欧州薬局サービスの現状と課題
欧州におけるコミュニティファーマシーサービスの進展と実態調査
Evolution of community pharmacy services
in the European Union and beyond: a cross‑country survey of 33 national pharmacy
International Journal of Clinical
Pharmacy(Published online:15 April 2026)
2025年時点における欧州のコミュニティファーマシー(地域薬局)サービスの進展、公的償還(報酬)、および規制上の実態を調査した研究報告がなされています。
2020年のコロナパンデミック以降かなり薬局の機能やサービスが拡大していることが示され、社会インフラとして薬局が重要な施設になりつつあることがわかります。そして、日本の薬局の将来必要となる保険内・保険外サービスの参考になるのではと思います。
調査の概要
本研究は、2020年(パンデミック前)の調査結果と2025年のデータを比較し、欧州における薬局サービスの変遷を明らかにすることを目的としています
。
- 対象国: EU加盟27カ国および近隣6カ国(計33カ国)
。
- 方法: 検証済みの調査票を用い、47項目のコミュニティファーマシーサービス(CPS)の実施レベルと償還状況を調査
。
- 背景: 医療資源の制約や人口高齢化の中、アクセスの良い薬局を公衆衛生の拠点として活用する動きが加速しています
。
ⅰ 主な結果と傾向
1. サービスの拡大
欧州全体で、薬局が提供するサービスの種類と地理的な広がりが大幅に増加しました。
- 実施数: 1カ国あたりのサービス提供数の中央値は26項目(範囲:9〜43)でした
。
- 成長率: 2020年と比較可能なサービスのうち、77%(36項目)が提供国数を増やしています 。
- 顕著な伸び: 特に以下のサービスで大きな成長が見られました 。
- ワクチン接種: 10カ国 → 19カ国
- 薬剤調整(Medication
Reconciliation): 7カ国 → 15カ国
- 初回調剤介入(First-time
dispensing): 11カ国 → 16カ国
2. 公的償還(報酬)の進展
サービスへの持続可能な資金提供についても改善が見られます。
- 償還の増加: 全サービスの49%(23項目)で公的償還を行う国が増加しました 。
- 主な増加項目: ワクチン接種(+5カ国)、スクリーニング(+4カ国)、一包化などの服用補助(+3カ国) 。
3. 実装における障壁
進展の一方で、依然として以下のような課題が報告されています
。
- 規制の制限: 47サービス中22サービスで、薬剤師の能力を十分に発揮することを妨げる規制が存在しています 。
- リソース不足: 過重な業務、スタッフ不足、高い事務的負担が新たなサービス導入の妨げとなっています
。
- 多職種連携: 他の医療従事者との統合や協力体制が不十分なケースも見られます
。
ⅱ 欧州各国の薬局サービスの特徴
この研究では、欧州33カ国(EU27カ国+近隣6カ国)を対象に、47項目のサービスを調査しています 。全体として、薬剤師の役割が単なる「調剤」から、予防・臨床・ケースマネジメントへと劇的に拡大しているのが最大の特徴です
。
1. 国別の実装状況
薬局が提供するサービス数には国によって大きな幅があります
。
- 先進的な国(サービス数が多い): フランス(43項目)、アイルランド(38項目)、ポルトガル(37項目)、イタリア(35項目)などが挙げられ、非常に多機能な薬局運営が行われています 。
- 発展途上の国(サービス数が少ない): リトアニア(9項目)、キプロス(13項目)、ブルガリア(13項目)などは、依然として伝統的な調剤業務が中心です
。
- 全体の中央値: 1カ国あたり26項目のサービスが提供されています 。
2. 主要なサービスの進展(2020年比)
2020年と比較して、特に以下の3分野で顕著な成長が見られました
。
- ワクチン接種: 10カ国から19カ国へとほぼ倍増しました 。パンデミックを機に、公衆衛生の拠点としての認知が高まったことが背景にあります
。
- 薬剤調整(Medication
Reconciliation): 7カ国から15カ国へ拡大 。入退院時などの移行期における薬の重複や誤用を防ぐ役割が強化されています
。
- 初回調剤介入: 11カ国から16カ国へ増加 。新しい薬を飲み始める患者に対し、アドヒアランス(服薬維持)向上のための構造的なカウンセリングを行います
。
ⅲ 日本の薬局との機能・役割の相違点
欧州の最新データと日本の現状を比較すると、以下の3つの大きな相違点が浮かび上がります。
① 臨床業務の範囲(特にワクチンと処方権)
