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11/06/2026

財政審が示す社会保障改革と薬局の未来|番外編  「包囲網は薬局の次に、診療所へ向かうのか?」

 

財政審が示す社会保障改革と薬局の未来|番外編 

「包囲網は薬局の次に、診療所へ向かうのか?」

情報時点:2026年11月5日。財政審の提言は制度決定ではありません。 

はじめに

本稿は第1部〜第3部の「事実の整理」を前提に、あえて「筆者の読み」を中心に書く番外編です。資料に書かれていることと、筆者の見立ては分けて記載します。きれいごとだけでは、経営判断を誤ります。

財政審の改革は、薬局だけで完結しません。薬局で積み上がった規制の「階段」は、診療所にも同型で架けられようとしています。高額療養費の凍結・修正の裏側、OTC類似薬で処方箋単価の穴が埋まるのかという試算、そして財務省の提言が近年通りやすくなっている構造まで、経営者の視点で読み解きます。

 

包囲網は薬局の次に、診療所へ向かうのか

第1部で見た通り、薬局に対する規制は「階段」になっています。

入口では、薬学部の定員抑制・削減という形で、薬剤師の供給そのものを絞る量的コントロールが既に動いています。報酬では、処方箋集中率による調剤基本料の逓減が入り、2026年度改定では都市部の門前薬局への減算(集中率85%超等の要件)が新設されました。そして今回の財政審資料は、「減算の効果が不十分なら、更なる報酬対応や量的規制も含め検討」と、次の段を予告しています。要請→報酬誘導→規制、という順番です。

診療所側も、実は階段の1段目は設置済みです。外来医師多数区域では、新規開設者に対して「地域で不足する医療機能を担うよう要請」する仕組みが既にあります。今回の資料はそこに、新規参入への制限だけでなく「既存の医療機関も含めた需給調整の仕組みの創設」を重ねようとしています。薬局と同じ型です。ただし、これはあくまで提案段階です。

医師会の反論は「地域医療が崩壊する」でしょう。しかし財務省の資料は、その反論を先回りして取り込んでいます。「小規模分散だから持続しない。集約化こそ地域医療を守る」という論法で、崩壊論を集約化の根拠に反転させているのです。崩壊を訴えるほど「だから再編が要る」と返される構図には注意が必要です。

 

なお、診療所には薬局と決定的に違う壁があります。開設が届出制(自由開業)であり、ここを許可制化するには医療法改正という重い手続きが要ります。代わりに効く入口は「保険医療機関の指定」です。指定は更新制で、取消しの仕組みもあります。今回の資料が医療扶助の文脈で「指定医療機関に対する検査や指定取消等の実効的な運用」に触れているのは、この入口を意識したものと筆者は読みます。自由開業の壁は高く、医師会の反対も強いため、薬局ほどストレートに進むとは限りません。

 

高額療養費の凍結は「当て馬」だったのか

2024年末に示された高額療養費の上限引き上げ案は、患者団体の強い反発を受け、2025年春に一旦凍結・修正されました。その後、引き上げ幅を圧縮した修正案が決定し、2026年8月から実施されています(多数回該当の据え置きや年間上限の新設など、長期療養者への配慮が加えられた)。

財政審資料では、令和8年度の効率化として高額療養費制度の見直し等で年間約300億円が計上されています。凍結は「撤回」ではなく「修正・後回し」として処理されたのが実態です。

これが意図的な「当て馬」だったかどうかは、検証できません。ここは筆者の見立てとして書きます。

ただし、機能として見ると、あの凍結・修正劇は2つの効果を残しました。1つは、患者負担に直結する改革の政治コストの高さが可視化され、「患者負担の改革は高い」という相場観ができたこと。もう1つは、その相場観があるからこそ、OTC類似薬の追加負担や高齢者窓口負担の原則3割化が、相対的に「まだ穏当な方」に見える土壌ができたことです。高血圧や脂質異常症など、生活習慣病の薬がOTC類似薬議論の中心にあることを思うと、静かに進むこちらの方が本命だった、という読みも成り立ちます。

ただし、主流の理解は「政治的コストが高かったため修正されたが、方向性自体は維持され、より慎重に進められている」というものです。意図の断定は避けます。そして皮肉なことに、高額療養費の見直し自体は死んでいません。資料上は生き続けています。

