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10/29/2026

「薬は飲んでいます」と言うのに残薬が増える ――ケアマネが確認したい3つのこと 多職種から見た薬局|第2部 ケアマネジャー編②

 「薬は飲んでいます」と言うのに残薬が増える

――ケアマネが確認したい3つのこと

多職種から見た薬局|第2部 ケアマネジャー編②

薬が届かない、暮らしに合わない、本人が望まない。春日井モデルの3症例から考える服薬支援

30秒で読む要約

「薬は飲んでいます」

本人はそう話すのに、訪問するたびに残薬が増えている。

そんなとき、ケアマネジャーが確認したいのは、単なる飲み忘れの有無ではありません。

①薬は手元に届いているか、②飲み方は暮らしに合っているか、③本人は薬をどう考えているか。

2023年1月に行われた春日井モデルの多職種症例検討会には、この3つの視点を考える手がかりがあります。

認知症の夫婦、結核治療中の独居男性、多剤服用の高齢男性。それぞれの課題は異なりますが、共通するのは、薬の問題を薬だけで解決することの難しさです。

さらに、薬剤師もケアマネジャーから生活情報を聞き取りやすいよう、質問のしかたを工夫できるのではないでしょうか。

1.「飲んでいます」は、本当かもしれない

「お薬は、ちゃんと飲めていますか?」

ケアマネジャーが尋ねると、利用者は「はい、飲んでいます」と答える。

ところが、薬袋には前回の薬が残り、お薬カレンダーにも飲まれていない薬がある。

こんな場面に出会うことがあります。

しかし、本人が嘘をついているとは限りません。

朝の薬は飲んでいる。気が向いたときには飲んでいる。症状があるときには飲んでいる。

本人にとっては、それも「薬を飲んでいる」なのかもしれません。

認知機能の低下によって、実際の服薬状況を把握できていない場合もあります。

大切なのは、本人の言葉を否定することではなく、どのような生活の中で、どの薬を、どのように飲んでいるのかを確認することです。

ケアマネジャーは薬の専門家ではありません。しかし、生活を知る専門家です。

その生活情報が、薬剤師の薬学的評価に欠かせない手がかりになることがあります。

2.ケアマネが確認したい3つのこと

① 薬は手元に届いているか

薬が飲めない理由は、飲み忘れだけではありません。

受診できない。処方箋を薬局へ持っていけない。薬を受け取る人がいない。

こうした問題は、服薬する前の段階で起きています。

確認したいのは「最後に受診したのはいつか」「誰が薬を受け取っているか」「薬がなくなったらどうしているか」です。

薬が届くまでの流れが途切れていれば、一包化やお薬カレンダーだけでは解決できません。

② 飲み方は暮らしに合っているか

「朝食後」と指示されていても、朝食を食べない人がいます。

デイサービスの日と自宅で過ごす日では、生活時間が異なることもあります。

包装を開けることが難しい、薬の置き場所が使いにくいといった問題もあります。

確認したいのは、起床・食事の時間、薬の保管場所、誰が薬を準備するか、どの時間帯に残りやすいかです。

ただし、服用時点の変更には薬学的な確認が必要です。ケアマネジャーや介護職が独自に変更してはいけません。

③ 本人は薬をどう考えているか

薬を飲まない理由には、本人の考えや経験が関係することもあります。

「飲んでも効果が分からない」

「飲むと具合が悪くなる気がする」

「薬よりも、自分の好きな生活を優先したい」

こうした言葉を、単なる服薬拒否として片づけてよいのでしょうか。

確認したいのは「何のための薬だと思っているか」「飲んで困ったことはないか」「本人は治療をどう考えているか」です。

本人が薬の副作用を疑っていても、実際に薬が原因とは限りません。薬剤師や医師による評価が必要です。

一方で、本人の意思を無視して服薬だけを強制することも適切ではありません。

薬の必要性と本人が大切にしている生活を、両方考えることが重要です。

3.春日井モデルの3症例から見えたこと

2023年1月14日、名古屋市立大学大学院薬学研究科臨床薬学教育研究センター主催の共同研究企画として、「地域医療連携を活性化する『春日井モデル』構築」の研修・症例検討会が開催されました。

