「ケアマネの88.5%が薬をネット検索」――なぜ薬剤師に聞かないのか?
多職種から見た薬局|第2部 ケアマネジャー編①

「この薬は何のために飲んでいるのだろう?」
「最近、転ぶことが増えたけれど、薬が関係しているのだろうか?」
利用者の暮らしを支えるケアマネジャーは、日々の支援の中で薬に関する疑問に出会います。
その疑問を調べるとき、誰を頼っているのでしょうか。
2024年8月、ケアマネジメント・オンライン会員547人を対象に行われた調査では、医薬品情報を調べる方法として、88.5%がインターネットの検索エンジンを挙げました。
一方、**薬剤師に尋ねると回答した割合は29.6%**でした。
この数字を見て、「なぜ薬剤師に聞かないのか」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、問いを反対にしてみましょう。
薬剤師は、ケアマネジャーにとって本当に相談しやすい専門職になっているのでしょうか。
なお、この調査は複数回答です。ネット検索と薬剤師への相談は両立します。また、特定の会員を対象としたWEB調査であり、ケアマネジャー全体を代表する数値ではありません。
1.薬の問題を最初に見つけるのは、薬剤師とは限らない
ケアマネジャーの専門性は、利用者の暮らしを総合的に把握し、必要な支援を調整することです。
薬を処方することも、薬学的な評価を行うことも、本来の役割ではありません。
しかし、生活の中で起きる変化には、ケアマネジャーだからこそ気づけるものがあります。
例えば、薬が大量に余っている。退院後に服薬管理が難しくなった。最近、ふらつきが増えた。本人が薬を飲みたがらない。家族が薬の管理に疲れている。
こうした変化は、必ずしも薬が原因ではありません。
だからこそ、生活情報を持つケアマネジャーと、薬学的評価を行う薬剤師が協働する意味があります。
ケアマネジャーが気づいた変化を薬剤師に伝える。薬剤師は薬の影響を評価し、必要に応じて医師や訪問看護師などと情報を共有する。
その役割分担が機能すれば、利用者を支える選択肢は増えるはずです。
2.医薬品情報は、どこから入手しているのか
2024年の調査では、医薬品情報を調べる方法として、次の回答が得られました。

インターネット検索は便利です。必要なときに、すぐに情報を探せます。
しかし、検索で得られる一般的な薬の説明が、目の前の利用者にそのまま当てはまるとは限りません。
同じ調査では、医薬品情報を調べる際の困りごととして、「専門的な表現が多く、理解が難しい」が37.8%、「どの情報が正しいか分からない」が26.9%でした。
例えば、ふらつきの原因を考えるとき、薬の副作用だけでなく、服薬状況、病状、血圧、食事、脱水、生活環境などを確認する必要があります。
検索結果を読んだだけでは、判断できないことがあります。
一般的な薬の情報を知ることと、目の前の利用者の薬を評価することは違うのです。
3.薬剤師に相談しにくい4つの壁
なぜ、薬剤師への相談がもっと広がらないのでしょうか。
ここからは、調査結果と現場の課題を踏まえた筆者の仮説です。

第1の壁:相談先が分からない
利用者が複数の医療機関や薬局を利用している場合、誰に相談すればよいか判断しにくいことがあります。
薬剤師の名前を知っていても、その人が相談窓口なのかは分からないかもしれません。
第2の壁:相談する時間が合わない
ケアマネジャーには訪問や会議があり、薬剤師には調剤や服薬指導があります。
電話をかけても、互いにすぐ対応できるとは限りません。
第3の壁:相談できる範囲が分からない
残薬、飲み忘れ、服薬拒否、ふらつきなどについて、どこまで薬剤師に聞いてよいのか分からない場合があります。
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という遠慮があるかもしれません。
第4の壁:相談後の流れが見えない
誰が回答し、必要に応じて医師へつなぎ、いつ情報が返ってくるのか。
その流れが不明確だと、次の相談にはつながりにくくなります。
これらの4つの壁は、今回の調査で直接証明された原因ではありません。
しかし、相談窓口、連絡方法、役割分担、回答までの流れを明確にすることで、改善できる可能性があります。
4.春日井モデル――薬を届けるだけでは解決しなかった
2023年1月14日に実施された「春日井モデル」構築共同研究企画の症例検討には、多職種連携を考えるうえで示唆的な事例があります。
認知症のある高齢のご夫婦が、自分たちで生活を続けようとしていました。
あるとき、妻が薬局に処方箋を持参しました。しかし、その処方箋は発行から約1か月が経過していました。
薬局では、一包化や訪問による支援が検討され、薬剤師もサービス担当者会議に参加しました。
ところが、薬を自宅へ届けるだけでは、服薬管理の問題は解決しませんでした。
そこで、訪問看護師が薬を受け取る役割を担う方法が選ばれました。

