多職種から見た薬局|
第1部・第3回 退院後のふらつきは薬が原因?
――転び方から考える薬剤師と多職種連携の役割

はじめに|「ふらつく」という一言に隠れている情報
「退院してから、転びそうになることが増えました」
介護職から、こんな報告を受けたことはないでしょうか。
ケアマネジャーは歩行器の導入を検討し、訪問看護師は血圧や体調を確認する。理学療法士は筋力やバランス能力を評価する。
どの職種も必要な対応をしている。それでも、ふらつきが改善しない。
そんなとき、薬剤師が加わることで、問題の捉え方が変わる場合があります。
ただし、重要なのは「転んだ」という事実だけではありません。
いつ、どのようにふらつき、どのように転びそうになったのか。
例えば、同じ「朝のふらつき」でも、
- ベッドから立ち上がった瞬間に目の前が暗くなる
- 起床後も眠そうで、足元がおぼつかない
- 歩き始めると足がもつれ、左右に揺れる
では、考えるべき原因が異なります。
そして、これらの症状には薬物療法が関係している可能性もあります。
今回は、退院後のふらつきを題材に、介護職や訪問看護師が捉えた生活上の変化を、薬剤師がどのように薬学的評価につなげるのかを考えます。
1.退院後1週間、立ち上がるたびにふらつく
ここで紹介するのは、医学的・薬学的知見をもとに構成した仮想事例です。実際の患者の治療経過を示すものではありません。
82歳男性、心不全による入院から自宅へ
Aさんは82歳の男性。
高血圧と心不全があり、心不全の悪化によって入院していました。
治療によって状態が安定し、自宅に退院しました。
入院中には、病状に応じて降圧薬や利尿薬などの薬物療法が調整されています。
退院後は、家族の支援を受けながら、訪問看護や介護サービスを利用しています。
ところが、退院して数日後から、立ち上がる際にふらつくようになりました。
介護職が訪問した際にも、ベッドから立ち上がった直後に身体が揺れ、家具につかまる場面がありました。
家族は「入院で足腰が弱くなったのではないか」と心配しています。
確かに、高齢者では入院中の活動量低下によって筋力や身体機能が低下することがあります。
しかし、それだけで説明してよいのでしょうか。
多職種がそれぞれ対応する
介護職は、立ち上がり時の見守りを強化しました。
ケアマネジャーは、歩行器や手すりの導入を検討しました。
訪問看護師は、血圧、脈拍、浮腫、食事・水分摂取状況などを確認しました。
理学療法士は、下肢筋力や歩行バランスを評価しました。
こうした対応は、いずれも重要です。
転倒による骨折や再入院を防ぐためには、安全確保と原因の評価を並行して進める必要があります。
しかし、Aさんのふらつきは続いていました。
ここで問題になるのは、誰かが対応を怠っていたということではありません。
それぞれの専門職が持っている情報を、まだ十分に結びつけられていなかった可能性です。

【図1:同じ「ふらつき」を見る多職種の異なる視点】
2.「どのようにふらつくか」で、考える原因が変わる
転倒やふらつきの評価では、症状の具体的な特徴が重要です。
世界転倒予防ガイドライン(2022年)でも、高齢者の転倒リスクを評価する際には、歩行・バランス能力、循環器系、薬剤、認知機能、環境要因などを含めた多因子的な評価が推奨されています。
つまり、転倒の原因は一つとは限りません。
一方、ふらつきの特徴から、薬剤との関連を検討する手がかりが得られることがあります。
① 立ち上がった直後に、目の前が暗くなる
ベッドや椅子から立ち上がった際に、急にふらつく。
この場合、起立性低血圧が原因候補の一つになります。
起立性低血圧とは、立ち上がったときに血圧が低下する状態です。
一般的には、立位後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下することが診断上の基準として用いられます。ただし、測定条件や基礎疾患によって評価には注意が必要です。
起立性低血圧には、脱水、自律神経障害、循環器疾患など、さまざまな原因があります。
薬剤では、降圧薬、利尿薬、α1遮断薬などが関与する場合があります。
ただし、これらの薬が処方されているだけで、薬剤性と判断することはできません。
② 起床後も眠そうで、足元がおぼつかない
朝になっても眠気が強く、注意力が低下している。
