11/05/2026

病院3つ、薬局3軒、お薬手帳3冊――“全部の薬”を知っている人は誰か ― 多職種から見た薬局|第2部(ケアマネジャー編)・第5回 ―

 病院3つ、薬局3軒、お薬手帳3冊

――“全部の薬”を知っている人は誰か

― 多職種から見た薬局|第2部(ケアマネジャー編)・第5回 ―

情報基準日:2026年11月4日


30秒で読む要約

複数の病院から薬が出ている高齢者。医師は自分の処方を、薬局は自分の店で出した薬を知っています。けれども「全部の薬」を一度に見ている人は、実は誰もいないことがあります。薬の整理は、①全部を集める(薬剤師)、②どれを続けるか決める(医師)、③変化に気づいて、つなぐ(ケアマネジャー)の3つの仕事に分かれます。受診先を一番よく知っているケアマネジャーが「つなぐ」を担うと、整理が動き出します。

はじめに|「全部の薬」を知っている人がいなかった

厚生労働省の指針に、こんな事例が載っています。

85歳の男性。認知症、うつ状態、高血圧などがあり、訪問看護と在宅での診療を受け始めたところでした。

調べてみると、この方は3つの医療機関に通い、それぞれ別の薬局で薬を受け取っていました。お薬手帳も、薬局ごとに分かれていました。

薬は合計13種類。1日4回に、週1回の起床時と頓服が加わります。

そして、眠りに関わる薬が、A・B・Cの3つの医療機関すべてから出ていました。

もともと高血圧でA医院に通っていた。食欲がなくなってB病院へ。便秘がひどくなってC医院へ。

後から振り返ると、Aで出ていた骨粗しょう症の薬が食欲不振の原因ではないか。Bで出ていた睡眠薬などが便秘の原因ではないか。薬の副作用に、新しい薬で対応する「処方カスケード」が疑われました。

誰かが手を抜いたわけではありません。どの医師も、目の前の症状に誠実に対応していました。ただ、全体を見ている人がいなかったのです。

見直しのきっかけをつくったのは、訪問看護師でした。お薬手帳に書かれていた各医療機関の受診の経緯を、在宅医に伝えたのです。

在宅医は他の医療機関に確認しながら、時間をかけて薬を見直しました。最終的に薬は7種類、1日2回(ほかに頓服)に。その後は入院することなく過ごし、要介護度も改善しました。お薬手帳は1冊にまとめられました(厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編)」事例3)。

複数の病院から薬が出ている高齢者。その薬は、誰が整理するのでしょうか。

図1 3つの医療機関、3つの薬局、3冊のお薬手帳


1.なぜ「全部の薬」が見えなくなるのか

関わる人は多いのに全体が見えないのは、それぞれが「自分の分」しか見ていないからです。

医師は、自分の処方は分かります。他の医療機関の薬は、本人の話とお薬手帳が頼りです。指針も、外来や在宅では「診療科・医療機関が複数あるために全体像を把握できていないことが多い」と書いています。

薬局は、自分の店で調剤した薬は分かります。薬局が3軒なら、それぞれが見ているのは全体の一部です。

お薬手帳も、1冊にまとまっていなければ情報は分かれます。

では、手帳がきちんと書かれていれば安心でしょうか。日本病院薬剤師会が紹介する事例があります。在宅で暮らす80代の女性。3つの医療機関に通い、それぞれの門前の3薬局で薬を受け取っていました。お薬手帳はどの薬局でも正しく記載されていました。

それでも、胃薬と便秘の薬が2か所から重なって出ていることに、誰も気づきませんでした。受診のたびに、付き添う家族が違ったからです。

一人ひとりは、自分が付き添った受診のことしか知らない。手帳があっても、全体を眺める人がいなければ、重複は見えないのです。

市販薬やサプリメントは、さらに見えにくくなります。使っていても医師に伝えていない人が多いことが報告されています(指針)。

実は、国の統計にも同じ落とし穴があります。

「75歳以上の約4分の1が7種類以上、約4割が5種類以上の薬を処方されている」。よく引用されるこの数字は、「同じ薬局で1か月に調剤された薬」を数えたものです(平成28年社会医療診療行為別統計)。国の高齢者医薬品適正使用検討会で座長代理を務めた秋下雅弘氏も、複数の薬局を使う人もいるので、実際にはさらに多くの薬が処方されていると指摘しています。

