10/10/2026

2040年に残る薬局は何が違うのか?

 

2040年に残る薬局は何が違うのか?

―ドラッカー流「未来の薬局経営」10原則

「次の改定」を追うだけで、本当に大丈夫でしょうか

薬局経営を取り巻く環境は、大きな転換点にあります。

人口減少、高齢化、薬剤師不足、在宅医療、医療DX、AI、電子処方箋、PHR、地域医療再編――。

薬局経営者にとって気になることを挙げれば、いくらでもあります。

しかし、ここで一度立ち止まって考えたいことがあります。

「次の調剤報酬改定で何点になるのか」を追い続けることが、本当に経営なのでしょうか。

制度改正への対応はもちろん必要です。

しかし、2030年、2035年、2040年と時間軸を伸ばしてみると、もっと根本的な問いが見えてきます。

「そもそも、私たちの薬局は何のために存在するのか?」

私は、これからの薬局経営を考えるうえで、ピーター・ドラッカーの経営思想は非常に相性がよく、むしろ今後のような不確実性の高い時代だからこそ有効な経営方法論ではないかと考えています。

なぜならドラッカーは「未来を当てる方法」を教えているのではないからです。

  • 顧客は誰か。
  • 顧客にとっての価値は何か。
  • われわれの使命は何か。
  • 成果とは何か。
  • そして、何をやめるのか。

環境が変わっても、この問いは変わりません。



なぜ今、薬局経営にドラッカーなのか

2040年に向けて、日本の医療・介護提供体制そのものが再設計されようとしています。

厚生労働省では「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革」が検討され、さらに在宅医療・医療介護連携、地域におけるサービス提供体制など、2040年を明確に意識した政策議論が進んでいます。

薬局についても、2026年の「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」では、調剤業務の一部外部委託や地域医薬品提供体制などが議論されています。