主任介護支援専門員の纐纈光幸氏による講演では、ケアマネジャーが直面する服薬支援の難しさと、本人の意思決定支援の重要性が取り上げられました。

ここでは、当日の事例資料と、その後の対応を整理した資料に基づいて紹介します。

※症例は研修資料に基づき、記事の主題に必要な範囲に要約しています。研修資料に記載された経過と筆者の考察は区別しています。

症例① 認知症の夫婦――薬が届かない

70代後半の夫婦。夫には前頭側頭型認知症があり、妻にも脳血管疾患などの既往がありました。

夫には訪問看護、妻には訪問介護が入っていましたが、夫が支援者の訪問を受け入れないこともあり、十分な対応が難しい状況でした。

ある日、妻が薬局へ持参した処方箋の日付は約1か月前でした。

ここで問題となったのは、単なる飲み忘れではありません。

受診し、処方箋を薬局へ届け、薬を受け取り、家で管理する。その一連の流れが安定していなかったのです。

なお、薬局の薬剤師は、それ以前から夫のことを「地域の心配な方」として地域包括支援センターに情報提供していました。

事後の対応まとめによると、病院地域連携室と薬局への相談、訪問薬剤管理指導の依頼、一包化の調整、薬剤師のサービス担当者会議への参加などが行われました。

薬を自宅に届ける案もありましたが、自宅に届けるだけでは管理が難しいため、最終的に訪問看護が薬の受け取りを担当する形になったと記載されています。

また、介護タクシーを利用した受診支援や次回予約の確保も進められました。

注目したいのは、薬を届けることと、薬を管理できることは同じではないという点です。

薬局だけでも、ケアマネジャーだけでも解決しにくい問題でした。

服薬支援は、受診や薬の受け取りを含めた生活支援でもあるのです。

そして、薬局の窓口は、地域で支援を必要としている人に早い段階で気づく場所にもなり得ます。

症例② 結核治療中の独居男性――毎日の服薬を誰が支えるか

70代後半の男性は、肺結核の治療を受け、退院後も服薬継続が必要でした。

保健所からDOTSによる服薬支援が求められていましたが、本人は治療の必要性を認識している一方、毎日の確実な服薬と記録に積極的とはいえない状況でした。

そこで、保健所、地域包括支援センター、訪問看護、薬剤師、配食サービスなどが関わり、曜日ごとの服薬確認体制が組まれました。

事後まとめによると、退院2か月後には要介護2となり、支援体制が変更されています。

曜日

当初の体制

退院2か月後

月

保健所

保健所

火

地域包括支援センター

ヘルパー

水

訪問看護

訪問看護

木

配食サービス

ヘルパー

金

薬剤師

薬剤師

土

配食サービス

訪問看護

日

配食サービス

配食サービス

表1:研修後の「対応したことのまとめ」に記載された服薬確認体制を再構成。

実際の確認方法や記録管理の詳細を示すものではありません。

この症例には、もう一つ重要な出来事がありました。

退院から約2週間後、手の甲や太ももなどに発疹が出現しました。

本人が軟膏を希望し、ケアマネジャーが薬局の薬剤師へ相談しています。

当初、支援者側では清潔保持が難しい生活環境や真菌感染なども考えられていました。

しかし、事後まとめには、入院後に「膿疱型薬疹」と診断され、処方が変更されたことが記載されています。

ここで注意したいのは、発疹の原因を生活環境だけで判断しないことです。

薬剤による有害反応も鑑別に含め、服用薬や症状の経過を医療者に伝える必要があります。

発熱、粘膜症状、水疱、皮膚の痛みなどを伴う場合には、重症薬疹の可能性もあるため、速やかな医学的評価が必要です。

この事例は、服薬を続ける支援だけでなく、服薬中の異変を発見する連携の重要性も示しています。

症例③ 80代の独居男性――薬をまとめても飲まない

80代の男性には、糖尿病、高血圧、慢性心不全など複数の疾患がありました。

定期内服薬は10種類。服用時点は昼食後の1回にまとめられていました。

お薬カレンダーも用意されていました。

それでも、本人はカレンダーから薬を取り出すのが面倒で、気が向いたときに服薬していたと記載されています。

一方、鼻水が出れば鼻水止めは飲んでいました。

つまり、薬を取り出す能力だけでなく、本人にとっての薬の必要性や優先順位も関係している可能性があります。

研修資料では、本人が買い物や身の回りのこと、趣味の将棋などを続けていることも示されています。

支援を増やすことは、経済的な事情や本人の意向から難しい状況でした。

事後まとめでは、受診や服薬について関係機関で共有すること、そして本人が受診や服薬をどこまで望んでいるのかという問いが残されています。

この症例について、服薬が改善したという結果は資料に示されていません。

しかし、それも重要な事実です。

服薬の問題には、管理方法を工夫するだけでは答えが出ない場合があります。

本人の生活や意思を理解しながら、治療の必要性を検討し続けることが求められます。

【図2:春日井モデルの3症例から学ぶ服薬支援】

4.3症例に共通するのは「薬の前に生活がある」ということ

3つの症例を並べると、課題の違いが見えてきます。

症例

表面に見える問題

生活の中にある課題

認知症の夫婦

処方薬を受け取れない

受診、受け取り、支援の受け入れ

結核治療中の男性

毎日の服薬確認が難しい

支援体制、本人の意欲、体調変化

多剤服用の男性

カレンダーを使っても飲まない

本人の考え、生活習慣、支援の限界

薬を整理するだけでは解決できない問題があることが分かります。

だからこそ、ケアマネジャーの生活情報と薬剤師の専門性を組み合わせる必要があります。

 

5.薬剤師への相談は「残薬があります」からもう一歩

ケアマネジャーが薬局へ相談するとき、薬の専門用語は必要ありません。

例えば、

「昼の薬が余っています」

という情報だけでも、相談のきっかけになります。

しかし、

「昼の薬が余っています。本人は昼食を食べない日が多く、デイサービスの日は飲めているようです」

と伝えれば、薬剤師は生活リズムと服用時点の関係を検討できます。

また、

「薬を飲みたがりません」

という情報に加えて、

「本人は『飲むとふらつく気がする』と話しています。実際にふらつきが増えたかは確認できていません」

と伝えれば、薬剤師が薬との関連を評価する手がかりになります。

大切なのは、次の3つを分けて伝えることです。

  1. 見たこと――実際に確認した残薬や生活状況
  2. 聞いたこと――本人や家族が話した内容
  3. 分からないこと――未確認の事項、相談したい疑問

ケアマネジャーが原因を判断する必要はありません。

薬剤師は、その情報をもとに薬学的評価を行い、必要に応じて医師や訪問看護師と対応を検討します。

なお、急激な体調悪化、意識障害、重度のふらつきなどがある場合には、通常の情報共有よりも緊急の医療対応を優先します。

6.情報共有の道具を、どう活用するか

春日井モデルの研修では、居宅療養管理指導報告書、連絡ノート、ICTを活用した情報共有が紹介されています。

連絡ノートは、ケアマネジャーの事業所が休みの日でも情報を引き継げる手段として紹介されました。

ICTについても、地域の連絡帳を活用する取り組みが示されています。

ただし、どの道具を使っても、相手が情報を確認し、必要な対応を取らなければ意味がありません。

重要なのは、誰が何を確認し、どの職種へ伝えるのかを決めておくことです。

患者情報の共有には、本人の同意や適切な情報管理も欠かせません。

7.2026年度調剤報酬改定――残薬の発見を、具体的な対応につなげる

2026年度調剤報酬改定では、残薬を確認し、処方医との調整を通じて調剤日数を変更する取り組みを評価する「調剤時残薬調整加算」が新設されました。

対象となるのは、調剤管理料を算定する患者で、飲み残しや飲み忘れによる残薬が確認された場合です。

原則として、処方医の指示または照会結果に基づき、7日分以上相当の調剤日数を変更することなどが要件となります。薬剤師が必要と判断した場合には、所定の条件のもとで6日分以下の変更も対象となります。