歩行中に障害物に気づきにくくなったり、反応が遅れたりする場合があります。
このような状態では、睡眠薬、抗不安薬、オピオイド鎮痛薬などによる鎮静作用が関係している可能性があります。
特に高齢者では、薬剤の作用が翌朝まで持ち越される場合があります。
ただし、睡眠不足、せん妄、感染症、代謝異常なども考慮する必要があります。
③ 歩行中に左右へ揺れ、足がもつれる
歩いている途中で身体が左右に揺れ、まっすぐ歩きにくくなる。
この場合、運動失調や平衡機能の障害などが考えられます。
一部の抗てんかん薬や鎮静作用を持つ薬剤などが関係する場合があります。
一方で、小脳疾患、前庭機能障害、脳血管障害なども重要な鑑別対象です。
突然発症した歩行障害では、脳卒中などの緊急疾患を考慮する必要があります。
④ 足が出にくく、小刻みな歩行になる
歩幅が狭くなり、足が前に出にくくなる。
方向転換でバランスを崩すこともあります。
パーキンソニズムなどが原因候補となり、一部の抗精神病薬や制吐薬などによる薬剤性パーキンソニズムも考えられます。
ただし、歩行の特徴だけで薬剤性かどうかを判断することはできません。
⑤ 夜間、トイレに向かう途中で転ぶ
夜間の転倒では、複数の要因が重なる場合があります。
例えば、睡眠薬による眠気、起立性低血圧、夜間頻尿、暗い室内環境などです。
利尿薬の服用時刻や尿量の変化が、夜間の排尿行動に関係する場合もあります。
しかし、夜間転倒の原因を利尿薬だけに求めることは適切ではありません。
重要なのは、転び方だけで原因を決めるのではなく、転倒の特徴から評価すべき項目を絞り込むことです。

【図2:ふらつき方・転び方から考える薬剤との関連】
3.介護職の一言が、薬剤師の評価を変える
Aさんの事例に戻りましょう。
介護職が、次のような情報を共有したとします。
「朝、ベッドから立ち上がると、目の前が暗くなると言ってしゃがみ込みます」
「昼間は比較的しっかり歩けています」
「退院してから、食事や水分を取る量が少し減っています」
これらの情報は、薬剤師にとって重要な意味を持ちます。
単に「ふらつく」という報告よりも、症状が発生する場面、時間帯、身体の状態が具体的だからです。
薬剤師は、この情報をもとに、退院前後の薬物療法を確認します。
例えば、次のような点です。
- 入院中に降圧薬や利尿薬の種類・用量が変更されたか
- 服薬時刻と症状が発生する時間帯に関係があるか
- 退院前の残薬が混在していないか
- 食事・水分摂取量の変化が薬物療法に影響していないか
- 腎機能や電解質などの検査値に変化がないか
- 心不全の治療上、現在の薬剤がどのような役割を果たしているか
ここで重要なのは、薬剤師が処方内容だけを見ていても、Aさんの生活上の問題を十分に把握できないということです。
一方、介護職はAさんのふらつきに気づいていても、退院時の薬剤変更理由までは把握していない場合があります。
介護職が観察した生活の変化と、薬剤師が把握する薬物療法の情報が結びつくことで、初めて新しい評価が可能になります。
これは、一方の専門職が他方の不足を補うという単純な関係ではありません。
それぞれの専門性を組み合わせることで、患者の状態をより立体的に理解するということです。
4.薬剤師が「薬を減らせばよい」と判断してはいけない理由
Aさんは心不全の患者です。
仮に、降圧薬や利尿薬がふらつきに関与している可能性があったとしても、直ちに中止や減量をすべきとは限りません。
利尿薬は、心不全に伴う体液貯留を改善するために重要な役割を果たす場合があります。
また、心不全治療に使用される薬剤の中には、予後改善を目的として継続が重要なものもあります。
薬剤を変更する際には、血圧、心拍数、心不全の状態、腎機能、電解質、脱水の可能性などを総合的に評価する必要があります。
例えば、Aさんの起立時血圧を評価した結果、起立性低血圧が疑われたとします。
薬剤師は、薬剤の関与について整理し、医師に情報提供します。
医師は、必要な検査や病態評価を行い、薬物療法の変更が必要か判断します。
訪問看護師は、血圧や症状の変化を継続的に観察します。
介護職は、安全な立ち上がりや移動を支援します。
ケアマネジャーは、生活環境や介護サービスを調整します。
このように、薬剤師の評価は、多職種による問題解決の一部分です。
薬剤師の役割は、薬を減らすこと自体ではありません。
