薬局の倒産から見えるこれからの生き残り戦略
―「処方箋が来れば大丈夫」だった時代は終わった。今、選ばれる薬局とは?―
最近、「薬局の経営が厳しくなった」という話を聞く機会が増えました。
しかし、私は現在の薬局経営の難しさを、単なる「診療報酬が厳しい」「処方箋が減った」という問題だけで捉えるべきではないと考えています。
いま起きているのは、もっと大きな構造変化です。
これまで薬局を支えてきた経営モデルそのものが、通用しにくくなっている。
薬局の倒産事例を追っていくと、その変化がはっきり見えてきます。
■ 薬局倒産は過去最多水準へ
東京商工リサーチによると、2025年の調剤薬局倒産は38件。前年の28件から35.7%増加し、2年連続で過去最多を更新しました。
しかも38件のうち29件、76.3%が負債1億円未満の小規模倒産です。倒産原因では「販売不振」が25件と65.7%を占めています。
帝国データバンクの年度集計でも、2025年度の調剤薬局倒産は30件で2年連続の過去最多。その8割超が資本金1000万円未満の小規模薬局でした。
つまり、現在進んでいるのは一部の大型企業の経営破綻というより、地域の中小薬局の足元から始まった経営危機なのです。
■ 薬局倒産の原因はどう変わったのか
薬局倒産の変遷を振り返ると、大きく4段階に分けて考えることができます。
① 従来型の経営不振
以前は比較的分かりやすい構造でした。
患者が減る。
処方箋が減る。
売上が減る。
そして経営が苦しくなる。
つまり、「処方箋枚数=経営力」に近い時代でした。
② コロナ型倒産
2020~2021年には受診控えという外部ショックが起こりました。
受診患者減少
↓
処方箋減少
↓
薬局売上減少
という急激な変化です。
ところが、コロナ禍が収束して患者が医療機関へ戻っても、薬局倒産は減るどころか再び増加しました。
ここに現在の問題があります。
③ 構造的不採算型
2023年頃から目立ってきたのが、
「患者はいる。処方箋も来る。それでも利益が残らない」
という問題です。
薬価改定、人件費上昇、光熱費や家賃などのコスト増、薬剤師確保、競争激化、システム投資……。
実際、東京商工リサーチが603社を分析した2024年度業績では、資本金1億円未満の企業は売上高が3.4%増加した一方、当期利益は48.7%減少しました。
これは現在の中小薬局が置かれた状況を象徴しています。
「売上があること」と「経営が健全であること」が、同じではなくなったのです。
④ これから始まる「選別」
さらに2026年度以降は、特定医療機関への依存度が高い門前型から、患者を地域で支える薬局への転換が一層問われます。
つまり今後は、
門前 → 地域
調剤 → 在宅・健康支援
処方箋 → 患者
店舗完結 → 医療・介護連携
という転換に対応できるかどうかが重要になります。つまり
■ 薬局を追い込む「7つの圧力」
現在の倒産は、一つの原因で発生するとは限りません。
①処方箋・患者数の減少
②調剤報酬・薬価への圧力
③薬剤師不足と人件費上昇
④門前・特定医療機関への立地依存
⑤DX・在宅対応などへの投資負担
⑥借入・M&A・多角化などの財務負担
⑦大手薬局・ドラッグストアとの競争
これらが複合的に重なることで、利益とキャッシュが少しずつ失われていきます。
したがって、現在の薬局倒産を、
「売上が減ったから倒産した」
だけで説明するのは危険です。
むしろ、
売上はある → 利益が減る → キャッシュが減る → 投資できない → 人材を確保できない → サービス力が落ちる → 患者が減る
という「慢性的な経営劣化」に注意する必要があります。
■ 消える薬局、生き残る薬局
では、この難局を乗り越える薬局とはどのような薬局でしょうか。
私は「規模の大きな薬局」だけが残るとは考えていません。
問題は規模ではなく、変化への適応力です。
【消える可能性が高い薬局】
- 特定医療機関への依存度が高い。
- 処方箋枚数だけを経営指標にする。
- 薬剤師不足を高い給与だけで解決しようとする。
- DXを単なるコストと考える。
- 在宅・地域連携への対応が遅い。
- 経営者の経験と勘だけで意思決定する。
共通しているのは、
「昨日までうまくいった方法を、明日も続けようとしていること」
です。
一方、生き残る薬局は違います。
- 面応需を増やす。
- 在宅医療に対応する。
- 医療・介護とのネットワークをつくる。
- DXで生産性を高める。
- 薬剤師を専門業務へ集中させる。
- 患者との継続的な接点をつくる。
- そして財務基盤を強くする。
つまり、
「処方箋を待つ薬局」から「地域に必要とされる薬局」へ変わっていくことです。
■ ドラッカーなら、この薬局危機をどう見るか
ここで参考になるのが、ピーター・ドラッカーの経営思想です。
ドラッカーの考え方を現在の薬局経営に置き換えると、私は三つの問いに集約できると思います。
第一条 処方箋ではなく、患者を見よ。
「今日、処方箋が何枚来たか」だけを見るのではありません。
- 患者は何に困っているのか。
- 地域は薬局に何を求めているのか。
- 自分たちはどのような価値を提供できるのか。
薬局の顧客を「処方箋」から「患者・地域」へ戻すことです。
第二条 昨日の成功を捨て、変化を機会にせよ。
- 「この病院の前だから大丈夫」
- 「昔から患者が来ている」
- 「今までこの方法でやってきた」
それこそが最大のリスクになる可能性があります。
ドラッカーが重視した考え方の一つが「計画的廃棄」です。
続けることを決めるだけではなく、
「何をやめるのか」を決める。
そして空いた人、時間、資金を在宅、地域連携、DX、人材育成など、未来につながる領域へ振り向けるのです。
第三条 「大きい薬局」より「なくては困る薬局」になれ。
これからの薬局経営で最も重要な問いは、
「何店舗あるか」
でも、
「処方箋が何枚あるか」
でもありません。
「この薬局がなくなったら、地域の誰が困るのか」
という問いです。
患者、家族、医師、訪問看護師、ケアマネジャー、介護施設、地域住民。
多くの人から、
「あの薬局がなくなると困る」
と言われる状態をつくる。
それこそが、中小薬局にとって最大の競争優位ではないでしょうか。
■ 生き残るとは「残ること」ではない
薬局業界はこれから再編の時代に入ります。
しかし、私はこれを単純な「淘汰」と捉える必要はないと思っています。
むしろ、薬局という存在そのものを再定義する時代です。
最後に、今回の倒産分析から導いた三つの言葉を残したいと思います。
処方箋を 見ているだけでは 患者は見えない。
薬を渡した その先に 薬局の仕事がある。
変わるのが こわいからといって 昨日と同じでは いられない。
変化は 逆風にもなる。 追い風にもなる。
大きくなくてもいい。 「あの薬局がなくなると困る」 地域から そう言ってもらえる薬局でありたい。
生き残るとは、残ることではない。
必要とされ続けることだ。
薬局はいま、「処方箋小売業」から「地域医療インフラ」へ転換できるかを問われています。
淘汰ではなく、進化の時代へ。
目先の対策は、もうすでに投資にはなりません。回収不可のただの経費でしかありません。
薬剤師でもある古謝玄太氏の沖縄知事選応援演説で国民民主党の榛葉賀津也幹事長の言葉が今の薬局へのエールとも聞こえました。
「沖縄は右へ左へやじろべえでした!」 「やじろべえは、前に進むことはできません!」 「右でも左でもなく、沖縄を前に進めましょう!」
その一歩を、前に進むための一歩に。