AxDx時代の薬剤師スキル|第2部 2030年、薬局の生存を決めるのは「教育戦略」である
― 高度な教育は外へ、土台の教育は内で作り込む ―

30秒で読む要約
2030年に向けて、薬局の持続可能性を左右する重要な経営課題の一つが薬剤師教育である。研修の受講回数を増やすだけでは、実務能力の向上は保証されない。全員に必要な基礎教育を保障しながら、習熟度や役割に応じた教育投資が必要になる。座学に加えて、体験・実践・振り返り・教える機会を組み込むことで、学習を現場の行動につなげる。さらに、学んだ成果が適切に評価され、組織全体へ継承される仕組みが重要である。教育を研修管理ではなく、薬局の経営戦略として捉え直したい。
はじめに|薬剤師教育は、なぜ経営問題なのか
2030年に向けて、薬局経営者が考えなければならない問題の一つが、薬剤師の教育である。
在宅医療、地域連携、医療DX、生成AI、患者の生活背景を踏まえた薬学的判断。薬局に求められる機能が変化するなかで、薬剤師に必要な能力も変わり続けている。
前回の第1部では、2030年に向けて薬剤師に求められる能力を、次の5つに整理した。
- 薬学的評価・臨床判断力
- 患者とのコミュニケーション能力
- 多職種連携・情報共有能力
- AxDx・情報評価能力
- 継続学習・職務適応能力
しかし、ここで薬局経営者には別の問題が生じる。
必要な能力が分かったとして、それを誰に、どのように、どこまで教育するのか。
薬剤師全員を高度な専門職に育成することは、現実的なのだろうか。
中小薬局には、教育予算、教育担当者、研修時間に限界がある。日々の調剤業務を維持しながら、すべての薬剤師に同じ教育内容を提供することが、必ずしも最適とは限らない。
教育が経営に直結する理由は、具体的な制度にも表れている。例えば健康サポート薬局では、所定の研修を修了し、薬局薬剤師として5年以上の実務経験を有する薬剤師の常駐が求められる。地域連携薬局や専門医療機関連携薬局についても、認定基準に応じた研修や人員体制が必要となる。在宅医療や地域連携の機能を拡大しようとしても、それを担える薬剤師がいなければ、経営計画を実行できない。
これから必要なのは、研修の数を増やすことではない。
薬局の将来像から逆算し、教育資源をどう配分し、学習をどう実務能力に変え、組織全体の力をどう高めるかという「教育戦略」である。
1.教育の出発点は「何を学ぶか」ではなく「どんな薬局になるか」
一般的な研修計画は、制度改定、新薬、医療安全、在宅医療、DXなどのテーマを並べるところから始まりやすい。
もちろん、必要な知識を更新することは重要である。
しかし、薬局経営の視点では、教育テーマより先に経営上の目的を明確にする必要がある。
例えば、在宅医療を拡大したい薬局であれば、薬剤師に必要なのは在宅医療の知識だけではない。患者の生活状況を把握し、薬学的問題を評価し、医師や訪問看護師などに必要な情報を伝える能力が求められる。
業務効率化を目指す薬局であれば、DXツールの操作方法だけでなく、業務を標準化し、情報を適切に評価し、改善を提案できる能力が重要になる。
管理薬剤師の育成であれば、薬学知識に加えて、品質管理、人材育成、経営数値の理解、問題解決能力が必要になる。
つまり、教育目標は薬局の経営目標と結びついていなければならない。
表1 薬局の経営課題と教育で育てる能力
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薬局の経営課題 |
教育で育てる能力 |
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在宅医療の強化 |
臨床判断、生活情報の把握、多職種連携 |
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地域の健康支援 |
健康相談、受診勧奨、地域資源との連携 |
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業務効率化・DX |
標準化、情報評価、AI活用、業務改善 |
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医療安全の向上 |
処方監査、疑義照会、報告・相談 |
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管理薬剤師の育成 |
人材育成、品質管理、経営判断 |
出典:筆者作成
教育は経営目標を実現するための手段であり、研修を実施すること自体が目的ではない。

2.薬剤師教育を「全員一律」で考えてよいのか
教育機会の公平性と、教育内容の一律性は同じではない。
すべての薬剤師には、患者の安全を確保し、必要な薬学的業務を適切に遂行するための教育が必要である。
一方、経験、習熟度、得意分野、担当業務、将来の役割は個人によって異なる。
全員に同じ高度研修を受けさせても、業務上の必要性や習熟度によって、その効果は異なる可能性がある。
組織の人材を「2:6:2」に分ける考え方は、いわゆる働きアリの法則として引き合いに出されることがある。
