9/08/2026

医療DXに関するダッシュボードから読む、これからの薬局経営

 医療DXに関するダッシュボードから読む、これからの薬局経営

「導入する薬局」から「データを活用する薬局」へ

薬局経営を取り巻く環境は、大きく変わり始めています。

電子処方箋、マイナ保険証、オンライン資格確認、電子カルテ、PHR、電子お薬手帳、自治体の医療費助成に関するオンライン資格確認――。

これまで「医療DX」といえば、「システムを導入すること」と捉えられがちでした。

しかし、これからの薬局経営では、単にシステムを導入しているかどうかだけでは十分ではありません。

重要になるのは、

「導入したデジタルシステムを、薬局の業務改善や患者サービス、薬剤師の専門性向上にどう活用するか」

という視点です。

そこで注目したいのが、デジタル庁と厚生労働省が公開している「医療DXに関するダッシュボード」です。このダッシュボードは、医療DXの普及状況を確認するための資料ですが、薬局経営者の立場から見ると、単なる「国の進捗状況」ではありません。

むしろ、

「これから薬局経営で何が当たり前になっていくのか」

を読み取ることができる重要な経営情報です。

本記事では、この医療DXの進展を薬局経営の視点から読み解き、これから薬局が取り組むべき具体的なDX戦略について考えてみます。

 


1.薬局DXは「導入」から「活用」の段階へ

まず注目したいのが、電子処方箋です。

電子処方箋については、薬局での導入が急速に進み、現在では多くの薬局が利用できる環境になっています。

つまり、これからの薬局経営では、

「電子処方箋を導入しているか?」

だけを議論していても、経営上の差別化にはなりにくくなります。

これから重要になるのは、

「電子処方箋を使って、薬局の業務や患者へのサービスをどのように変えたか」

です。

例えば、

・重複投薬等チェックをどの程度活用しているか
・処方内容の確認にかかる時間が短縮されたか
・疑義照会の質が向上したか
・薬剤師が患者との服薬相談に使える時間が増えたか
・調剤後の情報を医療機関との連携に活用しているか

といった視点が重要になります。

「電子処方箋導入済み」だけでは不十分

薬局経営者が確認したいのは、

「導入した結果、何が変わったのか?」

です。

例えば、

「電子処方箋を導入しました」

ではなく、

「電子処方箋の活用によって、受付・処方確認・調剤・服薬指導のどの工程が効率化されたのか」

まで確認する必要があります。

 


2.電子処方箋の本当の価値は「情報がつながる」こと

電子処方箋の大きなメリットは、単なる紙の処方箋の電子化ではありません。

本質的な価値は、

「患者の薬に関する情報が、医療機関と薬局の間でつながること」

にあります。

患者が複数の医療機関を受診している場合でも、薬剤情報を確認しやすくなれば、重複投薬や併用薬の確認に役立ちます。

薬剤師にとっては、患者から聞き取った情報だけに頼るのではなく、デジタル化された情報を確認しながら服薬状況を評価できる可能性が広がります。

ここで重要なのが、

「アラートが出たか」ではなく「アラートを薬剤師がどう判断したか」

です。

例えば、

電子処方箋の情報
↓
重複・併用等のチェック
↓
薬剤師による確認
↓
患者への聞き取り
↓
必要に応じた疑義照会
↓
処方変更・服薬支援
↓
医療機関への情報提供

という流れです。

この一連のプロセスまで考えると、電子処方箋は単なる「調剤システム」ではなく、薬剤師の専門性を高めるための情報基盤になります。

 


3.薬局DXの効果は「コスト削減」だけで評価しない

薬局のDXを考えるとき、

「何人分の作業を削減できるか」

「何分短縮できるか」

という視点はもちろん重要です。

しかし、それだけでは不十分です。

薬局DXで本当に重要なのは、

「削減した時間を、患者のためにどう再配分するか」

です。

例えば、受付業務を10分短縮できたとします。

その10分を単純に「人件費削減」と考えるのではなく、

・患者への服薬フォロー
・在宅患者への対応
・医療機関への情報提供
・ポリファーマシーへの対応
・健康相談
・地域活動
・スタッフ教育

などに振り向けることができれば、DXは単なる効率化ではなく、薬局の付加価値向上につながります。

つまり、

DX=人を減らすための仕組み

ではなく、

DX=薬剤師が本来やるべき仕事に時間を戻す仕組み

と考えることが重要です。

 


4.患者側のデジタル化も急速に進んでいる

薬局DXを考えるうえで、もう一つ重要なのが「患者側のデジタル化」です。

マイナ保険証の利用、マイナポータル、スマートフォンによるマイナンバーカードの利用、電子お薬手帳、PHRなど、患者自身が医療情報をデジタルで扱う環境が整いつつあります。