必要な治療を維持しながら、薬物療法による不利益をできる限り小さくすることです。
なお、心不全患者では、自己判断による利尿薬の中止や水分・塩分摂取量の変更は、病状悪化につながるおそれがあります。
5.薬剤師の介入で、転倒は本当に減るのか
薬剤師が薬物療法を評価することには意義があります。
しかし、その介入によって転倒や再入院がどの程度減るのかについては、研究結果を慎重に解釈する必要があります。
退院後の薬剤照合に関する研究
McNabらが2018年に発表した系統的レビュー・メタ解析では、退院後の地域における薬剤師主導の薬剤照合について、14研究が評価されました。
薬剤照合とは、患者が実際に使用している薬と処方情報を突き合わせ、意図しない重複、欠落、用法の不一致などを確認する取り組みです。
このレビューでは、薬剤不一致の発見・解消を評価した研究で改善が認められました。
一方、再入院率の有意な低下は示されず、救急受診や医療者の業務負担についても一貫した改善は確認されませんでした。
また、多くの研究にはバイアスのリスクがあり、結果の一般化には注意が必要です。
薬剤レビューだけでは転倒予防に限界がある
Seppäläらが2022年に発表した系統的レビュー・メタ解析では、薬剤レビューや減薬を単独の介入として行った49研究が評価されました。
結果として、薬剤レビューや減薬だけで転倒を有意に減少させるという、一貫した効果は確認されませんでした。
この結果は、薬剤師の介入が不要であることを意味しません。
転倒には筋力、歩行能力、循環器疾患、薬剤、住環境など、複数の要因が関係するため、薬剤の見直しだけでは十分でない場合があるということです。
世界転倒予防ガイドラインでも、転倒リスクを高める薬剤の評価と適切な見直しを、多面的な転倒予防介入の一部として実施することが推奨されています。
薬剤師の介入は、転倒予防のすべてではありません。しかし、転倒リスクを評価するうえで欠かせない視点の一つです。
6.退院後の異変は、ふらつきだけではない
薬剤との関連を考えるべき生活上の変化は、転倒以外にもあります。
食事量が減り、冷や汗やふらつきが出る
退院後に食事量が減少した糖尿病患者で、冷や汗、手の震え、ふらつき、意識状態の変化などが見られる場合、低血糖を考慮する必要があります。
特にインスリン製剤やスルホニル尿素薬などを使用している場合には、食事摂取量と薬物療法の関係が重要です。
昼間も眠ってばかりいる
退院後に眠気が強くなり、活動量が低下する場合には、睡眠薬、抗不安薬、鎮痛薬などによる過鎮静が関与する可能性があります。
ただし、感染症や脱水、せん妄なども考慮する必要があります。
便秘や排尿障害が悪化する
便秘や尿が出にくい状態が続く場合、抗コリン作用を持つ薬剤やオピオイドなどの影響を検討することがあります。
ただし、尿閉や腸閉塞などの緊急性のある病態を見逃してはいけません。
これらに共通するのは、生活上の異変が薬物療法の問題を発見する入口になるという点です。
7.多職種は、薬局に何を伝えればよいのか
薬剤師に相談する際、薬の専門知識が必要なわけではありません。
むしろ重要なのは、患者の生活の中で起きた変化を、できるだけ具体的に伝えることです。
例えば、ふらつきについては次の5項目が役立ちます。
① いつ起きたのか
朝、昼、夜、食後、服薬後など。
② 何をしていたのか
立ち上がったとき、歩いているとき、トイレに向かう途中など。
③ どのようにふらついたのか
目の前が暗くなった、周囲が回る感じがした、足がもつれた、意識が遠のいたなど。
④ ほかに症状があったか
眠気、冷や汗、動悸、息切れ、意識消失など。
⑤ 退院前後で何が変わったか
薬、食事、水分摂取量、活動量、生活環境など。
こうした情報があれば、薬剤師は処方変更や服薬実態との関連を検討しやすくなります。
また、薬剤師が薬剤性の問題を疑った場合には、確認した事実と考えられる原因を整理し、必要に応じて医師や訪問看護師などに共有します。
ただし、突然の麻痺、胸痛、失神、強い息切れ、急激な意識状態の変化などがある場合には、通常の薬局相談ではなく、速やかな医療評価を優先します。

【図3:患者・家族を中心にした多職種の情報共有】
8.薬局は「相談される専門職」になれているか
ここまで、他職種から薬局を活用する方法について考えてきました。