さらに医療DXでは、全国的な医療情報連携・共有基盤を通じて、質の高い医療サービスを持続的に提供する方向が示されています。

つまり、これまでの、

医療機関→処方箋→薬局→調剤→服薬指導→終了

という一直線のビジネスモデルだけを前提に、2040年の薬局経営を考えることには限界があります。

そこでドラッカーです。



2030年――まず「何をしないか」を決める

薬局経営者は、新しい制度が出るたびに、

  • 「在宅をやろう」
  • 「健康イベントをやろう」
  • 「DXを入れよう」
  • 「AIを使おう」

と仕事を足してしまいがちです。

しかし、人も時間も資金も有限です。

ここには行動経済学でいう現状維持バイアスも働きます。

  • 「昔からやっているから」
  • 「他の薬局もやっているから」
  • 「やめて失敗するのが怖いから」

という理由で、成果を生まなくなった仕事を続けてしまうのです。

ドラッカー流なら逆です。

「今日ゼロから薬局を始めるとして、その仕事を本当に始めますか?」

答えがNOなら、廃止・縮小・自動化・外部化を検討する。

紙業務、二重入力、過剰在庫、意味の薄い会議、薬剤師でなくてもできる単純作業――。

2030年までの最優先テーマは、仕事を増やすことではありません。

薬剤師の時間を取り戻すことです。

【図1:2030年「捨てる勇気が、未来をつくる」】


2030 SELECT : 何をするかより、何をしないかを決める。

処方箋を増やす経営から、

薬剤師の時間を生み出す経営

への転換です。


2035年――「処方箋」ではなく「人」とつながる

次の段階は2035年です。

ここでは「薬局」という店舗を中心に考えることをやめます。

  • 中心に置くのは患者・地域住民です。
  • 例えば、高血圧と糖尿病を持つ75歳の患者。
  • 処方箋を持って来店し、薬を渡して終わる。

これが「点」の関係です。

一方、「健診データ」から「再評価」までつながれば「面」の関係になります。

     【図2:「医療・調剤・ケアをつなぐ薬局の連携サイクル」】

厚労省も在宅医療について、退院支援、日常療養支援、急変時対応、看取りという機能を示し、多職種連携を含めた地域の体制整備を進めています。

だから2035年の薬局経営では、

「処方箋を何枚持っているか」

だけではなく、

「何人の患者と継続的な関係を持っているか」

が重要になることは必定です。

【図3:2035年「処方箋を見る薬局から、患者の人生を見る薬局へ」】


2035 CONNECT : 処方箋ではなく、人とつながる。

ここで薬局経営者に一つ質問してみたいと思います。

「あなたの薬局には、“処方箋がなくても相談したい人”が何人いますか?」

この人数こそ、将来の薬局の本当の顧客基盤を表す一つの指標になるのではないでしょうか。



2040年――「薬局を残す」から「必要な機能を残す」へ

そして2040年。

ここでは、さらに問いを変える必要があります。

「自分の薬局をどう残すか?」ではありません。

  ➡「この地域に、どんな薬局機能を残す必要があるのか?」

です。

例えば、

医薬品供給、在宅医療、専門薬物療法、健康支援、PHR、セルフケア、多職種連携、災害時のBCP。

これらをすべて1店舗で抱える必要はありません。

地域の薬局、病院、診療所、訪問看護、介護施設、行政などが機能分担し、ネットワークとして支える発想です。

薬局の価値は「店舗数」から考えるのではなく、

地域に必要な医薬品供給・薬物療法支援機能

から逆算することが求められています。

【図4:2040年「地域になくてはならない薬局へ」】


2040 ESSENTIAL : 「ある薬局」から「なくてはならない薬局」へ。

経営者にとって最も厳しい問いは、これかもしれません。

「もし明日、あなたの薬局がなくなったら、誰が困りますか?」

「近くで薬をもらえなくなる」だけでしょうか。

それとも、

  • 在宅患者が困る。
  • 医師が困る。
  • 訪問看護師が困る。
  • 介護施設が困る。
  • 地域住民が困る。
  • 災害時の医薬品供給が困る。

と言ってもらえるでしょうか。

後者になれば、その薬局には明確な存在理由があります。



ドラッカー流・薬局経営10原則

ここまでを、経営初心者でも使える10原則に整理してみました。

第1原則 使命を決める:この薬局は何のために存在するのか。

第2原則 顧客を決める:誰に最も価値を提供する薬局なのか。

第3原則 顧客価値から考える:患者は「薬」ではなく、何を求めているのか。

第4原則 成果を定義する:売上ではなく、患者に何が起こったのか。

第5原則 やらないことを決める:今年、何を捨てるのか。

第6原則 強みに集中する:「これなら、あの薬局」と言われるものは何か。

第7原則 薬剤師の時間を再配分する:薬剤師にしかできない仕事に何時間使えているか。

第8原則 変化を機会に変える:制度改正、AI、DX、人口減少からどんな新需要を発見するか。

第9原則 地域との関係を資産にする:地域の医療・介護関係者から相談されているか。

第10原則 利益を使命継続の条件とする:そのサービスを10年間続けられる利益があるか。

大切なのは、10個全部を一度に実行することではありません。



「売上を増やす」より「問いを変える」

経営初心者ほど、「何をすれば売上が上がりますか?」と聞きたくなります。

しかし、ドラッカー流なら、答えを探す前に問いを変えるでしょう。

「どうすれば処方箋が増えるか?」ではなく、

           ➡「誰に価値を提供するのか?」

「どうすれば加算が取れるか?」ではなく、

           ➡「患者にどんな変化を起こすのか?」

「どうすれば薬剤師を増やせるか?」ではなく、

           ➡「薬剤師にしかできない仕事は何か?」

「どうすれば店舗を残せるか?」ではなく、

           ➡「地域に残さなければならない機能は何か?」

問いが変われば、経営判断も変わります。



明日から始める「10分間ドラッカー会議」

難しい経営計画書を作る必要はありません。

まず月に1回、経営者と管理薬剤師で10分だけ、次の5問を話してみてはいかがでしょうか。

①誰のための薬局なのか?

②その人は何に困っているのか?

③当薬局だから提供できる価値は何か?

④その結果、患者に何が起きたのか?

⑤来月、何をやめて何を始めるのか?

ここで行動経済学的に重要なのは、目標を大きくしすぎないことです。

「2030年までに薬局を変革する」

では人は動きません。

  • 「今月、1つだけやめる」
  • 「患者10人に困り事を聞く」
  • 「連携先1施設を訪問する」
  • 「AIで1業務だけ30分短縮する」

まで小さくします。

未来を変えるのは壮大な計画ではなく、小さな行動を継続できる仕組みです。



私見:これからの薬局経営にドラッカーが適している理由

私は、これからの薬局経営環境を考えれば考えるほど、ドラッカーの経営方法論との親和性は高いと考えています。

なぜなら、これからの薬局には「正解」が一つではないからです。

  • 都市部と地方。
  • 門前と面対応。
  • 在宅に強い薬局と専門医療に強い薬局。
  • 健康支援を担う薬局と医薬品供給拠点となる薬局。

地域によって人口も医療資源も患者ニーズも異なります。

だから、

「これからは在宅だ」
「これからはAIだ」
「これからはPHRだ」

という一つの答えに飛びつくこと自体が危険です。

在宅もAIもPHRもDXも「目的」ではありません。すべて、

「われわれの顧客は誰か」
「顧客にどんな価値を提供するのか」

を実現するための手段です。

そして2030年、2035年、2040年を私はこう整理したいと思います。

2030 SELECT : 捨てる。そして、選ぶ。

2035 CONNECT : 処方箋ではなく、人とつながる。

2040 ESSENTIAL : 地域になくてはならない存在になる。



おわりに――薬局を守るのではなく、使命を守る

2040年に何軒の薬局が残るのか。もちろん重要なテーマです。

しかし、経営者一人ひとりにとって、それ以上に重要なのは、

「2040年に、自分たちは何のために存在しているのか?」

ではないでしょうか。

処方箋を待つ薬局から、

患者を支える薬局へ。

そして、

地域医療を支える薬局へ。

最後に、経営者の皆さんに一つだけ問いを残します。

2040年、あなたの薬局が地域からなくなったとき、誰が本気で困るでしょうか。

その答えの中に、これからの薬局経営の戦略があるのではないかと思います。



薬局でのカスハラ「出禁」は適法か?

 



薬局でのカスハラ「出禁」は適法か?

-過剰要求に対する裁判例から学ぶ現場の守り方

2026年10月から企業に対する「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」が義務付けられました。薬局経営においても、患者様からの正当なクレームと、過剰な要求(カスハラ)の線引きは非常に悩ましい課題です。

今回は、調剤薬局で起きたトラブルをめぐり、顧客側が薬局を提訴したものの、薬局側の「出入り禁止(出禁)」措置が適法と認められた重要な裁判例(※日経新聞2026年10月9日報道)を題材に、薬局経営者が知っておくべきカスハラ対策のポイントを解説します。


1. 事件の概要:クーポンの説明要求から「出禁」へ

事件の発端は2023年9月。70代の男性が閉店間際の調剤薬局で、クーポンの説明を「薬剤師」に求めたことでした。

  • 初期対応: 薬剤師は「事務員が対応する」と伝えましたが、男性は薬剤師本人からの説明に固執しました。
  • トラブルの発生: 業務の妨げになると判断した薬剤師が「嫌なら来なくていい」と発言。これに激怒した男性が薬局本部にクレームを入れました。
  • カスハラへの発展: 薬局本部は当初、謝罪文を送付しましたが、男性は納得せず「問題の原因究明と担当者の処分をまとめた顛末書の提出」を執拗に要求しました。
  • 出禁措置: 薬局本部はこれ以上の対応は通常業務の妨害にあたると判断し、男性に「出入り禁止」を通告しました。

男性は「出禁により名誉を侵害された」として50万円の損害賠償を求めて提訴しましたが、簡易裁判所、地方裁判所、そして高等裁判所のすべてで原告(男性)の訴えは棄却され、薬局側の勝訴が確定しました。


2. なぜ原告の訴えは棄却されたのか?(裁判所の判断)

裁判所が原告の訴えを退け、薬局側の措置を適法とした理由は、主に以下の点に集約されます。

  • 要求の過剰性(受忍限度を超えているか): 初期の薬剤師の対応(「嫌なら来なくていい」という発言)自体には不適切な面があったとしても、本部が謝罪を行った後も執拗に「原因究明」や「担当者の処分をまとめた顛末書」を要求し続ける行為は、社会通念上、一企業のカスタマーサポートに対して求めるべき正当な範囲を逸脱していると判断されました。
  • 業務妨害の事実: 執拗なクレーム対応に時間を割かれることは、薬局の本来の業務(他の患者への調剤や服薬指導など)を著しく妨害する行為です。
  • 出禁措置の正当性: 企業には、従業員の安全な労働環境を守り、円滑な業務遂行を維持する権利(および義務)があります。過剰な要求を繰り返す顧客に対して取引を拒絶(出禁)することは、自己防衛のための正当な権利行使の範囲内であると認められました。

