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10/27/2026

AI薬歴はどこまで広がった? ――全国「1〜2割」という推計をどう読むか

 AI薬歴はどこまで広がった?

――全国「1〜2割」という推計をどう読むか

2026年10月27日時点/公開情報を基に編集

服薬指導の会話を文字起こしし、SOAP形式の薬歴案を作るAI薬歴。大手チェーンでの導入や電子薬歴への標準搭載が進む一方、全国の薬局で実際に何割が日常利用しているのか、信頼できる全国統計は確認できません。

この記事では「契約・導入」「日常利用」「業務改善」「薬学的品質」を分けて考えます。数字が大きく見えるほど、その定義を確かめる必要があります。

【数字で見る現在地】

カケハシは2026年8月末時点で導入5,500店舗を公表。corte系は2026年1月発表で契約2,000件超。単純合計は約7,500ですが、指標・時点が異なり、重複の有無も確認できないため、全国の導入店舗実数を表すものではありません。全国薬局63,203施設(2024年度末)で割った11.9%も「参考計算値」であって普及率ではありません。

別の角度では、矢野経済研究所が2026年に中小薬局352薬局を調査し、導入済み15.3%、導入準備中3.7%と報告しました。19.0%は導入済みと準備中の合計であり、導入済み率ではありません。この調査を全国全薬局へ機械的に外挿することもできません。

したがって「全国の1〜2割」は、複数の公開情報と整合するおおまかな見立てにとどまります。全国普及率の確定値ではありません。

なお、ソラミチシステムが2025年9〜10月に薬剤師1,058名に行ったインターネット調査では、「勤務先の薬局でAIを導入している」との回答が51.4%でした。ただし、この「AI」は音声認識・記録支援・在庫管理・調剤支援などAI機能全般を指し、AI薬歴に限りません。また、薬局数ではなく回答した薬剤師の割合であり、回答者の勤務先の構成によって結果は変わり得ます。調査主体が薬歴システムの提供会社である点にも留意が必要です。「約半数」と「1〜2割」は矛盾するものではなく、数えている対象が違うと読むべきでしょう。

【AI薬歴の3つの方向】

第一は、会話を記録しSOAP案を作る「記録支援」。第二は、処方や既往情報をもとに確認事項を提示する「指導支援」。第三は、既存の電子薬歴を変更せずに連携する「後付け型」です。製品ごとの搭載機能・契約条件は異なり、同一の区分に重なるものもあります。

【時短は確かに魅力、ただし効果の意味を確認する】

カケハシは日常利用店舗の実測比較で薬歴記載時間19.7%短縮と公表しています。ただし無作為化比較ではありません。原稿にはウエルシアの平均50秒、トモズの42秒、ふたば薬局の100秒短縮も紹介されています。測定対象、母数、比較方法が異なるため横並びの性能ランキングにはできません。

【導入より重要な3つの評価】

①利用率:対象薬歴のうちAI案を使った割合。

②総作業時間:録音準備、確認・修正を含めた1件当たりの時間。

③品質:誤記、薬学的評価の欠落、疑義照会・フォローアップにつながった発見の質。AIの文章が流暢でも、薬学的に正しいとは限りません。

【患者情報の扱い】

服薬指導の会話には、病名や服薬状況などの要配慮個人情報が含まれます。録音された音声も、個人を識別できる場合には個人情報に該当します。録音に特化した法令上の簡易な手続きは見当たりませんが、個人情報保護委員会・厚生労働省のガイダンスは、患者が自ら話した情報は提供をもって取得に同意があったと解されること、利用目的を院内掲示で示し、反対の意思表示がなければ同意が得られていると考えられる場合があることを示しています。ただし、録音やAIによる処理がこの「通常必要な範囲」に含まれるかは明記されていません。本記事では法的な要否を断定しませんが、実務上は次の手順が考えられます。