ここで重要なのは、薬剤師だけで問題を解決したわけではないことです。
l ケアマネジャーは本人と家族の希望、生活状況、支援の受け入れやすさを把握しています。
l 訪問看護師は自宅での健康状態や服薬状況を確認できます。
l 薬剤師は薬の整理や服薬方法の調整について専門性を発揮します。
それぞれが持つ情報を組み合わせることで、薬局だけでは見つけられなかった支援方法が見えてきたのです。
薬の問題を解決するには、薬だけでなく、薬を使う人の暮らしを見る必要がある。
この事例は、そのことを教えてくれます。
※研修資料に基づき、個人が特定されないよう要約しています。
5.「軟膏が欲しい」という相談の先にあったもの
別の事例では、結核治療中の独居高齢者に対して、複数の職種が曜日を分担して服薬確認を行っていました。
薬剤師は金曜日を担当していました。
その後、本人から皮膚症状に対する軟膏の相談がありました。
生活環境などから皮膚感染症の可能性も考えられていましたが、最終的には入院後、膿疱型薬疹と診断され、処方が変更されました。
ケアマネジャーから薬剤師への相談も行われています。
ただし、薬剤師が薬疹を診断したわけではありません。また、その相談が直接診断につながったと断定できる資料でもありません。
この事例で考えたいのは、本人の「軟膏が欲しい」という訴えを、単なる皮膚の困りごととして処理してよいとは限らないことです。
薬剤師には、薬剤性の可能性も含めて評価し、必要な受診につなぐ役割があります。
生活情報と薬学的な視点を持ち寄ることは、見落としを減らすための一つの方法になり得ます。
6.「そもそも服薬することって?」
もう一つの事例では、服薬を拒む利用者への支援が議論されました。
薬剤師は、薬を適切に使用する方法を考えます。
しかし、ケアマネジャーは、本人が何を望み、なぜ薬を飲みたくないのかという生活や意思の側面にも目を向けます。
服薬拒否の背景には、副作用への不安、服薬負担、病気への考え方、生活上の事情など、さまざまな要因があり得ます。
薬を飲ませることだけを目標にせず、本人の意思を尊重しながら、安全な治療と生活の両立を考えることが重要です。
薬剤師が他職種から学ぶべき視点も、ここにあります。
7.柏市の「顔の見える関係会議」が示すこと
千葉県柏市では、在宅医療・介護に関わる多職種の交流を進める取り組みが行われてきました。
平成26年度第3回「顔の見える関係会議」の参加者に対し、会議終了2か月後に実施された調査では、197人が回答しています。
表1|会議後の変化

これは研修会の効果を測定した数値ではありません。また、比較対照群を設けた研究ではないため、会議による因果効果を示すものではありません。
ただし、会議で生まれた関係が、その後の連絡や協働につながったことを示す参考情報として読むことはできます。
薬局とケアマネジャーの連携を進めるなら、利用者の問題が起きる前に、互いの仕事と連絡先を知る場をつくることが重要ではないでしょうか。
8.相談できる関係をつくる3段階の研修
では、薬局とケアマネジャーの関係をどうつくるか。
私は、単発の講義だけではなく、次の3段階を組み合わせる方法を提案します。

