個人在宅が増えるほど忙しくなる薬局、利益が増える薬局
高齢化と在宅医療の進展により、薬局にとって個人在宅への対応は避けて通れないテーマになっています。
一方、薬局経営者や管理薬剤師からは、
「在宅患者は増えているのに利益が残らない」
「1件訪問すると半日近く仕事が止まってしまう」
「薬歴や報告書が終わらず残業になる」
「施設在宅の方が効率がよいのではないか」
といった声も聞かれます。
個人在宅は、患者宅ごとに移動し、生活環境、家族構成、服薬状況、介護サービス、緊急時対応なども一人ひとり異なります。そのため施設在宅のように業務をまとめにくく、「効率が悪い」と考えられがちです。
しかし、本当の問題は「個人在宅だから儲からない」ことではありません。
ポイントは、
個別性の高い業務を、どこまで標準化・集約化・DX化できるか
にあります。
多くのレポートや公文から、個人在宅の収益性は単純な患者数ではなく、エリア設計、移動、記録、連携、患者構成を最適化することによって決まると整理されています。
「訪問20分」が実際には「95分の仕事」になっていないか
まず確認したいのが、患者1人に実際に何分使っているかです。
例えば、
調剤・訪問準備20分
移動30分
訪問20分
薬歴・報告15分
医師・ケアマネ等との連携10分
とすると、訪問時間は20分でも、実際の業務時間は95分になります。
つまり、
訪問20分=20分の仕事
ではありません。添付資料でも同じように、個人在宅は「患者1人」ではなく「1患者分の業務ユニット」として考える必要性が示されています。
そこで在宅経営では、単純な「患者数」よりも、
薬剤師1時間当たりにどれだけの在宅業務を行い、どれだけ収益を生み出しているか
を見る必要があります。
仮に95分かかっていた業務を、移動、調剤、記録、連携の改善によって65分にできれば、同じ勤務時間でも受け入れ可能な在宅患者数は大きく変わります。
改善策① 「どこでも受ける在宅」をやめる
最初に取り組みたいのが訪問エリアです。
新規患者の依頼が来るたびに、
北へ30分
南へ25分
西へ20分
という状態になれば、患者が増えるほど移動時間も増えます。
そこで患者住所をGoogleマップなどにプロットして、
「薬局から10分圏」
「10~20分圏」
「20分以上」
に分類します。
さらに、
月曜は北方面
火曜は南方面
木曜は東方面
というように曜日ごとに訪問地域をまとめます。
見るべき指標は「何km離れているか」ではなく、
1時間で何件訪問できるか
です。
個人在宅でも地域内に患者を集めれば、施設在宅に近い「患者密度」を作ることができます。添付レポートでも重点エリアを決め、患者密度を高めることが重要とされています。
改善策② 在宅患者を「人数」ではなく「負荷」で分類する
個人在宅患者は全員同じではありません。
安定している患者と、
認知症
独居
多剤併用
麻薬使用
頻回処方変更
終末期
の患者では、必要な業務時間が大きく違います。
そこで患者を、例えば、
A:安定
B:標準
C:高支援
の3段階程度に分類します。
さらに、
一包化 +1
頻回処方変更 +2
麻薬 +2
独居・服薬管理困難 +1
夜間対応リスク +3
終末期 +3
といった独自の「在宅負荷スコア」を作ってもよいでしょう。
これによって、
「在宅患者50人」
という管理から、
「A20人、B20人、C10人」
という、実際の業務量が見える管理に変わります。
添付資料でも「安定・標準・高支援・終末期」などに患者を分類し、患者ミックスを見ることが提案されています。
改善策③ 薬剤師を「薬を作る仕事」から外へ出す
在宅患者を増やしたくても、薬剤師が一包化、ピッキング、監査、薬袋準備などに多くの時間を取られていれば訪問には出られません。
そこで考えたいのが、
▶ 自動分包機、一包化監査システム、ピッキング支援、バーコード監査、自動発注、調剤補助スタッフ
などの活用です。ただし、機械を買うこと自体が目的ではありません。
目的は、
薬剤師1人を薬局の中から外へ出せるか
です。
例えば機械化や分業によって毎日60分の薬剤師業務を削減できれば、その60分を個人在宅1件に使うことができます。
大規模な機械導入だけでなく、訪問バッグ準備、資材準備、書類整理などを事務スタッフへ移管するだけでも効果があります。
改善策④ 薬歴・報告書を「帰局後に書く」方式から変える
個人在宅では、
▶ 薬歴、医師への報告、ケアマネへの報告、訪問看護への情報提供
など、同じ内容を何度も入力している薬局が少なくありません。
ここはDXの効果が出やすい領域です。
例えば訪問先でタブレットを使い、
- 服薬状況
- 残薬
- 副作用
- フィジカルアセスメント(食事、睡眠、排泄、ADL、バイタル
- 家族支援
- 次回確認事項
をチェック形式で入力します。
文章で必要な部分だけ音声入力し、AIを利用して、
「薬歴用記録」
「医師向け報告書」
「ケアマネ向け要約」
の原案を作成します。(形式様式別のプロンプトテンプレートの活用がGood!)