点数は、在宅患者への対応やかかりつけ薬剤師による調整など、所定の区分に応じて50点または30点です。

ただし、残薬を見つけたり、薬局へ連絡したりするだけで加算が算定できるわけではありません。

また、残薬への対応は調剤報酬だけの問題ではありません。

2026年度改定では、処方箋の様式も見直され、医師の事前指示に基づく残薬調整と情報提供を行う仕組みが整えられました。

訪問看護では、残薬を含む服薬状況の把握が運営基準で明確化され、利用者の同意を得て薬局へ情報提供することが望ましいとされました。

こうした制度の方向性からも、生活の場で発見された残薬情報を薬局へ届け、薬剤師が薬学的に評価し、必要に応じて処方医と調整することが重要です。

なお、本記事で提案する「ケアマネが確認したい3つのこと」は、加算の算定要件ではありません。

目的は点数の算定ではなく、患者が安全に治療を継続できるよう、生活と薬物療法を調整することです。

8.筆者の私見――薬剤師も「聞き方」を変えてみてはどうだろうか

ここからは、研修資料や制度を踏まえた筆者の考察です。

私は、残薬を単なる飲み忘れの結果として扱うのは、もったいないと考えています。

残薬は、医療者が想定している服薬方法と、患者の実際の生活が合っていないことを知らせる情報かもしれません。

薬剤師は処方箋から、薬の名前、量、服用時点を把握できます。

しかし、その人が普段何時に起き、どのように食事をし、薬をどこに置き、服薬をどう感じているのかは、処方箋だけでは分かりません。

一方、ケアマネジャーは生活の情報を持っていますが、薬の変更による影響を判断する立場ではありません。

だからこそ、互いの情報をつなぐ必要があります。

「服薬状況はどうですか?」だけで十分だろうか

例えば、薬剤師がケアマネジャーに「服薬状況はどうですか?」と尋ねたとします。

質問が漠然としているため、何を答えればよいか迷うかもしれません。

しかし、

「最後に訪問されたとき、お薬カレンダーにはどの時間帯の薬が残っていましたか?」

と聞けば、具体的な場面を思い出しやすくなる可能性があります。

また、

「なぜ薬を飲まないのでしょうか?」

と尋ねるより、

「薬について、ご本人は何か話されていましたか?」

と聞く方が、本人の言葉を共有してもらいやすいかもしれません。

ケアマネジャー自身が残薬を確認していなければ、ヘルパーや訪問看護師など、普段の生活場面を見ている職種に確認を依頼できるか尋ねる方法もあります。2026年度改定では、訪問看護の運営基準において、残薬を含む服薬状況の把握が明確化されています。

ここでヒントになるのが、認知心理学や対人コミュニケーションの考え方です。

記憶を思い出す際には、具体的な手がかりが役立つ場合があります。また、相手を責めたり評価したりせずに話を聞くことは、対話を進めるうえで大切です。

私は、こうした考え方を多職種連携にも応用できるのではないかと思います。

ただし、今回紹介した質問法が、薬剤師とケアマネジャーの情報共有を実際にどの程度改善するかについては、別途検証が必要です。

これは実証済みの効果ではなく、筆者の実践提案です。

生活を知る人と、薬を知る人

私は、ケアマネジャーに薬学的判断を求めるのではなく、薬剤師が評価に必要な生活情報を聞き取れるよう工夫することが重要だと考えます。

薬剤師の専門性は、薬について詳しく説明できることだけではありません。

相手が持っている情報から薬学的に重要な事実を見つけ、患者の支援につなげることも、専門能力の一つではないでしょうか。

そして、その過程では患者本人の考えを置き去りにしてはいけません。

春日井モデルの研修で取り上げられた「患者さんと一緒に考える」という姿勢は、薬剤師にも共通するものだと思います。

一包化も、お薬カレンダーも、訪問による薬学的管理も、目的ではなく手段です。

何を使えば飲めるかを考える前に、なぜ飲めないのか、本人はどうしたいのかを知る。

そこから、よりよい服薬支援が始まるのではないでしょうか。

9.まとめ――今月、1人の利用者から始める

「薬は飲んでいます」

その言葉を聞いたら、もう一つ質問を加えてみてください。

「普段、どんなふうに飲んでいますか?」

そして、次の3つを確認します。

  • 薬は手元に届いているか
  • 飲み方は暮らしに合っているか
  • 本人は薬をどう考えているか

薬局へ相談するときには、「見たこと」「聞いたこと」「分からないこと」を分けて伝えてみてください。

薬剤師も、生活の場面を具体的に尋ねる質問を工夫してみてください。

ケアマネジャーが生活を伝え、薬剤師が薬学的に評価し、医師や訪問看護師などと一緒に対応を考える。

そして、その中心には患者本人と家族がいます。

薬局とケアマネジャーの連携は、大きな会議からではなく、こうした日常の情報共有から始められるはずです。

次回予告|第2部③

「一包化しても薬が飲めないのはなぜ?」――服薬管理の前に生活を見直す

薬を一包化し、お薬カレンダーも用意した。それでも薬が残ってしまう。

次回は、服薬支援の道具と実際の生活とのずれに焦点を当て、薬を管理する前に見直したいことを考えます。


参考資料

  1. 纐纈光幸「患者さん・利用者さんとともにチームの一員として」(2023年1月14日、春日井モデル共同研究企画、非公開研修資料)
  2. 同研修「対応したことのまとめ」(非公開資料)
  3. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
  4. 厚生労働省「残薬調整を実施した場合の評価」
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001684593.pdf
  5. 厚生労働省「残薬対策に関する主な改定項目」
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf
  6. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 14. 重点的な対応が求められる分野(医薬品適正使用)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001696833.pdf
  7. 厚生労働省「結核患者に対するDOTS(直接服薬確認療法)の推進について」
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/16112501.pdf

 

※   症例は関係者の了承を得た研修資料に基づき、個人が特定されないよう必要な範囲で要約しています。筆者の私見における質問設計は、心理学・コミュニケーションの考え方を参考にした実践提案であり、その効果を実証したものではありません。

 

👉【note版】:多職種から見た薬局|第2部 ケアマネジャー編② 「薬は飲んでいます」なのに残薬が増える――ケアマネが確認したい3つのこと

10/28/2026

「ケアマネの88.5%が薬をネット検索」――なぜ薬剤師に聞かないのか? 多職種から見た薬局|第2部 ケアマネジャー編①

 「ケアマネの88.5%が薬をネット検索」――なぜ薬剤師に聞かないのか?

