― 2026年の現状と中小薬局の経営戦略 ―
情報基準日:2026年10月30日|
30秒で読む要約
- 地域フォーミュラリは、有効性・安全性・経済性を踏まえた地域の推奨薬リストと使用方針です。処方を一律に制限する制度ではありません。
- 2026年3月30日の通知時点で15道府県23件(うち策定中3件)。行政が把握した件数で、すべてが運用中という意味ではありません。
- 中小薬局の在庫適正化には、主要処方元の参加、代替薬の選択肢、供給の安定が欠かせません。
地域フォーミュラリという言葉を、以前より耳にするようになりました。「地域で使う薬を統一する仕組み」「薬剤費を減らす政策」「中小薬局にも関係するのか」。薬局経営者や管理薬剤師には、そんな印象があるかもしれません。2026年、厚生労働省は都道府県に検討の場を設けるよう求めました。しかし、検討することと導入・運用することは別です。この記事では、政策の進展と実証された成果を区別し、中小薬局が何を判断すべきかを考えます。
1. 地域フォーミュラリとは
地域の医師・薬剤師と関係団体が協働し、有効性、安全性、経済性を総合評価した医薬品集及びその使用方針です。原則として成分単位で選定し、医師の処方を一律に制限するものではありません。単なる「安い薬のリスト」ではありません。患者の腎機能、副作用歴、剤形、併用薬、服薬環境などによって、標準的な選択肢が適さないこともあります。地域の標準と患者ごとの個別最適化は両立させる必要があります。
2. 全国の現状:23件は運用済みの総数ではない
2025年5月時点の調査では、策定中を含めて12府県18件でした。2026年3月30日付の協力依頼通知では、その後の調査を含めて15道府県23件(うち策定中3件)とされています。いずれも行政が把握した件数であり、全活動の悉皆調査でも、全件が運用を開始したという意味でもありません。
同じ通知で、国は各都道府県に、2026年度内に「地域フォーミュラリ策定に向けて検討する場」を設けるよう求めました。検討の場の設置、地域での策定、実際の運用、成果の評価は別の段階です。政府の「骨太の方針2025」が掲げた「全国展開」という表現を、全都道府県で同じ薬を採用することと解釈してはいけません。
図1 地域フォーミュラリの策定件数(行政把握・策定中を含む)
3. 酒田市の実績を読み違えない
山形県酒田市では2018年から地域フォーミュラリに取り組んでいます。厚生労働省の2024年度NDB分析では、ARBを調剤した薬局の平均品目数が全国29種類に対し、酒田市は23種類でした。これは販売名ベースの品目数で、同じ成分でもメーカーが異なれば別に数えます。差は6種類、約21%です。この指標は在庫品目数を考える目安にはなりますが、実際の在庫実数や在庫金額ではありません。地域フォーミュラリ導入の因果効果を証明する数値でもなく、薬局規模、処方元、患者構成などの違いがあり得ます。
同じ厚生労働省の資料では、酒田市のARB全体の薬剤費が2017年の2億6700万円から2024年に7500万円へ、PPI推奨薬の薬剤費は2億6000万円から1億6700万円へ変化したと報告されています。大きな変化ですが、薬価改定や後発医薬品の普及など、地域フォーミュラリ以外の影響も含まれます。全国でもARB推奨薬(後発品)の利用率は30%から61%へ上昇し、2023年にはアジルサルタンの後発品が発売されました。この金額の推移を、地域フォーミュラリ単独の削減効果と読むことはできません。患者アウトカムや供給の安定性と合わせて評価する必要があります。
図2 ARBの調剤品目数の比較(2024年度NDB、販売名ベース)
4. 中小薬局の経営にどう関係するのか
酒田・つくば・八尾の3地区の保険薬局269を対象とした調査では、156薬局が回答しました(回答率58.0%)。地域フォーミュラリで過剰在庫の軽減を「得られたメリット」とした割合は、つくば41.0%、八尾37.5%、酒田21.4%でした。これは回答者の認識であり、在庫金額を実測した成果ではありません。3地区の結果を全国に一般化することもできません。
薬局経営における第一の可能性は、医薬品在庫の適正化です。ただし、品目数が減っても在庫金額が同じ割合で減るとは限りません。運転資金の改善は、利益の増加と同じではありません。保管費、廃棄損失、緊急調達費、欠品、発注業務時間を含めて評価しなければなりません。
在庫改善の実現条件は、①推奨薬が成分指定か銘柄指定か、②複数の推奨薬や代替のオプションがあるか、③自局の主要処方元が実際に参加するか、の3点です。推奨された後発品が供給停止になれば、代替品の在庫や調達の負担がかえって増える可能性もあります。先の調査でも、運営上の課題として医薬品の供給不安が多く挙げられました。
第二の可能性は、地域で医薬品の選定情報や供給情報を共有することです。中小薬局が単独では持ちにくい情報基盤を、地域で補完できるかもしれません。ただし、特定品目への需要集中は、供給停止時のリスクを高めます。推奨薬の選定と同時に、代替薬・連絡経路・例外運用を設計する必要があります。
第三の可能性は、薬剤師の専門性を発揮することです。地域の標準的な選択薬を理解したうえで、患者ごとの副作用、腎機能、併用薬、生活背景を評価し、処方医に情報を返す。業務の標準化と患者対応の個別最適化は対立しません。
5. 大手チェーンと同じ経営を目指す必要はない
中小薬局が、大規模チェーンと同じ購買力や在庫移動網を単独で持つことは難しいでしょう。しかし地域で選定方針や供給状況を共有できれば、規模の弱みを一部補える可能性があります。これは共同購入や仕入価格の調整を無条件に勧めるものではありません。調達・価格情報を共有する場合は、契約や競争法上の論点について弁護士など専門家への確認をお勧めします。患者への安定供給という目的から逸脱しないことが前提です。
6. 愛知県の取り組みをどう見るか
2025年の厚生労働省の調査では、愛知県内に2件の策定事例が報告されています。
