9/24/2026

2026年9月度「薬剤師AI関心度ランキング」

 


2026年9月度「薬剤師AI関心度ランキング」

―AI薬歴から臨床判断支援へ。薬剤師のAI活用は「使う」から「考える」段階へ―

先の『薬剤師のAI薬歴活用の功罪』でも触れましたが、生成AIが医療現場に入ってきて数年、薬剤師を取り巻くAIの話題も大きく変わってきました。

以前は「ChatGPTをどう使うか」「AIで文章を作れるか」といった話題が中心でした。しかし2026年に入り、AI薬歴、DI・文献検索、服薬指導支援、処方評価、臨床推論など、AIは薬剤師の実務のかなり近いところまで入り始めています。

そこで今回、2026年に公開された薬剤師×AIに関する専門媒体、学術情報、職能団体、研修、企業発表、導入事例、個人発信等を調査し、「薬剤師はAIの何に関心を持っているのか」を整理しました。

ただし、これは薬剤師へのアンケートによる人気投票ではありません。

公開情報から「話題量」「媒体の広がり」「実務への接近度」「エビデンス」「最近の伸び」を観測する試みです。

私はこれを、

PAIT:Pharmacist AI Interest Trend

として、今後も定点観測していきたいと考えています。



2026年9月度「薬剤師AI関心度ランキング」

PAIT Scoreは、単純な記事件数ではなく、

・話題量
・媒体多様性
・実務・実装接近度
・エビデンス/権威性
・直近モメンタム

を組み合わせて評価します。

今回の探索的調査では、次の10領域が浮上しました。

1位 AI薬歴・音声記録
2
位 AIガバナンス・個人情報・安全性
3
位 DI・文献検索・EBM
4
位 AIリテラシー・汎用AI活用
5
位 臨床推論・処方評価
6
位 服薬指導・患者支援
7
位 業務効率化・文書作成
8
位 AI時代の薬剤師の役割・職能
9
位 薬局経営・データ分析
10
位 薬剤師教育

【図①:PAIT TOP10ランキング図】

ここで注目したいのは、記事数が多いテーマと、PAIT Scoreが高いテーマが必ずしも一致しないことです。

ChatGPTなどを使った資料作成やプロンプト活用は非常に多く発信されています。一方、AI薬歴は話題量だけでなく、実際の薬局への導入、業務時間短縮など「実装」が進んでいます。

つまり薬剤師AIは、「知っている」「試してみた」から、実際の業務プロセスに組み込む段階へ移ったと考えられます。

※今回のランキングは公開情報を用いた探索的分析です。薬剤師全体を代表する意識調査ではありません。また、初期調査で想定した128件については全件の個別検証が完了していないため、今後、検証済み調査台帳を拡充しながらPAIT Scoreを更新します。



1位「AI薬歴」が意味するもの

2026年を象徴するのは、やはりAI薬歴でしょう。

音声認識から会話を記録し、SOAP形式などへ構造化する。薬剤師が一から薬歴を書く時間を減らす。

これは非常に分かりやすいAI活用です。

しかし、薬局経営者や管理薬剤師に考えてほしいのは、

「AI薬歴を導入したか」ではなく、「AI薬歴によって生まれた時間を何に使ったか」

です。

5分短縮できても、その5分が単なる余裕時間になっただけなら、患者価値はそれほど変わりません。

その5分を、

・患者との対話
・残薬や副作用の確認
・フォローアップ
・処方評価
・トレーシングレポート
・在宅患者への介入

に振り向けられれば、AI導入は初めて「薬剤師の専門性を高める投資」になります。

したがって管理者は現場に、

「AI薬歴を使いなさい」ではなく、「AIで生まれた時間を患者に返しなさい」

と指示する方がよいと思います。



意外な2位「AIガバナンス」

今回、私が特に注目したのが、個人情報、ハルシネーション、AI出力の確認などを含むAIガバナンスです。

AIがほとんど使われていなければ、こうした問題は大きくなりません。

「患者情報をどこまで入力してよいのか」

「AIが間違えた場合、誰が確認するのか」

「AIが作った薬歴をそのまま保存してよいのか」

「AIが提示した処方上の問題をどう検証するのか」

こうした議論が増えていること自体が、AIが実務に入り始めた証拠とも言えます。

薬局や病院薬剤部で必要なのは、いきなり何十ページものAI規程を作ることではありません。

まず現場に、

①患者を特定できる情報を安易に外部生成AIへ入力しない
②AI
の回答は一次情報ではない
③
薬物療法に関する重要判断では原資料を確認する
④
最終判断者は薬剤師である

