AxDx時代の薬剤師スキル|
第4部 実践①AI活用薬剤師レベル「あなたの使い方はどの段階?」
― 地図:自分の現在地を知る ―
30秒で読む要約
- AIの使い方の差は、器用さではなく「確かめる深さ」で決まります。
- 本記事では、薬剤師のAI活用をLv0〜4の5段階に整理しました。
- レベルは積み上げ式で、飛び級はありません。各レベルには「できること」と「やらないこと」が1組ずつあり、覚える「型」は1つだけです。
- 今のレベルの1つ上の型を身につけることで、確認の質を保ちながら、より効率的に仕事を進めることを目指します。
1.なぜ「現在地」から始めるのか
同じAIを使っても、薬剤師によって成果は大きく違います。
ただし、文章を早く作れる人が、AIを上手に使えている人とは限りません。
AIは、もっともらしい間違いを自然な文章で返すことがあります。これをハルシネーションと呼びます。
確かめずに使えば、時短どころか事故の種になります。
つまり、AIで差がつくのは、使う器用さではなく、確かめる深さです。
研修ラダーや「7つ星薬剤師」の目標を自力で登れる薬剤師は、私の経験では3割に満たないと見ています。
これは統計調査に基づく割合ではなく、現場経験からの実感です。
残りの7割に必要なのは、根性ではなく「型」です。
もちろん、薬剤師の能力や意欲を単純に3割と7割に分けられるわけではありません。
ここで伝えたいのは、自力で学び続けられる一部の人だけに依存した教育では、組織全体の能力を引き上げることが難しいという問題です。
型を1つ覚えるたびに、楽をしながら一段上がれる。
これが本シリーズでいう「賢いズル」です。
第4部の実践編では、この賢いズルを体系的に身につけていきます。
初回の今回は、地図を広げて自分の現在地を確かめます。
2.AI活用レベルの全体像
AI活用レベルは積み上げ式で、飛び級はありません。

表1 AI活用薬剤師レベルの全体像
|
レベル |
名称(副題) |
覚える型 |
楽になること |
|
Lv0 |
未接触(傍観者) |
― |
― |
|
Lv1 |
検索窓(利用者) |
出典つき質問 |
調べる手間が減る |
|
Lv2 |
下書き係(時短者) |
伏せ字下書き |
文書づくりの時間が減る |
|
Lv3 |
壁打ち相手(判断者) |
チェックリスト |
見落とし防止を支援する |
|
Lv4 |
業務の型(設計者) |
型を渡す |
教える手間が減る |
注:名称はAIの役割、かっこ内の副題は薬剤師の姿を表します。
出典:筆者作成(2026年10月21日時点)
積み上げ式で、飛び級はない
各レベルには「できること」と「やらないこと」が1組ずつあります。
上のレベルほど、この両方が積み上がります。
「できること」は上へ伸び、「やらないこと」の理解は足場として下から支えます。
たとえば、プロンプトを同僚と共有していても、患者を特定できる情報を、利用が認められていない生成AIに入力しているなら、その人はLv1止まりです。
器用に使えることより、足場が崩れていないことを重く見ます。
なお、この分類は筆者が薬剤師のAI教育のために作成した独自モデルです。公的な能力認定制度ではありません。
Lv0は「劣っている」という意味ではない
AIを使わない薬剤師が、必ずしも能力の低い薬剤師というわけではありません。
業務上の必要性や安全性を評価したうえで、意図して使わない判断も尊重されるべきです。
本当に手当てが必要なのは、AIを使っているのに、必要な確認をしていない状態です。
3.各レベルの「できる」と「やらない」
AI活用の成熟度を考えるうえで重要なのは、単に何ができるかではありません。
何をしてはいけないかを理解し、実際に守れているかが重要です。
表2 レベル別の「できる」と「やらない」
|
レベル |
できる |
やらない |
|
Lv1 検索窓 |
業務の疑問を質問し、調べ始める手がかりにする |
答えを確かめないまま、説明や判断に使わない |
|
Lv2 下書き係 |
指導箋やお知らせの下書きを作らせ、自分の言葉と責任で直して使う |
患者を特定できる情報を入力しない |
|
Lv3 壁打ち相手 |
確認すべき項目をAIに挙げさせ、添付文書やガイドラインで裏を取る |
AIの出力を根拠に、疑義照会や服薬指導の結論を出さない |
|
Lv4 業務の型 |
自分の使い方を確認手順ごと型にし、新人が使っても同じ評価基準で作業できるようにする |
検証ルール、入力してよい情報、責任者を決めないまま広げない |
注:下のレベルの「できる」と「やらない」をすべて満たして、はじめて上のレベルに進みます。
出典:筆者作成(2026年10月21日時点)
Lv3とLv4の違い
Lv3が料理上手な人なら、Lv4はレシピを書ける人です。
ここでいう型とは、「AIへの指示+人の確認」のセットです。
自分ができるだけでなく、ほかの薬剤師が使っても同じ確認手順と評価基準で作業できることが、Lv4の条件です。
AIの出力が毎回完全に一致することを意味するわけではありません。
赤信号:使っているのに守れていない状態
「できる」は実践しているのに、「やらない」が守れていない。
この状態は、レベルとは別に「赤信号」として扱います。
たとえば、AIで下書きを作っているのに、患者を特定できる情報をそのまま、利用が認められていない生成AIへ入力している場合です。
あるいは、AIが挙げた確認項目を、そのまま薬学的判断の根拠にしている場合も注意が必要です。
赤信号が出たら、型を覚えるより先に足場を直します。
なお、患者情報を扱う場合は、伏せ字だけで安全になるわけではありません。
複数の情報の組み合わせによる再識別の可能性や、利用サービスの契約条件、施設の情報管理ルールも確認する必要があります。
4.賢いズルの正体

