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11/05/2026

財政審が示す社会保障改革と薬局の未来 第1部 財政審は、ついに薬局の「数」に手をつけるのか? ――調剤報酬の見直しから、業界構造そのものの改革へ

 財政審が示す社会保障改革と薬局の未来 第1部

財政審は、ついに薬局の「数」に手をつけるのか?

――調剤報酬の見直しから、業界構造そのものの改革へ

はじめに|15点の減算より、もっと怖い一文があった

2026年11月4日、財政制度等審議会の資料を読んで、私は少し立ち止まった。都市部の門前薬局を対象とする減算が問題なのではない。もっと大きな言葉が書かれていたからだ。「既存薬局も含めた対応」「量的規制」。これまで薬局経営者が気にしてきたのは、調剤基本料が何点になるか、加算が取れるか、処方箋集中率をどう下げるか、といった問題だった。ところが財政審の関心は、もはや個々の点数だけにとどまっていない。薬局が小規模に分散しているという産業構造そのものを問題にしている。

もちろん財政審は政策決定機関ではない。提言がそのまま実現するわけでもない。私が問題にしたいのは、提言の強い言葉をそのまま未来予測に置き換えることではなく、過去に繰り返された問題提起が、数回の診療報酬改定を経て、少しずつ制度に姿を現してきたように見えることだ。「今回も財務省が言っているだけ」で済ませてよいのか。そこから考えたい。

1|薬局の小規模分散は、なぜ財政問題になるのか

▶図1:小規模分散は、なぜ財政問題になるのか

11月4日の資料57頁は、薬局数が約6万3,000施設に達し、薬局従事薬剤師数も増加してきた一方、薬局の小規模分散が続いていると指摘する。常勤薬剤師2人以下の薬局は約3分の2、月間処方箋受付1,000回未満の薬局は5割超。財政審は、これを単なる経営規模の問題ではなく、対人業務の充実、安定供給、医療人材の最適配分にかかわる問題として位置づけている。

財政の視点から見れば、薬局が小さく分かれていれば、各店に薬剤師、設備、在庫、システム、管理機能が必要になる。同じ地域で似た処方箋を受け付ける薬局が密集していれば、その固定費を保険財政が支えているのではないかという疑問が生まれる。薬剤師不足が問題になる病院や在宅医療へ、人材を移す余地があるのではないかという議論にもつながる。

ただし、ここには財政論の盲点もある。山間部や人口減少地域の小規模薬局は、効率だけでは測れない医薬品アクセスを担う。都市部での店舗密集と、地域の最後の薬局を同じ「小規模」の一語で扱うことはできない。規模が大きければ対人機能が高いとも限らない。それでも財政審は、少なくとも現状の店舗構造を無条件で維持することに疑問を投げかけている。

2|2015年からの「対物から対人へ」は、何を変え、何を変えなかったか

2015年の「患者のための薬局ビジョン」は、門前で処方箋を待つ薬局から、かかりつけ機能や在宅医療を担う薬局への転換を示した。2016年度改定以降、かかりつけ薬剤師の評価、処方箋集中率やチェーン規模を考慮した調剤基本料の見直し、地域支援機能の評価など、誘導策が積み重ねられてきた。薬局に求める仕事の方向は確かに変わった。

しかし、薬局の立地は変わったのだろうか。医療機関の近くに開局し、そこから多くの処方箋を受け取る経営モデルは依然として強い。患者にとっては通院帰りに立ち寄れる利便性があるし、薬局にとっては患者数を予測しやすい。報酬で「地域へ」と誘導しても、立地と処方箋の流れがもたらす経済合理性は簡単には崩れない。

ここで重要なのは、改革の成果を「対人業務の評価が増えたか」だけで測らないことだ。財政審は、対人機能の充実という目的に照らして、店舗の数、規模、配置まで変わったかを見ている。制度を何度も改めたのに、構造が十分に変わらないと評価されれば、次の政策手段はより強くなる。これは財政審だけが医療政策を決めたという意味ではない。厚労省には患者安全や地域医療の政策目的があり、財政当局と問題意識が重なる部分も異なる部分もある。それでも、双方の議論が改定の論点として積み重なってきたことは見逃せない。

3|2026年度改定は「終点」ではなく「試験導入」なのか

2026年度改定では、一定の条件に該当する都市部の薬局について「門前薬局等立地依存減算」15点が設けられた。処方箋集中率や近隣薬局の存在などが関係するが、すべての門前薬局に一律に適用されるものではない。既存薬局に関する経過措置もある。ここだけを見れば、対象店舗は限定的で、自局には関係ないと考える経営者もいるだろう。

ところが財政審の資料は、その限定性こそ問題だとする。新規参入だけを対象にすれば、既存薬局の小規模分散は変わらない。都市部だけでは、地方の密集地域には届かない。そこで効果検証を行い、不十分なら対象地域の拡大、既存薬局への対応、さらに強い報酬措置を検討すべきだという。これは「制度を入れたから終わり」ではなく、「入れた制度で構造が変わらなければ次へ」という論理である。

私が2028年度改定を警戒するのは、必ず既存店へ減算が広がると知っているからではない。2026年度に制度が設けられた時点で、次の検証材料が生まれたからだ。経過措置は永遠の保護を約束するものではない。一方で、既存店への拡大は医薬品アクセスや地域差にかかわるため、政治的な修正が加わる可能性もある。経営者が備えるべきなのは「確定した未来」ではなく、無視できなくなった政策シナリオだ。

4|15点は小さくない。問題は損益分岐点である

▶図2:15点減算で、利益はどれだけ変わる?

