9/22/2026

薬価差より「現金が残る仕組み」を

 薬価差より「現金が残る仕組み」を

薬局経営で「利益改善」と聞くと、最初に薬価差率や卸との価格交渉を思い浮かべる経営者・管理薬剤師は少なくありません。

もちろん、仕入価格の見直しは重要です。しかし、薬価差率が改善したのに、手元の現金が増えない薬局もあります。

その原因は、薬価差益が過剰在庫や廃棄、欠品対応などの業務コストに消え、最終的にキャッシュとして残っていないことにあります。ここを押さえていないと黒字倒産のリスクが格段に上がります。

これからの薬局経営で見るべき数字は、「何%で仕入れたか」だけではありません。

重要なのは、患者対応と医薬品の安定供給を維持しながら、最終的にいくらの現金を残せたかです。


薬価差率が改善しても、現金が増えるとは限らない

薬価1,000円の医薬品を900円で仕入れた場合、薬価差額は100円、薬価差率は10%です。

計算上は、薬価差率が高いほど粗利益を確保しやすくなります。しかし、実際の薬局経営では、次のような問題が発生します。

  • 仕入条件を良くするために購入量を増やし、在庫が過剰になる

  • 同一成分・同一規格の採用銘柄が増え、不動在庫が発生する

  • 高額医薬品や期限切迫品が資金を固定する

  • 欠品時の代替品探索や疑義照会に時間を取られる

  • 調剤報酬の入金前に、仕入代金や給与の支払いが発生する

つまり、薬価差率は利益改善の「入口」であって、経営成果そのものではありません。

薬価差益を在庫に寝かせず、廃棄や追加業務で失わず、現預金として残すところまで設計して、初めて利益改善が完成します。


利益改善は「仕入れ・運用・財務」の3層で考える

薬局の利益改善は、次の3層に分けると理解しやすくなります。

第1層:仕入れで薬価差を確保する

まず必要なのは、薬価、納入価、購入数量、購入額を品目別・店舗別に把握することです。

優先的に交渉すべきなのは、購入額が大きいにもかかわらず薬価差率が低い品目です。全品目を一律に交渉するより、利益への影響額が大きい品目から取り組む方が、限られた時間を有効に使えます。

