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10/23/2026

AxDx時代の薬剤師スキル|第3部 犬好き薬剤師の悪魔の囁き③ AIが挙げた文献、実在しませんでした

AxDx時代の薬剤師スキル|

第3部 犬好き薬剤師の悪魔の囁き③

AIが挙げた文献、実在しませんでした

― 「それっぽい文献リスト」は、AIがいちばん得意な落とし穴です ―

30秒で読む要約

■ AIに文献を挙げさせると、実在しない論文がもっともらしい体裁で混ざることがあります。2023〜2025年の実験研究では、生成された文献の約2割〜7割が実在しませんでした(モデルと課題で差があります)。

■ 同じ条件で比べた研究では、新しいモデルほど少なくなっています。ただしゼロではなく、DOIが付いていても無関係の論文につながる例が報告されています。

■ いちばん見抜きにくいのは「実在する論文に、書いていない結論を語らせる」型です。

■ 薬剤師の賢いズルは「AIに探させ、人が存在 → 書誌 → 中身の3段で確かめる」こと。薬局の外に出す文献は、原文と照合したものだけにします。

はじめに 閉局後の囁き

来週は店舗の勉強会。テーマは「高齢者のポリファーマシーと転倒リスク」です。資料づくりに手をつけたのは、閉局後の夜8時でした。


悪魔トムくん「エビデンス付きで、ってAIに頼めば5分だよ。文献リストまで付けてくれるし、どうせ誰も原文なんて読まないって」

たしかに5分でした。英語の論文が5本、著者名・年・雑誌名・巻号まできれいに並んでいます。

ところが勉強会の翌日、若手薬剤師がそっと言いに来ました。「先生、2本目の論文、どのデータベースで探しても出てこないんです」。


天使ジェリーくん「ご主人、文献を探すのはAIに任せていいんです。でも“本当にあるか”“本当にそう書いてあるか”を確かめるのは、ご主人の仕事にしましょう。手早くできるやり方、ありますよ。ちゃんと確かめたら、そのぶん安心してお散歩に行けますから」

※この場面は説明のための創作です。天使ジェリーくんは、ご主人が間違わないよう色々調べてくれるゴールデンレトリーバーです。

第1章 なぜAIは文献を「作って」しまうのか

AIは文献を“調べて”答えているとは限りません。文献リストの“形”を文章として書いていることがあります。

生成AIの中心にある言語モデルは、学習した大量の文章をもとに、文脈に合う言葉を順に組み立てて文章を作ります。かなり単純化した説明ですが、この仕組みでは「それらしい続き」を書くことと「実在を確かめる」ことは別の作業です。

文献リストには「著者名・年・タイトル・雑誌名・巻号」という強い型があります。型がはっきりしているものほど、形だけを整えて書けてしまいます。AIに悪意があるわけではなく、確かめる仕組みを持たないまま書いている、ということです。

薬剤師にたとえるなら、処方せんの書式を完璧に覚えた人が、存在しない患者の処方せんを書けてしまうようなものです。書式が正しいことと、その処方が実在することは別の話です。

やっかいなのは、架空の文献ほど“本物らしく”見える点です。2023年の研究では、架空の文献にも、その分野で実際に論文を書いている著者名や、実在する雑誌の体裁が使われていました(Gravel ほか)。ぱっと見では区別がつきません。

さらに、AIに「この文献は本当にありますか」と聞いても、正しく答えるとは限らないと報告されています(Walters & Wilder)。確認をAI自身に頼むのは、自分で書いた処方を自分で監査するのと同じです。

検索連携型のAIなら安心か

最近は、Web検索や文献データベースと連携して答えるAI(検索連携型AI)も増えました。実在する文献を拾ってくるため、完全な捏造は起きにくくなります。

ただし、拾った文献を読んで答えの文章を書くのは、やはり言語モデルです。2025年のWuほかの研究では、Web検索を利用した条件でも、回答と引用文献の対応に問題が残ることが報告されています。この「中身のずれ」は第3章で扱います。

