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10/17/2026

厚労省のモデル事業は、薬局の新たな収益源になるのか?

 厚労省のモデル事業は、薬局の新たな収益源になるのか?

― 国の事業費で終わらせない、地域貢献と薬局経営の新戦略 ―

30秒で読む要約

■2026年10月13日、厚生労働省が「令和8年度 地域における医薬品提供体制等の構築・強化に係るモデル事業」の募集を始めました。締切は10月30日(金)17時です。

■事業費は国の委託事業として必要経費に充てるお金です。薬局の利益になるわけではありません。

■しかも実施要綱は、原則として「事業終了後も取組みを続けること」を応募要件にしています。

■だから問うべきは、「事業が終わった翌年に、誰が、どの財源で続けるのか」です。

■本記事では、行政事業が地域に根付く3条件と、経営者が今確認すべき3つの問いを整理します。実践的な応募方法は実践編で解説します。

 

1.行政のモデル事業は、本当に地域に根付いているのか?

全国に広がる事業には、法制度・財源・成果評価の3つがそろっています。

私は以前から、行政のモデル事業に一つの疑問を持っていました。

「多くの事業は、実施期間が終われば元に戻ってしまうのではないか」

モデル事業では、関係機関が連携して新しい取組みを試し、報告書を作成します。しかし翌年はどうでしょうか。予算がなくなり、担当者が異動し、せっかくの仕組みが使われなくなる。地域医療の現場でも、この継続性の問題は無視できません。

そこで、薬局関連の制度や事業の広がりを比べてみました。

健康サポート薬局の届出は、2026年3月31日時点で3,592薬局です。全国の薬局数(62,828、2023年度末)と比べると、6%弱にとどまります。

一方、高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施は、2024年度中に全国1,741市町村のうち1,708市町村(約98%)で実施される予定でした。2023年度の実施済みは1,396市町村(80%)で、1年で大きく広がっています。

もちろん、薬局の届出数と自治体の実施率は異なる指標で、単純には比べられません。

それでも示唆はあります。一体的実施には、法律上の位置づけと役割分担、継続的な財源の流れ、実施状況を測る目標がそろっていました。一方、健康サポート薬局は届出制で、直接の収益との結び付きも弱く、多くの薬局が積極的に参加する形にはなりませんでした。

その健康サポート薬局は、2025年5月公布の改正薬機法で、認定制の「健康増進支援薬局」へ移行することになりました(公布後2年以内に施行予定)。今回のモデル事業は、まさにこの転換点に置かれています。

行政事業を評価するには、「実施したか」だけでなく、「成果が生まれたか」「その後も続いているか」を分けて考える必要があります。

地域に根付く仕組みをつくれるかどうか。これがモデル事業の重要な評価軸だと考えます。

図1 行政事業が地域に定着するための3条件

2.2026年度のモデル事業は、薬局経営に何をもたらすのか?

国が求める機能と、薬局が将来の事業にできる機能が重なっています。

2026年10月13日、厚生労働省は「令和8年度 地域における医薬品提供体制等の構築・強化に係るモデル事業」の募集を開始しました。応募期間は10月30日(金)17時(電子メール必着)までです。質問は10月23日まで、所定の質問票で受け付けています。

事業は二つの区分に分かれています。

表1 令和8年度モデル事業の2区分(概要)

項目

事業Ⅰ

事業Ⅱ

正式名称

令和7年度 地域医薬品提供体制構築推進事業を踏まえた好事例の均てん化

健康増進支援薬局の認定制度化を見据えた健康サポート機能を持った薬局の取組みの効果検証等

取組主体

地域薬剤師会(非会員薬局の参加も可)

薬局(複数薬局・薬剤師会との協働も可)

主な内容

拠点薬局との連携、拠点薬局の整備

行政・保険者と連携した健康づくりと効果検証

採択予定

10~20件

10~20件

1件当たりの上限(目安)

1,000万円(税込)

500万円(税込)

