―無料栄養相談から脱却する5つのビジネスモデル―
はじめに:管理栄養士は「コスト」なのか「投資」なのか
薬局に管理栄養士を配置する企業が増えています。
栄養相談、健康イベント、食生活改善のアドバイス、健康食品の紹介など、管理栄養士の活躍の場は広がっています。
しかし、薬局経営者に一つ質問があります。
「その管理栄養士は、薬局の収益にどの程度貢献しているでしょうか?」
もちろん、患者サービスの向上や地域貢献は重要です。しかし、専門職を雇用し、人件費を負担する以上、経営的な成果を考えることも必要ではないでしょうか。
私は、これからの薬局経営において、管理栄養士を「無料栄養相談を担当する人材」から「地域の健康課題を解決する事業開発人材」へと位置づけ直すことが重要だと考えています。
今回は、管理栄養士を活用した5つのビジネスモデルと、その収益性について考えてみます。
1.薬局の管理栄養士は何をしているのか?
厚生労働省の健康サポート薬局に関する調査では、薬局に所属する管理栄養士・栄養士の主な業務として、次の結果が報告されています。
主な業務 | 実施割合 |
|---|---|
店舗業務 | 81.4% |
栄養相談会 | 74.5% |
薬局単独の栄養指導 | 55.9% |
献立等の成果物提供 | 47.8% |
講師派遣 | 30.4% |
特定保健指導 | 18.6% |
※該当薬局161件の複数回答。管理栄養士・栄養士を対象とした業務実施状況であり、収益額を示す調査ではありません。
この結果から、管理栄養士が店舗業務や栄養相談に幅広く従事していることが分かります。
一方、講師派遣や特定保健指導など、専門性を外部に提供する活動は相対的に少ない状況です。
もちろん、実施割合が低いことが、そのまま収益化できていないことを意味するわけではありません。
しかし、専門職としての知識や経験を、新しい商品やサービスに変換する余地はあるのではないでしょうか。
私は、薬局に管理栄養士を配置すること自体が差別化になる時代から、その専門性をどのような価値として提供できるかが問われる時代へと移りつつあると考えています。
2.管理栄養士を収益化する5つのビジネスモデル
管理栄養士の収益化というと、有料栄養相談を思い浮かべるかもしれません。
しかし、収益化の方法はそれだけではありません。
モデル① 健康食品・栄養補助食品の専門販売
最も導入しやすいのが、管理栄養士による健康食品や栄養補助食品の専門販売です。
例えば、高齢者向けのたんぱく質補給食品、減塩食品、低糖質食品、介護食、栄養補助飲料などが考えられます。
一般のスーパーやドラッグストアとの違いは、管理栄養士が利用者の食生活や栄養状態を確認し、必要な商品を選択することです。
例えば、食事量が減少している高齢者に対して、普段の食事内容を確認し、必要に応じて栄養補助食品を紹介することができます。
重要なのは、商品を売ることではなく、健康課題を解決するための商品を提供することです。
特に、在宅患者や高齢者の利用が多い薬局では、継続購入につながる可能性があります。
ただし、健康食品は医薬品ではありません。疾病の治療効果を保証するような説明は避ける必要があります。
モデル② 健康測定と栄養相談のパッケージ販売
体組成計や血圧計などを活用し、健康状態を可視化するサービスです。
例えば、体組成測定と15分程度の栄養相談を組み合わせた有料サービスが考えられます。
重要なのは、測定結果を説明するだけで終わらせないことです。
「筋肉量を維持するために、これから1か月間、どのような食生活を実践するのか」
具体的な行動目標を設定し、次回の測定で変化を確認します。
これにより、単発の健康イベントを継続的な健康管理サービスへ発展させることができます。
モデル③ 月額制の栄養サポートサービス
私が特に可能性を感じるのが、管理栄養士による継続的な栄養支援です。
例えば、健康診断で生活習慣の改善を勧められた40〜60代の現役世代を対象に、「3か月間の食生活改善サポート」を提供します。
サービス内容は、月1回の体組成測定、LINEによる食事写真の報告、管理栄養士からの定期的なアドバイスなどです。
料金は、仮に月額5,000円とします。
10人の契約者がいれば月額売上は5万円、30人なら15万円となります。
もちろん、これは売上であり、人件費やシステム費用などを差し引いた利益ではありません。
実際に、ウエルシア薬局では有料の栄養サポートサービスが展開されており、公開されたサービスには月額1,100円から3,850円の料金設定があります。
つまり、有料栄養指導はすでに実在する事業モデルです。
ただし、月額5,000円のサービスを成立させるには、相談だけでなく、測定や個別分析、継続的な支援など、価格に見合う価値が必要でしょう。