仮に15点の減算がある店舗の全受付に適用されると、1回150円。月1,000枚なら月15万円、年間180万円。月2,000枚なら年間360万円、月3,000枚なら年間540万円になる。これは単純な感応度試算であり、現行制度で既存薬局すべてに生じる減収額ではない。それでも、固定費の大きい薬局にとって、毎年数百万円の技術料収入が減る意味は重い。

たとえば年間営業利益が300万円の店舗に、仮に年180万円の減収が加わったらどうなるか。単純計算では利益は120万円に縮む。さらに人件費、光熱費、システム費が上がれば、経営の余裕は急速になくなる。もちろん、実際の損益には患者構成や他の算定項目、費用調整が影響する。しかし、減算を単に「15点だから大したことはない」と見るのは危険だ。

さらに長期処方の普及によって年間の受付回数が減れば、処方箋1枚当たりの点数だけでなく、年間の受付総数が変わる。長期処方とリフィル処方箋は同じではない。リフィルは同じ処方箋を所定の範囲で反復利用する制度であり、直ちに薬局の調剤回数が減るとは限らない。それでも受診間隔や処方行動が変われば、従来の月次受付枚数を前提にした経営計画は揺らぐ。

5|薬局の総量規制――1975年の違憲判決まで持ち出した意味

今回の資料で特に驚いたのは、1975年の最高裁判決に言及していることだ。旧薬事法の薬局距離制限は違憲とされた。その歴史を承知したうえで財政審は、薬局開設そのものの制約とは異なる保険調剤への参入規制や、密集性に着目した手法について議論している。ここまで踏み込むなら、もはや調剤報酬の技術論だけではない。

もちろん、財政審が可能性を論じたからといって、新しい規制が憲法上許されると確定したわけではない。保険薬局の指定制度、営業の自由、患者アクセス、地域ごとの医療需要を踏まえた法的・政策的検討が不可欠だ。私は規制がすぐ成立すると言いたいのではない。これまで「薬局は自由に開設でき、報酬で誘導する」という発想だったところに、「保険調剤を担う薬局の数を政策的に管理できないか」という論点が現れたこと自体を重大と考えている。

仮に新規指定が制限される地域が生まれれば、既存店の希少性が上がる可能性もある。しかし同時に、既存店への減算や指定要件の強化が進めば、事業承継やM&Aの評価は二極化し得る。規制で守られると考えるのも、すべての小規模店が消えると考えるのも早い。重要なのは、店舗の価値が「立地と受付枚数」だけで測られなくなる可能性だ。

6|薬局の経営者は、何を変えるべきか

第一に、店舗ごとに処方箋集中率、処方元の偏り、近隣薬局の密度、受付枚数の変動を把握したい。第二に、15点の減算や受付回数の変化を仮定し、営業利益と資金繰りへの影響を試算したい。第三に、地域で代替されにくい役割を確認したい。在宅患者への対応、医薬品供給の調整、多職種からの相談、ポリファーマシーへの介入などは、単なる立地依存とは違う価値を説明する材料になる。

ただし「在宅を増やせば必ず救われる」という話でもない。在宅には人員、移動時間、緊急対応、連携先との関係構築が必要だ。採算性も検討しなければならない。大切なのは、制度の点数に追随して加算を集めるだけでなく、地域で何を担い、どのように成果を示すかを経営戦略に組み込むことだ。

原案の論拠と考察を深める

【原案の核心を復元】「3段階の包囲網」は予測モデルである

原案では、2026年度の都市部・新規開局を中心とした減算を第一段階、既存店や対象地域への拡大を第二段階、保険薬局指定への量的な制約を第三段階として整理した。私はこの構図を記事から外すべきではないと思う。ただし、財政審が公式に「3段階計画」を決定したわけではない。これは私が資料の問題意識を連結して描いた政策シナリオである。だからこそ経営者には、当たるか外れるかという予言ではなく、どの段階で自局の損益や出店戦略が揺らぐのかを考えてほしい。

減算の先にあるのは、損益だけではない

仮に15点、すなわち受付1回150円の減算が既存薬局にも及ぶとする。月1,000枚なら年180万円、2,000枚なら360万円、3,000枚なら540万円の報酬減になる。これは算定対象の受付すべてに減算が適用され、年間の受付回数が一定という単純試算だ。実際の適用要件や収益への影響は店舗ごとに異なる。それでも、粗利の薄い店舗では設備更新、採用、教育、休日対応に回せる資金を左右する規模だ。経営者が恐れるべきは15点という数字だけでなく、その変更が投資余力を奪い、次の機能要件を満たす力まで削る連鎖である。

総量規制は、既存薬局にとって逆風だけなのか

原案で私があえて提起したのは、参入制限が既存店の希少価値を高めるという逆説だった。新規参入が難しくなれば、立地条件のよい既存店への取得需要が増える可能性はある。しかし、そのことと「保険薬局指定の枠を自由に売買できる」ことは全く違う。指定の法的な取扱い、承継の可否、地域ごとの患者需要、減算の対象となるかによって、事業価値はむしろ下がり得る。市場価値が二極化するという仮説は残すが、営業権の高騰を既定路線にはしない。

薬局の数を減らせば、医療の質は上がるのか

財政側の論理は理解できる。小規模店が分散すれば薬剤師、在庫、機器、システムに重複投資が生じる。供給不安時の共同備蓄や夜間対応も難しい。一方、地域に一つしかない薬局まで集約すれば、患者の移動負担が増え、在宅医療の供給網を損ねかねない。さらに大型化だけで服薬フォローや処方提案の質が保証されるわけではない。私が問いたいのは、薬局数の削減それ自体ではなく、限られた薬剤師と財源をどの配置なら患者利益につなげられるかだ。都市部の密集と過疎地のアクセスは、同じ尺度で裁いてはならない。

薬局経営者が見るべき三つの先行指標

次の改定を待つより先に、①処方箋集中率と特定処方元への依存度、②月間受付回数の減少に耐えられる固定費構造、③地域で代替されにくい機能の実績を確認したい。第三の指標は「在宅をやっています」という看板ではなく、医師・訪問看護・ケアマネジャーから継続して相談され、薬学的な提案が患者の療養に結びついた記録である。原案の『市場からの強制退場』という強い言葉は、財政審の意図を断定する表現としては修正する。ただし、立地だけで成り立つ事業モデルが政策変更に弱いという警告は残したい。

【私見】財政審が薬局を潰すのではない。薬局の存在理由が問われている

私は、財務省がすべての小規模薬局をなくそうとしていると断定するつもりはない。ただ、保険財政から見た「効率」と、地域の患者にとっての「必要」は必ずしも一致しない。だからこそ、薬局側が「地域に必要だから残してほしい」と言うだけでは弱い。誰に、どのような価値を提供し、地域医療のどの負担を軽減しているかを示す必要がある。

