AI薬歴はどこまで広がった?
――全国「1〜2割」という推計をどう読むか

2026年10月27日時点/公開情報を基に編集
服薬指導の会話を文字起こしし、SOAP形式の薬歴案を作るAI薬歴。大手チェーンでの導入や電子薬歴への標準搭載が進む一方、全国の薬局で実際に何割が日常利用しているのか、信頼できる全国統計は確認できません。
この記事では「契約・導入」「日常利用」「業務改善」「薬学的品質」を分けて考えます。数字が大きく見えるほど、その定義を確かめる必要があります。
【数字で見る現在地】
カケハシは2026年8月末時点で導入5,500店舗を公表。corte系は2026年1月発表で契約2,000件超。単純合計は約7,500ですが、指標・時点が異なり、重複の有無も確認できないため、全国の導入店舗実数を表すものではありません。全国薬局63,203施設(2024年度末)で割った11.9%も「参考計算値」であって普及率ではありません。
別の角度では、矢野経済研究所が2026年に中小薬局352薬局を調査し、導入済み15.3%、導入準備中3.7%と報告しました。19.0%は導入済みと準備中の合計であり、導入済み率ではありません。この調査を全国全薬局へ機械的に外挿することもできません。
したがって「全国の1〜2割」は、複数の公開情報と整合するおおまかな見立てにとどまります。全国普及率の確定値ではありません。
なお、ソラミチシステムが2025年9〜10月に薬剤師1,058名に行ったインターネット調査では、「勤務先の薬局でAIを導入している」との回答が51.4%でした。ただし、この「AI」は音声認識・記録支援・在庫管理・調剤支援などAI機能全般を指し、AI薬歴に限りません。また、薬局数ではなく回答した薬剤師の割合であり、回答者の勤務先の構成によって結果は変わり得ます。調査主体が薬歴システムの提供会社である点にも留意が必要です。「約半数」と「1〜2割」は矛盾するものではなく、数えている対象が違うと読むべきでしょう。

【AI薬歴の3つの方向】
第一は、会話を記録しSOAP案を作る「記録支援」。第二は、処方や既往情報をもとに確認事項を提示する「指導支援」。第三は、既存の電子薬歴を変更せずに連携する「後付け型」です。製品ごとの搭載機能・契約条件は異なり、同一の区分に重なるものもあります。
【時短は確かに魅力、ただし効果の意味を確認する】
カケハシは日常利用店舗の実測比較で薬歴記載時間19.7%短縮と公表しています。ただし無作為化比較ではありません。原稿にはウエルシアの平均50秒、トモズの42秒、ふたば薬局の100秒短縮も紹介されています。測定対象、母数、比較方法が異なるため横並びの性能ランキングにはできません。

【導入より重要な3つの評価】
①利用率:対象薬歴のうちAI案を使った割合。
②総作業時間:録音準備、確認・修正を含めた1件当たりの時間。
③品質:誤記、薬学的評価の欠落、疑義照会・フォローアップにつながった発見の質。AIの文章が流暢でも、薬学的に正しいとは限りません。
【患者情報の扱い】
服薬指導の会話には、病名や服薬状況などの要配慮個人情報が含まれます。録音された音声も、個人を識別できる場合には個人情報に該当します。録音に特化した法令上の簡易な手続きは見当たりませんが、個人情報保護委員会・厚生労働省のガイダンスは、患者が自ら話した情報は提供をもって取得に同意があったと解されること、利用目的を院内掲示で示し、反対の意思表示がなければ同意が得られていると考えられる場合があることを示しています。ただし、録音やAIによる処理がこの「通常必要な範囲」に含まれるかは明記されていません。本記事では法的な要否を断定しませんが、実務上は次の手順が考えられます。
- 院内とウェブサイトに「服薬指導の会話を録音し、AIで薬歴の下書きを作成する」ことを利用目的として掲示する
- 録音の開始前に口頭で一言伝える
- 断った患者には録音せず、通常どおり記録する(断れる運用にする)
- ベンダーとの契約で、音声データの保存期間・削除、AIの学習への利用の有無、保存場所(国内か)を確認する
最終的な判断は、自薬局の個人情報保護方針や、必要に応じて専門家への確認によってください。

【令和8年度改定とAI薬歴】
令和8年度改定では、医療DX推進体制整備加算(3区分)が「電子的調剤情報連携体制整備加算」に改称・一本化され、月1回8点となりました(調剤基本料 注14)。算定には、算定月の3か月前の件数ベースのマイナ保険証利用率30%以上のほか、電子処方箋や電子薬歴などの体制が求められます。一方、AI薬歴そのものを評価する点数は確認できません。AI薬歴の投資回収は、加算ではなく、生まれた時間を対人業務にどう振り向けるかで考える必要があります。
【薬局経営者への提案】
まず現行電子薬歴の標準機能・追加費用・データ取扱条件を確認します。次に2〜4週間の試行期間を設け、導入前後の総作業時間、修正率、患者説明の実施状況を記録します。削減できた時間を服薬フォローアップや多職種連携に振り向けられたかまで検証しましょう。

【私見】
AI薬歴の価値は、SOAPを速く書けることだけではありません。記録の時間を、患者の変化を見つける時間に転換できるかどうかです。「導入した薬局」が増える次の段階では、「安全に使い、薬学的な成果を示せる薬局」が問われると考えます。
※本稿の「1〜2割」は推計上の目安であり、国の公表普及率ではありません。各社数値は公表主体による情報です。
参考URL
カケハシHp
https://www.kakehashi.life/news-post/20260915
矢野経済研究所「中小薬局のICT活用動向等に関する法人アンケート調査を実施(2026年)」
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/4076
ソラミチシステム「薬剤師の業務実態に関する調査」(2026年1月8日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000077012.html
個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(令和8年4月一部改正) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260401_iryoukaigo_guidance.pdf
厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/24/dl/gaikyo.pdf
令和8年厚生労働省告示第69号(調剤点数表)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001665294.pdf
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」p.28 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf
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