価格交渉は、複数品目をまとめた総価交渉ではなく、単品単価交渉を基本とします。

ただし、納入価格だけを見てはいけません。配送頻度、小口発注、急配、返品、支払条件なども取引コストに影響します。

薬局側が発注を集約し、配送回数を減らせれば、卸の物流負担を軽減できます。薬局と卸の双方にメリットのある条件を提示することが、継続可能な交渉につながります。

さらに、卸を評価するときは、欠品情報の速さ、代替品の提案力、緊急時の対応なども確認する必要があります。

安く仕入れられても、供給対応が不十分で現場の業務負担が増えれば、実質的な収益性は低下します。


第2層:在庫と銘柄選定で薬価差益を守る

薬価差益を確保しても、過剰在庫や期限切れが増えれば利益は残りません。

特に注意したいのは、同一成分・同一規格の採用銘柄を増やしすぎることです。

選択肢が多いことは一見安心に見えますが、在庫が分散し、低回転品や不動在庫を生みやすくなります。

銘柄選定では、次の項目を総合的に評価します。

  • 薬価と仕入価格

  • メーカーの供給安定性

  • 品質情報と情報提供体制

  • 包装単位と保管のしやすさ

  • 患者の服用・使用の継続しやすさ

  • 欠品時に発生する追加業務

銘柄の収益性を判断するときは、薬価差益から廃棄損、在庫保有負担、緊急発注、代替品探索、疑義照会、患者説明などのコストを差し引いて考える必要があります。

金額換算が難しい業務については、まず対応時間を記録するだけでも構いません。

「薬価差が大きい銘柄」と「実際に利益が残る銘柄」は、必ずしも同じではないのです。


第3層:利益をキャッシュとして残す

薬局では、調剤報酬を売上として計上してから、実際に入金されるまでに時間差があります。

一方、医薬品の仕入代金、人件費、家賃、税金、借入返済などは、入金を待たずに発生します。

帳簿上で利益が出ていても、支払日に必要な現金がなければ、事業を継続できません。

黒字倒産を防ぐためには、損益計算書だけでなく、現預金残高と資金繰り表を一緒に確認する必要があります。

資金繰り表には、少なくとも次の項目を反映します。

  • 月初の現預金残高

  • 調剤報酬と一部負担金の入金予定

  • 医薬品仕入、人件費、家賃の支払予定

  • 借入金の元本返済と利息

  • 税金、賞与、設備投資

  • 返戻や査定による入金変動

月末残高だけでなく、入出金の日付を確認し、現預金が最も少なくなる時期を把握することが重要です。

設備投資や新規出店も、将来の収益性だけでは判断できません。投資後も仕入れや給与に必要な運転資金を確保できるかを確認する必要があります。


毎月確認したい7つの数字

中小薬局では、複雑な管理指標を増やしすぎると、確認作業そのものが負担になります。

まずは、次の7項目を月次で確認することをおすすめします。

  1. 品目別・店舗別の薬価差率と購入額

  2. 薬価差率と粗利率の推移

  3. 在庫金額と在庫日数

  4. 不動在庫・期限切迫品・高額医薬品の金額

  5. 廃棄額、返品額、店舗間移動額

  6. 欠品対応・疑義照会・患者説明に要した時間

  7. 3~6か月先までの現預金残高予測

薬価差率が改善しているのに粗利率が伸びていない場合は、在庫増加、廃棄、追加業務のどこで利益が消えているかを確認します。

数字は店舗や担当者を責めるためのものではありません。次の発注、銘柄選定、卸との交渉を変えるために使うものです。

若手管理薬剤師にも、処方箋枚数だけでなく、在庫日数や廃棄額まで共有することで、現場の判断が経営改善につながります。


90日で「現金が残る仕組み」をつくる

最初の30日では、薬価、納入価、購入額、在庫日数、廃棄額を品目別に一覧化します。そのうえで、高額品、低回転品、薬価差率が低い重点品目を抽出します。

次の30日では、標準採用銘柄と例外品目を整理し、包装単位、発注点、発注量、店舗間共通化を見直します。卸との交渉項目も、利益への影響額が大きい順に並べます。

最後の30日では、在庫圧縮による効果を資金繰り表へ反映し、月次会議で7つの指標を確認します。

「誰が」「いつまでに」「何を変更するか」「次回いつ確認するか」を決めることが、改善を一過性で終わらせないポイントです。

薬局の利益は、棚ではなく現金で完成する

薬価差の改善は、薬局経営にとって必要です。

しかし、薬価差率だけを追いかけると、過剰在庫や供給不安、現場の追加業務を別の場所へ押し付ける可能性があります。

これからの薬局経営では、仕入価格、採用銘柄、在庫、業務時間、資金繰りを一つの経営システムとして捉えることが求められます。

「どれだけ安く買えたか」から、「患者対応と安定供給を守りながら、どれだけ現金を残せたか」へ。

薬価差率を入口にしながら、最後はキャッシュフローで確認する。

ある意味、今後地域で医薬品供給体制を構築、地域フォーミュラリへの参画などを踏まえると、このポイントをしっかりと押えていないと参加薬局の負担ばかり増える羽目になります。

それぞれのルール設定の前に、共通認識として最低限の標準化としてから始めていくことをお勧めします。

もう一点、現在医薬品卸では流通コスト負担により経営が圧縮されてきており、「流通コストの公平な負担」を中医協にて陳述書にて要望しています(意見陳述2026/8/26)。

流通改善ガイドラインの完全遵守順守を医療機関・薬局に求めることを趣意としていると考えられます。そして、その先に見えてくることは以下のようなことが予想されます。

  • 薬価差のさらなる圧縮<薬価差益縮小>
  • 単品単価交渉の強化<総価値引きをほぼ皆無に>
  • 低薬価・不採算品への薬価上の配慮<供給維持を優先>
  • 配送頻度削減<在庫管理能力が重要化>
  • 取引条件別の価格差<発注・返品・配送条件が価格に影響>
  • 顧客別採算管理・取引条件見直し<小規模でも効率的店舗は有利>

それゆえに、「薬局の利益は、棚ではなく現金で完成する」ことが標準化されていることこそが、中小薬局を単なる処方箋小売業ではなく、持続可能な地域医療インフラへ変えていく土台になるのではないでしょうか。


引用・参考資料

厚生労働省「医薬品価格調査:調査の概要」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/157-1a.html)

厚生労働省「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001665718.pdf)

厚生労働省「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(第38回)資料1 単品単価交渉の解釈について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44239.html)

厚生労働省「医薬品等の供給不安への対応について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/index_00006.html)

厚生労働省「令和6年度 後発医薬品品質確保対策事業 検査結果報告書」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212757_00013.html)

厚生労働省「中央社会保険医療協議会・薬価専門部会 意見陳述」(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001742606.pdf)