2026年度の減算が限定的だから安心だと考えるより、なぜ限定的な減算の次に量的規制という言葉が出てきたのかを考えたい。財政審の提言は決定事項ではない。だが、制度化されなかった提言が、次の改定で姿を変えて現れることもある。私が薬局経営者に伝えたいのは、恐怖ではなく準備である。自局の経営は、もし処方箋を待つだけでは成立しなくなったとき、何によって支えられるだろうか。

参考資料

財務省「財政制度分科会(2026年11月4日)社会保障」特に57頁(添付資料)

厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」(2015年)

厚生労働省「2026年度診療報酬改定の概要【調剤】」


👉【note版】:財政審が示す社会保障改革と薬局の未来 第1部 財政審は薬局の「数」を減らしたいのか?https://note.com/kij_imai/n/n8d7d836c509c

11/03/2026

「門前批判」と「薬剤師不要論」の歴史的真相(後編) ― 2027年OTC類似薬「特別の料金」を前に、中小薬局が選ぶ3つの生存戦略 ―

 「門前批判」と「薬剤師不要論」の歴史的真相(後編)

― 2027年OTC類似薬「特別の料金」を前に、中小薬局が選ぶ3つの生存戦略 ―

2026年11月3日

 

30秒で読む要約

立地に支払われる報酬は細り続けます。2026年度改定の立地依存減算、2027年3月から始まる見通しのOTC類似薬「特別の料金」、そして人口減少。処方箋を待つだけのモデルは、中小薬局ほど苦しくなります。

大手と同じ土俵(規模・品揃え・価格)で戦わず、中小ならではの小回りで勝つ。そのための戦略は3つです。①0402通知とAI薬歴で対物時間を圧縮する、②疑義照会と受診判断を「患者に見える価値」に変える、③処方箋の入口を医療機関から地域・介護へ広げる。

ポイントは、浮いた時間をどこに使うかを、経営者が仕組みとして決めることです。

 

前編のおさらい:役目を終えた「受け皿」

前編では、Xで噴き出している「門前批判」と「薬剤師不要論」を、歴史と数字から検証しました。

1974年の分業元年は、医師の薬価差益を処方から切り離すための政策でした。門前薬局はその受け皿として広がり、その役目はおおむね果たされました。一方で、薬局の技術料は年間2兆円を超える規模になり、国はいま、立地ではなく機能に報酬を払う方向へ舵を切っています。

では、資本力で劣る中小薬局の経営者は、どこに舵を切るべきか。後編では、2027年までに起きる変化を整理したうえで、制度改正を待たずに現行ルールの範囲で取り組める「3つの生存戦略」を提示します。

第1章:2027年までに中小薬局を揺らす3つの変化

変化①:立地への報酬は、さらに細っていく

2026年度改定では、都市部の門前型や医療機関と同じ敷地・建物内の薬局を対象とする「門前薬局等立地依存減算(▲15点)」が新設されました。現時点では、2026年5月31日以前から指定を受けている薬局は当面対象外です。

しかし安心はできません。財務省は2026年4月の財政制度等審議会で、効果が不十分なら対象地域の拡大や既存薬局への適用、さらには薬局の総量をコントロールする量的規制も視野に入れるべきだと提言しました。

日本保険薬局協会(NPhA)が2026年9月に公表した会員薬局の調査では、主要項目の見直しにより、受付1回あたり平均12.25点の減点、88.3%の薬局がマイナスの影響を受けると試算されています。「地域支援・医薬品供給対応体制加算」(旧・地域支援体制加算)だけで平均4.84点のマイナスです。

処方箋を応需するだけで損益分岐点を保つことは、今後ますます難しくなります。

変化②:2027年3月、OTC類似薬に「特別の料金」

2026年5月29日、改正健康保険法が成立しました。これにより、市販薬(OTC医薬品)と成分・投与経路が同じで、1日最大用量も変わらない医療用医薬品(77成分・約1,100品目)について、薬剤費の4分の1を「特別の料金」として患者が負担する仕組みが、2027年3月から始まる見通しです。

対象には、解熱鎮痛薬、湿布などの貼付剤、抗アレルギー薬、保湿剤、胃腸薬などが含まれます。ただし、子ども、がんや難病など配慮が必要な慢性疾患の患者、低所得者、入院患者、医師が長期使用を医療上必要と判断した患者などは、負担を求めない方向です。また厚労省は、2027年度以降の対象拡大や負担割合の引き上げも検討するとしています。

医師会側からは、自己判断による受診控えや重症化のリスクを懸念する声も上がっています。それでも、経営者として想定しておくべきなのは、「湿布や保湿剤、軽い症状の薬を目的とした受診と処方箋の一部は減る可能性が高い」ということです。

なお、処方箋なしで医療用医薬品を販売する、いわゆる「零売」は、2025年の改正薬機法で原則禁止の枠組みが法律に位置づけられ、2027年5月20日に施行される予定です。OTC類似薬の負担増への備えは、零売ではなく、一般用医薬品(OTC)と受診勧奨の組み合わせで考える必要があります。

変化③:大手と同じ土俵では、勝てない

大手調剤チェーンやドラッグストア併設型の薬局は、資本力を背景に、自動調剤機器や監査システムによる省人化、数千品目のOTC・日用品の低価格販売、M&Aによるシェア拡大を進めています。

中小薬局が「処方箋を待って正確に調剤する」ことや「薄利多売の物販」で同じ土俵に立てば、規模の経済に飲み込まれます。中小薬局が生き残る道は、大手が画一的な運営ゆえに手を出しにくい「濃い対人コミュニケーション」と「地域の医療・介護・行政のすき間に入り込む機動力」にあると私は考えます。

表2 2027年までの制度カレンダー(中小薬局に関係するもの)

時期

できごと

薬局への意味

2026年5月

改正健康保険法の成立

OTC類似薬「特別の料金」の法的根拠

2026年6月

調剤報酬改定の施行(立地依存減算▲15点の新設など)

新規出店・移転時の立地判断が変わる

2027年3月(見通し)