多職種から見た薬局|第2部 ケアマネジャー編①

「この薬は何のために飲んでいるのだろう?」

「最近、転ぶことが増えたけれど、薬が関係しているのだろうか?」

利用者の暮らしを支えるケアマネジャーは、日々の支援の中で薬に関する疑問に出会います。

その疑問を調べるとき、誰を頼っているのでしょうか。

2024年8月、ケアマネジメント・オンライン会員547人を対象に行われた調査では、医薬品情報を調べる方法として、88.5%がインターネットの検索エンジンを挙げました。

一方、**薬剤師に尋ねると回答した割合は29.6%**でした。

この数字を見て、「なぜ薬剤師に聞かないのか」と感じる人もいるかもしれません。

しかし、問いを反対にしてみましょう。

薬剤師は、ケアマネジャーにとって本当に相談しやすい専門職になっているのでしょうか。

なお、この調査は複数回答です。ネット検索と薬剤師への相談は両立します。また、特定の会員を対象としたWEB調査であり、ケアマネジャー全体を代表する数値ではありません。

1.薬の問題を最初に見つけるのは、薬剤師とは限らない

ケアマネジャーの専門性は、利用者の暮らしを総合的に把握し、必要な支援を調整することです。

薬を処方することも、薬学的な評価を行うことも、本来の役割ではありません。

しかし、生活の中で起きる変化には、ケアマネジャーだからこそ気づけるものがあります。

例えば、薬が大量に余っている。退院後に服薬管理が難しくなった。最近、ふらつきが増えた。本人が薬を飲みたがらない。家族が薬の管理に疲れている。

こうした変化は、必ずしも薬が原因ではありません。

だからこそ、生活情報を持つケアマネジャーと、薬学的評価を行う薬剤師が協働する意味があります。

ケアマネジャーが気づいた変化を薬剤師に伝える。薬剤師は薬の影響を評価し、必要に応じて医師や訪問看護師などと情報を共有する。

その役割分担が機能すれば、利用者を支える選択肢は増えるはずです。

2.医薬品情報は、どこから入手しているのか

2024年の調査では、医薬品情報を調べる方法として、次の回答が得られました。

インターネット検索は便利です。必要なときに、すぐに情報を探せます。

しかし、検索で得られる一般的な薬の説明が、目の前の利用者にそのまま当てはまるとは限りません。

同じ調査では、医薬品情報を調べる際の困りごととして、「専門的な表現が多く、理解が難しい」が37.8%、「どの情報が正しいか分からない」が26.9%でした。

例えば、ふらつきの原因を考えるとき、薬の副作用だけでなく、服薬状況、病状、血圧、食事、脱水、生活環境などを確認する必要があります。

検索結果を読んだだけでは、判断できないことがあります。

一般的な薬の情報を知ることと、目の前の利用者の薬を評価することは違うのです。

3.薬剤師に相談しにくい4つの壁

なぜ、薬剤師への相談がもっと広がらないのでしょうか。

ここからは、調査結果と現場の課題を踏まえた筆者の仮説です。

第1の壁:相談先が分からない

利用者が複数の医療機関や薬局を利用している場合、誰に相談すればよいか判断しにくいことがあります。

薬剤師の名前を知っていても、その人が相談窓口なのかは分からないかもしれません。

第2の壁:相談する時間が合わない

ケアマネジャーには訪問や会議があり、薬剤師には調剤や服薬指導があります。

電話をかけても、互いにすぐ対応できるとは限りません。

第3の壁:相談できる範囲が分からない

残薬、飲み忘れ、服薬拒否、ふらつきなどについて、どこまで薬剤師に聞いてよいのか分からない場合があります。

「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という遠慮があるかもしれません。

第4の壁:相談後の流れが見えない

誰が回答し、必要に応じて医師へつなぎ、いつ情報が返ってくるのか。

その流れが不明確だと、次の相談にはつながりにくくなります。

これらの4つの壁は、今回の調査で直接証明された原因ではありません。

しかし、相談窓口、連絡方法、役割分担、回答までの流れを明確にすることで、改善できる可能性があります。

4.春日井モデル――薬を届けるだけでは解決しなかった

2023年1月14日に実施された「春日井モデル」構築共同研究企画の症例検討には、多職種連携を考えるうえで示唆的な事例があります。

認知症のある高齢のご夫婦が、自分たちで生活を続けようとしていました。

あるとき、妻が薬局に処方箋を持参しました。しかし、その処方箋は発行から約1か月が経過していました。

薬局では、一包化や訪問による支援が検討され、薬剤師もサービス担当者会議に参加しました。

ところが、薬を自宅へ届けるだけでは、服薬管理の問題は解決しませんでした。

そこで、訪問看護師が薬を受け取る役割を担う方法が選ばれました。

ここで重要なのは、薬剤師だけで問題を解決したわけではないことです。

l  ケアマネジャーは本人と家族の希望、生活状況、支援の受け入れやすさを把握しています。

l  訪問看護師は自宅での健康状態や服薬状況を確認できます。

l  薬剤師は薬の整理や服薬方法の調整について専門性を発揮します。

それぞれが持つ情報を組み合わせることで、薬局だけでは見つけられなかった支援方法が見えてきたのです。

薬の問題を解決するには、薬だけでなく、薬を使う人の暮らしを見る必要がある。

この事例は、そのことを教えてくれます。

※研修資料に基づき、個人が特定されないよう要約しています。

5.「軟膏が欲しい」という相談の先にあったもの

別の事例では、結核治療中の独居高齢者に対して、複数の職種が曜日を分担して服薬確認を行っていました。

薬剤師は金曜日を担当していました。

その後、本人から皮膚症状に対する軟膏の相談がありました。

生活環境などから皮膚感染症の可能性も考えられていましたが、最終的には入院後、膿疱型薬疹と診断され、処方が変更されました。

ケアマネジャーから薬剤師への相談も行われています。

ただし、薬剤師が薬疹を診断したわけではありません。また、その相談が直接診断につながったと断定できる資料でもありません。

この事例で考えたいのは、本人の「軟膏が欲しい」という訴えを、単なる皮膚の困りごととして処理してよいとは限らないことです。

薬剤師には、薬剤性の可能性も含めて評価し、必要な受診につなぐ役割があります。

生活情報と薬学的な視点を持ち寄ることは、見落としを減らすための一つの方法になり得ます。

6.「そもそも服薬することって?」

もう一つの事例では、服薬を拒む利用者への支援が議論されました。

薬剤師は、薬を適切に使用する方法を考えます。

しかし、ケアマネジャーは、本人が何を望み、なぜ薬を飲みたくないのかという生活や意思の側面にも目を向けます。

服薬拒否の背景には、副作用への不安、服薬負担、病気への考え方、生活上の事情など、さまざまな要因があり得ます。

薬を飲ませることだけを目標にせず、本人の意思を尊重しながら、安全な治療と生活の両立を考えることが重要です。

薬剤師が他職種から学ぶべき視点も、ここにあります。

7.柏市の「顔の見える関係会議」が示すこと

千葉県柏市では、在宅医療・介護に関わる多職種の交流を進める取り組みが行われてきました。