- 欧州: 多くの国で薬剤師によるワクチン接種が標準化され、一部の国では**処方更新(Repeat dispensing)や、軽度疾患に対する独自の処方・選定(Common Ailment Management)**が認められています
。
- 日本: 薬局でのワクチン接種は原則認められておらず、処方箋に基づく調剤が厳格に守られています。軽度疾患への対応(セルフメディケーション支援)は推奨されていますが、欧州のような「処方権の共有」に近いモデルは限定的です。
② 公的償還(報酬)の対象
- 欧州: サービスの49%で公的報酬が増加しており、特に「予防(ワクチン、スクリーニング)」や「管理(一包化、薬剤レビュー)」への支払いが強化されています
。
- 日本: 「地域薬局基本料」や「服薬管理指導料」など、対人業務への評価は進んでいますが、欧州ほど「疾患予防(ワクチン、疾患スクリーニング)」に対する薬局報酬が確立されているわけではありません。
③ デジタル・多職種連携
- 欧州: 患者の電子健康記録(EHR)へのアクセスを認める国が増えており(6カ国で実施、一部で報酬あり)、医師との「品質サークル(Quality Circles)」を通じた連携も進んでいます 。
- 日本: 電子処方箋やマイナ保険証の活用が進みつつありますが、医師とリアルタイムで臨床データを共有し、意思決定に深く関与するレベルには、まだ地域差や制度的ハードルが残っています。
比較表
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機能・役割 |
欧州(進展国)の状況 |
日本の状況 |
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ワクチン接種 |
19カ国で実施。薬剤師が直接接種 |
原則実施不可(一部の自治体等の例外除く) |
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処方権の柔軟性 |
24カ国でリピート処方、30カ国で代替調剤
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リフィル処方箋の導入が始まった段階 |
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疾患管理 |
24カ国で慢性疾患管理プログラムを実施 |
特定の指導料はあるが、包括的プログラムは途上 |
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報酬体系 |
サービス単位の公的償還が急速に拡大
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調剤報酬点数に基づき、対人業務評価へシフト中 |
論文の結論的示唆: 欧州では薬剤師を「薬の供給者」から、医療システムを支える「ケアの提供者」へと再定義する動きが加速しています
。
ⅳ 公的報酬に至る条件や要因
欧州においてコミュニティファーマシー(地域薬局)サービスが公的報酬(リインバースメント)を得るための、あるいは持続的な報酬体系を構築するための主な「条件」や「要因」として、以下の4つのポイントが挙げられています。
1. 法的・規制上の枠組み(Supportive Regulatory Frameworks)
サービスに対して報酬が支払われるための最も基本的な条件は、薬剤師がそのサービスを提供することを認める適切な法的権限があることです。
- 医療提供者としての地位: 薬剤師が「医療提供者(Healthcare Provider)」または「医療スペシャリスト」として正式に法で分類されている必要があります
。
- 業務範囲の拡大: ワクチン接種や処方更新、代替調剤など、従来の「調剤」を超えた臨床的役割を果たすための法改正が前提となります
。
- 実施規則の整備: 単に法律でサービスが認められているだけでなく、具体的な実施規則や報酬の定義が整っていることが、実際の支払いには不可欠です
。
2. 臨床的・経済的エビデンス(Clinical and Cost-Effectiveness)
政府や支払者が報酬を正当化するためには、そのサービスが健康アウトカムを改善し、医療コストを削減するという証拠が必要です。
- 費用対効果の証明: 多くの国で、薬局サービスがプライマリ・ケアへの負担を減らし、医療システム全体の予算にプラスの影響を与えることが経済評価によって示されています
。
- 具体的な成功事例: 英国の「新規医薬品サービス(NMS)」や、ウェールズの「喉の痛みに対する検査・治療サービス」のように、QALY(質調整生存年)当たりのコスト削減効果が示されたサービスは、公的報酬の対象となりやすい傾向があります
。
3. 公衆衛生上の必要性と政策との整合性
政府の公衆衛生政策(パンデミック対応、高齢化対策など)とサービスの目的が一致していることが、報酬化を後押しします。