OTC類似薬77成分に薬剤費の1/4の「特別の料金」

軽症目的の受診・処方箋の一部が減る可能性

2027年5月20日(予定)

零売の原則禁止の枠組みが施行

処方箋なしの医療用医薬品販売は「やむを得ない場合」に限定

2027年5月20日(予定)

調剤業務の一部外部委託(一包化など、同一都道府県内の薬局間)

対物業務の外部化が選択肢に

出典:厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会資料(2025年12月25日)、薬事日報、日本医事新報ほか。時期は2026年11月3日時点の見通し。

第2章:中小薬局が今すぐ取り組める3つの生存戦略

「テクニシャン制度がない」「プライマリケアの報酬化が遅い」と嘆いても、自社の損益計算書は1円も改善しません。現行制度の範囲で、経営者の判断で今日から動ける具体策を、3つの軸で提示します。

戦略1:対物時間を圧縮し、「浮いた時間の使い道」を設計する

法的なテクニシャン制度がない日本では、薬剤師を対物作業から解放できるかどうかは、経営者の業務設計とIT投資にかかっています。

まず取り組みたいのが、0402通知の正しい活用による、非薬剤師スタッフの「社内テクニシャン化」です。医療事務を受付・入力係にとどめず、通知で認められた範囲の業務を手順書にし、研修を行ったうえで任せます。

ここで注意したいのは、「できること」と「できないこと」の線引きです。軟膏や水剤、散剤の計量・混合は、薬剤師が途中で確認しても無資格調剤にあたります。行政の監視指導でも、通知を誤って理解していたケースが指摘されています。線を越えれば、タスクシフトどころか経営リスクになります。

表3 0402通知で非薬剤師に「任せられること/任せられないこと」

任せられること(条件を満たす場合)

任せられないこと

包装されたままの医薬品(PTPシートなど)の取り揃え

軟膏剤・水剤・散剤などの直接の計量・混合

監査前の、一包化した薬剤の数量確認

調剤した薬剤の最終確認(必ず薬剤師が行う)

医薬品の納品・検品・棚入れなどの補助

判断の余地が大きい作業、品質や患者に影響しうる作業

条件:薬剤師の指示に基づくこと、薬剤師の目が現実に届く場所で行うこと、手順書の整備と研修の実施など。出典:厚生労働省「調剤業務のあり方について」(2019年4月2日)。3行目左欄は一般的な補助業務の例。

次に、AI薬歴・音声入力への投資です。大型の調剤ロボットを入れる資金がなくても、服薬指導の会話からSOAP形式の薬歴を下書きするクラウド型のツールは、比較的小さな月額費用から導入できるものが増えています。投薬後にバックヤードでキーボードを叩く時間を削ることが目的です。

そして、ここからが経営者にとって最も大事な局面です。

ピッキングをスタッフに、薬歴の下書きをAIに任せると、薬剤師には確実に時間が生まれます。その時間が、患者の前での対話や地域連携に使われるのか、それとも別の慣れた作業に吸い込まれていくのか。これは個人の意識に任せていては決まりません。

経営者は、浮いた時間を「患者へのアセスメントと価値の伝達」に振り向ける業務フローと、それを評価する人事評価の指標(KPI)を、仕組みとして設計する必要があります。たとえば、事前ヒアリングの実施率、処方提案の件数、受診勧奨やOTC相談の件数などです。

戦略2:疑義照会と受診判断を「患者に見える価値」に変える

前編で見たとおり、「水面下でエラーを防いでいる」だけでは、患者には価値が伝わりません。患者がカウンターで「ここに来ると、医師とは別の専門家の判断が得られる」と体感できる顧客体験(UX)へ作り変えます。

一つ目は、疑義照会の「患者起点化」と「言語化」です。処方箋だけを見てバックヤードで照会する流れを改め、調剤前の短いヒアリング(体調の変化、残薬、併用薬、生活の困りごと)を起点にします。

そして処方が変わったときは、医師への敬意を保ちつつ、「先生に確認しました」で終わらせないことをルールにします。たとえばこう伝えます。

「今回の腎臓の検査値と、先ほど伺ったふらつきの症状から、これまでの量では効きすぎる心配があると考えました。先生にご相談して、より安全なこちらの量に変えていただきました」

薬剤師の判断があなたの安全を守った、というプロセスが伝わって初めて、待ち時間は「コスト」から「安心の対価」に変わります。

二つ目は、2027年を見据えた「OTC相談と受診判断の導線」づくりです。ドラッグストアのように数千品目を並べる必要はありません。周辺の医療機関で処方の多いOTC類似薬に対応する一般用医薬品を、薬剤師が選んだ30〜50品目程度に絞り、相談カウンターの近くに症状別に並べます。

そのうえで、処方薬と市販薬の負担の違いを伝え、「軽い症状のときは、受診の前にまず相談してください。受診したほうがよいサインがないか一緒に確認し、市販薬で様子を見られる場合はご提案します」と案内します。

大切なのは、市販薬を売ることではなく、「受診すべきか、市販薬で様子を見てよいか」という判断を言葉で示すことです。受診が必要なサインがあれば、ためらわず受診を勧める。子どもや慢性疾患の患者など特別の料金の対象外となる人もいるため、一律に市販薬へ誘導しない配慮も欠かせません。この両方向の判断こそが、「処方箋の引き換え所」から抜け出す力になります。

戦略3:処方箋の入口を、医療機関から地域・介護へ広げる

最後は、地域でのポジションです。病院の前で処方箋を待つモデルから、地域の医療・介護・行政のネットワークのなかで「あそこに相談すれば解決する」と言われる存在へ移ります。

まず、処方箋の「入口」を、医療機関から介護・生活の場へ広げます。地域のケアマネジャー、訪問看護ステーション、地域包括支援センターに直接働きかけます。

武器は「薬を届けること」ではありません。自宅に残った薬の整理、ふらつきや食欲不振の原因になりうる多剤併用(ポリファーマシー)の見直し提案、バイタルサインや生活の変化に基づく医師へのフィードバック。他職種が困っている「服薬管理と副作用の見守り」を引き受けることで、特定の病院に依存しない面の処方箋と、在宅の患者を得ていきます。