平成26年度第3回「顔の見える関係会議」の参加者に対し、会議終了2か月後に実施された調査では、197人が回答しています。

表1|会議後の変化

これは研修会の効果を測定した数値ではありません。また、比較対照群を設けた研究ではないため、会議による因果効果を示すものではありません。

ただし、会議で生まれた関係が、その後の連絡や協働につながったことを示す参考情報として読むことはできます。

薬局とケアマネジャーの連携を進めるなら、利用者の問題が起きる前に、互いの仕事と連絡先を知る場をつくることが重要ではないでしょうか。

8.相談できる関係をつくる3段階の研修

では、薬局とケアマネジャーの関係をどうつくるか。

私は、単発の講義だけではなく、次の3段階を組み合わせる方法を提案します。

第1段階:基礎編――互いの仕事を知る

まず、ケアマネジャーと薬剤師が、それぞれの役割を理解します。

どのような相談ができるのか。どのような情報が必要なのか。連絡先や返答方法をどうするのか。

相談の入口を具体的にすることが目的です。

第2段階:症例別編――同じ事例を一緒に考える

認知症、退院後の服薬管理、独居高齢者、服薬拒否など、実際の生活課題を多職種で検討します。

ケアマネジャーは生活の視点から、薬剤師は薬学的な視点から、訪問看護師は健康状態と日常の観察から意見を出します。

正解を一つに決めることよりも、互いの視点の違いを理解することが重要です。

第3段階:実践編――相談して振り返る

研修で知り合った関係を、実際の相談につなげます。

例えば、研修後30日、90日の時点で、相談が行われたか、対応上の課題があったかを確認します。

相談件数だけでなく、相談内容、対応までの時間、連携上の問題などを振り返ることも考えられます。

これは筆者の提案であり、効果が実証された標準プログラムではありません。

地域の実情に応じて、実施方法を調整する必要があります。

9.ケアマネジャーから薬剤師に相談してほしい場面

例えば、次のような変化があったときです。

  • 薬が大量に余っている
  • 退院後に薬の管理が難しくなった
  • 薬の変更後に眠気やふらつきが目立つ
  • 本人が薬を拒否している
  • 複数の医療機関から薬が処方されている
  • 市販薬やサプリメントを使い始めた

こうした場面では、薬剤師に相談する意味があります。

ただし、意識障害、呼吸困難、急激な症状悪化などがある場合は、通常の薬局相談を待たず、緊急度に応じた救急対応や医療機関への連絡を優先してください。

また、薬剤師は相談を受けたら、薬だけで結論を出すのではなく、必要に応じて医師や訪問看護師などにつなぐ役割も担います。

10.薬局経営者に問いたいこと

薬局経営者にとって、多職種連携は在宅医療や地域での役割を考えるうえで重要なテーマです。

ただし、研修を開催すれば処方箋が増える、相談件数が増えれば収益が上がる、と単純には言えません。

まず問うべきなのは、地域のケアマネジャーが自分の薬局をどう見ているかです。

薬を渡す場所なのか。

薬について困ったときに相談できる場所なのか。

それとも、利用者の暮らしを一緒に考えられる相手なのか。

私は、この違いが、地域における薬局の存在価値を考えるうえで重要だと思います。

薬剤師の専門性は、薬の知識を持っていることだけではありません。

その知識を、利用者の生活の問題に結びつけ、他職種と協働して活用できることにも価値があります。

まとめ――「なぜ聞いてくれないのか」の前に

88.5%がネット検索を利用し、29.6%が薬剤師に尋ねる。

この数字から、ケアマネジャーの姿勢を批判するのは簡単です。

しかし、薬剤師の側にも考えるべきことがあります。

私たちは、相談してもらえる関係をつくってきたでしょうか。

そして、相談を受けたとき、薬の説明だけでなく、本人の生活と希望まで理解しようとしてきたでしょうか。

多職種連携とは、薬剤師が中心になることではありません。

患者・利用者と家族を中心に、それぞれの専門性を持ち寄ること。

その第一歩は、名刺交換よりも小さなことかもしれません。

「こんなこと、薬剤師に聞いてもいいですか?」

「もちろんです。一緒に考えましょう。」

そんな会話が、地域で当たり前になることを願っています。


参考資料

  1. くすりの適正使用協議会「医薬品情報に関するケアマネジャーへのアンケート」(2024年10月16日公表)
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000202.000012000.html
    発表元:https://www.rad-ar.or.jp/release/post?id=f8ea122b39346316f600008c
  2. 厚生労働省掲載「在宅医療推進 柏プロジェクト」関連資料
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000142951.pdf
  3. 関東信越厚生局「柏市の取組説明資料」
    https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/houkatsu/documents/kashiwasetsumei1.pdf
  4. 「春日井モデル」構築共同研究企画・2023年1月14日研修資料(非公開資料)

※本記事では、調査結果、事例、筆者の仮説・提案を区別して記述しています。


👉【note版】:多職種から見た薬局|ケアマネジャー編① ケアマネの88.5%が薬をネット検索。薬剤師は「相談相手」になれているか?


10/25/2026

 退院後に薬が飲めなくなった――服薬環境の変化を誰が見つける?

多職種から見た薬局|第1部・第4回

「病院では飲めていたんですけどね……」


退院して1週間。

80代の女性Aさんの自宅を訪れたヘルパーは、食卓の隅に置かれた薬の袋が気になりました。

「Aさん、お薬は飲めていますか?」

「ええ、ちゃんと飲んでいますよ」

ところが、薬の袋を確認すると、数日前の朝の薬が残っています。夕食後の薬も、何日分か残っていました。

Aさんは入院中、看護師が準備した薬を問題なく服用していました。退院時にも「薬は自分で管理できる」と話していたそうです。

しかし、自宅に戻ってからは事情が違いました。

朝は食欲がなく、昼食は食べたり食べなかったり。夕食後にはテレビを見ながら眠ってしまうこともあります。

さらに、入院前は夫が薬を準備していましたが、その夫も体調を崩し、現在は施設で療養しています。

ヘルパーはケアマネジャーに報告しました。

「薬がかなり残っています。どうしたらよいでしょうか?」

ここで考えたいことがあります。

Aさんは、本当に「薬を飲み忘れている」だけなのでしょうか。

退院後は、薬の種類や服用方法だけでなく、薬を準備する人、食事の時間、身体機能なども変わることがあります。

Aさんの場合、まず確認すべきなのは、退院前後で何が変わったのかという点でした。

そして、この問題を考えるとき、薬局も相談先の一つになります。

※本事例は、退院後の服薬支援で起こり得る課題を組み合わせた架空事例です。

 

