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11/01/2026

「薬剤師は減っている」は半分だけ本当? ― 採用を諦める前に、中小薬局が知っておきたい数字 ―

 「薬剤師は減っている」は半分だけ本当?

― 採用を諦める前に、中小薬局が知っておきたい数字 ―

情報基準日:2026年10月31日

 

■30秒で読む要約

・   2024年末の届出薬剤師は329,045人で、全国の総数は増えています。一方、国家試験合格者は2016年の11,488人から2026年の8,749人へ約24%減りました。

・   就職を決めた薬学生の決め手は「業務内容・やりがい」が最多で、給与や企業規模だけで就職先が決まるわけではありません(2021年の研究班調査)。

・   「将来は過剰」と「いま採れない」は矛盾しません。採用を諦める前に、地域と自社の数字を確かめましょう。

 

■導入|「薬剤師がいないから採れない」で止まっていないか

求人を出しても応募が来ない。若手を育てたいのに、採用の見通しが立たない。「薬剤師は不足しているから、中小薬局には来ない」と考えてしまう経営者もいるでしょう。ところが、国の推計には「将来、薬剤師が余る」という数字が登場します。いったい薬剤師はいるのでしょうか。それともいないのでしょうか。

この問いは単なる統計の話ではありません。中小薬局が将来の専門性を高め、次世代を育て、持続可能な人員体制を考えるための出発点です。まず「総数」「新規合格者」「若手の職域」「地域」の四つを分けてみましょう。

 

■1. 薬剤師の総数は増え、新しく資格を得る人は減っている

▶全国の薬剤師総数の増加と、新規合格者の減少は両立します。

厚生労働省によると、2024年末の届出薬剤師数は329,045人。2022年末の323,690人から増加しました。「全国の薬剤師総数が減っている」とは言えません。

一方、国家試験合格者数は2016年の11,488人から2026年の8,749人へ、約24%減少しました。2026年の受験者は12,774人、合格率は68.49%でした。

総数はある時点のストック、合格者は一年間に資格を得た人のフローです。合格者が減ったことは薬剤師の総数が減ったことを意味しません。また国家試験合格者には既卒者も含まれ、全員が新卒で保険薬局に就職するわけではありません。

ここで経営者が確認したいのは、採用候補となる「新卒薬剤師」がどこから生まれるかです。大学に入学した学生が、すべて6年後に国家試験に合格し、そのまま保険薬局に就職するわけではありません。卒業延期、既卒受験、病院・企業への就職など、複数の分岐があります。したがって「合格者8,749人」という数字を、そのまま薬局の新卒採用市場規模とみなすことはできません。

また、届出の人数は、明日から自社で働ける人数ではありません。勤務日数、勤務できる地域、調剤や在宅の経験は、全国総数からは読み取れません。

中小薬局にとって大切なのは、全国に免許保有者が何人いるかだけでなく、実際に就職先を選んでいる人がどこにいるかという問いです。

 

■2. 若手の職場は一様ではない

▶若手薬剤師の動きは職域ごとに違います。

2024年の薬局従事薬剤師は197,437人、医療施設(病院・診療所)従事者は63,290人でした。薬局・医療施設に従事する29歳以下は2022年34,183人から2024年33,498人に減少しています。

さらに医療施設の29歳以下は2016年13,169人から2024年9,764人に減った一方、薬局の29歳以下は2016年20,009人から2024年23,734人となっています。

この数字から、病院の若手が薬局へ転職したと断定することはできません。個人を追跡した統計ではないためです。しかし、職域ごとに若手の人数が異なる動きをしていることは分かります。採用の競争相手は近隣薬局だけとは限らず、病院、ドラッグストア、企業も学生の選択肢です。

「若手が減っている」という言い方にも注意が必要です。薬局と医療施設を合算した29歳以下の人数は2022年から2024年にかけて減少していますが、業態別には同じ方向に動いていません。この違いを無視すると、採用競争の相手や採用候補者の動向を見誤ります。

経営者にとっての実務的な問いは、全国で薬剤師が何人いるかではなく、近隣の薬学部の学生がどの職域を選び、どの地域に定着しているのか、ということです。ただし、大学別の進路や地元就職率は本稿では扱っていません。「大手に全部取られている」と決めつけるのではなく、自社の採用活動の記録と地域の公開情報で確かめる必要があります。

 

■3. 薬学生は本当に大手と大病院だけを選ぶのか

▶学生が就職先を決める理由は、給与と企業規模だけではありません。

2021年11〜12月、厚生労働省の補助金による研究班が薬学5・6年生にWeb調査を行いました。有効回答2,302人、うち就職活動終了者1,072人です。

就職先決定の最重要要因は「業務内容・やりがい」358人(33.4%)、「勤務予定地」142人(13.2%)、「給与水準」128人(11.9%)でした。

同調査の表5では保険薬局への就職決定者371人のうち、100店舗以上が212人(約57%)、10〜100店舗が106人、2〜10店舗が48人、1店舗が5人です。大規模薬局の存在感は大きいものの、小規模薬局への就職もゼロではありません。ただし、2021年の任意回答調査であり、全国の採用成功率を示す数字ではありません。