さらに、薬局を「健診結果を持って相談に行く場所」として地域に示します。特定健診やがん検診の時期に合わせて、「健診結果の数値(HbA1c、LDLコレステロール、eGFR、血圧など)の意味を薬剤師が10分で解説します」と発信する。診察室では聞きにくい数値の意味と、「受診すべきか、生活改善で様子を見るか」の目安を伝えることで、地域の人が最初に相談する場所になれます。自治体の健康づくり事業に地域の薬局として参加することも、有力な差別化になります。

表4 大手チェーンと中小薬局、勝ち筋の違い

比較項目

大手チェーン・ドラッグストア併設型

中小・独立系の薬局

強みの源泉

資本力、自動化、M&A、品揃えと価格

小回り、地域の医療・介護・行政との近さ

オペレーション

機器とシステムによる省人化

0402通知の範囲でのタスクシフトとAI薬歴

顧客体験

便利さ、安さ、品数

医師とは別の専門家の判断(受診判断・健康相談)

目指す姿

多くの人を効率よく受ける拠点

地域の人が最初に頼る相談拠点

筆者作成。一般的な傾向を示したもので、個々の企業・薬局の評価ではない。

想定反論:「そんな余裕のある薬剤師はいない」

反論:うちは薬剤師がぎりぎりの人数で回している。対人業務を増やす余裕も、ケアマネに営業に行く時間もない。

答え:だからこそ、順番が大切です。最初にやるのは対人業務を増やすことではなく、対物時間を減らすことです。0402通知の範囲でのタスクシフトとAI薬歴で、1日あたり何分を生み出せるかを先に測る。生まれた時間の半分を対話に、残りを地域連携に回す、というように、経営者が配分を決めておけば、現場は「余裕がない」のまま止まりません。

 

終章:経営者の視点と覚悟が、薬局の寿命を決める

いまもSNSでは、「制度が悪い」「技官がつくった文化だ」という議論が続いています。その気持ちは理解できます。

ただ、患者から「輪ゴムで止めるだけ」と見られている現状は、裏を返せばチャンスでもあります。オペレーションをAIとタスクシフトで変え、患者の目の前で「医師とは別の専門家の判断と安心」を言葉にして届けられる薬局は、まだ多くありません。そこには、地域で選ばれる余地が大きく残っています。

門前モデルの成功体験を、経営者自身が手放せるか。薬剤師が患者の前に立てる仕組みを用意し、地域の人が直接価値を感じられる「健康の拠点」へと事業を組み替えられるか。2027年以降を生き残れるかどうかは、現場の頑張りだけでなく、経営者の歴史認識の深さと、変わる覚悟にかかっていると私は考えます。

✔ 今月やること(後編)

☐ 薬剤師1人あたりの「対物作業の時間」を1週間測り、0402通知の範囲で任せられる作業を洗い出す

☐ OTC類似薬の対象成分のうち、自局で処方の多いものを抽出し、相談用の一般用医薬品30〜50品目の候補リストを作る

☐ 疑義照会後の説明(何に気づき、何を提案し、何が変わったか)を、薬局内で一言のルールとして決める

☐ 近隣のケアマネジャー・訪問看護・地域包括支援センターのうち、まず1か所に残薬整理の相談窓口を案内する

 

参考資料

▶ 厚生労働省「調剤業務のあり方について」(薬生総発0402第1号、平成31年4月2日) https://www.mhlw.go.jp/content/000498352.pdf

▶ 厚生労働省「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について」(社会保障審議会医療保険部会、2025年12月25日) https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001629737.pdf

▶ 日本医事新報「OTC類似薬77成分対象に保険外負担求める制度を創設─2027年3月実施」 https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_27879

▶ 改正健康保険法の成立とOTC類似薬の解説(2026年8月) https://clius.jp/mag/2026/08/20/otc-similar-drugs-guide/

▶ 薬事日報 零売の原則禁止(改正薬機法、2027年5月20日施行予定) https://www.yakuji.co.jp/entry138258.html

▶ 厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会 資料1(2026年7月23日、調剤業務の一部外部委託) https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001725650.pdf

▶ 薬事日報「【2026年度改定】門前薬局等立地依存減算(▲15点)」 https://www.yakuji.co.jp/entry131352.html

▶ 薬事日報 財政制度等審議会の薬局に関する提言(2026年5月8日) https://www.yakuji.co.jp/?p=133592

▶ 薬事日報 NPhA 2026年度改定の影響調査(2026年9月15日) https://www.yakuji.co.jp/entry139374.html

▶ 薬事日報 0402通知の誤解による無資格調剤(社説) https://www.yakuji.co.jp/entry122209.html


👉【note版】:「水面下でエラーを防いでいる」はなぜ患者に響かないのか?(後編)


「門前批判」と「薬剤師不要論」の歴史的真相(前編) ― 医薬分業という「装置」の役目と、6年制・テクニシャン不在のねじれ ―

 「門前批判」と「薬剤師不要論」の歴史的真相(前編)

― 医薬分業という「装置」の役目と、6年制・テクニシャン不在のねじれ ―

2026年11月3日

 

30秒で読む要約

X(旧Twitter)で「門前薬局の功罪」と「薬剤師不要論」をめぐる議論が続いています。「門前へ誘導したのは国だ」という反論は、歴史的には半分正しい指摘です。

ただ、1974年の「分業元年」は、医師の薬価差益を処方から切り離すための政策でした。門前薬局はその受け皿として全国に広がりました。その役目がほぼ果たされたいま、国は2026年度改定の「門前薬局等立地依存減算」に見られるように、立地ではなく機能に報酬を払う方向へ舵を切っています。

前編では、①分業の本当の狙い、②6年制とテクニシャン不在のねじれ、③疑義照会が患者に見えない構造、の3点を数字で検証します。

 はじめに:タイムラインの「正論」に乗る前に

最近、Xを開くと、薬局と薬剤師をめぐる議論が毎日のように流れてきます。

きっかけの一つは、厚生労働省の関係者による「門前薬局文化の功罪」や「かつての総合型の薬局への回帰」に触れた発信でした。これに対して現場の薬剤師からは、「調剤報酬で門前へ誘導したのは厚労省(技官)側だ」「薬剤師は水面下で処方エラーを防いで患者を守っている」という反論が広がりました。「なぜ日本でだけ薬剤師不要論が出るのか」「シートを輪ゴムで止めるだけの仕事に見られるのは制度設計のせいだ」という声も多くの共感を集めています。