1.病院で飲めた薬が、自宅で飲めなくなる理由

病院と自宅では「薬を飲む環境」が違う

病院では、看護師が服薬時刻を確認し、薬を準備し、必要に応じて服薬を介助します。

飲めなかった場合には、その理由を確認できる体制もあります。

ところが、自宅ではどうでしょうか。

薬を保管場所から取り出す。今日飲む薬を選ぶ。包装を開ける。水を準備する。服用する。そして、飲んだことを確認する。

これらの動作を、本人や家族が担うことになります。

つまり、「薬を飲める」ということと、「薬を自分で管理して飲み続けられる」ということは、同じではないのです。

厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編・療養環境別)」でも、退院後の生活機能や支援体制によって、入院中と同じ薬剤を管理・服用することが困難になる場合があると指摘しています。

退院後の服薬困難を生む6つの領域

服薬困難を考えるときには、次の6つの領域を確認すると問題を整理しやすくなります。

※この6領域は、厚生労働省の指針を参考にした本記事独自の整理です。

重要なのは、原因が一つとは限らないことです。

例えば、薬の包装を開けにくくなった人が、退院後に新しい薬を処方され、さらに家族の支援も受けられなくなれば、服薬管理は一層難しくなります。

また、退院後の食欲低下や眠気が、病気の悪化や薬剤有害事象と関係している可能性もあります。

生活環境の変化だけで原因を決めつけてはいけません。

「飲めていない」という結果だけでなく、「なぜ飲めないのか」を多面的に評価する必要があるのです。

2.「飲み忘れ」の一言で片づけてはいけない

薬が残っていると、つい「飲み忘れが多い人」と考えてしまいがちです。

しかし、薬が残る理由はさまざまです。

l  飲むことを忘れている

l  薬を飲む必要性が理解できていない

l  薬の包装を開けられない

l  錠剤を飲み込むことが難しい

l  飲むと気分が悪くなるため避けている

l  食事を取れないため、食後の薬をどうすればよいか迷っている

l  退院前後の薬の変更が分からず、以前の薬を使用している

これらは、同じ「残薬」という結果でも、対応方法が異なります。

例えば、包装を開けられないのであれば、包装形態の変更が役立つかもしれません。

服用するとふらつくのであれば、薬剤有害事象の可能性を評価する必要があります。

食事が取れないため服用をためらっている場合には、薬剤ごとに食事との関係や服用方法を確認しなければなりません。

食事量が減ったときに低血糖などに注意が必要な薬もあれば、急に中止すると病状が悪化するおそれのある薬もあります。本人・家族・介護職が自己判断で服用や中止を決めず、速やかに医師や薬剤師に相談することが大切です。

また、残薬があるからといって、必ずしも飲み忘れとは限りません。処方変更前の薬や予備薬が残っている場合もあります。

反対に、薬が残っていなくても、誤った服用方法で使用している可能性があります。

残薬は問題発見の手掛かりですが、それだけで服薬状況を判断することはできません。

3.服薬環境の変化を見つけるのは誰か

退院後の服薬困難は、薬剤師だけで発見できるとは限りません。

患者の生活を日常的に見ている多職種の気づきが重要になります。

最初に変化に気づくのは、本人や家族であることもあります。本人の困りごとや希望を起点に、関係職種が情報をつなぎます。

 

介護職:生活の「いつもと違う」に気づく

ヘルパーは、薬の飲み残しだけでなく、食事、睡眠、生活動作などの変化を観察できます。

「以前は自分で薬を取り出していたのに、最近は袋を開けられない」

「薬が食卓に置かれたままになっている」

こうした観察情報は、服薬困難の原因を考えるうえで役立ちます。

介護職は服薬の声かけや見守りを行うほか、一定の条件の下で、あらかじめ一包化された内用薬の内服介助などを担うことがあります。厚生労働省の通知では、病状が安定し、医師・看護職員による継続的な観察が必要でないことなどを前提に、本人・家族の依頼を受け、医療職の指示・指導に沿って行う場合など、原則として医行為に該当しない範囲を示しています。病状が不安定な場合や服用の可否の判断が必要な場合には、医療職に確認します。

ただし、薬の必要性や用量を独自に判断したり、処方内容を変更したりすることは別の問題です。

介護職の重要な役割は、生活の変化を観察し、必要な情報を医療職へつなぐことです。

 

訪問看護師:身体状態と服薬状況を合わせて評価する

訪問看護師は、服薬状況だけでなく、患者の病状や身体機能の変化を確認できます。

例えば、退院後に飲み残しが増え、同時に息切れやむくみが悪化している場合には、服薬状況と病状の関係を検討する必要があります。

ただし、症状の悪化が必ずしも飲み残しによるものとは限りません。

緊急性を判断し、必要に応じて主治医へ報告するとともに、薬剤に関する問題を薬剤師と共有することが重要です。

 

ケアマネジャー:生活支援の仕組みを調整する

ケアマネジャーは、本人の生活状況、家族の支援能力、介護サービスの利用状況などを把握しています。

薬を飲めない原因が家族の不在や生活リズムの変化にある場合、薬の整理だけでは解決しません。

l  誰が薬を準備するのか。

l  服薬確認が必要な時間帯はいつなのか。

l  現在の介護サービスで対応できるのか。

こうした情報を整理し、関係職種と支援体制を調整する役割を担います。

 

薬剤師:生活の問題を薬学的な評価につなぐ

薬剤師は、生活上の観察情報をもとに、薬剤や処方、服用方法の観点から問題を評価します。

包装を開けられないのであれば、包装形態の変更を検討できないか。

飲み込めないのであれば、剤形の変更が可能か。

服用回数が多すぎるのであれば、処方医と相談して簡素化できないか。

副作用が疑われるのであれば、症状の経過と薬剤との関連を確認できないか。

こうした検討を通じて、改善策を提案できます。

もちろん、薬剤師だけですべてを解決できるわけではありません。

病状の評価、処方変更、介護サービスの調整などには、それぞれの専門職の判断が必要です。

また、嚥下機能に問題がある場合には言語聴覚士、手指の動作に問題がある場合には作業療法士、食事や栄養に問題がある場合には管理栄養士などの専門性が役立つこともあります。