ただし、これは人間の能力分布を示す科学的な法則ではない。
本記事では人数比率として採用するのではなく、教育上の必要性を整理するために、次の3つの状態を考える。
① 高度化・専門化の段階
基本的な実務能力を備え、さらに高度な臨床能力や専門性、組織を牽引する能力を伸ばす段階である。
専門研修、症例研究、病院研修、外部の専門家との交流、指導者としての経験などが教育の中心となる。
② 実務能力の発展段階
基本業務を遂行できる一方、判断の深さ、問題発見力、多職種連携などをさらに高める余地がある段階である。
症例検討、OJT、業務改善活動、実践を通じた学習が重要になる。
③ 基礎能力の補強段階
特定の業務や新しい技術について、基本的な知識、操作、判断手順を補強する必要がある段階である。
標準化された教材、反復練習、具体的なフィードバック、AxDxによる学習支援などが役立つ。
この3類型は、人間そのものの優劣を決めるものではない。
同じ薬剤師でも、服薬指導では高度な能力を持ち、生成AIの利用では初学者ということがある。経験年数や年齢だけで能力を判断することも適切ではない。
大切なのは、人を固定的に分類することではなく、能力や業務ごとに教育方法を変えることである。

3.座学だけでは「使える能力」にならない
「弁当付き勉強会で、薬剤師は育つのか?」
これは、メーカー主催の勉強会そのものを否定する問いではない。問題は、研修を受講したことと、実務能力が向上したことを同じものとして扱っていないか、という点である。
薬剤師の教育には、講義、学会、eラーニング、認定研修など、多様な学習機会が存在する。
これらは知識の習得や更新に重要な役割を果たしている。
しかし、講義を受けて内容を理解したことと、実際の患者に対して適切に判断できることは同じではない。
例えば、ポリファーマシーに関する研修を受講した薬剤師が、複数の薬剤を服用する高齢患者に対応する場面を考えてみたい。
研修内容を記憶しているだけでは十分ではない。
患者の症状、服薬状況、生活環境、検査値、処方意図などを整理し、優先すべき問題を判断し、必要に応じて医師と協議する能力が求められる。
学習科学では、知識を思い出す練習(想起練習)、時間をあけた反復(分散学習)、具体的なフィードバックなどが、学習の定着を支える方法として研究されている。
医療専門職教育を対象としたTrumbleらのシステマティックレビューでは、56研究・63実験のうち43実験で、分散学習や想起練習による有意な効果が認められた。
ただし、これらは主に学習成果を対象とした研究であり、薬局の医療安全や経営成果への直接的な効果を証明したものではない。
重要なのは、座学を否定することではない。
座学によって基礎知識や判断基準を学び、その知識を症例で使い、実務で試し、振り返りによって修正することである。
なお、「講義では5%、他者に教えると90%記憶に残る」といったラーニングピラミッドの数値には、信頼できる実証的根拠がない。
教育方法を評価する際には、こうした数値をそのまま採用するのではなく、学習内容、目的、評価方法に応じて効果を判断する必要がある。
4.「人に教えること」を教育戦略に組み込む
教育の方法を考えるうえで、もう一つ注目したいのが、学んだ内容を他者に説明する機会である。
人に教えるためには、知識を整理し、相手に分かる言葉で説明し、質問に答える必要がある。
その過程で、自分自身の理解が曖昧な部分に気づくこともある。
他者に教えることによる学習効果については、Kobayashi(2022)などの研究で、想起練習との関係を含めた検討が行われている。
これは高度な専門家だけに当てはまる話ではない。
例えば、新しい電子お薬手帳の操作を覚えた薬剤師が、別の薬剤師に操作方法を説明する。症例検討で学んだ内容を、翌週の店舗ミーティングで紹介する。
こうした活動も、学習を深める機会となる。
薬局では、教育を担当する薬剤師だけが教える仕組みではなく、学んだ人が次に他者へ説明する機会を持つことが考えられる。
ただし、教える内容の正確性を確保するため、指導者による確認やフィードバックは必要である。
また、他者に教えることが、すべての学習内容において最も効果的だと断定することもできない。
それでも、学習者が受け身で知識を受け取るだけでなく、自ら説明し、質問に答え、理解を確認する仕組みには、教育上の意義がある。
薬局の教育を個人の学習で終わらせず、組織の知識共有につなげるという点でも重要である。
5.高度な教育は外部へ、基礎教育は薬局内で標準化する
中小薬局では、限られた人員で幅広い教育を実施しなければならない。
高度な専門研修をすべて自前で提供することは、教育担当者の確保や教材の更新などの面で負担が大きい。
一方、日常業務に直結する基本教育は、薬局ごとの業務手順や設備、患者層に応じて継続的に実施する必要がある。
そこで、教育機能を大きく分けて考えることができる。
表2 教育領域と担い手
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教育領域 |
主な担い手 |
教育の方向性 |
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基本業務・医療安全 |
