契約数を事前に予測する必要はありません。

実績が出た段階で、必要な費用と収益を再計算します。

第7章|自分の薬局で使える「小規模事業検証計画シート」

第4部の7問で選んだ事業候補について、次の項目を記入します。

項目

記入例・確認内容

第4部の判定

小規模に実証

事業候補

企業向け健康支援

最初の対象

近隣企業3社(仮置き)

検証したい仮説

健康課題に外部支援の需要がある

最初の行動

担当者に課題と現状を聞く

記録する数字

有効面談数、見積依頼数、契約数

投入時間の上限

自局の人員状況から決める

追加支出の上限

自局の資金状況から決める

判断期限

開始前に日付を決める

継続条件

課題と支払意思が確認でき、提供可能

改善条件

課題はあるが、価格や提供方法に問題

撤退条件

設定した期限・損失上限に達するなど

試行の価格・条件

提供内容と相手先に応じて確認

確認先・確認日

所管窓口と回答内容を記録

サービス提供前の必須チェック

項目

確認内容

保険給付との区分

既存の保険業務と重複していないか

患者誘引・経済上の利益

相手先との関係、費用負担、紹介との関連

個人情報

取得主体、利用目的、同意、提供範囲

医療安全

提供範囲、責任分担、事故時の連絡体制

必要に応じて、保険薬局の取扱いは地方厚生局、商品販売・広告は都道府県の薬務担当課や保健所、個人情報は個人情報保護委員会の公表資料・相談窓口などで確認します。

契約、労務、会計については、必要に応じて弁護士、社会保険労務士、税理士等の専門家へ相談します。

このシートで最初に埋めるのは、売上予測ではありません。顧客の課題と、次に確かめる行動です。

第8章|筆者の私見:中小薬局に必要なのは、失敗しない経営ではなく、失敗を大きくしない経営

私は、中小薬局が新規事業を考えるとき、最初から完成されたビジネスモデルを求めすぎる必要はないと考えています。

地域の課題は、地域によって違います。

薬局が持っている専門性も、患者との関係も、連携先も異なります。

だからこそ、大企業の成功事例をそのまま導入するのではなく、自局の特徴を生かした事業を考える必要があります。

しかし、個別最適化されたサービスには、別の難しさもあります。

担当者の経験や能力に依存しやすいこと。

提供時間が長くなり、利益を確保しにくいこと。

サービスの品質を一定に保つことが難しいこと。

こうした課題を無視して「薬局の専門性を生かせば新しい収益になる」と考えるのは危険です。

私が重要だと思うのは、専門性を生かすことと、経営として成立させることを同時に考える姿勢です。

新規事業は、始めること自体が目的ではありません。

地域の課題を解決しながら、薬局が継続して価値を提供できる仕組みをつくることが目的です。

そのためには、うまくいかなかった事業から学ぶことも必要でしょう。

ただし、一度の失敗で薬局の経営基盤を傷つけるような挑戦は避けたいものです。

小さく試す。結果を確認する。改善する。必要なら撤退する。

こうした判断を積み重ねることが、中小薬局にとって現実的な新規事業開発の方法ではないでしょうか。


想定される反論

「薬剤師が足りないのに、新規事業を試す時間はない」

だからこそ、最初からサービスを提供する必要はありません。顧客の課題を聞き、費用を試算するところから始められます。その時間すら確保できなければ、新規事業を見送る判断も合理的です。

「3社に聞いただけでは、市場性を判断できない」

そのとおりです。3社へのヒアリングは市場調査の完了ではなく、仮説を修正するための第一歩です。契約や継続利用の実績が得られるまで、需要を確定したものとして扱いません。

「途中で撤退したら、地域の信用を失うのでは」

実際のサービス提供に進む場合は、試行の目的、期間、提供範囲、終了条件を事前に合意することが重要です。約束したサービスを突然打ち切ることと、合意した試行を終了することは区別して考えます。