医師(在宅医・かかりつけ医):病状を評価し、処方を判断する

医師は、本人・家族や多職種から寄せられた情報をもとに病状と薬物療法を評価し、必要に応じて処方の継続・変更・中止を判断します。薬剤師による薬学的評価や生活上の困難も、その判断を支える重要な情報です。

生活を知る専門職と、薬を知る専門職が情報を持ち寄ることで、初めて見えてくる解決策があります。

4.薬局に相談すると、何が分かるのか

冒頭のAさんの事例に戻りましょう。

ヘルパーから報告を受けたケアマネジャーが、本人の同意を得て、薬局に相談したとします。

退院時の薬が病院で交付された場合、地域の薬局が処方変更を把握していないことがあります。お薬手帳、薬剤情報提供書、退院時の薬剤サマリーなどを、本人の同意を得て確認することが出発点になります。

薬剤師は、入手できた退院時の処方情報と残薬を照合します。

l  入院前から継続している薬は何か。

l  入院中に追加・変更・中止された薬は何か。

l  変更理由は地域の薬局に伝わっているか。

そのうえで、ケアマネジャーや訪問看護師から生活情報を確認します。

Aさんについては、次のようなことが分かりました。

l  退院後、夫による服薬準備がなくなった

l  朝食を取らない日がある

l  薬の包装を開けるのに時間がかかる

l  夕食後に眠ってしまうことが増えた

薬剤師は、これらの情報を踏まえて服薬動作や処方内容を評価します。

その結果に応じて、例えば次のような対応が考えられます。

① 一包化や服薬カレンダー

薬をまとめることで管理しやすくなる場合があります。ただし、一包化すれば必ず飲めるようになるわけではありません。

② 剤形や包装の変更

包装を開けにくい場合には、扱いやすい製剤への変更を検討します。粉砕やカプセルの開封は、薬剤ごとに可否の確認が必要です。

③ 服用回数・服用時刻の見直し

生活リズムに合わない服用方法について、薬剤の特性を踏まえ、処方医と相談します。

④ 服薬支援体制の調整

本人だけで管理することが難しい場合には、家族、訪問看護、介護サービスなどによる支援を検討します。

⑤ 眠気・食欲低下の原因評価

眠気や食欲低下が薬剤有害事象や病状の変化によるものではないかを確認し、必要に応じて処方医や訪問看護師と共有します。

ここで大切なのは、薬剤師が一方的に方法を決めないことです。

Aさん自身が何に困っているのか、どの方法なら続けられそうかを確認する必要があります。

2026年のOttosenらによる混合研究法のシステマティックレビューでは、退院前後の薬剤管理に関する25研究のうち19研究(76%)が受け身の情報提供を中心とした介入でした。一方、患者が意思決定に参加する6研究(24%)では、患者・医療上の長期アウトカムの改善との関連が一貫して報告されました。ただし、介入内容や研究の質には違いがあり、日本の薬局で同様の効果が得られることや、本人参加・薬剤師介入それぞれの独立した因果効果を示すものではありません。

重要なのは、本人の希望と実際の生活に合う支援方法を、多職種で検討することです。

5.「飲めていますか?」より役立つ5つの質問

服薬状況を確認するとき、多くの専門職がこう尋ねます。

「お薬はちゃんと飲めていますか?」

しかし、この質問だけでは具体的な困難が見えてこないことがあります。

そこで、質問を少し変えてみます。

質問①「朝のお薬は、いつ、どこで準備していますか?」

薬を準備する人や場所、生活リズムを確認できます。

質問②「薬の袋は自分で開けられますか?」

手指の機能や包装の扱いやすさを確認できます。

質問③「昨日の夕食後のお薬は、どうしましたか?」

具体的な場面を尋ねることで、服用状況を確認する手掛かりになります。

質問④「飲みにくい薬や、飲むのが嫌な薬はありませんか?」

嚥下困難、副作用への不安、服薬への抵抗感などを把握できます。

質問⑤「退院前と比べて、お薬の準備で変わったことはありますか?」

生活環境や支援体制の変化を確認できます。

 

可能であれば、本人の同意を得て、普段どおりに薬を準備する様子を確認することも有用です。自宅では訪問看護師や介護職が日常の様子を確認し、薬局に伝える方法もあります。薬剤師が居宅療養管理指導として訪問する場合には、医師・歯科医師の指示に基づく薬学的管理指導計画など、制度上の枠組みに沿って行います。

薬の種類は理解できていても、小さな錠剤を取り出す際に落としてしまう場合があります。

また、朝と夕方の袋を見分けられない場合もあります。

こうした問題は、薬の名前や服用回数を説明するだけでは解決しません。

服薬指導で確認したいのは、説明を理解したかだけでなく、実際の生活で実行できるかという点です。

6.薬局に伝えてほしい5つの情報

多職種から薬局に相談する際、詳細な薬学知識は必要ありません。

むしろ、生活場面で確認した具体的な事実が重要です。

例えば、次の2つの報告を比べてみてください。

「Aさんは薬を飲み忘れています」

「Aさんは退院後、朝の薬が3日分、夕食後の薬も数日分残っています。夫が施設に入ってから薬を自分で準備していますが、袋を開けにくそうです。朝食を取らない日もあります」

後者のほうが、薬剤師は問題の原因を検討しやすくなります。

薬局へ相談するときには、次の5項目を意識するとよいでしょう。

薬剤名や服用方法が分からない場合には、お薬手帳や薬剤情報提供書なども役立ちます。

情報共有に当たっては、本人の同意や関係する法令・運用ルールに従い、必要な範囲で共有することが重要です。

なお、呼吸困難、意識障害、冷や汗・ふるえ・意識がもうろうとするなど低血糖が疑われる様子など、緊急性が疑われる場合には、薬局への通常の相談を待たず、救急対応や主治医への緊急連絡を優先します。