という基本原則を共有することから始めるべきでしょう。



AIは「作る」から「判断を支援する」へ

今回の10カテゴリーを並べてみると、もう一つ重要な変化が見えてきます。

【図②:「作る→記録→検索→判断支援」薬剤師×AI進化図】

生成AIの薬剤師業務への入り方は、大きく4段階に整理できます。

Phase1 作るAI:メール、議事録、報告書、研修資料、文章要約

これはすでに多くの人が経験しているでしょう。

次が、

Phase2 記録するAI: AI薬歴、音声認識、SOAP生成、トレーシングレポート作成支援

そして現在急速に広がっているのが、

Phase3 探して整理するAI: DI、添付文書、インタビューフォーム、論文、ガイドライン、EBMなど

さらにその先に、

Phase4 判断を支援するAI: 処方評価、相互作用、疑義照会、服薬指導提案、フォローアップ、臨床推論

などです。

ここまで来るとAIは単なる業務効率化ツールではありません。

薬剤師の「考える領域」に近づいてきます。



管理者は「AIを使え」だけでは不十分

薬局管理者や病院薬剤部幹部にとって、ここが非常に重要です。

部下に、

「生成AIを勉強してください」

「ChatGPTを使ってください」

だけでは、組織としてのAI活用は進みません。

例えば今月から、次のように具体的に指示できます。

第1段階:一つの定型業務をAI化する

議事録、研修資料、DIニュース、報告書などから一つ選ぶ。

第2段階:AIの回答を必ず検証する

「AIがこう言っています」で終わらず、「何で確認したか」をセットにする。

第3段階:AIによる時間削減を測定する

導入前後で何分短縮されたかを記録する。

第4段階:生まれた時間の使い道を決める

患者対応、病棟業務、フォローアップ、DI、在宅、多職種連携などへ振り向ける。

こうすればAI導入を単なる流行ではなく、業務改善活動として管理できます。



最も危険なのは「AIを使うこと」ではない

AIが高度になるほど、

「AIを使うと薬剤師が考えなくなるのではないか」

という議論も増えるでしょう。

しかし私は、AI利用量だけで考えるべきではないと思います。

重要なのは、

「AIへの依存度」と「薬剤師自身の思考量」

の二つです。

【図③:「AI依存度×薬剤師思考量」4象限マトリックス】

最も目指したいのは、

AI利用度が高く、薬剤師の思考量も高い状態

です。

例えば、

  • 患者との会話をAIが記録する。
  • AIが問題候補を提示する。
  • 薬剤師が批判的に評価する。
  • 必要なら追加情報をAIで検索する。
  • 添付文書、ガイドライン、原著論文等で確認する。
  • 薬剤師が最終判断する。
  • AIがその結果を薬歴として構造化する。

この使い方ならAIは、

「能力代替装置」ではなく「思考増幅装置」

になります。

逆に危険なのは、AIが作った文章をそのまま薬歴にし、AIの提示した問題をそのまま採用し、AIの服薬指導案をそのまま患者へ伝える状態です。

効率は上がっても、薬剤師自身の判断能力が育たなくなる可能性があります。



10月から現場で始めたい「AI3指示」

薬局経営者、管理薬剤師、病院薬剤部幹部には、まず現場へ次の3つを指示することを提案します。

①「一人一業務」でAIを試す

各薬剤師がAIで改善したい業務を一つ決める。

②「AI+確認元」をセットにする

薬物療法に関係する回答では、添付文書、IF、ガイドライン、論文など「何で確認したか」を明示する。

③「何分浮いたか、何に使ったか」を記録する

AI活用のKPIを「利用回数」にしない。

時間削減+患者・医療への再投資

をKPIにする。

例えば薬歴作成が1日20分短縮できたなら、その20分で何人の患者をフォローできたのか。

病院なら、どの病棟介入、多職種連携、DI、薬物療法評価に時間を移せたのか。

そこまで測って初めて、AI導入効果が見えてきます。



AI時代に問われるのは「何をAIに任せないか」

2026年9月時点の薬剤師AIトレンドを追ってみると、一つの方向性が見えてきます。

これまでの問いは、

「薬剤師はAIを使えるか?」

でした。

これからは、

「薬剤師業務のどこまでAIに任せるのか?」

になります。

そして、その先にある本当の問いは、

「AIを使いながら、薬剤師は何を自分で考える専門職なのか?」

ではないでしょうか。

AI薬歴が普及しても、DI検索が高度化しても、AIが処方上の問題点を提示できるようになっても、患者の背景を理解し、その情報を評価し、患者にとって何が最善なのかを考え、最終的に責任を持って判断する役割は重要です。