今月やること

  • 第4部で選んだ事業候補を1つ確認する
  • 想定顧客3件を目安に、具体的な課題を聞く
  • 支払者と契約決裁者を確認する
  • 必要な人員・時間・追加支出を書き出す
  • 制度上の確認事項と確認先を整理する
  • 次に進むか判断する日付を決める

まとめ|最初に必要なのは、大きな投資ではない

薬局の新規事業は、始める前にすべてを予測できるわけではありません。

だからこそ、最初から大きな売上計画を作るのではなく、顧客の課題、支払意思、提供能力を一つずつ確かめます。

最初の目標は、売上を大きくすることではありません。

この事業に、次の投資をする価値があるかを判断できる情報を得ること。

それが小規模事業検証の目的です。


参考資料

  1. 厚生労働省保険局医療課(2026年6月23日)「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3の2第2項に規定する経済上の利益の提供による誘引の禁止について」
    https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/000491190.pdf
  2. 厚生労働省保険局医療課(2026年6月23日)「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3の2第1項に規定する経済上の利益の提供による誘引の禁止について」
    https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/000491189.pdf
  3. 厚生労働省「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」(保医発第0901002号)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000560128.pdf
  4. 中小企業基盤整備機構 J-Net21「損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法を教えてください。」
    https://j-net21.smrj.go.jp/solution/qa/accounting/Q0240.html
  5. 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
    https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/
  6. 個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法等の一部改正に伴う政令・規則の整備に向けた基本的な考え方」(2026年10月1日)
    https://www.ppc.go.jp/files/pdf/261001_kihonntekinakanngaekatanitsuite_2.pdf
  7. 厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001370527.pdf
  8. 厚生労働省「労働安全衛生法に規定する産業医制度」(資料)
    https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001149017.pdf
  9. 三重労働局「地域産業保健センター」
    https://jsite.mhlw.go.jp/mie-roudoukyoku/madoguchi_annai/gosoudan_naiyou_madoguchi/kenkou.html

※架空事例の時間・金額・ヒアリング件数は、計画方法を説明するための仮定です。実際のサービス提供に当たっては、事業内容と関係法令を個別に確認してください。


👉【note版】:薬局ビジネス研究|第5部 薬局の新規事業は、小さく試してから決める

失敗を大きくしないための「3つの仮説」とKPIの作り方


10/30/2026

薬局の新規事業、何から始めるべきか? ――7つの事業モデルから「自分の薬局に合う事業」を見つける方法 |薬局ビジネス研究 第4部

 薬局の新規事業、何から始めるべきか?

――7つの事業モデルから「自分の薬局に合う事業」を見つける方法

薬局ビジネス研究 第4部

30秒要約

薬局の新規事業は、成功事例の模倣ではなく、自社の強み・地域の需要・支払者・実行条件を確かめることから始まります。7つの事業モデルを「適合性・収益性・実現可能性」で検討し、法令・医療安全などの必須条件を確認。最後に7問で、次に調べるべき未確認事項を見つけます。

はじめに

「この事業は儲かりそうだ」ではなく、「自分の薬局なら、まず何を確認すべきか」。

薬局の新規事業を考えるとき、最初に必要なのは新しいサービスを探すことではありません。自分の薬局が持っている強み、地域で解決されていない問題、そして、その問題を解決するために必要な条件を確認することです。

これまでの「薬局ビジネス研究」では、薬局の経営資源、ローソン・カーブス・郵便局など異業種の成功メカニズム、海外薬局の事業モデルを考察してきました。第4部では、その研究を中小薬局の経営判断につなげます。

健康相談、在宅・介護連携、企業向け健康支援、専門性を生かした物販など、7つの事業モデルを比較しながら、自分の薬局で何を確認し、どの事業を選び、どの事業を見送るべきかを考えます。この記事の目的は、成功する事業をランキングすることではありません。読者が記事を読み終えたときに、自分の薬局で最初に確認すべきことを一つ決められることです。