モデル④ 地元飲食店・食品事業者とのコラボレーション
薬局内にカフェや調理設備を設けるには、初期投資や人員確保が必要です。
そこで考えたいのが、地域の飲食店や食品事業者との連携です。
例えば、地元の弁当店と協力して、管理栄養士監修の減塩弁当や高たんぱく弁当を開発します。
薬局はメニュー監修や栄養情報の提供を担当し、調理・販売は既存の食品事業者が担当します。
薬局側は監修料や、契約に基づく販売ロイヤリティなどを収益源とすることが考えられます。
京都府舞鶴市の「ゆう薬局カフェ」のように、管理栄養士監修の食事や健康相談を組み合わせた地域連携の取り組みもあります。
ただし、こうした事例の存在と、事業としての黒字化は区別して考える必要があります。
私は、薬局が自ら飲食店を経営するよりも、まずは地域の既存事業者と連携する方法が、中小薬局には取り組みやすいと考えています。
モデル⑤ 企業向け健康経営支援サービス
管理栄養士の活躍の場を、薬局の来局者だけに限定する必要はありません。
地域の中小企業に対して、従業員の健康づくりを支援するサービスを提供する方法もあります。
例えば、従業員向け栄養セミナー、健康診断後の食生活改善支援、個別栄養相談、健康イベントの企画・運営などです。
日本調剤などでは、管理栄養士による企業向け健康支援や特定保健指導などの取り組みが行われています。
企業側にとっては、従業員の健康維持や福利厚生の充実につながります。
薬局側は、単発の研修料や年間契約による継続収入を得られる可能性があります。
私は、このB2Bモデルに特に注目しています。
薬局の商圏を「処方箋を持参する患者」から「地域で生活し、働く人々」へと広げることができるからです。
3.収益化の鍵は「モノ+測定+伴走」
有料栄養指導を事業として成立させるうえで重要なのは、利用者が価格に見合う価値を実感できることです。
私は、その基本構造を3つに整理できると考えます。
① モノ:具体的な商品や食事
栄養補助食品、健康食品、監修弁当など、利用者が実際に手に取れるものです。
② 測定:変化を可視化する仕組み
体組成や生活習慣の記録などを活用して、取り組みの経過を確認します。
③ 伴走:継続的なコミュニケーション
管理栄養士が利用者の行動を支援し、無理のない改善を続けられるようにします。
例えば、月額5,000円のサービスでも、単に月1回の相談を受けるだけでは価格に納得しにくいかもしれません。
しかし、測定、具体的な食生活改善提案、定期的なフォローが組み合わされば、継続利用する理由が生まれます。
ここで注意したいのは、健康食品を販売するために相談を行うのではないということです。
管理栄養士の専門的判断に基づき、必要なサービスや商品を提案することが、薬局への信頼を守る条件になります。
4.実際にいくら稼げるのか? 収益シミュレーション
ここでは、管理栄養士を配置する薬局が小規模に新規事業を始めた場合を想定してみます。
以下は実績値ではなく、事業性を考えるための仮定です。
収益項目 月間売上 健康食品販売:50件×2,000円 100,000円 健康測定・相談:20件×1,000円 20,000円 栄養サポート:10人×5,000円 50,000円 企業向け栄養セミナー:1回 30,000円 合計 200,000円
月間売上20万円、年間では240万円です。
しかし、売上がそのまま利益になるわけではありません。
商品仕入原価、管理栄養士の人件費、システム費用、広告費などを差し引く必要があります。
例えば、月間売上20万円に対して、商品原価などの変動費が7万円、追加的な固定費が3万円なら、既存人件費の配賦前の貢献利益は10万円です。
管理栄養士を新たに採用する場合には、その人件費も含めて採算を評価しなければなりません。
一方、すでに配置している管理栄養士の稼働余力を活用する場合は、比較的小さな追加投資で事業を開始できる可能性があります。
重要なのは、売上だけでなく、管理栄養士の稼働時間と損益分岐点を管理することです。
5.LINEと生成AIで管理栄養士の業務を効率化する
有料栄養指導の大きな課題は、利用者が増えるほど管理栄養士の業務負担が増えることです。
例えば、30人の利用者から毎日食事写真が送られてきた場合、すべてに個別返信していては通常業務に支障が生じかねません。
そこで、LINE公式アカウントなどを活用した業務の標準化が重要になります。
運用のポイントは3つです。
第一に、返信時間と回数を決めること。
24時間対応を約束せず、契約時に返信日や返信頻度を明示します。
第二に、報告方法を簡単にすること。
食事写真と簡単なコメントを基本とし、利用者の負担を減らします。
第三に、アドバイスをテンプレート化すること。
