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10/27/2026

AI薬歴はどこまで広がった? ――全国「1〜2割」という推計をどう読むか

 AI薬歴はどこまで広がった?

――全国「1〜2割」という推計をどう読むか

2026年10月27日時点/公開情報を基に編集

服薬指導の会話を文字起こしし、SOAP形式の薬歴案を作るAI薬歴。大手チェーンでの導入や電子薬歴への標準搭載が進む一方、全国の薬局で実際に何割が日常利用しているのか、信頼できる全国統計は確認できません。

この記事では「契約・導入」「日常利用」「業務改善」「薬学的品質」を分けて考えます。数字が大きく見えるほど、その定義を確かめる必要があります。

【数字で見る現在地】

カケハシは2026年8月末時点で導入5,500店舗を公表。corte系は2026年1月発表で契約2,000件超。単純合計は約7,500ですが、指標・時点が異なり、重複の有無も確認できないため、全国の導入店舗実数を表すものではありません。全国薬局63,203施設(2024年度末)で割った11.9%も「参考計算値」であって普及率ではありません。

別の角度では、矢野経済研究所が2026年に中小薬局352薬局を調査し、導入済み15.3%、導入準備中3.7%と報告しました。19.0%は導入済みと準備中の合計であり、導入済み率ではありません。この調査を全国全薬局へ機械的に外挿することもできません。

したがって「全国の1〜2割」は、複数の公開情報と整合するおおまかな見立てにとどまります。全国普及率の確定値ではありません。

なお、ソラミチシステムが2025年9〜10月に薬剤師1,058名に行ったインターネット調査では、「勤務先の薬局でAIを導入している」との回答が51.4%でした。ただし、この「AI」は音声認識・記録支援・在庫管理・調剤支援などAI機能全般を指し、AI薬歴に限りません。また、薬局数ではなく回答した薬剤師の割合であり、回答者の勤務先の構成によって結果は変わり得ます。調査主体が薬歴システムの提供会社である点にも留意が必要です。「約半数」と「1〜2割」は矛盾するものではなく、数えている対象が違うと読むべきでしょう。

【AI薬歴の3つの方向】

第一は、会話を記録しSOAP案を作る「記録支援」。第二は、処方や既往情報をもとに確認事項を提示する「指導支援」。第三は、既存の電子薬歴を変更せずに連携する「後付け型」です。製品ごとの搭載機能・契約条件は異なり、同一の区分に重なるものもあります。

【時短は確かに魅力、ただし効果の意味を確認する】

カケハシは日常利用店舗の実測比較で薬歴記載時間19.7%短縮と公表しています。ただし無作為化比較ではありません。原稿にはウエルシアの平均50秒、トモズの42秒、ふたば薬局の100秒短縮も紹介されています。測定対象、母数、比較方法が異なるため横並びの性能ランキングにはできません。

【導入より重要な3つの評価】

①利用率:対象薬歴のうちAI案を使った割合。

②総作業時間:録音準備、確認・修正を含めた1件当たりの時間。

③品質:誤記、薬学的評価の欠落、疑義照会・フォローアップにつながった発見の質。AIの文章が流暢でも、薬学的に正しいとは限りません。

【患者情報の扱い】

服薬指導の会話には、病名や服薬状況などの要配慮個人情報が含まれます。録音された音声も、個人を識別できる場合には個人情報に該当します。録音に特化した法令上の簡易な手続きは見当たりませんが、個人情報保護委員会・厚生労働省のガイダンスは、患者が自ら話した情報は提供をもって取得に同意があったと解されること、利用目的を院内掲示で示し、反対の意思表示がなければ同意が得られていると考えられる場合があることを示しています。ただし、録音やAIによる処理がこの「通常必要な範囲」に含まれるかは明記されていません。本記事では法的な要否を断定しませんが、実務上は次の手順が考えられます。

  • 院内とウェブサイトに「服薬指導の会話を録音し、AIで薬歴の下書きを作成する」ことを利用目的として掲示する
  • 録音の開始前に口頭で一言伝える
  • 断った患者には録音せず、通常どおり記録する(断れる運用にする)
  • ベンダーとの契約で、音声データの保存期間・削除、AIの学習への利用の有無、保存場所(国内か)を確認する

最終的な判断は、自薬局の個人情報保護方針や、必要に応じて専門家への確認によってください。

【令和8年度改定とAI薬歴】

令和8年度改定では、医療DX推進体制整備加算(3区分)が「電子的調剤情報連携体制整備加算」に改称・一本化され、月1回8点となりました(調剤基本料 注14)。算定には、算定月の3か月前の件数ベースのマイナ保険証利用率30%以上のほか、電子処方箋や電子薬歴などの体制が求められます。一方、AI薬歴そのものを評価する点数は確認できません。AI薬歴の投資回収は、加算ではなく、生まれた時間を対人業務にどう振り向けるかで考える必要があります。

【薬局経営者への提案】

まず現行電子薬歴の標準機能・追加費用・データ取扱条件を確認します。次に2〜4週間の試行期間を設け、導入前後の総作業時間、修正率、患者説明の実施状況を記録します。削減できた時間を服薬フォローアップや多職種連携に振り向けられたかまで検証しましょう。

【私見】

AI薬歴の価値は、SOAPを速く書けることだけではありません。記録の時間を、患者の変化を見つける時間に転換できるかどうかです。「導入した薬局」が増える次の段階では、「安全に使い、薬学的な成果を示せる薬局」が問われると考えます。

※本稿の「1〜2割」は推計上の目安であり、国の公表普及率ではありません。各社数値は公表主体による情報です。

 

参考URL
カケハシHp

https://www.kakehashi.life/news-post/20260915

矢野経済研究所「中小薬局のICT活用動向等に関する法人アンケート調査を実施(2026年)」

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/4076

ソラミチシステム「薬剤師の業務実態に関する調査」(2026年1月8日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000077012.html

個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(令和8年4月一部改正) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260401_iryoukaigo_guidance.pdf

厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/24/dl/gaikyo.pdf

令和8年厚生労働省告示第69号(調剤点数表) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001665294.pdf

厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」p.28 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf


👉【note版】:AI薬歴は、もう珍しいものではない? ――数字から考える薬剤師の次の仕事


10/12/2026

薬局の管理栄養士は収益を生み出せるか?