だから、

AIによって薬剤師の仕事を減らすのではなく、AIによって「薬剤師にしかできない仕事」の時間を増やす。

ここを薬局・病院薬剤部のAI導入の目標にすることが肝要かと思います。

次回以降もPAITを定点観測し、

「何が増えたのか」

「何が成熟したのか」

そして、

「AIによって薬剤師の仕事がどう変わっているのか」

を追っていきたいと思います。

9/23/2026

 



薬剤師のAI薬歴活用の功罪

― AI時代に薬剤師の能力をどう高めるか ―

 

AI薬歴の導入が急速に進んでいます。

患者と薬剤師の会話を音声認識し、SOAP形式の薬歴を自動生成する。処方内容から確認すべき事項を提示する。さらにAIが薬物療法上の問題を抽出し、服薬指導やフォローアップを支援する――。

こうした機能は、薬剤師の業務を大きく変える可能性があります。

しかし私は、AI薬歴について「薬歴作成時間が何分短縮されたか」だけで評価してはいけないと考えています。

本当に問うべきなのは、

AI薬歴によって、薬剤師は患者をより深く見て、より良い情報を集め、より深く考え、より適切に介入できるようになるのか。

ということです。

AI薬歴は、使い方次第で薬剤師の能力を高める可能性も、逆に考える機会を奪う可能性もあります。

 

■ 薬剤師の能力は「何を聞くか」に現れる

薬剤師の能力を一つの指標だけで評価することは困難です。

それでも私は、患者からの「情報収集能力」を見ることで、その薬剤師の臨床能力をかなり推測できるのではないかと考えています。

ただし、「たくさん質問できる」という意味ではありません。

重要なのは、

何のために、その情報を取るのか。

例えば患者から「最近ふらつく」と聞いたとします。

ü  「ふらつきはありますか?」と記録して終わる薬剤師と、

ü  「いつからですか?」

ü  「立ち上がった時ですか?」

ü  「薬が変わった時期と重なりませんか?」

ü  「転倒していませんか?」

ü  「食事や水分は取れていますか?」

と聞き、さらに必要に応じて血圧、脈拍、起立時の変化、歩行状態、併用薬などを確認する薬剤師では、同じ「情報収集」でも意味が違います。

後者には、

何かを疑う→必要な情報を決める→確認する→分析・評価する→臨床判断する→介入する

という思考があります。

だからこそ情報収集能力は、単なる会話技術ではなく、その背後にある臨床推論能力を見る「入口の指標」になり得るのです。

 

■ AI薬歴はすでに「記録」から「思考支援」へ

現在のAI薬歴を薬剤師能力への影響という視点で整理すると、大きく5段階に分けられます。

レベル1:音声入力・文字起こし型
会話を文字にする。

レベル2:薬歴生成型
会話からSOAP等の薬歴案を作る。

レベル3:情報抽出型
注意すべき問題や確認事項を提示する。

レベル4:服薬指導支援型
質問や服薬指導、フォローアップ内容を提案する。

レベル5:臨床推論支援型
患者情報を分析し、評価や介入候補まで提示する。

ここで注意したいのは、

AIが高度になるほど薬剤師の能力も高くなるとは限らない

ということです。

レベル1、2では主に「記録」をAIへ任せています。

しかしレベル3以降では、「何を聞くか」「何を問題と考えるか」、さらに「どう評価するか」という薬剤師の思考そのものがAIへ移り始めます。

 

プロセス

人間中心

AI中心

AI化の評価

①問いを立てる

◎

△

人間に残すべき

②情報を取りに行く

◎

○

AIは質問候補提示

③構造化

○

◎

積極的AI化

④分析・評価

◎

○〜◎

AIと協働

⑤臨床判断

◎

△

最終判断は人間

⑥介入

◎

△

人間中心

⑦記録

△

◎

積極的AI化

Follow-up設計

◎

○

AI支援

 

現状のAI薬歴を能力への影響から5タイプに分類

タイプ

主なAI機能

能力へのプラス

能力へのリスク

Ⅰ 音声入力・文字起こし型

会話→テキスト

記録負担軽減

小

Ⅱ 薬歴生成型

会話→SOAP

患者への集中、記録標準化

言語化・構造化能力の外部化

Ⅲ 情報抽出型

問題候補・確認項目提示

見落とし防止

AI提示項目だけ確認する

Ⅳ 服薬指導支援型

質問・指導・フォロー候補提示

初学者教育、知識補完

定型質問化、思考停止

Ⅴ 臨床推論支援型

分析・評価・介入候補提示

高度な意思決定支援

Automation Bias、Deskilling

 