マイナビの2025年10月実施調査(2027年卒対象、有効回答247件)では、就職先選びで最も重視する項目として「職場の雰囲気や人間関係」23.9%、「薬剤師としての専門性が発揮できること」15.4%、「給与が高いこと」14.6%が挙がりました。登録者対象の調査であり、全国代表性は確認できません。

研究班調査は「就職を決めた人の決め手」、マイナビ調査は「就職活動準備段階の重視点」です。対象・時点・設問が異なり、割合の直接比較はできません。

中小薬局が仕事内容や育成環境を具体的に示せば選ばれる余地がある、というのは仮説です。調査は採用成功を保証しません。

ここで「100店舗以上が212人」という数字をどう読むか。大手薬局の存在感は確かに大きい。しかし、その212人が企業規模だけを理由に就職したとは言えません。給与、勤務地、仕事内容、教育環境などのどれが決め手になったかを、規模別人数だけから推定することはできないからです。

では、中小薬局にできることはないのでしょうか。例えば求人票の「在宅医療に力を入れています」という一文。学生が知りたいのは、その先かもしれません。新人はいつから訪問に同行するのか。薬学的な判断を誰に相談できるのか。医師や訪問看護師との連携をどのように学ぶのか。これらは魅力的に見せるための宣伝文句ではなく、実際に提供できる教育内容として説明する必要があります。

「地域医療に貢献する」「患者さんに寄り添う」は重要な理念ですが、多くの薬局が掲げています。自社ならではの経験を具体的に示せるかどうかは、採用広報を見直すための問いになります。もちろん、待遇や指導体制に課題がある場合、理念の言い換えだけでは解決しません。学生の希望と自社の実態が合うかを確かめることが先決です。

 

■4. 新卒採用は「安い人件費」の話ではない

▶新卒採用は初任給の安さではなく、将来の人員構成と専門性をつくる投資として判断する必要があります。

採用までの募集・面接、入社後の指導・研修、定着後の成長という三つの期間で、給与以外の時間と費用も発生します。

自社の教育担当者に余力がなければ、採用は現場の負担を増やします。逆に採用を先送りし続ければ、管理者候補や次世代の担い手を育てる機会を失うかもしれません。既存職員の育成、中途採用、専門職との連携も選択肢です。

 

採用活動の費用は求人媒体への支払いだけではありません。見学の受け入れ、面接、入職前の説明、入職後の指導、薬歴や服薬指導の振り返りなど、既存職員の時間を使います。教育担当者が通常業務を抱えたまま新人の質問を受け続ければ、現場の負担が増えることもあります。反対に、質問できる相手や振り返りの時間がなければ、新人の成長を十分に支えられない可能性があります。

したがって「何人採用したいか」と同時に「何人なら責任を持って育成できるか」を考えたいところです。教育担当者を決めるだけでなく、誰が代わりに業務を担うのか、どの業務から任せるのか、困ったときの相談経路はあるのか。採用人数の議論を、現場の運営計画につなげる必要があります。

一方で、採用しないことにも将来の影響があります。現在はベテランだけで業務が回っていても、5年後、10年後の人員構成は同じとは限りません。管理薬剤師の後継者や在宅医療の担い手を、既存職員の育成、中途採用、新卒採用のどの組み合わせで確保するのか。新卒採用を一律に勧めるのではなく、採用しない場合も含めて説明できる計画が求められます。

■5. 人口比で見たときの落とし穴

▶入学定員、実際の入学者、卒業者、国試合格者、新卒採用候補者は、それぞれ別の数字です。

2025年度の6年制薬学部入学定員は11,567人、2025年3月の6年制卒業者は9,233人でした。

国家試験の合格者には既卒者も含まれるため、異なる年度の数字を差し引いて「脱落率」を出すことはできません。18歳人口を分母とする比率も、資料によって年次の扱いが揃わないため、本稿では精密な数値を示しません。

 

■6. 「2045年に最大12.6万人過剰」の読み方

▶「2045年に最大12.6万人過剰」は確定予測ではなく、幅のある需給推計の最大差です。

厚生労働省の推計では供給43.2〜45.8万人、需要33.2〜40.8万人で、12.6万人は供給上限45.8万人から需要下限33.2万人を引いた値です。

 

別の厚労省資料では、今後10年程度は需要と供給が同程度で推移し、将来的には供給が上回る見通しとされています。前提となる国試合格者数や業務量が変われば推計も変化します。

全国の将来供給と、いま特定の地域や病院・薬局で人材を確保できないことは矛盾しません。2036年時点の推計でも、地域別では12県、病院薬剤師では46都道府県で不足の可能性が示されています。自社の二次医療圏の偏在指標は、都道府県の薬剤師確保計画で確認できます。

 