悪魔のトムくんは、こうそそのかします。
「確かめるの、面倒でしょ? AIの答えをそのまま貼っちゃえ」
一方、天使のワンちゃん、ジェリーくんはこう囁きます。
「ご主人、質問の最後に『出典も出して』と一言足すだけで、確かめるのがぐっと楽になるワン」
トムくんのズルは、確認を省いて目の前だけ楽になるズルです。
ジェリーくんのズルは、確認を型に入れて、ずっと楽になるズルです。
ただし、AIが示した出典は、実在するか、内容が正しいかを薬剤師自身が確かめなければなりません。
4つの型には、それぞれのレベルの「やらない」が組み込まれています。
出典つき質問は、鵜呑みを防ぐための型です。
伏せ字下書きは、個人情報の入力を防ぐための型です。ただし、伏せ字だけで十分とは限りません。
チェックリストは、AIに結論を出させず、薬剤師が確認すべき項目を整理する型です。
型を渡すことは、確認手順がないまま利用が広がることを防ぐための方法です。
ルールを覚えて守るのではなく、型に入れて「守るのが楽」な状態にする。
これが賢いズルの正体です。
ただし、型を使うだけで安全が保証されるわけではありません。必要な確認を忘れにくくする仕組みとして活用することが重要です。
5.診断と型の文例はnote版で
今回のBlogger記事では、AI活用レベルの全体像と、各段階で求められる考え方を紹介しました。
では、実際に自分はどのレベルにいるのでしょうか。
自分ではLv3だと思っていても、Lv2の「やらない」を守れていなければ、積み上げ式の評価では上に進めません。
また、Lv1にいる人が、いきなりLv4のプロンプトを使いこなそうとしても、必要な確認手順が身についていなければ、危険な使い方につながる可能性があります。
そこでnote有料版では、次の内容を用意しました。
▶
8問のセルフ診断と判定のしかた
■赤信号の組み合わせ一覧
■4つの型の文例と、現場での使い方
■特典:回答を選ぶだけでレベルと赤信号が表示される自己採点シート(Excel、店舗のチーム一覧つき)
これは能力を競うための診断ではありません。
今の自分に何が足りないかを知り、次に覚える型を1つに絞るための道具です。
▶ note版はこちら:〔公開URLを挿入〕
想定される反論
Q1.自己診断では、甘く付けてしまうのでは?
意識ではなく、「したことがある」「している」という行動で判定します。
飛び級がないため、得意な部分だけで上位レベルと判定されることを抑えています。
ただし、自己申告には評価の偏りが残ります。
本診断は、薬剤師の能力を客観的に認定するものではありません。
Q2.AIを使わない薬剤師は、劣っているということ?
そうではありません。
業務上の必要性や安全性を評価し、意図して使わないことも合理的な判断です。
問題にしているのは、AIを使っているのに確かめていない状態です。
Q3.薬剤師に「ズル」を勧めるのは、職業倫理に反するのでは?
本シリーズの賢いズルは、確認を省略することではありません。
確認の手間を減らし、判断の質を落とさないための工夫です。
AIが判断を代行するのではなく、薬剤師自身が必要な情報を確認し、専門職として判断することが前提です。
まとめ:今月やること
□ 表1と表2で、自分のレベルの見当をつける
□ 今のレベルの「やらない」を守れているか確かめる
□ 1つ上のレベルの型を、1週間、1日1回使ってみる
□ 管理者の方は、使ってよいAIサービスと入力禁止事項を店舗で確認する
次回の第4部②では、Lv0からLv1へ。
「出典つき質問」の型と、AIのもっともらしい間違いの見抜き方を扱います。
私見
薬剤師の教育を考えるとき、私はこれまで、優秀な一部の薬剤師をさらに伸ばすことに重点が置かれすぎていたのではないかと感じています。
もちろん、専門性を高め、自ら学び続ける薬剤師の存在は不可欠です。
しかし、すべての薬剤師に同じ学習意欲や自己研鑽を求めても、組織全体の能力が均一に高まるとは限りません。
AIを使えば、経験の浅い薬剤師でも、必要な確認項目を整理し、判断に必要な情報を集める手助けを得られます。
大切なのは、AIに任せることではなく、AIを利用しながら、薬剤師自身が何を確かめるべきかを理解することです。
私は、この「型」を通じて、これまで教育だけでは十分に引き上げられなかった薬剤師の実務能力を底上げできる可能性があると考えています。
そして、薬局経営者にとって重要なのは、一人の優秀な薬剤師に依存する組織から、誰もが一定の品質で仕事を進められる組織へと変わることです。
AI時代の薬剤師教育は、「優秀な人を育てる」だけでなく、「誰もが安全に能力を発揮できる仕組みをつくる」方向へ進むべきではないでしょうか。
参考資料
■厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」(2023年5月)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001102596.pdf
※第6.1版の正式公表状況は要確認。実務への適用に際しては、厚生労働省が公表する最新版を確認してください。
■個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/

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