統計でさえ、全部の薬は見えていないのです。

2.「整理する」は、3つの仕事に分かれる

「誰が薬を整理するのか」。この問いに一人の名前で答えようとすると、話が止まってしまいます。

整理は、3つの仕事に分けて考えると動き出します。

① 集める――全部の薬(市販薬も含めて)を一か所にそろえる。中心は薬剤師です。できれば、全部を知っている薬局を1つ決めます。

② 決める――どの薬を続け、どれを減らすか。これは医師の仕事です。指針は、複数の医師が処方していた人の退院・退所に向けて、「今後の処方を取りまとめる医師」を決めておくことを勧めています。

③ 気づいて、つなぐ――受診先が増えた、新しい症状が出た、薬が余っている。その変化に気づき、医師と薬剤師に伝える。ここがケアマネジャーの出番です。

指針は、介護支援専門員の役割を「各職種からの服薬状況や生活状況の情報集約と主治の医師、歯科医師、薬剤師への伝達」としています。

ケアマネジャーの運営基準にも、利用者の服薬状況などの情報を、本人の同意を得て主治の医師や薬剤師に提供することが定められています(居宅介護支援の運営基準 第13条第13号の2)。

冒頭の事例で「つなぐ」を担ったのは訪問看護師でした。誰がつないでもかまいません。ただ、受診先を一番よく知っていて、原則として月に1回は本人に会っている。その立場にいるのが、ケアマネジャーです。

図2 薬の整理は「集める・決める・つなぐ」の3つの仕事


3.ケアマネジャーが気づける「7つのサイン」

ケアマネジャーに薬の良し悪しを判断してもらう必要はありません。お願いしたいのは、気づくことです。

表1 薬局に伝えたい「7つのサイン」


表1の要点

■  受診先・薬局・お薬手帳の「数」と、付き添う家族の違いをまず伝える

■  新しい症状で受診先が増えたときは、薬の副作用の可能性も考える

■  市販薬・サプリメントと「飲む理由が分からない薬」も伝える

 

「この薬はいらないのでは」と言う必要はありません。

「受診先が3つあって、薬局も2軒です」「最近、便秘で新しい病院に行き始めました」。

その事実を一言、薬局に伝えてください。それだけで、薬剤師が確認できることは大きく変わります。

4.ケアマネジャーにできる3つのこと

① 「受診先・薬局マップ」をつくって薬局に渡す

どの医療機関の、何科に、どのくらいの頻度で通っているか。薬はどの薬局で受け取っているか。お薬手帳は何冊あるか。市販薬やサプリメントはあるか。

冒頭の事例で見直しのきっかけになったのも、「どの病院に、なぜ通い始めたか」という受診の経緯でした。この経緯は、処方箋には書かれていません。

② お薬手帳を1冊に、薬局を1つに――本人と家族に勧める

「全部を知っている薬局を1つ決めておくと安心ですよ」と伝えることはできます。

③ 「処方の取りまとめ役」を決める話し合いにつなぐ

指針の別の事例では、2つの医療機関から15種類の薬が出ていた84歳の女性が、介護老人保健施設への入所をきっかけに6種類に整理されました。自宅に戻るときには、自宅に近い医療機関で一括して処方してもらうよう、施設から両方の医療機関に情報提供しています。そして、居宅のケアマネジャーや通所サービスの担当者に、引き続き残薬の確認をお願いしました(同指針 事例6)。

決めるのは医師です。けれども、決めるための話し合いを始めるきっかけは、ケアマネジャーがつくれます。

5.2027年6月、薬局の側も変わる

2026年度の調剤報酬改定で、「服用薬剤調整支援料2」が大きく見直されました。複数の医療機関から合計6種類以上の内服薬が出ている患者について、本人や家族の求めに応じて、所定の研修を修了したかかりつけ薬剤師が薬を継続的・一元的に把握し、総合的に評価したうえで、処方医に文書で調整を提案する。その評価が1,000点となり、2027年6月から算定できるようになります(6か月に1回まで。厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」)。

注目したいのは、その評価の中身に「服薬支援に必要な患者の生活状況及び意向に関する情報の聴取」が含まれていることです。

薬の総点検に、生活の情報が欠かせない。国の評価がそう明記したのです。

その生活を一番よく知っているのは、誰でしょうか。

なお、この評価には患者の自己負担が生じ、事前の説明と了解が必要です。ケアマネジャーとしては、「薬の総点検を頼める薬剤師が地域のどこにいるか」を知っておくと、いざというときに本人や家族へ選択肢を示せます。

想定される反論

「ケアマネジャーが薬に口を出すのは、越権ではないか」

判断はしません。伝えるのは事実です。受診先の数、薬局の数、新しく増えた受診、市販薬。服薬状況の情報を医師や薬剤師に提供することは、運営基準にも書かれたケアマネジャーの役割です。