第1章 成功事例を知っても、自分の薬局の答えは見つからない

コンビニエンスストアは、商品を販売するだけでなく、生活に必要な多様なサービスを提供しています。フィットネス事業では、運動そのものに加え、利用者が継続して通う仕組みが重要な価値になっています。郵便局は、全国に広がる拠点と地域住民との接点を活用しています。

これらの事業から、薬局が学べることは少なくありません。しかし、成功している企業のサービスをそのまま導入すれば、薬局でも成功できるのでしょうか。

例えば、薬局で健康食品を増やしても、それだけでコンビニのような集客力が生まれるわけではありません。健康教室を開催しても、参加者が継続して利用する仕組みがなければ、一度きりのイベントで終わるかもしれません。海外の薬局で専門的な薬学サービスが収益化されていても、日本では報酬制度や契約環境が異なります。

つまり、成功事例のサービスと、成功を支えている仕組みは別のものなのです。中小薬局が考えるべきなのは、「何を真似するか」ではなく、「自分の薬局が持つ資源を使って、どのような価値を生み出せるか」です。

あなたの薬局には、他の薬局や異業種には簡単に真似できない強みがありますか?専門性、地域との関係、立地、患者との継続的な接点など、思い当たるものを書き出してみてください。それが新規事業を考える出発点になります。

第2章 新規事業を選ぶ前に確認したい3つの条件

新規事業の候補が見つかったら、すぐに収益を計算したくなるかもしれません。しかし、売上予測より先に確認すべきことがあります。本研究では、事業選択のために3つの評価軸を使います。

評価軸

確認事項

① 適合性

自分の薬局だからできるか。専門性、患者層、地域需要、立地、既存の連携先を生かせるか。

② 収益性

誰が費用を負担するか。支払者、価格、顧客数、必要経費、継続利用の見込みを説明できるか。

③ 実現可能性

今の薬局で始められるか。人材、時間、設備、資金、協力先を確保できるか。

例えば、専門性の高い薬剤師がいても、その専門性を必要とする顧客がいなければ、事業として成立する可能性は低くなります。企業が近くにあっても、企業側に健康支援の需要がなければ、契約には結び付きません。また、利益が見込めても、薬剤師の人員に余裕がなければ、既存の調剤業務に支障を来す可能性があります。

この3つの条件は、どれか一つが高ければよいというものではありません。さらに、法令、医療安全、個人情報保護、保険給付との整合性は、採点以前の必須条件です。実施できるかどうか確認できない事業は、まず制度上の条件を調べる必要があります。

第3章 薬局が検討できる7つの事業モデル

薬局の経営資源を活用する事業は、健康相談だけではありません。これまでの研究から、検討対象を7つに整理しました。

事業モデル

主な提供価値

最初に確認すること

主な支払者

① 健康相談・予防支援

健康課題の把握と生活改善支援

誰が費用を負担するか

患者・自治体

② 専門薬剤師サービス

疾患・薬物療法に関する専門支援

保険給付との区分と需要

患者・医療機関

③ 在宅・介護連携支援

服薬環境改善と多職種連携

人員・移動時間と採算

施設・事業所

④ 企業向け健康支援

従業員の健康教育・相談

企業側の課題と契約意思/健康情報の同意

企業・健保組合

⑤ 生活支援・地域拠点

日常生活上の困りごとの解決

提携先と役割分担

自治体・提携先

⑥ デジタル継続支援

PHR等を活用した継続支援

利用継続と運用負担/健康情報の同意

企業・患者

⑦ 専門性を生かした物販

適切な商品選択と利用支援

粗利益と在庫回転

患者

※「主な支払者」は事業検討上の候補例であり、請求の適法性や契約成立を保証しません。特に②専門薬剤師サービス、③在宅・介護連携支援、⑥デジタル継続支援では、保険給付対象の業務と独立サービス候補を区別し、保険給付に含まれる行為への重複請求を行わないことが前提です。独立契約の実施可否は、業務内容・契約・記録・請求ごとに確認が必要です。