第2章 数字で見る「幻の文献」

2023〜2025年の実験研究では、AIが生成した文献の約2割〜7割が実在しませんでした。ただし、数字はモデルと課題で大きく変わります。

表1から読み取れることは3つあります。


読み方1 新しいモデルで減るが、ゼロにはならない

同じ指示で比べたWalters & Wilderの研究では、GPT-4の架空率はGPT-3.5の約3分の1でした。この比較条件では減少が観察されました。一方、2025年のGPT-4oでも約2割という報告があります。AIの文献は「混ざる前提で使う道具」と考えるのが安全です。

読み方2 研究が少ないテーマほど危ない

Linardon ほかの研究では、架空率がうつ病で6%(68件中4件)だったのに対し、むちゃ食い障害で28%、身体醜形障害で29%でした。この研究の対象テーマ間では、架空文献の割合に差が認められました。

薬局で扱う「まれな相互作用」や「使用経験の少ない薬」でも、根拠となる研究の少なさに注意が必要です。ただし、この研究が薬物相互作用を直接検証したわけではありません。

読み方3 DOIが開けても、実在の証明にならない

同じ研究で、DOIが付いていた架空文献33件のうち21件は、実在する“無関係な”論文につながりました。リンクが開いたことと、その文献がAIの書いた内容の出典であることは別の話です。

医療の外でも同じことが起きています。2023年6月、米ニューヨークの連邦地裁は、ChatGPTが作った架空の判例を準備書面に引用した弁護士らに、5,000ドルの制裁金を科しました(Mata v. Avianca事件)。確かめなかった責任は、AIではなく使った専門職に返ってきます。

第3章 本当に怖いのは「実在するのに中身が違う」文献

検索してヒットしたら安心、ではありません。薬剤師がいちばん警戒すべきは3つ目の型です。

Ⅰ型とⅡ型は、検索とDOI・PMIDの照合で見つかります。Ⅲ型は、抄録か本文を読まない限り見つかりません。

Ⅲ型に近い問題を調べたのが、Wu ほか(2025)です。医療の質問へのAIの回答を、引用した文献が本当に裏付けているかで評価しました。評価条件によって、引用文献が回答内容を十分に支持しないケースが報告されています。割合は評価単位と判定基準によって異なるため、異なる指標を単純に比較できません。

これは、第3部②で扱った添付文書の話と同じ構図です。AIの要約は入口として便利ですが、判断の根拠にするのは原文です。添付文書・ガイドラインと食い違うときは、原文の側を確かめるのが薬剤師の仕事です。

実在することと、使えることは別

もう一つ区別しておきたいことがあります。文献が実在し、内容も正しく引用されていても、その研究が信頼できるか、目の前の患者に当てはまるかは別の問題です。

対象集団、研究デザイン、日本の承認用量との違い。ここを見るのは、文献の確認を超えた薬剤師の評価です。AIの文献チェックは、その評価のスタートラインに立つための作業です。

第4章 ジェリーくんの賢いズル:文献3段チェック

AIに探させ、人が「存在 → 書誌 → 中身」の3段で確かめます。

「PubMedに出ない」=「存在しない」ではない

日本語の論文、学会抄録、書籍、ガイドライン、行政資料は、PubMedに収載されていないことが多くあります。J-STAGEや医中誌Web、発行元のサイトも当たり、それでも見つからなければ「使わない」と判断します。

頼み方を変える

AIに、確認できない文献を出さない条件を先に渡します。

次のテーマについて、査読付き論文の候補を最大5件挙げてください。

テーマ:〈例:高齢者の多剤併用と転倒リスク〉

条件:

1. 各文献にPMIDかDOIを付ける

2. 確認できない文献は挙げない。挙げる場合は「未確認」と明記する

3. 各文献の結論を1文で書き、抄録のどの記述にもとづくか示す

4. 推測で書誌情報を補わない

ただし、この条件を付けても架空の文献はなくなりません。第2章のとおり、DOIが無関係の論文につながる例もあります。プロンプトは混入を減らす工夫であって、確認の代わりにはなりません。

