11/03/2026

「門前批判」と「薬剤師不要論」の歴史的真相(後編) ― 2027年OTC類似薬「特別の料金」を前に、中小薬局が選ぶ3つの生存戦略 ―

 「門前批判」と「薬剤師不要論」の歴史的真相(後編)

― 2027年OTC類似薬「特別の料金」を前に、中小薬局が選ぶ3つの生存戦略 ―

2026年11月3日

 

30秒で読む要約

立地に支払われる報酬は細り続けます。2026年度改定の立地依存減算、2027年3月から始まる見通しのOTC類似薬「特別の料金」、そして人口減少。処方箋を待つだけのモデルは、中小薬局ほど苦しくなります。

大手と同じ土俵(規模・品揃え・価格)で戦わず、中小ならではの小回りで勝つ。そのための戦略は3つです。①0402通知とAI薬歴で対物時間を圧縮する、②疑義照会と受診判断を「患者に見える価値」に変える、③処方箋の入口を医療機関から地域・介護へ広げる。

ポイントは、浮いた時間をどこに使うかを、経営者が仕組みとして決めることです。

 

前編のおさらい:役目を終えた「受け皿」

前編では、Xで噴き出している「門前批判」と「薬剤師不要論」を、歴史と数字から検証しました。

1974年の分業元年は、医師の薬価差益を処方から切り離すための政策でした。門前薬局はその受け皿として広がり、その役目はおおむね果たされました。一方で、薬局の技術料は年間2兆円を超える規模になり、国はいま、立地ではなく機能に報酬を払う方向へ舵を切っています。

では、資本力で劣る中小薬局の経営者は、どこに舵を切るべきか。後編では、2027年までに起きる変化を整理したうえで、制度改正を待たずに現行ルールの範囲で取り組める「3つの生存戦略」を提示します。

第1章:2027年までに中小薬局を揺らす3つの変化

変化①:立地への報酬は、さらに細っていく

2026年度改定では、都市部の門前型や医療機関と同じ敷地・建物内の薬局を対象とする「門前薬局等立地依存減算(▲15点)」が新設されました。現時点では、2026年5月31日以前から指定を受けている薬局は当面対象外です。

しかし安心はできません。財務省は2026年4月の財政制度等審議会で、効果が不十分なら対象地域の拡大や既存薬局への適用、さらには薬局の総量をコントロールする量的規制も視野に入れるべきだと提言しました。

日本保険薬局協会(NPhA)が2026年9月に公表した会員薬局の調査では、主要項目の見直しにより、受付1回あたり平均12.25点の減点、88.3%の薬局がマイナスの影響を受けると試算されています。「地域支援・医薬品供給対応体制加算」(旧・地域支援体制加算)だけで平均4.84点のマイナスです。

処方箋を応需するだけで損益分岐点を保つことは、今後ますます難しくなります。

変化②:2027年3月、OTC類似薬に「特別の料金」

2026年5月29日、改正健康保険法が成立しました。これにより、市販薬(OTC医薬品)と成分・投与経路が同じで、1日最大用量も変わらない医療用医薬品(77成分・約1,100品目)について、薬剤費の4分の1を「特別の料金」として患者が負担する仕組みが、2027年3月から始まる見通しです。

対象には、解熱鎮痛薬、湿布などの貼付剤、抗アレルギー薬、保湿剤、胃腸薬などが含まれます。ただし、子ども、がんや難病など配慮が必要な慢性疾患の患者、低所得者、入院患者、医師が長期使用を医療上必要と判断した患者などは、負担を求めない方向です。また厚労省は、2027年度以降の対象拡大や負担割合の引き上げも検討するとしています。

医師会側からは、自己判断による受診控えや重症化のリスクを懸念する声も上がっています。それでも、経営者として想定しておくべきなのは、「湿布や保湿剤、軽い症状の薬を目的とした受診と処方箋の一部は減る可能性が高い」ということです。