  • 院内とウェブサイトに「服薬指導の会話を録音し、AIで薬歴の下書きを作成する」ことを利用目的として掲示する
  • 録音の開始前に口頭で一言伝える
  • 断った患者には録音せず、通常どおり記録する(断れる運用にする)
  • ベンダーとの契約で、音声データの保存期間・削除、AIの学習への利用の有無、保存場所(国内か)を確認する

最終的な判断は、自薬局の個人情報保護方針や、必要に応じて専門家への確認によってください。

【令和8年度改定とAI薬歴】

令和8年度改定では、医療DX推進体制整備加算(3区分)が「電子的調剤情報連携体制整備加算」に改称・一本化され、月1回8点となりました(調剤基本料 注14)。算定には、算定月の3か月前の件数ベースのマイナ保険証利用率30%以上のほか、電子処方箋や電子薬歴などの体制が求められます。一方、AI薬歴そのものを評価する点数は確認できません。AI薬歴の投資回収は、加算ではなく、生まれた時間を対人業務にどう振り向けるかで考える必要があります。

【薬局経営者への提案】

まず現行電子薬歴の標準機能・追加費用・データ取扱条件を確認します。次に2〜4週間の試行期間を設け、導入前後の総作業時間、修正率、患者説明の実施状況を記録します。削減できた時間を服薬フォローアップや多職種連携に振り向けられたかまで検証しましょう。

【私見】

AI薬歴の価値は、SOAPを速く書けることだけではありません。記録の時間を、患者の変化を見つける時間に転換できるかどうかです。「導入した薬局」が増える次の段階では、「安全に使い、薬学的な成果を示せる薬局」が問われると考えます。

※本稿の「1〜2割」は推計上の目安であり、国の公表普及率ではありません。各社数値は公表主体による情報です。

 

参考URL
カケハシHp

https://www.kakehashi.life/news-post/20260915

矢野経済研究所「中小薬局のICT活用動向等に関する法人アンケート調査を実施(2026年)」

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/4076

ソラミチシステム「薬剤師の業務実態に関する調査」(2026年1月8日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000077012.html

個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(令和8年4月一部改正) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260401_iryoukaigo_guidance.pdf

厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/24/dl/gaikyo.pdf

令和8年厚生労働省告示第69号(調剤点数表) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001665294.pdf

厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」p.28 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf


👉【note版】:AI薬歴は、もう珍しいものではない? ――数字から考える薬剤師の次の仕事


9/26/2026

薬剤師のAI薬歴活用の実際<傾向と対策>

 薬剤師のAI薬歴活用の実際<傾向と対策>


AI薬歴は「入れるだけで時短」ではありません。タイプを間違え、確認手順を省くと、効果は出ず、記録責任だけが残ります。本稿は薬局経営者・病院薬剤部幹部が現場へ指示しやすい形を想定し、製品タイプ、使い方、選び方、安全運用を整理してみましたす。

■1.
いまのAI薬歴は4タイプ
現場製品は電子薬歴の銘柄差より、簡易な分類として入力と出力の型で分かれます。

①
会話音声型(内蔵)
服薬指導の会話を録音し、SOAP下書きを電子薬歴へ返す。Musubi音声薬歴、Solamichi「AI音声入力」、MEDIXS「AI薬歴作成アシスト」、AnyCOMPASS、PharnesX連携の生成AI薬歴など。指導中に顔を上げたい店舗向き。

②一人語り・在宅型
薬剤師が判断や訪問内容を音声で残し、記録化する。Musubiの「一人語りモード」が代表。在宅・訪問後のまとめに強い。

③後付け独立型
今の電子薬歴を替えず、音声+処方データから下書きを作り、転記する。ピアス、medimo AI薬歴、初期のウィーメックス支援など。入替コストを避けたい店舗向き。

④テキスト変換・汎用生成AI型
メモや箇条書きをChatGPT等でSOAP化する。導入は速いが、患者情報を汎用AIへ入れるリスクが最も高い。下書き専用・匿名化前提に限る。