OTC類似薬で処方箋単価の穴は埋まるのか

OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しは、令和9年度の改革メニューに「施行」として入りました。2027年3月1日から、対象となる77成分・約1042品目について「一部保険外療養」が始まります。これは完全な保険外しではなく、**薬剤費の4分の1を「特別の料金」として追加負担**し、残り4分の3は通常通り保険給付の対象で、通常の自己負担割合が適用される仕組みです。こども・がん・難病・長期使用(医師判断)など、複数の除外類型もあります。単独ではなく、2027年度中間年改定の「完全実施」(乖離率による対象限定なし)と、費用対効果評価の対象・範囲拡大とセットで、薬剤費を毎年削る仕組みとして並んでいます。

では、追加負担が生じる薬の需要が薬局のOTC販売に流れれば、処方箋単価の低下は埋まるのでしょうか。完全な保険外しではないため、この前提は過大になりやすいものです。追加負担による一部シフトは起こり得ますが、全面的な処方箋減・OTCシフトにはなりにくいのが現時点の主流理解です。

単純化した試算を置きます。月商1,000万円(調剤900万円・物販100万円)の薬局を仮定します。対象薬の影響により調剤売上が仮に1〜2%程度下がった場合でも、失う粗利を物販で取り戻すには一定の売上増が必要です。しかも相手は価格競争に強いドラッグストアとECです。

 

結論として、「埋まる」というより「差がつく」話だと考えます。かかりつけ機能とセットでセルフメディケーションの相談・販売を取りに行ける薬局と、調剤一本の薬局で開きが出る。2024年10月からの長期収載品の選定療養が先行事例であり、その流れの延長にOTC類似薬があります。

財務省の提言は、なぜ通るようになったのか

財務省の指摘事項が改革に反映される率は、上がっていると感じます。少なくとも薬価分野では、中間年改定の定着そのものが財政審の主張の制度化でした。今回の「完全実施」もその延長線上にあります。

 

一方で、分野によって対応率は割れています。薬価や報酬の技術的な適正化は通りやすくなったけれど、高額療養費のように患者負担に直結するものは大幅な引き上げが跳ね返され、修正を余儀なくされた。全部が通るわけではありません。

背景には政権との接続があります。今回の資料の大目標は「2027年度の社会保障負担率を2025年度比で上げない」こと。積極財政を掲げる政権ほど、歳出側の適正化メニューを必要とします。財務省出身の財務大臣のもとで、財政審の提言が政権の財源づくりとそのまま接続する配置になっている。これは政権への評価ではなく、構造の指摘として書いています。提言が「財務省の持論集」であるほどには、もう読めないということです。

資料に「書かれていない」こと

読み解きをするなら、書かれていないことの確認も同じくらい大事です。

今回の資料を全文確認すると、「薬の転売」という言葉は出てきません。資料の言葉はあくまで「重複・多剤投薬の是正」と「服薬管理」です。外国人についても専用のページはありますが、論点は難民認定申請中の人への支給の役割分担と、入国直後の申請に関するデータ不足の指摘であり、資料自身が外国人の受給者は減少傾向で被保護人員の3.24%だと示しています。

世間で言われている言説と、一次資料が実際に言っていることは、しばしばずれます。経営判断の材料にするなら、この切り分けを怠らないことが前提です。

 

経営者は何を先回りすべきか

包囲網の読みが正しいかどうかは、年末の建議と2026年度診療報酬改定で言葉がどこまで残るかで分かります。ただ、待つだけが経営ではありません。

診療所の集約化が進めば、門前薬局の立地の前提が変わります。自店の処方元が「残る側」か「再編される側」か。第3部で触れた通り、主要な処方元の診療体制と承継の見通しを点検しておくことです。OTCについては、追加負担が決まってから品揃えを考えるのでは遅く、相談対応を含めたセルフメディケーションの受け皿を平時から作っておく店舗が、制度変更を追い風に変えられます。

規制の階段は、予告されてから上るのが財務省の型です。予告の段階で動けるかどうかが、次の改定での差になります。

想定される反論

「当て馬説は陰謀論ではないか」という反論は妥当です。本稿では意図の断定を避け、「機能としてそう働いた面がある」という範囲で書いています。また「診療所の量的規制は自由開業の壁が高く実現しない」という見方もあります。本稿が指摘したのは開設規制そのものではなく、要請・報酬誘導・保険指定という迂回路の階段です。

 

今月確認したいこと

主要な処方元の診療所の体制・承継の見通し/自店の物販売上とOTC相談対応の体制/固定費の見直し余地/年末の財政審建議で「量的規制」「需給調整」の言葉が残るか。

 

参考資料・更新メモ

財務省「財政制度等審議会 財政制度分科会(令和8年11月4日開催)提出資料 社会保障」 

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20261104/01.pdf

本シリーズ第1部〜第3部(note/Blogger)もあわせてご覧ください。

更新メモ:2026年11月5日、番外編として新規作成。本稿の見立て部分は筆者の分析であり、政府の公式見解ではありません。

 

👉【note版】:きれいごと抜きで読む、薬局「包囲網」とOTCの現実 若手薬剤師のための制度の読み方

 

11/05/2026

財政審が示す社会保障改革と薬局の未来 第2部 積極財政なのに薬局には逆風? ――高市・片山体制と、財政審の提言を動かす政治の力

 財政審が示す社会保障改革と薬局の未来 第2部

積極財政なのに薬局には逆風?