7.一包化したら終わり、ではない

薬局に相談し、一包化や服薬カレンダーを導入した。

これで問題は解決したのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

一包化しても、袋を開けられない場合があります。

服薬カレンダーに薬をセットしても、取り出すことを忘れる場合があります。

家族に服薬確認をお願いしても、家族の負担が大きく、継続できない場合があります。

そのため、支援方法を変更した後には、実際に服用できているかを確認する必要があります。

確認する内容は、残薬だけではありません。

本人が無理なく薬を準備できているか。

服用時刻や回数に誤りはないか。

服薬後の体調に変化はないか。

支援する家族や介護職に過度な負担が生じていないか。

こうした情報を、必要に応じて多職種で共有します。

実務上は、退院前、退院直後、退院後数日以内、支援方法の変更後などに、確認の機会を設けることが考えられます。

ただし、これは全国共通の義務的な確認日程ではありません。

薬剤の中断リスクや患者の病状によっては、より早い対応が必要です。

服薬支援は、一度方法を決めれば終わるものではなく、生活に合わせて調整を続ける取り組みなのです。

8.退院前から防げる問題はないか

ここまで、退院後に問題が発見された場合を考えてきました。

しかし、もう一つ重要な視点があります。

そもそも、退院前に服薬環境の変化を予測できなかったのでしょうか。

病院では、入院中の服薬状況を把握できます。

退院支援担当者やケアマネジャーは、自宅での生活や家族の支援体制を確認できます。

地域の薬局薬剤師は、入院前の服薬状況や残薬、過去の服薬支援の経緯を把握している場合があります。

こうした情報を退院前から共有できれば、服薬困難を予測し、支援を準備できる可能性があります。

例えば、退院前カンファレンスなどで、次の点を確認することが考えられます。

l  退院後、誰が薬を準備するのか

l  本人は新しい処方を管理できるのか

l  入院中に本人が薬を自分で管理する練習や確認を行えたか

l  薬の包装を開けられるのか

l  食事や睡眠のリズムは変わっていないか

l  服薬が難しくなった場合、誰に連絡するのか

また、病院薬剤師から薬局薬剤師へ、退院時の処方変更理由や服薬管理上の注意点を伝えることも重要です。

厚生労働省の指針(各論編〈療養環境別〉第2部・第3部)でも、入院中に薬剤を変更・中止した理由や、変更後の状態について、地域のかかりつけ医や薬剤師へ情報提供する必要性が示されています。

ただし、すべての患者について薬局が退院前カンファレンスに参加できるわけではありません。

薬剤サマリー、電話、文書など、地域の連携体制に応じた方法を活用することが現実的です。

退院後の服薬困難を防ぐためには、退院後の対応だけでなく、退院前から生活を見据えた準備が必要なのです。

9.明日から始める服薬支援の連携

退院後の服薬困難は、薬剤師だけでは発見できないことがあります。

患者の自宅で生活の変化を最初に発見するのは、介護職かもしれません。

体調の変化から問題に気づくのは、訪問看護師かもしれません。

家族の支援体制が変わったことを把握するのは、ケアマネジャーかもしれません。

本人や家族自身が変化に気づくこともあります。医師は病状を評価して処方を判断し、生活上の問題を薬剤の特性や処方内容と結びつけて改善策を提案するのが薬剤師の役割の一つです。

では、明日から何ができるでしょうか。

介護職や訪問看護師は、薬が残っていたら、残薬の量だけでなく、生活のどこで困っているのかを観察する。

ケアマネジャーは、服薬支援の担当者と、薬局・主治医への連絡経路を確認する。

薬局薬剤師は、処方内容だけでなく、退院後に薬を準備し、服用する生活環境を確認する。

いずれも特別な設備を必要とする取り組みではありません。

まずは、今ある情報を必要な相手につなぐことから始められます。

薬局を活用するために、他職種が薬の専門家になる必要はありません。

「薬が残っている」

「袋を開けられない」

「退院してから生活が変わった」

そんな身近な気づきを薬局へ伝えることから、連携は始まります。

薬局は、薬を渡す場所であるだけでなく、生活の中で薬を使い続けられるかを相談できる場所でもあります。

その機能を知ってもらうことが、多職種連携を進める第一歩になるのではないでしょうか。

私見|「薬を飲めない人」から「薬を飲めない環境」へ

私は、退院後の服薬支援を考える際に、薬局がもっと重視すべきことがあると思っています。

それは、薬の管理方法を患者に合わせるだけでなく、患者の生活環境に合わせて薬物療法そのものを見直す視点です。

これまでの服薬支援では、一包化、服薬カレンダー、お薬手帳など、管理手段の工夫が中心になりやすかったのではないでしょうか。

もちろん、それらは有用な方法です。

しかし、そもそも1日3回の服用が必要なのか。本人が扱いにくい剤形を変更できないのか。複雑な処方を整理できないのか。

こうした問題を検討せず、服薬管理の工夫だけで対応することには限界があります。

また、薬局側にも課題があります。

処方箋を受け付け、薬を交付した時点では、その薬が自宅で適切に使用されているかまでは分かりません。

だからこそ、介護職や訪問看護師、ケアマネジャーからの情報が重要になります。

私は、薬局が多職種連携の中心になる必要はないと考えています。

むしろ、患者の生活を中心に置き、それぞれの専門職が必要な情報を持ち寄ることが重要です。

その中で薬局は、薬学的な問題を見つけ、解決策を提案し、必要に応じて医師と協議する。

こうした役割を果たすことで、薬局は地域の医療・介護チームにとって、より活用しやすい存在になれると考えます。

退院後の薬の問題は、薬が変わったから起こるとは限りません。

薬を飲む人の暮らしが変わったことに、誰かが気づけるかどうか。

その気づきを薬学的評価につなぐことが、多職種連携の大切な役割なのです。

退院後の服薬支援で問われるのは、「患者が薬を飲めるか」だけではなく、「その患者が暮らす環境で、薬物療法を続けられる仕組みがあるか」なのだと思います。

参考資料

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編・療養環境別)」2019年

厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」(平成17年通知・写し)

厚生労働省「医行為に該当しない行為の追加について」(令和4年通知)

厚生労働省「居宅療養管理指導の運営基準」

厚生労働省「高齢者におけるポリファーマシー対策の普及啓発資材」(2026年7月)

Ottosen K, et al. Patient EngagementInterventions to Improve Medication Management of Older Patients AcrossTransitions of Care: A Mixed Methods Systematic Review. Journal of ClinicalNursing. 2026;35(6):2622–2644.


※本記事の制度・資料確認基準日:2026年10月24日。指針の普及啓発資材が2026年に公表されていますが、これを指針本体の改訂と同一視していません。

※本記事は医療・介護連携に関する一般的な情報提供を目的としています。個々の患者の薬物療法や服薬支援方法は、病状、処方内容、生活環境、本人の意向などを踏まえて判断する必要があります。


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