―無料栄養相談から脱却する5つのビジネスモデル―

はじめに:管理栄養士は「コスト」なのか「投資」なのか

薬局に管理栄養士を配置する企業が増えています。

栄養相談、健康イベント、食生活改善のアドバイス、健康食品の紹介など、管理栄養士の活躍の場は広がっています。

しかし、薬局経営者に一つ質問があります。

「その管理栄養士は、薬局の収益にどの程度貢献しているでしょうか?」

もちろん、患者サービスの向上や地域貢献は重要です。しかし、専門職を雇用し、人件費を負担する以上、経営的な成果を考えることも必要ではないでしょうか。

私は、これからの薬局経営において、管理栄養士を「無料栄養相談を担当する人材」から「地域の健康課題を解決する事業開発人材」へと位置づけ直すことが重要だと考えています。

今回は、管理栄養士を活用した5つのビジネスモデルと、その収益性について考えてみます。


1.薬局の管理栄養士は何をしているのか?

厚生労働省の健康サポート薬局に関する調査では、薬局に所属する管理栄養士・栄養士の主な業務として、次の結果が報告されています。

主な業務
実施割合
店舗業務
81.4%
栄養相談会
74.5%
薬局単独の栄養指導
55.9%
献立等の成果物提供
47.8%
講師派遣
30.4%
特定保健指導
18.6%