 

 

■ AI薬歴最大の「功」は患者を見る時間を取り戻すこと

AI薬歴には明確なメリットがあります。

薬剤師を薬歴記載から解放できることです。

2026年に報告された臨床薬剤師を対象とした研究では、Ambient AI導入後、1日当たりの記録時間中央値が38.5分から26.5分へ約31%減少しました。

しかし、この「31%短縮」をAI導入のゴールにしてはいけません。

理想は、

AI薬歴導入
→
記録時間削減
→PC
を見る時間削減
→
患者を見る時間増加
→
問診・観察・フィジカルアセスメント充実
→
情報の質向上
→
臨床推論向上
→
介入増加
→
患者アウトカム向上

という流れです。

AIによって30分余ったなら、その30分をさらに多くの処方箋を処理するためだけに使うのか。それとも患者を見る時間へ戻すのか。

ここにAI薬歴導入の大きな分岐点があります。

 

■ AI薬歴の「罪」は薬剤師が考えなくなること

一方、こんな使い方になったらどうでしょう。

患者と会話
→AI
が薬歴作成
→AI
が問題抽出
→AI
が評価
→AI
が介入候補を提示
→
薬剤師が確認して保存

確かに仕事は速くなります。

しかし薬剤師は、「考えて薬歴を書く人」から「AIの回答を承認する人」になってしまう可能性があります。

特に注意したいのがオートメーション・バイアス(Automation Bias)です。

「AIがそう書いているから正しいだろう」という心理です。

AI生成記録を調べた研究では、重要情報の欠落やハルシネーション(hallucination)も確認されています。

さらに怖いのは、AIが間違えること以上に、

薬剤師がAIを疑わなくなること

です。

そして新人薬剤師では、能力が低下するデスキリング(Deskilling)だけでなく、AIが最初から答えを教えることで、そもそも自力で臨床推論能力を十分形成できないネバーキリング(Never-skilling)にも注意が必要です。

 

■ AI時代の薬剤師臨床推論モデル

そこで現場薬剤師には、AIを使う前に次の5段階を習慣化することを提案します。

①何を疑うか

処方、患者背景、前回薬歴、患者の表情や会話から、

「この患者には何が起きている可能性があるのか」

をまず自分で考える。

②どのフレーズで情報を取るか

仮説を確認するために何を聞くのかを考える。

重要なのは質問数ではなく、

「なぜ、その質問をしたのか」

を説明できることです。

③何を観察・測定するか

問診だけではありません。

表情、顔色、呼吸、歩行、浮腫、振戦などを観察し、必要なら血圧、脈拍、SpO₂、体重、検査値、PHR等を確認します。<広義フィジカルアセスメント+PHR>

「測れるから測る」のではなく、

仮説を確かめるために測る。

④何を評価するか

集めた情報から、

有効性、安全性、適正性、アドヒアランス、生活・QOL、継続可能性

を統合して考える。

ここで初めて「情報」が「薬学的評価」に変わります。

⑤AIに何を記録・補助させるか

ここからAIを積極的に使います。

記録、SOAP化、情報整理、経時比較、情報検索、見落とし候補、反証仮説、次回確認事項などをAIに補助させる。

つまり、

人間:疑う→聞く→見る→測る→考える→判断する

AI:記録する→整理する→比較する→検索する→補完する

という役割分担です。

 

■ 管理者は「SOAPを書け」から「なぜ聞いた?」へ

AI薬歴を導入する薬局管理者や病院薬剤部幹部には、現場への指示を変えることを提案します。

「薬歴を早く書いてください」

ではなく、

「AIで浮いた時間は患者情報の収集に使ってください」

「SOAPをきれいに書いてください」

ではなく、

「なぜ、その質問をしたのか説明してください」

「AIの提案を確認してください」

ではなく、

「AIの提案で間違っている可能性を一つ考えてください」

さらに症例検討では、

①何を疑った?
②
何を聞いた?
③
何を見た・測った?
④
どう評価した?
⑤AI
には何を任せた?
⑥
介入後どうなった?