なお、処方箋なしで医療用医薬品を販売する、いわゆる「零売」は、2025年の改正薬機法で原則禁止の枠組みが法律に位置づけられ、2027年5月20日に施行される予定です。OTC類似薬の負担増への備えは、零売ではなく、一般用医薬品(OTC)と受診勧奨の組み合わせで考える必要があります。

変化③:大手と同じ土俵では、勝てない

大手調剤チェーンやドラッグストア併設型の薬局は、資本力を背景に、自動調剤機器や監査システムによる省人化、数千品目のOTC・日用品の低価格販売、M&Aによるシェア拡大を進めています。

中小薬局が「処方箋を待って正確に調剤する」ことや「薄利多売の物販」で同じ土俵に立てば、規模の経済に飲み込まれます。中小薬局が生き残る道は、大手が画一的な運営ゆえに手を出しにくい「濃い対人コミュニケーション」と「地域の医療・介護・行政のすき間に入り込む機動力」にあると私は考えます。

表2 2027年までの制度カレンダー(中小薬局に関係するもの)

時期

できごと

薬局への意味

2026年5月

改正健康保険法の成立

OTC類似薬「特別の料金」の法的根拠

2026年6月

調剤報酬改定の施行(立地依存減算▲15点の新設など)

新規出店・移転時の立地判断が変わる

2027年3月(見通し)

OTC類似薬77成分に薬剤費の1/4の「特別の料金」

軽症目的の受診・処方箋の一部が減る可能性

2027年5月20日(予定)

零売の原則禁止の枠組みが施行

処方箋なしの医療用医薬品販売は「やむを得ない場合」に限定

2027年5月20日(予定)

調剤業務の一部外部委託(一包化など、同一都道府県内の薬局間)

対物業務の外部化が選択肢に

出典:厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会資料(2025年12月25日)、薬事日報、日本医事新報ほか。時期は2026年11月3日時点の見通し。

第2章:中小薬局が今すぐ取り組める3つの生存戦略

「テクニシャン制度がない」「プライマリケアの報酬化が遅い」と嘆いても、自社の損益計算書は1円も改善しません。現行制度の範囲で、経営者の判断で今日から動ける具体策を、3つの軸で提示します。

戦略1:対物時間を圧縮し、「浮いた時間の使い道」を設計する

法的なテクニシャン制度がない日本では、薬剤師を対物作業から解放できるかどうかは、経営者の業務設計とIT投資にかかっています。

まず取り組みたいのが、0402通知の正しい活用による、非薬剤師スタッフの「社内テクニシャン化」です。医療事務を受付・入力係にとどめず、通知で認められた範囲の業務を手順書にし、研修を行ったうえで任せます。

ここで注意したいのは、「できること」と「できないこと」の線引きです。軟膏や水剤、散剤の計量・混合は、薬剤師が途中で確認しても無資格調剤にあたります。行政の監視指導でも、通知を誤って理解していたケースが指摘されています。線を越えれば、タスクシフトどころか経営リスクになります。

表3 0402通知で非薬剤師に「任せられること/任せられないこと」

任せられること(条件を満たす場合)

任せられないこと

包装されたままの医薬品(PTPシートなど)の取り揃え

軟膏剤・水剤・散剤などの直接の計量・混合

監査前の、一包化した薬剤の数量確認

調剤した薬剤の最終確認(必ず薬剤師が行う)

医薬品の納品・検品・棚入れなどの補助

判断の余地が大きい作業、品質や患者に影響しうる作業

条件:薬剤師の指示に基づくこと、薬剤師の目が現実に届く場所で行うこと、手順書の整備と研修の実施など。出典:厚生労働省「調剤業務のあり方について」(2019年4月2日)。3行目左欄は一般的な補助業務の例。

次に、AI薬歴・音声入力への投資です。大型の調剤ロボットを入れる資金がなくても、服薬指導の会話からSOAP形式の薬歴を下書きするクラウド型のツールは、比較的小さな月額費用から導入できるものが増えています。投薬後にバックヤードでキーボードを叩く時間を削ることが目的です。