第1段階:基礎編――互いの仕事を知る
まず、ケアマネジャーと薬剤師が、それぞれの役割を理解します。
どのような相談ができるのか。どのような情報が必要なのか。連絡先や返答方法をどうするのか。
相談の入口を具体的にすることが目的です。
第2段階:症例別編――同じ事例を一緒に考える
認知症、退院後の服薬管理、独居高齢者、服薬拒否など、実際の生活課題を多職種で検討します。
ケアマネジャーは生活の視点から、薬剤師は薬学的な視点から、訪問看護師は健康状態と日常の観察から意見を出します。
正解を一つに決めることよりも、互いの視点の違いを理解することが重要です。
第3段階:実践編――相談して振り返る
研修で知り合った関係を、実際の相談につなげます。
例えば、研修後30日、90日の時点で、相談が行われたか、対応上の課題があったかを確認します。
相談件数だけでなく、相談内容、対応までの時間、連携上の問題などを振り返ることも考えられます。
これは筆者の提案であり、効果が実証された標準プログラムではありません。
地域の実情に応じて、実施方法を調整する必要があります。
9.ケアマネジャーから薬剤師に相談してほしい場面
例えば、次のような変化があったときです。
- 薬が大量に余っている
- 退院後に薬の管理が難しくなった
- 薬の変更後に眠気やふらつきが目立つ
- 本人が薬を拒否している
- 複数の医療機関から薬が処方されている
- 市販薬やサプリメントを使い始めた
こうした場面では、薬剤師に相談する意味があります。
ただし、意識障害、呼吸困難、急激な症状悪化などがある場合は、通常の薬局相談を待たず、緊急度に応じた救急対応や医療機関への連絡を優先してください。
また、薬剤師は相談を受けたら、薬だけで結論を出すのではなく、必要に応じて医師や訪問看護師などにつなぐ役割も担います。
10.薬局経営者に問いたいこと
薬局経営者にとって、多職種連携は在宅医療や地域での役割を考えるうえで重要なテーマです。
ただし、研修を開催すれば処方箋が増える、相談件数が増えれば収益が上がる、と単純には言えません。
まず問うべきなのは、地域のケアマネジャーが自分の薬局をどう見ているかです。
薬を渡す場所なのか。
薬について困ったときに相談できる場所なのか。
それとも、利用者の暮らしを一緒に考えられる相手なのか。
私は、この違いが、地域における薬局の存在価値を考えるうえで重要だと思います。
薬剤師の専門性は、薬の知識を持っていることだけではありません。
その知識を、利用者の生活の問題に結びつけ、他職種と協働して活用できることにも価値があります。
まとめ――「なぜ聞いてくれないのか」の前に
88.5%がネット検索を利用し、29.6%が薬剤師に尋ねる。
この数字から、ケアマネジャーの姿勢を批判するのは簡単です。
しかし、薬剤師の側にも考えるべきことがあります。
私たちは、相談してもらえる関係をつくってきたでしょうか。
そして、相談を受けたとき、薬の説明だけでなく、本人の生活と希望まで理解しようとしてきたでしょうか。
多職種連携とは、薬剤師が中心になることではありません。
患者・利用者と家族を中心に、それぞれの専門性を持ち寄ること。
その第一歩は、名刺交換よりも小さなことかもしれません。
「こんなこと、薬剤師に聞いてもいいですか?」
「もちろんです。一緒に考えましょう。」
そんな会話が、地域で当たり前になることを願っています。
参考資料
- くすりの適正使用協議会「医薬品情報に関するケアマネジャーへのアンケート」(2024年10月16日公表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000202.000012000.html
発表元:https://www.rad-ar.or.jp/release/post?id=f8ea122b39346316f600008c - 厚生労働省掲載「在宅医療推進
柏プロジェクト」関連資料
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000142951.pdf - 関東信越厚生局「柏市の取組説明資料」
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/houkatsu/documents/kashiwasetsumei1.pdf - 「春日井モデル」構築共同研究企画・2023年1月14日研修資料(非公開資料)
※本記事では、調査結果、事例、筆者の仮説・提案を区別して記述しています。
👉【note版】:多職種から見た薬局|ケアマネジャー編① ケアマネの88.5%が薬をネット検索。薬剤師は「相談相手」になれているか?