一方、薬局側にも課題があります。
薬剤師が処方箋の内容を確認し、薬を正しく調剤するだけでは、患者の生活上の変化を十分に把握できない場合があります。
特に退院後の患者では、病院で薬物療法が変更されていても、その変更理由や観察すべき事項が地域の薬局に十分伝わっていない場合があります。
厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」でも、入退院時の薬物療法に関する情報共有や、多職種による継続的な評価の重要性が示されています。
薬局に求められるのは、薬について質問されたときだけ答えることではありません。
介護職、ケアマネジャー、訪問看護師などから得られた生活情報を薬学的に評価し、必要な医療上の対応につなげることです。
そのためには、地域の専門職が薬局に相談しやすい関係を築く必要があります。
薬局経営の観点でも、これは重要な意味を持ちます。
処方箋の受付枚数だけでは、こうした活動の価値を十分に評価できません。
一方で、薬学的な相談対応が直ちに収益増加につながるとは限らず、人的資源や業務負担、報酬上の評価なども考慮する必要があります。
それでも、地域の医療・介護において、薬局がどのような価値を提供できるのかを考えるうえで、退院後の患者への関与は重要なテーマです。
9.まとめ|「転んだ」ではなく、「どう転んだか」を共有する
退院後のふらつきや転倒には、さまざまな原因があります。
筋力低下や生活環境の問題だけでなく、循環器疾患、神経疾患、薬物療法などが関係している場合もあります。
その原因を評価するうえで、介護職や家族が観察した情報は重要です。
「転びそうになった」という報告に加えて、「いつ、何をしているときに、どのようにふらついたのか」が共有されれば、医療職はより具体的な評価を行いやすくなります。
薬剤師は、その情報と薬物療法の変更履歴、服薬実態、検査値などを結びつけ、薬剤の関与を検討します。
そして医師の診断・治療判断、訪問看護師の観察、介護職の生活支援、ケアマネジャーのサービス調整が組み合わさることで、患者の安全な生活につながります。
多職種連携の価値は、異なる専門性を持つ人が集まることではなく、それぞれの情報をつなぎ、患者の問題をより深く理解することにあります。
私見|薬剤師の専門性は、生活の中でこそ生きる
私は、薬剤師の専門性が十分に活用されていない場面は、まだ多いと考えています。
特に在宅療養では、介護職や訪問看護師が患者の異変に気づいていても、その情報が薬学的評価につながっていない場合があるのではないでしょうか。
今回の事例で重要なのは、薬剤師が「薬の副作用を見つけた」という結果だけではありません。
介護職が、ふらつき方や転倒する場面を具体的に観察していたことです。
その情報があって初めて、薬剤師は薬物療法との関係をより詳しく検討できます。
私は、薬剤師の価値を高めるためには、薬剤師自身の能力向上だけでなく、他職種が薬剤師をどのように活用できるかを知ることも重要だと考えています。
同時に、薬局側も変わる必要があります。
「薬について相談があれば対応します」という受け身の姿勢だけでは、地域の医療・介護が抱える課題を十分に捉えられません。
介護職が困っていること、ケアマネジャーが解決できずにいること、訪問看護師が気になっていること。
そうした生活上の問題に、薬学的な視点から関わることができる薬局であってほしいと思います。
薬局が地域のすべての問題を解決する必要はありません。
しかし、薬局に相談することで、問題の見方が変わることはあります。
「薬が関係しているかもしれない」
この一つの視点を地域の多職種連携に加えることが、患者の生活を支える新たな可能性につながると考えています。
参考資料
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編・各論編)」
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https://doi.org/10.1093/ageing/afac205 - McNab D, et al. Systematic review and meta-analysis of the
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