――高市・片山体制と、財政審の提言を動かす政治の力

はじめに|「積極財政なら医療費削減は弱まる」は本当か

高市政権が積極財政を掲げるなら、医療費削減を求める財務省の圧力は弱まるのではないか。そんな見方もある。しかし私は、むしろ逆の可能性を考えている。成長投資を重視するからこそ、政策効果が乏しいと判断された支出や、効率化の余地があるとみなされた分野に対して、選択的で強い見直しが進むのではないか。

ここで注意したい。「財務省が無駄と考えるもの」と「地域医療にとって不要なもの」は同じではない。小さな薬局が多いことは財政上の非効率に見えるかもしれないが、患者の移動や服薬支援を考えれば必要な店舗もある。政策の評価軸が違えば、結論も違う。だからこそ財政審の資料だけを読んで次の改定を決めつけることはできない。見るべきなのは、提言を採用するかどうかを決める政治の側である。

1|財政審は政策決定機関ではない。それでも無視できない理由

▶図5:財政審の提言は、どう制度になる?

財政制度等審議会は、財政の持続可能性や予算の効率性を重視して提言をまとめる。診療報酬や医療制度は、厚生労働省、社会保障審議会、中医協、与党、国会、医療関係団体、保険者、患者などの議論と調整を経て形になる。財政審の要求がそのまま制度になるという前提は、そもそも正しくない。

それでは、なぜ毎回その資料を気にするのか。過去に実現しなかった要求が消えず、形を変えて次の改定に現れる場合があるからだ。診療所の報酬適正化、リフィル処方箋、生活習慣病管理の見直し、薬局の立地依存への評価など、論点は一度の改定で完結しない。提言、部分的な制度化、効果検証、追加の要求という循環が見られる。これを「財務省がすべてを決めた」と説明するのは間違いだが、「財務省が言っているだけ」と片づけるのも、政策の流れを見落とす。

財政審の提言には、政治的な抵抗や現場への影響を踏まえて採用されないものもある。重要なのは、採用・不採用の二択ではない。どの論点が残り、どの論点が修正され、どの条件が整うと前へ進むのか。その比較こそが、将来を読む材料になる。

2|医師会が反対してきた制度は、なぜ現実になったのか

▶図6:医療制度は一度では変わらない

医療政策では、医師会をはじめとする職能団体の意見が大きな意味を持ってきた。医療安全、診療現場の実態、患者への影響を踏まえた慎重論には正当な理由もある。一方で、医療機関の収益構造や既存の診療慣行を守る働きかけがあったことも、政策を考える際には無視できない。

ここ数回の改定を振り返ると、かつて導入が難しいと考えられていた制度が実際に始まっている。代表例が2022年度改定のリフィル処方箋だ。制度化は実現したが、普及は別問題であり、医師の処方判断、患者の理解、薬局の対応などによって利用状況は左右される。「制度ができた」と「現場が変わった」を区別しなければならない。それでも、導入の可否をめぐる議論が、制度の運用方法をめぐる議論へ移ったことは大きい。

2024年度には、高血圧症、糖尿病、脂質異常症が特定疾患療養管理料の対象から外れ、生活習慣病管理料の体系が再編された。一般的な処方箋料も68点から60点へ引き下げられた。オンライン資格確認や医療DXの整備も進み、電子カルテ情報の標準化が政策課題となった。すべてが財政審の要求どおりに実現したわけではないし、医師会が一貫して全項目に反対したと断定できるわけでもない。しかし、従来の診療所経営の前提が少しずつ書き換えられてきたことは確かだ。

「医学管理料は守られる」「頻回の通院と処方箋発行は続く」「DXへの対応は任意のままだろう」。そうした前提に頼った経営判断は、制度が変われば成立しなくなる。政策の影響は、改定率のプラス・マイナスだけでは測れないのである。