いちばん安全なのは「順番を逆にする」ズル

先にPubMedなどで自分が論文を見つけ、その抄録や本文をAIに渡して要約させます。出典ページで書誌を照合すれば文献の実在を確認でき、AIは得意な「読む・まとめる」を担当します。要約でも取り違えは起こり得るので、結論の部分だけは原文と見比べます。

AIは、検索キーワードの候補出し、英語抄録の読み下し、複数の論文を比べる表の下書きでは十分に役立ちます。任せる場所と、自分で確かめる場所を分けるのがコツです。

天使ジェリーくん「探すのも要約するのもAIに手伝わせて、確かめるところだけご主人がやる。それが一番ラクで、一番安心な方法です」

第5章 用途で変わる確認の水準

原則は1つ。「原文と照合した文献だけを、薬局の外に出す」。そのうえで、用途によって確認の深さを変えます。

自分の頭を整理する段階なら、AIの文献リストは「調べる候補の地図」として十分役に立ちます。問題は、候補を確定した根拠のように扱うことです。

こうした個人の工夫を店舗の仕組みにする方法は、第4部(実践編)で取り上げる予定です。

想定反論

反論1「最新のAIは検索して出典リンクまで付ける。もう心配いらない」

完全な捏造は確かに減ります。ただ、検索を利用した条件でも、回答内容が引用文献によって十分に裏付けられない例が報告されています(Wu ほか)。リンクは「確認の入口」であって、確認済みの印ではありません。

反論2「忙しい現場で、毎回3段チェックなんて無理」

全部の文献ではなく、薬局の外に出す文献だけで構いません。用途によって深さも変えられます(表4)。AIに探させて浮いた時間の一部を、確認に回すイメージです。

反論3「添付文書とガイドラインで足りる。論文まで要らない」

多くの場面ではそのとおりです。その場合は、AIに論文を挙げさせないのも立派な選択です。問題は論文を使うことではなく、根拠のふりをした文献が混ざることです。

まとめ 今月やること

AIの文献リストは「候補の地図」。目的地に着いたかどうかは、自分の目で確かめます。

今月やること

□ 最近AIに出させた文献を3件選び、PubMedやJ-STAGEで存在と書誌を確かめる

□ 文献を頼むプロンプトに「PMIDかDOIを付ける/確認できないものは挙げない」を足す(ただし確認は省かない)

□ 一度は「逆順のズル」を試す(自分で見つけた論文をAIに要約させる)

□ 店舗の共有ルールに「原文と照合した文献だけ外に出す」を1行書き足す

□ トレーシングレポートのひな形に「出典:原文確認済み □」の欄を作る

悪魔トムくん「どうせ誰も原文なんて読まないって」

天使ジェリーくん「読む人は、ちゃんといます。若手の先生みたいに。だからご主人が先に読んでおけば、安心してお散歩に行けますよ」

私見 経営者として思うこと

経営の目で見ると、これは薬剤師個人の問題にとどまりません。1枚のトレーシングレポートに架空の文献が混ざれば、その店舗の情報全体が疑われます。医師との信頼は、取り戻すのに時間がかかります。

全員が文献評価の達人になる必要はないと、私は考えています。大事なのは、「ズルくてもできる薬剤師」がAIを使っても最低限の確認を外さない仕組みです。3段チェックは、そのための一番小さな型です。

参考資料

1.Gravel J, D'Amours-Gravel M, Osmanlliu E. Learning to Fake It: Limited Responses and Fabricated References Provided by ChatGPT for Medical Questions. Mayo Clinic Proceedings: Digital Health. 2023.

2.BhattacharyyaM, Miller VM, Bhattacharyya D, Miller LE. High Rates of Fabricated andInaccurate References in ChatGPT-Generated Medical Content. Cureus.2023;15(5):e39238.

3.WaltersWH, Wilder EI. Fabrication and errors in the bibliographic citations generatedby ChatGPT. Scientific Reports. 2023;13:14045.

4.LinardonJ, Jarman HK, McClure Z, Anderson C, Liu C, Messer M. Influence of TopicFamiliarity and Prompt Specificity on Citation Fabrication in Mental HealthResearch Using Large Language Models: Experimental Study. JMIR Mental Health.2025;12:e80371.