※該当薬局161件の複数回答。管理栄養士・栄養士を対象とした業務実施状況であり、収益額を示す調査ではありません。

この結果から、管理栄養士が店舗業務や栄養相談に幅広く従事していることが分かります。

一方、講師派遣や特定保健指導など、専門性を外部に提供する活動は相対的に少ない状況です。

もちろん、実施割合が低いことが、そのまま収益化できていないことを意味するわけではありません。

しかし、専門職としての知識や経験を、新しい商品やサービスに変換する余地はあるのではないでしょうか。

私は、薬局に管理栄養士を配置すること自体が差別化になる時代から、その専門性をどのような価値として提供できるかが問われる時代へと移りつつあると考えています。


【図1:管理栄養士の役割転換―無料相談から収益事業へ】


2.管理栄養士を収益化する5つのビジネスモデル

管理栄養士の収益化というと、有料栄養相談を思い浮かべるかもしれません。

しかし、収益化の方法はそれだけではありません。

モデル① 健康食品・栄養補助食品の専門販売

最も導入しやすいのが、管理栄養士による健康食品や栄養補助食品の専門販売です。

例えば、高齢者向けのたんぱく質補給食品、減塩食品、低糖質食品、介護食、栄養補助飲料などが考えられます。

一般のスーパーやドラッグストアとの違いは、管理栄養士が利用者の食生活や栄養状態を確認し、必要な商品を選択することです。

例えば、食事量が減少している高齢者に対して、普段の食事内容を確認し、必要に応じて栄養補助食品を紹介することができます。

重要なのは、商品を売ることではなく、健康課題を解決するための商品を提供することです。

特に、在宅患者や高齢者の利用が多い薬局では、継続購入につながる可能性があります。

ただし、健康食品は医薬品ではありません。疾病の治療効果を保証するような説明は避ける必要があります。

モデル② 健康測定と栄養相談のパッケージ販売

体組成計や血圧計などを活用し、健康状態を可視化するサービスです。

例えば、体組成測定と15分程度の栄養相談を組み合わせた有料サービスが考えられます。

重要なのは、測定結果を説明するだけで終わらせないことです。

「筋肉量を維持するために、これから1か月間、どのような食生活を実践するのか」

具体的な行動目標を設定し、次回の測定で変化を確認します。

これにより、単発の健康イベントを継続的な健康管理サービスへ発展させることができます。

モデル③ 月額制の栄養サポートサービス

私が特に可能性を感じるのが、管理栄養士による継続的な栄養支援です。

例えば、健康診断で生活習慣の改善を勧められた40〜60代の現役世代を対象に、「3か月間の食生活改善サポート」を提供します。

サービス内容は、月1回の体組成測定、LINEによる食事写真の報告、管理栄養士からの定期的なアドバイスなどです。

料金は、仮に月額5,000円とします。

10人の契約者がいれば月額売上は5万円、30人なら15万円となります。

もちろん、これは売上であり、人件費やシステム費用などを差し引いた利益ではありません。

実際に、ウエルシア薬局では有料の栄養サポートサービスが展開されており、公開されたサービスには月額1,100円から3,850円の料金設定があります。

つまり、有料栄養指導はすでに実在する事業モデルです。

ただし、月額5,000円のサービスを成立させるには、相談だけでなく、測定や個別分析、継続的な支援など、価格に見合う価値が必要でしょう。

モデル④ 地元飲食店・食品事業者とのコラボレーション

薬局内にカフェや調理設備を設けるには、初期投資や人員確保が必要です。

そこで考えたいのが、地域の飲食店や食品事業者との連携です。

例えば、地元の弁当店と協力して、管理栄養士監修の減塩弁当や高たんぱく弁当を開発します。

薬局はメニュー監修や栄養情報の提供を担当し、調理・販売は既存の食品事業者が担当します。

薬局側は監修料や、契約に基づく販売ロイヤリティなどを収益源とすることが考えられます。

京都府舞鶴市の「ゆう薬局カフェ」のように、管理栄養士監修の食事や健康相談を組み合わせた地域連携の取り組みもあります。

ただし、こうした事例の存在と、事業としての黒字化は区別して考える必要があります。

私は、薬局が自ら飲食店を経営するよりも、まずは地域の既存事業者と連携する方法が、中小薬局には取り組みやすいと考えています。

モデル⑤ 企業向け健康経営支援サービス

管理栄養士の活躍の場を、薬局の来局者だけに限定する必要はありません。

地域の中小企業に対して、従業員の健康づくりを支援するサービスを提供する方法もあります。

例えば、従業員向け栄養セミナー、健康診断後の食生活改善支援、個別栄養相談、健康イベントの企画・運営などです。

日本調剤などでは、管理栄養士による企業向け健康支援や特定保健指導などの取り組みが行われています。

企業側にとっては、従業員の健康維持や福利厚生の充実につながります。

薬局側は、単発の研修料や年間契約による継続収入を得られる可能性があります。

私は、このB2Bモデルに特に注目しています。

薬局の商圏を「処方箋を持参する患者」から「地域で生活し、働く人々」へと広げることができるからです。


【図2:管理栄養士を活用した5つの収益モデル比較】


3.収益化の鍵は「モノ+測定+伴走」

有料栄養指導を事業として成立させるうえで重要なのは、利用者が価格に見合う価値を実感できることです。

私は、その基本構造を3つに整理できると考えます。

① モノ:具体的な商品や食事

栄養補助食品、健康食品、監修弁当など、利用者が実際に手に取れるものです。

② 測定:変化を可視化する仕組み

体組成や生活習慣の記録などを活用して、取り組みの経過を確認します。

③ 伴走:継続的なコミュニケーション

管理栄養士が利用者の行動を支援し、無理のない改善を続けられるようにします。

例えば、月額5,000円のサービスでも、単に月1回の相談を受けるだけでは価格に納得しにくいかもしれません。

しかし、測定、具体的な食生活改善提案、定期的なフォローが組み合わされば、継続利用する理由が生まれます。

ここで注意したいのは、健康食品を販売するために相談を行うのではないということです。

管理栄養士の専門的判断に基づき、必要なサービスや商品を提案することが、薬局への信頼を守る条件になります。


4.実際にいくら稼げるのか? 収益シミュレーション

ここでは、管理栄養士を配置する薬局が小規模に新規事業を始めた場合を想定してみます。

以下は実績値ではなく、事業性を考えるための仮定です。

収益項目月間売上
健康食品販売:50件×2,000円100,000円
健康測定・相談:20件×1,000円20,000円
栄養サポート:10人×5,000円50,000円
企業向け栄養セミナー:1回30,000円
合計200,000円

