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10/03/2026

2040年の薬局は何軒必要か──「近さ」から「備え」へ

 2040年の薬局は何軒必要か──「近さ」から「備え」へ

「うちの薬局は、10年後も今の形で続けられるだろうか」。そう感じている経営者や管理薬剤師の方は少なくないはずです。

先に結論を言います。処方箋を受けるだけの薬局は、2040年前後には今の半分程度で足りる計算になります。一方で、高額な薬の管理、予防、地域の医薬品供給という新しい需要は確実に増えます。数は減り、機能は増える。これが本稿の結論です。

この記事でわかること

•      処方箋市場が「頭打ち」になった根拠

•      2040年に必要な薬局数の試算

•      生き残る薬局の3つの形

•      「わかっていても動けない」心理と、その乗り越え方


1. 処方箋は「頭打ち」――数字で見る薬局の現在地

全国の薬局は2024年度末で63,203施設。人口約1,960人に1軒の計算で、いまも少しずつ増えています。

一方、処方箋は2025年度に約8億5,730万枚と、前年度から0.8%減って5年ぶりに減少しました。処方箋受取率(医薬分業率)は82.2%で、前年度の82.1%からほぼ横ばいです。医薬分業は約50年かけて、行き着くところまで来たと言えます。減少の主な原因は、外来患者そのものが減っていることです。

図1 処方箋枚数と受取率の推移(日本薬剤師会データより作成)

ここで大事なのは、「量はすぐには減らないが、1枚あたりの価値は下がっていく」という点です。高齢者の数は2040年代前半まで横ばいから微増が続くため、慢性疾患の処方はすぐには減りません。しかし長期処方やリフィル、薬価差益の縮小、2025年の薬機法改正で認められた調剤業務の一部外部委託(一包化)などにより、処方箋1枚が生む利益は細っていきます。

2026年度の調剤報酬改定では、新しく開く門前薬局や医療モール薬局などを対象に「門前薬局等立地依存減算」(調剤基本料から15点減算)が新設されました。国のメッセージははっきりしています。「立地」ではなく「機能」で評価する、ということです。


2. 2040年、薬局は何軒必要か

2つの方法で試算しました(いずれも筆者の試算です)。

•      人口から見る:2040年の人口約1.13億人を、1軒あたり3,000〜5,000人で割ると、約2.3万〜3.8万軒。

•      処方箋の量から見る:年8.0〜8.6億枚を、1軒あたり月2,000〜3,000枚で割ると、約2.2万〜3.6万軒。

どちらで見ても、処方箋を受けるための薬局は現在の半分前後で足ります。さらに、後で触れる配送やロッカーなど「届ける手段」が広がれば、必要数は約2.5万〜3.2万軒に落ち着くと見ています。

図2 2040年前後の必要薬局数の試算(筆者試算)

ただし地域差は大きく、薬局が密集する大都市ほど減り幅が大きくなります。過疎地は減りにくい一方で、薬剤師の確保が課題です。厚生労働省の推計では、2045年に薬剤師が2.4万〜12.6万人余る見通しですが、余るのは主に都市部で、地方は不足しています。「人を減らして乗り切る」発想では、価格競争に巻き込まれるだけです。


3. 生き残る薬局の3つの形

数が減る一方で、求められる役割は3つの形に分かれていきます。

•      ハブ型(全体の約4%):バイオ医薬品や抗がん剤など高額で管理の難しい薬、無菌調製、他の薬局からの一包化の受託、災害時の備蓄。大病院の門前薬局が転換する有力な候補です。

•      地域拠点型(約55%):外来調剤と在宅、予防や健康づくり、自治体・保険者との連携。2025年の改正で生まれた「健康増進支援薬局」の認定は、この役割に重なります。

•      アクセス型(約35%):小型店舗や配送、ロッカー、介護施設内の配置など、住民の手元に薬を届ける窓口です。

図3 薬局の3つの形と構成比(筆者試算)

ポイントは、類型は「建物」ではなく「機能」だということです。中小チェーンであれば、1店舗を拠点に育て、ほかの店舗に役割を分担させるネットワークづくりが現実的です。