業界紙の日刊薬業(じほう)の報道によると、愛知県の岡崎地域(岡崎市・幸田町)では2026年7月2日に地域フォーミュラリの運用が始まりました。岡崎薬剤師会の呼びかけで、三師会と岡崎市民病院が委員会を構成し、12薬効群で開始したと報じられています。参加薬局数、薬効群の内訳、経営上の成果は、報道で確認できる範囲を超えるため、ここでは取り上げません。成功例かどうかを評価する段階でもありません。
地域の薬局が実務に生かすには、事例の名称よりも、誰が意思決定し、推奨薬をどう更新し、供給不足や例外にどう対応しているかが重要です。
7. 2026年度調剤報酬との関係
2026年度改定で、保険薬局の「地域支援・医薬品供給対応体制加算1」は27点と示されています。しかし、地域フォーミュラリへの参加自体が加算算定を保証するわけではありません。施設基準や届出要件は別に確認する必要があります。
施設基準には、地域の医療機関・薬局・関係団体と、取り扱う医薬品の情報共有や事前の合意に取り組むことが「望ましい」とされています。2026年3月の協力依頼通知は、この趣旨を踏まえて地域フォーミュラリの取組を促しています。「望ましい」事項と必須の算定要件を混同してはいけません。地域連携活動を「加算のためだけの取り組み」に狭めず、医薬品供給と患者支援の改善として捉えることが重要です。
8. 中小薬局が今月確認したいこと
今月やること
✔ ARB・PPI・スタチン等、対象薬効群ごとの取扱品目を確認する
✔ 対象薬効群の在庫金額・廃棄額・欠品件数・緊急発注回数を集計する
✔ 主要処方元が地域の推奨薬選定に参加しているかを確認する
✔ 推奨薬の成分指定・銘柄指定、複数推奨、代替薬の取り決めを確認する
✔ 医師会・薬剤師会・行政の検討状況を把握し、実務上の課題を共有する
改善の優先順位は、患者への供給を維持しながら、無理な在庫と業務負担を減らせるかで判断します。
9. 何を成果指標にするべきか
地域フォーミュラリは、策定件数だけでは評価できません。医療の質、患者の自己負担、供給不足時の対応、在庫金額、廃棄損失、発注業務時間、推奨薬の遵守率などを、導入前後で測定する必要があります。改善が見られても、薬価や後発品の普及、地域の処方構造の変化を考慮しなければ、因果関係は判断できません。
想定反論
Q:処方元が参加しなければ在庫は減らない
A:その通りです。自局の処方元が参加しない場合、在庫適正化の優先順位を下げる判断も合理的です。
Q:推奨後発品の出荷調整で、かえって在庫が増える
A:実際に起こり得ます。成分単位の選定、複数推奨、代替薬の合意がない場合は、単一銘柄への集約を急ぐべきではありません。
筆者の私見
私は、地域フォーミュラリを単なる医薬品リストとして捉えるのはもったいないと考えています。保険調剤のように共通ルールがある業務は標準化し、患者の生活背景や疾病特性に応じた対応は各薬局の専門性で個別最適化する。地域で共有できる基盤と、自局で磨くべき価値を区別することが、中小薬局の生き残りに重要ではないでしょうか。地域フォーミュラリの導入が必ず利益を増やすわけではありません。それでも、地域の中で薬局の役割を再定義するきっかけにはなり得ます。
参考資料
- 「地域フォーミュラリについて」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190624_00005.html(2026年10月30日確認)
- 「地域フォーミュラリの作成状況の調査結果」(2025年9月17日)(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001563615.pdf(2026年10月30日確認)
- 「地域で協働して作成する推奨薬リスト(地域フォーミュラリ)について(協力依頼)」(2026年3月)(厚生労働省)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tohoku/000477711.pdf(2026年10月30日確認)
- 「地域で協働して作成する推奨薬リスト(地域フォーミュラリ)について」説明資料(同通知 別添2)(厚生労働省)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000479316.pdf(2026年10月30日確認)
- 第210回社会保障審議会医療保険部会 資料2(2026年2月12日)(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001654422.pdf(2026年10月30日確認)
- 経済財政諮問会議 参考資料(地域フォーミュラリ)(内閣府)https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/ab1/2026/0515sankou2.pdf(2026年10月30日確認)
- 「令和8年度診療報酬改定について」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html(2026年10月30日確認)
- 令和4年度厚生労働科学特別研究 分担研究報告書「地域フォーミュラリに関する薬局薬剤師の意識調査」(厚生労働科学研究成果データベース)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202206008C-buntan%203.pdf(2026年10月30日確認)
- 「岡崎で地域フォーミュラリ、一挙12薬効群」(2026年7月2日)(日刊薬業/じほう)https://nk.jiho.jp/article/303445(2026年10月30日確認)
- 「岡崎地域フォーミュラリ、市長が評価」(2026年7月3日)(日刊薬業/じほう)https://nk.jiho.jp/article/303477(2026年10月30日確認)



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