11/01/2026

薬学生の就活事情第1部|「みんなと同じ選択で大丈夫? 」 ――病院・薬局・ドラッグストア。「自分の大切」から考える就職先の選び方

 薬学生の就活事情第1部|「みんなと同じ選択で大丈夫?」

――病院・薬局・ドラッグストア。「自分の大切」から考える就職先の選び方

はじめに|同じ求人票を見ても、答えが違うのはなぜ?

ある求人票に「月給30万円、研修制度あり、勤務地は全国」と書かれていたとします。奨学金返済を優先する学生には魅力的かもしれません。一方、地元で家族と暮らしたい学生には転勤条件が気になるでしょう。専門領域を深めたい学生は「研修制度あり」の中身を知りたいはずです。これは架空の例ですが、同じ求人を見ても、確認したいことは人によって違います。

先輩の体験談も、友人の選択も、どれも参考になるでしょう。しかし、友人にとっての正解が、自分にとっての正解とは限りません。奨学金の返済がある人、地元を離れられない人、専門領域を深めたい人、家族との時間を大切にしたい人。同じ薬剤師免許を目指していても、暮らしも希望も違うからです。

この記事で考えたいのは、「どこが一番よい就職先か」ではありません。「自分は何を大切にして働きたいのか。そして、それをどう確かめるのか」です。

1|先輩たちは、どこに就職している?

薬学教育協議会による2025年3月の6年制薬学科卒業生の進路調査では、卒業生9,233人のうち就職した人は7,646人(82.8%)。卒業生全体を分母にすると、保険薬局は2,549人(27.6%)、ドラッグストアの調剤部門は1,672人(18.1%)、病院・診療所の薬剤部は1,944人(約21.1%)でした。保険薬局とドラッグストア調剤部門の合計は4,221人で、卒業生全体の45.7%、就職者の55.2%です。就職者の「約7割」ではありません。

数字を見ると、薬剤師の進路は病院か薬局かの二択ではないことが分かります。ただし、この割合は「どこに就職したか」を表すもの。「なぜそこを選んだか」は、この数字だけでは分かりません。また、人気ランキングでも、就職先の優劣でもありません。

友人が病院を選んだから病院が正解、保険薬局が最多だから薬局が正解、という話ではないのです。


注:割合は卒業生9,233人を分母とする。残余3,068人にはその他の就職先と就職以外等を含み、内訳を示すものではない。

2|薬学生が就職先を決めるとき、何を重視している?

厚生労働科学研究費補助金による研究班は、2021年11~12月に薬学5・6年生を対象としたWeb調査を行いました。有効回答は2,302人。このうち就職活動を終えた1,072人では、勤務先を決めた「決め手」を第1位から第3位まで順に尋ねたところ、第1位に選ばれた数は「業務内容・やりがい」「勤務予定地」「給与水準」の順でした。

ここから「薬学生は給料を気にしない」と結論づけることはできません。調査は任意回答であり、就職活動を終えた学生の集計です。また、ある項目を第1位に選んだ人も、ほかの条件を無視しているわけではありません。

例えば、やりがいを第一に考える人にも、生活に必要な収入があります。給与を重視する人にも、成長したいという希望があります。複数の希望を持つことは、迷いではなく、ごく自然なことです。

第1位に選んだ人の割合は、「業務内容・やりがい」33.4%(358人)、「勤務予定地」13.2%(142人)、「給与水準」11.9%(128人)です(研究班資料2の表17の人数を1,072人で割った計算値)。なお、この設問は複数回答ではなく、決め手を第1位〜第3位まで順位づける形式です。割合を、学生全体の固定的な価値観と解釈しないでください。

3|「大切なこと」は、五つの問いで見えてくる

最初から「病院志望」「薬局志望」と決めなくても構いません。まずは、次の五つの問いに答えてみてください。

① 生活:奨学金返済、家賃、通勤費などを考えると、毎月どのくらいの収入が必要だろう。
②
仕事:どんな患者さんや課題に向き合うと、仕事に意味を感じるだろう。
③
成長:入職から3年後、どんな知識・経験・役割を身につけていたいだろう。
④
暮らし:勤務地、休日、勤務時間、転勤について、譲れない条件は何だろう。
⑤
安心:困ったときに相談できる先輩や、学び直せる仕組みはあるだろう。

五つすべてを満たす職場が見つかるとは限りません。だからこそ、「絶対に譲れない条件」「できれば満たしたい条件」「入職後に変わってもよい条件」に分けてみましょう。優先順位は、実習や見学を通じて変わっても構いません。

4|業態名ではなく、「実際に何を経験できるか」で比べよう

「病院なら臨床能力が伸びる」「薬局なら患者さんと長く関われる」「ドラッグストアなら収入が高い」。こうした説明は、比較の入口にはなっても、個々の職場の実態を保証するものではありません。