毎日処方箋と向き合う薬剤師が、こうした気持ちを抱くのは自然なことです。私自身、その悔しさはよく分かります。

ただ、薬局の経営者がこの空気にそのまま乗り、「国が梯子を外した」で議論を終えてしまうのは危ういと考えています。経営は、ルールの是非を論じるだけでは前に進まないからです。

門前薬局への批判も、薬剤師不要論も、ある日突然生まれたものではありません。1974年の分業元年以降に日本が歩んだ「医療財政を守るための歴史」と、薬局業界自身が選んできた道筋の結果です。前編では、私見を交えつつ、事実と数字に基づいて「3つの不都合な真実」を検証します。

第1の真実:医薬分業の引き金は「薬価差益」の切り離しだった

「門前薬局を作ったのは厚労省の報酬誘導だ」という主張を検証するには、まず「なぜ国は1974年以降、あれほど強く医薬分業を進めたのか」という原点に立ち返る必要があります。

表向きの目的は、医師と薬剤師の相互チェックによる医療の安全確保でした。しかし私は、政策を動かした最大の動機は、薬価差益に支えられた「薬漬け医療」と、それによる医療保険財政の圧迫を断ち切ることだったと考えています。

1971年、医師が保険診療を一斉に辞退した

当時の医療費のなかで、薬の占める割合は今とは比べものになりません。健康保険組合連合会の資料によれば、国民医療費に占める薬剤費の割合は、昭和50年代半ばでも約38%と、欧米よりかなり高い水準でした。

背景には、医師の技術料を低く抑える代わりに、公定価格(薬価)と実際の仕入れ値の差、つまり薬価差益で医療機関の経営が成り立つ構造がありました。薬を多く出すほど医療機関が潤うという、強いインセンティブが働いていたのです。

この構造に正面から手を入れることが、どれほど難しかったか。それを象徴するのが、1971年の「保険医総辞退」です。

中医協で包括払いや薬剤費の削減を打ち出す議論が示されたことなどに反発し、武見太郎会長率いる日本医師会は、会員の保険医辞退届を一斉に提出しました。1971年7月の1か月間、全国で約6万6,000人の医師が保険診療から離れるという、前代未聞の事態になりました。

国が薬価差益を力ずくで取り上げようとすれば、医師が保険診療から降りる。それは「仮定の話」ではなく、実際に起きたことだったのです。

1974年「分業元年」:処方せん料50点という取引

総辞退から3年後の1974年、国は別の道を選びます。医師が院外処方箋を出したときの「処方せん料」を、それまでの1桁台の点数から50点(当時の500円)へ一気に引き上げたのです。この年が「医薬分業元年」と呼ばれています。

医師にとっては、薬の仕入れと在庫(薬価差益の源泉)を手放す代わりに、技術料としての処方せん料を得る。いわば、医師の収入源を「モノ」から「技術」へと移す、政治的な取引だったと私は見ています。

もう一つの狙いもありました。医療機関と卸の間の不透明な価格交渉から薬を切り離し、別法人である薬局を通すことで、市場の実勢価格を見えやすくし、薬価を段階的に引き下げていく道筋をつけることです。

ちなみに、処方せん料は2024年度改定で68点から60点へ引き下げられ、2026年度改定でも60点のまま据え置かれました。50年前の50点と、いまの60点。この数字の近さそのものが、分業を後押しする報酬が「役目を終えつつある」ことを物語っています。財務省はさらに、処方せん料を院内処方の処方料と同程度にすべきだとも提案しています。

この変化を医師の側から見たのが、前回の記事「処方箋料は、もう役目を終えたのか?――開業医が『院内処方回帰』を考え始めた理由」です。処方せん料が見直されれば、開業医は院内処方への回帰を考え始める。薬局は立地への報酬を削られる。分業の終わりは、医師側と薬局側の両方から同時に進んでいます。あわせて読んでいただくと、この先の景色がより立体的に見えるはずです。

門前薬局は「受け皿」として広がった

医師の手元から処方箋を切り離す以上、それを受け取る薬局を全国に急いで整える必要がありました。そこで国は、調剤報酬という形で薬局に手厚いインセンティブを用意しました。

この誘導に対して、民間企業として最も合理的な答えが、処方箋を最も効率よく集められる「病院・診療所の目の前」への出店でした。

厳しい言い方をすれば、国がかつて門前薬局を手厚く評価したのは、薬剤師の高度な専門性を評価したからというより、「医師から薬を切り離し、薬価を見える化するための受け皿」が必要だったからです。そして、その受け皿を最も効率よく作ったのが、門前に出店した薬局経営者でした。行政のインセンティブ設計と民間の経済合理性が噛み合った結果、と言うのが公平だと思います。

図1 医薬分業50年の年表|「受け皿」の時代から「機能」の時代へ

ミッション達成後に残ったねじれ

では、いま何が起きているのか。

度重なる薬価改定によって、薬価と市場実勢価格の差は大きく縮みました。国民医療費に占める薬剤費の割合も、厚労省の推計で2019年度には21.6%まで下がっています。「医師の薬価差益を処方から切り離す」という分業の当初の目的は、おおむね果たされたと言ってよいでしょう。

ところが、ここに一つのねじれが残りました。医師の薬価差益が縮んだ代わりに、薬局に支払われる調剤医療費は2024年度に約8.4兆円、そのうち技術料は約2.3兆円の規模になっています。

財政当局の目から見れば、「医師の薬価差益を削るために分業を進めたのに、そのコストの一部が薬局の技術料に付け替わっただけではないか」という評価になりやすい。ここに、門前薬局への厳しい視線の根っこがあると私は考えています。

2026年度改定は「立地から機能へ」の宣言

2015年の「患者のための薬局ビジョン」は、門前からかかりつけ・面分業への転換を打ち出しました。しかし、策定から約10年たっても面分業は進まず、むしろ門前型の比率が高まったことが問題視されてきました。

