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10/28/2026

「ケアマネの88.5%が薬をネット検索」――なぜ薬剤師に聞かないのか? 多職種から見た薬局|第2部 ケアマネジャー編①

 「ケアマネの88.5%が薬をネット検索」――なぜ薬剤師に聞かないのか?

多職種から見た薬局|第2部 ケアマネジャー編①

「この薬は何のために飲んでいるのだろう?」

「最近、転ぶことが増えたけれど、薬が関係しているのだろうか?」

利用者の暮らしを支えるケアマネジャーは、日々の支援の中で薬に関する疑問に出会います。

その疑問を調べるとき、誰を頼っているのでしょうか。

2024年8月、ケアマネジメント・オンライン会員547人を対象に行われた調査では、医薬品情報を調べる方法として、88.5%がインターネットの検索エンジンを挙げました。

一方、**薬剤師に尋ねると回答した割合は29.6%**でした。

この数字を見て、「なぜ薬剤師に聞かないのか」と感じる人もいるかもしれません。

しかし、問いを反対にしてみましょう。

薬剤師は、ケアマネジャーにとって本当に相談しやすい専門職になっているのでしょうか。

なお、この調査は複数回答です。ネット検索と薬剤師への相談は両立します。また、特定の会員を対象としたWEB調査であり、ケアマネジャー全体を代表する数値ではありません。