9/15/2026

薬局の倒産から見えるこれからの生き残り戦略

 薬局の倒産から見えるこれからの生き残り戦略

―「処方箋が来れば大丈夫」だった時代は終わった。今、選ばれる薬局とは?―

最近、「薬局の経営が厳しくなった」という話を聞く機会が増えました。

しかし、私は現在の薬局経営の難しさを、単なる「診療報酬が厳しい」「処方箋が減った」という問題だけで捉えるべきではないと考えています。

いま起きているのは、もっと大きな構造変化です。

これまで薬局を支えてきた経営モデルそのものが、通用しにくくなっている。

薬局の倒産事例を追っていくと、その変化がはっきり見えてきます。



■ 薬局倒産は過去最多水準へ

東京商工リサーチによると、2025年の調剤薬局倒産は38件。前年の28件から35.7%増加し、2年連続で過去最多を更新しました。

しかも38件のうち29件、76.3%が負債1億円未満の小規模倒産です。倒産原因では「販売不振」が25件と65.7%を占めています。

帝国データバンクの年度集計でも、2025年度の調剤薬局倒産は30件で2年連続の過去最多。その8割超が資本金1000万円未満の小規模薬局でした。

つまり、現在進んでいるのは一部の大型企業の経営破綻というより、地域の中小薬局の足元から始まった経営危機なのです。



■ 薬局倒産の原因はどう変わったのか

薬局倒産の変遷を振り返ると、大きく4段階に分けて考えることができます。

① 従来型の経営不振

以前は比較的分かりやすい構造でした。

患者が減る。
処方箋が減る。
売上が減る。
そして経営が苦しくなる。

つまり、「処方箋枚数=経営力」に近い時代でした。

② コロナ型倒産

2020~2021年には受診控えという外部ショックが起こりました。

受診患者減少
 ↓
処方箋減少
 ↓
薬局売上減少

という急激な変化です。

ところが、コロナ禍が収束して患者が医療機関へ戻っても、薬局倒産は減るどころか再び増加しました。

ここに現在の問題があります。

③ 構造的不採算型

2023年頃から目立ってきたのが、

「患者はいる。処方箋も来る。それでも利益が残らない」

という問題です。

薬価改定、人件費上昇、光熱費や家賃などのコスト増、薬剤師確保、競争激化、システム投資……。

実際、東京商工リサーチが603社を分析した2024年度業績では、資本金1億円未満の企業は売上高が3.4%増加した一方、当期利益は48.7%減少しました。

これは現在の中小薬局が置かれた状況を象徴しています。

「売上があること」と「経営が健全であること」が、同じではなくなったのです。

④ これから始まる「選別」

さらに2026年度以降は、特定医療機関への依存度が高い門前型から、患者を地域で支える薬局への転換が一層問われます。

つまり今後は、

門前 → 地域
調剤 → 在宅・健康支援
処方箋 → 患者
店舗完結 → 医療・介護連携

という転換に対応できるかどうかが重要になります。つまり「薬局ビジョン」以上が求められるということです。



■ 薬局を追い込む「7つの圧力」

現在の倒産は、一つの原因で発生するとは限りません。

①処方箋・患者数の減少
②
調剤報酬・薬価への圧力
③
薬剤師不足と人件費上昇
④
門前・特定医療機関への立地依存
⑤DX
・在宅対応などへの投資負担
⑥
借入・M&A・多角化などの財務負担
⑦
大手薬局・ドラッグストアとの競争

これらが複合的に重なることで、利益とキャッシュが少しずつ失われていきます。

したがって、現在の薬局倒産を、

「売上が減ったから倒産した」

だけで説明するのは危険です。

むしろ、

売上はある → 利益が減る → キャッシュが減る → 投資できない → 人材を確保できない → サービス力が落ちる → 患者が減る

という「慢性的な経営劣化」に注意する必要があります。



■ 消える薬局、生き残る薬局

では、この難局を乗り越える薬局とはどのような薬局でしょうか。

私は「規模の大きな薬局」だけが残るとは考えていません。

問題は規模ではなく、変化への適応力です。

【消える可能性が高い薬局】

  • 特定医療機関への依存度が高い。
  • 処方箋枚数だけを経営指標にする。
  • 薬剤師不足を高い給与だけで解決しようとする。
  • DXを単なるコストと考える。
  • 在宅・地域連携への対応が遅い。
  • 経営者の経験と勘だけで意思決定する。

共通しているのは、

「昨日までうまくいった方法を、明日も続けようとしていること」

です。

一方、生き残る薬局は違います。

  • 面応需を増やす。
  • 在宅医療に対応する。
  • 医療・介護とのネットワークをつくる。
  • DXで生産性を高める。
  • 薬剤師を専門業務へ集中させる。
  • 患者との継続的な接点をつくる。
  • そして財務基盤を強くする。