3. 薬局側が勝訴できた「対応の要因」

この事例から見えてくる、薬局側が法的に守られた(勝訴できた)重要な要因は以下の通りです。

  1. 「謝罪」と「要求の拒絶」を明確に切り分けたこと: 本部は初期段階で謝罪文を出し、自社に非がある部分(接遇面)については誠意を見せました。しかし、その後の「過剰な要求(顛末書の提出など)」に対しては毅然と拒絶しました。「謝ったのだから、相手の言うことをすべて聞かなければならない」という罠に陥らなかったことが最大の勝因です。
  2. 組織としての対応(現場への丸投げ回避): 現場の薬剤師と顧客間のトラブルのまま放置せず、本部(組織)として対応を引き取り、最終的な「出禁通告」も組織の決定として行ったことで、個人の感情的な対立から「企業防衛」のフェーズへと適切に移行できました。

4. 薬局経営者への3つのアドバイス

この判例を踏まえ、これからの薬局経営において従業員を守るために実践すべき3つのアクションをまとめました。

① 「調剤応需義務」の正しい理解と社内共有

薬剤師法には調剤応需義務(正当な理由なく調剤を拒んではならない)がありますが、「カスハラ(著しい業務妨害や不当な要求)」は、調剤を拒否する『正当な理由』に該当し得ます。 「患者様だから何を言われても我慢しなければならない」という誤った認識を改め、現場スタッフに「無理な要求は断ってよい」という心理的安全性を提供してください。

② 対応打ち切りの「エスカレーション基準」の策定

クレーム対応において、現場レベルで対応を打ち切り、本部や責任者へ引き継ぐ明確な基準を設けてください。

  • 土下座や金銭の要求
  • 担当者の処罰や顛末書の強要
  • 不退去(長時間の居座り)
  • 大声や暴言 これらの行為があった場合は、速やかに「カスハラ事案」として組織対応(録音・録画、警察への通報、顧問弁護士への相談など)に切り替えるマニュアルが必要です。

③ 毅然とした対応をとるための組織体制づくり

今回の事例のように、過去の社会的地位などを背景に自己の正当性を主張するケースは珍しくありません。スタッフが相手の感情的なペースに巻き込まれず、「当薬局のルールとしてこれ以上の対応はいたしかねます」と事務的に対応できるよう、平時からのトレーニングと、いざという時に会社が必ずスタッフを守るという明確なメッセージを発信することが重要です。

 

まとめ

2026年10月のカスハラ対策義務化を機に、薬局は「優しいだけの医療機関」から「スタッフを守れる組織」へとアップデートする必要があります。今回の出禁適法判決は、そのための大きな後ろ盾となるでしょう。まずは自局の対応マニュアルの見直しから始めてみてはいかがでしょうか。

10/07/2026

カスハラ対策は「負担」か「チャンス」か?

 


カスハラ対策は「負担」か「チャンス」か?

―2026年10月、薬局経営者が考えるべき本当の意義―

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法に基づくカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策に関する指針が適用され、事業主にはカスハラ対策に係る雇用管理上の措置が求められることになりました。日本薬剤師会も2026年9月に「薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル(暫定版)」を公表しています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

薬局経営者にとって、これは「また新しい義務が増えた」と感じる制度かもしれません。

マニュアルを作る。
相談窓口を設置する。
職員研修を行う。
患者への掲示を行う。
トラブル時の対応フローを決める。

確かに、すべてコストと手間がかかります。

しかし私は、カスハラ対策を単なるコンプライアンス対応として終わらせるのは、非常にもったいないと考えています。

むしろ今回の制度対応は、

「患者に選ばれる薬局」と同時に、「職員にも選ばれる薬局」をつくる機会

として捉えるべきではないでしょうか。



1.なぜ薬局でカスハラが問題になるのか

薬局は、一般の小売店とは少し違います。

患者は「欲しい商品を買いに来る顧客」ではありません。

病気や痛み、不安を抱えている。
長時間病院で待ってきた。
さらに薬局でも待たされる。
薬が不足している。
以前と自己負担額が違う。
希望する薬を出してもらえない。

しかも、疑義照会、監査、服薬指導など薬剤師が安全のために行っている業務の多くは、患者からは見えません。

日本薬剤師会のマニュアルも、医療保険制度や自己負担の複雑さ、医薬品の供給不足、患者から見えにくい薬剤師業務など、薬局だけでは解決困難な事情が苦情や強い要求につながることを指摘しています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

つまり薬局は、

「患者の不満が薬局に集まりやすい構造」

を持っているのです。

実際、日本薬剤師会の調査を引用した資料では、薬局で報告されたカスハラの形態として、大声・暴言・脅迫的言動62.2%、過剰・不当な要求42.0%、不当なクレーム31.6%、長時間拘束27.9%、人格否定・侮辱的言動27.8%などが挙げられています。薬局のカスハラ対策

厚生労働省の調査でも、薬局を含む「医療・福祉」は、過去3年間に顧客等から著しい迷惑行為を受けた経験のある業種の上位に位置しています。薬局カスタマーハラスメントの実態と対応策

カスハラは、決して一部の特殊な患者だけの問題ではありません。



2.ここで経営者が間違えてはいけないこと

今回の制度を受けて、

「患者から文句を言われたらカスハラ」

と考えるのも危険です。

日本薬剤師会のマニュアルでは、カスハラを判断するとき、

①要求内容が正当か
②要求を伝える手段・態様が相当か

を分けて考えることが重要とされています。正当な苦情や相談をカスハラと決めつけず、誠実に対応することが求められています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

ここは薬局経営上、非常に重要です。

例えば、

「待ち時間が長すぎる」

という患者の指摘があったとします。

これはカスハラとは限りません。

実際に業務フローが悪いのかもしれない。人員配置に問題があるのかもしれない。処方箋受付時に「30分程度かかります」と説明していれば防げたトラブルかもしれません。

正当なクレームには、

薬局経営を改善するための情報

が含まれています。

一方、

「今すぐ薬を出せ!」

「お前はバカか!」

「SNSに名前を晒すぞ!」

などの暴言、威圧、脅迫まで従業員に我慢させる必要はありません。

日本薬剤師会のマニュアルでも、暴力、脅迫、人格否定、大声による威圧、執拗な要求、長時間の居座りなどを典型的な例として挙げています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