1.薬の問題を最初に見つけるのは、薬剤師とは限らない

ケアマネジャーの専門性は、利用者の暮らしを総合的に把握し、必要な支援を調整することです。

薬を処方することも、薬学的な評価を行うことも、本来の役割ではありません。

しかし、生活の中で起きる変化には、ケアマネジャーだからこそ気づけるものがあります。

例えば、薬が大量に余っている。退院後に服薬管理が難しくなった。最近、ふらつきが増えた。本人が薬を飲みたがらない。家族が薬の管理に疲れている。

こうした変化は、必ずしも薬が原因ではありません。

だからこそ、生活情報を持つケアマネジャーと、薬学的評価を行う薬剤師が協働する意味があります。

ケアマネジャーが気づいた変化を薬剤師に伝える。薬剤師は薬の影響を評価し、必要に応じて医師や訪問看護師などと情報を共有する。

その役割分担が機能すれば、利用者を支える選択肢は増えるはずです。

2.医薬品情報は、どこから入手しているのか

2024年の調査では、医薬品情報を調べる方法として、次の回答が得られました。

インターネット検索は便利です。必要なときに、すぐに情報を探せます。

しかし、検索で得られる一般的な薬の説明が、目の前の利用者にそのまま当てはまるとは限りません。

同じ調査では、医薬品情報を調べる際の困りごととして、「専門的な表現が多く、理解が難しい」が37.8%、「どの情報が正しいか分からない」が26.9%でした。

例えば、ふらつきの原因を考えるとき、薬の副作用だけでなく、服薬状況、病状、血圧、食事、脱水、生活環境などを確認する必要があります。

検索結果を読んだだけでは、判断できないことがあります。

一般的な薬の情報を知ることと、目の前の利用者の薬を評価することは違うのです。

3.薬剤師に相談しにくい4つの壁

なぜ、薬剤師への相談がもっと広がらないのでしょうか。

ここからは、調査結果と現場の課題を踏まえた筆者の仮説です。

第1の壁:相談先が分からない

利用者が複数の医療機関や薬局を利用している場合、誰に相談すればよいか判断しにくいことがあります。

薬剤師の名前を知っていても、その人が相談窓口なのかは分からないかもしれません。

第2の壁:相談する時間が合わない

ケアマネジャーには訪問や会議があり、薬剤師には調剤や服薬指導があります。

電話をかけても、互いにすぐ対応できるとは限りません。

第3の壁:相談できる範囲が分からない

残薬、飲み忘れ、服薬拒否、ふらつきなどについて、どこまで薬剤師に聞いてよいのか分からない場合があります。

「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という遠慮があるかもしれません。

第4の壁:相談後の流れが見えない

誰が回答し、必要に応じて医師へつなぎ、いつ情報が返ってくるのか。

その流れが不明確だと、次の相談にはつながりにくくなります。

これらの4つの壁は、今回の調査で直接証明された原因ではありません。

しかし、相談窓口、連絡方法、役割分担、回答までの流れを明確にすることで、改善できる可能性があります。

4.春日井モデル――薬を届けるだけでは解決しなかった

2023年1月14日に実施された「春日井モデル」構築共同研究企画の症例検討には、多職種連携を考えるうえで示唆的な事例があります。

認知症のある高齢のご夫婦が、自分たちで生活を続けようとしていました。

あるとき、妻が薬局に処方箋を持参しました。しかし、その処方箋は発行から約1か月が経過していました。

薬局では、一包化や訪問による支援が検討され、薬剤師もサービス担当者会議に参加しました。

ところが、薬を自宅へ届けるだけでは、服薬管理の問題は解決しませんでした。

そこで、訪問看護師が薬を受け取る役割を担う方法が選ばれました。

ここで重要なのは、薬剤師だけで問題を解決したわけではないことです。

l  ケアマネジャーは本人と家族の希望、生活状況、支援の受け入れやすさを把握しています。

l  訪問看護師は自宅での健康状態や服薬状況を確認できます。

l  薬剤師は薬の整理や服薬方法の調整について専門性を発揮します。

それぞれが持つ情報を組み合わせることで、薬局だけでは見つけられなかった支援方法が見えてきたのです。

薬の問題を解決するには、薬だけでなく、薬を使う人の暮らしを見る必要がある。

この事例は、そのことを教えてくれます。

※研修資料に基づき、個人が特定されないよう要約しています。

5.「軟膏が欲しい」という相談の先にあったもの

別の事例では、結核治療中の独居高齢者に対して、複数の職種が曜日を分担して服薬確認を行っていました。

薬剤師は金曜日を担当していました。

その後、本人から皮膚症状に対する軟膏の相談がありました。

生活環境などから皮膚感染症の可能性も考えられていましたが、最終的には入院後、膿疱型薬疹と診断され、処方が変更されました。

ケアマネジャーから薬剤師への相談も行われています。

ただし、薬剤師が薬疹を診断したわけではありません。また、その相談が直接診断につながったと断定できる資料でもありません。

この事例で考えたいのは、本人の「軟膏が欲しい」という訴えを、単なる皮膚の困りごととして処理してよいとは限らないことです。

薬剤師には、薬剤性の可能性も含めて評価し、必要な受診につなぐ役割があります。

生活情報と薬学的な視点を持ち寄ることは、見落としを減らすための一つの方法になり得ます。

6.「そもそも服薬することって?」

もう一つの事例では、服薬を拒む利用者への支援が議論されました。

薬剤師は、薬を適切に使用する方法を考えます。

しかし、ケアマネジャーは、本人が何を望み、なぜ薬を飲みたくないのかという生活や意思の側面にも目を向けます。

服薬拒否の背景には、副作用への不安、服薬負担、病気への考え方、生活上の事情など、さまざまな要因があり得ます。

薬を飲ませることだけを目標にせず、本人の意思を尊重しながら、安全な治療と生活の両立を考えることが重要です。

薬剤師が他職種から学ぶべき視点も、ここにあります。

7.柏市の「顔の見える関係会議」が示すこと

千葉県柏市では、在宅医療・介護に関わる多職種の交流を進める取り組みが行われてきました。

平成26年度第3回「顔の見える関係会議」の参加者に対し、会議終了2か月後に実施された調査では、197人が回答しています。

表1|会議後の変化

これは研修会の効果を測定した数値ではありません。また、比較対照群を設けた研究ではないため、会議による因果効果を示すものではありません。

ただし、会議で生まれた関係が、その後の連絡や協働につながったことを示す参考情報として読むことはできます。

薬局とケアマネジャーの連携を進めるなら、利用者の問題が起きる前に、互いの仕事と連絡先を知る場をつくることが重要ではないでしょうか。

8.相談できる関係をつくる3段階の研修

では、薬局とケアマネジャーの関係をどうつくるか。

私は、単発の講義だけではなく、次の3段階を組み合わせる方法を提案します。

第1段階:基礎編――互いの仕事を知る

まず、ケアマネジャーと薬剤師が、それぞれの役割を理解します。

どのような相談ができるのか。どのような情報が必要なのか。連絡先や返答方法をどうするのか。

相談の入口を具体的にすることが目的です。

第2段階:症例別編――同じ事例を一緒に考える

認知症、退院後の服薬管理、独居高齢者、服薬拒否など、実際の生活課題を多職種で検討します。

ケアマネジャーは生活の視点から、薬剤師は薬学的な視点から、訪問看護師は健康状態と日常の観察から意見を出します。

正解を一つに決めることよりも、互いの視点の違いを理解することが重要です。

第3段階:実践編――相談して振り返る

研修で知り合った関係を、実際の相談につなげます。

例えば、研修後30日、90日の時点で、相談が行われたか、対応上の課題があったかを確認します。

相談件数だけでなく、相談内容、対応までの時間、連携上の問題などを振り返ることも考えられます。

これは筆者の提案であり、効果が実証された標準プログラムではありません。

地域の実情に応じて、実施方法を調整する必要があります。

9.ケアマネジャーから薬剤師に相談してほしい場面

例えば、次のような変化があったときです。

  • 薬が大量に余っている
  • 退院後に薬の管理が難しくなった
  • 薬の変更後に眠気やふらつきが目立つ
  • 本人が薬を拒否している
  • 複数の医療機関から薬が処方されている
  • 市販薬やサプリメントを使い始めた

こうした場面では、薬剤師に相談する意味があります。

ただし、意識障害、呼吸困難、急激な症状悪化などがある場合は、通常の薬局相談を待たず、緊急度に応じた救急対応や医療機関への連絡を優先してください。

また、薬剤師は相談を受けたら、薬だけで結論を出すのではなく、必要に応じて医師や訪問看護師などにつなぐ役割も担います。

10.薬局経営者に問いたいこと

薬局経営者にとって、多職種連携は在宅医療や地域での役割を考えるうえで重要なテーマです。

ただし、研修を開催すれば処方箋が増える、相談件数が増えれば収益が上がる、と単純には言えません。

まず問うべきなのは、地域のケアマネジャーが自分の薬局をどう見ているかです。

薬を渡す場所なのか。

薬について困ったときに相談できる場所なのか。

それとも、利用者の暮らしを一緒に考えられる相手なのか。

私は、この違いが、地域における薬局の存在価値を考えるうえで重要だと思います。

薬剤師の専門性は、薬の知識を持っていることだけではありません。

その知識を、利用者の生活の問題に結びつけ、他職種と協働して活用できることにも価値があります。

まとめ――「なぜ聞いてくれないのか」の前に

88.5%がネット検索を利用し、29.6%が薬剤師に尋ねる。

この数字から、ケアマネジャーの姿勢を批判するのは簡単です。

しかし、薬剤師の側にも考えるべきことがあります。

私たちは、相談してもらえる関係をつくってきたでしょうか。

そして、相談を受けたとき、薬の説明だけでなく、本人の生活と希望まで理解しようとしてきたでしょうか。

多職種連携とは、薬剤師が中心になることではありません。

患者・利用者と家族を中心に、それぞれの専門性を持ち寄ること。

その第一歩は、名刺交換よりも小さなことかもしれません。

「こんなこと、薬剤師に聞いてもいいですか?」

「もちろんです。一緒に考えましょう。」

そんな会話が、地域で当たり前になることを願っています。


参考資料

  1. くすりの適正使用協議会「医薬品情報に関するケアマネジャーへのアンケート」(2024年10月16日公表)
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000202.000012000.html
    発表元:https://www.rad-ar.or.jp/release/post?id=f8ea122b39346316f600008c
  2. 厚生労働省掲載「在宅医療推進 柏プロジェクト」関連資料
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000142951.pdf
  3. 関東信越厚生局「柏市の取組説明資料」
    https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/houkatsu/documents/kashiwasetsumei1.pdf
  4. 「春日井モデル」構築共同研究企画・2023年1月14日研修資料(非公開資料)

※本記事では、調査結果、事例、筆者の仮説・提案を区別して記述しています。


👉【note版】:多職種から見た薬局|ケアマネジャー編① ケアマネの88.5%が薬をネット検索。薬剤師は「相談相手」になれているか?


