厚労省のモデル事業は、薬局の新たな収益源になるのか?

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30秒で読む要約 ■2026年10月13日、厚生労働省が「令和8年度 地域における医薬品提供体制等の構築・強化に係るモデル事業」の募集を始めました。締切は10月30日(金)17時です。 ■事業費は国の委託事業として必要経費に充てるお金です。薬局の利益になるわけではありません。 ■しかも実施要綱は、原則として「事業終了後も取組みを続けること」を応募要件にしています。 ■だから問うべきは、「事業が終わった翌年に、誰が、どの財源で続けるのか」です。 ■本記事では、行政事業が地域に根付く3条件と、経営者が今確認すべき3つの問いを整理します。実践的な応募方法は実践編で解説します。 |
1.行政のモデル事業は、本当に地域に根付いているのか?
全国に広がる事業には、法制度・財源・成果評価の3つがそろっています。
私は以前から、行政のモデル事業に一つの疑問を持っていました。
「多くの事業は、実施期間が終われば元に戻ってしまうのではないか」
モデル事業では、関係機関が連携して新しい取組みを試し、報告書を作成します。しかし翌年はどうでしょうか。予算がなくなり、担当者が異動し、せっかくの仕組みが使われなくなる。地域医療の現場でも、この継続性の問題は無視できません。
そこで、薬局関連の制度や事業の広がりを比べてみました。
健康サポート薬局の届出は、2026年3月31日時点で3,592薬局です。全国の薬局数(62,828、2023年度末)と比べると、6%弱にとどまります。
一方、高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施は、2024年度中に全国1,741市町村のうち1,708市町村(約98%)で実施される予定でした。2023年度の実施済みは1,396市町村(80%)で、1年で大きく広がっています。
もちろん、薬局の届出数と自治体の実施率は異なる指標で、単純には比べられません。
それでも示唆はあります。一体的実施には、法律上の位置づけと役割分担、継続的な財源の流れ、実施状況を測る目標がそろっていました。一方、健康サポート薬局は届出制で、直接の収益との結び付きも弱く、多くの薬局が積極的に参加する形にはなりませんでした。
その健康サポート薬局は、2025年5月公布の改正薬機法で、認定制の「健康増進支援薬局」へ移行することになりました(公布後2年以内に施行予定)。今回のモデル事業は、まさにこの転換点に置かれています。
行政事業を評価するには、「実施したか」だけでなく、「成果が生まれたか」「その後も続いているか」を分けて考える必要があります。
地域に根付く仕組みをつくれるかどうか。これがモデル事業の重要な評価軸だと考えます。

図1 行政事業が地域に定着するための3条件
2.2026年度のモデル事業は、薬局経営に何をもたらすのか?
国が求める機能と、薬局が将来の事業にできる機能が重なっています。
2026年10月13日、厚生労働省は「令和8年度
地域における医薬品提供体制等の構築・強化に係るモデル事業」の募集を開始しました。応募期間は10月30日(金)17時(電子メール必着)までです。質問は10月23日まで、所定の質問票で受け付けています。
事業は二つの区分に分かれています。
表1 令和8年度モデル事業の2区分(概要)
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項目 |
事業Ⅰ |
事業Ⅱ |
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正式名称 |
令和7年度 地域医薬品提供体制構築推進事業を踏まえた好事例の均てん化 |
健康増進支援薬局の認定制度化を見据えた健康サポート機能を持った薬局の取組みの効果検証等 |
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取組主体 |
地域薬剤師会(非会員薬局の参加も可) |
薬局(複数薬局・薬剤師会との協働も可) |
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主な内容 |
拠点薬局との連携、拠点薬局の整備 |
行政・保険者と連携した健康づくりと効果検証 |
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採択予定 |
10~20件 |
10~20件 |
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1件当たりの上限(目安) |
1,000万円(税込) |
500万円(税込) |
注:金額は事業に必要な経費の上限の目安で、薬局の利益や採択を保証するものではありません。
出典:厚生労働省「令和8年度 地域における医薬品提供体制等の構築・強化に係るモデル事業」募集ページ・実施要綱(Ver.1.0)
事業Ⅰ:2025年度の好事例を全国へ広げる
事業Ⅰは、2025年度の「地域医薬品提供体制構築推進事業」の成果を、他の地域へ広げる(均てん化する)ための事業です。2025年度は全47都道府県で取組みが行われ、そのうちモデル事業は10課題でした。
地域薬剤師会が主体となり、地域の拠点となる薬局との連携や、拠点薬局がない市区町村での体制整備などに取り組みます。
事業Ⅱ:薬局の健康サポート機能を検証する
事業Ⅱは、薬局が主体となって地域住民の健康の保持・増進に取り組み、その効果を検証する事業です。行政機関や保険者との連携、複数薬局での共同実施も想定されています。
「利益」ではなく「必要経費」、そして「継続」が条件
注意したいのは、これらの金額が薬局の利益になるわけではないことです。本事業は厚生労働省の委託を受けた事務局と契約する委託事業で、事業に必要な経費をまかなう仕組みです。応募・選定前の費用は対象外です。
さらに見落とせないのは、実施要綱が原則として「本事業終了後も継続して取組みを実施すること」を応募要件にしている点です。国も「やりっぱなし」は想定していません。
それでも、薬局経営にとって大きな意味があります。地域の医薬品供給、在宅医療、健康増進、服薬支援。これらは地域に必要な機能であると同時に、薬局が強みを発揮できる領域だからです。
特に事業Ⅱは、健康増進支援薬局の認定制度化を見据えた事業です。報道によれば、厚生労働省が示した認定基準案には「認定申請前の直近1年間に、行政機関や薬剤師会などと連携した健康増進支援活動を実施していること」が含まれています(2026年5月時点の案)。事業Ⅱの取組みは、この実績づくりと方向性が重なります。
ただし、参加しただけで将来の認定や報酬が保証されるわけではありません。
3.地域貢献が、なぜ薬局の利益につながらないのか?