- アクセスの向上: 地理的な広がりや長い営業時間を持つ薬局を、ワクチン接種やスクリーニングの拠点として活用するという政策的判断が、公的資金投入の引き金となります
。
- プライマリ・ケアのレジリエンス: 医師不足や医療資源の制約に対応するため、薬局を「コミュニティ・ヘルスハブ」として統合する動きが報酬化を加速させています
。
4. 構造的・運用の準備(Structural and Operational Readiness)
サービスを持続可能かつ高品質に提供するための環境整備も条件の一つです。
- デジタル化とデータ共有: 電子健康記録(EHR)へのアクセスや、データの電子共有が可能な体制が整っていることが、ケアの継続性を担保し、報酬モデルを構築する鍵となります
。
- 多職種連携: 医師や他の医療従事者との「品質サークル(Quality Circles)」や統合されたケアパス(診療経路)への参加が求められます 。
まとめ
論文は、単にサービスを導入する(地名的な利用可能性を広げる)だけでは不十分であり、「規制の整合性」と「構造的な公的報酬モデル」のセットが、薬剤師の役割を「薬の供給」から「ケアの提供」へと転換させるための必須条件であると結論付けています
ⅴ 日本での機能拡大のためには
欧州33カ国を対象とした最新の調査結果(2025年時点)の報告から、日本において薬局の機能をさらに拡大していくためには、以下の5つが重要なカギとなりそうです。
1. 臨床業務の法的拡大(Scope of Practice)
欧州では、薬剤師の役割が従来の「調剤」から「ケアの提供者」へと明確にシフトしています
。
- ワクチン接種の解禁と標準化: 欧州ではパンデミックを経て、薬剤師による接種実施国が19カ国に倍増しました 。日本でもアクセスの良さを活かし、公衆衛生の拠点として接種権限を段階的に付与することが有効です。
- 軽度疾患管理(Common
Ailment Management):
欧州の9カ国で導入されているように、軽度の症状に対して薬剤師が一定の判断で処方・選定を行う仕組みを整備し、プライマリ・ケアの負担を軽減します
。
- 薬剤調整(Medication
Reconciliation)業務の強化:
入退院時などの移行期における薬学的管理を法的に位置づけ、欧州(15カ国で実施)と同様に患者の安全性を確保します 。
2. 持続可能な公的報酬モデルへの転換
サービスの拡大には、単なる「対物」から「対人・アウトカム」への評価の移行が不可欠です。
- 予防・管理サービスへのリインバースメント: 欧州ではサービスの約半数で公的報酬が増加しています 。特に、ワクチン接種、スクリーニング、一包化(服用補助)などの「予防とアドヒアランス維持」に対する明確な点数化が必要です
。
- 「初回調剤介入」の評価: 新規薬剤の服用開始時における指導(欧州16カ国で実施)を構造化し、アドヒアランス向上による長期的な医療費抑制効果を報酬に反映させます 。
3. デジタルヘルスの統合とデータ活用
欧州ではデジタル変革が薬局サービスの質を支える鍵となっています
。
- 電子健康記録(EHR)へのアクセス権限: 欧州の先進事例に倣い、薬剤師が患者の臨床データ(検査値等)にアクセスできる環境を整備することで、より安全で正確な臨床判断を可能にします
。
- 成果(アウトカム)の可視化: 薬局での介入がどのように入院率や医療費を削減したか、OECD指標のような共通の評価尺度を導入し、エビデンスに基づく政策立案を推進します 。
4. 多職種連携と地域ケアへの統合
薬局を孤立した店舗ではなく、地域医療システムの一部として再定義します。
- 「統合ケアパス」への参加: 医師や他の専門職との「品質サークル(Quality Circles)」や共通のプロトコルを構築し、多職種が連携して一人の患者を診る体制を強化します 。
- リソース不足の解消: ドイツなどで報告されている「過重な業務負担」や「スタッフ不足」といった障壁を解消するため、事務作業のデジタル化やタスク・シフトを推進し、薬剤師が臨床業務に集中できる環境を整えます
。
5. 臨床能力を高める継続的教育(CPD)
役割の拡大に合わせて、薬剤師自身のスキルセットも更新し続ける必要があります
。
- 臨床スキルの再定義: ワクチン接種技術や、複雑な薬学的レビュー(Medication Review)を適切に行うための、高度で実践的な継続的専門開発(CPD)プログラムを構築します 。
まとめると
研究チームは、薬剤師が単なる「薬の供給者」から「ケアの提供者」へと移行していることを強調しています
。
重要: サービスの広範かつ持続可能な実装には、「適切な規制枠組み」と「構造的な公的償還モデル」の整備が不可欠です
。
この調査結果は、今後の日本の薬局サービスや報酬体系の議論においても、欧州の先進事例として非常に示唆に富む内容と言えます。