10/22/2026

 多職種から見た薬局|

第1部・第3回 退院後のふらつきは薬が原因?

――転び方から考える薬剤師と多職種連携の役割

はじめに|「ふらつく」という一言に隠れている情報

「退院してから、転びそうになることが増えました」

介護職から、こんな報告を受けたことはないでしょうか。

ケアマネジャーは歩行器の導入を検討し、訪問看護師は血圧や体調を確認する。理学療法士は筋力やバランス能力を評価する。

どの職種も必要な対応をしている。それでも、ふらつきが改善しない。

そんなとき、薬剤師が加わることで、問題の捉え方が変わる場合があります。

ただし、重要なのは「転んだ」という事実だけではありません。

いつ、どのようにふらつき、どのように転びそうになったのか。

例えば、同じ「朝のふらつき」でも、

  • ベッドから立ち上がった瞬間に目の前が暗くなる
  • 起床後も眠そうで、足元がおぼつかない
  • 歩き始めると足がもつれ、左右に揺れる

では、考えるべき原因が異なります。

そして、これらの症状には薬物療法が関係している可能性もあります。

今回は、退院後のふらつきを題材に、介護職や訪問看護師が捉えた生活上の変化を、薬剤師がどのように薬学的評価につなげるのかを考えます。


1.退院後1週間、立ち上がるたびにふらつく

ここで紹介するのは、医学的・薬学的知見をもとに構成した仮想事例です。実際の患者の治療経過を示すものではありません。

 

82歳男性、心不全による入院から自宅へ

Aさんは82歳の男性。

高血圧と心不全があり、心不全の悪化によって入院していました。

治療によって状態が安定し、自宅に退院しました。

入院中には、病状に応じて降圧薬や利尿薬などの薬物療法が調整されています。

退院後は、家族の支援を受けながら、訪問看護や介護サービスを利用しています。

ところが、退院して数日後から、立ち上がる際にふらつくようになりました。

介護職が訪問した際にも、ベッドから立ち上がった直後に身体が揺れ、家具につかまる場面がありました。

家族は「入院で足腰が弱くなったのではないか」と心配しています。

確かに、高齢者では入院中の活動量低下によって筋力や身体機能が低下することがあります。

しかし、それだけで説明してよいのでしょうか。

 

多職種がそれぞれ対応する

介護職は、立ち上がり時の見守りを強化しました。

ケアマネジャーは、歩行器や手すりの導入を検討しました。

訪問看護師は、血圧、脈拍、浮腫、食事・水分摂取状況などを確認しました。

理学療法士は、下肢筋力や歩行バランスを評価しました。

こうした対応は、いずれも重要です。

転倒による骨折や再入院を防ぐためには、安全確保と原因の評価を並行して進める必要があります。

しかし、Aさんのふらつきは続いていました。

ここで問題になるのは、誰かが対応を怠っていたということではありません。

それぞれの専門職が持っている情報を、まだ十分に結びつけられていなかった可能性です。

【図1:同じ「ふらつき」を見る多職種の異なる視点】


2.「どのようにふらつくか」で、考える原因が変わる

転倒やふらつきの評価では、症状の具体的な特徴が重要です。

世界転倒予防ガイドライン(2022年)でも、高齢者の転倒リスクを評価する際には、歩行・バランス能力、循環器系、薬剤、認知機能、環境要因などを含めた多因子的な評価が推奨されています。

つまり、転倒の原因は一つとは限りません。

一方、ふらつきの特徴から、薬剤との関連を検討する手がかりが得られることがあります。

 

① 立ち上がった直後に、目の前が暗くなる

ベッドや椅子から立ち上がった際に、急にふらつく。

この場合、起立性低血圧が原因候補の一つになります。

起立性低血圧とは、立ち上がったときに血圧が低下する状態です。

一般的には、立位後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下することが診断上の基準として用いられます。ただし、測定条件や基礎疾患によって評価には注意が必要です。

起立性低血圧には、脱水、自律神経障害、循環器疾患など、さまざまな原因があります。

薬剤では、降圧薬、利尿薬、α1遮断薬などが関与する場合があります。

ただし、これらの薬が処方されているだけで、薬剤性と判断することはできません。

 

② 起床後も眠そうで、足元がおぼつかない

朝になっても眠気が強く、注意力が低下している。

歩行中に障害物に気づきにくくなったり、反応が遅れたりする場合があります。

このような状態では、睡眠薬、抗不安薬、オピオイド鎮痛薬などによる鎮静作用が関係している可能性があります。

特に高齢者では、薬剤の作用が翌朝まで持ち越される場合があります。

ただし、睡眠不足、せん妄、感染症、代謝異常なども考慮する必要があります。

 

③ 歩行中に左右へ揺れ、足がもつれる

歩いている途中で身体が左右に揺れ、まっすぐ歩きにくくなる。

この場合、運動失調や平衡機能の障害などが考えられます。

一部の抗てんかん薬や鎮静作用を持つ薬剤などが関係する場合があります。

一方で、小脳疾患、前庭機能障害、脳血管障害なども重要な鑑別対象です。

突然発症した歩行障害では、脳卒中などの緊急疾患を考慮する必要があります。

 

