保険薬局の信頼は、いま静かに揺らいでいるのかもしれない
―薬歴未記載の報道、利益供与禁止の事務連絡…その先にある“次回改定への不安”
2026年6月23日付 厚労省事務連絡を受けて
結論から言うと…
いま薬局に必要なのは、「制度を守っています」と言うことではなく、社会から「信頼できる」と思ってもらうことだと思います。
厚労省が2026年6月23日付で、保険薬局における「経済上の利益の提供による誘引の禁止」について事務連絡を出しました。
高齢者施設への配薬カートや調剤棚の負担、施設システム費用の肩代わり、ポイント付与、キャッシュバック、送料無料の宣伝など、患者や処方箋の誘引につながる経済的メリットは認められないという整理が、かなり具体的に示されています。
ただ、今回私が強く感じたのは、通知の中身そのものだけではありません。
昨今、山形県飯豊町に本社を置くファーマシーすずを巡って、一部店舗で薬剤服用歴の未記載が発覚し、全店調査に入ったと報じられました。あわせて、日本薬剤師会はこの件について「非常に残念」とし、日本保険薬局協会も「誠に遺憾」とのコメントを出したと報じられています。
こうした報道が続くなかで、今回のような「利益供与禁止」の事務連絡が出る。
その流れを見ていると、社会の側から
「また薬局か」
「結局、処方箋を集めるためにいろいろやっていたのではないか」
そんなふうに見られてしまう空気が強まっているのではないか、と感じます。
今回の事務連絡は、かなり重い
今回の通知では、保険薬局が高齢者施設等に対して行う利益供与について、かなり明確な線引きがなされました。
具体的には、
- 配薬カート
- 調剤棚
- 高齢者施設に備え付ける什器
- 施設職員による配薬支援システム
- 入居者の見守りシステム
- その他、施設側が利用する仕組みへの費用負担
について、薬局が新たに費用を負担すること、あるいは継続的に負担することは「経済上の利益の提供」に当たると明確化されました。
一方で、患者個別の服薬カレンダーや服薬ボックスについては、薬剤師が服薬管理指導業務の一環として必要と判断した場合には、薬局負担で手配してもこれには当たらないとされています。
つまり、
「患者個別の支援」と「施設全体への便宜供与」は違う
ということが、より明確になったわけです。
ポイント、キャッシュバック、送料無料も“印象”を悪くする
今回問題になっているのは施設対応だけではありません。
資料では、一部負担金に対する1%超のポイント付与、独自ポイントと共通ポイントの重複付与、処方箋受付サイトのキャッシュバック、薬剤配送の送料無料をうたう広告なども、指導対象となり得ると整理されています。
このあたりは制度論としても重要ですが、それ以上に、世間から見たときの印象が良くない。
- ポイントで患者を集める
- キャッシュバックで誘導する
- 送料無料を前面に出して選ばせる
こうしたものが並ぶと、どうしても
「医療なのに、集客競争みたいになっていないか?」
という目で見られやすくなります。
本来、薬局は患者の生活と治療を支える場所であるはずなのに、
そこに“販促”や“誘引”の色が強く出るほど、信頼は目減りしていく。
今回の通知は、その危うさを行政が改めて言語化したものなのだと思います。
薬歴未記載の報道と重なることで、より厳しく見られる
個人的に気になるのは、今回の事務連絡が出たタイミングです。
ファーマシーすずの一部店舗での薬歴未記載問題については、報道ベースではありますが、業界団体からも厳しい反応が出ています。日本薬剤師会は「非常に残念」、日本保険薬局協会も「誠に遺憾」としたうえで、会員企業に自主点検を求めたと報じられています。
もちろん、個別事案と業界全体を乱暴にひとくくりにするべきではありません。
それでも現実には、世間はそこまで細かく見てくれないことが多い。
一つの不祥事が起きれば、
「薬局業界ってそういうところなの?」
という見方が広がる。
そこへ今回のような利益供与禁止の通知が重なると、
薬局全体に対して“ずるい”“ルールの隙間を使ってきたのでは”という印象が強まる
危険があると思っています。
そして私が危惧しているのは、その先です
ここから先は、事実というより私個人の危惧です。
すでに「骨太方針2025」は2025年6月13日に閣議決定されています。
こうした大きな政策の流れの中では、医療費の適正化や制度の効率化、給付と負担の見直しが繰り返し議論されます。
そのとき、薬局が社会から十分な信頼を得られていない状態だと、次回以降の診療報酬・調剤報酬改定の議論でも、薬局にとって厳しい空気が強まりかねないのではないか。
私はそこを心配しています。
制度は、数字やロジックだけで決まるものではないと思います。
その職種が社会からどう見られているか。
その業界が誠実だと信じてもらえているか。
実はそこが、とても大きい。
だからこそ、こういう時期に薬局のイメージダウンが積み重なることは、単なる広報上の問題ではなく、将来の制度評価にも響きうる問題だと感じます。
経過措置があるから安心、ではない
今回の高齢者施設等への費用負担の整理については、2026年6月23日時点で現に継続しているものについて、2027年5月31日までの経過措置が設けられています。
ただ、これは「まだ大丈夫」という意味ではないはずです。
むしろ今やるべきなのは、
- 施設や医療機関との契約内容の棚卸し
- 慣例的に行っている費用負担の確認
- ポイント制度や販促表現の見直し
- 外部の処方箋受付サービスの点検
- 社内の薬歴記載や監査体制の再確認
こうした足元の信頼回復策だと思います。
個人的な視点
私は、薬局という仕事は本来、もっと信頼されていい仕事だと思っています。
患者の不安を受け止め、
薬の安全を守り、
治療の継続を支え、
地域で生活する人を見守る。
本来の役割は、とても地味で、とても大切です。
だからこそ、薬歴未記載のような問題や、利益供与と受け取られかねない慣行が表に出るたびに、
まじめにやっている多くの薬局まで一緒に信用を失っていく
そのことが本当に惜しいと思います。
今回の通知を、単なる「またルールが増えた」で終わらせてはいけない。
むしろ、薬局が自分たちの立ち位置を見直し、社会からどう見られているかを真剣に考える機会にしなければならないのではないでしょうか。
まとめ
今回の厚労省通知は、配薬カート、調剤棚、施設システム、ポイント付与、キャッシュバック、送料無料広告など、薬局による経済的誘引に対して具体的な線引きを示したものです。
そしてそのタイミングは、薬歴未記載の報道によって、薬局に対する世間の視線が厳しくなりやすい時期とも重なっています。
だから私は、今回の件を単発の通知としてではなく、
薬局の信頼がいま揺らいでいることへの警鐘
として受け止めています。
そして、骨太方針の流れや次回以降の改定議論を見据えるなら、
今いちばん必要なのは、制度の抜け道を探すことではなく、
「薬局は信頼に足る存在だ」と社会に示し直すこと
地域に必要な薬局とは、制度にないが自身の薬局のサービスだと
そしてそのサービスが評価され、制度に取り入れられ、持続可能性につながる
ものだと思います。これは海外の事例が証明しています。
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