薬価差より「現金が残る仕組み」を
薬局経営で「利益改善」と聞くと、最初に薬価差率や卸との価格交渉を思い浮かべる経営者・管理薬剤師は少なくありません。
もちろん、仕入価格の見直しは重要です。しかし、薬価差率が改善したのに、手元の現金が増えない薬局もあります。
その原因は、薬価差益が過剰在庫や廃棄、欠品対応などの業務コストに消え、最終的にキャッシュとして残っていないことにあります。ここを押さえていないと黒字倒産のリスクが格段に上がります。
これからの薬局経営で見るべき数字は、「何%で仕入れたか」だけではありません。
重要なのは、患者対応と医薬品の安定供給を維持しながら、最終的にいくらの現金を残せたかです。
薬価差率が改善しても、現金が増えるとは限らない
薬価1,000円の医薬品を900円で仕入れた場合、薬価差額は100円、薬価差率は10%です。
計算上は、薬価差率が高いほど粗利益を確保しやすくなります。しかし、実際の薬局経営では、次のような問題が発生します。
仕入条件を良くするために購入量を増やし、在庫が過剰になる
同一成分・同一規格の採用銘柄が増え、不動在庫が発生する
高額医薬品や期限切迫品が資金を固定する
欠品時の代替品探索や疑義照会に時間を取られる
調剤報酬の入金前に、仕入代金や給与の支払いが発生する
つまり、薬価差率は利益改善の「入口」であって、経営成果そのものではありません。
薬価差益を在庫に寝かせず、廃棄や追加業務で失わず、現預金として残すところまで設計して、初めて利益改善が完成します。
利益改善は「仕入れ・運用・財務」の3層で考える
薬局の利益改善は、次の3層に分けると理解しやすくなります。
第1層:仕入れで薬価差を確保する
まず必要なのは、薬価、納入価、購入数量、購入額を品目別・店舗別に把握することです。
優先的に交渉すべきなのは、購入額が大きいにもかかわらず薬価差率が低い品目です。全品目を一律に交渉するより、利益への影響額が大きい品目から取り組む方が、限られた時間を有効に使えます。
価格交渉は、複数品目をまとめた総価交渉ではなく、単品単価交渉を基本とします。
ただし、納入価格だけを見てはいけません。配送頻度、小口発注、急配、返品、支払条件なども取引コストに影響します。
薬局側が発注を集約し、配送回数を減らせれば、卸の物流負担を軽減できます。薬局と卸の双方にメリットのある条件を提示することが、継続可能な交渉につながります。
さらに、卸を評価するときは、欠品情報の速さ、代替品の提案力、緊急時の対応なども確認する必要があります。
安く仕入れられても、供給対応が不十分で現場の業務負担が増えれば、実質的な収益性は低下します。
第2層:在庫と銘柄選定で薬価差益を守る
薬価差益を確保しても、過剰在庫や期限切れが増えれば利益は残りません。
特に注意したいのは、同一成分・同一規格の採用銘柄を増やしすぎることです。
選択肢が多いことは一見安心に見えますが、在庫が分散し、低回転品や不動在庫を生みやすくなります。
銘柄選定では、次の項目を総合的に評価します。
薬価と仕入価格
メーカーの供給安定性
品質情報と情報提供体制
包装単位と保管のしやすさ
患者の服用・使用の継続しやすさ
欠品時に発生する追加業務
銘柄の収益性を判断するときは、薬価差益から廃棄損、在庫保有負担、緊急発注、代替品探索、疑義照会、患者説明などのコストを差し引いて考える必要があります。
金額換算が難しい業務については、まず対応時間を記録するだけでも構いません。
「薬価差が大きい銘柄」と「実際に利益が残る銘柄」は、必ずしも同じではないのです。
第3層:利益をキャッシュとして残す
薬局では、調剤報酬を売上として計上してから、実際に入金されるまでに時間差があります。
一方、医薬品の仕入代金、人件費、家賃、税金、借入返済などは、入金を待たずに発生します。
帳簿上で利益が出ていても、支払日に必要な現金がなければ、事業を継続できません。
黒字倒産を防ぐためには、損益計算書だけでなく、現預金残高と資金繰り表を一緒に確認する必要があります。
資金繰り表には、少なくとも次の項目を反映します。
月初の現預金残高
調剤報酬と一部負担金の入金予定
医薬品仕入、人件費、家賃の支払予定
借入金の元本返済と利息
税金、賞与、設備投資
返戻や査定による入金変動
月末残高だけでなく、入出金の日付を確認し、現預金が最も少なくなる時期を把握することが重要です。
設備投資や新規出店も、将来の収益性だけでは判断できません。投資後も仕入れや給与に必要な運転資金を確保できるかを確認する必要があります。
毎月確認したい7つの数字
中小薬局では、複雑な管理指標を増やしすぎると、確認作業そのものが負担になります。