5.Wu K, WuE, Wei K, et al. An automated framework for assessing how well LLMs citerelevant medical references. Nature Communications. 2025;16:3615.

6.BloombergLaw. Phony ChatGPT Brief Leads to $5,000 Fine for NY Lawyers(Mata v. Avianca事件、2023年6月)


👉【note版】:AxDx時代の薬剤師スキル|第3部 悪魔の囁き③ AIが挙げた文献、実在しませんでした

https://note.com/kij_imai/n/n37907f0e3d51



10/21/2026

AxDx時代の薬剤師スキル 第3部 犬好き薬剤師の悪魔の囁き② AIの「併用問題なし」、それいつの情報?

 AxDx時代の薬剤師スキル 第3部 犬好き薬剤師の悪魔の囁き②

AIの「併用問題なし」、それいつの情報?

― AxDxのズル活用:手間は省いても、確認は省かない ―


30秒で読む要約

  • AIの「併用問題なし」は、古い情報に基づく回答かもしれない。
  • 電子添文に薬剤名が見つからなくても、安全とは限らない。
  • 賢いズルは、AIに情報を探させ、薬剤師が原文を確認すること。
  • 最新情報を確認できても、患者への適用可能性は別問題。
  • AIで浮いた時間を、薬学的評価と患者さんとの会話に使おう。

※本記事の事例は創作です。薬剤名・患者情報はすべて架空です。


登場人物


悪魔トムくん

結果はどうでもいい。目の前の問題さえ片づけばいい。

そんなズルをそそのかす、ダメあくまちゃん。

 