3|政治団体の影響力は、どう変化しているのか

医師会と自民党の関係は、長く医療政策を理解するうえで重要な要素だった。政治団体の資金面での支援、選挙協力、政策要望、現場の専門情報の提供など、働きかけにはさまざまな形がある。しかし、政治資金をめぐる規制や社会的な監視が強まる中で、従来と同じ方法で政策を抑止できるのか、という疑問は生じる。

私は、政治資金の変化だけで医師会の影響力が何割低下したと示せるとは考えていない。政策形成の舞台裏は数字だけでは分からず、政治団体の力を献金額だけで測ることもできない。ここでは、従来の抑止力が相対的に弱まっている可能性を、一つの政治的背景として位置づけたい。決定的な証拠がないからといって、制度の変化を読む際に政治的な力関係を無視するのも適切ではない。

ただし、医療団体の意見が反映されにくくなることが、必ずしも望ましいとは限らない。財政効率を重視する改革が患者の受診機会や地域の医療供給を損なう場合には、現場の意見による修正が不可欠だからだ。重要なのは「誰が勝ったか」ではなく、どの政策目的が優先され、何が後回しにされたかを見ることである。

4|高市・片山体制で、財政省の提案はどう扱われるのか

私が注目しているのは、積極財政を進める政権が、すべての歳出を拡大するわけではないという点だ。成長分野への投資、医療人材の賃上げ、病院経営の支援、医療DXの推進には財源が必要になる。一方で、保険料負担や財政の持続可能性も政治課題であり続ける。この両方を進めるなら、費用対効果が低いと判断された支出の見直しが強まるというシナリオは十分に考えられる。

2026年7月には財務省幹部人事が行われ、金融庁の組織再編も公表された。行政組織の変化を、政権の政策運営の文脈で見ることはできる。ただし、人事の目的が薬局や診療所の報酬削減にあったと証明されたわけではない。片山財務大臣の経歴から個々の医療政策の決定を推定することも避けたい。重要なのは人事の裏側を断定することではなく、政権が財政審のどの提案を政策として選ぶかだ。

ここで私の仮説は明確である。成長投資のために、従来の財政審が繰り返し求めてきた「比較的効果が期待できる適正化策」が選択的に採用される可能性がある。薬局の密集への減算、診療所の管理料の要件見直し、長期処方の促進、医薬品給付の見直しなどは、財政効率の論理と結びつきやすい。ただし、患者負担の増加や地域医療の縮小を伴う改革には政治的な反発も起こり得る。だから、すべてが一方向に進むわけではない。

5|「病院を支える」ことと「薬局を厳しく評価する」ことは両立する

医療政策を病院対薬局、医師対薬剤師の対立で捉えるべきではない。それでも予算配分には優先順位がある。病院の人材不足や物価高への対応を手厚くしようとすれば、別の領域で効率化を求める議論が生まれる。財政当局が薬局の小規模分散や立地依存を問題視するのは、こうした資源配分の議論とも接続している。

しかし、薬局の報酬を削れば自動的に病院の薬剤師が増えるわけではない。勤務地、給与、勤務時間、専門性、教育環境など、薬剤師の就業選択には複数の要因がある。小規模薬局を集約しても、地域の患者が薬を受け取れなくなれば社会的な費用は増える。政策が効率的に見えても、現場で新たな負担を生む可能性は検証しなければならない。

ここが薬局業界の説明責任でもある。単に「減算は困る」と主張するだけでは、財政論に対抗しにくい。薬局が処方の適正化、重複投薬の防止、在宅患者の支援、医薬品供給の安定化にどのように貢献しているか。その実績を示せなければ、財政上の非効率という評価に押し切られる恐れがある。

6|2028年度改定をどう読むべきか

私は、次回改定の点数を予言したいわけではない。見るべきは、財政審の提言が政府方針に入り、厚労省の制度設計に移り、中医協で具体的な評価項目になるまでの経路である。提言の段階では幅広い選択肢が並んでいても、政策化の過程で対象や経過措置が限定されることがある。逆に、限定的に始まった制度が、効果不足を理由に拡大されることもある。

ここで、もう一つ見落とせないのが患者負担の問題である。OTC類似薬の保険給付、長期収載品の選定療養、高齢者の窓口負担といった議論は、財政効率だけでなく受診行動や服薬継続にも影響し得る。患者の自己負担が増えれば、薬局の窓口で説明する時間や、医師への問い合わせも増えるかもしれない。制度改正の財政効果が大きく見えても、患者の受診控えや治療中断が起きれば、別の医療費を生む可能性もある。薬局の経営者は、削減される報酬だけでなく、制度変更に伴う現場負担と患者への影響を見ておく必要がある。