つまり、

「処方箋を待つ薬局」から「地域に必要とされる薬局」へ変わっていくことです。



■ ドラッカーなら、この薬局危機をどう見るか

ここで参考になるのが、ピーター・ドラッカーの経営思想です。

ドラッカーの考え方を現在の薬局経営に置き換えると、私は三つの問いに集約できると思います。

第一条 処方箋ではなく、患者を見よ。

「今日、処方箋が何枚来たか」だけを見るのではありません。

  • 患者は何に困っているのか。
  • 地域は薬局に何を求めているのか。
  • 自分たちはどのような価値を提供できるのか。

薬局の顧客を「処方箋」から「患者・地域」へ戻すことです。

第二条 昨日の成功を捨て、変化を機会にせよ。

  • 「この病院の前だから大丈夫」
  • 「昔から患者が来ている」
  • 「今までこの方法でやってきた」

それこそが最大のリスクになる可能性があります。

ドラッカーが重視した考え方の一つが「計画的廃棄」です。

続けることを決めるだけではなく、

「何をやめるのか」を決める。

そして空いた人、時間、資金を在宅、地域連携、DX、人材育成など、未来につながる領域へ振り向けるのです。

第三条 「大きい薬局」より「なくては困る薬局」になれ。

これからの薬局経営で最も重要な問いは、

「何店舗あるか」
でも、
「処方箋が何枚あるか」
でもありません。

「この薬局がなくなったら、地域の誰が困るのか」

という問いです。

患者、家族、医師、訪問看護師、ケアマネジャー、介護施設、地域住民。

多くの人から、

「あの薬局がなくなると困る」

と言われる状態をつくる。

それこそが、中小薬局にとって最大の競争優位ではないでしょうか。





■ 生き残るとは「残ること」ではない

薬局業界はこれから再編の時代に入ります。

しかし、私はこれを単純な「淘汰」と捉える必要はないと思っています。

むしろ、薬局という存在そのものを再定義する時代です。

最後に、今回の倒産分析から導いた三つの言葉を残したいと思います。

処方箋を 見ているだけでは 患者は見えない。

薬を渡した その先に 薬局の仕事がある。

変わるのが こわいからといって 昨日と同じでは いられない。

変化は 逆風にもなる。 追い風にもなる。

大きくなくてもいい。 「あの薬局がなくなると困る」 地域から そう言ってもらえる薬局でありたい。


生き残るとは、残ることではない。

必要とされ続けることだ。

薬局はいま、「処方箋小売業」から「地域医療インフラ」へ転換できるかを問われています。

淘汰ではなく、進化の時代へ。

目先の対策は、もうすでに投資にはなりません。回収不可のただの経費でしかありません。

薬剤師でもある古謝玄太氏の沖縄知事選応援演説で国民民主党の榛葉賀津也幹事長の言葉が今の薬局へのエールとも聞こえました。

「沖縄は右へ左へやじろべえでした!」 「やじろべえは、前に進むことはできません!」 「右でも左でもなく、沖縄を前に進めましょう!」

その一歩を、前に進むための一歩に。

9/11/2026

薬局の「個人在宅」は本当に儲からないのか?―収益性を高める20の改善策とDX・業務設計の実践ポイント―

個人在宅が増えるほど忙しくなる薬局、利益が増える薬局

高齢化と在宅医療の進展により、薬局にとって個人在宅への対応は避けて通れないテーマになっています。

一方、薬局経営者や管理薬剤師からは、

「在宅患者は増えているのに利益が残らない」
「1件訪問すると半日近く仕事が止まってしまう」
「薬歴や報告書が終わらず残業になる」
「施設在宅の方が効率がよいのではないか」

といった声も聞かれます。

個人在宅は、患者宅ごとに移動し、生活環境、家族構成、服薬状況、介護サービス、緊急時対応なども一人ひとり異なります。そのため施設在宅のように業務をまとめにくく、「効率が悪い」と考えられがちです。