この7分類は研究上の整理であり、事業が完全に独立しているわけではありません。例えば、健康相談と専門物販、企業向け健康支援とデジタル継続支援などを組み合わせることも考えられます。

④企業向け健康支援は、企業・健保組合等の契約上の課題に対応するもので、産業医の法定職務を代替するものではありません。

分類について:7分類は提供価値・対象顧客・提供手段など異なる切り口を含む、事業検討用の整理であり、排他的な分類ではない。⑥デジタル継続支援は他のモデルを支える提供手段としても活用できる。保険者・自治体の委託事業、施設向け法人サービス、セルフメディケーション支援なども候補になり得る。

ただし、最初から複数の事業を同時に始めることは推奨しません。どのサービスに需要があり、何が利益を生み出しているのかを把握しにくくなるからです。まずは一つの課題に絞り、小さく検証する方が合理的です。

既存制度との関係:健康増進支援薬局の認定制度は令和9年5月20日施行とされます(厚生労働省・令和8年6月30日通知。参考資料参照)。地域連携薬局等の制度も、事業の基盤や差別化の条件になり得ます。認定名称の使用、移行措置、個別の認定要件については最新の公的資料を確認してください。

第4章 自分の薬局には、どの事業が合うのか?

ここからが、今回の記事で最も重要な部分です。7つの事業モデルを眺めるだけでは、自分の薬局で何を始めるべきか判断できません。そこで、薬局の特徴ごとに、最初に確認すべき条件を整理しました。

自分の薬局の特徴

検討する事業

最初の確認事項

在宅医療に強い

③ 在宅・介護連携支援

既存業務では対応できていない課題は何か

管理栄養士がいる

① 健康相談・予防支援(栄養相談)

栄養支援を必要とする顧客・契約先はあるか

特定疾患に詳しい

② 専門薬剤師サービス

専門性を必要とする未充足の需要はあるか

企業・工場が近い

④ 企業向け健康支援

企業が費用を負担してでも解決したい課題は何か

住宅地にある

① 健康相談・予防支援/⑦ 専門性を生かした物販

住民が繰り返し利用する理由はあるか

デジタル化が進んでいる

⑥ デジタル継続支援

利用者が継続して使える仕組みか

地域連携が強い

⑤ 生活支援・地域拠点

既存の地域サービスと何が違うか

この表で重要なのは、事業候補の右側にある「最初の確認事項」です。例えば、管理栄養士が在籍している薬局なら、栄養相談事業が候補になるでしょう。しかし、管理栄養士がいるからという理由だけで、有料の栄養相談を始めても、利用者が集まるとは限りません。むしろ、地域の医療機関や企業が、どのような栄養支援を必要としているのかを先に調べる必要があります。

在宅医療に強い薬局でも同じです。すでに医師や訪問看護師、ケアマネジャーとの関係があることは強みです。しかし、新たな事業として何を提供するのか、既存の保険業務とどう区別するのかを確認しなければなりません。

「できること」から事業を決めるのではなく、「求められていること」と「自社の強み」が重なる部分を探す。これが事業選択の基本になります。

第5章 「患者に喜ばれる」と「事業として成立する」は違う

薬局の新規事業を考えるとき、避けて通れない問題があります。それは、社会的に価値があるサービスでも、必ずしも収益を生み出せるとは限らないということです。

例えば、薬剤師が30分かけて健康相談を行うとします。薬剤師の時間単価を仮に3,200円とすると、直接労務費だけで1,600円です。さらに、準備、記録、設備、集客などの費用もかかります。無料で提供すれば、薬局がその費用を負担します。

