2026年9月度「薬剤師AI関心度ランキング」
―AI薬歴から臨床判断支援へ。薬剤師のAI活用は「使う」から「考える」段階へ―
先の『薬剤師のAI薬歴活用の功罪』でも触れましたが、生成AIが医療現場に入ってきて数年、薬剤師を取り巻くAIの話題も大きく変わってきました。
以前は「ChatGPTをどう使うか」「AIで文章を作れるか」といった話題が中心でした。しかし2026年に入り、AI薬歴、DI・文献検索、服薬指導支援、処方評価、臨床推論など、AIは薬剤師の実務のかなり近いところまで入り始めています。
そこで今回、2026年に公開された薬剤師×AIに関する専門媒体、学術情報、職能団体、研修、企業発表、導入事例、個人発信等を調査し、「薬剤師はAIの何に関心を持っているのか」を整理しました。
ただし、これは薬剤師へのアンケートによる人気投票ではありません。
公開情報から「話題量」「媒体の広がり」「実務への接近度」「エビデンス」「最近の伸び」を観測する試みです。
私はこれを、
PAIT:Pharmacist
AI Interest Trend
として、今後も定点観測していきたいと考えています。
2026年9月度「薬剤師AI関心度ランキング」
PAIT Scoreは、単純な記事件数ではなく、
・話題量
・媒体多様性
・実務・実装接近度
・エビデンス/権威性
・直近モメンタム
を組み合わせて評価します。
今回の探索的調査では、次の10領域が浮上しました。
1位 AI薬歴・音声記録
2位 AIガバナンス・個人情報・安全性
3位 DI・文献検索・EBM
4位 AIリテラシー・汎用AI活用
5位 臨床推論・処方評価
6位 服薬指導・患者支援
7位 業務効率化・文書作成
8位 AI時代の薬剤師の役割・職能
9位 薬局経営・データ分析
10位 薬剤師教育
【図①:PAIT TOP10ランキング図】
ここで注目したいのは、記事数が多いテーマと、PAIT Scoreが高いテーマが必ずしも一致しないことです。
ChatGPTなどを使った資料作成やプロンプト活用は非常に多く発信されています。一方、AI薬歴は話題量だけでなく、実際の薬局への導入、業務時間短縮など「実装」が進んでいます。
つまり薬剤師AIは、「知っている」「試してみた」から、実際の業務プロセスに組み込む段階へ移ったと考えられます。
※今回のランキングは公開情報を用いた探索的分析です。薬剤師全体を代表する意識調査ではありません。また、初期調査で想定した128件については全件の個別検証が完了していないため、今後、検証済み調査台帳を拡充しながらPAIT Scoreを更新します。
1位「AI薬歴」が意味するもの
2026年を象徴するのは、やはりAI薬歴でしょう。
音声認識から会話を記録し、SOAP形式などへ構造化する。薬剤師が一から薬歴を書く時間を減らす。
これは非常に分かりやすいAI活用です。
しかし、薬局経営者や管理薬剤師に考えてほしいのは、
「AI薬歴を導入したか」ではなく、「AI薬歴によって生まれた時間を何に使ったか」
です。
5分短縮できても、その5分が単なる余裕時間になっただけなら、患者価値はそれほど変わりません。
その5分を、
・患者との対話
・残薬や副作用の確認
・フォローアップ
・処方評価
・トレーシングレポート
・在宅患者への介入
に振り向けられれば、AI導入は初めて「薬剤師の専門性を高める投資」になります。
したがって管理者は現場に、
「AI薬歴を使いなさい」ではなく、「AIで生まれた時間を患者に返しなさい」
と指示する方がよいと思います。
意外な2位「AIガバナンス」
今回、私が特に注目したのが、個人情報、ハルシネーション、AI出力の確認などを含むAIガバナンスです。
AIがほとんど使われていなければ、こうした問題は大きくなりません。
「患者情報をどこまで入力してよいのか」
「AIが間違えた場合、誰が確認するのか」
「AIが作った薬歴をそのまま保存してよいのか」
「AIが提示した処方上の問題をどう検証するのか」
こうした議論が増えていること自体が、AIが実務に入り始めた証拠とも言えます。
薬局や病院薬剤部で必要なのは、いきなり何十ページものAI規程を作ることではありません。
まず現場に、
①患者を特定できる情報を安易に外部生成AIへ入力しない
②AIの回答は一次情報ではない
③薬物療法に関する重要判断では原資料を確認する
④最終判断者は薬剤師である
という基本原則を共有することから始めるべきでしょう。
AIは「作る」から「判断を支援する」へ
今回の10カテゴリーを並べてみると、もう一つ重要な変化が見えてきます。
【図②:「作る→記録→検索→判断支援」薬剤師×AI進化図】