の6点を確認する。

これだけでもAI薬歴は、単なる省力化ツールから薬剤師教育ツールへ変わります。

 

■ AI導入のKPIも変えるべき

経営者・薬剤部幹部が「薬歴作成時間30%削減」だけを成功指標にするのは危険です。

見るべきなのは、

  • 薬歴時間は減ったか
  • 患者との対話時間は増えたか
  • 重要情報取得率は上がったか
  • 薬物療法上の問題発見は増えたか
  • 介入・処方提案は増えたか
  • フォローアップは増えたか
  • AIの誤りを薬剤師が発見できているか
  • 患者アウトカムにつながったか

です。

薬歴作成時間が半分になっても、患者から取れる情報が減り、AIの文章を確認するだけになったのであれば、それは業務効率化には成功しても、薬剤師の高度化には成功していないのです。

 

■ AI時代だからこそ「患者から情報を取れる薬剤師」へ

AIはこれからさらに賢くなります。

SOAPを書く能力、情報を整理する能力、過去薬歴を比較する能力では、薬剤師との差はますます小さくなるでしょう。

だからこそ薬剤師の価値を「薬歴を書くこと」に置き続けるべきではありません。

u  患者を見て違和感に気づく。

u  何かを疑う。

u  必要な質問をする。

u  必要な所見を観察・測定する。

u  それらを薬学的に意味づけ、介入し、その結果を追う。

その入口にあるのが情報収集能力です。

AI薬歴を導入する目的は、薬剤師に考えさせなくすることではありません。

記録をAIに任せることで、薬剤師を患者の前へ戻すこと。

これこそがAI薬歴の本来の価値ではないでしょうか。

そして最後に、AI時代の薬剤師に求められる価値を一言で表すならば、私はこう考えます。

AI時代に価値が高まるのは「薬歴を書く薬剤師」ではなく、「AIが記録すべき価値のある情報を患者から引き出せる薬剤師」である。





9/22/2026

薬価差より「現金が残る仕組み」を

 薬価差より「現金が残る仕組み」を

薬局経営で「利益改善」と聞くと、最初に薬価差率や卸との価格交渉を思い浮かべる経営者・管理薬剤師は少なくありません。

もちろん、仕入価格の見直しは重要です。しかし、薬価差率が改善したのに、手元の現金が増えない薬局もあります。

その原因は、薬価差益が過剰在庫や廃棄、欠品対応などの業務コストに消え、最終的にキャッシュとして残っていないことにあります。ここを押さえていないと黒字倒産のリスクが格段に上がります。

これからの薬局経営で見るべき数字は、「何%で仕入れたか」だけではありません。

重要なのは、患者対応と医薬品の安定供給を維持しながら、最終的にいくらの現金を残せたかです。


薬価差率が改善しても、現金が増えるとは限らない

薬価1,000円の医薬品を900円で仕入れた場合、薬価差額は100円、薬価差率は10%です。

計算上は、薬価差率が高いほど粗利益を確保しやすくなります。しかし、実際の薬局経営では、次のような問題が発生します。

  • 仕入条件を良くするために購入量を増やし、在庫が過剰になる

  • 同一成分・同一規格の採用銘柄が増え、不動在庫が発生する

  • 高額医薬品や期限切迫品が資金を固定する

  • 欠品時の代替品探索や疑義照会に時間を取られる

  • 調剤報酬の入金前に、仕入代金や給与の支払いが発生する

つまり、薬価差率は利益改善の「入口」であって、経営成果そのものではありません。

薬価差益を在庫に寝かせず、廃棄や追加業務で失わず、現預金として残すところまで設計して、初めて利益改善が完成します。


利益改善は「仕入れ・運用・財務」の3層で考える

薬局の利益改善は、次の3層に分けると理解しやすくなります。

第1層:仕入れで薬価差を確保する

まず必要なのは、薬価、納入価、購入数量、購入額を品目別・店舗別に把握することです。

優先的に交渉すべきなのは、購入額が大きいにもかかわらず薬価差率が低い品目です。全品目を一律に交渉するより、利益への影響額が大きい品目から取り組む方が、限られた時間を有効に使えます。