隣接機能として、指導ポイント提案(AnyCOMPASS)、指導の採点(Solamichi)、話者分離とオンプレ音声処理(MC-Drive)がある。2026–27年は、これらが「薬歴作成」から「業務伴走エージェント」へ拡張する。

公表値の目安は、Musubi音声薬歴で記載時間19.7%減(5,500店)、ピアス実証で1件220秒→120秒(45%減)、ウィーメックス社内検証で3.9分→1.5分程度。数字は測定条件や利用者条件(テンプレート利用、薬歴平均文字数、対応者のITリテラシーなど)が違うため、横並びの保証値ではない。

■2.
タイプと現場の使い方がズレていないか
使えていない店舗に多いのは、機械の問題より運用の問題です。

ズレA:会話型なのに、指導後にメモから打ち直している
本来は「録音→下書き確認→確定」です。指導中にメモへ逃げると、音声型の利点が消えます。
▶指示例:「新規・継続の通常指導は録音を原則。下書きはその場か直後に確認し、当日中に確定する」

ズレB:下書きを無修正で確定している
固有名詞、数値、副作用、次回計画は誤りやすい。AIは下書き係、確定は薬剤師です。
▶指示例:「Sの患者発言、Oの数値、Aの評価、Pの次回アクションは必ず人が見る。氏名・用量・禁忌の誤りは重大インシデント扱い」

ズレC:在宅に会話型だけを当てている
訪問先は雑音が多く、会話型の精度が落ちる。一人語り型か、要点メモ+後付け型が向く。
▶指示例:「在宅は帰局後5分の一人語りを標準にする」

ズレD:汎用ChatGPTに薬歴下書きを依頼している
電子薬歴契約外の学習型サービスへ、処方・病名・イニシャル付き情報を入れるのは原則禁止。
▶指示例:「患者が特定できる情報は、契約済み薬歴AI以外に入れない」

ズレE:録音漏れ・同意説明なし
録音するなら、目的(記録作成)と保存範囲を簡潔に説明する。マイク位置と話者分離も確認する。
▶指示例:「指導開始時に『記録のため音声を使います』と一言入れる。同意が得られない場合は従来入力」

■3.
未導入なら、使いたい目的で選ぶ
目的が先、製品名は後です。
・指導中のメモから解放されたい

➡①会話音声型。既存薬歴にオプションがあるなら、まずそこを試す。

・電子薬歴を今は替えたくない

➡③後付け型。転記手間と、処方データ連携の有無を見る。

・在宅・居宅の記録がボトルネック

➡②一人語り型を必須条件にする。

・新人の指導のばらつきを減らしたい

➡指導提案・採点がある内蔵型。時短より質の標準化が目的。

・個人情報を薬局外に出したくない

➡音声のテキスト化が店内(オンプレ)で完結するか、学習利用なし・国内処理・監査ログがあるかを契約で確認する。

・将来の加算確認や疑義整理まで見据える

➡薬歴単体で終わらず、レセコン連携とエージェント構想がある基盤を選ぶ。


経営・幹部への提案は「全店一斉」より「2週間のパイロット」です。
測定項目は①1件あたり作成時間、②確定前の修正箇所数、③指導中に画面を見ている時間、④加算に必要な記載の抜け、の4点で足ります。
全店一律で導入するよりも活用をタイプ別に導入する必要性が高い。AI導入時期、オールインワンは返って現場の混乱を招くだけでしょう。

■4.
現場目線の比較とハルシネーション対策
効果の差は、モデル精度より「何を入力し、いつ確定するか」で開きます。

活用のバリエーション
・通常窓口:会話録音→SOAP確認→確定
・多剤・高齢者:録音に加え、残薬と生活の一人語りを10秒足す
・在宅:訪問中は最低限、帰局後に評価と計画を口述
・教育:同じ音声から指導の抜けを振り返る(採点機能がある場合)