生成AIの薬剤師業務への入り方は、大きく4段階に整理できます。
Phase1 作るAI:メール、議事録、報告書、研修資料、文章要約
これはすでに多くの人が経験しているでしょう。
次が、
Phase2 記録するAI: AI薬歴、音声認識、SOAP生成、トレーシングレポート作成支援
そして現在急速に広がっているのが、
Phase3 探して整理するAI: DI、添付文書、インタビューフォーム、論文、ガイドライン、EBMなど
さらにその先に、
Phase4 判断を支援するAI: 処方評価、相互作用、疑義照会、服薬指導提案、フォローアップ、臨床推論
などです。
ここまで来るとAIは単なる業務効率化ツールではありません。
薬剤師の「考える領域」に近づいてきます。
管理者は「AIを使え」だけでは不十分
薬局管理者や病院薬剤部幹部にとって、ここが非常に重要です。
部下に、
「生成AIを勉強してください」
「ChatGPTを使ってください」
だけでは、組織としてのAI活用は進みません。
例えば今月から、次のように具体的に指示できます。
第1段階:一つの定型業務をAI化する
議事録、研修資料、DIニュース、報告書などから一つ選ぶ。
第2段階:AIの回答を必ず検証する
「AIがこう言っています」で終わらず、「何で確認したか」をセットにする。
第3段階:AIによる時間削減を測定する
導入前後で何分短縮されたかを記録する。
第4段階:生まれた時間の使い道を決める
患者対応、病棟業務、フォローアップ、DI、在宅、多職種連携などへ振り向ける。
こうすればAI導入を単なる流行ではなく、業務改善活動として管理できます。
最も危険なのは「AIを使うこと」ではない
AIが高度になるほど、
「AIを使うと薬剤師が考えなくなるのではないか」
という議論も増えるでしょう。
しかし私は、AI利用量だけで考えるべきではないと思います。
重要なのは、
「AIへの依存度」と「薬剤師自身の思考量」
の二つです。
【図③:「AI依存度×薬剤師思考量」4象限マトリックス】
最も目指したいのは、
AI利用度が高く、薬剤師の思考量も高い状態
です。
例えば、
- 患者との会話をAIが記録する。
- AIが問題候補を提示する。
- 薬剤師が批判的に評価する。
- 必要なら追加情報をAIで検索する。
- 添付文書、ガイドライン、原著論文等で確認する。
- 薬剤師が最終判断する。
- AIがその結果を薬歴として構造化する。
この使い方ならAIは、
「能力代替装置」ではなく「思考増幅装置」
になります。
逆に危険なのは、AIが作った文章をそのまま薬歴にし、AIの提示した問題をそのまま採用し、AIの服薬指導案をそのまま患者へ伝える状態です。
効率は上がっても、薬剤師自身の判断能力が育たなくなる可能性があります。
10月から現場で始めたい「AI3指示」
薬局経営者、管理薬剤師、病院薬剤部幹部には、まず現場へ次の3つを指示することを提案します。
①「一人一業務」でAIを試す
各薬剤師がAIで改善したい業務を一つ決める。
②「AI+確認元」をセットにする
薬物療法に関係する回答では、添付文書、IF、ガイドライン、論文など「何で確認したか」を明示する。
③「何分浮いたか、何に使ったか」を記録する
AI活用のKPIを「利用回数」にしない。
時間削減+患者・医療への再投資
をKPIにする。
例えば薬歴作成が1日20分短縮できたなら、その20分で何人の患者をフォローできたのか。
病院なら、どの病棟介入、多職種連携、DI、薬物療法評価に時間を移せたのか。
そこまで測って初めて、AI導入効果が見えてきます。
AI時代に問われるのは「何をAIに任せないか」
2026年9月時点の薬剤師AIトレンドを追ってみると、一つの方向性が見えてきます。
これまでの問いは、
「薬剤師はAIを使えるか?」
でした。
これからは、
「薬剤師業務のどこまでAIに任せるのか?」
になります。
そして、その先にある本当の問いは、
「AIを使いながら、薬剤師は何を自分で考える専門職なのか?」
ではないでしょうか。
AI薬歴が普及しても、DI検索が高度化しても、AIが処方上の問題点を提示できるようになっても、患者の背景を理解し、その情報を評価し、患者にとって何が最善なのかを考え、最終的に責任を持って判断する役割は重要です。
だから、
AIによって薬剤師の仕事を減らすのではなく、AIによって「薬剤師にしかできない仕事」の時間を増やす。
ここを薬局・病院薬剤部のAI導入の目標にすることが肝要かと思います。
次回以降もPAITを定点観測し、
「何が増えたのか」
「何が成熟したのか」
そして、
「AIによって薬剤師の仕事がどう変わっているのか」
を追っていきたいと思います。