注:金額は事業に必要な経費の上限の目安で、薬局の利益や採択を保証するものではありません。

出典:厚生労働省「令和8年度 地域における医薬品提供体制等の構築・強化に係るモデル事業」募集ページ・実施要綱(Ver.1.0)

 

事業Ⅰ:2025年度の好事例を全国へ広げる

事業Ⅰは、2025年度の「地域医薬品提供体制構築推進事業」の成果を、他の地域へ広げる(均てん化する)ための事業です。2025年度は全47都道府県で取組みが行われ、そのうちモデル事業は10課題でした。

地域薬剤師会が主体となり、地域の拠点となる薬局との連携や、拠点薬局がない市区町村での体制整備などに取り組みます。

事業Ⅱ:薬局の健康サポート機能を検証する

事業Ⅱは、薬局が主体となって地域住民の健康の保持・増進に取り組み、その効果を検証する事業です。行政機関や保険者との連携、複数薬局での共同実施も想定されています。

「利益」ではなく「必要経費」、そして「継続」が条件

注意したいのは、これらの金額が薬局の利益になるわけではないことです。本事業は厚生労働省の委託を受けた事務局と契約する委託事業で、事業に必要な経費をまかなう仕組みです。応募・選定前の費用は対象外です。

さらに見落とせないのは、実施要綱が原則として「本事業終了後も継続して取組みを実施すること」を応募要件にしている点です。国も「やりっぱなし」は想定していません。

それでも、薬局経営にとって大きな意味があります。地域の医薬品供給、在宅医療、健康増進、服薬支援。これらは地域に必要な機能であると同時に、薬局が強みを発揮できる領域だからです。

特に事業Ⅱは、健康増進支援薬局の認定制度化を見据えた事業です。報道によれば、厚生労働省が示した認定基準案には「認定申請前の直近1年間に、行政機関や薬剤師会などと連携した健康増進支援活動を実施していること」が含まれています(2026年5月時点の案)。事業Ⅱの取組みは、この実績づくりと方向性が重なります。

ただし、参加しただけで将来の認定や報酬が保証されるわけではありません。

3.地域貢献が、なぜ薬局の利益につながらないのか?

社会的価値を、続けられる事業に変える仕組みが足りないからです。

地域の健康イベントを開く。高齢者の服薬相談に応じる。在宅医療を支えるため近隣薬局と協力する。いずれも地域医療に欠かせない活動です。

しかし、地域に役立つことと、薬局の収益が増えることは別の問題です。

例えば、健康イベントに多くの住民が参加したとします。準備や運営にかかる薬剤師の人件費、会場費、設備費は誰が負担するのでしょうか。終了後に参加者の健康状態が改善したかを、誰が確認するのでしょうか。

成果が評価されず、費用も確保されなければ、活動を続けるほど薬局の負担は増えます。

これは薬局の努力不足ではありません。地域医療への貢献という社会的価値を、持続可能な事業に変える仕組みが不足しているという問題です。

だからこそ、活動の成果を評価し、費用を負担する主体を明確にする必要があります。

4.モデル事業を経営価値に変える「3段階」

モデル→継続事業→制度化という流れは、すでに動き始めています。

行政のモデル事業を経営の視点で見ると、次の3段階に整理できます。

第1段階:モデル事業

国の事業で、地域課題への新しい取組みを試し、効果を検証する。

第2段階:自治体・保険者との継続的な事業

成果を踏まえ、自治体や保険者などとの継続的な取組みにつなげる道を探る。

第3段階:制度・報酬・継続契約

認定制度、保険報酬、自治体との契約など、持続可能な運営基盤を築く。

図2 モデル事業から持続可能な地域医療サービスへ

この流れは、今回の事業そのものに表れています。2025年度のモデル事業の成果を、2026年度は事業Ⅰで他地域へ広げる。届出制だった健康サポート薬局は、法改正で認定制度へ移る。モデル→均てん化→制度化という道筋が、すでに動いているのです。