効果が伸びない主因
録音開始忘れ、雑音、専門用語の誤変換、過去薬歴を参照しない出力、確定が翌日にずれて記憶補正が働くこと。45%減と20%減の差は、処方データ照合の有無、テンプレート適合、確定を指導直後に行うか、で説明できることが多い。

対策(現場ルール)
1. AI出力は下書きと表示する
2.
処方内容と出力を照合する(用量、日数、剤形)
3.
患者の固有表現(「朝だけ吐く」等)がSに残っているか見る
4. A
とPは薬剤師が書き直してよい
5.
奇妙に整った文ほど根拠を疑う
6.
修正箇所を週1で共有し、よくある誤変換を店内辞書にする

■5.
入れてよい情報、いけない情報
分け方は単純です。「契約した薬歴AI」と「契約していない汎用AI」を混ぜない。

契約済み薬歴AI(学習に使わず、委託・安全管理が契約されている前提)
入れてよい:当該患者の今回指導に必要な会話、処方、前回計画。
人が確定する:評価、疑義の結論、医師への提案。
契約で確認する:学習利用なし、保存期間、アクセス権、監査ログ、再委託先、国内処理の有無。

汎用生成AI(無料ChatGPT等)
入れない:氏名、ID、生年月日、住所、保険番号、処方、病名、検査値、お薬手帳写真、音声そのもの。
使える:一般的なSOAPの型、説明文書の言い換え例、匿名の制度確認。
「名前を消した」だけでは不十分。希少疾患+地域+年齢で個人は特定されます。

漏らさない工夫
・薬歴AIと汎用AIの入口を端末で分ける
・画面に「患者情報禁止」を掲示する
・音声データは指導目的以外に使わない
・確定者と確定時刻を残す
・院内・店舗の利用規程を1枚で配る

病院では日病薬「生成AI利活用ガイダンス」が、生成AIを判断の代替ではなく支援ツールと位置づけています。薬局も同じ原則で足ります。最終責任は記載した薬剤師に残ります。

■6.
「時間がない」の内訳と、AIの当て方
薬剤師調査では、時間が足りない業務の上位は薬歴作成42.9%、調剤38.6%、服薬指導36.7%。時間不足の帰結は「患者の本音が聞けない」「加算に必要な記載が薄い」です。AI導入群の指導満足度は80.3%、未導入は59.0%と差が出ています。
薬歴AIが効くのは、記録の待ち行列です。効きにくいのは、疑義の判断そのもの、混雑時の説明不足、人員配置です。よって当て方は次の順が現実的です。
1.
閉局後に残る薬歴の山を、指導直後確定に変える
2.
在宅の帰局後記録を一人語りに変える
3.
余った分を、残薬・副作用の聞き取りに使う
4.
その結果として加算記載とフォローを厚くする

「薬歴が速くなったのに残業が減らない」店舗は、確定作業を後回しにしているか、空いた時間の使い方を指示していません。これは、電子レセコンや電子薬歴導入期にも同じ現象ですが、幹部は「削減分数」より「その分数を何に使うか」を先に書いてください。薬剤師は、仕事の量の削減ではなく、質を向上させることが本質です。

■7. 2026–27
年の次:AIエージェント
次の波は、SOAP下書きの精度競争ではありません。薬歴を起点に、業務の順番を提案するエージェントです。

想定機能と目的
・加算確認: tonight の記載漏れを指導中に知らせ、取りこぼしを防ぐ
・疑義ポイント整理:過去事例と添付文書を突き合わせ、照会前の論点を並べる
・フォロー提案:次回連絡の対象と文面案を出す
・レセコン連携:入力の二重作業を消す
・本部分析:必要人数、在庫、指導品質のばらつきを見る