薬局内部 |
標準化、反復、到達度確認 |
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実務応用・業務改善 |
薬局内部を中心に外部も活用 |
OJT、症例検討、振り返り |
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高度な専門性・指導力 |
病院研修、外部研修機関、専門家等 |
専門研修、実践交流、指導者育成 |
出典:筆者作成
外部教育と内部教育は、どちらか一方を選ぶものではない。
外部で得た知識や専門性を、薬局内部で実践・共有し、組織全体の能力向上につなげる関係が重要になる。
また、標準化は薬剤師の専門性を否定するものではない。
基本業務を安定して遂行できるようにすることで、薬剤師が高度な判断や患者との対話に時間を使いやすくなる。
AxDxも、この基礎教育を支える手段の一つになり得る。
ただし、AIが提示した内容の正確性や適切性は確認が必要であり、患者に関する判断責任をAIへ移すことはできない。
6.研修の成果を「受講数」だけで測らない
教育を経営戦略として位置づけるためには、教育の成果を確認する必要がある。
従来の研修管理では、参加人数、受講時間、取得単位数、修了率などが指標になりやすい。
これらは教育機会が提供されたかを把握するために有用である。
しかし、それだけでは薬剤師の実務能力が向上したかどうかは分からない。
研修評価の代表的な枠組みであるカークパトリックモデルは、「反応・学習・行動・結果」の4段階で評価する。本記事では、この考え方を参考にしながら、薬局の教育管理に使いやすいよう独自に5段階へ再構成した。
表3 教育成果の5段階評価
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評価段階 |
確認する内容 |
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受講 |
教育機会を得たか |
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理解 |
知識や判断基準を理解したか |
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実践 |
学んだ内容を実務で使えるか |
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業務成果 |
医療安全、業務品質、連携などに変化があったか |
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組織成果 |
能力が継承され、組織全体の力になったか |
出典:カークパトリックモデルを参考に筆者作成。原モデルの4段階と一対一に対応するものではない。
例えば、服薬指導研修を実施した場合、受講者数だけでなく、模擬症例への対応、実際の業務における行動、指導内容の質などを確認することが考えられる。
さらに、教育の効果を検証する際には、業務環境、患者構成、制度変更などの影響も考慮する必要がある。
研修後に業務成果が改善したとしても、そのすべてを研修の効果と断定することはできない。
それでも、受講実績だけにとどまらず、行動変容と組織成果を確認する姿勢は、教育投資の質を高めるうえで欠かせない。

7.学んだ薬剤師が「報われる仕組み」をつくる
教育を経営戦略にするためには、学習機会の提供だけでなく、学んだ成果が適切に評価される仕組みが必要である。
薬剤師が新しい能力を習得しても、業務上の役割が変わらず、負担だけが増えるのであれば、継続的な学習意欲を維持することは難しい。
例えば、在宅医療の研修を受けた薬剤師には、習熟度に応じて在宅業務を担う機会を提供する。後輩の教育に貢献した薬剤師には、その指導活動を人事評価やキャリア形成に反映する。
ただし、研修を受けたという事実だけで評価するのではない。学んだ内容を実務で活かし、患者対応や業務品質、組織への貢献につなげたことを評価するのである。
そのためには、学習時間の確保、役割の明確化、評価基準の共有、処遇への適切な反映が欠かせない。
教育投資によって成長した薬剤師が転職・退職する可能性は、どの薬局にもある。だからこそ、特定の人材に知識を集中させず、教え合い、標準化し、組織に能力を残す仕組みが必要となる。
教育への投資と、学んだ人材が報われる組織運営は、一体で考えるべき経営課題である。
8.AxDx時代の教育は「知識量」だけでは評価できない
生成AIや医療DXの進展によって、薬剤師が情報を入手する方法は変わりつつある。
薬剤情報の検索、文書の要約、研修資料の作成、症例検討の補助など、AxDxは教育にも活用できる。
しかし、情報を容易に得られることと、その情報を正しく評価できることは異なる。
生成AIがもっともらしい誤答を示した場合、その問題に気づけなければ、むしろ誤った理解を強める可能性がある。
したがって、AxDx時代の教育では、ツールの操作方法に加えて、情報源の確認、臨床的な妥当性の評価、判断根拠の説明が重要になる。