では、有料にすれば解決するのでしょうか。そう単純ではありません。相談者が費用を支払う意思を持っているか、既存の保険給付と重複しないか、継続して利用してもらえるかなど、確認すべき条件があります。

そこで考えたいのが、サービスを受ける人と、費用を負担する人を分けるという方法です。例えば、企業が従業員向けの健康教育を薬局に委託する場合、サービスを受けるのは従業員ですが、費用を負担するのは企業です。自治体の健康増進事業でも、事業の仕様や契約条件に適合すれば、住民への健康支援と事業収入を両立できる可能性があります。

ただし、企業や自治体が契約するには、相手にとっての価値を示さなければなりません。企業なら、従業員の健康課題への対応や健康教育の充実などが考えられます。自治体なら、地域住民の健康増進や政策目標との整合性などが重要になるでしょう。

誰がこのサービスを必要としているのか?その人や組織は、何を解決したいのか?その価値に対して、誰が費用を負担するのか?この3つに具体的に答えられなければ、まだ事業化を決める段階ではありません。

保険給付との境界:保険給付に含まれる服薬指導等を独立した有料相談と誤認して別料金を請求しない。無料サービスや値引きが患者誘引規制に抵触しないかも確認する。健康情報を扱う場合は、誰の情報を誰にどの根拠・同意で提供するか明確にする。

第6章 収益性を数字で考える――3つの事業モデル

新規事業を考える際には、売上だけでなく、利益が生まれる仕組みを確認する必要があります。ここでは、収益構造の異なる3つのモデルを比較します。以下の数値は計算方法を示すための仮定であり、実際の市場価格や平均的な利益率ではありません。

① 企業向け健康支援:契約型モデル

月額3万円で企業向け健康支援を提供すると仮定します。

項目

月間試算

4社との契約による売上

120,000円

サービス提供の直接労務費

64,000円

営業・契約管理費

32,000円

その他運営費

20,000円

試算利益

4,000円

この条件では、4社契約しても月間利益は4,000円です。1社当たりの限界利益は14,000円で、固定的な費用を52,000円とすると、損益分岐点は約3.71社です。したがって、4社以上の契約が必要になります。ただし、これは単純化したモデルです。初期投資、税金、追加の顧客獲得費用などは十分に反映していません。 1社解約して3社になると試算利益は−10,000円。時間単価3,200円は市場相場の断定ではなく仮定であり、薬剤師の月20時間分の提供時間を既存業務から振り向ける機会費用や、契約数に応じて増える営業管理費にも注意する。

グラフ用の試算値(仮定):契約1社:−38,000円、2社:−24,000円、3社:−10,000円、4社:+4,000円、5社:+18,000円、6社:+32,000円、7社:+46,000円、8社:+60,000円。損益分岐点は52,000÷14,000=約3.71社。

最初に確認すること:企業が月額料金を支払うだけの課題を持っているか。まずは企業の担当者にヒアリングすることが出発点です。

② 専門性を生かした物販:商品粗利益型モデル

商品区分ごとの確認:食品:疾病の治療・予防を標榜する表示等の規制、健康増進法・景品表示法を確認。一般用医薬品:販売区分・情報提供等の要件を確認。医療用医薬品:処方箋に基づく販売が原則とする改正規定について、適用時点と例外を含めて確認する。医療機器:製品区分ごとの許可・届出の要否を確認。現行法令と個別商品を所管庁・専門家に確認する。

物販の試算(仮定):販売価格2,000円、仕入原価1,200円、1個当たり粗利益800円。50個なら粗利益40,000円、追加運営費を仮に20,000円とすると試算利益20,000円。利益=800円×販売個数−20,000円、損益分岐点25個。10個−12,000円/30個+4,000円/50個+20,000円/70個+36,000円/100個+60,000円。追加費用には販促・管理・廃棄等が考えられ、個別見積もりが必要。