④ 足が出にくく、小刻みな歩行になる

歩幅が狭くなり、足が前に出にくくなる。

方向転換でバランスを崩すこともあります。

パーキンソニズムなどが原因候補となり、一部の抗精神病薬や制吐薬などによる薬剤性パーキンソニズムも考えられます。

ただし、歩行の特徴だけで薬剤性かどうかを判断することはできません。

 

⑤ 夜間、トイレに向かう途中で転ぶ

夜間の転倒では、複数の要因が重なる場合があります。

例えば、睡眠薬による眠気、起立性低血圧、夜間頻尿、暗い室内環境などです。

利尿薬の服用時刻や尿量の変化が、夜間の排尿行動に関係する場合もあります。

しかし、夜間転倒の原因を利尿薬だけに求めることは適切ではありません。

重要なのは、転び方だけで原因を決めるのではなく、転倒の特徴から評価すべき項目を絞り込むことです。

【図2:ふらつき方・転び方から考える薬剤との関連】


3.介護職の一言が、薬剤師の評価を変える

Aさんの事例に戻りましょう。

介護職が、次のような情報を共有したとします。

「朝、ベッドから立ち上がると、目の前が暗くなると言ってしゃがみ込みます」

「昼間は比較的しっかり歩けています」

「退院してから、食事や水分を取る量が少し減っています」

これらの情報は、薬剤師にとって重要な意味を持ちます。

単に「ふらつく」という報告よりも、症状が発生する場面、時間帯、身体の状態が具体的だからです。

薬剤師は、この情報をもとに、退院前後の薬物療法を確認します。

例えば、次のような点です。

  • 入院中に降圧薬や利尿薬の種類・用量が変更されたか
  • 服薬時刻と症状が発生する時間帯に関係があるか
  • 退院前の残薬が混在していないか
  • 食事・水分摂取量の変化が薬物療法に影響していないか
  • 腎機能や電解質などの検査値に変化がないか
  • 心不全の治療上、現在の薬剤がどのような役割を果たしているか

ここで重要なのは、薬剤師が処方内容だけを見ていても、Aさんの生活上の問題を十分に把握できないということです。

一方、介護職はAさんのふらつきに気づいていても、退院時の薬剤変更理由までは把握していない場合があります。

介護職が観察した生活の変化と、薬剤師が把握する薬物療法の情報が結びつくことで、初めて新しい評価が可能になります。

これは、一方の専門職が他方の不足を補うという単純な関係ではありません。

それぞれの専門性を組み合わせることで、患者の状態をより立体的に理解するということです。


4.薬剤師が「薬を減らせばよい」と判断してはいけない理由

Aさんは心不全の患者です。

仮に、降圧薬や利尿薬がふらつきに関与している可能性があったとしても、直ちに中止や減量をすべきとは限りません。

利尿薬は、心不全に伴う体液貯留を改善するために重要な役割を果たす場合があります。

また、心不全治療に使用される薬剤の中には、予後改善を目的として継続が重要なものもあります。

薬剤を変更する際には、血圧、心拍数、心不全の状態、腎機能、電解質、脱水の可能性などを総合的に評価する必要があります。

例えば、Aさんの起立時血圧を評価した結果、起立性低血圧が疑われたとします。

薬剤師は、薬剤の関与について整理し、医師に情報提供します。

医師は、必要な検査や病態評価を行い、薬物療法の変更が必要か判断します。

訪問看護師は、血圧や症状の変化を継続的に観察します。

介護職は、安全な立ち上がりや移動を支援します。

ケアマネジャーは、生活環境や介護サービスを調整します。

このように、薬剤師の評価は、多職種による問題解決の一部分です。

薬剤師の役割は、薬を減らすこと自体ではありません。

必要な治療を維持しながら、薬物療法による不利益をできる限り小さくすることです。

なお、心不全患者では、自己判断による利尿薬の中止や水分・塩分摂取量の変更は、病状悪化につながるおそれがあります。


5.薬剤師の介入で、転倒は本当に減るのか

薬剤師が薬物療法を評価することには意義があります。

しかし、その介入によって転倒や再入院がどの程度減るのかについては、研究結果を慎重に解釈する必要があります。

 

退院後の薬剤照合に関する研究

McNabらが2018年に発表した系統的レビュー・メタ解析では、退院後の地域における薬剤師主導の薬剤照合について、14研究が評価されました。

薬剤照合とは、患者が実際に使用している薬と処方情報を突き合わせ、意図しない重複、欠落、用法の不一致などを確認する取り組みです。

このレビューでは、薬剤不一致の発見・解消を評価した研究で改善が認められました。

一方、再入院率の有意な低下は示されず、救急受診や医療者の業務負担についても一貫した改善は確認されませんでした。

また、多くの研究にはバイアスのリスクがあり、結果の一般化には注意が必要です。

 

薬剤レビューだけでは転倒予防に限界がある

Seppäläらが2022年に発表した系統的レビュー・メタ解析では、薬剤レビューや減薬を単独の介入として行った49研究が評価されました。

結果として、薬剤レビューや減薬だけで転倒を有意に減少させるという、一貫した効果は確認されませんでした。

この結果は、薬剤師の介入が不要であることを意味しません。

転倒には筋力、歩行能力、循環器疾患、薬剤、住環境など、複数の要因が関係するため、薬剤の見直しだけでは十分でない場合があるということです。

世界転倒予防ガイドラインでも、転倒リスクを高める薬剤の評価と適切な見直しを、多面的な転倒予防介入の一部として実施することが推奨されています。

薬剤師の介入は、転倒予防のすべてではありません。しかし、転倒リスクを評価するうえで欠かせない視点の一つです。


6.退院後の異変は、ふらつきだけではない

薬剤との関連を考えるべき生活上の変化は、転倒以外にもあります。

 