天使ジェリーくん

ご主人が間違えないように、いろいろ調べてくる天使のワンちゃん。

ご主人が楽をして喜んでくれるのが大好き。浮いた時間に遊んでもらえるのを、いつも楽しみにしている。

前回まで吠えていた番犬が、今回から羽をもらった。


1.悪魔トムくんの囁き:「答えが出れば、それでいいじゃん」

夕方の薬局。

待合には5人の患者さんがいる。

薬剤師のBさんが、処方箋を見て手を止めた。

架空の「C錠」と「D錠」の併用だ。

トムくんが肩の上で、ニヤリと親指を立てる。

トムくん

「添付文書を2つ開いて、相互作用の項を突き合わせる? 面倒でしょ。AIに聞けば一瞬だって」

Bさんは生成AIに打ち込んだ。

「C錠とD錠の併用は問題ありますか?」

AIは即座に回答した。

AI:「併用禁忌・併用注意の記載はなく、問題ありません」

Bさんは念のため、調剤システムに保存されている2剤の電子添文を開いた。

相互作用の項を「D錠」という名前で検索してみたが、見当たらない。

トムくん

「ほらね。確認もしたし、終わり終わり」

しかし、本当に確認できたのだろうか。

AIはどの情報を参照したのか。

その電子添文は、いつ改訂されたものなのか。

そして、薬剤名が見つからないことは、相互作用がないことを意味するのだろうか。

ここに、生成AIを医薬品情報の確認に使う際の落とし穴がある。

2.天使ジェリーくんの囁き:「ご主人、それ、いつの情報?」

反対の肩で、ジェリーくんが尻尾を振った。

ジェリーくん

「ご主人、ちょっと待って! そのAIの答え、どこで、いつ調べた情報か書いてあった?」

① AIの記憶は、改訂に追いつかない

生成AIには、大きく分けて2つの情報の使い方がある。

一つは、学習済みの知識をもとに回答する方法。

もう一つは、検索機能や接続されたデータベースを利用して、外部の情報を取得する方法である。

前者では、AIの学習時点より後に改訂された電子添文の内容が反映されていない可能性がある。

後者でも、検索先が古い情報を掲載していたり、検索対象から重要な文書が漏れたりする可能性がある。

つまり、検索できるAIだからといって、必ず最新の正確な情報が得られるわけではない。

医薬品情報では、こうした違いが重要になる。

電子添文は、新たな副作用情報や使用経験、安全対策などに応じて改訂される。

数か月前まで正しかった説明が、現在の安全性情報と一致しないこともある。

② 書いていないことは、安全という意味ではない

調剤システムに保存されている電子添文が、改訂前の版である可能性もある。

また、相互作用の項には、特定の商品名ではなく、薬効群や代謝酵素などで記載されている場合がある。

例えば「CYP3A阻害剤」という記載である。

商品名を検索して見つからなかったとしても、相互作用に関する記載そのものが存在しないとは限らない。

さらに、電子添文の「16. 薬物動態」に記載されている情報に加え、インタビューフォームに詳細な試験結果が掲載されている場合もある。

重要なのは、単に検索することではない。

何を探すべきかを理解して検索することだ。

③ 「古い情報のにおい」に気づけるか

ジェリーくんには、古い情報を見つけるための鼻がある。

ジェリーくん

「ご主人、AIが『原則禁忌』とか『慎重投与』って言ってるよ。これ、昔の書き方じゃない?」

2017年に通知された医療用医薬品の添付文書記載要領では、従来の「原則禁忌」「慎重投与」という独立した項目が整理・廃止された。

新記載要領は2019年4月から適用され、既承認品目についても2024年3月末までに移行することとされた。

したがって、AIがこれらの旧項目名を現在の電子添文の項目として説明していた場合は、情報の時点を確認する必要がある。

ただし、過去の資料を正しく引用している場合もあるため、古い言葉が登場しただけで誤りと断定することはできない。

これは、情報を疑うための手掛かりである。

3.今日の標準装備:「最新を取りに行かせるズル」

ジェリーくん

「ぼくが情報を探してくるよ。ご主人は、ぼくが見つけた原文を確かめてね!」

AIの使い方を少し変えてみよう。

「この2剤は併用して大丈夫ですか?」

と聞く代わりに、

「どの資料を確認すべきか、最新の電子添文をどこで確認できるか、相互作用に関する論点を整理してください」

と依頼する。

AIの役割を「答える係」から「調べる係」に変えるのである。

ただし、AIが外部サイトを検索できるかどうかは、利用するサービスや設定によって異なる。

契約している医薬品情報データベースにも、AIが自由にアクセスできるとは限らない。

外部情報を取得できないAIには、薬剤師が公式資料を確認し、必要な部分を適切な利用条件のもとで提示する方法もある。

どちらの場合も、情報の出典と改訂年月を確認することが重要だ。

AIが確認すべき情報は3段階

第1段階:情報源と時点

どこの情報なのか。

電子添文はいつ改訂されたのか。

実際に確認できた資料なのか。

第2段階:原文との一致

AIの説明は、原文に書かれている内容と一致しているか。

相互作用の項を通して読んだか。

一般名、薬効群、代謝酵素などの記載を見落としていないか。

第3段階:患者への適用可能性

患者さんの腎機能や肝機能、併用薬、症状、検査値などを考慮すると、何を確認すべきか。

この3段階は、それぞれ異なる。

最新の情報を取得できても、AIが内容を誤って要約することはある。

原文を正しく理解できても、個々の患者さんに適用できるとは限らない。

ここから先は、薬剤師の薬学的評価が必要になる。

4.ジェリーくんが見つけた「見落とし」

ジェリーくんは、すぐに戻ってきた。

ジェリーくん

「ご主人、C錠の電子添文が3か月前に改訂されていたよ! 『10.2 併用注意』に新しい記載があるんだ!」

