11/04/2026

昼の薬だけが残る本当の理由 ― 食事・デイサービス・生活時間とのミスマッチ ― 多職種から見た薬局|第2部(ケアマネジャー編)・第4回

昼の薬だけが残る本当の理由

― 食事・デイサービス・生活時間とのミスマッチ ―

多職種から見た薬局|第2部(ケアマネジャー編)・第4回

情報基準日:2026年11月4日

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30秒で読む要約

昼1回にまとめても飲めない人がいます。見直したいのは「何時に飲むか」より「その時間に誰がいるか」。日本老年薬学会も、在宅では介護者や家族の支援時間に合わせるとしています。本人の1週間に誰が来るかを一番知っているのはケアマネジャー。その情報が、飲み方を見直す出発点になります。

 

はじめに|処方を見直したら「全部、昼」だった

前回(MP-2-3)紹介した、お薬カレンダーから薬を取り出すのが面倒で、気が向いたときにしか飲まない80代の独居男性。研修資料の処方欄を見直すと、約10種類の薬がすべて「1日1回 昼食後」にまとめられていました。

回数はこれ以上減らせないほど簡単になっていたのに、飲めていなかったのです。なぜ昼にしたのか、理由は資料にありません。今回は、何が足りなかったのかを「時間」ではなく「人」から考えます。

※2023年1月の春日井モデル研修資料(資料提供者の了解を得た非公開資料)をもとに、個人が推測されないよう一般化しています。

1.残薬は「時間帯」と「曜日」で読む

残薬を見つけたら、量の次に「いつの分が、何曜日の分が残っているか」を見てください。国の報告書には「ヘルパーが入らない日に飲み忘れる傾向があった」という事例があります(みずほ情報総研、2015年)。飲み忘れは「誰も来ない日」に偏ることがあるのです。

一方、薬局の来局者217人の調査では、31%が飲み忘れ「あり」と答え、「いつ忘れるか」の回答は夕20人、昼16人、朝13人でした(北海道医療センター、2016年)。昼が一番残るとは言えません。ただ、飲まなかった理由の2位は「お出かけした時」(22人)でした。

飲み忘れの理由は、時刻より、その時間に何が起きているかにあります。見るべきは「その人の昼」です。

※人数は「いつ忘れるか」の回答の内訳で、217人全体の割合ではありません。外来通院者が対象で、時間帯どうしの比較はできません。

2.施設の「昼」と、自宅の「昼」は違う

日本老年薬学会は2024年、高齢者施設では服薬を可能なら昼1回にまとめるよう提言しました。施設では昼が最も職員の多い時間だからです。

2025年には在宅についても整理し、次のように示しています。

・  患者の生活リズム、介護者や家族の支援時間に合わせて服薬タイミングを調整する。

・  デイサービスや訪問看護が入りやすい時間帯である昼1回になるべくまとめる。

・  昼1回が困難であれば、家族の支援が可能な時間に合わせる(朝、夕、寝る前など)。

・  1日1回への統一が難しい場合でも、朝食後と夕食後などになるべく集約する。

施設でも在宅でも、昼を選ぶ理由は「人がいるから」。学会の答えは、時刻ではなく人です。ただし在宅の昼1回は「条件により可能」とされています。自宅の昼は、曜日によって本人ひとりかもしれないからです。

タイトル: 図1 施設・病院・自宅で、“昼”に誰がいるか - 説明: 図1 施設・病院・自宅で、“昼”に誰がいるか

図1 施設・病院・自宅で、“昼”に誰がいるか

3.まとめるだけでは足りない

冒頭の男性の昼に、薬を飲む場面に立ち会う人はいたでしょうか。資料から、毎日の昼に誰かが声をかけていた様子は読み取れません。

東京都の事例を紹介します。認知症の80代女性は、食前・食後・寝る前と1日6回の服薬が煩雑でした。家族の相談を受けた薬剤師が処方医と相談して食後3回に減らし、さらにヘルパーの相談を受けて、糖尿病の薬1剤を週1回の注射に、飲み薬を昼食後1回にまとめました。薬剤師は毎週訪問し、昼の薬をお薬カレンダーにセットしました。

ところが認知症が進み、日付や時間の感覚がなくなりました。そこでカレンダーをやめ、鍵付きの薬箱を置き、ヘルパーが手渡す方法に変えています(厚生労働省「平成27年度健康情報拠点薬局事業事例の報告」)。

最後に行き着いたのは、「昼に、誰が手渡すか」でした。ケアマネジャーは「服薬困難な認知症患者の服薬改善につながり、有り難く思っている」と評価しています。回数を減らすことは大切です。でも、それだけでは「飲む」は完成しません。

4.「誰がいるか」で飲む時間を決めた人たち

学会の提言には、平日の昼はデイケア、夜と週末は近くに住む息子が支える78歳男性の事例があります。1日6回の服薬を「昼前」と「寝る前」の2回(ほかに月1回の起床時)に整理し、「薬物治療を継続しながら独居生活を送れるようになった」と報告されています(日本老年薬学会雑誌、2024年)。

タイトル: 図2 1週間の「誰がいるか表」と、飲む時間の重ね方 - 説明: 図2 1週間の「誰がいるか表」と、飲む時間の重ね方

図2 1週間の「誰がいるか表」と、飲む時間の重ね方

厚生労働省の事例集には、介護サービスを受ける10時ごろに朝昼兼用の食事をとり、朝食後の薬が飲めていなかった人の例があります。7種類・1日4回から4種類・昼食後1回に見直し、服薬アドヒアランスが向上。生活全般に介助が必要だった状態から要支援2になったと報告されています(改善は処方の見直しだけによるとは限りません)。