しかし、本当の問題は「個人在宅だから儲からない」ことではありません。

ポイントは、

個別性の高い業務を、どこまで標準化・集約化・DX化できるか

にあります。

多くのレポートや公文から、個人在宅の収益性は単純な患者数ではなく、エリア設計、移動、記録、連携、患者構成を最適化することによって決まると整理されています。



「訪問20分」が実際には「95分の仕事」になっていないか

まず確認したいのが、患者1人に実際に何分使っているかです。

例えば、

調剤・訪問準備20分
移動30分
訪問20分
薬歴・報告15分
医師・ケアマネ等との連携10分

とすると、訪問時間は20分でも、実際の業務時間は95分になります。

つまり、

訪問20分=20分の仕事

ではありません。添付資料でも同じように、個人在宅は「患者1人」ではなく「1患者分の業務ユニット」として考える必要性が示されています。

そこで在宅経営では、単純な「患者数」よりも、

薬剤師1時間当たりにどれだけの在宅業務を行い、どれだけ収益を生み出しているか

を見る必要があります。

仮に95分かかっていた業務を、移動、調剤、記録、連携の改善によって65分にできれば、同じ勤務時間でも受け入れ可能な在宅患者数は大きく変わります。



改善策① 「どこでも受ける在宅」をやめる

最初に取り組みたいのが訪問エリアです。

新規患者の依頼が来るたびに、

北へ30分
南へ25分
西へ20分

という状態になれば、患者が増えるほど移動時間も増えます。

そこで患者住所をGoogleマップなどにプロットして、

「薬局から10分圏」
「10~20分圏」
「20分以上」

に分類します。

さらに、

月曜は北方面
火曜は南方面
木曜は東方面

というように曜日ごとに訪問地域をまとめます。

見るべき指標は「何km離れているか」ではなく、

1時間で何件訪問できるか

です。

個人在宅でも地域内に患者を集めれば、施設在宅に近い「患者密度」を作ることができます。添付レポートでも重点エリアを決め、患者密度を高めることが重要とされています。



改善策② 在宅患者を「人数」ではなく「負荷」で分類する

個人在宅患者は全員同じではありません。

安定している患者と、

認知症
独居
多剤併用
麻薬使用
頻回処方変更
終末期

の患者では、必要な業務時間が大きく違います。

そこで患者を、例えば、

A:安定
B:標準
C:高支援

の3段階程度に分類します。

さらに、

一包化 +1
頻回処方変更 +2
麻薬 +2
独居・服薬管理困難 +1
夜間対応リスク +3
終末期 +3

といった独自の「在宅負荷スコア」を作ってもよいでしょう。

これによって、

「在宅患者50人」

という管理から、

「A20人、B20人、C10人」

という、実際の業務量が見える管理に変わります。

添付資料でも「安定・標準・高支援・終末期」などに患者を分類し、患者ミックスを見ることが提案されています。



改善策③ 薬剤師を「薬を作る仕事」から外へ出す

在宅患者を増やしたくても、薬剤師が一包化、ピッキング、監査、薬袋準備などに多くの時間を取られていれば訪問には出られません。

そこで考えたいのが、

▶ 自動分包機、一包化監査システム、ピッキング支援、バーコード監査、自動発注、調剤補助スタッフ

などの活用です。ただし、機械を買うこと自体が目的ではありません。

目的は、

薬剤師1人を薬局の中から外へ出せるか

です。

例えば機械化や分業によって毎日60分の薬剤師業務を削減できれば、その60分を個人在宅1件に使うことができます。

大規模な機械導入だけでなく、訪問バッグ準備、資材準備、書類整理などを事務スタッフへ移管するだけでも効果があります。



改善策④ 薬歴・報告書を「帰局後に書く」方式から変える

個人在宅では、

▶ 薬歴、医師への報告、ケアマネへの報告、訪問看護への情報提供

など、同じ内容を何度も入力している薬局が少なくありません。

ここはDXの効果が出やすい領域です。

例えば訪問先でタブレットを使い、

  • 服薬状況
  • 残薬
  • 副作用
  • フィジカルアセスメント(食事、睡眠、排泄、ADL、バイタル
  • 家族支援
  • 次回確認事項

をチェック形式で入力します。

文章で必要な部分だけ音声入力し、AIを利用して、

「薬歴用記録」
「医師向け報告書」
「ケアマネ向け要約」

の原案を作成します。(形式様式別のプロンプトテンプレートの活用がGood!)

最終確認は薬剤師が行いますが、毎回ゼロから文章を作る必要がなくなります。

添付資料でも、記録の目的は文章を短くすることではなく、「毎回ゼロから考えなくてもよい構造を作ること」と整理されています。



改善策⑤ 電話・FAXだけの多職種連携を見直す

個人在宅では、医師、訪問看護師、ケアマネジャー、家族など、多くの関係者との連携が必要です。

問題になるのは、

同じ説明を何度もする
相手が不在で折り返しになる
FAX送信後に電話確認する

といった時間です。

そこで、

緊急事項=電話
当日確認=チャット
定期報告=共有システム
記録=定型フォーマット

のように連絡手段を決めます。(これもAIパターン別テンプレ活用で個別文書の作成も)

連携を減らすのではありません。

同じ情報を何度も作らないこと(患者、連絡先別にAIテンプレ活用での作成がGood!)

が重要です。



改善策⑥ 「算定漏れ」を在宅DXの対象にする

在宅では、臨床業務をきちんと行っていても、請求までつながっていないケースがあります。

例えば、

  • 緊急訪問
  • 麻薬管理
  • 在宅関連加算
  • 医師との連携
  • 各種薬学管理上の評価

などです。

そこで患者ごとに、

「何を実施したか」

と、

「何をレセプト請求したか」

を月末に突合します。

薬剤師が覚えておく方式ではなく、

患者情報+実施行為 → 算定候補を自動表示

する仕組みが理想です。これは新しい患者を獲得しなくても利益を改善できる方法です。

ヒアリングでは意外と算定できていないのではないかというケースもあります。



改善策⑦ 紹介営業を「患者数」から「患者密度」に変える

在宅営業というと、ケアマネジャーや在宅医へ、

「患者さんをご紹介ください」

と営業するケースが多いでしょう。

しかし、10km離れた患者を紹介されれば、売上は増えても生産性は下がる可能性があります。

そこで営業の目標を、

患者数ではなく地域密度

に変えます。

既存患者の近くにいるケアマネ、訪問看護、在宅医との関係を強化し、

患者A ➡ 同じ地域の患者B ➡ 患者C ➡ 同じ訪問ルートへ集約

という形を作ります。

質の高い1件の在宅対応が紹介につながり、近隣患者が増えていく。この考え方は添付レポートでも具体例として示されています。



小さく始めるなら、まずこの5つ

多額のシステム投資をしなくても改善は可能です。

最初の90日であれば、

  1. 全在宅患者を地図上にプロットする
  2. 患者ごとの「準備・移動・訪問・記録・連携時間」を測る
  3. 患者をA・B・Cの負荷別に分類する
  4. 訪問記録・報告書をテンプレート化する
  5. 実施業務とレセプト請求を月1回突合する

だけでも、問題点がかなり見えてきます。

その上で、音声入力、AI、在宅管理システム、調剤機器などに投資すれば、「何となく便利そうだから導入するDX」ではなくなります。



個人在宅で最も重要なKPIは「患者数」ではない

個人在宅事業を見るとき、

在宅患者50人、100人

という数字だけを追いかけるのは危険です。

私が最も重要だと考える指標は、

患者1人当たり総業務時間

そして、

薬剤師1時間当たり在宅収益

です。

これに、

  • 平均移動時間
  • 1ルート当たり訪問件数
  • 記録・報告時間
  • 処方変更率
  • 緊急対応件数
  • 算定漏れ件数
  • 紹介元別患者数

などを加えれば、在宅事業の問題点がかなり明確になります。



個人在宅は「高コスト事業」ではなく「設計が必要な事業」

個人在宅には、残薬、認知機能、独居、老老介護、生活動線、家族負担など、処方箋だけでは見えない課題を発見できる大きな価値があります。

だからこそ、「採算が悪いからやらない」でも、「地域医療だから赤字でも頑張る」でもありません。

必要なのは、

患者価値を維持しながら、続けられる業務構造を作ること

です。

個人在宅の収益改善とは、単純に1件当たりの点数を上げることではありません。

  • 地域密度を高める。
  • 移動を減らす。
  • 調剤を機械化・分業する。
  • 記録を標準化・AI化する。
  • 多職種連携を効率化する。
  • 算定漏れを防ぐ。

この積み重ねによって、

在宅患者が増えるほど忙しくなる薬局から、在宅患者が増えるほど生産性が高まる薬局へ

変えていくことができます。

個人在宅は、「1件ずつ回る非効率な仕事」ではありません。

これからの地域薬局にとっては、患者との継続的な接点を作り、地域医療インフラとしての価値を高める重要な事業として捉え直す必要があるのではないでしょうか。




9/09/2026

2027年度「薬局機能高度化推進事業」の本当の狙いとは?