価格交渉は、複数品目をまとめた総価交渉ではなく、単品単価交渉を基本とします。

ただし、納入価格だけを見てはいけません。配送頻度、小口発注、急配、返品、支払条件なども取引コストに影響します。

薬局側が発注を集約し、配送回数を減らせれば、卸の物流負担を軽減できます。薬局と卸の双方にメリットのある条件を提示することが、継続可能な交渉につながります。

さらに、卸を評価するときは、欠品情報の速さ、代替品の提案力、緊急時の対応なども確認する必要があります。

安く仕入れられても、供給対応が不十分で現場の業務負担が増えれば、実質的な収益性は低下します。


第2層:在庫と銘柄選定で薬価差益を守る

薬価差益を確保しても、過剰在庫や期限切れが増えれば利益は残りません。

特に注意したいのは、同一成分・同一規格の採用銘柄を増やしすぎることです。

選択肢が多いことは一見安心に見えますが、在庫が分散し、低回転品や不動在庫を生みやすくなります。

銘柄選定では、次の項目を総合的に評価します。

  • 薬価と仕入価格

  • メーカーの供給安定性

  • 品質情報と情報提供体制

  • 包装単位と保管のしやすさ

  • 患者の服用・使用の継続しやすさ

  • 欠品時に発生する追加業務

銘柄の収益性を判断するときは、薬価差益から廃棄損、在庫保有負担、緊急発注、代替品探索、疑義照会、患者説明などのコストを差し引いて考える必要があります。

金額換算が難しい業務については、まず対応時間を記録するだけでも構いません。

「薬価差が大きい銘柄」と「実際に利益が残る銘柄」は、必ずしも同じではないのです。


第3層:利益をキャッシュとして残す

薬局では、調剤報酬を売上として計上してから、実際に入金されるまでに時間差があります。

一方、医薬品の仕入代金、人件費、家賃、税金、借入返済などは、入金を待たずに発生します。

帳簿上で利益が出ていても、支払日に必要な現金がなければ、事業を継続できません。

黒字倒産を防ぐためには、損益計算書だけでなく、現預金残高と資金繰り表を一緒に確認する必要があります。

資金繰り表には、少なくとも次の項目を反映します。

  • 月初の現預金残高

  • 調剤報酬と一部負担金の入金予定

  • 医薬品仕入、人件費、家賃の支払予定

  • 借入金の元本返済と利息

  • 税金、賞与、設備投資

  • 返戻や査定による入金変動

月末残高だけでなく、入出金の日付を確認し、現預金が最も少なくなる時期を把握することが重要です。

設備投資や新規出店も、将来の収益性だけでは判断できません。投資後も仕入れや給与に必要な運転資金を確保できるかを確認する必要があります。


毎月確認したい7つの数字

中小薬局では、複雑な管理指標を増やしすぎると、確認作業そのものが負担になります。

まずは、次の7項目を月次で確認することをおすすめします。

  1. 品目別・店舗別の薬価差率と購入額

  2. 薬価差率と粗利率の推移

  3. 在庫金額と在庫日数

  4. 不動在庫・期限切迫品・高額医薬品の金額

  5. 廃棄額、返品額、店舗間移動額

  6. 欠品対応・疑義照会・患者説明に要した時間

  7. 3~6か月先までの現預金残高予測

薬価差率が改善しているのに粗利率が伸びていない場合は、在庫増加、廃棄、追加業務のどこで利益が消えているかを確認します。

数字は店舗や担当者を責めるためのものではありません。次の発注、銘柄選定、卸との交渉を変えるために使うものです。

若手管理薬剤師にも、処方箋枚数だけでなく、在庫日数や廃棄額まで共有することで、現場の判断が経営改善につながります。


90日で「現金が残る仕組み」をつくる

最初の30日では、薬価、納入価、購入額、在庫日数、廃棄額を品目別に一覧化します。そのうえで、高額品、低回転品、薬価差率が低い重点品目を抽出します。

次の30日では、標準採用銘柄と例外品目を整理し、包装単位、発注点、発注量、店舗間共通化を見直します。卸との交渉項目も、利益への影響額が大きい順に並べます。

最後の30日では、在庫圧縮による効果を資金繰り表へ反映し、月次会議で7つの指標を確認します。

「誰が」「いつまでに」「何を変更するか」「次回いつ確認するか」を決めることが、改善を一過性で終わらせないポイントです。

薬局の利益は、棚ではなく現金で完成する

薬価差の改善は、薬局経営にとって必要です。

しかし、薬価差率だけを追いかけると、過剰在庫や供給不安、現場の追加業務を別の場所へ押し付ける可能性があります。

これからの薬局経営では、仕入価格、採用銘柄、在庫、業務時間、資金繰りを一つの経営システムとして捉えることが求められます。

「どれだけ安く買えたか」から、「患者対応と安定供給を守りながら、どれだけ現金を残せたか」へ。

薬価差率を入口にしながら、最後はキャッシュフローで確認する。

ある意味、今後地域で医薬品供給体制を構築、地域フォーミュラリへの参画などを踏まえると、このポイントをしっかりと押えていないと参加薬局の負担ばかり増える羽目になります。

それぞれのルール設定の前に、共通認識として最低限の標準化としてから始めていくことをお勧めします。

もう一点、現在医薬品卸では流通コスト負担により経営が圧縮されてきており、「流通コストの公平な負担」を中医協にて陳述書にて要望しています(意見陳述2026/8/26)。