もちろん、すべての事業がこの順序で進むわけではありません。しかし、最初から事業終了後を考えているかどうかで、取組み方は変わります。

地元・愛知県の例:服薬適正化事業

愛知県は「保険薬局を活用した服薬適正化事業」を実施しています。レセプトデータから重複投与・多剤投与の対象者を抽出して通知を送り(2026年度は約2,000通が目安)、身近な保険薬局での相談を促す仕組みです。

仕様書には、保険薬局への委託料の定めはありません。それでも、これまで接点の少なかった住民が薬剤師に相談するきっかけになります。

ただし、行政事業を患者獲得の手段として扱うのは適切ではありません。大切なのは、相談者の意思を尊重し、必要な服薬支援や継続的な健康管理につなげることです。その積み重ねが、結果として薬局への信頼や経営価値につながります。

5.これからの中小薬局は「個店」だけで考えない

地域単位で役割を分担すれば、個店では難しい機能も提供できます。

在宅医療、医療用麻薬の供給、夜間・休日対応、健康増進、医療DX。中小薬局がこれらを単独で整えるには、人材・設備・資金の制約があります。

しかし、地域の薬局が役割を分担すれば、話は変わります。地域薬剤師会を中心に、医師会、自治体、医薬品卸、医療機関などと連携し、薬局ごとの強みを生かして地域の医療を支える。

事業Ⅰは、まさにこの「地域単位で機能をつくる」取組みです。薬剤師会の会員でない薬局も参加できます。

地域の仕組みに参加することは、単なる協力ではありません。自薬局が地域医療の中でどの役割を担うのかを明確にする機会です。

6.今、薬局経営者が考えるべき3つのこと

応募するかどうかにかかわらず、次の3つの問いに答えておきましょう。

① 自薬局は地域のどの課題に貢献できるのか

医薬品供給、在宅医療、健康増進など、自局の強みと地域の課題を照らし合わせます。

② 誰と連携すれば、その機能を実現できるのか

地域薬剤師会、自治体、医療機関、保険者などとの関係を確認します。

③ 事業が終わった後、誰が費用を負担するのか

モデル事業に参加するだけでなく、その先の運営を考えます。これは本事業の応募要件にも直結します。

想定反論|経営者から出そうな厳しい声

▶ 反論:委託費は経費の精算で利益はゼロ。管理薬剤師が事務作業に取られるだけでは?

✔ 切り返し:その通り、利益は出ません。だからこそ「翌年以降の収益機能を開発する費用を、国費でまかなう機会」と位置づけます。人件費は所属先の給与規程に基づく雇用者分が対象になり得ます(要件は要確認)。事業Ⅰなら薬剤師会が応募・経理を担うため、協力薬局の事務負担は限られます。

▶ 反論:成果物は国に帰属し、他地域に横展開される。ノウハウを差し出すだけでは?

✔ 切り返し:実施要綱上、成果物やデータは原則として国に帰属します。ただ、差別化の源泉は手順書ではなく、それを回せる薬剤師と地域の関係性です。横展開されるほど、先に実績を持つ薬局は「運営できる側」に立てます。

▶ 反論:制度化されなかったら、投じた時間が無駄になる。

✔ 切り返し:確定している収入と、見込みの収入を分けて計画します。制度化されなくても、育った人材、地域との連携、効果のデータは残ります。それらで投資の可否を判断すべきです。

 

私見|地域貢献を「コスト」で終わらせてはいけない

私は、厚生労働省のモデル事業を、薬局がもっと積極的に経営に活用してよいと考えています。

ただし、国の事業費を獲得すること自体が目的ではありません。地域に必要な医療サービスを提供し、その価値を適切に評価してもらい、得られた収益を人材や設備に再投資する。この循環をつくることが重要です。

薬価差益の縮小や人件費の上昇に対して、経費削減だけで対応する経営には限界があります。これから必要なのは、薬剤師の専門性を地域の新しい価値に変えることです。私は、モデル事業をそのための人材育成と事業開発の実践機会と捉えています。