患者中心とは、患者の要求をすべて受け入れることではありません。

ここを経営者が明確にする必要があります。




3.カスハラ対策を「負担」と考えた薬局

今回の制度を最低限の義務として捉えると、おそらく次のような対応になります。

「とりあえずマニュアルを作る」
「ポスターを貼る」
「相談窓口を決める」
「研修を一回実施する」

これでも形式上の対応は進みます。

しかし、現場で暴言を受けた事務職員が、

「店長に報告していいのだろうか」

と迷っていたらどうでしょう。

薬剤師が、

「患者だから我慢しなければ」

と30分、40分と一人で対応していたらどうでしょう。

あるいは管理薬剤師自身が、

「これくらい接客業なら当たり前だ」

と言ってしまったらどうでしょう。

マニュアルがあっても、組織文化が変わらなければカスハラ対策にはなりません。

だからこそ、日本薬剤師会のマニュアルが示している基本方針には、

「カスハラを従事者個人の問題としない」

「一人で対応を抱え込ませない」

「従事者の人格・尊厳を損なう行為を許容しない」

と明記されています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

ここに今回の制度の本質があります。



4.では、「チャンス」と考えた薬局は何をするのか

私は、今回のカスハラ対策には少なくとも4つの経営上のチャンスがあると考えています。

①「職員を守る会社」であることを明確にできる

薬剤師不足が続く中で、人材採用・定着は中小薬局にとって重大な経営課題です。

給与だけで職場を選ぶ時代ではありません。

「困った患者が来ても会社が守ってくれる」

「一人で対応しなくていい」

「管理者が代わってくれる」

という心理的安全性は、大きな職場価値になります。

カスハラ対策は、

リスク管理策であると同時に、人材戦略でもある

のです。


②医療安全を守ることにつながる

カスハラを受けた直後の薬剤師に、そのまま監査や調剤を続けさせることを考えてみてください。

恐怖、怒り、動揺。

その状態で薬剤名、規格、用量、相互作用を確認する。

これは医療安全上も望ましくありません。

資料でも、カスハラによる心理的動揺が集中力や判断力を低下させ、処方内容の読み違い、監査の見落とし、確認不足などのヒューマンエラーにつながり得ることが指摘されています。薬局のカスハラ対策

したがって、

カスハラ対策=従業員保護

だけではありません。

カスハラ対策=患者安全対策

でもあるのです。


③薬局の業務改善につなげられる

ここが私が最も注目しているポイントです。

カスハラが発生したら、

「困った患者だった」

で終わらせないことです。

発生原因を分析します。

例えば、

待ち時間 → 業務フロー改善

在庫不足 → 在庫管理・説明改善

自己負担への不満 → 制度説明改善

服薬指導への不満 → コミュニケーション改善

電話での長時間拘束 → 対応ルール改善

と変換できます。

つまり、

カスハラ記録を「事故記録」ではなく「経営改善データ」として使う。

これは中小薬局でも十分できます。

毎月、

「どんな苦情があったか」

「どの時間帯だったか」

「何がきっかけだったか」

「どこでカスハラ化したか」

を振り返る。

すると、患者とのトラブルが発生しやすい業務工程が見えてきます。

これはカスハラ対策から始まる薬局版リスクマネジメントです。


④「地域医療インフラとしての薬局」をつくる契機になる

薬局はこれから、在宅、健康支援、PHR、フォローアップ、地域連携など、患者との接点を広げていきます。

接点が増えれば、残念ながらトラブルの接点も増えます。

特に注意すべきなのが在宅です。

今回のマニュアルでは「職場」は薬局店舗だけではなく、業務を行う患者宅も含むと整理されています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

つまり、

「店舗のカスハラ対策」

では足りません。

電話、SNS、在宅訪問、患者家族、介護者、取引先まで視野に入れた組織としての安全管理へ変えていく必要があります。

これは、これから地域医療を担う薬局に必要な経営インフラそのものです。




5.「患者第一」から「患者と職員の双方を守る」へ

薬局業界には長い間、

「患者さんだから仕方がない」

「医療者だから我慢する」

という文化が少なからずあったのではないでしょうか。

しかし、ここは変える必要があります。

もちろん、患者の疾患、認知機能、障害、心身の状態などへの配慮は必要です。

日本薬剤師会のマニュアルも、説明方法を変える、家族に協力を求める、医療機関と連携する、対応者や対応場所を変えるといった方法を示しています。

しかし同時に、

患者側の事情に配慮することと、従事者が暴力・脅迫・著しい威圧を受忍することは別問題

と明確にしています。 薬局におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル101712_…

私はここに、これからの薬局経営にとって非常に重要なメッセージがあると思います。

患者を大切にすることと、職員を守ることは対立しない。

むしろ職員が安心して働ける薬局だからこそ、患者に対して冷静で質の高い医療を提供できます。



6.経営者が10月から始めるべき「5つの行動」

難しく考える必要はありません。

まず次の5点から始めればよいでしょう。

  1. 経営者自身が「カスハラを職員一人に背負わせない」と宣言する
  2. 正当なクレームとカスハラの判断基準を共有する
  3. 「担当者→管理薬剤師→経営者→警察・弁護士」などエスカレーションルールを決める
  4. 発生事例を記録し、月1回、業務改善の材料として振り返る
  5. 患者にも「職員を守る薬局」であることを掲示・発信する

特に重要なのは1番目です。

カスハラ対策の出発点は、立派なマニュアルではありません。

トップの意思表示です。


7.「守りのカスハラ対策」から「攻めのカスハラ対策」へ

2026年10月1日の制度適用を、

「また薬局経営の負担が増えた」

と考えることもできます。

しかし、少し視点を変えると違って見えてきます。

カスハラ対策をきっかけに、

職員を守る。

離職を防ぐ。

医療安全を高める。

患者対応を標準化する。

苦情から業務改善を行う。

安心して働ける職場を採用力につなげる。

ここまで実行できれば、これは単なる法令対応ではありません。

立派な経営改善策です。

カスハラ対策を「コスト」と見る薬局と、「組織を強くする投資」と見る薬局。

この小さな認識の差が、数年後には人材定着率や患者サービス、医療安全、そして薬局そのものの競争力の差として現れてくるのではないでしょうか。




まとめ

今回のカスハラ対策で最も重要なのは、

「患者から職員を守る」という発想だけではなく、「患者と職員の双方を守る仕組みを経営としてつくる」こと。

ではないでしょうか。

患者の声には真摯に耳を傾ける。

正当な苦情は業務改善につなげる。

しかし、暴言、脅迫、人格否定、暴力には組織として毅然と対応する。

そして職員には、

「あなた一人で対応しなくていい。会社が対応する。」

と言える薬局にする。

私は、これこそが2026年10月から始めるべきカスハラ対策の本当の意義だと考えます。

カスハラ対策は、薬局にとって新たな負担なのか。

それとも、

「患者にも、職員にも選ばれる薬局」へ変わるためのチャンスなのか。

その答えを決めるのは、制度ではなく、経営者の捉え方と行動です。

10/03/2026

2040年の薬局は何軒必要か──「近さ」から「備え」へ

 2040年の薬局は何軒必要か──「近さ」から「備え」へ

「うちの薬局は、10年後も今の形で続けられるだろうか」。そう感じている経営者や管理薬剤師の方は少なくないはずです。

先に結論を言います。処方箋を受けるだけの薬局は、2040年前後には今の半分程度で足りる計算になります。一方で、高額な薬の管理、予防、地域の医薬品供給という新しい需要は確実に増えます。数は減り、機能は増える。これが本稿の結論です。