国の報告書には、もっと短い言葉もあります。「訪問看護師、ヘルパー、介護支援専門員、薬剤師等が行く時間に合わせて服薬回数を減らし、訪問時に促して服用させる様にした」。10年以上前から、現場の答えは同じでした。

5.昼に動かせる薬、動かせない薬

すべての薬を自由に動かせるわけではありません。

タイトル: 表1 昼に動かす前に、薬剤師が確認すること - 説明: 表1 昼に動かす前に、薬剤師が確認すること

表1 昼に動かす前に、薬剤師が確認すること

▶ 表1の要点

◆起床時・食前など、飲む時間が決められた薬がある

◆分けて飲む・朝や寝る前が望ましい薬がある

◆動かせるかを判断するのは薬剤師と医師

注:日本老年薬学会「高齢者施設の服薬簡素化提言」(2024年)をもとに作成。個別の可否は、薬剤師の評価と医師の判断による。

ケアマネジャーや介護職が、自分の判断で飲む時間や量を変えてはいけません。お願いしたいのは、薬の判断ではなく、生活の情報を薬局に渡すことです。

6.薬局に渡したい「1週間の、誰がいるか表」

学会も、在宅では専門職が別々の組織に属し、連携が難しいことを認めています。薬剤師からは「他職種の方々は事前に知っていて、薬局だけ知らないケースが多い」という声もあります(みずほ情報総研、2015年)。

本人の1週間を知っているのはケアマネジャーです。デイ、ヘルパー、訪問看護、家族、配食の曜日と時間を1枚の表にして、薬局に渡してください。記入例は図2の右側です。

「水曜と土曜の昼に誰もいない。この日の分が残っている」と分かれば、薬剤師は医師に具体的な提案ができます。会議より先に、表1枚と残薬の写真1枚から始められます。

想定される反論

「飲み忘れは夕方のほうが多いのでは?」

その調査もあります。だから「昼だから残る」と決めつけず、その人の時間帯と曜日を見ます。

「昼の薬はデイサービスに持たせれば解決するのでは?」

有効ですが、「持っていくはずの薬を行く前に服用してしまう」事例もあります。薬剤師と事業所が確認し合うことで防げました(第5部で詳しく扱います)。

「まとめると一度に飲む薬が増えて危ないのでは?」

学会の提言もそのリスクを挙げています。だから可否は薬剤師の評価と医師の判断で決めます。

「在宅で多職種が集まるのは難しいのでは?」

学会もそれを認めています。だから会議より先に「表1枚」です。東京都の事例も、家族やヘルパーの相談が一つずつ薬剤師と医師につながって、飲み方が変わりました。

 

まとめ|今月やること

残薬のある利用者を一人選んで、やってみてください。

□ 残っている薬を「時間帯」と「曜日」で数える

□ 朝・昼・夕・夜に誰がいるか、1週間の表にする

□ 表と残薬の状況を、かかりつけ薬局に渡す

□ 本人や家族に「飲み方は医師・薬剤師に相談できる」と伝える

 

飲み忘れに気づいても、まとめて飲む・量を変えるといった自己判断はしないでください。低血糖が疑われる症状や意識の変化などがあれば、医療機関への連絡を優先します。

私見|薬の知識だけでは、解けない問題がある

私は2023年1月、名古屋市立大学との共同研究として、春日井市で病院・薬局・ケアマネジャーが症例を検討する研修を企画しました。

企画を通して、私がいちばん強く感じたことがあります。それは、薬剤師は患者さんの生活を把握できていない、ということです。

薬剤師は、自分の持っている薬の知識をもとに質問し、考えます。けれども、それだけでは解決できないことがあります。その人が昼に何をしているのか、誰がそばにいるのかを知らなければ、本当の理由にはたどり着けません。

症例を多職種で検討するなかで、私は理解しました。連携で共有する情報は、薬の情報だけではない。患者さんの生活の情報も、同じくらい大切なのだと。そして、その生活を一番よく知っているのは、ケアマネジャーです。

「その昼に、誰がいるか」。この一つの問いを、ケアマネジャーと薬剤師が共有することから始めたいと考えています。

※筆者の実践提案であり、紹介した事例で効果が検証された方法ではありません。

参考資料

日本老年薬学会「病院や在宅における服薬簡素化について」(2025年)

https://www.jsgp.or.jp/news/20250624_3/

日本老年薬学会「高齢者施設の服薬簡素化提言」日本老年薬学会雑誌 Vol.7 S2(2024年)

https://www.jsgp.or.jp/news/20240517-2/

日本老年薬学会 一般向けポスター「服薬簡素化のススメ」

https://www.jsgp.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/06/jsgp-fukuyakukansoka-poster-for-all.pdf

厚生労働省 高齢者医薬品適正使用検討会 事例集

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000474075.pdf

みずほ情報総研 平成26年度老人保健健康増進等事業報告書(2015年)

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000140309.pdf

厚生労働省「平成27年度健康情報拠点薬局事業事例の報告」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/actionplan04.pdf

北海道医療センター「薬剤内服に関するアンケート結果について」(2016年)

https://hokkaido-mc.hosp.go.jp/common/img/index/anq.pdf

春日井モデル研修資料(2023年1月、非公開資料)

前回:MP-2-3「一包化しても薬が飲めないのはなぜ?」

https://kimaisdlpno.blogspot.com/2026/10/2_01830341255.html


👉【note版】:「昼の薬だけが残る本当の理由」――食事・デイサービス・生活時間とのミスマッチ


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