地域に貢献するから利益を求めてはいけない、のではありません。

地域への貢献を続けるためにこそ、適正な収益が必要なのです。

もちろん、公的資金の目的外使用や不適切な患者誘引は認められません。公共性と公平性を守ることが前提です。

目指すのは、単に「地域に貢献する薬局」ではありません。「地域への貢献によって、地域とともに発展する薬局」です。モデル事業は、その転換を試す機会になると考えています。

まとめ|今月やること(締切は10月30日17時)

☐ 実施要綱と「主な審査項目」を読み、自薬局が事業Ⅰ(協力薬局)と事業Ⅱ(取組主体)のどちらに関われるか確認する

☐ 地域薬剤師会に、事業Ⅰの応募予定と協力薬局の募集の有無を問い合わせる

☐ 事業Ⅱを検討するなら、市町村の健康づくり担当や保険者に連携の可能性を打診する

☐ 疑問点は10月23日までに質問票(様式5)で事務局へ送る

☐ 応募を見送る場合も、「3つの問い」を経営会議で共有し、来年度に備える

 

参考資料

・厚生労働省|令和8年度 地域における医薬品提供体制等の構築・強化に係るモデル事業(募集ページ)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76653.html

・同|実施要綱(Ver.1.0)

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001759328.pdf

・同|令和7年度 地域医薬品提供体制構築推進事業について

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001758126.pdf

・厚生労働省|健康サポート薬局の届出件数(令和8年3月31日時点)

https://www.mhlw.go.jp/content/001719142.pdf

・中央社会保険医療協議会|調剤について(その1)(2025年9月10日、薬局数)

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001560022.pdf

・厚生労働省|高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の進捗状況(2024年9月)

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001299011.pdf

・厚生労働省|地域連携薬局・健康増進支援薬局の認定基準設定に係る基本的考え方について

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001549125.pdf

・薬事日報|健康増進支援薬局の認定基準案に関する記事(2026年5月8日)

https://www.yakuji.co.jp/entry133590.html

・愛知県|保険薬局を活用した服薬適正化事業 仕様書

https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/612697.pdf

2026年10月17日時点の情報に基づいて作成。制度・応募条件は最新の公式資料をご確認ください。

👉【note】

10/12/2026

薬局の管理栄養士は収益を生み出せるか?


―無料栄養相談から脱却する5つのビジネスモデル―

はじめに:管理栄養士は「コスト」なのか「投資」なのか

薬局に管理栄養士を配置する企業が増えています。

栄養相談、健康イベント、食生活改善のアドバイス、健康食品の紹介など、管理栄養士の活躍の場は広がっています。

しかし、薬局経営者に一つ質問があります。

「その管理栄養士は、薬局の収益にどの程度貢献しているでしょうか?」

もちろん、患者サービスの向上や地域貢献は重要です。しかし、専門職を雇用し、人件費を負担する以上、経営的な成果を考えることも必要ではないでしょうか。

私は、これからの薬局経営において、管理栄養士を「無料栄養相談を担当する人材」から「地域の健康課題を解決する事業開発人材」へと位置づけ直すことが重要だと考えています。

今回は、管理栄養士を活用した5つのビジネスモデルと、その収益性について考えてみます。


1.薬局の管理栄養士は何をしているのか?

厚生労働省の健康サポート薬局に関する調査では、薬局に所属する管理栄養士・栄養士の主な業務として、次の結果が報告されています。

主な業務
実施割合
店舗業務
81.4%
栄養相談会
74.5%
薬局単独の栄養指導
55.9%
献立等の成果物提供
47.8%
講師派遣
30.4%
特定保健指導
18.6%