食事内容を褒めるメッセージ、栄養バランスの改善提案、報告が途絶えた場合のフォローなどを標準化します。
生成AIを活用すれば、こうした文章の下書き作成や健康情報コンテンツの制作も効率化できるでしょう。
ただし、個人の健康情報を取り扱う場合は、本人同意、情報管理、利用サービスの安全性を確認する必要があります。
また、AIが作成した栄養指導文をそのまま送信するのではなく、管理栄養士が内容を確認する運用が必要です。
AIに任せるのは文章作成などの定型業務。専門的判断は管理栄養士が担う。
この役割分担が重要だと考えます。
6.経営者が最初に取り組むべき3つの行動
では、実際に何から始めればよいのでしょうか。
私は、次の3つを提案します。
① 管理栄養士の業務を棚卸しする
まず、現在の業務時間を確認します。
栄養相談、事務業務、健康イベント、商品販売などに、それぞれ何時間使っているでしょうか。
管理栄養士の専門性が十分に発揮されていない業務があれば、役割分担を見直す余地があります。
② 一つのターゲットに絞って商品を作る
最初から糖尿病、肥満、フレイル、介護食など、すべてに対応する必要はありません。
例えば、高齢者が多い薬局なら「フレイル予防の栄養サポート」、現役世代が多い薬局なら「健康診断後の食生活改善サポート」など、対象を絞ることが有効です。
そして、まずは5〜10人程度の利用者で試験運用してみます。
③ 売上だけでなく継続率と成果を測定する
事業評価では、売上だけを見てはいけません。
利用者数、有料サービスへの移行率、継続率、管理栄養士の稼働時間、利用者満足度、行動変容などを確認します。
特に重要なのは、「継続して利用したい」と感じてもらえるサービスになっているかという点です。
単なる商品販売では、価格競争に巻き込まれます。
しかし、管理栄養士の専門的な支援が組み合わされば、利用者にとっての価値は変わります。
7.私見:管理栄養士は薬局の新しい事業開発人材になる
これからの薬局は、処方箋を受け付け、薬を交付する機能だけで経営の持続可能性を考えることが難しくなっていくと私は考えています。
薬局には、薬剤師という医薬品の専門家がいます。
そして管理栄養士が加われば、薬物療法と食生活の両面から、地域住民の健康を支えることができます。
しかし、この組み合わせを単なる患者サービスで終わらせてしまうのは、経営的にも地域医療の観点からも、もったいないことではないでしょうか。
薬剤師は薬物療法の適正化を担い、管理栄養士は栄養・食生活の改善を支援する。
さらに、地域の飲食店、企業、行政、医療機関と連携すれば、薬局を起点とした新しい健康支援事業が生まれる可能性があります。
もちろん、管理栄養士の収益化を急ぐあまり、不要な商品販売や過剰なサービス契約を促すことがあってはなりません。
利用者の健康課題を解決した結果として、適正な対価を得る。
この順序を守ることが、専門職を活用した持続可能なビジネスの条件だと考えます。
私は、これからの管理栄養士を、薬局の補助的な専門職ではなく、新たな事業を企画し、地域の健康需要を掘り起こす「事業開発人材」として評価すべきではないかと考えています。
おわりに:無料相談から、価値を生み出すサービスへ
薬局の管理栄養士を収益化するというと、栄養相談を有料にすることだけを想像するかもしれません。
しかし、本質はそこではありません。
管理栄養士の専門知識を、商品、測定、継続支援、地域連携という具体的なサービスに変換することです。
その第一歩は、大きな設備投資でも、新たな人材採用でもありません。
「自局の管理栄養士は、地域の誰の、どのような健康課題を解決できるのか」
この問いを経営者と管理栄養士が一緒に考えることから始まります。
調剤報酬以外の収益を増やすことは、単なる売上拡大策ではありません。
薬局が地域の健康インフラとして生き残るための、新たな経営戦略の一つではないでしょうか。
参考資料
厚生労働省「健康サポート薬局に関する調査結果」(令和6年度予算事業)
ウエルシア薬局「栄養コンシェルジュサービス」公開情報(2026年3月)
サノ・ファーマシー「栄養相談・食事記録分析サービス」公開情報
ゆう薬局カフェ(京都府舞鶴市)の活動紹介
日本調剤の管理栄養士による健康支援事業紹介
消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」
個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」
※収益シミュレーションは筆者による仮定であり、実際の事業収益を保証するものではありません。制度・法規制については、事業開始時点の最新情報を確認してください。




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