薬局経営者は、改定直前の答申だけを追うのでは遅い。財政審、骨太方針、厚労省の検討会、中医協で、同じ言葉がどう変化しているかを見たい。「小規模分散」「立地依存」「対人機能」「医療人材の最適配分」。これらの言葉が、いつ政策目標から具体的な算定要件へ変わるのかが重要だ。

原案の論拠と考察を深める

【原案の核心を復元】積極財政と歳出適正化は、むしろ両立する

私は、積極財政を掲げる政権なら薬局への減算圧力が弱まる、という期待には慎重だ。成長投資や医療人材の処遇改善を進めるほど、限られた財源をどこに重点配分するかという選択が厳しくなる。ここで財政審の提言が、政府の政策目標と整合する部分だけ採用される可能性がある。全ての医療費を一律に削るという話ではない。必要性の高い医療への投資と、立地依存・重複投資・給付範囲の見直しが同時に進む、というのが私の見立てだ。これは政権がその方針を決定したという意味ではなく、政策の組合せから考えた仮説である。

「提言が通った」だけでは政治は説明できない

財政審は政策決定機関ではない。厚生労働省は医療提供体制や安全性を考え、医師会・薬剤師会などの団体は現場の実態と利害を伝え、与党と政権は選挙や財政、国民生活への影響を勘案する。過去の改定で財政審が要求した内容の一部が制度に現れたとしても、それだけで財政審が勝ったと結論づけることはできない。むしろ重要なのは、以前は政治的に実現しにくかった選択肢が、どの条件の変化によって制度化されるようになったのかという問いだ。

医師会との力関係をどう読むか

医師会と自民党の関係は、長く医療政策を考えるうえで無視できない要素だった。政治資金をめぐる制度や世論の変化によって、政治団体の圧力が以前ほど働かなくなっているのではないか。私はそう感じている。ただし、政治資金の変化が個々の診療報酬改定を直接生んだと示す証拠はない。ここはあくまで政策環境に関する著者の観察として置く。一方、リフィル処方箋が2022年度に制度化され、2024年度には生活習慣病管理料の体系が再編され、院外処方箋料が引き下げられたことは制度上の事実である。実現した制度と、その政治的な原因は分けて論じる。

財務省人事が示すもの、示さないもの

2026年夏の財務省幹部人事や金融行政の組織再編は、政権による行政運営を考える材料になる。片山財務大臣が予算編成や歳出の重点化を重視していることも、政策の文脈として見ておきたい。しかし、人事異動だけで「医療費削減方針への転換が命じられた」と結論することはできない。私が注目するのは、人物評価ではなく、予算の重点配分と社会保障改革を一体として進める政策環境である。今後の予算案、政府方針、厚労省の制度設計、中医協の議論がどこで接続するかを追うべきだ。

医療費適正化は、薬局だけの問題ではない

薬局の立地依存減算、診療所の管理料見直し、長期処方やリフィルの普及、医療DXによる事務の標準化は、別々の話に見えて同じ方向を向くことがある。医療資源の配分と患者の受診行動を変えるという方向だ。ただし、DXは安全性や利便性の向上が目的でもあり、単純な人員削減策と決めつけてはならない。記事で強調したいのは、個別の点数改定を読むだけでは足りず、財源・政治・医療提供体制という三つの層を重ねて見なければ、薬局経営の変化を読み違えるということだ。

【筆者の私見】財務省が強くなったのではなく、政治の受け止め方が変わるのではないか

私の問題意識は、財政審の提言が突然過激になったということではない。財政審は以前から厳しいことを言ってきた。それを政治がどこまで受け入れ、どこで抑えてきたかが重要だった。いま私が感じているのは、成長投資と社会保障改革を同時に進めようとする政権の下で、財政審の提言を採用する条件が変化しているのではないかということだ。

これは事実の断定ではなく、過去の改定と現在の政治環境を重ねて考えた仮説である。しかし、薬局にとっては検討に値する仮説だと思う。「積極財政だから薬局は安心」と考えるのではなく、何に投資し、何を効率化する政権なのかを見極めたい。財政審を読むとは、未来を決めつけることではない。政治が選び得る改革の候補を、早い段階で知ることなのである。

参考資料

財務省「財政制度分科会(2026年11月4日)社会保障」(添付資料)

厚生労働省「2022・2024・2026年度診療報酬改定資料」

金融庁「2026年7月31日 片山財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見」


👉【note版】:財政審が示す社会保障改革と薬局の未来 第2部 積極財政なのに、薬局には逆風?https://note.com/kij_imai/n/na4a8c89ddd33

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