※該当薬局161件の複数回答。管理栄養士・栄養士を対象とした業務実施状況であり、収益額を示す調査ではありません。

この結果から、管理栄養士が店舗業務や栄養相談に幅広く従事していることが分かります。

一方、講師派遣や特定保健指導など、専門性を外部に提供する活動は相対的に少ない状況です。

もちろん、実施割合が低いことが、そのまま収益化できていないことを意味するわけではありません。

しかし、専門職としての知識や経験を、新しい商品やサービスに変換する余地はあるのではないでしょうか。

私は、薬局に管理栄養士を配置すること自体が差別化になる時代から、その専門性をどのような価値として提供できるかが問われる時代へと移りつつあると考えています。


【図1:管理栄養士の役割転換―無料相談から収益事業へ】


2.管理栄養士を収益化する5つのビジネスモデル

管理栄養士の収益化というと、有料栄養相談を思い浮かべるかもしれません。

しかし、収益化の方法はそれだけではありません。

モデル① 健康食品・栄養補助食品の専門販売

最も導入しやすいのが、管理栄養士による健康食品や栄養補助食品の専門販売です。

例えば、高齢者向けのたんぱく質補給食品、減塩食品、低糖質食品、介護食、栄養補助飲料などが考えられます。

一般のスーパーやドラッグストアとの違いは、管理栄養士が利用者の食生活や栄養状態を確認し、必要な商品を選択することです。

例えば、食事量が減少している高齢者に対して、普段の食事内容を確認し、必要に応じて栄養補助食品を紹介することができます。

重要なのは、商品を売ることではなく、健康課題を解決するための商品を提供することです。

特に、在宅患者や高齢者の利用が多い薬局では、継続購入につながる可能性があります。

ただし、健康食品は医薬品ではありません。疾病の治療効果を保証するような説明は避ける必要があります。

モデル② 健康測定と栄養相談のパッケージ販売

体組成計や血圧計などを活用し、健康状態を可視化するサービスです。

例えば、体組成測定と15分程度の栄養相談を組み合わせた有料サービスが考えられます。

重要なのは、測定結果を説明するだけで終わらせないことです。

「筋肉量を維持するために、これから1か月間、どのような食生活を実践するのか」

具体的な行動目標を設定し、次回の測定で変化を確認します。

これにより、単発の健康イベントを継続的な健康管理サービスへ発展させることができます。

モデル③ 月額制の栄養サポートサービス

私が特に可能性を感じるのが、管理栄養士による継続的な栄養支援です。

例えば、健康診断で生活習慣の改善を勧められた40〜60代の現役世代を対象に、「3か月間の食生活改善サポート」を提供します。

サービス内容は、月1回の体組成測定、LINEによる食事写真の報告、管理栄養士からの定期的なアドバイスなどです。

料金は、仮に月額5,000円とします。

10人の契約者がいれば月額売上は5万円、30人なら15万円となります。

もちろん、これは売上であり、人件費やシステム費用などを差し引いた利益ではありません。

実際に、ウエルシア薬局では有料の栄養サポートサービスが展開されており、公開されたサービスには月額1,100円から3,850円の料金設定があります。

つまり、有料栄養指導はすでに実在する事業モデルです。

ただし、月額5,000円のサービスを成立させるには、相談だけでなく、測定や個別分析、継続的な支援など、価格に見合う価値が必要でしょう。