現状では、地域連携薬局は4,292軒(2026年8月末)と全体の約7%にとどまり、しかも減少傾向にあります。認定を取ることがゴールではありません。在宅や医療機関との連携の「実績」で収益を上げられる体制を作れるかどうかが分かれ目です。


4. 「近さ」から「備え」へ

これまで薬局の価値は「近くにあること」でした。しかし病院が集約されてきたように、薬局も集約されていきます。病院と違うのは、薬は保存も配送もできるという点です。

2024年の能登半島地震では、全国から4,701名の薬剤師と13台のモバイルファーマシー(移動薬局車)が被災地に派遣されました。それでも専門家は、支援だけで必要な薬が手に入るとは限らず、一人ひとりの備えが欠かせないと指摘しています。

この「防災の発想」を平時に持ち込むと、薬局の新しい役割が見えてきます。

•      自助:患者さんの手持ち薬に「管理された余裕」を持たせ、期限を見ながら入れ替える

•      互助:家族や介護施設、事業所の間で薬を融通できるよう調整する

•      共助(保険):平時の供給・在庫・在宅を担う

•      公助:自治体の備蓄や災害時の供給に協力する

図4 「近さ」から「備え」へ(筆者作成の概念図)

これからの物差しは「この店は近いか」ではありません。「この店は、地域の誰の備えを支えているか」です。


5. 行動経済学で読み解く「わかっていても動けない理由」

頭では理解していても、行動に移すのは難しいものです。人の判断には、決まったクセがあるからです。代表的なものと、その対策を紹介します。

現状維持バイアス:今のままが一番安全に見える

門前の収益が安定していると、変える理由を探さなくなります。対策は、「何もしない」も1つの選択肢として並べることです。「何もしない場合」と「転換する場合」の5年後の収支を同じ表で比べると、現状維持にもリスクがあることが見えてきます。

損失回避:得る喜びより、失う痛みが大きい

人は同じ金額でも、得る喜びより失う痛みを強く感じるとされます。社内やオーナーを説得するときは、新事業で「得るもの」より、何もしないと「失うもの」(減算や処方箋の減少による減収)を数字で示すほうが、合意を得やすくなります。

現在バイアス:「まだ大丈夫」と先送りしてしまう

減算は新規開設だけが対象と聞くと、つい先送りしたくなります。対策は、自分で期限を決めて宣言することです。たとえば「来年度中に1店舗で在宅の件数を月○件にする」と朝礼で共有するだけでも、先送りは起きにくくなります。

サンクコスト:かけたお金がもったいない

立地や設備に投じた費用を惜しんで、転換が遅れることがあります。判断の基準は「過去にいくら使ったか」ではなく、「これから何を生むか」です。

心の会計:お金に「名前」をつける

門前の利益の一部を「転換投資枠」として別に積み立ててみてください。使い道を決めたお金は、ほかに流用されにくくなります。

同じ仕組みは、患者さんの「備え」にも使えます。人は初期設定をなかなか変えません(デフォルト効果)。そこで、慢性疾患の患者さんには「来局時に手持ち薬と期限を確認する」ことを標準の手順にしておけば、備えの習慣が自然に根づきます。


6. 明日から考えたい3つの問い

1.      自社の店舗は、どの形を目指すか 店舗ごとに、ハブ・地域拠点・アクセスのどれを担うかを決める。

2.      門前の収益を、どこへ投資するか 地域拠点への展開か、専門ハブへの転換か。

3.      地域の誰の備えを支えるか 自治体、保険者、そして自分では備えられない住民。


まとめ

処方箋を受けるだけの薬局は、2040年には今の半分あれば足ります。一方で、高額・高度な薬の管理、予防、地域の医薬品供給という需要は確実に増えます。門前の収益は守るべきゴールではなく、転換のための「猶予期間の原資」です。その原資をどこに投じるか。答えを出すのは、早いほど有利です。

※必要薬局数、類型の構成比は筆者の試算であり、確定した将来予測ではありません。

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