ここで確認したいのは、販売個数だけではありません。在庫が売れ残るリスクや、一般小売業との価格競争も考慮する必要があります。最初に確認すること:その商品を、顧客が一般小売店ではなく自分の薬局で購入する理由は何か。単に商品を並べるだけでは、薬局の専門性を事業上の強みに変えたことにはなりません。

③ 在宅・介護連携支援:既存業務の改善と保険外の独立サービスを区別する

③-A 既存の在宅業務の採算改善(新規事業ではない):在宅訪問・移動・記録・連携の所要時間を見直し、既存の保険業務の採算と品質を改善する。仮に90分、薬剤師時間単価3,200円なら直接労務費は4,800円(計算方法を示す仮定)。この額を根拠に患者へ別料金を請求することはできない。

③-B 保険外の独立サービス(事業化の仮説):例えば、介護施設・事業所との独立契約により、施設の服薬管理体制を支援したり、職員研修を提供したりすることが考えられる。ただし、著者の実例ではなく事業候補の仮説である。契約料を仮に月30,000円、提供・準備・移動・記録に合計6時間、時間単価3,200円、その他経費5,000円とすると、試算利益は30,000−19,200−5,000=5,800円となる。価格・時間・経費は計算方法を示すための仮定で、市場価格や実績ではない。

最初に確認すること:施設・事業所が独立したサービスを必要とし、契約料を負担するか。既存の保険業務と業務内容・記録・契約・請求を明確に分離できるか。同じ行為を保険算定と自費の両方で請求しない。交通費等の徴収については、対象サービスに適用される現行通知・契約条件を個別に確認する。参考資料6は保険医療機関等に関する通知であり、薬局の③-Bにそのまま適用できる根拠としては扱わない。

モデル

利益を左右する要素

最大のリスク

企業向け健康支援

契約数・単価・継続率

契約獲得の難しさ

専門性を生かした物販

粗利益・販売数・在庫回転

売れ残り・価格競争

③-B 保険外の独立サービス

契約料・稼働時間・移動効率

施設の需要と契約の継続

このように、同じ「薬局の新規事業」でも、利益を生み出す仕組みは異なります。したがって、すべての事業を売上高だけで比較することは適切ではありません。自分の薬局では、どの費用が大きくなり、どの条件を満たせば利益が残るのか。そこまで確認して初めて、収益性の評価ができます。

第7章 業務は標準化し、薬局の価値は個別最適化する

中小薬局が新しい事業を始めるとき、大企業と同じ規模や品ぞろえで競争する必要があるとは限りません。むしろ、自社の専門性や地域との関係を生かすことが重要になる場合があります。

ただし、個別対応には時間がかかります。患者一人ひとりの状況を把握し、適切な支援を考えるには、薬剤師の専門的な判断が必要です。そこで重要になるのが、業務の標準化と、提供価値の個別最適化を組み合わせる考え方です。

調剤、医薬品管理、記録、請求、安全管理などの業務は、ルールに基づいて品質を確保し、効率化する。一方で、患者や地域住民に提供するサービスは、それぞれの課題や生活環境に応じて設計する。

標準化と個別最適化:業務の標準化:調剤・記録・請求・安全管理・情報共有→品質の安定・効率化。価値の個別最適化:専門相談・生活支援・疾患別支援・地域連携→顧客固有の課題解決。両者を組み合わせ、薬局独自の価値を継続して提供する。ただし需要・支払者・採算性の検証が必要。

ただし、個別最適化すれば必ず収益が増えるわけではありません。顧客が価値を認め、費用を負担する仕組みがあり、薬局側にも適切な利益が残ることが必要です。

その意味で、DXやAIの活用も、単に業務時間を短縮することだけが目的ではありません。創出した時間を、どのような専門的支援に使い、その価値をどう持続可能な形にするか。そこまで考えることが、薬局の経営戦略につながります。