月間売上20万円、年間では240万円です。

しかし、売上がそのまま利益になるわけではありません。

商品仕入原価、管理栄養士の人件費、システム費用、広告費などを差し引く必要があります。

例えば、月間売上20万円に対して、商品原価などの変動費が7万円、追加的な固定費が3万円なら、既存人件費の配賦前の貢献利益は10万円です。

管理栄養士を新たに採用する場合には、その人件費も含めて採算を評価しなければなりません。

一方、すでに配置している管理栄養士の稼働余力を活用する場合は、比較的小さな追加投資で事業を開始できる可能性があります。

重要なのは、売上だけでなく、管理栄養士の稼働時間と損益分岐点を管理することです。


【図3:管理栄養士の収益モデル―月間売上20万円の内訳と損益構造】


5.LINEと生成AIで管理栄養士の業務を効率化する

有料栄養指導の大きな課題は、利用者が増えるほど管理栄養士の業務負担が増えることです。

例えば、30人の利用者から毎日食事写真が送られてきた場合、すべてに個別返信していては通常業務に支障が生じかねません。

そこで、LINE公式アカウントなどを活用した業務の標準化が重要になります。

運用のポイントは3つです。

第一に、返信時間と回数を決めること。

24時間対応を約束せず、契約時に返信日や返信頻度を明示します。

第二に、報告方法を簡単にすること。

食事写真と簡単なコメントを基本とし、利用者の負担を減らします。

第三に、アドバイスをテンプレート化すること。

食事内容を褒めるメッセージ、栄養バランスの改善提案、報告が途絶えた場合のフォローなどを標準化します。

生成AIを活用すれば、こうした文章の下書き作成や健康情報コンテンツの制作も効率化できるでしょう。

ただし、個人の健康情報を取り扱う場合は、本人同意、情報管理、利用サービスの安全性を確認する必要があります。

また、AIが作成した栄養指導文をそのまま送信するのではなく、管理栄養士が内容を確認する運用が必要です。

AIに任せるのは文章作成などの定型業務。専門的判断は管理栄養士が担う。

この役割分担が重要だと考えます。


6.経営者が最初に取り組むべき3つの行動

では、実際に何から始めればよいのでしょうか。

私は、次の3つを提案します。

① 管理栄養士の業務を棚卸しする

まず、現在の業務時間を確認します。

栄養相談、事務業務、健康イベント、商品販売などに、それぞれ何時間使っているでしょうか。

管理栄養士の専門性が十分に発揮されていない業務があれば、役割分担を見直す余地があります。

② 一つのターゲットに絞って商品を作る

最初から糖尿病、肥満、フレイル、介護食など、すべてに対応する必要はありません。

例えば、高齢者が多い薬局なら「フレイル予防の栄養サポート」、現役世代が多い薬局なら「健康診断後の食生活改善サポート」など、対象を絞ることが有効です。

そして、まずは5〜10人程度の利用者で試験運用してみます。

③ 売上だけでなく継続率と成果を測定する

事業評価では、売上だけを見てはいけません。

利用者数、有料サービスへの移行率、継続率、管理栄養士の稼働時間、利用者満足度、行動変容などを確認します。

特に重要なのは、「継続して利用したい」と感じてもらえるサービスになっているかという点です。

単なる商品販売では、価格競争に巻き込まれます。

しかし、管理栄養士の専門的な支援が組み合わされば、利用者にとっての価値は変わります。


7.私見:管理栄養士は薬局の新しい事業開発人材になる

これからの薬局は、処方箋を受け付け、薬を交付する機能だけで経営の持続可能性を考えることが難しくなっていくと私は考えています。

薬局には、薬剤師という医薬品の専門家がいます。

そして管理栄養士が加われば、薬物療法と食生活の両面から、地域住民の健康を支えることができます。

しかし、この組み合わせを単なる患者サービスで終わらせてしまうのは、経営的にも地域医療の観点からも、もったいないことではないでしょうか。

薬剤師は薬物療法の適正化を担い、管理栄養士は栄養・食生活の改善を支援する。

さらに、地域の飲食店、企業、行政、医療機関と連携すれば、薬局を起点とした新しい健康支援事業が生まれる可能性があります。

もちろん、管理栄養士の収益化を急ぐあまり、不要な商品販売や過剰なサービス契約を促すことがあってはなりません。

利用者の健康課題を解決した結果として、適正な対価を得る。

この順序を守ることが、専門職を活用した持続可能なビジネスの条件だと考えます。

私は、これからの管理栄養士を、薬局の補助的な専門職ではなく、新たな事業を企画し、地域の健康需要を掘り起こす「事業開発人材」として評価すべきではないかと考えています。


おわりに:無料相談から、価値を生み出すサービスへ

薬局の管理栄養士を収益化するというと、栄養相談を有料にすることだけを想像するかもしれません。

しかし、本質はそこではありません。

管理栄養士の専門知識を、商品、測定、継続支援、地域連携という具体的なサービスに変換することです。

その第一歩は、大きな設備投資でも、新たな人材採用でもありません。

「自局の管理栄養士は、地域の誰の、どのような健康課題を解決できるのか」

この問いを経営者と管理栄養士が一緒に考えることから始まります。

調剤報酬以外の収益を増やすことは、単なる売上拡大策ではありません。

薬局が地域の健康インフラとして生き残るための、新たな経営戦略の一つではないでしょうか。


参考資料

  • 厚生労働省「健康サポート薬局に関する調査結果」(令和6年度予算事業)

  • ウエルシア薬局「栄養コンシェルジュサービス」公開情報(2026年3月)

  • サノ・ファーマシー「栄養相談・食事記録分析サービス」公開情報

  • ゆう薬局カフェ(京都府舞鶴市)の活動紹介

  • 日本調剤の管理栄養士による健康支援事業紹介

  • 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」

  • 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」

※収益シミュレーションは筆者による仮定であり、実際の事業収益を保証するものではありません。制度・法規制については、事業開始時点の最新情報を確認してください。

10/10/2026

薬局でのカスハラ「出禁」は適法か?

 



薬局でのカスハラ「出禁」は適法か?

-過剰要求に対する裁判例から学ぶ現場の守り方

2026年10月から企業に対する「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」が義務付けられました。薬局経営においても、患者様からの正当なクレームと、過剰な要求(カスハラ)の線引きは非常に悩ましい課題です。

今回は、調剤薬局で起きたトラブルをめぐり、顧客側が薬局を提訴したものの、薬局側の「出入り禁止(出禁)」措置が適法と認められた重要な裁判例(※日経新聞2026年10月9日報道)を題材に、薬局経営者が知っておくべきカスハラ対策のポイントを解説します。


1. 事件の概要:クーポンの説明要求から「出禁」へ

事件の発端は2023年9月。70代の男性が閉店間際の調剤薬局で、クーポンの説明を「薬剤師」に求めたことでした。

  • 初期対応: 薬剤師は「事務員が対応する」と伝えましたが、男性は薬剤師本人からの説明に固執しました。
  • トラブルの発生: 業務の妨げになると判断した薬剤師が「嫌なら来なくていい」と発言。これに激怒した男性が薬局本部にクレームを入れました。
  • カスハラへの発展: 薬局本部は当初、謝罪文を送付しましたが、男性は納得せず「問題の原因究明と担当者の処分をまとめた顛末書の提出」を執拗に要求しました。
  • 出禁措置: 薬局本部はこれ以上の対応は通常業務の妨害にあたると判断し、男性に「出入り禁止」を通告しました。

男性は「出禁により名誉を侵害された」として50万円の損害賠償を求めて提訴しましたが、簡易裁判所、地方裁判所、そして高等裁判所のすべてで原告(男性)の訴えは棄却され、薬局側の勝訴が確定しました。


2. なぜ原告の訴えは棄却されたのか?(裁判所の判断)