まずは、次の7項目を月次で確認することをおすすめします。
品目別・店舗別の薬価差率と購入額
薬価差率と粗利率の推移
在庫金額と在庫日数
不動在庫・期限切迫品・高額医薬品の金額
廃棄額、返品額、店舗間移動額
欠品対応・疑義照会・患者説明に要した時間
3~6か月先までの現預金残高予測
薬価差率が改善しているのに粗利率が伸びていない場合は、在庫増加、廃棄、追加業務のどこで利益が消えているかを確認します。
数字は店舗や担当者を責めるためのものではありません。次の発注、銘柄選定、卸との交渉を変えるために使うものです。
若手管理薬剤師にも、処方箋枚数だけでなく、在庫日数や廃棄額まで共有することで、現場の判断が経営改善につながります。
90日で「現金が残る仕組み」をつくる
最初の30日では、薬価、納入価、購入額、在庫日数、廃棄額を品目別に一覧化します。そのうえで、高額品、低回転品、薬価差率が低い重点品目を抽出します。
次の30日では、標準採用銘柄と例外品目を整理し、包装単位、発注点、発注量、店舗間共通化を見直します。卸との交渉項目も、利益への影響額が大きい順に並べます。
最後の30日では、在庫圧縮による効果を資金繰り表へ反映し、月次会議で7つの指標を確認します。
「誰が」「いつまでに」「何を変更するか」「次回いつ確認するか」を決めることが、改善を一過性で終わらせないポイントです。
薬局の利益は、棚ではなく現金で完成する
薬価差の改善は、薬局経営にとって必要です。
しかし、薬価差率だけを追いかけると、過剰在庫や供給不安、現場の追加業務を別の場所へ押し付ける可能性があります。
これからの薬局経営では、仕入価格、採用銘柄、在庫、業務時間、資金繰りを一つの経営システムとして捉えることが求められます。
「どれだけ安く買えたか」から、「患者対応と安定供給を守りながら、どれだけ現金を残せたか」へ。
薬価差率を入口にしながら、最後はキャッシュフローで確認する。
ある意味、今後地域で医薬品供給体制を構築、地域フォーミュラリへの参画などを踏まえると、このポイントをしっかりと押えていないと参加薬局の負担ばかり増える羽目になります。
それぞれのルール設定の前に、共通認識として最低限の標準化としてから始めていくことをお勧めします。
もう一点、現在医薬品卸では流通コスト負担により経営が圧縮されてきており、「流通コストの公平な負担」を中医協にて陳述書にて要望しています(意見陳述2026/8/26)。
流通改善ガイドラインの完全遵守順守を医療機関・薬局に求めることを趣意としていると考えられます。そして、その先に見えてくることは以下のようなことが予想されます。
- 薬価差のさらなる圧縮<薬価差益縮小>
- 単品単価交渉の強化<総価値引きをほぼ皆無に>
- 低薬価・不採算品への薬価上の配慮<供給維持を優先>
- 配送頻度削減<在庫管理能力が重要化>
- 取引条件別の価格差<発注・返品・配送条件が価格に影響>
- 顧客別採算管理・取引条件見直し<小規模でも効率的店舗は有利>
それゆえに、「薬局の利益は、棚ではなく現金で完成する」ことが標準化されていることこそが、中小薬局を単なる処方箋小売業ではなく、持続可能な地域医療インフラへ変えていく土台になるのではないでしょうか。
引用・参考資料
厚生労働省「医薬品価格調査:調査の概要」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/157-1a.html)
厚生労働省「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001665718.pdf)
厚生労働省「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(第38回)資料1 単品単価交渉の解釈について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44239.html)
厚生労働省「医薬品等の供給不安への対応について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/index_00006.html)
厚生労働省「令和6年度 後発医薬品品質確保対策事業 検査結果報告書」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212757_00013.html)
厚生労働省「中央社会保険医療協議会・薬価専門部会 意見陳述」(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001742606.pdf)