第1部で示したAI利用時の5つの安全行動、**「止まれる・確かめられる・言い換えられる・盛らない・聞ける」**も、教育の共通基盤として重要である。具体的なAI薬歴への応用は、第3部で取り上げる。
特に基礎教育では、AIを活用する以前に、医療安全や薬学的判断の基本を理解していることが前提となる。
一方、基本的なデジタル操作や情報整理については、年齢や経験年数にかかわらず、習熟度に応じた支援が必要になる。
AxDxは、教育の代替手段というより、個々の学習を支え、教育担当者の負担を軽減し、振り返りを促す補助的な基盤として位置づけることが適切である。
9.教育が薬局の持続可能性を左右する
薬局の経営環境が変化するなかで、薬剤師の教育は人事管理だけの問題ではなくなっている。
必要な能力を持つ薬剤師が不足すれば、新しい業務への対応が難しくなる。
教育が個人任せになれば、業務の質や対応能力にばらつきが生じやすい。
特定の薬剤師だけが高度な業務を担当できる組織では、その人材の異動や退職が業務継続上のリスクになる可能性もある。
反対に、基本業務が標準化され、専門能力が適切に育成され、知識が組織内で共有される仕組みがあれば、環境変化への対応力を高めることができる。
教育投資は、短期間で売上増加に直結するとは限らない。
それでも、業務品質、患者対応力、管理者育成、組織の継続性を支えるという意味で、薬局の中長期的な経営基盤を形成する。
2030年に向けて問われるのは、研修制度が充実しているかどうかだけではない。
学習した知識が、現場の判断と行動に変わり、組織の能力として蓄積されているか。
その仕組みを持てるかどうかが、薬局の持続可能性を左右する重要な要因になる。
想定される反論
反論1:教育に投資しても、育った薬剤師が辞めたら投資が無駄になるのではないか。
退職リスクは避けられない。しかし、教育を個人に閉じず、教え合う仕組みや業務標準化によって組織に残すことはできる。また、学習時間の確保、役割、評価・処遇、キャリア形成を整えることは、人材の定着を支える可能性がある。退職リスクがあるからこそ、特定の個人に依存しない教育が必要である。
反論2:全員に同じ研修を受けさせないのは不公平ではないか。
医療安全や法令遵守など、全員に必要な基礎教育は共通して保障すべきである。そのうえで、担当業務や習熟度に応じて教育内容を変えることは、教育機会の不平等とは区別して考える必要がある。
反論3:教える経験が少ない薬剤師に、他者を指導させてよいのか。
説明する経験には学習上の意義があるが、指導内容の正確性を担保する仕組みが必要である。特に臨床判断に関わる内容では、経験豊富な指導者による確認を欠かすことはできない。
反論4:小規模薬局には教育の時間がない。
時間と人員の制約は現実的な課題である。だからこそ、研修時間を増やすことだけでなく、日常業務のなかで学習と振り返りが成立する組織運営を検討する必要がある。
今月やること
- 自薬局の3年後の経営目標と、必要な教育テーマを対応させる。
- 全員に共通して必要な基礎能力を書き出す。
- 直近の研修を1つ選び、学んだ内容が実務で使われたか確認する。
- 学んだ薬剤師が同僚に説明する機会を1回設ける。
- 学習・指導の成果を、役割や評価にどう反映するか検討する。
私見|薬剤師教育は「受けるもの」から「実践し、教えるもの」へ
私はこれまで、研修や教育の現場に関わるなかで、座学で知識を得ることと、その知識を実際に使えるようになることは、必ずしも同じではないと感じてきた。
経営者としての経験からも、学習意欲や能力の向上には個人差があると感じている。
特に実感しているのは、自分で体験すること、そして自分自身が講師となって人に教えることの重要性である。
人に教えようとすれば、曖昧な知識のままでは説明できない。相手から質問を受ければ、自分が十分に理解していなかった部分にも気づかされる。
つまり、教えること自体が、自分自身の学習になる。
薬局においても、研修会への参加回数や認定資格の取得だけで教育成果を評価するのではなく、学んだ知識を実践できたか、他の薬剤師に説明できるか、そして薬局全体の業務改善につながったかを重視する必要がある。
また、教育を全員一律に行うことが、必ずしも合理的とは限らない。
基礎的な能力の補強が必要な薬剤師には、標準化された教育と反復実践を提供する。さらに成長できる薬剤師には、新しい業務を経験する機会を提供する。そして、高度な専門性を持つ薬剤師には、専門能力の向上とともに、後進を育成する役割を担ってもらう。
ただし、これは薬剤師を固定的に格付けするものではない。個々の能力や教育上の必要性に応じて、教育方法を変えるという意味である。
私が経営戦略として重視したいのは、教育機会は全員に保障しながら、教育内容と投資配分は一律にしないという考え方である。
高度な専門教育は、病院研修など外部の教育資源を積極的に活用すればよい。一方、基本業務の標準化や日常の学習は、薬局自身が責任を持って作り込むべきだと考える。
そして、学んだ薬剤師が次の薬剤師を教える。
その循環ができれば、教育は特定の担当者だけの仕事ではなく、組織の日常的な活動になる。