そして、ここからが経営者にとって最も大事な局面です。

ピッキングをスタッフに、薬歴の下書きをAIに任せると、薬剤師には確実に時間が生まれます。その時間が、患者の前での対話や地域連携に使われるのか、それとも別の慣れた作業に吸い込まれていくのか。これは個人の意識に任せていては決まりません。

経営者は、浮いた時間を「患者へのアセスメントと価値の伝達」に振り向ける業務フローと、それを評価する人事評価の指標(KPI)を、仕組みとして設計する必要があります。たとえば、事前ヒアリングの実施率、処方提案の件数、受診勧奨やOTC相談の件数などです。

戦略2:疑義照会と受診判断を「患者に見える価値」に変える

前編で見たとおり、「水面下でエラーを防いでいる」だけでは、患者には価値が伝わりません。患者がカウンターで「ここに来ると、医師とは別の専門家の判断が得られる」と体感できる顧客体験(UX)へ作り変えます。

一つ目は、疑義照会の「患者起点化」と「言語化」です。処方箋だけを見てバックヤードで照会する流れを改め、調剤前の短いヒアリング(体調の変化、残薬、併用薬、生活の困りごと)を起点にします。

そして処方が変わったときは、医師への敬意を保ちつつ、「先生に確認しました」で終わらせないことをルールにします。たとえばこう伝えます。

「今回の腎臓の検査値と、先ほど伺ったふらつきの症状から、これまでの量では効きすぎる心配があると考えました。先生にご相談して、より安全なこちらの量に変えていただきました」

薬剤師の判断があなたの安全を守った、というプロセスが伝わって初めて、待ち時間は「コスト」から「安心の対価」に変わります。

二つ目は、2027年を見据えた「OTC相談と受診判断の導線」づくりです。ドラッグストアのように数千品目を並べる必要はありません。周辺の医療機関で処方の多いOTC類似薬に対応する一般用医薬品を、薬剤師が選んだ30〜50品目程度に絞り、相談カウンターの近くに症状別に並べます。

そのうえで、処方薬と市販薬の負担の違いを伝え、「軽い症状のときは、受診の前にまず相談してください。受診したほうがよいサインがないか一緒に確認し、市販薬で様子を見られる場合はご提案します」と案内します。

大切なのは、市販薬を売ることではなく、「受診すべきか、市販薬で様子を見てよいか」という判断を言葉で示すことです。受診が必要なサインがあれば、ためらわず受診を勧める。子どもや慢性疾患の患者など特別の料金の対象外となる人もいるため、一律に市販薬へ誘導しない配慮も欠かせません。この両方向の判断こそが、「処方箋の引き換え所」から抜け出す力になります。

戦略3:処方箋の入口を、医療機関から地域・介護へ広げる

最後は、地域でのポジションです。病院の前で処方箋を待つモデルから、地域の医療・介護・行政のネットワークのなかで「あそこに相談すれば解決する」と言われる存在へ移ります。

まず、処方箋の「入口」を、医療機関から介護・生活の場へ広げます。地域のケアマネジャー、訪問看護ステーション、地域包括支援センターに直接働きかけます。

武器は「薬を届けること」ではありません。自宅に残った薬の整理、ふらつきや食欲不振の原因になりうる多剤併用(ポリファーマシー)の見直し提案、バイタルサインや生活の変化に基づく医師へのフィードバック。他職種が困っている「服薬管理と副作用の見守り」を引き受けることで、特定の病院に依存しない面の処方箋と、在宅の患者を得ていきます。

さらに、薬局を「健診結果を持って相談に行く場所」として地域に示します。特定健診やがん検診の時期に合わせて、「健診結果の数値(HbA1c、LDLコレステロール、eGFR、血圧など)の意味を薬剤師が10分で解説します」と発信する。診察室では聞きにくい数値の意味と、「受診すべきか、生活改善で様子を見るか」の目安を伝えることで、地域の人が最初に相談する場所になれます。自治体の健康づくり事業に地域の薬局として参加することも、有力な差別化になります。