食事量が減り、冷や汗やふらつきが出る

退院後に食事量が減少した糖尿病患者で、冷や汗、手の震え、ふらつき、意識状態の変化などが見られる場合、低血糖を考慮する必要があります。

特にインスリン製剤やスルホニル尿素薬などを使用している場合には、食事摂取量と薬物療法の関係が重要です。

 

昼間も眠ってばかりいる

退院後に眠気が強くなり、活動量が低下する場合には、睡眠薬、抗不安薬、鎮痛薬などによる過鎮静が関与する可能性があります。

ただし、感染症や脱水、せん妄なども考慮する必要があります。

 

便秘や排尿障害が悪化する

便秘や尿が出にくい状態が続く場合、抗コリン作用を持つ薬剤やオピオイドなどの影響を検討することがあります。

ただし、尿閉や腸閉塞などの緊急性のある病態を見逃してはいけません。

これらに共通するのは、生活上の異変が薬物療法の問題を発見する入口になるという点です。


7.多職種は、薬局に何を伝えればよいのか

薬剤師に相談する際、薬の専門知識が必要なわけではありません。

むしろ重要なのは、患者の生活の中で起きた変化を、できるだけ具体的に伝えることです。

例えば、ふらつきについては次の5項目が役立ちます。

① いつ起きたのか

朝、昼、夜、食後、服薬後など。

② 何をしていたのか

立ち上がったとき、歩いているとき、トイレに向かう途中など。

③ どのようにふらついたのか

目の前が暗くなった、周囲が回る感じがした、足がもつれた、意識が遠のいたなど。

④ ほかに症状があったか

眠気、冷や汗、動悸、息切れ、意識消失など。

⑤ 退院前後で何が変わったか

薬、食事、水分摂取量、活動量、生活環境など。

こうした情報があれば、薬剤師は処方変更や服薬実態との関連を検討しやすくなります。

また、薬剤師が薬剤性の問題を疑った場合には、確認した事実と考えられる原因を整理し、必要に応じて医師や訪問看護師などに共有します。

ただし、突然の麻痺、胸痛、失神、強い息切れ、急激な意識状態の変化などがある場合には、通常の薬局相談ではなく、速やかな医療評価を優先します。

【図3:患者・家族を中心にした多職種の情報共有】


8.薬局は「相談される専門職」になれているか

ここまで、他職種から薬局を活用する方法について考えてきました。

一方、薬局側にも課題があります。

薬剤師が処方箋の内容を確認し、薬を正しく調剤するだけでは、患者の生活上の変化を十分に把握できない場合があります。

特に退院後の患者では、病院で薬物療法が変更されていても、その変更理由や観察すべき事項が地域の薬局に十分伝わっていない場合があります。

厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」でも、入退院時の薬物療法に関する情報共有や、多職種による継続的な評価の重要性が示されています。

薬局に求められるのは、薬について質問されたときだけ答えることではありません。

介護職、ケアマネジャー、訪問看護師などから得られた生活情報を薬学的に評価し、必要な医療上の対応につなげることです。

そのためには、地域の専門職が薬局に相談しやすい関係を築く必要があります。

薬局経営の観点でも、これは重要な意味を持ちます。

処方箋の受付枚数だけでは、こうした活動の価値を十分に評価できません。

一方で、薬学的な相談対応が直ちに収益増加につながるとは限らず、人的資源や業務負担、報酬上の評価なども考慮する必要があります。

それでも、地域の医療・介護において、薬局がどのような価値を提供できるのかを考えるうえで、退院後の患者への関与は重要なテーマです。


9.まとめ|「転んだ」ではなく、「どう転んだか」を共有する

退院後のふらつきや転倒には、さまざまな原因があります。

筋力低下や生活環境の問題だけでなく、循環器疾患、神経疾患、薬物療法などが関係している場合もあります。

その原因を評価するうえで、介護職や家族が観察した情報は重要です。

「転びそうになった」という報告に加えて、「いつ、何をしているときに、どのようにふらついたのか」が共有されれば、医療職はより具体的な評価を行いやすくなります。

薬剤師は、その情報と薬物療法の変更履歴、服薬実態、検査値などを結びつけ、薬剤の関与を検討します。

そして医師の診断・治療判断、訪問看護師の観察、介護職の生活支援、ケアマネジャーのサービス調整が組み合わさることで、患者の安全な生活につながります。

多職種連携の価値は、異なる専門性を持つ人が集まることではなく、それぞれの情報をつなぎ、患者の問題をより深く理解することにあります。


私見|薬剤師の専門性は、生活の中でこそ生きる

私は、薬剤師の専門性が十分に活用されていない場面は、まだ多いと考えています。

特に在宅療養では、介護職や訪問看護師が患者の異変に気づいていても、その情報が薬学的評価につながっていない場合があるのではないでしょうか。

今回の事例で重要なのは、薬剤師が「薬の副作用を見つけた」という結果だけではありません。

介護職が、ふらつき方や転倒する場面を具体的に観察していたことです。

その情報があって初めて、薬剤師は薬物療法との関係をより詳しく検討できます。

私は、薬剤師の価値を高めるためには、薬剤師自身の能力向上だけでなく、他職種が薬剤師をどのように活用できるかを知ることも重要だと考えています。

同時に、薬局側も変わる必要があります。

「薬について相談があれば対応します」という受け身の姿勢だけでは、地域の医療・介護が抱える課題を十分に捉えられません。

介護職が困っていること、ケアマネジャーが解決できずにいること、訪問看護師が気になっていること。

そうした生活上の問題に、薬学的な視点から関わることができる薬局であってほしいと思います。

薬局が地域のすべての問題を解決する必要はありません。

しかし、薬局に相談することで、問題の見方が変わることはあります。

「薬が関係しているかもしれない」

この一つの視点を地域の多職種連携に加えることが、患者の生活を支える新たな可能性につながると考えています。


参考資料

  1. 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編・各論編)」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73989.html
  2. Montero-Odasso M, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age and Ageing. 2022;51(9).
    https://doi.org/10.1093/ageing/afac205
  3. McNab D, et al. Systematic review and meta-analysis of the effectiveness of pharmacist-led medication reconciliation in the community after hospital discharge. BMJ Quality & Safety. 2018;27(4):308–320.
    https://doi.org/10.1136/bmjqs-2017-007087
  4. Seppälä LJ, et al. Medication reviews and deprescribing as a single intervention in falls prevention: a systematic review and meta-analysis. Age and Ageing. 2022;51(9).
    https://doi.org/10.1093/ageing/afac191
  5. European position paper on polypharmacy and fall-risk-increasing drugs: recommendations in the World Guidelines for Falls Prevention and Management.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10447263/
👉【note版】

