11/03/2026

処方箋料は、もう役目を終えたのか?――開業医が「院内処方回帰」を考え始めた理由 医療機関の「院内処方回帰」|第1部

 処方箋料は、もう役目を終えたのか?――開業医が「院内処方回帰」を考え始めた理由

医療機関の「院内処方回帰」|第1部

情報時点:2026年11月2日

はじめに|「また院内で薬を出そうかな」

ある開業医の知人との話から、今回のテーマが生まれました。スタッフの賃上げ、医療材料の値上がり、診療報酬改定への対応。その医師が特に心配していたのは処方箋料の将来でした。

2024年度の診療報酬改定では、通常の処方箋料が68点から60点に引き下げられました。2026年度改定で60点は据え置かれましたが、処方箋に付く一般名処方加算は2点ずつ引き下げられました。さらに財務省は、医薬分業が十分に進んだことを踏まえ、処方箋料を院内処方の処方料と同程度の水準にすべきだと提案してきました。

「これから、もっと下げられるんじゃないかな」「それなら、また院内処方に戻したほうがいいのかな?」

この話から考えたのは、院内処方と院外処方の損得だけではありません。処方箋料という政策的な評価が変わろうとしている今、診療所は何を経営の中心に据えるべきなのでしょうか。

1.医薬分業は診療報酬によって後押しされてきた

医薬分業には、医師が診断・治療を担い、薬剤師が処方内容を確認して調剤や服薬支援を行うことで、薬物療法の安全性と質を高める目的があります。一方、その普及には経済的な政策誘導もありました。かつて医療機関には薬価差益があり、院外処方への移行は医薬品の仕入れや調剤だけでなく収益構造の変更を意味しました。院外処方を評価する処方箋料の設定・引上げは、医薬分業を進める政策的な手段として用いられてきました。

2.財務省の指摘――普及のための評価はいつまで必要か

財務省の2025年4月の財政制度等審議会資料は、医薬分業の進展を踏まえて処方箋料の政策的意義を再検討する方向性を示しています。同年11月には院外処方の処方箋料を院内処方の処方料と同程度の水準にするという提案も示されました。この提案は2026年度改定では採られず、通常の処方箋料は60点に据え置かれました。一方、一般名処方加算は加算1が10点→8点、加算2が8点→6点に引き下げられています。ただし、財務省の提案は、決定された診療報酬改定と同じではありません。医療機関の経営者は、確定した制度と将来の政策リスクを区別する必要があります。

【図1:財務省原資料をここに差し込む】2025年4月23日 財政制度等審議会資料「改革の方向性(案)」該当ページ。出典:https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20250423/01.pdf

3.2024年度改定の8点引下げは何を意味するのか

通常の処方箋料68点から60点への引下げを、月1,000回算定する診療所に当てはめると、8点×10円×1,000回=月8万円、年96万円の減収相当です。これは処方箋料本体だけを取り出した単純試算であり、加算、患者数、診療報酬全体の増減は含みません。2024年度には生活習慣病管理料の再編があり、2026年度にも管理の評価・要件の見直しが行われました。制度改定による影響は個別に異なり、診療所が一律に減益だとは言えません。

【将来の仮定試算】

仮に通常の処方箋料が60点から42点に引き下げられた場合、差は18点です。月1,000回の算定なら、18点×10円×1,000回=月18万円、年間216万円の減収相当になります。これは財務省の提案をもとにした仮定であり、2026年度改定で42点への引下げが決定したという意味ではありません。実際の経営影響は患者数、加算、診療体制などによって変わります。

※月1,000回、月18万円、年216万円。制度決定ではない

4.院内処方に戻せば経営は改善するのか

院内処方が合理的な診療所もあるでしょう。患者が一か所で薬を受け取れる利便性もあります。一方、仕入れ、保管、在庫、調剤、交付、服薬説明、人員、期限切れ廃棄、供給不安、医療安全への対応が必要です。処方箋料と処方料の点数差だけで採算性は判断できません。未確定の将来不安だけを理由に経営構造を急いで変更することは避けたいものです。

5.診療所経営の本当の課題は処方箋料だけではない

高血圧、糖尿病、脂質異常症などの治療は、薬を処方して終わるものではありません。患者が自分の病気を理解し、必要な検査や診療を受け、生活習慣を見直し、治療を続けることが重要です。診療所が患者の状態を継続的に把握し、必要な医学管理を行うことは、制度の細部が変わっても大切な役割です。そこで私は、予防から治療、継続管理までの患者との関係に注目したいと思います。

6.予防医療から始まる新しい経営方針

地域の健康フェアや健康相談を通じ、住民が血圧や体重、健診結果に関心を持つ。必要な人には健診や適切な受診を勧め、診療所で診断や治療を受けた後も継続管理につなげる。その入口や情報共有の手段としてPHR(Personal Health Record)が考えられます。家庭血圧、体重、健診結果、服薬状況を本人が把握し、本人の意思と同意を尊重して必要な情報を医療者と共有する。測定方法やデータの正確性、情報管理の確認は不可欠です。PHRが電子カルテと自動連携するとは限りません。健康フェアやPHR利用だけで生活習慣病管理料を算定できるわけでもありません。

※著者の戦略提案であり政策決定ではない

7.薬局との連携は経営資源になり得るか

診療所は診察や治療方針の決定を担い、薬局は服薬状況、残薬、副作用の疑い、日常生活での困りごとを把握する機会があります。必要な情報が医師に伝われば診療に役立つ可能性があります。薬局による健康啓発や健診受診勧奨も地域の健康支援につながり得ます。ただし、連携は特定薬局への患者誘導を目的とするものではありません。患者の医療機関・薬局選択の自由を尊重することが前提です。

8.私見|処方箋料を守る経営から継続管理を強みにする経営へ

院内処方への回帰は経営上の選択肢の一つです。しかし、私が提案したいのは、予防から始まり、必要な診療、生活習慣病の継続管理、重症化予防へとつながる医療を診療所の経営方針として考えることです。健康フェアやPHRを単独の収益事業として捉えるのではありません。地域住民が健康に関心を持ち、医療者と長く関わる仕組みを、経営の基盤として育てるという思想です。収益改善が実証されたという主張ではありません。「これから、この診療所は地域の患者とどのような関係を築くのか」。その問いを大切にしたいと思います。

おわりに|この話を薬局経営者に伝えたら

「門前の先生が院内処方に戻したら、うちの薬局はどうなるんですか?」。次回は、この不安を入口に、門前薬局の立地と専門性を予防医療や継続管理に生かす可能性を考えます。

参考資料

厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html

厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html

財務省「財政制度等審議会資料」(2025年4月23日) https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20250423/01.pdf

財務省 財政制度分科会資料「社会保障①」(2025年11月5日) https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20251105/03.pdf

 

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