病院でも、病棟業務やチーム医療への参加方法、教育体制は施設ごとに異なります。薬局でも、在宅医療、多職種連携、服薬フォローアップの経験機会は異なります。ドラッグストアでも、調剤業務とOTC・店舗運営の役割分担、勤務体系、異動条件には違いがあります。

就職先を比べるときは「その業態だからできるはず」ではなく、「その職場では、誰が、いつ、どのように教えてくれるか」と具体的に尋ねてみてください。

5|求人情報が少ないことと、魅力がないことは違う

求人票には、仕事内容や研修制度が詳しく書かれている場合もあれば、具体的な経験機会が読み取りにくい場合もあります。情報が少ないからといって、魅力がない職場だと即断する必要はありません。

一方で、「研修充実」「幅広い経験ができる」といった言葉だけでは、入職後の姿は想像しにくいものです。誰が教えるのか、いつ何を担当できるのか。説明の具体性を確かめることが重要です。

「採用サイトに載っていないから制度がない」とも、「説明会で聞こえがよかったから実際もそうだ」とも限りません。分からないことは、見学や面接で確認する。回答が曖昧なら、別の職員にも質問し、可能なら実際の現場を見せてもらう。情報を集める力も、就職先を選ぶ力の一部です。

6|職場見学で聞いてみたい、七つの質問

  1. 「入職後3か月と1年で、どんな仕事を担当しますか?」
  2. 「新人が困ったとき、最初に相談する人は誰ですか?」
  3. 「在宅や病棟、専門領域の仕事には、どんな条件で参加できますか?」
  4. 「繁忙期の残業や休日勤務は、どの程度ありますか?」
  5. 「勤務地・異動・転勤は、どのように決まりますか?」
  6. 「研修のための時間や費用は、どのように確保されていますか?」
  7. 「入職した若手の方に、入社前後で感じた違いを聞けますか?」

答えそのものだけでなく、質問に対して具体的に説明してもらえるかも大切です。給与については、基本給と手当、賞与、固定残業代の有無、住宅補助などを分けて確認しましょう。比較方法は第2部で詳しく扱います。

7|「未確認」を「不合格」にしない、比較表のつくり方

候補先を三つ挙げ、五つの条件それぞれについて「確認できた」「未確認」「合わない」の三段階で整理してみましょう。未確認は、すぐに不合格にせず、質問する項目にします。

例えば、初任給ではA社が魅力的でも、異動条件が未確認かもしれません。B病院は給与面で不安があっても、教育体制が具体的かもしれません。C薬局は知名度が低くても、希望する在宅医療を実際に経験できるかもしれません。

大切なのは、どれか一つを理想化しないこと。条件を比べる過程で、初めて「自分は何を優先したいのか」が見えてきます。

8|私見|自分で選ぶことは、ひとりで決めることではない

私は、薬学生の就職先選びに、全員に当てはまる正解はないと考えています。給与を大切にすることも、専門性を追求することも、地域で働きたいと考えることも、どれも尊重されるべき選択です。

ただし、「自分で選ぶ」とは、ひとりで悩み続けることではありません。実習先の薬剤師、大学の教員、卒業生、採用担当者など、立場の違う人に話を聞き、情報を比べる。そのうえで最後は自分の言葉で理由を説明できることが大切だと思います。

「なぜその職場なの?」と聞かれたとき、「有名だから」「みんなが行くから」ではなく、「私が大切にしたい○○を、ここなら実現できそうだから」と答えられる。そんな就活になれば、と思います。

おわりに|まずは、自分の「譲れないこと」を三つ書いてみよう

今日、就職先を一つに決める必要はありません。まず「譲れないこと」を三つ書き出し、それぞれを確かめる質問を一つずつ考えてみてください。例えば「地元で働きたい」なら、配属と転勤の決定方法を聞く。「患者と長く関わりたい」なら、継続支援を新人がどう経験するかを聞く。企業名を比べる前に、質問を持って見学へ行く。それが、自分の意思で選ぶ第一歩です。

次回は「初任給35万円と25万円、あなたならどちらを選ぶ?」。月給だけでは見えない生活費、手当、働く時間、将来の成長を、具体的な比較方法で考えます。

参考資料

【01】  薬学教育協議会「薬学出身者の就職動向」(2025年3月卒業生) https://yaku-kyou.org/?page_id=359

【01補】厚生労働省「薬学生の進路について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001754010.pdf

【02】  厚生労働科学研究成果データベース「地域における効果的な薬剤師確保の取組に関する調査研究」(2021年度) https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/159513

【02補】同研究班「薬学5・6年生Webアンケート調査結果」(資料2・表17) https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202125038A-sokatsu-shiryo2.pdf


👉【note版】:薬学生の就活、みんなと同じ選択で大丈夫?――自分の「大切」を見つける5つの質問


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