期待値の置き方
短期:記録時間の削減(すでに一部で20–45%)
中期:記載品質の平準化と加算の再現
長期:対物から対人へ時間を移す。判断の自動化ではない

三菱電機デジタルイノベーションのAnyCOMPASS系は、AIアシスタントから現場伴走のAnI-Bot、レセコン統合へ進む構想を公表しています。他社も薬歴・レセコン・在庫の一体型へ寄っています。選ぶときに見るのは「今の音声精度」だけでなく、「確定ログを残したまま、次の業務に渡せるか」です。


■最後に
今月から、通常の服薬指導は契約済みAI薬歴の録音を原則とする。出力は下書きとして扱い、用量・患者発言・次回計画を確認してから確定する。患者が特定できる情報は、契約外の生成AIに貼らない。在宅は帰局後の一人語りを標準にする。週1で誤変換と修正箇所を共有する。空いた時間は、残薬と副作用の聞き取りに使う。

AI薬歴の勝敗は、高性能や多機能の機種を選ぶことでは決まりません。スマホと同じです。カメラ枚数や処理速度で機種を選んでも、3年後には画面も端子もクラウドも変わっています。写真と連絡先が残るのは、機種の性能ではなく、使い方の型がそろっていたからです。
生成AIは更新が速く、現状のレセプトベンダーのようにベンダーの再編やサービス終了も珍しくありません。3年以内の機種変更は前提です。そのとき残るのは「どの会社のAIか」ではなく、①下書きを人が確定した記録、②誰が・いつ確定したかのログ、③地域で渡せるデータの型、の3点です。機種依存の便利機能に業務を縛ると、移行のたびに指導も記録も止まります。
だから今そろえるべきは、最新機能ではなく利用者の標準です。録音する/しないの判断、確定前に見る項目、契約外AIに入れない情報、在宅は一人語り、空いた時間の使い方。この型が店内と地域で共有されていれば、機種が変わってもデータは移せます。スマホを替えても、同じアカウントと写真の分類があれば生活が続くのと同じです。
まず2週間、測定しながらその型を回してください。機種は手段、標準化が資産です。

9/24/2026

2026年9月度「薬剤師AI関心度ランキング」

 


2026年9月度「薬剤師AI関心度ランキング」

―AI薬歴から臨床判断支援へ。薬剤師のAI活用は「使う」から「考える」段階へ―

先の『薬剤師のAI薬歴活用の功罪』でも触れましたが、生成AIが医療現場に入ってきて数年、薬剤師を取り巻くAIの話題も大きく変わってきました。

以前は「ChatGPTをどう使うか」「AIで文章を作れるか」といった話題が中心でした。しかし2026年に入り、AI薬歴、DI・文献検索、服薬指導支援、処方評価、臨床推論など、AIは薬剤師の実務のかなり近いところまで入り始めています。

そこで今回、2026年に公開された薬剤師×AIに関する専門媒体、学術情報、職能団体、研修、企業発表、導入事例、個人発信等を調査し、「薬剤師はAIの何に関心を持っているのか」を整理しました。

ただし、これは薬剤師へのアンケートによる人気投票ではありません。

公開情報から「話題量」「媒体の広がり」「実務への接近度」「エビデンス」「最近の伸び」を観測する試みです。

私はこれを、

PAIT:Pharmacist AI Interest Trend

として、今後も定点観測していきたいと考えています。



2026年9月度「薬剤師AI関心度ランキング」

PAIT Scoreは、単純な記事件数ではなく、

・話題量
・媒体多様性
・実務・実装接近度
・エビデンス/権威性
・直近モメンタム

を組み合わせて評価します。

今回の探索的調査では、次の10領域が浮上しました。

1位 AI薬歴・音声記録
2
位 AIガバナンス・個人情報・安全性
3
位 DI・文献検索・EBM
4
位 AIリテラシー・汎用AI活用
5
位 臨床推論・処方評価
6
位 服薬指導・患者支援
7
位 業務効率化・文書作成
8
位 AI時代の薬剤師の役割・職能
9
位 薬局経営・データ分析
10
位 薬剤師教育