この記事でわかること

•      処方箋市場が「頭打ち」になった根拠

•      2040年に必要な薬局数の試算

•      生き残る薬局の3つの形

•      「わかっていても動けない」心理と、その乗り越え方


1. 処方箋は「頭打ち」――数字で見る薬局の現在地

全国の薬局は2024年度末で63,203施設。人口約1,960人に1軒の計算で、いまも少しずつ増えています。

一方、処方箋は2025年度に約8億5,730万枚と、前年度から0.8%減って5年ぶりに減少しました。処方箋受取率(医薬分業率)は82.2%で、前年度の82.1%からほぼ横ばいです。医薬分業は約50年かけて、行き着くところまで来たと言えます。減少の主な原因は、外来患者そのものが減っていることです。

図1 処方箋枚数と受取率の推移(日本薬剤師会データより作成)

ここで大事なのは、「量はすぐには減らないが、1枚あたりの価値は下がっていく」という点です。高齢者の数は2040年代前半まで横ばいから微増が続くため、慢性疾患の処方はすぐには減りません。しかし長期処方やリフィル、薬価差益の縮小、2025年の薬機法改正で認められた調剤業務の一部外部委託(一包化)などにより、処方箋1枚が生む利益は細っていきます。

2026年度の調剤報酬改定では、新しく開く門前薬局や医療モール薬局などを対象に「門前薬局等立地依存減算」(調剤基本料から15点減算)が新設されました。国のメッセージははっきりしています。「立地」ではなく「機能」で評価する、ということです。


2. 2040年、薬局は何軒必要か

2つの方法で試算しました(いずれも筆者の試算です)。

•      人口から見る:2040年の人口約1.13億人を、1軒あたり3,000〜5,000人で割ると、約2.3万〜3.8万軒。

•      処方箋の量から見る:年8.0〜8.6億枚を、1軒あたり月2,000〜3,000枚で割ると、約2.2万〜3.6万軒。

どちらで見ても、処方箋を受けるための薬局は現在の半分前後で足ります。さらに、後で触れる配送やロッカーなど「届ける手段」が広がれば、必要数は約2.5万〜3.2万軒に落ち着くと見ています。

図2 2040年前後の必要薬局数の試算(筆者試算)

ただし地域差は大きく、薬局が密集する大都市ほど減り幅が大きくなります。過疎地は減りにくい一方で、薬剤師の確保が課題です。厚生労働省の推計では、2045年に薬剤師が2.4万〜12.6万人余る見通しですが、余るのは主に都市部で、地方は不足しています。「人を減らして乗り切る」発想では、価格競争に巻き込まれるだけです。


3. 生き残る薬局の3つの形

数が減る一方で、求められる役割は3つの形に分かれていきます。

•      ハブ型(全体の約4%):バイオ医薬品や抗がん剤など高額で管理の難しい薬、無菌調製、他の薬局からの一包化の受託、災害時の備蓄。大病院の門前薬局が転換する有力な候補です。

•      地域拠点型(約55%):外来調剤と在宅、予防や健康づくり、自治体・保険者との連携。2025年の改正で生まれた「健康増進支援薬局」の認定は、この役割に重なります。

•      アクセス型(約35%):小型店舗や配送、ロッカー、介護施設内の配置など、住民の手元に薬を届ける窓口です。

図3 薬局の3つの形と構成比(筆者試算)

ポイントは、類型は「建物」ではなく「機能」だということです。中小チェーンであれば、1店舗を拠点に育て、ほかの店舗に役割を分担させるネットワークづくりが現実的です。

現状では、地域連携薬局は4,292軒(2026年8月末)と全体の約7%にとどまり、しかも減少傾向にあります。認定を取ることがゴールではありません。在宅や医療機関との連携の「実績」で収益を上げられる体制を作れるかどうかが分かれ目です。


4. 「近さ」から「備え」へ

これまで薬局の価値は「近くにあること」でした。しかし病院が集約されてきたように、薬局も集約されていきます。病院と違うのは、薬は保存も配送もできるという点です。

2024年の能登半島地震では、全国から4,701名の薬剤師と13台のモバイルファーマシー(移動薬局車)が被災地に派遣されました。それでも専門家は、支援だけで必要な薬が手に入るとは限らず、一人ひとりの備えが欠かせないと指摘しています。

この「防災の発想」を平時に持ち込むと、薬局の新しい役割が見えてきます。

•      自助:患者さんの手持ち薬に「管理された余裕」を持たせ、期限を見ながら入れ替える

•      互助:家族や介護施設、事業所の間で薬を融通できるよう調整する

•      共助(保険):平時の供給・在庫・在宅を担う

•      公助:自治体の備蓄や災害時の供給に協力する

図4 「近さ」から「備え」へ(筆者作成の概念図)

これからの物差しは「この店は近いか」ではありません。「この店は、地域の誰の備えを支えているか」です。


5. 行動経済学で読み解く「わかっていても動けない理由」

頭では理解していても、行動に移すのは難しいものです。人の判断には、決まったクセがあるからです。代表的なものと、その対策を紹介します。

現状維持バイアス:今のままが一番安全に見える

門前の収益が安定していると、変える理由を探さなくなります。対策は、「何もしない」も1つの選択肢として並べることです。「何もしない場合」と「転換する場合」の5年後の収支を同じ表で比べると、現状維持にもリスクがあることが見えてきます。

損失回避:得る喜びより、失う痛みが大きい

人は同じ金額でも、得る喜びより失う痛みを強く感じるとされます。社内やオーナーを説得するときは、新事業で「得るもの」より、何もしないと「失うもの」(減算や処方箋の減少による減収)を数字で示すほうが、合意を得やすくなります。

現在バイアス:「まだ大丈夫」と先送りしてしまう

減算は新規開設だけが対象と聞くと、つい先送りしたくなります。対策は、自分で期限を決めて宣言することです。たとえば「来年度中に1店舗で在宅の件数を月○件にする」と朝礼で共有するだけでも、先送りは起きにくくなります。

サンクコスト:かけたお金がもったいない

立地や設備に投じた費用を惜しんで、転換が遅れることがあります。判断の基準は「過去にいくら使ったか」ではなく、「これから何を生むか」です。

心の会計:お金に「名前」をつける

門前の利益の一部を「転換投資枠」として別に積み立ててみてください。使い道を決めたお金は、ほかに流用されにくくなります。

同じ仕組みは、患者さんの「備え」にも使えます。人は初期設定をなかなか変えません(デフォルト効果)。そこで、慢性疾患の患者さんには「来局時に手持ち薬と期限を確認する」ことを標準の手順にしておけば、備えの習慣が自然に根づきます。


