調剤外部委託は「ビジネス」になるのか?〈後編〉
―Amazon Pharmacyとの比較から見えてきた、調剤センターの限界と「逆転モデル」の可能性―

30秒で読む要約
調剤外部委託は、薬剤師の対物業務を効率化する制度として前進している。しかし、受託センターが独立した収益事業として成長できるかは別問題である。
米国のAmazon Pharmacyは、処方箋受付、調剤、配送、顧客接点を統合する。一方、日本のAmazonファーマシーは、既存薬局をつなぐプラットフォームとして展開している。
今後の薬局業界では、調剤作業を誰が行うかだけでなく、患者との継続的な関係を誰が担い、その価値をどう収益化するかが重要になる。
その選択肢として、中央拠点が処方受付・調製を担い、地域薬局が患者への交付・薬学的管理を支える「逆転モデル」が考えられる。ただし、制度上の制約や収益配分の問題があり、現時点では将来構想として検討する必要がある。
7.逆転モデル:中央で調製し、地域薬局が患者を支える
従来の調剤外部委託では、地域薬局が処方箋を受け付け、調製業務の一部を受託センターへ委託する。
これに対し、処方受付や調製を中央の薬局機能に集約し、患者近隣の提携薬局が対面対応や服薬管理を担うモデルが考えられる。
ここでは、この構想を「逆転モデル」と呼ぶ。
患者はオンラインを通じて中央の薬局機能を利用する。
中央拠点は、処方内容の確認や調製を行い、患者の居住地域にある提携薬局と連携する。
地域薬局は、適法な役割分担の下で患者への対応、服薬状況の確認、残薬管理、在宅支援などを担う。
その情報を中央拠点と共有することで、継続的な薬学的管理につなげる。
このモデルの利点は、調製の集約と地域薬局の対人機能を組み合わせられる可能性があることである。
ただし、現在の調剤外部委託制度でそのまま実施できるわけではない。
処方箋を受け付ける薬局、調剤の責任主体、患者への交付、服薬指導、保険請求、薬局間の費用配分について、制度上の整理が必要になる。
また、中央拠点が患者接点と収益を集約し、地域薬局を単なる受け渡し拠点として扱うなら、地域薬局の経営基盤を弱める可能性もある。
逆転モデルを持続可能なものにするには、地域薬局が提供する薬学的管理の価値を明確にし、それに見合う対価を確保する必要がある。

【図2:現行の調剤外部委託と逆転モデルの比較】
8.在宅協力薬局制度から何を学べるか
逆転モデルを考える際、参考になるのが在宅医療における薬局間連携である。
在宅医療では、基幹となる薬局と協力薬局が情報を共有し、一定の条件の下で訪問業務などを連携して行う仕組みがある。
患者の同意、薬学的管理計画の共有、薬歴の記録、費用の取扱いなど、薬局間の役割分担を考えるうえで参考になる。
ただし、在宅協力薬局制度は、逆転モデルを一般外来にそのまま適用できる根拠ではない。
制度上の対象や要件は異なる。
それでも、薬局間で患者情報を共有し、役割を分担しながら薬学的管理を継続するという考え方は、将来の制度設計を検討するうえで参考になる。
特に、患者の継続的な服薬管理を誰が責任を持って担うのかという問題は、調剤センターの普及が進むほど重要になる。
9.地域医薬品供給体制をどう維持するか
調剤センターの大型化には、設備投資や在庫の集約による効率化が期待される。
一方、医薬品供給拠点の過度な集約は、災害時の供給停止や地域在庫の減少につながる可能性がある。
慢性疾患の定期処方では、計画的な調製や配送が可能である。
しかし、急性疾患、緊急処方、処方変更、在宅患者の状態変化などには、地域で迅速に対応できる体制が必要になる。
したがって、すべての調製業務や在庫を中央拠点に集約することが、地域医療全体にとって最適とは限らない。
地域薬局には、患者の近くで医薬品を供給する機能に加え、服薬状況の把握、医療機関との連携、在宅医療、災害対応などの役割がある。
医薬品卸には、供給調整、物流、在庫情報の共有などの役割がある。
調剤センターを活用する場合も、これらの機能をどのように組み合わせるかが重要になる。
効率性を重視する中央拠点と、即応性を重視する地域拠点を両立させることが、持続可能な医薬品供給体制の条件となる。

【図3:中央調製・地域薬局・医薬品卸による医薬品供給ネットワーク】
10.薬局業界には4つの将来像がある
今後の調剤外部委託には、少なくとも4つの方向性が考えられる。
これらは相互に排他的なものではない。
地域や患者の条件によって、複数のモデルが併存する可能性がある。
また、調製業務の集約が進むことと、薬局店舗数が減少することは同義ではない。
設備負担の軽減によって小規模薬局が存続しやすくなる場合もあれば、デジタル化や物流の発達によって店舗統合が進む場合もある。
重要なのは、薬局の数だけでなく、地域に必要な機能が維持されるかどうかである。

【図4:調剤外部委託の4つの将来モデル<著者私見です>】
11.私見:調剤センターの将来を決めるのは「患者接点」と「収益配分」である
私は、米国のAmazon Pharmacyは、顧客視点から見たビジネスモデルとして完成度が高いと考えている。
処方箋の受付から医薬品の調製、配送、継続利用までを一体化し、患者にとって分かりやすい利便性を提供している。
米国の医薬品価格の高さも事業環境の一つではあるが、それだけで高収益が保証されるわけではない。
むしろ、患者との継続的な関係を事業全体で管理できることが、構造上の大きな強みだと考える。
これに対して、日本の調剤外部委託事業は、受託センターが調製業務を担う一方、患者接点や保険調剤収入を基本的に持たない。
私は、この構造が独立採算型の受託センターにとって大きな制約になると考えている。
大量処理による原価低減は期待できても、委託料金に依存する限り、価格競争や設備稼働率の変動に影響されやすい。
規制緩和によって対象業務や配送範囲が拡大しても、患者との継続的な関係を持たなければ、Amazon
Pharmacyのような統合型事業にはなりにくいのではないだろうか。
一方、共同インフラとしての調剤センターには、別の合理性がある。
地域薬局が共同で設備を利用し、ネットワーク全体の費用を削減できるなら、センター単独で高い利益を上げる必要はない。
このモデルは、中小薬局が高度な設備を共同利用しながら、患者との関係を維持する選択肢となり得る。
さらに、私は、中央の薬局機能がオンラインで処方箋を受け付け、調製を集約し、患者近隣の提携薬局が交付や薬学的管理を支える「逆転モデル」に可能性を感じている。
ただし、このモデルには制度上の課題がある。
また、中央拠点が患者情報と収益を独占すれば、地域薬局は単なる下請けとなりかねない。
そのため、地域薬局が担うべき役割は、医薬品の受け渡しだけではない。
患者の服薬状況を把握し、薬学的に評価し、必要に応じて医師や訪問看護師などと連携することが重要である。
私は、こうした患者との継続的な関係こそ、地域薬局が将来にわたって持続可能な日本版のモデルになるのではと考える。
今後の薬局業界では、調剤設備をどこに置くか以上に、患者との関係を誰が担い、そこから生まれる価値を誰が評価し、どのように収益を分配するかが問われるだろう。
調剤外部委託は、単なる薬局業務の効率化ではない。患者接点、薬学的管理、医薬品供給、収益配分を再設計するための出発点である。
その再設計が地域医療の持続可能性につながるかどうかは、調剤センターの規模ではなく、地域薬局を含む仕組み全体の設計にかかっているのではないだろうか。
主要参考資料

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