【図①:PAIT TOP10ランキング図】

ここで注目したいのは、記事数が多いテーマと、PAIT Scoreが高いテーマが必ずしも一致しないことです。

ChatGPTなどを使った資料作成やプロンプト活用は非常に多く発信されています。一方、AI薬歴は話題量だけでなく、実際の薬局への導入、業務時間短縮など「実装」が進んでいます。

つまり薬剤師AIは、「知っている」「試してみた」から、実際の業務プロセスに組み込む段階へ移ったと考えられます。

※今回のランキングは公開情報を用いた探索的分析です。薬剤師全体を代表する意識調査ではありません。また、初期調査で想定した128件については全件の個別検証が完了していないため、今後、検証済み調査台帳を拡充しながらPAIT Scoreを更新します。



1位「AI薬歴」が意味するもの

2026年を象徴するのは、やはりAI薬歴でしょう。

音声認識から会話を記録し、SOAP形式などへ構造化する。薬剤師が一から薬歴を書く時間を減らす。

これは非常に分かりやすいAI活用です。

しかし、薬局経営者や管理薬剤師に考えてほしいのは、

「AI薬歴を導入したか」ではなく、「AI薬歴によって生まれた時間を何に使ったか」

です。

5分短縮できても、その5分が単なる余裕時間になっただけなら、患者価値はそれほど変わりません。

その5分を、

・患者との対話
・残薬や副作用の確認
・フォローアップ
・処方評価
・トレーシングレポート
・在宅患者への介入

に振り向けられれば、AI導入は初めて「薬剤師の専門性を高める投資」になります。

したがって管理者は現場に、

「AI薬歴を使いなさい」ではなく、「AIで生まれた時間を患者に返しなさい」

と指示する方がよいと思います。



意外な2位「AIガバナンス」

今回、私が特に注目したのが、個人情報、ハルシネーション、AI出力の確認などを含むAIガバナンスです。

AIがほとんど使われていなければ、こうした問題は大きくなりません。

「患者情報をどこまで入力してよいのか」

「AIが間違えた場合、誰が確認するのか」

「AIが作った薬歴をそのまま保存してよいのか」

「AIが提示した処方上の問題をどう検証するのか」

こうした議論が増えていること自体が、AIが実務に入り始めた証拠とも言えます。

薬局や病院薬剤部で必要なのは、いきなり何十ページものAI規程を作ることではありません。

まず現場に、

①患者を特定できる情報を安易に外部生成AIへ入力しない
②AI
の回答は一次情報ではない
③
薬物療法に関する重要判断では原資料を確認する
④
最終判断者は薬剤師である