その答えの一つが、2026年度改定(2026年6月施行)で新設された「門前薬局等立地依存減算(▲15点)」です。特別区・政令指定都市にある門前型の薬局や、医療機関と同じ敷地・建物内にあり処方箋集中率が85%を超える薬局などが対象です。2026年5月31日時点ですでに指定を受けている薬局は、当面の間は対象外とされています。

さらに財務省は2026年4月の財政制度等審議会で、効果が不十分なら対象地域の拡大や既存薬局への適用、さらには薬局の総量をコントロールする量的規制も視野に検討すべきだと提言しました。一方、日本薬剤師会の会長は減算の導入について「社会主義経済的な考えでの調整」と批判しています。賛否はあっても、方向性ははっきりしています。

国がルールを変えるのは「裏切り」というより、人口減少と医療費の増大のなかで起きる「必然」です。経営者として直視すべきなのは、過去のルールが続く前提で投資を続けてきた判断を、今どう組み替えるかだと思います。

表1 数字で見る医薬分業の50年

指標

かつて

いま

出典

処方せん料

50点(1974年・分業元年)

60点(2024年度改定〜)

厚労省資料・業界紙

薬剤費比率

約38%(昭和50年代半ば)

21.6%(2019年度)

健保連資料・厚労省推計

薬学部数

46学部(2002年)

81学部(2024年)

文部科学省

薬剤師数(人口10万対)

―

259.1人(2022年)

厚労省 医師・歯科医師・薬剤師統計

調剤医療費

―

約8.4兆円(うち技術料約2.3兆円、2024年度)

厚労省 調剤医療費の動向

注:1974年以前の処方せん料は1桁台の点数(資料により表記が異なる)。薬剤費比率は資料により算出方法が異なるため、傾向として示した。調剤医療費は電算処理分。

第2の真実:6年制とテクニシャン不在のねじれ

次に、「日本は薬剤師の数が多いのに、テクニシャン制度がないため調剤作業に時間を取られ、輪ゴム止め係としか見られない」という問題を検証します。

世界最高水準の薬剤師密度

日本の薬剤師数は2022年末時点で32万3,690人、人口10万人あたり259.1人です(届出ベース)。実際に働いている薬剤師で比べたOECDの統計(Health at a Glance 2023)でも、日本は人口10万人あたり199人と加盟国で最も多く、OECD平均(85人)の2倍を超えています(2021年またはその前後の年)。

それなのに、なぜ6年間の教育を受けた専門職が、棚から薬を取り出してシートを数える作業に多くの時間を使っているのでしょうか。

6年制は「臨床力」を引き上げるための改革だった

私は、テクニシャンに対物業務を任せる前に、まず薬剤師自身の臨床力を引き上げる必要があった、だから先に6年制にした、と解釈しています。

1990年代に分業が急速に広がった当時、4年制の薬学部は化学や創薬を中心とする教育で、病院・薬局での実務実習は短期間にとどまる大学が多くありました。患者の病態を踏まえて医師と処方を議論できる臨床力を、体系的に身につける機会は限られていたのです。

1993年のソリブジン事件は、そのことを社会に突きつけました。新しい抗ウイルス薬とフルオロウラシル系抗がん剤との相互作用で死亡者が出たこの事件は、複数の処方を一元的に確認する仕組みと、それを担う専門職の力が問われる出来事でした。

こうした流れのなかで、2006年に薬学教育は、病院・薬局での約5か月の実務実習を含む6年制へ移行しました。

対物業務を手放さなかった13年間

ただ、経営者として注目したいのは、6年制へ移行した「後」です。

本来、教育期間を延ばして高度な専門職を育てるなら、欧米のように、ピッキングや計数といった対物作業はテクニシャンや機械に任せ、薬剤師は処方提案や継続的な服薬管理、軽症の相談対応に集中する、という制度設計をセットで考えるべきだったと私は考えます。英国では2024年から、地域薬局が副鼻腔炎や咽頭痛など7つの軽症疾患に対応する「Pharmacy First」が始まっています。

ところが日本では、その議論は長く進みませんでした。6年制への移行と前後して薬学部の新設が相次ぎ、2002年に46学部だった薬学部は2024年には81学部に増えました。国家試験の合格者は毎年9,000人前後(2026年は8,749人)にのぼります。

私の見立てでは、業界には「対物作業を非薬剤師に渡せば、薬剤師の必要数が減るのではないか」という懸念がありました。薬局の薬剤師配置は、1日平均の処方箋40枚につき1人という基準で決まります。対物業務を誰が担うかは、雇用と報酬の根拠にかかわる問題だったのです。

さらに言えば、現場にも「患者と深く向き合って臨床判断の責任を負うより、正確な対物作業のほうが慣れていて安心できる」という感覚が、少なからずあったのではないでしょうか。これは個人の資質の問題というより、人は慣れた仕事に戻りやすいという、どの業界にもある構造だと思います。

業界の雇用への配慮と、現場の慣れ。この二つが重なった結果、「世界有数の薬剤師密度を持つ国で、6年制の薬剤師が対物作業に追われる」という状態が続いた、というのが私の見方です。

0402通知、そして外部委託へ

転機は2019年4月2日の厚労省通知「調剤業務のあり方について」(いわゆる0402通知)でした。6年制移行から13年後のことです。

この通知で、薬剤師の指示のもと、薬剤師の目が届く場所で、包装されたままの医薬品を取り揃えることや、監査前に一包化した薬剤の数量を確認することなどは、非薬剤師が行ってもよいと整理されました。一方で、軟膏剤・水剤・散剤を直接計量・混合することは、たとえ薬剤師が途中で確認しても薬剤師法違反になると明記されています。

さらに2025年の改正薬機法では、調剤業務の一部を外部の薬局に委託できる仕組みが設けられ、2027年5月20日に施行される予定です。制度開始時の対象は一包化(計量による調製を含むものを除く)などに限られ、委託先は同一都道府県内の薬局です。日本の薬局はようやく、対物業務を誰に任せるかを本格的に考える段階に入ったと言えます。

