AxDx時代の薬剤師スキル 第3部 犬好き薬剤師の悪魔の囁き②
AIの「併用問題なし」、それいつの情報?
― AxDxのズル活用:手間は省いても、確認は省かない ―

30秒で読む要約
- AIの「併用問題なし」は、古い情報に基づく回答かもしれない。
- 電子添文に薬剤名が見つからなくても、安全とは限らない。
- 賢いズルは、AIに情報を探させ、薬剤師が原文を確認すること。
- 最新情報を確認できても、患者への適用可能性は別問題。
- AIで浮いた時間を、薬学的評価と患者さんとの会話に使おう。
※本記事の事例は創作です。薬剤名・患者情報はすべて架空です。
登場人物
悪魔トムくん
結果はどうでもいい。目の前の問題さえ片づけばいい。
そんなズルをそそのかす、ダメあくまちゃん。
ご主人が間違えないように、いろいろ調べてくる天使のワンちゃん。
ご主人が楽をして喜んでくれるのが大好き。浮いた時間に遊んでもらえるのを、いつも楽しみにしている。
前回まで吠えていた番犬が、今回から羽をもらった。
1.悪魔トムくんの囁き:「答えが出れば、それでいいじゃん」
夕方の薬局。
待合には5人の患者さんがいる。
薬剤師のBさんが、処方箋を見て手を止めた。
架空の「C錠」と「D錠」の併用だ。
トムくんが肩の上で、ニヤリと親指を立てる。
トムくん
「添付文書を2つ開いて、相互作用の項を突き合わせる? 面倒でしょ。AIに聞けば一瞬だって」
Bさんは生成AIに打ち込んだ。
「C錠とD錠の併用は問題ありますか?」
AIは即座に回答した。
AI:「併用禁忌・併用注意の記載はなく、問題ありません」
Bさんは念のため、調剤システムに保存されている2剤の電子添文を開いた。
相互作用の項を「D錠」という名前で検索してみたが、見当たらない。
トムくん
「ほらね。確認もしたし、終わり終わり」
しかし、本当に確認できたのだろうか。
AIはどの情報を参照したのか。
その電子添文は、いつ改訂されたものなのか。
そして、薬剤名が見つからないことは、相互作用がないことを意味するのだろうか。
ここに、生成AIを医薬品情報の確認に使う際の落とし穴がある。
2.天使ジェリーくんの囁き:「ご主人、それ、いつの情報?」
反対の肩で、ジェリーくんが尻尾を振った。
ジェリーくん
「ご主人、ちょっと待って! そのAIの答え、どこで、いつ調べた情報か書いてあった?」
① AIの記憶は、改訂に追いつかない
生成AIには、大きく分けて2つの情報の使い方がある。
一つは、学習済みの知識をもとに回答する方法。
もう一つは、検索機能や接続されたデータベースを利用して、外部の情報を取得する方法である。
前者では、AIの学習時点より後に改訂された電子添文の内容が反映されていない可能性がある。
後者でも、検索先が古い情報を掲載していたり、検索対象から重要な文書が漏れたりする可能性がある。
つまり、検索できるAIだからといって、必ず最新の正確な情報が得られるわけではない。
医薬品情報では、こうした違いが重要になる。
電子添文は、新たな副作用情報や使用経験、安全対策などに応じて改訂される。
数か月前まで正しかった説明が、現在の安全性情報と一致しないこともある。
② 書いていないことは、安全という意味ではない
調剤システムに保存されている電子添文が、改訂前の版である可能性もある。
また、相互作用の項には、特定の商品名ではなく、薬効群や代謝酵素などで記載されている場合がある。
例えば「CYP3A阻害剤」という記載である。
商品名を検索して見つからなかったとしても、相互作用に関する記載そのものが存在しないとは限らない。
さらに、電子添文の「16. 薬物動態」に記載されている情報に加え、インタビューフォームに詳細な試験結果が掲載されている場合もある。
重要なのは、単に検索することではない。
何を探すべきかを理解して検索することだ。
③ 「古い情報のにおい」に気づけるか
ジェリーくんには、古い情報を見つけるための鼻がある。
ジェリーくん
「ご主人、AIが『原則禁忌』とか『慎重投与』って言ってるよ。これ、昔の書き方じゃない?」
2017年に通知された医療用医薬品の添付文書記載要領では、従来の「原則禁忌」「慎重投与」という独立した項目が整理・廃止された。
新記載要領は2019年4月から適用され、既承認品目についても2024年3月末までに移行することとされた。
したがって、AIがこれらの旧項目名を現在の電子添文の項目として説明していた場合は、情報の時点を確認する必要がある。
ただし、過去の資料を正しく引用している場合もあるため、古い言葉が登場しただけで誤りと断定することはできない。
これは、情報を疑うための手掛かりである。
3.今日の標準装備:「最新を取りに行かせるズル」
ジェリーくん
「ぼくが情報を探してくるよ。ご主人は、ぼくが見つけた原文を確かめてね!」
AIの使い方を少し変えてみよう。
「この2剤は併用して大丈夫ですか?」
と聞く代わりに、
「どの資料を確認すべきか、最新の電子添文をどこで確認できるか、相互作用に関する論点を整理してください」
と依頼する。
AIの役割を「答える係」から「調べる係」に変えるのである。
ただし、AIが外部サイトを検索できるかどうかは、利用するサービスや設定によって異なる。
契約している医薬品情報データベースにも、AIが自由にアクセスできるとは限らない。
外部情報を取得できないAIには、薬剤師が公式資料を確認し、必要な部分を適切な利用条件のもとで提示する方法もある。
どちらの場合も、情報の出典と改訂年月を確認することが重要だ。
AIが確認すべき情報は3段階
第1段階:情報源と時点
どこの情報なのか。
電子添文はいつ改訂されたのか。
実際に確認できた資料なのか。
第2段階:原文との一致
AIの説明は、原文に書かれている内容と一致しているか。
相互作用の項を通して読んだか。
一般名、薬効群、代謝酵素などの記載を見落としていないか。
第3段階:患者への適用可能性
患者さんの腎機能や肝機能、併用薬、症状、検査値などを考慮すると、何を確認すべきか。
この3段階は、それぞれ異なる。
最新の情報を取得できても、AIが内容を誤って要約することはある。
原文を正しく理解できても、個々の患者さんに適用できるとは限らない。
ここから先は、薬剤師の薬学的評価が必要になる。
4.ジェリーくんが見つけた「見落とし」
ジェリーくんは、すぐに戻ってきた。
ジェリーくん
「ご主人、C錠の電子添文が3か月前に改訂されていたよ!