裁判所が原告の訴えを退け、薬局側の措置を適法とした理由は、主に以下の点に集約されます。

  • 要求の過剰性(受忍限度を超えているか): 初期の薬剤師の対応(「嫌なら来なくていい」という発言)自体には不適切な面があったとしても、本部が謝罪を行った後も執拗に「原因究明」や「担当者の処分をまとめた顛末書」を要求し続ける行為は、社会通念上、一企業のカスタマーサポートに対して求めるべき正当な範囲を逸脱していると判断されました。
  • 業務妨害の事実: 執拗なクレーム対応に時間を割かれることは、薬局の本来の業務(他の患者への調剤や服薬指導など)を著しく妨害する行為です。
  • 出禁措置の正当性: 企業には、従業員の安全な労働環境を守り、円滑な業務遂行を維持する権利(および義務)があります。過剰な要求を繰り返す顧客に対して取引を拒絶(出禁)することは、自己防衛のための正当な権利行使の範囲内であると認められました。

3. 薬局側が勝訴できた「対応の要因」

この事例から見えてくる、薬局側が法的に守られた(勝訴できた)重要な要因は以下の通りです。

  1. 「謝罪」と「要求の拒絶」を明確に切り分けたこと: 本部は初期段階で謝罪文を出し、自社に非がある部分(接遇面)については誠意を見せました。しかし、その後の「過剰な要求(顛末書の提出など)」に対しては毅然と拒絶しました。「謝ったのだから、相手の言うことをすべて聞かなければならない」という罠に陥らなかったことが最大の勝因です。
  2. 組織としての対応(現場への丸投げ回避): 現場の薬剤師と顧客間のトラブルのまま放置せず、本部(組織)として対応を引き取り、最終的な「出禁通告」も組織の決定として行ったことで、個人の感情的な対立から「企業防衛」のフェーズへと適切に移行できました。

4. 薬局経営者への3つのアドバイス

この判例を踏まえ、これからの薬局経営において従業員を守るために実践すべき3つのアクションをまとめました。

① 「調剤応需義務」の正しい理解と社内共有

薬剤師法には調剤応需義務(正当な理由なく調剤を拒んではならない)がありますが、「カスハラ(著しい業務妨害や不当な要求)」は、調剤を拒否する『正当な理由』に該当し得ます。 「患者様だから何を言われても我慢しなければならない」という誤った認識を改め、現場スタッフに「無理な要求は断ってよい」という心理的安全性を提供してください。

② 対応打ち切りの「エスカレーション基準」の策定

クレーム対応において、現場レベルで対応を打ち切り、本部や責任者へ引き継ぐ明確な基準を設けてください。

  • 土下座や金銭の要求
  • 担当者の処罰や顛末書の強要
  • 不退去(長時間の居座り)
  • 大声や暴言 これらの行為があった場合は、速やかに「カスハラ事案」として組織対応(録音・録画、警察への通報、顧問弁護士への相談など)に切り替えるマニュアルが必要です。

③ 毅然とした対応をとるための組織体制づくり

今回の事例のように、過去の社会的地位などを背景に自己の正当性を主張するケースは珍しくありません。スタッフが相手の感情的なペースに巻き込まれず、「当薬局のルールとしてこれ以上の対応はいたしかねます」と事務的に対応できるよう、平時からのトレーニングと、いざという時に会社が必ずスタッフを守るという明確なメッセージを発信することが重要です。

 

まとめ

2026年10月のカスハラ対策義務化を機に、薬局は「優しいだけの医療機関」から「スタッフを守れる組織」へとアップデートする必要があります。今回の出禁適法判決は、そのための大きな後ろ盾となるでしょう。まずは自局の対応マニュアルの見直しから始めてみてはいかがでしょうか。

10/03/2026

2040年の薬局は何軒必要か──「近さ」から「備え」へ

 2040年の薬局は何軒必要か──「近さ」から「備え」へ

「うちの薬局は、10年後も今の形で続けられるだろうか」。そう感じている経営者や管理薬剤師の方は少なくないはずです。

先に結論を言います。処方箋を受けるだけの薬局は、2040年前後には今の半分程度で足りる計算になります。一方で、高額な薬の管理、予防、地域の医薬品供給という新しい需要は確実に増えます。数は減り、機能は増える。これが本稿の結論です。

この記事でわかること

•      処方箋市場が「頭打ち」になった根拠

•      2040年に必要な薬局数の試算

•      生き残る薬局の3つの形

•      「わかっていても動けない」心理と、その乗り越え方


1. 処方箋は「頭打ち」――数字で見る薬局の現在地

全国の薬局は2024年度末で63,203施設。人口約1,960人に1軒の計算で、いまも少しずつ増えています。

一方、処方箋は2025年度に約8億5,730万枚と、前年度から0.8%減って5年ぶりに減少しました。処方箋受取率(医薬分業率)は82.2%で、前年度の82.1%からほぼ横ばいです。医薬分業は約50年かけて、行き着くところまで来たと言えます。減少の主な原因は、外来患者そのものが減っていることです。

図1 処方箋枚数と受取率の推移(日本薬剤師会データより作成)

ここで大事なのは、「量はすぐには減らないが、1枚あたりの価値は下がっていく」という点です。高齢者の数は2040年代前半まで横ばいから微増が続くため、慢性疾患の処方はすぐには減りません。しかし長期処方やリフィル、薬価差益の縮小、2025年の薬機法改正で認められた調剤業務の一部外部委託(一包化)などにより、処方箋1枚が生む利益は細っていきます。

2026年度の調剤報酬改定では、新しく開く門前薬局や医療モール薬局などを対象に「門前薬局等立地依存減算」(調剤基本料から15点減算)が新設されました。国のメッセージははっきりしています。「立地」ではなく「機能」で評価する、ということです。