モデル④ 地元飲食店・食品事業者とのコラボレーション

薬局内にカフェや調理設備を設けるには、初期投資や人員確保が必要です。

そこで考えたいのが、地域の飲食店や食品事業者との連携です。

例えば、地元の弁当店と協力して、管理栄養士監修の減塩弁当や高たんぱく弁当を開発します。

薬局はメニュー監修や栄養情報の提供を担当し、調理・販売は既存の食品事業者が担当します。

薬局側は監修料や、契約に基づく販売ロイヤリティなどを収益源とすることが考えられます。

京都府舞鶴市の「ゆう薬局カフェ」のように、管理栄養士監修の食事や健康相談を組み合わせた地域連携の取り組みもあります。

ただし、こうした事例の存在と、事業としての黒字化は区別して考える必要があります。

私は、薬局が自ら飲食店を経営するよりも、まずは地域の既存事業者と連携する方法が、中小薬局には取り組みやすいと考えています。

モデル⑤ 企業向け健康経営支援サービス

管理栄養士の活躍の場を、薬局の来局者だけに限定する必要はありません。

地域の中小企業に対して、従業員の健康づくりを支援するサービスを提供する方法もあります。

例えば、従業員向け栄養セミナー、健康診断後の食生活改善支援、個別栄養相談、健康イベントの企画・運営などです。

日本調剤などでは、管理栄養士による企業向け健康支援や特定保健指導などの取り組みが行われています。

企業側にとっては、従業員の健康維持や福利厚生の充実につながります。

薬局側は、単発の研修料や年間契約による継続収入を得られる可能性があります。

私は、このB2Bモデルに特に注目しています。

薬局の商圏を「処方箋を持参する患者」から「地域で生活し、働く人々」へと広げることができるからです。


【図2:管理栄養士を活用した5つの収益モデル比較】


3.収益化の鍵は「モノ+測定+伴走」

有料栄養指導を事業として成立させるうえで重要なのは、利用者が価格に見合う価値を実感できることです。

私は、その基本構造を3つに整理できると考えます。

① モノ:具体的な商品や食事

栄養補助食品、健康食品、監修弁当など、利用者が実際に手に取れるものです。

② 測定:変化を可視化する仕組み

体組成や生活習慣の記録などを活用して、取り組みの経過を確認します。

③ 伴走:継続的なコミュニケーション

管理栄養士が利用者の行動を支援し、無理のない改善を続けられるようにします。

例えば、月額5,000円のサービスでも、単に月1回の相談を受けるだけでは価格に納得しにくいかもしれません。

しかし、測定、具体的な食生活改善提案、定期的なフォローが組み合わされば、継続利用する理由が生まれます。

ここで注意したいのは、健康食品を販売するために相談を行うのではないということです。

管理栄養士の専門的判断に基づき、必要なサービスや商品を提案することが、薬局への信頼を守る条件になります。


4.実際にいくら稼げるのか? 収益シミュレーション

ここでは、管理栄養士を配置する薬局が小規模に新規事業を始めた場合を想定してみます。

以下は実績値ではなく、事業性を考えるための仮定です。

収益項目月間売上
健康食品販売:50件×2,000円100,000円
健康測定・相談:20件×1,000円20,000円
栄養サポート:10人×5,000円50,000円
企業向け栄養セミナー:1回30,000円
合計200,000円