標準化で創出した時間は、7問チェックのQ5「実行能力」を確保するための原資にもなります。

第8章 事業を始める前に「やらない条件」を決めておく

新規事業を考えるとき、成功する条件ばかりを探してしまうことがあります。しかし、中小薬局では、失敗したときの経営への影響も無視できません。そのため、事業開始前に「見送る条件」を決めておくことを推奨します。

支払者が具体的に見つからない。必要な人員を確保できず、既存の調剤業務に支障が出る。損益分岐点に達する現実的な見込みがない。自社の強みを生かせず、価格競争しかできない。法令・医療安全上の条件を満たせない。

ただし、条件が満たされないからといって、すべて直ちに撤退すべきという意味ではありません。例えば、顧客の需要は確認できているものの、人員が不足している場合には、サービス内容の縮小や外部との連携によって改善できるかもしれません。一方、法令上の問題や医療安全上の重大な問題がある場合には、解決するまで実施すべきではありません。

判断

条件

次の行動

実証する

7問すべてが「はい」(第9章の判定ルール)

小規模に試す

改善する

課題が明確で解決可能

設計を見直す

保留する

判断材料が不足

追加調査する

見送る

重大な障壁がある

他の候補を検討する

重要なのは、始めること自体を目的にしないことです。「やらない」という判断も、経営資源を守るための重要な戦略です。

第9章 この記事を読んだら、まず自分の薬局で確認してほしいこと

ここまで7つの事業モデルを比較してきました。では、実際に自分の薬局で何から始めればよいのでしょうか。最初から事業計画書を作る必要はありません。まずは、次の7つの質問に答えてみてください。

質問

チェック項目

回答

Q1 自社の強み

患者・連携先から評価されている強みを、具体例つきで1つ説明できるか

はい/いいえ/未確認

Q2 需要

その強みで解決できる困りごとを顧客・連携先に直接確認し、既存サービスより選ばれる理由があるか

はい/いいえ/未確認

Q3 支払者

サービスに費用を負担する人・組織の候補があるか

はい/いいえ/未確認

Q4 採算

価格・必要時間・初期投資を試算し、損益分岐点と撤退時の損失額が分かるか

はい/いいえ/未確認

Q5 実行能力

必要な人の時間(月何時間か)を算出し、調剤業務から確保する方法が決まっているか

はい/いいえ/未確認

Q6 制度・安全

法令・保険給付との区分・医療安全・個人情報・事故時の責任を確認したか

はい/いいえ/未確認

Q7 検証方法

小さく試す方法と継続・撤退の判断基準を決めているか

はい/いいえ/未確認

現時点で7つすべてに「はい」と答えられなくても、確認作業は始められます。ただし小規模実証に進む条件は7問すべて「はい」です。むしろ、「いいえ」や「未確認」が見つかることに意味があります。例えば、強みはあるが支払者が見つかっていないなら、次に行うべきことは設備投資ではなく、顧客や契約先へのヒアリングです。地域需要があるものの採算性が分からないなら、必要な時間と費用を試算することから始められます。法令や医療安全上の条件が確認できていなければ、実施を決める前に調査が必要です。

判定は合計点で行いません。Q6は他の項目で相殺できない必須条件です。具体的な判定は次の表で確認します。

Q1〜Q2=適合性、Q3〜Q4=収益性、Q5=実現可能性、Q6=必須条件、Q7=検証方法。複数条件が重なる場合はQ6を最優先します。

確認結果

判断

次の行動

Q6=いいえ

見送る

法令・安全上の問題を解消するまで実施しない

Q6=未確認

保留

制度・安全確認を優先する

Q2・Q3=いいえ/未確認

保留

需要と支払者をヒアリングする

Q4・Q5=いいえ/未確認

改善

価格・規模・人員配置を見直す

Q1〜Q7すべて=はい(Q6の法令・安全条件を含む)