2. 2040年、薬局は何軒必要か

2つの方法で試算しました(いずれも筆者の試算です)。

•      人口から見る:2040年の人口約1.13億人を、1軒あたり3,000〜5,000人で割ると、約2.3万〜3.8万軒。

•      処方箋の量から見る:年8.0〜8.6億枚を、1軒あたり月2,000〜3,000枚で割ると、約2.2万〜3.6万軒。

どちらで見ても、処方箋を受けるための薬局は現在の半分前後で足ります。さらに、後で触れる配送やロッカーなど「届ける手段」が広がれば、必要数は約2.5万〜3.2万軒に落ち着くと見ています。

図2 2040年前後の必要薬局数の試算(筆者試算)

ただし地域差は大きく、薬局が密集する大都市ほど減り幅が大きくなります。過疎地は減りにくい一方で、薬剤師の確保が課題です。厚生労働省の推計では、2045年に薬剤師が2.4万〜12.6万人余る見通しですが、余るのは主に都市部で、地方は不足しています。「人を減らして乗り切る」発想では、価格競争に巻き込まれるだけです。


3. 生き残る薬局の3つの形

数が減る一方で、求められる役割は3つの形に分かれていきます。

•      ハブ型(全体の約4%):バイオ医薬品や抗がん剤など高額で管理の難しい薬、無菌調製、他の薬局からの一包化の受託、災害時の備蓄。大病院の門前薬局が転換する有力な候補です。

•      地域拠点型(約55%):外来調剤と在宅、予防や健康づくり、自治体・保険者との連携。2025年の改正で生まれた「健康増進支援薬局」の認定は、この役割に重なります。

•      アクセス型(約35%):小型店舗や配送、ロッカー、介護施設内の配置など、住民の手元に薬を届ける窓口です。

図3 薬局の3つの形と構成比(筆者試算)

ポイントは、類型は「建物」ではなく「機能」だということです。中小チェーンであれば、1店舗を拠点に育て、ほかの店舗に役割を分担させるネットワークづくりが現実的です。

現状では、地域連携薬局は4,292軒(2026年8月末)と全体の約7%にとどまり、しかも減少傾向にあります。認定を取ることがゴールではありません。在宅や医療機関との連携の「実績」で収益を上げられる体制を作れるかどうかが分かれ目です。


4. 「近さ」から「備え」へ

これまで薬局の価値は「近くにあること」でした。しかし病院が集約されてきたように、薬局も集約されていきます。病院と違うのは、薬は保存も配送もできるという点です。

2024年の能登半島地震では、全国から4,701名の薬剤師と13台のモバイルファーマシー(移動薬局車)が被災地に派遣されました。それでも専門家は、支援だけで必要な薬が手に入るとは限らず、一人ひとりの備えが欠かせないと指摘しています。

この「防災の発想」を平時に持ち込むと、薬局の新しい役割が見えてきます。

•      自助:患者さんの手持ち薬に「管理された余裕」を持たせ、期限を見ながら入れ替える

•      互助:家族や介護施設、事業所の間で薬を融通できるよう調整する

•      共助(保険):平時の供給・在庫・在宅を担う

•      公助:自治体の備蓄や災害時の供給に協力する

図4 「近さ」から「備え」へ(筆者作成の概念図)

これからの物差しは「この店は近いか」ではありません。「この店は、地域の誰の備えを支えているか」です。


5. 行動経済学で読み解く「わかっていても動けない理由」

頭では理解していても、行動に移すのは難しいものです。人の判断には、決まったクセがあるからです。代表的なものと、その対策を紹介します。

現状維持バイアス:今のままが一番安全に見える

門前の収益が安定していると、変える理由を探さなくなります。対策は、「何もしない」も1つの選択肢として並べることです。「何もしない場合」と「転換する場合」の5年後の収支を同じ表で比べると、現状維持にもリスクがあることが見えてきます。

損失回避:得る喜びより、失う痛みが大きい

人は同じ金額でも、得る喜びより失う痛みを強く感じるとされます。社内やオーナーを説得するときは、新事業で「得るもの」より、何もしないと「失うもの」(減算や処方箋の減少による減収)を数字で示すほうが、合意を得やすくなります。

現在バイアス:「まだ大丈夫」と先送りしてしまう

減算は新規開設だけが対象と聞くと、つい先送りしたくなります。対策は、自分で期限を決めて宣言することです。たとえば「来年度中に1店舗で在宅の件数を月○件にする」と朝礼で共有するだけでも、先送りは起きにくくなります。

サンクコスト:かけたお金がもったいない

立地や設備に投じた費用を惜しんで、転換が遅れることがあります。判断の基準は「過去にいくら使ったか」ではなく、「これから何を生むか」です。

心の会計:お金に「名前」をつける

門前の利益の一部を「転換投資枠」として別に積み立ててみてください。使い道を決めたお金は、ほかに流用されにくくなります。

同じ仕組みは、患者さんの「備え」にも使えます。人は初期設定をなかなか変えません(デフォルト効果)。そこで、慢性疾患の患者さんには「来局時に手持ち薬と期限を確認する」ことを標準の手順にしておけば、備えの習慣が自然に根づきます。


6. 明日から考えたい3つの問い

1.      自社の店舗は、どの形を目指すか 店舗ごとに、ハブ・地域拠点・アクセスのどれを担うかを決める。

2.      門前の収益を、どこへ投資するか 地域拠点への展開か、専門ハブへの転換か。

3.      地域の誰の備えを支えるか 自治体、保険者、そして自分では備えられない住民。


まとめ

処方箋を受けるだけの薬局は、2040年には今の半分あれば足ります。一方で、高額・高度な薬の管理、予防、地域の医薬品供給という需要は確実に増えます。門前の収益は守るべきゴールではなく、転換のための「猶予期間の原資」です。その原資をどこに投じるか。答えを出すのは、早いほど有利です。