ここで薬局経営者が考えるべきなのは、

「患者がデジタル化したとき、薬局はどのような接点を持つのか?」

という問題です。

これまでの薬局と患者の関係は、

「処方箋を持って来局する」

ことが中心でした。

しかし、今後は、

「来局していない時間も患者とつながる」

という発想が重要になります。

その中心的な役割を担う可能性があるのが、PHRです。

 


5.PHR・電子お薬手帳は「患者との継続的な接点」になる

PHRとは、Personal Health Recordの略で、個人が自分自身の健康・医療情報を管理・活用する考え方です。

マイナポータルでは、薬剤情報や処方・調剤に関する情報、健診情報、医療費情報などを確認できる仕組みが整備されています。

薬局にとって重要なのは、

「患者がどの電子お薬手帳を使っているか」

だけではありません。

むしろ、

「薬局が患者のデジタル情報と、どのようにつながるのか」

という視点が重要です。

例えば電子お薬手帳やPHRサービスを選ぶ際には、

・マイナポータルとの連携
・処方・調剤情報の取得
・他の医療機関・薬局との情報連携
・患者本人による同意管理
・データの持ち運びやすさ
・セキュリティ対策
・薬局のレセコンや電子薬歴との連携
・服薬フォローへの活用
・将来的なPHRサービスとの連携

などを確認する必要があります。

特定のアプリを導入すること自体が目的ではありません。

重要なのは、

「患者が日常的に使うデジタル接点を、薬局の服薬支援にどう活用するか」

です。

例えば、電子お薬手帳を単に「薬の記録」として終わらせるのではなく、

「服薬状況の確認」
「服薬フォロー」
「患者からの相談」
「受診・服薬情報の確認」
「健康情報の提供」

などにつなげられれば、薬局と患者の関係は大きく変わります。

 


6.マイナ保険証は「受付業務改革」の入口

マイナ保険証についても、薬局経営では単なる「受付方法の変更」と考えないことが重要です。

マイナ保険証とオンライン資格確認によって、患者の資格情報や医療情報をデジタルで確認できる環境が整備されています。

これにより、

・資格確認の効率化
・入力作業の削減
・保険資格の確認精度向上
・患者情報の確認
・医療情報を活用した服薬支援

などにつなげることができます。

特に重要なのは、

「受付担当者の作業をどこまで減らせるか」

です。

例えば、

「マイナ保険証を利用できます」

という段階から、

「マイナ保険証によって、受付業務の何工程が不要になったのか」

という段階へ進む必要があります。

 


7.PMH――自治体の医療費助成もデジタル化へ

薬局経営者にとって、今後注目しておきたいのが「PMH」です。

PMHとは、Public Medical Hubのことで、自治体の医療費助成や予防接種、母子保健などの情報をデジタルで連携するための仕組みです。

特に小児医療、ひとり親家庭、障害者医療など、自治体の公費負担制度を多く扱う薬局では、業務改善効果が期待できます。

従来、

患者から受給者証を提示してもらう
↓
内容を確認
↓
必要事項を入力
↓
資格を確認
↓
請求処理

といった作業が必要だったものが、オンライン化によって効率化される可能性があります。

PMHで期待できる効果

薬局側では、

・受付時間の短縮
・手入力作業の削減
・入力ミスの減少
・資格確認の効率化
・スタッフ教育負担の軽減
・患者の受付負担軽減

などが期待できます。

特に、

「公費患者が多い薬局ほど、PMHの業務改善効果を検証する価値がある」

と考えられます。

 


8.PMH導入でベンダーに必ず確認したいこと

PMHへの対応を検討するとき、薬局経営者がシステムベンダーに確認したいポイントがあります。

①いつから本番利用できるのか

「対応予定」ではなく、

「自薬局でいつから実際に使えるのか」

を確認します。

②レセコンとの連携範囲

PMHの情報が、

「確認するだけ」

なのか、

「レセコンに自動反映される」

のかでは、業務改善効果が大きく異なります。

③手入力が何工程減るのか

最も重要な質問の一つです。

「PMH導入によって、受付スタッフの作業を何工程、何分削減できますか?」

と聞いてみましょう。

④公費情報の更新方法

自治体ごとの制度変更やマスタ更新を、どのように処理するのか確認します。

⑤障害時の対応

システム障害や通信障害が発生した場合、

「従来の紙・手入力による運用に戻れるか」

というBCPの視点も必要です。

⑥操作ログ・権限管理

誰が、いつ、どの情報を確認・変更したのかを管理できる仕組みも重要です。

⑦将来の制度変更への対応

PMHは今後さらに対象制度・自治体が拡大する可能性があります。

そのため、

「今回の対応だけでなく、今後のPMH拡張にどう対応するのか」

も確認しておきたいポイントです。

 