『10.2 併用注意』に新しい記載があるんだ!」
Bさんは、示されたリンクから電子添文の原文を開いた。
そこには、特定の薬剤との併用によってC錠の血中濃度が上昇し、QT延長などのリスクが高まる可能性について、新たな注意事項が記載されていた。
BさんはD錠の薬物動態情報も確認し、相互作用の可能性を検討した。
AIが示した文章をそのまま信じるのではなく、「10. 相互作用」の項を最初から最後まで読み直した。
さらに、患者さんの症状や検査情報を確認したうえで、処方医に疑義照会した。
処方医との確認を経て、必要な対応を行ってから調剤した。
探す手間はジェリーくんが引き受けた。
浮いた時間で、Bさんは患者さんに動悸の有無や心電図検査の予定について聞くことができた。
ジェリーくん
「あとで遊んでね!」
※この相互作用は架空の教育用シナリオです。実在する特定の医薬品の相互作用を示すものではありません。
5.ジェリーくんのお約束――AIを使う薬剤師の5条件
① 止まれる
情報の時点や出典が不明な回答では、判断を止める。
② 確かめられる
AIが示した情報を原文で確認する。必要な項目は前後の記載も含めて読む。
③ 言い換えられる
確認した内容を、自分の言葉で処方医や患者さんに説明できる。
④ 盛らない
AIの推測や未確認の情報を、確実な事実のように伝えない。
⑤ 聞ける
判断に迷ったら先輩薬剤師に相談し、必要に応じて処方医に照会する。
そして、もう一つ重要な前提がある。
生成AIには、患者さんを識別できる個人情報を安易に入力しない。
業務でのAI利用は、所属施設の情報管理規程、契約条件、個人情報保護上の要件を確認したうえで行う必要がある。

想定反論:「AIが最新を調べるなら、原文確認はいらないのでは?」
AIは、二次情報サイトに保存された古いPDFを取得することがある。
また、引用箇所が正しくても、重要な記載を見落としている可能性がある。
検索結果に出てこなかったことは、記載が存在しないことの証明ではない。
AIが示すのは、取得できた情報である。
AIで省けるのは、探す手間であって、確認そのものではない。
6.まとめ:今月やること(ズルの仕込み)
薬局で実施できる準備は、決して難しいものばかりではない。
- PMDAメディナビと「マイ医薬品集作成サービス」の機能を確認し、必要な通知を受け取れるようにする。
- 調剤システムの医薬品情報がいつ更新されたか、確認方法を把握する。
- AIを使う際には、情報源・改訂年月・原文確認を基本ルールとする。
- 医薬品情報データベースの利用契約と、AIのアクセス権限を確認する。
- AIに患者情報を入力する場合の組織内ルールと安全管理体制を確認する。
なお、PMDAの情報を自動取得する仕組みを構築する場合は、対象サービスの利用条件を確認する必要がある。
無制限の自動巡回を前提とせず、公式に認められた取得方法や契約データベースの活用を検討することが重要だ。
薬局全体での情報更新管理やAI運用の仕組みづくりは、発展編「薬局AI化」で改めて取り上げたい。
私見
ズルが悪いのではない。
確認を省く手抜きが悪い。
私は、生成AIの価値は、単に作業時間を短縮することだけではないと考えている。
従来、薬剤師が医薬品情報を調べるときには、情報源を探し、資料を読み、必要な箇所を見つけるまでに相応の時間を要していた。
AIは、その過程を支援してくれる。
しかし、情報を集めることと、情報を評価することは違う。
さらに、その情報を目の前の患者さんに当てはめることは、別の仕事である。
AIで浮いた時間を、患者さんの話を聞くことや、薬学的な評価を深めることに使う。
その時間の使い方こそが、これからの薬剤師の価値を左右するのではないだろうか。
手間を省いても、思考は省かない。
これが、天使ジェリーくんの教えてくれる「賢いズル」である。
次回予告
トムくん :「文献? それっぽいのが出てくれば、いいじゃん」
ジェリーくん :「ご主人、その文献、本当にあるか見てくるね!」
次回は、生成AIが提示する学術論文や参考文献の落とし穴を考える。
参考資料
- 厚生労働省「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」(薬生発0608第1号、2017年6月8日)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000167314.pdf - 厚生労働省「医療用医薬品の電子化された添付文書の記載要領について」(薬生発0611第1号、2021年6月11日)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000792545.pdf - PMDA「医療用医薬品 添付文書等情報検索」
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/ - PMDA「PMDAメディナビ」
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/medi-navi/ - PMDA「マイ医薬品集作成サービス」
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/medi-navi/0007.html
※制度・情報源の利用条件は、公開時点の公式情報を確認してください。
👉【note版】AxDx時代の薬剤師スキル|第3部犬好き薬剤師の悪魔の囁き②「AIの「併用問題なし」、それいつの情報?」