※必要薬局数、類型の構成比は筆者の試算であり、確定した将来予測ではありません。

9/26/2026

薬剤師のAI薬歴活用の実際<傾向と対策>

 薬剤師のAI薬歴活用の実際<傾向と対策>


AI薬歴は「入れるだけで時短」ではありません。タイプを間違え、確認手順を省くと、効果は出ず、記録責任だけが残ります。本稿は薬局経営者・病院薬剤部幹部が現場へ指示しやすい形を想定し、製品タイプ、使い方、選び方、安全運用を整理してみましたす。

■1.
いまのAI薬歴は4タイプ
現場製品は電子薬歴の銘柄差より、簡易な分類として入力と出力の型で分かれます。

①
会話音声型(内蔵)
服薬指導の会話を録音し、SOAP下書きを電子薬歴へ返す。Musubi音声薬歴、Solamichi「AI音声入力」、MEDIXS「AI薬歴作成アシスト」、AnyCOMPASS、PharnesX連携の生成AI薬歴など。指導中に顔を上げたい店舗向き。

②一人語り・在宅型
薬剤師が判断や訪問内容を音声で残し、記録化する。Musubiの「一人語りモード」が代表。在宅・訪問後のまとめに強い。

③後付け独立型
今の電子薬歴を替えず、音声+処方データから下書きを作り、転記する。ピアス、medimo AI薬歴、初期のウィーメックス支援など。入替コストを避けたい店舗向き。

④テキスト変換・汎用生成AI型
メモや箇条書きをChatGPT等でSOAP化する。導入は速いが、患者情報を汎用AIへ入れるリスクが最も高い。下書き専用・匿名化前提に限る。

隣接機能として、指導ポイント提案(AnyCOMPASS)、指導の採点(Solamichi)、話者分離とオンプレ音声処理(MC-Drive)がある。2026–27年は、これらが「薬歴作成」から「業務伴走エージェント」へ拡張する。

公表値の目安は、Musubi音声薬歴で記載時間19.7%減(5,500店)、ピアス実証で1件220秒→120秒(45%減)、ウィーメックス社内検証で3.9分→1.5分程度。数字は測定条件や利用者条件(テンプレート利用、薬歴平均文字数、対応者のITリテラシーなど)が違うため、横並びの保証値ではない。

■2.
タイプと現場の使い方がズレていないか
使えていない店舗に多いのは、機械の問題より運用の問題です。

ズレA:会話型なのに、指導後にメモから打ち直している
本来は「録音→下書き確認→確定」です。指導中にメモへ逃げると、音声型の利点が消えます。
▶指示例:「新規・継続の通常指導は録音を原則。下書きはその場か直後に確認し、当日中に確定する」

ズレB:下書きを無修正で確定している
固有名詞、数値、副作用、次回計画は誤りやすい。AIは下書き係、確定は薬剤師です。
▶指示例:「Sの患者発言、Oの数値、Aの評価、Pの次回アクションは必ず人が見る。氏名・用量・禁忌の誤りは重大インシデント扱い」

ズレC:在宅に会話型だけを当てている
訪問先は雑音が多く、会話型の精度が落ちる。一人語り型か、要点メモ+後付け型が向く。
▶指示例:「在宅は帰局後5分の一人語りを標準にする」

ズレD:汎用ChatGPTに薬歴下書きを依頼している
電子薬歴契約外の学習型サービスへ、処方・病名・イニシャル付き情報を入れるのは原則禁止。
▶指示例:「患者が特定できる情報は、契約済み薬歴AI以外に入れない」

ズレE:録音漏れ・同意説明なし
録音するなら、目的(記録作成)と保存範囲を簡潔に説明する。マイク位置と話者分離も確認する。
▶指示例:「指導開始時に『記録のため音声を使います』と一言入れる。同意が得られない場合は従来入力」

■3.
未導入なら、使いたい目的で選ぶ
目的が先、製品名は後です。
・指導中のメモから解放されたい

➡①会話音声型。既存薬歴にオプションがあるなら、まずそこを試す。

・電子薬歴を今は替えたくない

➡③後付け型。転記手間と、処方データ連携の有無を見る。

・在宅・居宅の記録がボトルネック

➡②一人語り型を必須条件にする。

・新人の指導のばらつきを減らしたい

➡指導提案・採点がある内蔵型。時短より質の標準化が目的。

・個人情報を薬局外に出したくない

➡音声のテキスト化が店内(オンプレ)で完結するか、学習利用なし・国内処理・監査ログがあるかを契約で確認する。

・将来の加算確認や疑義整理まで見据える

➡薬歴単体で終わらず、レセコン連携とエージェント構想がある基盤を選ぶ。


経営・幹部への提案は「全店一斉」より「2週間のパイロット」です。
測定項目は①1件あたり作成時間、②確定前の修正箇所数、③指導中に画面を見ている時間、④加算に必要な記載の抜け、の4点で足ります。
全店一律で導入するよりも活用をタイプ別に導入する必要性が高い。AI導入時期、オールインワンは返って現場の混乱を招くだけでしょう。

■4.
現場目線の比較とハルシネーション対策
効果の差は、モデル精度より「何を入力し、いつ確定するか」で開きます。

活用のバリエーション
・通常窓口:会話録音→SOAP確認→確定
・多剤・高齢者:録音に加え、残薬と生活の一人語りを10秒足す
・在宅:訪問中は最低限、帰局後に評価と計画を口述
・教育:同じ音声から指導の抜けを振り返る(採点機能がある場合)