■7. 採用を諦める前に確かめたい三つのこと

▶「不足しているから採れない」と結論づける前に、自社と地域の数字を分けて確認します。

第一に、求める人材は即戦力か、育成する若手か。第二に、二次医療圏で病院と薬局の需給はどう違うか。第三に、学生が重視する仕事内容や教育機会を、自社の実態として説明できるか。

さらに、応募がなかったのか、見学後に辞退されたのか、内定を承諾されなかったのかを記録しましょう。課題の所在は異なります。これは採用成功の公式ではなく、判断の前提を整えるための問いです。

例えば「今年も採用できなかった」という結果でも、状況は三つに分かれます。求人を出しても応募がなかった場合、学生に情報が届いていないのか、応募条件が合わないのかを確認します。見学には来たが選考に進まなかった場合、見学前後で印象が変わったのかを、本人が回答できる範囲で確かめます。内定を出したが承諾されなかった場合は、勤務地や待遇、仕事の内容など、何が比較対象になったのかを確認します。これらは仮定のケースであり、原因を決めつけるものではありません。

応募者数、見学者数、選考者数、内定者数、入職者数を過去3年間で並べるだけでも、どの段階に課題がありそうかを考えやすくなります。ただし応募者が数人の薬局では、1人の増減で割合が大きく変わります。小さな数字から採用力の改善や悪化を断定しないことも大切です。

全国の薬剤師数を自社で変えることはできません。しかし、自社の採用過程を記録し、応募者が知りたい情報を整えることはできます。「人がいない」という説明だけで終わらせず、「どこで候補者との接点を失っているのか」を問い直すことが、次の一手につながります。

■想定反論

Q:新卒を採れば人件費が抑えられるのでは?

A:初任給だけでなく、教育費・指導負担・定着を含めて判断すべきです。

Q:大手に勝てないなら、採用は無理では?

A:学生の重視項目は複数あります。ただし、それは採用成功を保証する根拠ではありません。

 

■今月やること

✔ 自社の二次医療圏の薬剤師偏在指標を確認する

✔ 自社薬剤師の年齢構成と5年後の姿を整理する

✔ 過去3年間の応募・内定・入職数を比較する

✔ 育成できる専門性と教育担当者の余力を洗い出す

 

■筆者の私見

私は、中小薬局が将来の専門性を高め、持続可能な人員体制を構築するうえで、新卒薬剤師の採用と育成は重要な経営課題だと考えています。

また、中小薬局が大手と同じ採用広告費や研修メニューをすべて揃えることは難しいでしょう。それでも、転勤範囲、地域の患者さんとの継続的な関係、在宅医療や特定領域への専門性、先輩薬剤師との距離など、自社の実態と学生の希望が合致すれば、中小薬局にも選ばれる可能性はあるのではないでしょうか。もちろん、特徴があることは待遇や教育体制の不足を正当化しません。大手に勝つ方法だけでなく、「どのような学生に、自分の薬局を選ぶ理由があるか」を考えたいと思います。

一方、私は、大手有利で、採用競争は苛烈になっていると感じています。

しかし、「薬剤師が不足しているから採れない」と考えてしまえば、そこで経営者の思考は止まります。

そもそも薬剤師はどこにいるのか。薬学生は何を基準に就職先を選んでいるのか。そして、自分の薬局が選ばれる可能性は本当にないのか。

採用方法を考える前に、まず現状を正しく知ること。それが、中小薬局の採用戦略を考える第一歩ではないでしょうか。

 

■参考資料

・令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/24/dl/R06_1gaikyo.pdf(2026-10-31確認)

・薬剤師国家試験の受験者数、合格者数、合格率推移(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000772132.pdf(2026-10-31確認)

・第111回薬剤師国家試験の合格発表を行いました(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000199343_00017.html(2026-10-31確認)

・(参考)薬剤師の需給推計(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000979704.pdf(2026-10-31確認)

・薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 参考資料(薬剤師の需給推計)(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001079348.pdf(2026-10-31確認)

・新薬剤師養成問題懇談会(第24回、2025年2月27日)資料1 文部科学省説明資料(文部科学省)https://www.mext.go.jp/content/20250225-mxt_igaku-000040582_002.pdf(2026-10-31確認)

・薬学部の入学定員等(2025年度、厚生労働省検討会資料)(文部科学省)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001655075.pdf(2026-10-31確認)

・2025年3月卒業生就職動向調査結果報告書(一部公開版)(薬学教育協議会)https://yaku-kyou.org/?page_id=359(2026-10-31確認)

・「地域における効果的な薬剤師確保の取組に関する調査研究」令和3年度 総括研究報告書 資料2(薬学5・6年生Webアンケート調査結果)(厚生労働行政推進調査事業費補助金 研究班)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202125038A-sokatsu-shiryo2.pdf(2026-10-31確認)

・2027年卒 薬学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(2025年10月実施、2026年2月10日公開)(株式会社マイナビ)https://medical-saponet.mynavi.jp/news/industry/detail_5079/(2026-10-31確認)


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