第3の真実:「水面下のエラー防止」はなぜ伝わらないのか

Xで最も多く見かける反論が、「薬剤師は水面下で疑義照会をして、処方エラーを防いでいる」というものです。

年間236億円の仕事

これは事実です。日本薬剤師会の全国薬局疑義照会調査(2015年度)では、処方箋に対する疑義照会の割合は2.56%、薬学的な疑義照会のうち74.88%で処方が変更されていました。この調査は、疑義照会による薬剤費の削減を年間約103億円、重い副作用を避けたことによる医療費の削減(仮定を置いた試算)を約133億円、合わせて約236億円と推計しています。

年間236億円規模の価値を生んでいる仕事が、なぜ患者の信頼につながらず、「待ち時間とよく分からない手数料」としか受け止められないのでしょうか。

私の答えは二つです。

「当たり前品質」という壁

一つ目は、エラーを防ぐこと自体は、医療職にとって「当たり前品質」だからです。

品質管理の「狩野モデル」では、あって当然の品質(当たり前品質)は、満たされていても満足は生まれず、欠けたときだけ強い不満を生むとされます。看護師が医師の指示ミスに気づいて点滴速度を直したり、臨床検査技師が検体の取り違えを防いだりしても、患者がそれに特別な対価を払うことはありません。

どの医療職も当然の責任として行っているリスク管理を、「薬剤師の最大の存在意義」として前面に出すと、他職種や国民からは「それは当然では?」と受け止められやすい。ここに、専門職としての見せ方のズレがあると私は考えています。

「先生に確認しました」で終わる会話

二つ目は、もっと実務的な問題です。疑義照会のプロセスが、患者にほとんど伝わっていないことです。

多くの薬局では、処方箋を受け取るとバックヤードで薬歴と照合し、患者と話す前に医師へ電話をかけます。処方が変わったとき、投薬カウンターで何と伝えているでしょうか。

医師との関係を気づかうあまり、「先生に確認して、お薬がこちらに変わりました」「お待たせしました」とだけ伝えて渡していないでしょうか。

これでは患者から見て、なぜ待たされたのか、薬剤師がどんな専門知識で自分の健康を守ったのかが伝わりません。薬剤師の判断のプロセスを言葉にして共有しない限り、バックヤードの疑義照会は、患者にとって「裏で何かが行われて、待たされた時間」でしかないのです。

図2 236億円の仕事が「待ち時間」に見える理由

想定反論:「結局、国の制度設計が悪いのでは?」

反論:門前に誘導したのも、テクニシャンを作らなかったのも国だ。現場や経営者に責任を求めるのは筋違いではないか。

答え:制度設計の責任は確かに国にもあります。この記事もそこは否定しません。ただ、調剤報酬は、その時代の人口や財政に合わせて国が使う「政策のハンドル」です。ハンドルが切られる方向が分かっている以上、経営者にできるのは、次の制度を待つことではなく、現行ルールの範囲で自社の形を変えることです。制度批判と自社の変革は、両立できます。

 

前編のまとめ:経営者が持ち帰りたい3つの視点

門前薬局は、医師から薬価差益を切り離すという歴史的な役目を担い、その役目はおおむね果たされました。いま国が求めているのは、年間2兆円を超える技術料に見合う「機能」です。

6年制とテクニシャン不在のねじれは、0402通知と外部委託の制度化で、ようやくほどけ始めています。そして、疑義照会という見えない価値は、言葉にしない限り患者には届きません。

では、2027年3月のOTC類似薬の「特別の料金」や人口減少が迫るなかで、中小薬局の経営者は何から手をつけるべきか。後編では、制度改正を待たずに取り組める「3つの生存戦略」を具体的に提示します。

✔ 今月やること(前編)

☐ 自局の処方箋集中率と、立地依存減算の対象になりうる条件(新規開設・移転の計画を含む)を確認する

☐ 非薬剤師スタッフの業務が、0402通知の「できること/できないこと」の範囲に収まっているかを点検する

☐ 直近1か月の疑義照会のうち、患者に「何を判断して何を変えたか」を説明できた件数を数えてみる

 

参考資料

▶ 厚生労働省「調剤業務のあり方について」(薬生総発0402第1号、平成31年4月2日) https://www.mhlw.go.jp/content/000498352.pdf

▶ OECD「Health at a Glance 2023」Figure 9.4 Practising pharmacists https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2023/11/health-at-a-glance-2023_e04f8239/7a7afb35-en.pdf

▶ 厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/index.html

▶ 厚生労働省「調剤医療費(電算処理分)の動向」(令和6年度) https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001564558.pdf

▶ 厚生労働省 推計薬剤費・薬剤費比率の推移(中医協資料) https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000966171.pdf

▶ 健康保険組合連合会「健康保険」視点(薬剤費比率の推移) https://www.kenporen.com/include/monthly/kenko_hoken/pdf/201904_shiten.pdf

▶ 日本医師会 50年史(保険医総辞退) https://med.or.jp/jma/about/50th/pdf/50th146.pdf

▶ 日本薬剤師会「全国薬局疑義照会調査報告書」 https://nichiyaku.or.jp/files/co/activities/gigihokoku.pdf

▶ 文部科学省 薬学部の入学定員等の推移(薬学系人材養成の在り方に関する検討会資料) https://www.mext.go.jp/content/20250225-mxt_igaku-000040582_002.pdf

▶ 厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会 資料1(2026年7月23日、調剤業務の一部外部委託) https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001725650.pdf

▶ 薬事日報「【2026年度改定】門前薬局等立地依存減算(▲15点)」 https://www.yakuji.co.jp/entry131352.html

▶ 薬事日報 財政制度等審議会の薬局に関する提言(2026年5月8日) https://www.yakuji.co.jp/?p=133592

▶ ミクスOnline「門前立地減算導入に日薬・岩月会長『社会主義経済的な考えでの調整』」 https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=79766

▶ 本ブログ 202611-011「処方箋料は、もう役目を終えたのか?――開業医が『院内処方回帰』を考え始めた理由」 https://kimaisdlpno.blogspot.com/2026/11/1.html

▶ 薬事日報 無季言(1974年の処方箋料引き上げ) https://www.yakuji.co.jp/entry76978.html


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