効果が伸びない主因
録音開始忘れ、雑音、専門用語の誤変換、過去薬歴を参照しない出力、確定が翌日にずれて記憶補正が働くこと。45%減と20%減の差は、処方データ照合の有無、テンプレート適合、確定を指導直後に行うか、で説明できることが多い。

対策(現場ルール)
1. AI出力は下書きと表示する
2.
処方内容と出力を照合する(用量、日数、剤形)
3.
患者の固有表現(「朝だけ吐く」等)がSに残っているか見る
4. A
とPは薬剤師が書き直してよい
5.
奇妙に整った文ほど根拠を疑う
6.
修正箇所を週1で共有し、よくある誤変換を店内辞書にする

■5.
入れてよい情報、いけない情報
分け方は単純です。「契約した薬歴AI」と「契約していない汎用AI」を混ぜない。

契約済み薬歴AI(学習に使わず、委託・安全管理が契約されている前提)
入れてよい:当該患者の今回指導に必要な会話、処方、前回計画。
人が確定する:評価、疑義の結論、医師への提案。
契約で確認する:学習利用なし、保存期間、アクセス権、監査ログ、再委託先、国内処理の有無。

汎用生成AI(無料ChatGPT等)
入れない:氏名、ID、生年月日、住所、保険番号、処方、病名、検査値、お薬手帳写真、音声そのもの。
使える:一般的なSOAPの型、説明文書の言い換え例、匿名の制度確認。
「名前を消した」だけでは不十分。希少疾患+地域+年齢で個人は特定されます。

漏らさない工夫
・薬歴AIと汎用AIの入口を端末で分ける
・画面に「患者情報禁止」を掲示する
・音声データは指導目的以外に使わない
・確定者と確定時刻を残す
・院内・店舗の利用規程を1枚で配る

病院では日病薬「生成AI利活用ガイダンス」が、生成AIを判断の代替ではなく支援ツールと位置づけています。薬局も同じ原則で足ります。最終責任は記載した薬剤師に残ります。

■6.
「時間がない」の内訳と、AIの当て方
薬剤師調査では、時間が足りない業務の上位は薬歴作成42.9%、調剤38.6%、服薬指導36.7%。時間不足の帰結は「患者の本音が聞けない」「加算に必要な記載が薄い」です。AI導入群の指導満足度は80.3%、未導入は59.0%と差が出ています。
薬歴AIが効くのは、記録の待ち行列です。効きにくいのは、疑義の判断そのもの、混雑時の説明不足、人員配置です。よって当て方は次の順が現実的です。
1.
閉局後に残る薬歴の山を、指導直後確定に変える
2.
在宅の帰局後記録を一人語りに変える
3.
余った分を、残薬・副作用の聞き取りに使う
4.
その結果として加算記載とフォローを厚くする

「薬歴が速くなったのに残業が減らない」店舗は、確定作業を後回しにしているか、空いた時間の使い方を指示していません。これは、電子レセコンや電子薬歴導入期にも同じ現象ですが、幹部は「削減分数」より「その分数を何に使うか」を先に書いてください。薬剤師は、仕事の量の削減ではなく、質を向上させることが本質です。

■7. 2026–27
年の次:AIエージェント
次の波は、SOAP下書きの精度競争ではありません。薬歴を起点に、業務の順番を提案するエージェントです。

想定機能と目的
・加算確認: tonight の記載漏れを指導中に知らせ、取りこぼしを防ぐ
・疑義ポイント整理:過去事例と添付文書を突き合わせ、照会前の論点を並べる
・フォロー提案:次回連絡の対象と文面案を出す
・レセコン連携:入力の二重作業を消す
・本部分析:必要人数、在庫、指導品質のばらつきを見る

期待値の置き方
短期:記録時間の削減(すでに一部で20–45%)
中期:記載品質の平準化と加算の再現
長期:対物から対人へ時間を移す。判断の自動化ではない

三菱電機デジタルイノベーションのAnyCOMPASS系は、AIアシスタントから現場伴走のAnI-Bot、レセコン統合へ進む構想を公表しています。他社も薬歴・レセコン・在庫の一体型へ寄っています。選ぶときに見るのは「今の音声精度」だけでなく、「確定ログを残したまま、次の業務に渡せるか」です。


■最後に
今月から、通常の服薬指導は契約済みAI薬歴の録音を原則とする。出力は下書きとして扱い、用量・患者発言・次回計画を確認してから確定する。患者が特定できる情報は、契約外の生成AIに貼らない。在宅は帰局後の一人語りを標準にする。週1で誤変換と修正箇所を共有する。空いた時間は、残薬と副作用の聞き取りに使う。

AI薬歴の勝敗は、高性能や多機能の機種を選ぶことでは決まりません。スマホと同じです。カメラ枚数や処理速度で機種を選んでも、3年後には画面も端子もクラウドも変わっています。写真と連絡先が残るのは、機種の性能ではなく、使い方の型がそろっていたからです。
生成AIは更新が速く、現状のレセプトベンダーのようにベンダーの再編やサービス終了も珍しくありません。3年以内の機種変更は前提です。そのとき残るのは「どの会社のAIか」ではなく、①下書きを人が確定した記録、②誰が・いつ確定したかのログ、③地域で渡せるデータの型、の3点です。機種依存の便利機能に業務を縛ると、移行のたびに指導も記録も止まります。
だから今そろえるべきは、最新機能ではなく利用者の標準です。録音する/しないの判断、確定前に見る項目、契約外AIに入れない情報、在宅は一人語り、空いた時間の使い方。この型が店内と地域で共有されていれば、機種が変わってもデータは移せます。スマホを替えても、同じアカウントと写真の分類があれば生活が続くのと同じです。
まず2週間、測定しながらその型を回してください。機種は手段、標準化が資産です。

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