「電子処方箋があれば、重複は機械が見つけてくれるのでは」

電子処方箋は2026年6月時点で薬局への導入、調剤結果の登録とも9割を超え、同じ成分の重複や併用禁忌を見つけています(厚生労働省通知)。けれども冒頭の事例のような、副作用に別の薬で対応する連鎖は、成分が違うため「重複」と表示されるとは限りません。市販薬、飲めていない薬、受診の経緯も載りません。それを知っているのは、生活の近くにいる人です。

「整理すると薬が減って、病気が悪くなるのでは」

指針も、減薬で病状が悪化して元に戻す場合や、見直しで薬が増える場合があると明記しています。目的は減らすことではなく、その人に合った薬にすることです。自己判断で薬をやめることは絶対にしないでください。

まとめ|今月やること

複数の病院から薬が出ている高齢者の薬は、誰が整理するのか。

答えは、一人ではありません。薬剤師が集め、医師が決め、ケアマネジャーが気づいてつなぐ。この3つがそろったとき、整理は動き出します。

今月は、利用者を一人選んで試してみてください。

今月やること

□ 受診している医療機関と診療科を書き出す(3つ以上ないか)

□ 薬を受け取っている薬局と、お薬手帳の冊数を確かめる

□ 最近、新しい症状で受診先が増えていないかを振り返る

□ 市販薬・サプリメントを使っていないか、本人や家族に聞く

□ 「受診先・薬局マップ」を、本人の同意を得て、かかりつけの薬局に渡す

なお、薬を自己判断でやめたり、量を変えたりはしないでください。急な体調の変化があるときは、医療機関への連絡を優先します。

私見|「全部の薬」を知る仕組みは、地域でつくる

2015年に国が公表した「患者のための薬局ビジョン」は、服用中のすべての薬を一元的・継続的に把握し、複数の診療科を受診しても多剤・重複投薬や相互作用が防がれること、在宅でも行き届いた薬学的管理が受けられることを掲げました。冒頭の事例は、この約束が果たされていなかった姿です。

ただ、薬局が患者本人からだけ情報を集めるのには限界があります。どの病院に、なぜ通い始めたのか。受診に付き添うのは誰か。そうした情報は、薬局の外にあります。

名古屋市立大学と取り組んだ「春日井モデル」の研究でも、このことを課題として取り上げました。妨げになっていたのは、多職種の連携がスムーズでないことと、患者の情報を一元的に管理する方法が地域ごとに決まっていないことでした。

国の研究事業でもこうした事例は数多く取り上げられ、効果的な解決手段はやはり「顔の見える関係づくり」であることが多いようです。私が関わったモデルの結論も、地域で多職種による段階的な研修会を重ねていくことの効果が高い、というものでした。

「受診先が3つあります」の一言が言えるかどうかは、相手の顔が浮かぶかどうかで決まります。「つなぐ人」と「集める人」が知り合う研修を、ぜひ地域で始めてください。

※ここで述べた考え方は、筆者が関わったモデル事業の経験にもとづく提案です。

参考資料

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編)」(2019年)

https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000568037.pdf

日本病院薬剤師会「複数医療機関からの重複投与に対する薬剤整理」

https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20180226-1-9.pdf

浜田将太「高齢者の療養環境別の多剤服用の実態調査」(2019年)

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000504090.pdf

秋下雅弘氏インタビュー(医療経済研究・社会保険福祉協会、2025年)

https://roken.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/03/2025-04_-18.pdf

指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準 第13条

https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100038

厚生労働省通知「電子処方箋の調剤結果登録及び重複投薬等チェックについて」(2026年7月)

https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/281868/20260723dennshisyohousenn.pdf

厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf

厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」概要(2015年)

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/gaiyou_8.pdf

前回:MP-2-4「昼の薬だけが残る本当の理由――食事・デイサービス・生活時間とのミスマッチ」

https://kimaisdlpno.blogspot.com/2026/11/24.html


👉【note版】:「病院3つ、薬局3軒、お薬手帳3冊」―“全部の薬”を知っている人は誰か



0 件のコメント:

コメントを投稿

薬剤師の退職から考える薬局経営 ──倒産最多と報酬改定の時代に、人材で勝つ構造のつくり方 薬剤師の退職事情 <後編>

 薬剤師の退職から考える薬局経営 ── 倒産最多と報酬改定の時代に、人材で勝つ構造のつくり方 薬剤師の退職事情 <後編> 2025 年の調剤薬局業界には、二つのショックがありました。 一つは倒産件数です。東京商工リサーチによると、 2025 年に倒産した調剤薬...