9.薬局DXは「3方向」で考える

ここまでの内容を整理すると、これからの薬局DXは大きく3方向に分けて考えることができます。

医療機関との接続

電子処方箋

処方・調剤情報を医療機関と共有し、

「医療機関との連携」

を強化する。

↓

患者との接続

PHR・電子お薬手帳

患者自身の医療・健康情報とつながり、

「患者との継続的な関係」

をつくる。

↓

自治体との接続

PMH

医療費助成などの情報を自治体と連携し、

「地域行政との接続」

を強化する。

つまり、薬局はこれまで、

「処方箋を受け取って薬を渡す場所」

でした。

これからは、

「医療機関・患者・自治体をデジタルでつなぐ地域医療の拠点」

へと役割が変わっていく可能性があります。

 


10.薬局DXの成熟度を5段階で考える

薬局のDXへの取り組みを、次の5段階で考えると分かりやすくなります。

レベル1 IT導入

レセコン、電子薬歴、オンライン資格確認などを導入している。

レベル2 業務デジタル化

紙・手入力を減らし、受付・調剤業務を効率化している。

レベル3 データ活用

電子処方箋、薬剤情報、患者情報などを服薬支援に活用している。

レベル4 地域連携

医療機関、患者、自治体などとデジタルで情報連携している。

レベル5 データドリブン薬局

蓄積されたデータを分析し、

「どの患者に、どのような支援が必要なのか」

を予測・判断しながら薬局サービスを設計している。

今後、薬局間の差が大きくなるのは、**「どのシステムを導入しているか」ではなく、「データをどこまで経営・医療サービスに活用できているか」**ではないでしょうか。

 


11.薬局経営者が今すぐ始めたい「90日DX」

では、薬局経営者は何から始めればよいのでしょうか。

おすすめしたいのが「90日DX」です。

最初の30日

現状を数字で把握する

まず、

・電子処方箋の利用状況
・重複投薬等チェックの利用状況
・マイナ保険証利用状況
・受付業務の所要時間
・公費患者の受付時間
・電子お薬手帳の利用状況
・患者への服薬フォロー件数

などを確認します。

重要なのは、

「導入しているか」ではなく「何件使われているか」

です。


31~60日

業務フローを変える

次に、

「デジタル化によって何をやめられるか」

を考えます。

例えば、

・二重入力
・紙による確認
・同じ内容の聞き取り
・不要な転記
・情報確認のための電話

などです。

DXでは、

「新しい仕事を追加する」のではなく「古い仕事をやめる」

ことが非常に重要です。


61~90日

効果を測定する

最後に、

・受付時間
・薬剤師の患者対応時間
・疑義照会件数
・服薬フォロー件数
・患者満足度
・スタッフの負担感

などを導入前と比較します。

そして、

「DXによって薬局の経営と医療サービスがどう変わったのか」

を確認します。

 


12.これからの薬局経営で重要になるKPI

今後、薬局DXを経営に組み込むなら、単純な「システム利用率」だけではなく、次のようなKPIを設定することをおすすめします。

業務効率KPI

・受付1件あたりの所要時間
・手入力工程数
・電話確認件数
・紙書類の処理件数

医療サービスKPI

・服薬フォロー件数
・患者相談件数
・重複投薬等の確認件数
・疑義照会件数
・医療機関への情報提供件数

患者接点KPI

・電子お薬手帳利用患者数
・PHR利用患者数
・デジタルによる服薬フォロー件数
・オンラインによる相談件数

そして最も重要なのは、

「DXによって生まれた時間を、患者のために何分使えたか」

というKPIです。

 


まとめ――「DX対応薬局」から「DXを活用する薬局」へ

医療DXの進展は、単なるIT化ではありません。

電子処方箋、マイナ保険証、PHR、電子お薬手帳、PMHなどが普及することで、薬局を取り巻く情報の流れそのものが変わろうとしています。

これまでの薬局経営では、

「処方箋を何枚受け付けたか」

「何店舗展開しているか」

「どれだけ効率よく調剤できるか」

といった指標が重視されてきました。

しかし、これからは、

「どれだけ患者情報を活用できるか」

「どれだけ医療機関と連携できるか」

「どれだけ薬剤師の専門性を発揮できるか」

という視点が、ますます重要になるでしょう。

薬局DXの本当の目的は、システムを導入することではありません。

デジタル化によって生まれた時間と情報を、患者のために再投資することです。

これからの薬局経営で求められるのは、

「DXに対応している薬局」から、「DXを使って医療サービスそのものを変える薬局」への転換

ではないでしょうか。

電子処方箋は「医療機関との接続」。

PHR・電子お薬手帳は「患者との接続」。

PMHは「自治体との接続」。

この3つの接続を意識することで、薬局は単なる「調剤の場」から、地域の医療情報をつなぐ「地域医療DXの拠点」へ進化することができます。

薬局経営者にとって、今こそ「何を導入するか」ではなく、

「導入したDXを、経営と患者サービスにどう活かすのか」

を考える時期に来ています。

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