10/18/2026

多職種から見た薬局――期待は高いのに、なぜ連携できないのか?

 多職種から見た薬局――期待は高いのに、なぜ連携できないのか?

7つの立場から考える薬局の未来

30秒で読む要約

薬局の薬学的情報は、医師やケアマネジャーには高い割合で共有されている一方、看護職・介護職への報告書の共有には偏りがある。ケアマネジャーは薬剤師にも相談しているが、検索エンジンを使う割合の方が高い。問題は、薬局の専門性そのものだけではなく、その情報が現場で使える形で届いているかという点にある。



1.薬局は「連携している」。では、その情報は使われているのか?

地域包括ケア、在宅医療、多職種連携。

薬局の役割を語る際、これらの言葉は日常的に使われるようになった。

実際に、薬局では在宅訪問、残薬管理、服薬フォローアップ、医療機関への情報提供など、多くの活動が行われている。

しかし、薬局が情報を発信したことと、受け取った相手がその情報を活用できたことは同じではない。

例えば、医師には薬剤の変更理由が伝わっていても、利用者(患者)の服薬を日常的に支える介護職には伝わっていないかもしれない。

また、薬局が専門的な薬学情報を提供していても、ケアマネジャーが生活支援の判断に使いにくい場合もある。

多職種連携を考えるうえで重要なのは、情報を何件提供したかだけではない。

必要な情報が、必要な相手に、使える形で届いているか。

この問いを、本連載の出発点とする。


厚生労働科学研究が示した情報共有先の偏り

厚生労働科学研究費補助金による2022年度研究「薬学的視点を踏まえた自立支援・重度化防止推進のための研究」(研究代表者:溝神文博、国立長寿医療研究センター薬剤部)では、訪問薬剤管理指導に関する情報共有の実態が調べられた。

薬剤師向けアンケートには1,196人が回答した。

訪問薬剤管理指導の報告書を共有している相手は、次のとおりである。

医師やケアマネジャーに比べ、看護職や介護職への報告書共有割合は低い。

ただし、この数値は薬剤師側の報告書送付行動を示したものであり、他職種が薬局を信頼しているか、頼りにしているかを測定したものではない。

また、訪問看護や訪問介護を利用していない患者が分母に含まれている可能性もある。共有の必要がなかったケースと、必要なのに共有されなかったケースを、この集計だけで区別することはできない。

それでも、薬学情報がどの職種に届けられているかを見直す重要な資料である。

同じ研究では、医師、看護職、ケアマネジャーなど567人にもアンケートを実施した。

薬剤師が在宅患者訪問薬剤管理指導で行っている業務を把握している人は71.1%だった。

追加してほしい業務としては、処方見直し、生活状況の聞き取り、他医療機関の処方情報の把握などが挙げられている。

つまり、薬局の機能が全く知られていないわけではない。

一定の認知がある一方で、他職種が必要とする情報や業務との間には、なお改善の余地がある。



2.7つの立場から見た薬局

【図1:7つの立場から見た薬局――期待と情報共有の課題】

本連載では、次の7つの立場から薬局を考える。

在宅医、訪問看護師、ケアマネジャー、医師(外来・かかりつけ医)、病院地域連携室、介護職、薬局薬剤師である。

ここでいう「在宅医」は、患者宅への訪問診療を担う医師を指す。「医師(外来・かかりつけ医)」は、主に外来診療や継続的な診療を通じて薬局と関わる医師を指す。両者の役割は重なることもある。

また、薬局薬剤師は他職種ではない。本連載では、6つの医療・介護の立場と、薬局自身の自己点検を組み合わせて、7つの視点とする。

① 在宅医:診察だけでは分からない服薬状況

在宅医療では、患者の服薬状況や生活環境が、処方判断に影響する。

処方された薬が実際に飲まれているか、残薬がないか、副作用が疑われる変化がないか。

薬剤師による情報提供は、医師が薬物療法を再評価する際の判断材料になり得る。

2026年度改定では、医師と薬剤師の同時訪問に対する評価が新設された。制度の詳細は第5章で整理する。

② 訪問看護師:生活上の変化を薬学的評価につなげたい

訪問看護師は、利用者(患者)の身体状態や生活の変化を継続的に観察している。

ふらつき、日中の眠気、食欲低下、便秘などは、薬剤の影響を検討するきっかけになる場合がある。

ただし、これらの症状の原因は薬だけではない。脱水、感染症、原疾患の変化なども考慮する必要がある。

看護師の観察情報を薬剤師が評価し、必要に応じて医師の診療につなぐことが重要になる。

③ ケアマネジャー:薬の情報を生活支援に使いたい

2024年8月3日~13日に、くすりの適正使用協議会とインターネットインフィニティーが共同実施した調査では、ケアマネジャー547人が回答した。

医薬品情報を調べる方法は次のとおりだった。

人に尋ねる手段の中では薬剤師が最も多い。一方、検索エンジンを利用する割合には及ばない。

薬剤師が相談先として選ばれていないと断定するのは適切ではない。

むしろ、薬剤師への相談をさらに利用しやすくする余地があると考えられる。

同調査では、医薬品情報について「専門的な表現が多く理解が難しい」が37.8%、「情報量が多く読む気になれない」が27.6%、「どの情報が正しいのか分からない」が26.9%だった。