表4 大手チェーンと中小薬局、勝ち筋の違い

比較項目

大手チェーン・ドラッグストア併設型

中小・独立系の薬局

強みの源泉

資本力、自動化、M&A、品揃えと価格

小回り、地域の医療・介護・行政との近さ

オペレーション

機器とシステムによる省人化

0402通知の範囲でのタスクシフトとAI薬歴

顧客体験

便利さ、安さ、品数

医師とは別の専門家の判断(受診判断・健康相談)

目指す姿

多くの人を効率よく受ける拠点

地域の人が最初に頼る相談拠点

筆者作成。一般的な傾向を示したもので、個々の企業・薬局の評価ではない。

想定反論:「そんな余裕のある薬剤師はいない」

反論:うちは薬剤師がぎりぎりの人数で回している。対人業務を増やす余裕も、ケアマネに営業に行く時間もない。

答え:だからこそ、順番が大切です。最初にやるのは対人業務を増やすことではなく、対物時間を減らすことです。0402通知の範囲でのタスクシフトとAI薬歴で、1日あたり何分を生み出せるかを先に測る。生まれた時間の半分を対話に、残りを地域連携に回す、というように、経営者が配分を決めておけば、現場は「余裕がない」のまま止まりません。

 

終章:経営者の視点と覚悟が、薬局の寿命を決める

いまもSNSでは、「制度が悪い」「技官がつくった文化だ」という議論が続いています。その気持ちは理解できます。

ただ、患者から「輪ゴムで止めるだけ」と見られている現状は、裏を返せばチャンスでもあります。オペレーションをAIとタスクシフトで変え、患者の目の前で「医師とは別の専門家の判断と安心」を言葉にして届けられる薬局は、まだ多くありません。そこには、地域で選ばれる余地が大きく残っています。

門前モデルの成功体験を、経営者自身が手放せるか。薬剤師が患者の前に立てる仕組みを用意し、地域の人が直接価値を感じられる「健康の拠点」へと事業を組み替えられるか。2027年以降を生き残れるかどうかは、現場の頑張りだけでなく、経営者の歴史認識の深さと、変わる覚悟にかかっていると私は考えます。

✔ 今月やること(後編)

☐ 薬剤師1人あたりの「対物作業の時間」を1週間測り、0402通知の範囲で任せられる作業を洗い出す

☐ OTC類似薬の対象成分のうち、自局で処方の多いものを抽出し、相談用の一般用医薬品30〜50品目の候補リストを作る

☐ 疑義照会後の説明(何に気づき、何を提案し、何が変わったか)を、薬局内で一言のルールとして決める

☐ 近隣のケアマネジャー・訪問看護・地域包括支援センターのうち、まず1か所に残薬整理の相談窓口を案内する

 

参考資料

▶ 厚生労働省「調剤業務のあり方について」(薬生総発0402第1号、平成31年4月2日) https://www.mhlw.go.jp/content/000498352.pdf

▶ 厚生労働省「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について」(社会保障審議会医療保険部会、2025年12月25日) https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001629737.pdf

▶ 日本医事新報「OTC類似薬77成分対象に保険外負担求める制度を創設─2027年3月実施」 https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_27879

▶ 改正健康保険法の成立とOTC類似薬の解説(2026年8月) https://clius.jp/mag/2026/08/20/otc-similar-drugs-guide/

▶ 薬事日報 零売の原則禁止(改正薬機法、2027年5月20日施行予定) https://www.yakuji.co.jp/entry138258.html

▶ 厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会 資料1(2026年7月23日、調剤業務の一部外部委託) https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001725650.pdf

▶ 薬事日報「【2026年度改定】門前薬局等立地依存減算(▲15点)」 https://www.yakuji.co.jp/entry131352.html

▶ 薬事日報 財政制度等審議会の薬局に関する提言(2026年5月8日) https://www.yakuji.co.jp/?p=133592

▶ 薬事日報 NPhA 2026年度改定の影響調査(2026年9月15日) https://www.yakuji.co.jp/entry139374.html

▶ 薬事日報 0402通知の誤解による無資格調剤(社説) https://www.yakuji.co.jp/entry122209.html


👉【note版】:「水面下でエラーを防いでいる」はなぜ患者に響かないのか?(後編)


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