6. 明日から考えたい3つの問い

1.      自社の店舗は、どの形を目指すか 店舗ごとに、ハブ・地域拠点・アクセスのどれを担うかを決める。

2.      門前の収益を、どこへ投資するか 地域拠点への展開か、専門ハブへの転換か。

3.      地域の誰の備えを支えるか 自治体、保険者、そして自分では備えられない住民。


まとめ

処方箋を受けるだけの薬局は、2040年には今の半分あれば足ります。一方で、高額・高度な薬の管理、予防、地域の医薬品供給という需要は確実に増えます。門前の収益は守るべきゴールではなく、転換のための「猶予期間の原資」です。その原資をどこに投じるか。答えを出すのは、早いほど有利です。

※必要薬局数、類型の構成比は筆者の試算であり、確定した将来予測ではありません。

9/26/2026

薬剤師のAI薬歴活用の実際<傾向と対策>

 薬剤師のAI薬歴活用の実際<傾向と対策>


AI薬歴は「入れるだけで時短」ではありません。タイプを間違え、確認手順を省くと、効果は出ず、記録責任だけが残ります。本稿は薬局経営者・病院薬剤部幹部が現場へ指示しやすい形を想定し、製品タイプ、使い方、選び方、安全運用を整理してみましたす。

■1.
いまのAI薬歴は4タイプ
現場製品は電子薬歴の銘柄差より、簡易な分類として入力と出力の型で分かれます。

①
会話音声型(内蔵)
服薬指導の会話を録音し、SOAP下書きを電子薬歴へ返す。Musubi音声薬歴、Solamichi「AI音声入力」、MEDIXS「AI薬歴作成アシスト」、AnyCOMPASS、PharnesX連携の生成AI薬歴など。指導中に顔を上げたい店舗向き。

②一人語り・在宅型
薬剤師が判断や訪問内容を音声で残し、記録化する。Musubiの「一人語りモード」が代表。在宅・訪問後のまとめに強い。

③後付け独立型
今の電子薬歴を替えず、音声+処方データから下書きを作り、転記する。ピアス、medimo AI薬歴、初期のウィーメックス支援など。入替コストを避けたい店舗向き。

④テキスト変換・汎用生成AI型
メモや箇条書きをChatGPT等でSOAP化する。導入は速いが、患者情報を汎用AIへ入れるリスクが最も高い。下書き専用・匿名化前提に限る。

隣接機能として、指導ポイント提案(AnyCOMPASS)、指導の採点(Solamichi)、話者分離とオンプレ音声処理(MC-Drive)がある。2026–27年は、これらが「薬歴作成」から「業務伴走エージェント」へ拡張する。

公表値の目安は、Musubi音声薬歴で記載時間19.7%減(5,500店)、ピアス実証で1件220秒→120秒(45%減)、ウィーメックス社内検証で3.9分→1.5分程度。数字は測定条件や利用者条件(テンプレート利用、薬歴平均文字数、対応者のITリテラシーなど)が違うため、横並びの保証値ではない。

■2.
タイプと現場の使い方がズレていないか
使えていない店舗に多いのは、機械の問題より運用の問題です。

ズレA:会話型なのに、指導後にメモから打ち直している
本来は「録音→下書き確認→確定」です。指導中にメモへ逃げると、音声型の利点が消えます。
▶指示例:「新規・継続の通常指導は録音を原則。下書きはその場か直後に確認し、当日中に確定する」

ズレB:下書きを無修正で確定している
固有名詞、数値、副作用、次回計画は誤りやすい。AIは下書き係、確定は薬剤師です。
▶指示例:「Sの患者発言、Oの数値、Aの評価、Pの次回アクションは必ず人が見る。氏名・用量・禁忌の誤りは重大インシデント扱い」

ズレC:在宅に会話型だけを当てている
訪問先は雑音が多く、会話型の精度が落ちる。一人語り型か、要点メモ+後付け型が向く。
▶指示例:「在宅は帰局後5分の一人語りを標準にする」

ズレD:汎用ChatGPTに薬歴下書きを依頼している
電子薬歴契約外の学習型サービスへ、処方・病名・イニシャル付き情報を入れるのは原則禁止。
▶指示例:「患者が特定できる情報は、契約済み薬歴AI以外に入れない」

ズレE:録音漏れ・同意説明なし
録音するなら、目的(記録作成)と保存範囲を簡潔に説明する。マイク位置と話者分離も確認する。
▶指示例:「指導開始時に『記録のため音声を使います』と一言入れる。同意が得られない場合は従来入力」

■3.
未導入なら、使いたい目的で選ぶ
目的が先、製品名は後です。
・指導中のメモから解放されたい

➡①会話音声型。既存薬歴にオプションがあるなら、まずそこを試す。

・電子薬歴を今は替えたくない

➡③後付け型。転記手間と、処方データ連携の有無を見る。

・在宅・居宅の記録がボトルネック

➡②一人語り型を必須条件にする。

・新人の指導のばらつきを減らしたい

➡指導提案・採点がある内蔵型。時短より質の標準化が目的。

・個人情報を薬局外に出したくない

➡音声のテキスト化が店内(オンプレ)で完結するか、学習利用なし・国内処理・監査ログがあるかを契約で確認する。

・将来の加算確認や疑義整理まで見据える

➡薬歴単体で終わらず、レセコン連携とエージェント構想がある基盤を選ぶ。


経営・幹部への提案は「全店一斉」より「2週間のパイロット」です。
測定項目は①1件あたり作成時間、②確定前の修正箇所数、③指導中に画面を見ている時間、④加算に必要な記載の抜け、の4点で足ります。
全店一律で導入するよりも活用をタイプ別に導入する必要性が高い。AI導入時期、オールインワンは返って現場の混乱を招くだけでしょう。

■4.
現場目線の比較とハルシネーション対策
効果の差は、モデル精度より「何を入力し、いつ確定するか」で開きます。

活用のバリエーション
・通常窓口:会話録音→SOAP確認→確定
・多剤・高齢者:録音に加え、残薬と生活の一人語りを10秒足す
・在宅:訪問中は最低限、帰局後に評価と計画を口述
・教育:同じ音声から指導の抜けを振り返る(採点機能がある場合)

効果が伸びない主因
録音開始忘れ、雑音、専門用語の誤変換、過去薬歴を参照しない出力、確定が翌日にずれて記憶補正が働くこと。45%減と20%減の差は、処方データ照合の有無、テンプレート適合、確定を指導直後に行うか、で説明できることが多い。

対策(現場ルール)
1. AI出力は下書きと表示する
2.
処方内容と出力を照合する(用量、日数、剤形)
3.
患者の固有表現(「朝だけ吐く」等)がSに残っているか見る
4. A
とPは薬剤師が書き直してよい
5.
奇妙に整った文ほど根拠を疑う
6.
修正箇所を週1で共有し、よくある誤変換を店内辞書にする