社会的価値を、続けられる事業に変える仕組みが足りないからです。
地域の健康イベントを開く。高齢者の服薬相談に応じる。在宅医療を支えるため近隣薬局と協力する。いずれも地域医療に欠かせない活動です。
しかし、地域に役立つことと、薬局の収益が増えることは別の問題です。
例えば、健康イベントに多くの住民が参加したとします。準備や運営にかかる薬剤師の人件費、会場費、設備費は誰が負担するのでしょうか。終了後に参加者の健康状態が改善したかを、誰が確認するのでしょうか。
成果が評価されず、費用も確保されなければ、活動を続けるほど薬局の負担は増えます。
これは薬局の努力不足ではありません。地域医療への貢献という社会的価値を、持続可能な事業に変える仕組みが不足しているという問題です。
だからこそ、活動の成果を評価し、費用を負担する主体を明確にする必要があります。
4.モデル事業を経営価値に変える「3段階」
モデル→継続事業→制度化という流れは、すでに動き始めています。
行政のモデル事業を経営の視点で見ると、次の3段階に整理できます。
第1段階:モデル事業
国の事業で、地域課題への新しい取組みを試し、効果を検証する。
第2段階:自治体・保険者との継続的な事業
成果を踏まえ、自治体や保険者などとの継続的な取組みにつなげる道を探る。
第3段階:制度・報酬・継続契約
認定制度、保険報酬、自治体との契約など、持続可能な運営基盤を築く。

図2 モデル事業から持続可能な地域医療サービスへ
この流れは、今回の事業そのものに表れています。2025年度のモデル事業の成果を、2026年度は事業Ⅰで他地域へ広げる。届出制だった健康サポート薬局は、法改正で認定制度へ移る。モデル→均てん化→制度化という道筋が、すでに動いているのです。
もちろん、すべての事業がこの順序で進むわけではありません。しかし、最初から事業終了後を考えているかどうかで、取組み方は変わります。
地元・愛知県の例:服薬適正化事業
愛知県は「保険薬局を活用した服薬適正化事業」を実施しています。レセプトデータから重複投与・多剤投与の対象者を抽出して通知を送り(2026年度は約2,000通が目安)、身近な保険薬局での相談を促す仕組みです。
仕様書には、保険薬局への委託料の定めはありません。それでも、これまで接点の少なかった住民が薬剤師に相談するきっかけになります。
ただし、行政事業を患者獲得の手段として扱うのは適切ではありません。大切なのは、相談者の意思を尊重し、必要な服薬支援や継続的な健康管理につなげることです。その積み重ねが、結果として薬局への信頼や経営価値につながります。
5.これからの中小薬局は「個店」だけで考えない
地域単位で役割を分担すれば、個店では難しい機能も提供できます。
在宅医療、医療用麻薬の供給、夜間・休日対応、健康増進、医療DX。中小薬局がこれらを単独で整えるには、人材・設備・資金の制約があります。
しかし、地域の薬局が役割を分担すれば、話は変わります。地域薬剤師会を中心に、医師会、自治体、医薬品卸、医療機関などと連携し、薬局ごとの強みを生かして地域の医療を支える。
事業Ⅰは、まさにこの「地域単位で機能をつくる」取組みです。薬剤師会の会員でない薬局も参加できます。
地域の仕組みに参加することは、単なる協力ではありません。自薬局が地域医療の中でどの役割を担うのかを明確にする機会です。
6.今、薬局経営者が考えるべき3つのこと
応募するかどうかにかかわらず、次の3つの問いに答えておきましょう。
① 自薬局は地域のどの課題に貢献できるのか
医薬品供給、在宅医療、健康増進など、自局の強みと地域の課題を照らし合わせます。
② 誰と連携すれば、その機能を実現できるのか
地域薬剤師会、自治体、医療機関、保険者などとの関係を確認します。
③ 事業が終わった後、誰が費用を負担するのか
モデル事業に参加するだけでなく、その先の運営を考えます。これは本事業の応募要件にも直結します。
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想定反論|経営者から出そうな厳しい声 ▶
反論:委託費は経費の精算で利益はゼロ。管理薬剤師が事務作業に取られるだけでは? ✔ 切り返し:その通り、利益は出ません。だからこそ「翌年以降の収益機能を開発する費用を、国費でまかなう機会」と位置づけます。人件費は所属先の給与規程に基づく雇用者分が対象になり得ます(要件は要確認)。事業Ⅰなら薬剤師会が応募・経理を担うため、協力薬局の事務負担は限られます。 ▶