ただし、教える役割を担う薬剤師の善意だけに依存してはいけない。学習や指導に必要な時間を確保し、実務で生み出した成果を適切に評価し、役割や処遇に反映することも経営者の責任である。
教育の目的は、知識を与えることではない。
学んだ知識を実践できる人材を育て、その人材がさらに他の人材を育てる組織をつくることである。
私は、これこそが2030年に向けた薬局の教育戦略の基本になると考えている。
おわりに|2030年に必要なのは「学び続ける組織」
薬剤師教育は、個人の努力だけに依存するものではない。
薬局がどのような機能を担い、どのような人材を必要とし、どのような教育環境を整えるかという経営判断が必要である。
座学で知識を学び、体験によって使い、振り返りによって改善し、他者に教えることで組織に広げる。
この循環を持つ薬局は、個人の能力だけでなく、組織としての対応力を育てることができる。
2030年に向けて、薬局に求められる機能はさらに変わっていくだろう。
その変化に対応するために必要なのは、すべての答えを知っている薬剤師を育てることではない。
新しい課題に直面したとき、学び、判断し、実践し、互いに教え合える薬局をつくること。
そして、全員の実務品質を保証する仕組みと、専門人材への戦略的投資を両立させること。
教育戦略とは、そのための経営戦略なのである。
次回予告
第3部
「犬好き薬剤師の悪魔の囁き①|AI薬歴、そのまま信じて大丈夫? ―AxDxのズル活用:手間は省いても、確認は省かない―」(仮題)
AI薬歴を題材に、生成AIが薬剤師の思考と判断に与える影響を考える。
参考資料
- 厚生労働省「健康サポート薬局に係る研修実施要綱の一部改正について」(2024年)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc8364&dataType=1&pageNo=1 - 厚生労働省「地域連携薬局及び専門医療機関連携薬局の認定基準に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5634&dataType=1&pageNo=1 - 厚生労働省「令和8年度薬剤師の資質向上等に資する研修事業実施法人の公募について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000210087_00046.html - Trumble E, Lodge J, Mandrusiak A, Forbes R. (2024). Systematic
review of distributed practice and retrieval practice in health
professions education. Advances in Health Sciences Education, 29,
689–714.
https://doi.org/10.1007/s10459-023-10274-3 - Dunlosky J, et al. (2013). Improving Students' Learning With
Effective Learning Techniques. Psychological Science in the Public
Interest.
https://doi.org/10.1177/1529100612453266 - Weinstein Y, et al. (2018). Teaching the science of learning.
npj Science of Learning.
https://doi.org/10.1186/s41235-017-0087-y - Kobayashi K. (2022). The Retrieval Practice Hypothesis in
Research on Learning by Teaching: Current Status and Challenges.
Frontiers in Psychology, 13, 842668.
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2022.842668 - Blume BD, et al. (2010). Transfer of Training: A
Meta-Analytic Review. Journal of Management.
https://doi.org/10.1177/0149206309352880 - Kirkpatrick DL. (1994). Evaluating Training Programs: The
Four Levels. Berrett-Koehler Publishers.
書誌情報確認資料:https://www.proquest.com/trade-journals/great-ideas-revisited-revisiting-kirpatrickss/docview/227011695/se-2
👉【note版:2030年、薬局の生存を決めるのは「教育戦略」である ―研修を受ける薬剤師から、実践し、教える薬剤師へ―】