■5.
入れてよい情報、いけない情報
分け方は単純です。「契約した薬歴AI」と「契約していない汎用AI」を混ぜない。

契約済み薬歴AI(学習に使わず、委託・安全管理が契約されている前提)
入れてよい:当該患者の今回指導に必要な会話、処方、前回計画。
人が確定する:評価、疑義の結論、医師への提案。
契約で確認する:学習利用なし、保存期間、アクセス権、監査ログ、再委託先、国内処理の有無。

汎用生成AI(無料ChatGPT等)
入れない:氏名、ID、生年月日、住所、保険番号、処方、病名、検査値、お薬手帳写真、音声そのもの。
使える:一般的なSOAPの型、説明文書の言い換え例、匿名の制度確認。
「名前を消した」だけでは不十分。希少疾患+地域+年齢で個人は特定されます。

漏らさない工夫
・薬歴AIと汎用AIの入口を端末で分ける
・画面に「患者情報禁止」を掲示する
・音声データは指導目的以外に使わない
・確定者と確定時刻を残す
・院内・店舗の利用規程を1枚で配る

病院では日病薬「生成AI利活用ガイダンス」が、生成AIを判断の代替ではなく支援ツールと位置づけています。薬局も同じ原則で足ります。最終責任は記載した薬剤師に残ります。

■6.
「時間がない」の内訳と、AIの当て方
薬剤師調査では、時間が足りない業務の上位は薬歴作成42.9%、調剤38.6%、服薬指導36.7%。時間不足の帰結は「患者の本音が聞けない」「加算に必要な記載が薄い」です。AI導入群の指導満足度は80.3%、未導入は59.0%と差が出ています。
薬歴AIが効くのは、記録の待ち行列です。効きにくいのは、疑義の判断そのもの、混雑時の説明不足、人員配置です。よって当て方は次の順が現実的です。
1.
閉局後に残る薬歴の山を、指導直後確定に変える
2.
在宅の帰局後記録を一人語りに変える
3.
余った分を、残薬・副作用の聞き取りに使う
4.
その結果として加算記載とフォローを厚くする

「薬歴が速くなったのに残業が減らない」店舗は、確定作業を後回しにしているか、空いた時間の使い方を指示していません。これは、電子レセコンや電子薬歴導入期にも同じ現象ですが、幹部は「削減分数」より「その分数を何に使うか」を先に書いてください。薬剤師は、仕事の量の削減ではなく、質を向上させることが本質です。

■7. 2026–27
年の次:AIエージェント
次の波は、SOAP下書きの精度競争ではありません。薬歴を起点に、業務の順番を提案するエージェントです。

想定機能と目的
・加算確認: tonight の記載漏れを指導中に知らせ、取りこぼしを防ぐ
・疑義ポイント整理:過去事例と添付文書を突き合わせ、照会前の論点を並べる
・フォロー提案:次回連絡の対象と文面案を出す
・レセコン連携:入力の二重作業を消す
・本部分析:必要人数、在庫、指導品質のばらつきを見る

期待値の置き方
短期:記録時間の削減(すでに一部で20–45%)
中期:記載品質の平準化と加算の再現
長期:対物から対人へ時間を移す。判断の自動化ではない

三菱電機デジタルイノベーションのAnyCOMPASS系は、AIアシスタントから現場伴走のAnI-Bot、レセコン統合へ進む構想を公表しています。他社も薬歴・レセコン・在庫の一体型へ寄っています。選ぶときに見るのは「今の音声精度」だけでなく、「確定ログを残したまま、次の業務に渡せるか」です。


■最後に
今月から、通常の服薬指導は契約済みAI薬歴の録音を原則とする。出力は下書きとして扱い、用量・患者発言・次回計画を確認してから確定する。患者が特定できる情報は、契約外の生成AIに貼らない。在宅は帰局後の一人語りを標準にする。週1で誤変換と修正箇所を共有する。空いた時間は、残薬と副作用の聞き取りに使う。

AI薬歴の勝敗は、高性能や多機能の機種を選ぶことでは決まりません。スマホと同じです。カメラ枚数や処理速度で機種を選んでも、3年後には画面も端子もクラウドも変わっています。写真と連絡先が残るのは、機種の性能ではなく、使い方の型がそろっていたからです。
生成AIは更新が速く、現状のレセプトベンダーのようにベンダーの再編やサービス終了も珍しくありません。3年以内の機種変更は前提です。そのとき残るのは「どの会社のAIか」ではなく、①下書きを人が確定した記録、②誰が・いつ確定したかのログ、③地域で渡せるデータの型、の3点です。機種依存の便利機能に業務を縛ると、移行のたびに指導も記録も止まります。
だから今そろえるべきは、最新機能ではなく利用者の標準です。録音する/しないの判断、確定前に見る項目、契約外AIに入れない情報、在宅は一人語り、空いた時間の使い方。この型が店内と地域で共有されていれば、機種が変わってもデータは移せます。スマホを替えても、同じアカウントと写真の分類があれば生活が続くのと同じです。
まず2週間、測定しながらその型を回してください。機種は手段、標準化が資産です。

薬局ビジネスとしての治験支援薬局

 薬局ビジネスとしての治験支援薬局

―24年前には早すぎた。今、薬局が「薬が生まれる前」から関わる時代へ―

私は24年前、薬局の経営責任者になった時、一度「治験を薬局の新しいビジネスにできないか」と考えたことがあります。治験支援に関してビジネスとするためには、様々なハードルがあり困難であることは承知していましたが、薬剤師の研修に課題を持つ私にとって、治験支援が叶う薬剤師の育成が将来の薬剤師の対人業務の育成として最適で、効率的なのではないかというのが本音でした。ドラッグストア企業として、薬剤師の質は差別化として最強であり、何よりレベルの高い薬剤師を確保することも期待されると。

しかし当時は断念しました。

理由は明確でした。

治験は大学病院などが中心で、薬局が参加する制度的位置付けが弱い。薬剤師の臨床能力にも差がある。さらに治験で不可欠な「誰が、いつ、何を行ったのかを第三者が検証できる記録」を、薬局が高い信頼性で保証することも容易ではありませんでした。

ところが24年後、その前提が変わろうとしています。

厚生労働省はDCT(分散型治験)の制度整備を進め、実施医療機関以外の、適切な契約を結んだ「研究開発支援薬局」への治験薬交付を認め、薬局が治験薬の交付だけでなく、被験者の健康状態を管理する構想を示しています。

そして2026年9月、中井清人大臣官房審議官(医薬担当)が「治験支援薬局」を「創薬の新たな流れ」と位置付けました。

これは薬局経営にとって何を意味するのでしょうか。

【図①】「24年前には早すぎた。今、治験支援薬局へ」

 

