門前薬局は、処方箋を待つだけでいいのか?――院内処方回帰をチャンスに変える地域医療戦略
医療機関の「院内処方回帰」|第2部

情報時点:2026年11月2日
はじめに|門前の先生が院内処方に戻したら
ある開業医の「院内処方に戻したほうがいいのかな」という話を薬局経営者に伝えると、「門前の先生が院内処方に戻したら、うちの薬局はどうなるんですか?」という不安が返ってきました。特定の診療所の処方箋に依存する薬局にとっては重大なリスクです。しかし、門前という立地は本当に弱みだけなのでしょうか。
1.門前薬局の強みをもう一度考える
診療所に近いこと、患者が診療後に立ち寄りやすいこと、同じ患者の服薬状況を長期に把握できること、医師との情報共有を行いやすいこと。これらは経営資源です。ただし、処方箋受付だけに使えば、医療機関から処方箋が発行されるのを待つ経営にとどまります。門前という立地を、地域住民と診療所をつなぐ健康支援の拠点に変えられないでしょうか。
2.処方箋を待つ前に地域住民と出会う
薬局の健康フェアで血圧測定、健康相談、健診受診の案内、生活習慣に関する情報提供を行う。イベントの目的は集客そのものではなく、住民が自分の健康に関心を持ち、その後も健康管理を続けられることです。必要な場合には住民自身の選択で適切な医療機関を受診する。特定医療機関への不適切な誘導を目的としてはいけません。
実践から考える|健康フェアを「イベント」で終わらせない
私が健康フェアを薬局経営の可能性として考えるのには、経験上の理由があります。約20年前、調剤併設ドラッグストアで、管理栄養士が複数店舗を巡回する健康フェアの運営に取り組みました。管理栄養士1名が4〜7店舗を担当し、熟練度や薬局の協力体制に応じて調整。3か月を1クールとして、各店舗で土日の2日間にわたり開催する仕組みでした。
測定だけで終わらせず、栄養相談と必要に応じた受診勧奨を組み合わせました。受診勧奨先の医療機関を事前にリスト化し、趣旨を説明して紹介先としての承諾を得ること、診療科に合わせて測定内容を設計すること、薬局薬剤師が紹介状を送り受診状況の返信を依頼することも、当時の運営に含まれていました。
数年前には、前職で顧客薬局への支援サービスに携わる中で、この考え方を応用した助言を行い、顧客薬局で取り組みを体系化して実施していただいた経緯もあります。ただし、当初の巡回モデルの全工程を再現したものではありません。

※戦略モデルであり実績比較ではない
約20年前の実践を、そのまま現在の制度・個人情報保護・地域医療の環境に適用できるとは考えていません。現在取り組むなら、本人の意思と医療機関の選択の自由を尊重し、紹介状や受診状況の情報共有について適切な同意と管理を確保し、誘引や利益提供に関するルールも確認する必要があります。
この経験から私が重視するのは、健康フェアの開催自体を目的にしないことです。地域住民の健康上の課題に気づき、必要な医療につなぐ仕組みをつくる。薬局の立地を「処方箋を受け取る場所」から「地域の健康と医療をつなぐ接点」へ転換するという考え方です。これは実践経験に基づく経営上の提言であり、受診率や収益の改善効果を実証した主張ではありません。
3.PHRは一度きりの健康フェアを継続支援につなぐ道具
PHRは、本人が健康・医療情報を把握し、健康管理に活用する仕組みです。家庭血圧、体重、健診結果、服薬状況などを継続的に記録すれば、健康状態を振り返る手がかりになります。ただし、アプリ導入が目的ではありません。紙の記録が適した人もいます。情報共有には本人の同意、利用目的、共有範囲、管理方法の明確化が必要です。PHRサービスと電子カルテ・薬局システムの自動連携は前提にできません。
4.予防から生活習慣病の継続管理へ
住民が健康状態を把握し、必要に応じて健診・受診を行い、医師の診断・治療後は継続的な医学管理につながる。薬局は服薬状況や残薬、日常生活の困りごとを把握し、必要な情報を医師と共有する。医師は診断・治療方針を決定し、薬剤師は薬学的管理を担います。健康フェアやPHR支援そのものが生活習慣病管理料や調剤報酬の算定を生むわけではなく、それぞれ所定の要件を満たす必要があります。
5.診療所と薬局にどのような価値があるか

※過去の経験を踏まえた応用モデル
診療所には家庭での記録や服薬状況を把握できる可能性があり、薬局には処方箋のない住民との接点や調剤後の継続支援という役割が生まれます。医療上の価値と収益増加は同義ではありません。しかし、この構想は単発イベントの採算を証明するためのものではなく、地域住民との長期的な関係を診療所と薬局の経営基盤にするという著者の経営思想です。
6.門前だからできること、門前だけでは足りないこと
糖尿病患者が多い地域なら服薬継続や生活習慣の相談、高齢者が多い地域なら残薬や在宅療養への移行支援、管理栄養士がいる薬局なら栄養面の健康支援など、薬局の専門性と地域の特徴に応じた展開が考えられます。すべての薬局が同じ事業を行う必要はありません。診療所に近いだけで連携は成立せず、医師と患者が必要とする情報を理解することが重要です。
7.保険ビジネスを強化するとは何か
健康フェアで受診者を集め、処方箋を増やすという発想ではありません。必要な医療を必要なときに提供し、診療所では適切な医学管理、薬局では適切な薬学的管理を行い、各々の算定要件を満たす場合に制度上の評価につなげるという考え方です。患者の選択の自由を妨げず、不適切な誘引や経済的利益の提供を避ける必要があります。患者の健康を支えることが先にあり、収益は適切なサービスの対価として考えます。
8.私見|門前薬局の未来は処方箋の枚数だけでは決まらない
健康フェアや健康相談から住民の健康意識を高め、PHRなどを活用して本人の健康管理を支援し、必要な医療につなぐ。治療開始後も診療所と薬局が情報を共有しながら継続管理を支える。門前薬局の優位性を、処方箋を待つ立地から地域の健康を支える立地へと転換する。これが私の経営思想です。特定の収益効果を実証したという主張ではありません。
おわりに

処方箋を発行する診療所と、処方箋を待つ薬局から、予防・治療・継続管理をともに支える診療所と薬局へ。医薬分業の次の時代には、この発想の転換が重要ではないでしょうか。
参考資料
財務省「財政制度等審議会資料」(2025年4月23日) https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20250423/01.pdf
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
厚生労働省「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」関連資料
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/shiryo06.pdf
👉【note版】:医療機関の「院内処方回帰」|第2部 門前薬局の未来は、処方箋の枚数だけで決まらない――予防医療から始める新しい経営戦略
- Blogger版:「薬局の側から見た分業の変化は『「門前批判」と「薬剤師不要論」の歴史的真相(前編)』で書きました。 https://kimaisdlpno.blogspot.com/2026/11/6.html」
- note版:「薬局薬剤師の側から見た話は『「水面下でエラーを防いでいる」はなぜ患者に響かないのか?(前編)』に書きました。 https://note.com/kij_imai/n/n24a3cd0eb786」