流通改善ガイドラインの完全遵守順守を医療機関・薬局に求めることを趣意としていると考えられます。そして、その先に見えてくることは以下のようなことが予想されます。

  • 薬価差のさらなる圧縮<薬価差益縮小>
  • 単品単価交渉の強化<総価値引きをほぼ皆無に>
  • 低薬価・不採算品への薬価上の配慮<供給維持を優先>
  • 配送頻度削減<在庫管理能力が重要化>
  • 取引条件別の価格差<発注・返品・配送条件が価格に影響>
  • 顧客別採算管理・取引条件見直し<小規模でも効率的店舗は有利>

それゆえに、「薬局の利益は、棚ではなく現金で完成する」ことが標準化されていることこそが、中小薬局を単なる処方箋小売業ではなく、持続可能な地域医療インフラへ変えていく土台になるのではないでしょうか。


引用・参考資料

厚生労働省「医薬品価格調査:調査の概要」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/157-1a.html)

厚生労働省「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001665718.pdf)

厚生労働省「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(第38回)資料1 単品単価交渉の解釈について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44239.html)

厚生労働省「医薬品等の供給不安への対応について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/index_00006.html)

厚生労働省「令和6年度 後発医薬品品質確保対策事業 検査結果報告書」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212757_00013.html)

厚生労働省「中央社会保険医療協議会・薬価専門部会 意見陳述」(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001742606.pdf)

9/15/2026

薬局の倒産から見えるこれからの生き残り戦略

 薬局の倒産から見えるこれからの生き残り戦略

―「処方箋が来れば大丈夫」だった時代は終わった。今、選ばれる薬局とは?―

最近、「薬局の経営が厳しくなった」という話を聞く機会が増えました。

しかし、私は現在の薬局経営の難しさを、単なる「診療報酬が厳しい」「処方箋が減った」という問題だけで捉えるべきではないと考えています。

いま起きているのは、もっと大きな構造変化です。

これまで薬局を支えてきた経営モデルそのものが、通用しにくくなっている。

薬局の倒産事例を追っていくと、その変化がはっきり見えてきます。



■ 薬局倒産は過去最多水準へ

東京商工リサーチによると、2025年の調剤薬局倒産は38件。前年の28件から35.7%増加し、2年連続で過去最多を更新しました。

しかも38件のうち29件、76.3%が負債1億円未満の小規模倒産です。倒産原因では「販売不振」が25件と65.7%を占めています。

帝国データバンクの年度集計でも、2025年度の調剤薬局倒産は30件で2年連続の過去最多。その8割超が資本金1000万円未満の小規模薬局でした。

つまり、現在進んでいるのは一部の大型企業の経営破綻というより、地域の中小薬局の足元から始まった経営危機なのです。



■ 薬局倒産の原因はどう変わったのか

薬局倒産の変遷を振り返ると、大きく4段階に分けて考えることができます。

① 従来型の経営不振

以前は比較的分かりやすい構造でした。

患者が減る。
処方箋が減る。
売上が減る。
そして経営が苦しくなる。

つまり、「処方箋枚数=経営力」に近い時代でした。

② コロナ型倒産

2020~2021年には受診控えという外部ショックが起こりました。

受診患者減少
 ↓
処方箋減少
 ↓
薬局売上減少

という急激な変化です。

ところが、コロナ禍が収束して患者が医療機関へ戻っても、薬局倒産は減るどころか再び増加しました。

ここに現在の問題があります。

③ 構造的不採算型

2023年頃から目立ってきたのが、

「患者はいる。処方箋も来る。それでも利益が残らない」

という問題です。

薬価改定、人件費上昇、光熱費や家賃などのコスト増、薬剤師確保、競争激化、システム投資……。

実際、東京商工リサーチが603社を分析した2024年度業績では、資本金1億円未満の企業は売上高が3.4%増加した一方、当期利益は48.7%減少しました。

これは現在の中小薬局が置かれた状況を象徴しています。

「売上があること」と「経営が健全であること」が、同じではなくなったのです。

④ これから始まる「選別」

さらに2026年度以降は、特定医療機関への依存度が高い門前型から、患者を地域で支える薬局への転換が一層問われます。

つまり今後は、

門前 → 地域
調剤 → 在宅・健康支援
処方箋 → 患者
店舗完結 → 医療・介護連携

という転換に対応できるかどうかが重要になります。つまり「薬局ビジョン」以上が求められるということです。



■ 薬局を追い込む「7つの圧力」

現在の倒産は、一つの原因で発生するとは限りません。

①処方箋・患者数の減少
②
調剤報酬・薬価への圧力
③
薬剤師不足と人件費上昇
④
門前・特定医療機関への立地依存
⑤DX
・在宅対応などへの投資負担
⑥
借入・M&A・多角化などの財務負担
⑦
大手薬局・ドラッグストアとの競争