 2027年度「薬局機能高度化推進事業」の本当の狙いとは?

――厚労省・稲角薬事企画官の発言から考える、これからの薬局と薬剤師

 

「薬局の未来」は国が決めるのではなく、現場からつくる

2027年度(令和9年度)の厚生労働省予算概算要求で、薬局関係者から注目を集めているのが、「薬局機能高度化推進事業」です。

この事業では、薬局におけるAI導入効果の検証や、その成果の横展開などを進める方針が示されています。

しかし、今回この政策を考えるうえで、予算額以上に注目したい発言があります。

厚生労働省医薬局総務課の稲角嘉彦薬事企画官は、薬局・薬剤師の将来像について、

「将来に向けて新たな薬剤師像を示すのは一つのアイデア。国が将来像を示して引っ張るのではなく、まずは現場の皆さんの話を聞いてみたい」

という考えを示しています。

この言葉は、2027年度以降の薬局政策を理解するうえで非常に重要です。

今回の「薬局機能高度化推進事業」は、単にAIを薬局に導入するための政策ではありません。

むしろ、

「これからの薬局・薬剤師は何を担うべきなのか」

を、現場の声を聞きながら再検討していくための政策と捉えるべきではないでしょうか。

 


1.2027年度「薬局機能高度化推進事業」とは?

令和9年度の薬剤師・薬局関係予算概算要求では、「薬局機能高度化推進事業」3億5,100万円が要求されています。

事業の目的として掲げられているのは、

「国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化やAIの活用推進等」

です。

一見すると「AIを使って薬局業務を効率化する事業」に見えます。

しかし、今回の稲角薬事企画官のインタビューを重ね合わせると、もう少し大きな政策テーマが見えてきます。

それは、

「日本全国で、必要な人に必要な医薬品を届けるために、薬局と薬剤師の機能をどう再構築するか」

という問題です。

AIやオンライン技術は、そのための「手段」の一つなのです。

 



2.「患者のための薬局ビジョン」は変わるのか?

薬局関係者が気になるのが、2015年に策定された**「患者のための薬局ビジョン」**です。

策定から10年以上が経過した現在も、処方箋集中率の高い、いわゆる門前薬局が多く残っています。

このため、「患者のための薬局ビジョンは十分に実現していないのではないか」という指摘もあります。

これに対して稲角薬事企画官は、

「掲げた姿に向けて進んでおり、現在も途上にある」

との認識を示し、

「ビジョンを変えることは考えていない」

としています。

これは非常に重要な発言です。

つまり、今後の薬局政策は、

「患者のための薬局ビジョンをリセットする」

のではなく、

「ビジョンの基本方向を維持しながら、環境変化に合わせて実現方法を変えていく」

ということです。

 


3.2015年と2026年では、薬局を取り巻く環境が全く違う

「患者のための薬局ビジョン」が策定された2015年と現在では、薬局を取り巻く環境が大きく変わりました。

例えば、

  • 電子処方箋
  • 電子版お薬手帳
  • オンライン服薬指導
  • 医療DX
  • 生成AI
  • 調剤機器の高度化
  • 在宅医療の拡大
  • 医薬品供給不安
  • 薬剤師の地域偏在

などです。

稲角薬事企画官も、AI活用などを挙げながら、薬局・薬剤師を取り巻く環境が策定当時から大きく変化していると指摘しています。

したがって、これから問われるのは、

「2015年に描いた薬局像を、2026年の技術と社会環境でどう実現するのか」

という問題になります。

 


4.実は「都市部の薬局が多い」こと以上に重要な問題がある

今回のインタビューで特に注目したいのが、へき地・離島などにおける医薬品アクセスです。

日本では、都市部を中心に薬局が多数存在する一方で、

  • へき地
  • 離島
  • 過疎地域

などでは、医薬品を必要なときに入手すること自体が課題になる地域があります。

稲角薬事企画官は、

「都市部に薬局が多いこと以上に、へき地や離島の医療提供体制をしっかり整備しなければ、薬剤師は信頼されない」

との考えを示しています。

ここには、これからの薬局政策を考える重要な視点があります。

それは、

「薬局の数」ではなく「必要な場所に必要な薬局機能があるか」

という視点です。

 