月間売上20万円、年間では240万円です。

しかし、売上がそのまま利益になるわけではありません。

商品仕入原価、管理栄養士の人件費、システム費用、広告費などを差し引く必要があります。

例えば、月間売上20万円に対して、商品原価などの変動費が7万円、追加的な固定費が3万円なら、既存人件費の配賦前の貢献利益は10万円です。

管理栄養士を新たに採用する場合には、その人件費も含めて採算を評価しなければなりません。

一方、すでに配置している管理栄養士の稼働余力を活用する場合は、比較的小さな追加投資で事業を開始できる可能性があります。

重要なのは、売上だけでなく、管理栄養士の稼働時間と損益分岐点を管理することです。


【図3:管理栄養士の収益モデル―月間売上20万円の内訳と損益構造】


5.LINEと生成AIで管理栄養士の業務を効率化する

有料栄養指導の大きな課題は、利用者が増えるほど管理栄養士の業務負担が増えることです。

例えば、30人の利用者から毎日食事写真が送られてきた場合、すべてに個別返信していては通常業務に支障が生じかねません。

そこで、LINE公式アカウントなどを活用した業務の標準化が重要になります。

運用のポイントは3つです。

第一に、返信時間と回数を決めること。

24時間対応を約束せず、契約時に返信日や返信頻度を明示します。

第二に、報告方法を簡単にすること。

食事写真と簡単なコメントを基本とし、利用者の負担を減らします。

第三に、アドバイスをテンプレート化すること。

食事内容を褒めるメッセージ、栄養バランスの改善提案、報告が途絶えた場合のフォローなどを標準化します。

生成AIを活用すれば、こうした文章の下書き作成や健康情報コンテンツの制作も効率化できるでしょう。

ただし、個人の健康情報を取り扱う場合は、本人同意、情報管理、利用サービスの安全性を確認する必要があります。

また、AIが作成した栄養指導文をそのまま送信するのではなく、管理栄養士が内容を確認する運用が必要です。

AIに任せるのは文章作成などの定型業務。専門的判断は管理栄養士が担う。

この役割分担が重要だと考えます。


6.経営者が最初に取り組むべき3つの行動

では、実際に何から始めればよいのでしょうか。

私は、次の3つを提案します。

① 管理栄養士の業務を棚卸しする

まず、現在の業務時間を確認します。

栄養相談、事務業務、健康イベント、商品販売などに、それぞれ何時間使っているでしょうか。

管理栄養士の専門性が十分に発揮されていない業務があれば、役割分担を見直す余地があります。

② 一つのターゲットに絞って商品を作る

最初から糖尿病、肥満、フレイル、介護食など、すべてに対応する必要はありません。

例えば、高齢者が多い薬局なら「フレイル予防の栄養サポート」、現役世代が多い薬局なら「健康診断後の食生活改善サポート」など、対象を絞ることが有効です。

そして、まずは5〜10人程度の利用者で試験運用してみます。

③ 売上だけでなく継続率と成果を測定する

事業評価では、売上だけを見てはいけません。

利用者数、有料サービスへの移行率、継続率、管理栄養士の稼働時間、利用者満足度、行動変容などを確認します。

特に重要なのは、「継続して利用したい」と感じてもらえるサービスになっているかという点です。

単なる商品販売では、価格競争に巻き込まれます。

しかし、管理栄養士の専門的な支援が組み合わされば、利用者にとっての価値は変わります。


7.私見:管理栄養士は薬局の新しい事業開発人材になる

これからの薬局は、処方箋を受け付け、薬を交付する機能だけで経営の持続可能性を考えることが難しくなっていくと私は考えています。

薬局には、薬剤師という医薬品の専門家がいます。

そして管理栄養士が加われば、薬物療法と食生活の両面から、地域住民の健康を支えることができます。

しかし、この組み合わせを単なる患者サービスで終わらせてしまうのは、経営的にも地域医療の観点からも、もったいないことではないでしょうか。

薬剤師は薬物療法の適正化を担い、管理栄養士は栄養・食生活の改善を支援する。

さらに、地域の飲食店、企業、行政、医療機関と連携すれば、薬局を起点とした新しい健康支援事業が生まれる可能性があります。

もちろん、管理栄養士の収益化を急ぐあまり、不要な商品販売や過剰なサービス契約を促すことがあってはなりません。

利用者の健康課題を解決した結果として、適正な対価を得る。

この順序を守ることが、専門職を活用した持続可能なビジネスの条件だと考えます。

私は、これからの管理栄養士を、薬局の補助的な専門職ではなく、新たな事業を企画し、地域の健康需要を掘り起こす「事業開発人材」として評価すべきではないかと考えています。


おわりに:無料相談から、価値を生み出すサービスへ

薬局の管理栄養士を収益化するというと、栄養相談を有料にすることだけを想像するかもしれません。

しかし、本質はそこではありません。

管理栄養士の専門知識を、商品、測定、継続支援、地域連携という具体的なサービスに変換することです。

その第一歩は、大きな設備投資でも、新たな人材採用でもありません。

「自局の管理栄養士は、地域の誰の、どのような健康課題を解決できるのか」

この問いを経営者と管理栄養士が一緒に考えることから始まります。

調剤報酬以外の収益を増やすことは、単なる売上拡大策ではありません。

薬局が地域の健康インフラとして生き残るための、新たな経営戦略の一つではないでしょうか。


参考資料

  • 厚生労働省「健康サポート薬局に関する調査結果」(令和6年度予算事業)

  • ウエルシア薬局「栄養コンシェルジュサービス」公開情報(2026年3月)

  • サノ・ファーマシー「栄養相談・食事記録分析サービス」公開情報

  • ゆう薬局カフェ(京都府舞鶴市)の活動紹介

  • 日本調剤の管理栄養士による健康支援事業紹介

  • 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」

  • 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」

※収益シミュレーションは筆者による仮定であり、実際の事業収益を保証するものではありません。制度・法規制については、事業開始時点の最新情報を確認してください。

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