反論:成果物は国に帰属し、他地域に横展開される。ノウハウを差し出すだけでは? ✔ 切り返し:実施要綱上、成果物やデータは原則として国に帰属します。ただ、差別化の源泉は手順書ではなく、それを回せる薬剤師と地域の関係性です。横展開されるほど、先に実績を持つ薬局は「運営できる側」に立てます。 ▶
反論:制度化されなかったら、投じた時間が無駄になる。 ✔ 切り返し:確定している収入と、見込みの収入を分けて計画します。制度化されなくても、育った人材、地域との連携、効果のデータは残ります。それらで投資の可否を判断すべきです。 |
私見|地域貢献を「コスト」で終わらせてはいけない
私は、厚生労働省のモデル事業を、薬局がもっと積極的に経営に活用してよいと考えています。
ただし、国の事業費を獲得すること自体が目的ではありません。地域に必要な医療サービスを提供し、その価値を適切に評価してもらい、得られた収益を人材や設備に再投資する。この循環をつくることが重要です。
薬価差益の縮小や人件費の上昇に対して、経費削減だけで対応する経営には限界があります。これから必要なのは、薬剤師の専門性を地域の新しい価値に変えることです。私は、モデル事業をそのための人材育成と事業開発の実践機会と捉えています。
地域に貢献するから利益を求めてはいけない、のではありません。
地域への貢献を続けるためにこそ、適正な収益が必要なのです。
もちろん、公的資金の目的外使用や不適切な患者誘引は認められません。公共性と公平性を守ることが前提です。
目指すのは、単に「地域に貢献する薬局」ではありません。「地域への貢献によって、地域とともに発展する薬局」です。モデル事業は、その転換を試す機会になると考えています。
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まとめ|今月やること(締切は10月30日17時) ☐ 実施要綱と「主な審査項目」を読み、自薬局が事業Ⅰ(協力薬局)と事業Ⅱ(取組主体)のどちらに関われるか確認する ☐ 地域薬剤師会に、事業Ⅰの応募予定と協力薬局の募集の有無を問い合わせる ☐ 事業Ⅱを検討するなら、市町村の健康づくり担当や保険者に連携の可能性を打診する ☐ 疑問点は10月23日までに質問票(様式5)で事務局へ送る ☐ 応募を見送る場合も、「3つの問い」を経営会議で共有し、来年度に備える |
参考資料
・厚生労働省|令和8年度
地域における医薬品提供体制等の構築・強化に係るモデル事業(募集ページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76653.html
・同|実施要綱(Ver.1.0)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001759328.pdf
・同|令和7年度
地域医薬品提供体制構築推進事業について
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001758126.pdf
・厚生労働省|健康サポート薬局の届出件数(令和8年3月31日時点)
https://www.mhlw.go.jp/content/001719142.pdf
・中央社会保険医療協議会|調剤について(その1)(2025年9月10日、薬局数)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001560022.pdf
・厚生労働省|高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の進捗状況(2024年9月)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001299011.pdf
・厚生労働省|地域連携薬局・健康増進支援薬局の認定基準設定に係る基本的考え方について
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001549125.pdf
・薬事日報|健康増進支援薬局の認定基準案に関する記事(2026年5月8日)
https://www.yakuji.co.jp/entry133590.html
・愛知県|保険薬局を活用した服薬適正化事業
仕様書
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/612697.pdf
2026年10月17日時点の情報に基づいて作成。制度・応募条件は最新の公式資料をご確認ください。