小規模に実証

期間・撤退基準を決めて試す

Q1=いいえ/未確認、またはQ7=いいえ/未確認

保留

強みの実証、検証計画・撤退基準を具体化する

この記事を読んだ後、すぐに新規事業を始める必要はありません。まず、自分の薬局にとって最も重要な「未確認の条件」を一つ見つけること。それが、事業化に向けた最初の一歩です。

今月やること:①自社の強みを患者・連携先からの評価で確認する。②地域の困りごとと支払者を一人ずつヒアリングする。③7問の未確認事項を一つ選び、確認する担当者と期限を決める。

私見|中小薬局の個性を、持続可能な事業に変えたい

私は、中小薬局が生き残るために、大企業と同じサービスを追いかけ続ける必要はないと考えています。もちろん、調剤業務の標準化や効率化、デジタル化は必要です。しかし、それだけでは患者や地域住民から選ばれる理由を十分につくれないかもしれません。

中小薬局には、それぞれ異なる個性があります。特定の疾患に詳しい薬剤師がいる。管理栄養士がいる。在宅医療に積極的に取り組んでいる。地域の医師や介護関係者との関係が深い。こうした個性は、重要な経営資源になり得ると考えています。

ただし、個性があるだけでは事業にはなりません。その個性によって、誰の、どのような困りごとを解決できるのか。その価値を誰が必要とし、誰が費用を負担するのか。さらに、薬局の経営を圧迫せずに、継続して提供できるのか。そこまで考えて初めて、薬局の個性を経営資源に変えられるのではないでしょうか。

私は、薬局の新規事業を考えるとき、「何を売れば儲かるか」から始めるのではなく、「自分たちの薬局だからこそ解決できる問題は何か」から始めたいと思っています。そして、その価値を無償の奉仕だけで終わらせず、持続可能な仕組みへと発展させたい。今回の7つの事業モデルは、そのための選択肢です。すべてを始める必要はありません。自分の薬局の強みと地域の需要が重なるところを探し、必要な条件を確認し、小さく試す。その積み重ねが、中小薬局の新しい経営戦略につながると考えています。

想定される反論

「小規模な薬局には新規事業に取り組む余力がない」という指摘はもっともです。だからこそ、最初に投資や新サービスの導入を決めるのではなく、既存業務を圧迫しない範囲で、顧客の需要・支払者・実施条件を一つずつ確認することを勧めます。条件がそろわなければ、始めないという判断も合理的です。

今回紹介した7つの事業モデルは、いずれも実施に向けて検討すべき課題があり、事業としての成立が保証されているわけではありません。

しかし、中小薬局が持つ専門性や地域とのつながりを生かすことで、従来の保険調剤にとどまらない新たな価値を生み出せる可能性があります。

本記事では、その可能性をビジネスの視点から整理し、具体的な事業化に向けて何を確認すべきかを提案しました。

大切なのは、すぐに新しい事業を始めることではありません。自分の薬局だからこそ提供できる価値を見つけ、それを持続可能な事業につなげられるかを考えることだと思います。

参考資料・検証上の注意

1. 厚生労働省「薬局・薬剤師に関する情報」 

2. e-Gov法令検索「医薬品医療機器等法」

3. 中小企業基盤整備機構「J-Net21」 

4. 厚生労働省「医薬発0630第1号」(令和8年6月30日) 

5. 厚生労働省「令和7年薬機法等改正の概要」 

6. 厚生労働省「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」 

7. 「薬局ビジネス研究」第1部〜第3部(シリーズ関連記事)

※ 本稿の7分類、薬局タイプ別の適性、試算数値は研究上の仮説であり、実際の事業収益や成功率を示すものではありません。個別事業の実施・契約・請求の可否は、適用される現行法令・通知と契約条件を確認してください。

👉【note版】:「薬局の新規事業、何から始める?」――自分の薬局に合う事業を見つける7つの質問|薬局ビジネス研究 第4部


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