という基本原則を共有することから始めるべきでしょう。



AIは「作る」から「判断を支援する」へ

今回の10カテゴリーを並べてみると、もう一つ重要な変化が見えてきます。

【図②:「作る→記録→検索→判断支援」薬剤師×AI進化図】

生成AIの薬剤師業務への入り方は、大きく4段階に整理できます。

Phase1 作るAI:メール、議事録、報告書、研修資料、文章要約

これはすでに多くの人が経験しているでしょう。

次が、

Phase2 記録するAI: AI薬歴、音声認識、SOAP生成、トレーシングレポート作成支援

そして現在急速に広がっているのが、

Phase3 探して整理するAI: DI、添付文書、インタビューフォーム、論文、ガイドライン、EBMなど

さらにその先に、

Phase4 判断を支援するAI: 処方評価、相互作用、疑義照会、服薬指導提案、フォローアップ、臨床推論

などです。

ここまで来るとAIは単なる業務効率化ツールではありません。

薬剤師の「考える領域」に近づいてきます。



管理者は「AIを使え」だけでは不十分

薬局管理者や病院薬剤部幹部にとって、ここが非常に重要です。

部下に、

「生成AIを勉強してください」

「ChatGPTを使ってください」

だけでは、組織としてのAI活用は進みません。

例えば今月から、次のように具体的に指示できます。

第1段階:一つの定型業務をAI化する

議事録、研修資料、DIニュース、報告書などから一つ選ぶ。

第2段階:AIの回答を必ず検証する

「AIがこう言っています」で終わらず、「何で確認したか」をセットにする。

第3段階:AIによる時間削減を測定する

導入前後で何分短縮されたかを記録する。

第4段階:生まれた時間の使い道を決める

患者対応、病棟業務、フォローアップ、DI、在宅、多職種連携などへ振り向ける。

こうすればAI導入を単なる流行ではなく、業務改善活動として管理できます。



最も危険なのは「AIを使うこと」ではない

AIが高度になるほど、

「AIを使うと薬剤師が考えなくなるのではないか」

という議論も増えるでしょう。

しかし私は、AI利用量だけで考えるべきではないと思います。

重要なのは、

「AIへの依存度」と「薬剤師自身の思考量」

の二つです。

【図③:「AI依存度×薬剤師思考量」4象限マトリックス】

最も目指したいのは、

AI利用度が高く、薬剤師の思考量も高い状態

です。

例えば、

  • 患者との会話をAIが記録する。
  • AIが問題候補を提示する。
  • 薬剤師が批判的に評価する。
  • 必要なら追加情報をAIで検索する。
  • 添付文書、ガイドライン、原著論文等で確認する。
  • 薬剤師が最終判断する。
  • AIがその結果を薬歴として構造化する。

この使い方ならAIは、

「能力代替装置」ではなく「思考増幅装置」

になります。

逆に危険なのは、AIが作った文章をそのまま薬歴にし、AIの提示した問題をそのまま採用し、AIの服薬指導案をそのまま患者へ伝える状態です。

効率は上がっても、薬剤師自身の判断能力が育たなくなる可能性があります。



10月から現場で始めたい「AI3指示」

薬局経営者、管理薬剤師、病院薬剤部幹部には、まず現場へ次の3つを指示することを提案します。

①「一人一業務」でAIを試す

各薬剤師がAIで改善したい業務を一つ決める。

②「AI+確認元」をセットにする

薬物療法に関係する回答では、添付文書、IF、ガイドライン、論文など「何で確認したか」を明示する。

③「何分浮いたか、何に使ったか」を記録する

AI活用のKPIを「利用回数」にしない。

時間削減+患者・医療への再投資

をKPIにする。

例えば薬歴作成が1日20分短縮できたなら、その20分で何人の患者をフォローできたのか。

病院なら、どの病棟介入、多職種連携、DI、薬物療法評価に時間を移せたのか。

そこまで測って初めて、AI導入効果が見えてきます。



AI時代に問われるのは「何をAIに任せないか」

2026年9月時点の薬剤師AIトレンドを追ってみると、一つの方向性が見えてきます。

これまでの問いは、

「薬剤師はAIを使えるか?」

でした。

これからは、

「薬剤師業務のどこまでAIに任せるのか?」

になります。

そして、その先にある本当の問いは、

「AIを使いながら、薬剤師は何を自分で考える専門職なのか?」

ではないでしょうか。

AI薬歴が普及しても、DI検索が高度化しても、AIが処方上の問題点を提示できるようになっても、患者の背景を理解し、その情報を評価し、患者にとって何が最善なのかを考え、最終的に責任を持って判断する役割は重要です。

だから、

AIによって薬剤師の仕事を減らすのではなく、AIによって「薬剤師にしかできない仕事」の時間を増やす。

ここを薬局・病院薬剤部のAI導入の目標にすることが肝要かと思います。

次回以降もPAITを定点観測し、

「何が増えたのか」

「何が成熟したのか」

そして、

「AIによって薬剤師の仕事がどう変わっているのか」

を追っていきたいと思います。

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