ケアマネジャーが必要とするのは、薬の説明だけでなく、生活支援に使える情報でもある。

④ 医師(外来・かかりつけ医):診療に役立つ情報がほしい

外来診療や継続的な診療を担う医師にとって、薬局は患者の服薬状況を把握する重要な接点となる。

複数医療機関からの処方、飲み忘れ、自己判断による中止、残薬などは、診察時に十分把握できない場合がある。

薬局からの情報提供では、薬剤名の列挙だけでなく、確認された問題と診療上の判断に必要な情報を整理することが重要になる。

⑤ 病院地域連携室:退院後も情報が途切れないようにしたい

入院中には、薬の追加、中止、用法用量の変更が行われる。

退院後、その変更理由が地域側に伝わらなければ、服薬管理に混乱が生じる可能性がある。

病院薬剤師と薬局薬剤師の情報共有は重要である。

さらに、訪問看護師やケアマネジャー、介護職にも、必要な情報が届くことが望ましい。

退院時の薬剤情報を、地域の生活支援につなげることが課題となる。

⑥ 介護職:安全に服薬を支援したい

介護職は、利用者(患者)が実際に薬を服用する場面に関わることがある。

薬の飲み忘れ、取り違え、服薬拒否、嚥下困難など、現場にはさまざまな問題がある。

薬局が正しく調剤しただけでは、服薬支援の安全性が確保されたとは限らない。

介護職が気づいた変化を薬剤師に相談でき、薬剤師からも必要な注意事項が伝わる関係が重要になる。

⑦ 薬局薬剤師:自分たちの連携を点検する

薬局薬剤師自身にも、見直すべき課題がある。

情報を送ったことで連携が完了したと考えていないか。

相談窓口は他職種に分かるようになっているか。

患者の生活上の問題を、薬学的評価に取り込めているか。

薬局の専門性を相手が活用できる状態になっているかを点検する必要がある。



3.薬局の専門性が多職種の課題解決につながらない3つの壁

【図2:薬局の専門性が多職種に届かない3つの構造的要因】

第一の壁:薬局に相談できる内容が具体的に分からない

薬剤師が残薬調整、服薬状況の確認、副作用の評価、処方提案などに関与できることは、他職種に十分伝わっているだろうか。

単に「薬のことは薬剤師へ」と説明するだけでは、相談が生まれにくい。

どのような問題を相談できるかを、具体的に示す必要がある。

第二の壁:薬学情報と生活情報の言葉が異なる

薬剤師は、相互作用、アドヒアランス、起立性低血圧などの専門用語を使う。

一方、介護職やケアマネジャーは、「薬が余る」「立つとふらつく」「昼間に眠る」といった生活上の変化を見ている。

両者の情報は密接に関連するが、そのままでは結びつかない場合がある。

専門性を損なわず、相手が判断や行動に使える情報へ変換することが重要である。

第三の壁:連携が個人の関係に依存している

顔見知りの医師や看護師とは連携できても、担当者が変わると情報共有が途切れることがある。

継続的な連携には、相談窓口、連絡方法、情報共有の範囲、役割分担などを明確にする必要がある。

連携を個人の努力だけに依存させないことが求められる。



4.「何件連携したか」から「何が改善したか」へ

薬局の活動を評価する際には、在宅訪問件数、服薬情報提供件数、会議参加件数などが使われる。

これらは活動量を把握するための指標として重要である。

しかし、活動件数が増えたことだけで、患者や他職種にとっての成果が改善したとは判断できない。

例えば、薬局が情報提供した結果、医師の処方判断に役立ったか。

ケアマネジャーが服薬管理上の課題を把握しやすくなったか。

介護職が利用者(患者)の服薬を安全に支援しやすくなったか。

こうした変化も評価対象となる。

経営管理の観点では、活動量を示すアウトプットに加え、患者や現場に生じた変化を示すアウトカムを見る必要がある。

ただし、連携の増加が転倒や再入院の減少を直接もたらすと断定することはできない。

患者の状態や介入内容を踏まえた検証が必要である。



5.2026年度診療報酬改定は何を評価したのか?

2026年度診療報酬改定では、医師と薬剤師による在宅患者への同時訪問が新たに評価された。

保険薬局側の「訪問薬剤管理医師同時指導料」は150点、医療機関側の「訪問診療薬剤師同時指導料」は300点で、いずれも6月に1回の評価である。

保険薬局側の対象は、個人宅への訪問を前提とした在宅患者訪問薬剤管理指導料1などを算定する患者である。

同時訪問する医師は、在宅時医学総合管理料を算定する医療機関に所属し、当該患者の主治医であることが求められる。

また、特別調剤基本料Bを算定する薬局は対象外となる。医療機関側では施設入居時等医学総合管理料の対象患者は除外され、所定の要件を満たせば処方変更がなくても算定できる。

同日算定の制限などもあるため、実際の請求では告示・通知を確認する必要がある。

この評価は、在宅医療におけるポリファーマシー対策や残薬対策を推進する政策目的を持つ。

医師と薬剤師が患者宅で共同して薬物療法を検討することを、制度上評価した点に意義がある。



6.多職種連携は薬局の経営価値につながるのか?