■治験支援薬局は「全く新しい仕事」ではない

治験と聞くと、多くの薬局経営者は「大学病院の仕事」「うちには無理」と考えるでしょう。

しかし、治験支援薬局に求められる業務を分解すると、現在の「かかりつけ薬剤師」の仕事と非常に近いことに気付きます。

かかりつけ薬剤師は、患者の処方薬・併用薬・副作用・服薬状況等を一元的・継続的に把握し、服薬期間中もフォローして必要な情報を医師へ提供します。

治験支援ではこれが、

Ø  患者情報管理 ➡ 治験薬+併用薬管理

Ø  服薬フォロー ➡ プロトコルに基づくフォロー

Ø  副作用確認 ➡ 有害事象(AE)の兆候確認

Ø  残薬確認 ➡ 治験薬Accountability

Ø  医師への情報提供 ➡ 医師・CRCとの連携

Ø  薬歴 ➡ GCP水準の追跡可能な記録

へ高度化します。

つまり、

かかりつけ薬剤師機能+GCP+品質管理=治験支援薬剤師

と考えればよいのです。

【図②】「実は、ゼロから始める仕事ではない―かかりつけ薬剤師→治験支援薬剤師」

 

■すべての新薬を薬局で扱うわけではない

もう一つ理解しておく必要があります。

これからの新薬は、経口低分子薬だけではありません。

抗体医薬品、自己注射製剤、核酸医薬品、細胞・遺伝子治療などモダリティが多様化します。

経口薬なら「薬局交付+自宅服用+フォロー」との親和性が高い。一方、点滴型バイオ医薬品なら投与は医療機関で、薬局は投与後のフォロー等を担う可能性があります。細胞・遺伝子治療では高度専門医療機関が中心でしょう。

したがって経営者が考えるべきなのは、

「治験をやるか、やらないか」ではなく、「自分の薬局は、どの創薬領域を支援できる薬局になるのか」

です。

 

■治験支援薬局はいくら稼げるのか

現時点で治験支援薬局の公定価格・標準委託価格はありません。

したがって以下は予測ではなく、仮に、

基本契約15万円/治験 + 管理2.5万円/月 + Visit対応1万円 + 非来局フォロー5,000円

という「固定費+タスク+Visit型」で受託した場合の経営シミュレーションです。

年間3症例程度なら売上約63万円で、教育・品質管理等を含めれば赤字になる可能性があります。

u  10症例なら売上約150万円、損益分岐付近。

u  32症例なら約468万円、事業貢献利益約210万円。

u  72症例なら約918万円、事業貢献利益約460万円。

つまり治験支援は、

n  数症例=教育投資

↡

n  10~20症例=損益分岐

↡

n  30症例以上=新規事業

↡

n  70症例以上=治験支援部門

という成長モデルで考える方が現実的です。ただし、本当に重要なのはこの直接収益だけではありません。

 

■治験で稼ぐのではなく「治験を使って薬局を強くする」

治験支援薬局には少なくとも7つの経営価値が考えられます。

①    製薬企業・CRO・SMO等からのB2B収益

②    病院・専門医との関係構築による面処方の拡大

③    処方元多様化による集中率低下の可能性

④    かかりつけ患者との継続的接点強化

⑤    GCP・臨床・安全性管理による薬剤師教育の高度化

⑥    新薬・バイオ・核酸・細胞治療等「育薬」の知識蓄積

⑦    病院・製薬企業・CRO/SMOとの医療ネットワーク形成

特に②③は重要です。

例えば月1,000枚のうち特定クリニック800枚なら集中率80%です。

治験を契機に基幹病院・専門医等との関係が広がり、他施設から月100枚の面処方が増えれば、処方箋は1,100枚となり、集中率は72.7%まで低下します。

もちろん、治験参加だけで処方箋が増えるわけではありません。

しかし、

治験 ➡ 専門医療機関との連携 ➡ 薬局の専門性向上 ➡ 患者からの選択 ➡ 面処方拡大

という経営導線は考えられます。

【図③】「治験支援薬局が生み出す7つの経営価値」

 

■薬剤師教育が「コスト」から「経営資産」になる

治験に対応するには、GCP、プロトコル、安全性情報、AE、併用薬、薬物動態、記録、SOP、医師・CRCとの連携を学ばなければなりません。

これは治験だけの能力ではありません。

在宅、高度薬学管理、服薬フォロー、専門医療機関連携にも転用できます。

さらに創薬段階から医薬品に関与すれば、

「どの患者に使う薬なのか」
「どんな副作用に注意するのか」
「患者はどこで治療につまずくのか」

を承認・発売前から経験できます。

これは薬局にとって知的資本になります。

治験収益だけをROIと考えてはいけない理由です。

【図④】「一つの処方元に依存する薬局から、複数の価値を提供する薬局へ」

 

■管理薬剤師は、まず5つを現場に指示する

制度が確定するまで何もしない必要はありません。基礎的かつ実践的教育の一環としてかなり有用だということです。

私が管理薬剤師なら、まず現場へ次の5つを指示します。

①    GCPを学ぶ担当薬剤師を1人決める。

②    冷所・温度・在庫・残薬管理を点検する。

③    患者フォローを「聞いた」ではなく追跡可能な記録にする。

④    副作用兆候→医師連絡までのフローを作る。

⑤    地域の治験実施病院・CRC・SMOを調べる。

高額な設備投資を先にする必要はありません。

まず「治験を任せられる品質の薬局」に近づくことです。

 

■24年前との最大の違い

24年前は、

「薬局で治験ビジネスをやりたい」

という薬局側からの発想でした。

2026年は違います。

国がDCTを進め、治験システムそのものが地域へ広がろうとしています。

つまり、

「日本の創薬システムが、地域薬局の機能を必要とする可能性が出てきた」

のです。

私は治験支援薬局を単なる新規収益事業とは考えていません。

調剤報酬 + 治験B2B収益 + 面処方 + かかりつけ + 高度薬学管理 + 人的資本 + 育薬・創薬知識 + 医療ネットワーク

へ、薬局の経営資産を多層化する機会だと考えます。

これまで薬局は「承認された薬を患者へ届ける場所」でした。

これから一部の薬局は、

「薬が生まれる前から、患者と創薬を支える場所」

になるかもしれません。

24年前には早すぎた。

しかし今なら、薬局経営者がもう一度考える価値があります。

「治験でいくら稼げるか」ではなく、「治験を使って、自分たちの薬局をどこまで強くできるか」。

治験に関わるということは、薬剤師教育効果的システム、薬剤師の質が地域での差別化になる。ここから治験支援薬局の経営戦略は始まるのだと思います。

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