5.薬局の「数」から「機能」へ

これまで薬局経営では、

処方箋枚数 × 調剤単価

という視点が非常に重要でした。

しかし、地域医療政策の視点から見ると、

どの地域に どんな薬局があり 何ができるのか

という「機能」の問題が重要になっています。

例えば、

都市部:多数の薬局が存在し、外来処方箋を中心に競争する。

地方都市:在宅医療や地域包括ケアを担う薬局が必要になる。

へき地・離島:そもそも医薬品アクセスそのものを確保する必要がある。

つまり、

全国一律の薬局モデルではなく、地域の医療需要に応じた薬局機能が必要になる

ということです。

 


6.「外来から在宅へ」という医療需要の変化

稲角薬事企画官は、今後の医療需要について、

「外来中心だった医療需要は在宅へシフトしていく」

との認識を示しています。

そして、

「それを支える医療職として薬剤師の役割はさらに重要になる」

としています。

これは薬局経営にとって非常に大きな意味があります。

今後の薬剤師に求められる仕事は、

薬局のカウンターの中だけで完結する仕事

ではなく、

患者の生活の場に出ていく仕事

へ広がる可能性があります。

例えば、

  • 在宅訪問
  • 服薬状況の確認
  • ポリファーマシー対策
  • 医師への情報提供
  • 多職種連携
  • 服薬フォロー
  • 家族への支援

などです。

 


7.だからこそAI・オンライン技術が重要になる

ここでAIやオンライン技術の意味が出てきます。

もし薬剤師不足が問題となる地域で、

「薬剤師がいないから医薬品を届けられない」

という状況が続けば、地域医療そのものが維持できません。

そこで、

オンライン技術 + AI + 調剤機器の自動化 + 薬局間連携

などを組み合わせることで、医薬品提供体制を維持できないかという発想が出てきます。

稲角薬事企画官も、薬を届けられていない地域について、

「様々なツールや制度を活用し、需要側の希望に柔軟に応えていくことが必要」

としています。

ここが今回の政策の核心の一つです。

 


8.AIは「薬剤師を減らすため」の技術ではない

AIについて誤解してはいけないのが、

AI=薬剤師の代替

ではないということです。

むしろ今後は、

AIが情報処理を担う ➡ 薬剤師が判断する ➡ 薬剤師が患者に介入する

という役割分担が重要になるでしょう。

例えば、

AIが得意なこと

  • 大量データの処理
  • 情報検索
  • 情報整理
  • リスク候補の抽出
  • 文書作成支援
  • パターン認識

薬剤師が担うこと

  • 臨床判断
  • 患者との対話
  • 生活背景の理解
  • 医師との協議
  • 治療への介入
  • 最終的な責任ある判断

という分担です。

つまり、

AIによって薬剤師を不要にするのではなく、AIによって薬剤師が薬剤師にしかできない仕事へ集中する

という方向が考えられます。

 


9.ただし、厚労省自身も「生成AIの具体像はまだ見えていない」

ここは非常に重要です。

今回のインタビューで稲角薬事企画官は、

「薬局での生成AI活用の具体像がまだ見えていない」

と率直に述べています。そのため、2027年度予算ではまず予算を要求し、実態を調査した上で考えていくという姿勢が示されています。

これは裏返せば、

「AIを使うこと自体が目的ではない」

ということです。

どこにAIを使えば、

  • 患者にメリットがあるのか
  • 薬剤師の負担が減るのか
  • 医療安全が高まるのか
  • 地域の医薬品アクセスが改善するのか

を検証していく段階なのです。

 


10.調剤の機械化・自動化にも新しい意味が出てくる

調剤の機械化・自動化やオンライン技術についても、これまでは主に、

「薬局業務の効率化」

あるいは、

「規制改革」

という文脈で語られることが多くありました。

しかし、今回の発言では、

へき地医療や医薬品提供の観点から必要になるケースがある

との考え方が示されています。

これは重要な政策転換の可能性があります。

つまり、

「薬局の業務を効率化するために機械化する」

だけではなく、

「医薬品を必要とする患者に届けるために機械化する」

という発想です。

 


11.「調剤業務の外部委託」も、この流れで考える

今後検討されている調剤業務の一部外部委託も、この文脈で考えると理解しやすくなります。

例えば、

地域薬局:患者対応 ➡ 服薬指導 ➡ 在宅支援 ➡ 医師・介護との連携

一方、

調剤拠点:調剤 ➡ 一包化 ➡ 機械化 ➡ AI・システムによる業務支援

という役割分担です。

もちろん、具体的な制度設計は今後の検討を待つ必要がありますが、

「すべての薬局がすべての業務を店舗内で完結させる必要があるのか」

という問題は、これからますます重要になるでしょう。

 


12.これからの薬局は「地域ごとに違っていい」

今回のインタビューから見えてくるのは、

全国の薬局を一つのモデルに統一する

という発想ではありません。

むしろ、

地域の医療需要に合わせて薬局機能を組み合わせる

という考え方です。

例えば、

都市型薬局:かかりつけ + 専門医療 + 健康相談

地域密着型薬局:在宅 + 多職種連携 + 服薬フォロー

へき地薬局:医薬品アクセス + オンライン技術 + 遠隔支援

調剤拠点:機械化 + 自動化 + 効率的な調剤

というような機能分化です。

 