これらが複合的に重なることで、利益とキャッシュが少しずつ失われていきます。

したがって、現在の薬局倒産を、

「売上が減ったから倒産した」

だけで説明するのは危険です。

むしろ、

売上はある → 利益が減る → キャッシュが減る → 投資できない → 人材を確保できない → サービス力が落ちる → 患者が減る

という「慢性的な経営劣化」に注意する必要があります。



■ 消える薬局、生き残る薬局

では、この難局を乗り越える薬局とはどのような薬局でしょうか。

私は「規模の大きな薬局」だけが残るとは考えていません。

問題は規模ではなく、変化への適応力です。

【消える可能性が高い薬局】

  • 特定医療機関への依存度が高い。
  • 処方箋枚数だけを経営指標にする。
  • 薬剤師不足を高い給与だけで解決しようとする。
  • DXを単なるコストと考える。
  • 在宅・地域連携への対応が遅い。
  • 経営者の経験と勘だけで意思決定する。

共通しているのは、

「昨日までうまくいった方法を、明日も続けようとしていること」

です。

一方、生き残る薬局は違います。

  • 面応需を増やす。
  • 在宅医療に対応する。
  • 医療・介護とのネットワークをつくる。
  • DXで生産性を高める。
  • 薬剤師を専門業務へ集中させる。
  • 患者との継続的な接点をつくる。
  • そして財務基盤を強くする。

つまり、

「処方箋を待つ薬局」から「地域に必要とされる薬局」へ変わっていくことです。



■ ドラッカーなら、この薬局危機をどう見るか

ここで参考になるのが、ピーター・ドラッカーの経営思想です。

ドラッカーの考え方を現在の薬局経営に置き換えると、私は三つの問いに集約できると思います。

第一条 処方箋ではなく、患者を見よ。

「今日、処方箋が何枚来たか」だけを見るのではありません。

  • 患者は何に困っているのか。
  • 地域は薬局に何を求めているのか。
  • 自分たちはどのような価値を提供できるのか。

薬局の顧客を「処方箋」から「患者・地域」へ戻すことです。

第二条 昨日の成功を捨て、変化を機会にせよ。

  • 「この病院の前だから大丈夫」
  • 「昔から患者が来ている」
  • 「今までこの方法でやってきた」

それこそが最大のリスクになる可能性があります。

ドラッカーが重視した考え方の一つが「計画的廃棄」です。

続けることを決めるだけではなく、

「何をやめるのか」を決める。

そして空いた人、時間、資金を在宅、地域連携、DX、人材育成など、未来につながる領域へ振り向けるのです。

第三条 「大きい薬局」より「なくては困る薬局」になれ。

これからの薬局経営で最も重要な問いは、

「何店舗あるか」
でも、
「処方箋が何枚あるか」
でもありません。

「この薬局がなくなったら、地域の誰が困るのか」

という問いです。

患者、家族、医師、訪問看護師、ケアマネジャー、介護施設、地域住民。

多くの人から、

「あの薬局がなくなると困る」

と言われる状態をつくる。

それこそが、中小薬局にとって最大の競争優位ではないでしょうか。





■ 生き残るとは「残ること」ではない

薬局業界はこれから再編の時代に入ります。

しかし、私はこれを単純な「淘汰」と捉える必要はないと思っています。

むしろ、薬局という存在そのものを再定義する時代です。

最後に、今回の倒産分析から導いた三つの言葉を残したいと思います。

処方箋を 見ているだけでは 患者は見えない。

薬を渡した その先に 薬局の仕事がある。

変わるのが こわいからといって 昨日と同じでは いられない。

変化は 逆風にもなる。 追い風にもなる。

大きくなくてもいい。 「あの薬局がなくなると困る」 地域から そう言ってもらえる薬局でありたい。


生き残るとは、残ることではない。

必要とされ続けることだ。

薬局はいま、「処方箋小売業」から「地域医療インフラ」へ転換できるかを問われています。

淘汰ではなく、進化の時代へ。

目先の対策は、もうすでに投資にはなりません。回収不可のただの経費でしかありません。

薬剤師でもある古謝玄太氏の沖縄知事選応援演説で国民民主党の榛葉賀津也幹事長の言葉が今の薬局へのエールとも聞こえました。

「沖縄は右へ左へやじろべえでした!」 「やじろべえは、前に進むことはできません!」 「右でも左でもなく、沖縄を前に進めましょう!」

その一歩を、前に進むための一歩に。

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