多職種連携には、薬剤師の時間、移動、情報共有、研修などの費用がかかる。

社会的意義だけでなく、経営として継続できるかという視点も必要である。

同時訪問の報酬単体では大きな収益にならない

訪問薬剤管理医師同時指導料は150点で、6月に1回の算定である。

仮に同一患者について年2回、要件を満たして算定した場合、年間300点となる。

1点10円で換算すると、年間約3,000円である。

これは、同指導料だけを計算した金額であり、訪問に伴う人件費や移動費を差し引いた利益ではない。

薬剤師の移動や調整に多くの時間を要する場合、この報酬だけで費用を回収することは難しいと考えられる。

経営価値は間接効果も含めて考える

一方、多職種連携の経営上の価値は、個別の報酬だけでは測れない。

例えば、次のような間接効果が考えられる。

■ 在宅医からの相談・紹介機会が増え、在宅患者の受け入れにつながる可能性

■ 処方元医療機関との情報共有が進み、継続的な協力関係が形成される可能性

■ 施設や介護事業所から、薬の相談先として選ばれる可能性

ただし、これらは経営上の仮説であり、連携を行えば必ず患者紹介や増収につながるという意味ではない。

紹介件数、在宅患者数、連携先の継続率、業務時間、費用などを分けて把握し、効果を検証する必要がある。

【図3:多職種の課題解決から薬局の経営価値へ】



想定反論:多職種連携は本当に必要なのか?

経営者の反論:同時訪問は6か月に1回150点。薬剤師を半日拘束する人件費に見合わない。

この指摘は妥当である。報酬単体で採算を考えれば、実施に慎重になる必要がある。

一方、在宅医との協力関係や今後の患者受け入れなど、間接的な効果が生まれる可能性もある。

そのため、全患者に一律に実施するのではなく、薬学的な必要性が高く、連携の効果を見込める患者を対象に検討することが合理的である。

他職種の反論:薬局の言う連携は、報告書を一方的に送ってくるだけではないか。

この指摘こそ、本記事が扱う問題である。

情報を送るだけでは、相手が使えるとは限らない。

他職種が必要とする情報を把握し、判断や行動に使える言葉で伝えること、相談先を明確にすることが重要になる。



7.本連載で考える8つのテーマ

本連載では、6つの医療・介護の立場と薬局自身の自己点検を通じて、薬局の役割を考える。

■ 第1部:退院後の異変を見逃さない――薬と生活をつなぐ退院支援

■ 第2部:ケアマネが薬局に相談したくなるとき――残薬・服薬・生活課題

■ 第3部:訪問看護師が求める薬剤師の力――症状変化と薬のリスク

■ 第4部:在宅医が頼りたくなる薬局――処方提案と診療負担の軽減

■ 第5部:介護現場の薬の事故を防ぐ――施設・介護職との協働

■ 第6部:病院と地域薬局の情報断絶をなくす――薬薬連携から地域連携へ

■ 第7部:看取りまで支える薬局――緩和ケアと人生の最終段階

■ 第8部:連携を仕組みに変える――ICT・AI・業務設計と経営価値



私見:薬局は「情報を出したか」ではなく「役に立ったか」を問う時代へ

私は、これからの薬局経営では、処方箋枚数だけでなく、地域の医療・介護関係者からどれだけ必要とされているかを重視すべきだと考えている。

薬局が正確に調剤し、服薬指導を行うことは、これからも重要な基本機能である。

しかし、その専門性が地域の課題解決に使われなければ、薬局の価値は十分に伝わらないのではないだろうか。

ケアマネジャーが薬の問題で困ったとき、相談できる薬局。

訪問看護師が患者の変化に気づいたとき、一緒に薬の影響を検討できる薬剤師。

在宅医が処方を見直す際に、生活実態を踏まえた情報を提供できる薬局。

私は、こうした関係こそ、地域医療における薬局の存在価値を高めると考えている。

もちろん、連携によって信頼が高まったとしても、それが自動的に利益へ転換されるわけではない。

地域貢献と経営の持続可能性を両立させるためには、活動の成果と費用を検証し続ける必要がある。

「連携しています」と説明する薬局から、「必要なときに役立つ情報を届けてくれる薬局」へ。

この転換を、本連載を通じて考えていきたい。


今月やること

  • 自薬局の報告書・情報提供の送付先を職種別に集計する。
  • 連携先のケアマネジャーに、相談窓口と連絡方法を1枚にまとめて伝える。
  • 医師との同時訪問が薬学的に必要な患者を洗い出し、算定要件を確認する。
  • 情報提供が相手の判断や行動に役立った事例を1件確認する。


次回予告

第1部・第1回:退院後に増える「認知症の悪化」と「転倒」――その原因は薬かもしれない

退院後に急に物忘れがひどくなった、昼間に眠ることが増えた、転倒が続くようになった。

その原因は認知症の進行だけとは限らない。

薬剤の影響を含む複数の可能性を考えながら、医療・介護の連携を取り上げる。


参考資料

  1. 厚生労働科学研究成果データベース「薬学的視点を踏まえた自立支援・重度化防止推進のための研究」(2022年度、研究代表者:溝神文博、文献番号202216010A)
    https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/163595
  2. くすりの適正使用協議会・インターネットインフィニティー「医薬品情報に関するアンケート」(2024年8月3日~13日実施、同年10月16日公表)
    https://www.rad-ar.or.jp/finder/release/release-2024-10-16.pdf
  3. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001666323.pdf
  4. 厚生労働省「診療報酬の算定方法」(厚生労働省告示第59号、改正後の規定を含む)
    https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9729&dataType=0&pageNo=31

※調査ごとに対象、設問、集計方法が異なるため、異なる調査の割合を直接比較して因果関係を判断することはできない。


連載「多職種から見た薬局」について<予定>

医師・訪問看護師・ケアマネジャー・介護職など、7つの立場から薬局への期待と現実を考える連載を始めます。

noteマガジンでは、退院支援、残薬管理、転倒予防、在宅医療、看取りなど、現場で起きている具体的な問題を掘り下げます。

薬局経営者・薬剤師だけでなく、医療・介護に携わる皆さんにも読んでいただきたいシリーズです。

▶ noteマガジン「薬局の情報は、介護の現場まで届いているか?」

▶ noteマガジン「多職種から見た薬局」<予定>

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