13.薬局経営者が今考えるべき「薬局機能ポートフォリオ」

こうした政策の方向性を踏まえると、薬局経営者は自社の「機能」を棚卸しする必要があります。

例えば、

機能

現状

3年後

外来調剤

◎

○

かかりつけ

○

◎

在宅医療

△

◎

医療機関連携

△

◎

健康相談

△

○

OTC相談

△

○

電子処方箋

○

◎

AI活用

×

○

オンライン対応

△

◎

災害対応

△

◎

地域薬局連携

×

○

重要なのは、全部を「◎」にすることではありません。

自薬局が、

「地域の中で何を担うのか」

を明確にすることです。

 



14.薬剤師のキャリアも変わる

今回のインタビューでは、薬剤師の地域・業態偏在、病院薬剤師不足、創薬人材の育成などを背景に、**「薬剤師のキャリアパスに関する懇談会」**を立ち上げたことも紹介されています。

臨床、研究、薬局、病院など、さまざまな専門性について「こんな道がある」と示せるように整理していく考えです。

これは薬局経営にも関係します。

今後は薬剤師を、

「調剤をする人」

としてだけ考えるのではなく、

在宅医療に強い薬剤師
病院連携に強い薬剤師
専門疾患に強い薬剤師
地域活動に強い薬剤師
健康支援に強い薬剤師
DX
・AIに強い薬剤師

など、専門性を持った人材として育成することが重要になります。

 


15.「薬局機能高度化」の本当の意味

ここまで整理すると、2027年度「薬局機能高度化推進事業」の意味が少し違って見えてきます。

これは単なる、

「AI導入促進事業」

ではありません。

その本質は、

「これからの日本の医薬品提供体制を、どのような薬局・薬剤師で支えるのかを検証する事業」

と考えることができます。

そのための手段として、

AI、DX、オンライン技術、調剤の機械化・自動化、薬局間連携、外部委託

などが検討されていくのです。

 


16.2027年度から始まる「薬局再設計」

私は今回の政策を、

「薬局の再設計」

と捉えると分かりやすいと考えます。

これまでの薬局は、

処方箋を受け取る ➡ 調剤する ➡薬を渡す

という流れが中心でした。

これからは、

患者の健康課題を把握する ➡ 薬物療法を支援する ➡ 在宅で患者を支える

 ➡ 医師・看護師・介護職と連携する ➡ AI・DXを活用する

  ➡ 地域の薬局と機能分担する ➡ 必要な人に必要な医薬品を届ける

というモデルへ変化していく可能性があります。

 


17.薬局経営者へのメッセージ

今回の政策を「補助金情報」として見るだけでは、本質を見失います。

重要なのは、

「自分の薬局は、これから地域で何を担うのか?」

という問いです。

例えば、

「うちは在宅に強い」

「うちは健康相談に強い」

「うちは専門医療に強い」

「うちは地域の夜間対応を担う」

「うちは他薬局と連携して医薬品供給を支える」

というように、

薬局の存在価値を機能として明確にする

ことが必要です。

 


18.そして、政策を「待つ薬局」から「提案する薬局」へ

今回のインタビューで私が最も注目したのは、

「まずは現場の皆さんの話を聞いてみたい」

という姿勢です。

これは薬局経営者にとって大きな意味があります。

これからの制度を、

「厚労省が決めるもの」

として待つだけではなく、

「現場から、こういう薬局が必要だ」

と提案する余地があるということです。

例えば、

  • へき地での医薬品提供モデル
  • 在宅医療を支える薬局モデル
  • AIを活用した薬剤師業務支援
  • 薬局間の機能分担
  • 健康増進支援
  • 地域の医薬品供給ネットワーク

などについて、現場から具体的なモデルを示すことが重要になります。

 



まとめ――「未来の薬局」は、現場からつくられる

2027年度の「薬局機能高度化推進事業」を理解するうえで重要なのは、3億5,100万円という予算額だけではありません。

今回の厚労省・稲角薬事企画官の発言を重ね合わせると、これからの薬局政策の方向性が見えてきます。

それは、

「患者のための薬局ビジョン」の基本方向は維持する

➡ しかし、2015年当時とは環境が大きく変わった

 ➡ AI・オンライン技術など新しい手段を活用する

 ➡ 外来から在宅へ移る医療需要に対応する

 ➡ へき地・離島などの医薬品アクセスを確保する

 ➡ 薬局の機能を地域のニーズに合わせて再構築する

という流れです。

そして何より重要なのは、

「国が将来像を示して引っ張る」のではなく、「まず現場の声を聞く」

という姿勢です。

2027年度は、薬局にとって単なる「AI元年」ではありません。

むしろ、

「これからの薬局は何をする場所なのか」を、現場自身が考え、提案する年

になるのではないでしょうか。

薬局経営者にとって、これから重要なのは、

「何枚の処方箋を集められるか」

だけではありません。

「地域から必要とされる、どのような薬局機能を持っているか」

です。

そして、これからの薬局経営では、

「調剤薬局」から「地域医療を支える医療インフラ」へ。

この視点で自社の事業を再設計することが、重要になってくるでしょう。

 


参考資料

厚生労働省「令和9年度薬剤師・薬局関係予算概算要求の概要」

「稲角薬事企画官『現場から薬剤師像提案を』~へき地の医薬品提供課題~」(2026年9月7日)

※本記事は2026年9月時点の令和9年度予算概算要求および取材記事をもとに整理したものです。概算要求の内容は今後変更される可能性があります。

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