最終確認は薬剤師が行いますが、毎回ゼロから文章を作る必要がなくなります。
添付資料でも、記録の目的は文章を短くすることではなく、「毎回ゼロから考えなくてもよい構造を作ること」と整理されています。
改善策⑤ 電話・FAXだけの多職種連携を見直す
個人在宅では、医師、訪問看護師、ケアマネジャー、家族など、多くの関係者との連携が必要です。
問題になるのは、
同じ説明を何度もする
相手が不在で折り返しになる
FAX送信後に電話確認する
といった時間です。
そこで、
緊急事項=電話
当日確認=チャット
定期報告=共有システム
記録=定型フォーマット
のように連絡手段を決めます。(これもAIパターン別テンプレ活用で個別文書の作成も)
連携を減らすのではありません。
同じ情報を何度も作らないこと(患者、連絡先別にAIテンプレ活用での作成がGood!)
が重要です。
改善策⑥ 「算定漏れ」を在宅DXの対象にする
在宅では、臨床業務をきちんと行っていても、請求までつながっていないケースがあります。
例えば、
- 緊急訪問
- 麻薬管理
- 在宅関連加算
- 医師との連携
- 各種薬学管理上の評価
などです。
そこで患者ごとに、
「何を実施したか」
と、
「何をレセプト請求したか」
を月末に突合します。
薬剤師が覚えておく方式ではなく、
患者情報+実施行為 → 算定候補を自動表示
する仕組みが理想です。これは新しい患者を獲得しなくても利益を改善できる方法です。
ヒアリングでは意外と算定できていないのではないかというケースもあります。
改善策⑦ 紹介営業を「患者数」から「患者密度」に変える
在宅営業というと、ケアマネジャーや在宅医へ、
「患者さんをご紹介ください」
と営業するケースが多いでしょう。
しかし、10km離れた患者を紹介されれば、売上は増えても生産性は下がる可能性があります。
そこで営業の目標を、
患者数ではなく地域密度
に変えます。
既存患者の近くにいるケアマネ、訪問看護、在宅医との関係を強化し、
患者A ➡ 同じ地域の患者B ➡ 患者C ➡ 同じ訪問ルートへ集約
という形を作ります。
質の高い1件の在宅対応が紹介につながり、近隣患者が増えていく。この考え方は添付レポートでも具体例として示されています。
小さく始めるなら、まずこの5つ
多額のシステム投資をしなくても改善は可能です。
最初の90日であれば、
- 全在宅患者を地図上にプロットする
- 患者ごとの「準備・移動・訪問・記録・連携時間」を測る
- 患者をA・B・Cの負荷別に分類する
- 訪問記録・報告書をテンプレート化する
- 実施業務とレセプト請求を月1回突合する
だけでも、問題点がかなり見えてきます。
その上で、音声入力、AI、在宅管理システム、調剤機器などに投資すれば、「何となく便利そうだから導入するDX」ではなくなります。
個人在宅で最も重要なKPIは「患者数」ではない
個人在宅事業を見るとき、
在宅患者50人、100人
という数字だけを追いかけるのは危険です。
私が最も重要だと考える指標は、
患者1人当たり総業務時間
そして、
薬剤師1時間当たり在宅収益
です。
これに、
- 平均移動時間
- 1ルート当たり訪問件数
- 記録・報告時間
- 処方変更率
- 緊急対応件数
- 算定漏れ件数
- 紹介元別患者数
などを加えれば、在宅事業の問題点がかなり明確になります。
個人在宅は「高コスト事業」ではなく「設計が必要な事業」
個人在宅には、残薬、認知機能、独居、老老介護、生活動線、家族負担など、処方箋だけでは見えない課題を発見できる大きな価値があります。
だからこそ、「採算が悪いからやらない」でも、「地域医療だから赤字でも頑張る」でもありません。
必要なのは、
患者価値を維持しながら、続けられる業務構造を作ること
です。
個人在宅の収益改善とは、単純に1件当たりの点数を上げることではありません。
- 地域密度を高める。
- 移動を減らす。
- 調剤を機械化・分業する。
- 記録を標準化・AI化する。
- 多職種連携を効率化する。
- 算定漏れを防ぐ。
この積み重ねによって、
在宅患者が増えるほど忙しくなる薬局から、在宅患者が増えるほど生産性が高まる薬局へ
変えていくことができます。
個人在宅は、「1件ずつ回る非効率な仕事」ではありません。
これからの地域薬局にとっては、患者との継続的な接点を作り、地域医療インフラとしての価値を高める重要な事業として捉え直す必要があるのではないでしょうか。