Bさんは、示されたリンクから電子添文の原文を開いた。

そこには、特定の薬剤との併用によってC錠の血中濃度が上昇し、QT延長などのリスクが高まる可能性について、新たな注意事項が記載されていた。

BさんはD錠の薬物動態情報も確認し、相互作用の可能性を検討した。

AIが示した文章をそのまま信じるのではなく、「10. 相互作用」の項を最初から最後まで読み直した。

さらに、患者さんの症状や検査情報を確認したうえで、処方医に疑義照会した。

処方医との確認を経て、必要な対応を行ってから調剤した。

探す手間はジェリーくんが引き受けた。

浮いた時間で、Bさんは患者さんに動悸の有無や心電図検査の予定について聞くことができた。

ジェリーくん

「あとで遊んでね!」

※この相互作用は架空の教育用シナリオです。実在する特定の医薬品の相互作用を示すものではありません。

5.ジェリーくんのお約束――AIを使う薬剤師の5条件

① 止まれる

情報の時点や出典が不明な回答では、判断を止める。

② 確かめられる

AIが示した情報を原文で確認する。必要な項目は前後の記載も含めて読む。

③ 言い換えられる

確認した内容を、自分の言葉で処方医や患者さんに説明できる。

④ 盛らない

AIの推測や未確認の情報を、確実な事実のように伝えない。

⑤ 聞ける

判断に迷ったら先輩薬剤師に相談し、必要に応じて処方医に照会する。

そして、もう一つ重要な前提がある。

生成AIには、患者さんを識別できる個人情報を安易に入力しない。

業務でのAI利用は、所属施設の情報管理規程、契約条件、個人情報保護上の要件を確認したうえで行う必要がある。


想定反論:「AIが最新を調べるなら、原文確認はいらないのでは?」

AIは、二次情報サイトに保存された古いPDFを取得することがある。

また、引用箇所が正しくても、重要な記載を見落としている可能性がある。

検索結果に出てこなかったことは、記載が存在しないことの証明ではない。

AIが示すのは、取得できた情報である。

AIで省けるのは、探す手間であって、確認そのものではない。

6.まとめ:今月やること(ズルの仕込み)

薬局で実施できる準備は、決して難しいものばかりではない。

  • PMDAメディナビと「マイ医薬品集作成サービス」の機能を確認し、必要な通知を受け取れるようにする。
  • 調剤システムの医薬品情報がいつ更新されたか、確認方法を把握する。
  • AIを使う際には、情報源・改訂年月・原文確認を基本ルールとする。
  • 医薬品情報データベースの利用契約と、AIのアクセス権限を確認する。
  • AIに患者情報を入力する場合の組織内ルールと安全管理体制を確認する。

なお、PMDAの情報を自動取得する仕組みを構築する場合は、対象サービスの利用条件を確認する必要がある。

無制限の自動巡回を前提とせず、公式に認められた取得方法や契約データベースの活用を検討することが重要だ。

薬局全体での情報更新管理やAI運用の仕組みづくりは、発展編「薬局AI化」で改めて取り上げたい。


私見

ズルが悪いのではない。

確認を省く手抜きが悪い。

私は、生成AIの価値は、単に作業時間を短縮することだけではないと考えている。

従来、薬剤師が医薬品情報を調べるときには、情報源を探し、資料を読み、必要な箇所を見つけるまでに相応の時間を要していた。

AIは、その過程を支援してくれる。

しかし、情報を集めることと、情報を評価することは違う。

さらに、その情報を目の前の患者さんに当てはめることは、別の仕事である。

AIで浮いた時間を、患者さんの話を聞くことや、薬学的な評価を深めることに使う。

その時間の使い方こそが、これからの薬剤師の価値を左右するのではないだろうか。

手間を省いても、思考は省かない。

これが、天使ジェリーくんの教えてくれる「賢いズル」である。


次回予告

トムくん :「文献? それっぽいのが出てくれば、いいじゃん」

ジェリーくん :「ご主人、その文献、本当にあるか見てくるね!」

次回は、生成AIが提示する学術論文や参考文献の落とし穴を考える。


参考資料

  1. 厚生労働省「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」(薬生発0608第1号、2017年6月8日)
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000167314.pdf
  2. 厚生労働省「医療用医薬品の電子化された添付文書の記載要領について」(薬生発0611第1号、2021年6月11日)
    https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000792545.pdf
  3. PMDA「医療用医薬品 添付文書等情報検索」
    https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
  4. PMDA「PMDAメディナビ」
    https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/medi-navi/
  5. PMDA「マイ医薬品集作成サービス」
    https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/medi-navi/0007.html

※制度・情報源の利用条件は、公開時点の公式情報を確認してください。

👉【note版】AxDx時代の薬剤師スキル|第3部犬好き薬剤師の悪魔の囁き②「AIの「併用問題なし」、それいつの情報?」


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